2018年10月23日 (火)

積水ハウス地面師事件-企業を騙すには「点と線」が有効である

積水ハウスさんの地面師事件については、犯人グループが逮捕されて以来、いろいろと新しい情報が出ています。昨日(21日)のニュースでは、取引を中止した買受希望者(不動産会社社長)の方が交渉の場を隠し動画で撮影していた事実が報じられ、当該データが公開されていました。所有者に扮した女性が「田舎はどこですか?」と買受希望者から聞かれてボロを出してしまった様子も、証言として紹介されていました。

そして本日(22日)の産経新聞朝刊に「積水側と数年前から面識-地面師、仲介役に勧誘か」と題する記事に、新たな情報がふんだんに掲載されています。さすが「事件モノの産経」だけあって、警察筋から得た(と思われる)情報は興味深い。平成25年ころから積水ハウスさんの社員とつきあいのある不動産業者を(実行犯グループが)仲間に引き入れ、積水ハウスさんをじっくり時間をかけて騙す様子が報じられています。

私は企業のリスク管理、内部統制システムの構築・・・という視点で、「どうすれば地面師に騙されないシステムを(企業側が)構築できるか」を考えながら、本事件の流れを辿ってきました。その流れにおいて、本人認証の公正証書、偽造パスポート、免許証の存在、売主側弁護士の存在、真正所有者からの度重なる内容証明郵便を受領していたこと、本人不在での異常な交渉経過、社長案件による関係者への事後決裁の事実などに関心を寄せていました。しかし、これらはいずれも「点」であり、時間軸の存在についてはほとんど想像しておりませんでした。つまり、実行犯グループの中に、5年ほど前から積水ハウスさんから信頼を得ている者が存在する、という「線」の存在には気づきませんでした。

なるほど、たしかに積水ハウスさんがなぜ騙されたのか・・・という疑問が、これで少しわかってきたように思います。「仲介者に間違いない人がいる」という安心感は、おそらくすべての懐疑心を骨抜きにしてしまいます。社内で不正が発生したとしても、なかなか不正を見つけられないのは「あの社員なら長年の仕事ぶりを知っているから間違いない」といったバイアスが監査の目をくもらせるからです。私が担当するパワハラの社内調査においても、調査担当者が「パワハラにはあたらない」「パワハラを受けた側にも問題があったのでは」といった結論に至りがちですが、やはり加害者(上司)の長年の仕事ぶりを評価している調査担当者に強いバイアスがはたらいているところを経験します。

犯人グループが、どういった経緯で積水ハウス側との付き合いのある不動産業者をとりこんだのかはわかりませんが、時間軸を活用して(つまり一定の時間をかけて)積水さんを騙すためのテクニックを弄したとすれば、やはり相当なワルだなぁと恐怖を感じますね。上記産経の記事では、暴力団関係者が「事前の面識の有無が犯行の成否を分けたのだろう」と証言していますが、私も同感です。

なお、先述の隠し動画では、交渉のテーブルの真ん中に弁護士の方が座っておられましたが、こういった事件では専門家もうまく利用されることが多いようです。地面師事件に利用された弁護士の法的責任につきましては、以前、弁護士側が勝訴(最高裁確定)した事例をご紹介しましたが、近時、弁護士側に極めて厳しい高裁判断が下されました。追って判例雑誌に掲載される予定と聞き及んでおりますが、自戒をこめて、不動産取引に関与するためには最大限の注意が必要と痛感する次第です。

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2018年10月22日 (月)

企業不祥事のケーススタディ-実例と裁判例(新刊書のご紹介)

Hushouji013今年も本当に企業不祥事が多い1年(正確には企業不祥事が多く報道された1年)になってしまいました。近時、不正が発覚するたびに第三者委員会報告書が公表され、原因分析や再発防止策が語られるわけですが、どれも紋切り型の表現が多く、企業不祥事の予防・早期発見とガバナンス、内部統制の在り方が説得的に語られている第三者委員会報告書は少ないように思われます。

企業不祥事のケーススタディ 実例と裁判例(2018年10月 弁護士法人中央総合法律事務所編 商事法務 4,400円税別)

本書は、森本滋(京大名誉教授)の指導のもと、中央総合法律事務所の実務家の方々が中心となって企画したセミナーや、資料版商事法務に掲載された同事務所のご論稿「不祥事事例の分析」をもとに、「企業不祥事に関して取締役等に生じうる法的責任」に係る実例や重要裁判例の事実と分析を一冊の書籍として取りまとめた新刊書です。企業不祥事発生企業に焦点をあてて効果的なガバナンスや内部統制について分析をして、さらに近時の裁判例を分析したうえで役員の法的責任を解説するところに本書の特長があります。最近の関心事であるグループ会社における不祥事予防や早期発見のためのガバナンス、内部統制にも多くのページをさいて解説がなされています。東証の「不祥事予防のプリンシプル」の解説も詳細です。

企業実務家の皆様には全編を通じて第三者委員会報告書や裁判例を通じた事例分析をお読みいただくのがお薦めですが、法曹実務家向けには144頁から186頁までの森本先生ご執筆「裁判例における取締役の責任の考え方」が参考になろうかと思います。私が不勉強なので、これまでの森本先生のご論稿やご著書で解説済の論点もあるかもしれませんが、不祥事発生企業の取締役・監査役等の法的責任の考え方に特化して解説されたものであり、「監督義務と監視義務の区別」「法令違反の認められない場合の任務懈怠と経営判断原則」「業務執行の決定と経営判断原則」「経営判断原則下における裁量範囲」「経営判断原則と信頼の権利」「内部統制システムの構築と経営判断原則」など、取締役の責任の存否を判断するにあたって微妙な問題を取り上げておられます(これはとてもありがたい)。

個人的に「これはとてもありがたい」と考える理由は、おそらく今後コーポレートガバナンス・コードのコンプライ・エクスプレインとの関係で、企業不祥事が発生した場合に(会社法上の役員の善管注意義務の履行責任、金商法上の「役員が相当を注意を果たしたことの立証責任」の根拠事実として)コードの運用責任が問われる可能性が高まってくると考えるからです。理屈・法理論のうえでは森本先生の解説を参考にして、さらにその根拠とされる裁判例、第三者委員会報告書における実例の理解については上記法律事務所の先生方の解説・分析を参考にする、といった本書の活用がお薦めです。まだ、読み始めたばかりですが、ぜひとも私自身の本業にも参考にさせていただきたいと思います。

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2018年10月20日 (土)

財務省コンプライアンス推進会議アドバイザーに就任いたしました。

昨日(10月19日)の財務省報道発表のとおり、このたび財務省コンプライアンス推進会議のアドバイザーに任命されました。財務省再生プロジェクトの一環として「コンプライアンス推進会議」が設置されましたが、今後の会議の運用を通じて同省の信頼回復につながるよう、微力ながらお手伝いさせていただく所存です。

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2018年10月19日 (金)

続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい

昨日に引き続き、KYB社の免震装置偽装の件です。データが改ざんされた装置の交換には2年を要するとのことが報じられ、また株価についても東証1部最大の下落率となるなど、不祥事が経営に及ぼす影響は甚大なものとなっています。

ただ、コンプライ堂さんのコメントで初めて知りましたが、KYBさんは3年前の自動車部品カルテル事件でDOJから罰金の減額を受けていたようです。私も調べましたが(JCAジャーナル2016年6月号 51頁以下)、たしかに日本企業ではめずらしくDOJ(米国司法省)から「社長が率先して調査に協力したこと、コンプライアンス・プログラムの将来にわたる有効性が確認されたこと」を主な理由として罰金の減免を受けています(連邦量刑ガイドライン最大2億700万ドルのところ、6200万ドル)。なによりも、KYB社の経営トップの方がコンプライアンスを経営の最優先事項としたことが評価されています。

このJCAジャーナルの論稿でも解説されていますが、単に過去のコンプライアンス・プログラムに沿った対応が行われたとしても減額を受けることはできませんが、将来にわたるプログラムの内容が秀逸で、これを実行できる体制が認められた場合には減額もある、ということのようです。

「経営の最優先事項だったら、今回のような不正は撲滅されていたはずじゃないのか?」との批判もあり得るところですが、昨日のエントリーでも書きましたが、やはりKYB社の有事対応については(組織ぐるみでないかぎりにおいては)一応評価できるのではないかと思いますし、これからのステイクホルダーとの向き合い方についても誠実性が期待できるのではないでしょうか。

ただ、コンプライ堂さんやskydogさんもおっしゃるように、東洋ゴム工業さんの免震偽装事件が発覚した際、リスクの重大性を認識して「うちも大丈夫か?」とはならなかったのでしょうか?東洋ゴムさんもグループ総売上のうち、わずかな売上を占める部署で発生した不祥事でしたので、状況はKYB社と同様です。グループの小さな部署で発生した不祥事が、グループ全体の信用を毀損し、著しい損害を発生させてしまうリスクについては危惧していたところはあったのではないかと。どこの企業にも、同じようなリスクは潜んでいるような気がいたします。

グループ経営管理は、とてもゼロベースでリスク管理を考えることができない・・・ということを前提としますと、毎度申し上げておりますとおり「不祥事はかならず起きる、起きた時にどう対応するか」という点にも十分な資源を配分する必要があると思います。あの「ジャパネットたかた」さんでも法令違反に至る時代です。「有事において何を最優先で守るべきか」、平時のうちから経営陣で検討すべきです。

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2018年10月18日 (木)

KYBの不祥事公表の姿勢-私は(条件付きで)評価したい

(18日午前 更新)

すでに報じられているとおり、部品メーカー大手のKYB社(及び同子会社)が、建物用免震装置の検査データ偽装を公表し、大きな騒ぎになっております。19日には該当建物名の公表が予定されているそうですが、改ざんは20年近く続いていたこともあり、同社が大きな社会的批判を浴びることも当然のことと思料します。国交省認定基準に反するデータ偽装であったこと、大手ゼネコンをはじめ、関係先に「先に知らせなかった」こと、補償が求められる可能性が高いこと、そして公表時に全容が判明していないことからも、株価が急落して当然なほどに重大な不祥事です(国交省のリリースはこちら)。

グループ経営管理は企業統治改革の中でもホットな課題ですが、KYBグループ全体のわずか2%程度の売上にすぎない免震装置事業がグループの信用を失墜させるとなれば、今後ますますグループ・ガバナンスに関心が向けられることになりそうです。

ただ、不正を知った社員が上司に報告をしたことによって社内調査が先行したものである、つまり、同社が自浄作用を発揮して不正公表に至った当社の姿勢については(被害者の皆様からのご異論は承知のうえで)一定の評価をしたい。不正に手を染めていた人が申告をした・・・というわけではなく、不正に関する会話を聞いていた社員が上司に報告をした、ということのようなので、偶然といえば偶然に発覚したということですが、それでも経営トップは正直に国交省へ報告したわけですから有事対応としては「ステイクホルダーを重視した」と言えるようにも思えます。

(18日午前 追記)なお、18日朝にテレビニュースで紹介された「社員と上司とのやり取りを録取したデータ」を聴いたかぎりでは、会社側が「このままだと社員が内部告発に至るかもしれない」と感じたことが公表の原因かもしれません。

最近、海外の機関投資家から「この会社は不祥事が起きた時、止める力はあるのか、誠実に不祥事に向き合う姿勢はあるのか、そのように言える理由はどこにあるのか」と質問を受けることがあります。もちろん不正はないことが望ましいわけですが、そうはいっても競争している以上はかならず不正(もしくはコンプライアンス上の問題行為)は起きます。そういった意味では、起きたことへの向き合い方は大切です。

なお、評価にあたっては一つ条件があります。「組織として不正隠しを行ったものではない」という点が明らかになることです。神戸製鋼さんの事件発覚のときにも同じことを申し上げましたが(そして、残念ながら予想が当たってしまいましたが)、20年近くもデータ改ざんが続いていたということは、本当に経営陣は知らなかったのだろうか・・・という点について、合理的な理由によって疑念が払しょくされることが条件です。今後は第三者委員会による調査が進むはずですが、この「組織的関与」という点がステイクホルダーにとっても最大の関心事ではないかと。

たとえば①品質管理、品質保証部門の責任者の方が、その後に親会社役員に就任していた場合、②世間でデータ偽装が問題となり始めた2年ほど前から今回の発覚に至るまで、データ改ざんの有無に関する独自調査を行っていた場合、③親会社と子会社で同時期に同種のデータ改ざんが行われていた場合、④改ざん方法が歴代の担当者間で類似している場合などは、組織ぐるみの改ざんと評価されるような事情はなかったのかどうか、慎重な調査が必要です。リスク認識が甘かったことも問題ですが、それは内部統制の不備と評価されます。リスク管理は十分にできていて、内部統制も整備されていたにもかかわらず、なぜ内部統制を無視、無効化したのか・・・、こういったことを裏付ける事実が明らかになった場合には、「組織ぐるみ」「経営者関与」といった評価につながりますので要注意です。

追記

今朝のテレビ報道で、社員と上司とのやり取りを録音したデータが公開されていました。「もうこんな不正にかかわるのは嫌だ」と上司に訴える社員、「まあ、不正と言われれば不正かもしれない」と回答する上司のやりとりはぜひ多くの人に聴いていただきたいと感じました。

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2018年10月17日 (水)

不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明

積水ハウス海喜館地面師事件の容疑者逮捕のニュースが報じられ、地面師暗躍の脅威とともに、ふたたび積水ハウス社のリスク管理の問題に光があたっています。買受希望のライバル会社も虎視眈々と買受の機会を狙っている、そして社長さんのゴーサインが出る、土地所有者とされる売主(らしい人)は、確認書類として本人認証に関する公正証書も持参している・・・・そんな状況において、果たして積水さんは「これは怪しいからやめとけ」と取引を中止できたのでしょうか。

もし仮に中止をしたとして、(実行犯はあきらめて)事件にもならなかった場合、その「やめとけ」と勇気をもって取引を止めた役職員は、どのように組織で評価されるのでしょうか。別件で被害者が出れば「組織を救ったヒーロー」として評価されますが、犯罪が実行されなかったときには誰にも評価されないだけでなく、「空気を読まないやつ」「リスクにチャレンジできないリスク」などと揶揄されて終わり・・・なんてことになるのでは。。。

ライバル会社は取引寸前に「ニセ所有者」と見破ったわけですが、これは社長ご自身のフトコロがいたむからこそ周到な本人確認を社長自身が行ったことによるものと思います。一方、日本を代表する優良企業となりますと、だまされても関係者のフトコロがいたむことはありませんので、むしろ(ゴーサインを出した)社長の意向を忖度するほうが関係者にとっては大切、ということだったのでしょうか。いずれにしても、私には他社でも同様のミスが起こる可能性は十分にあるように感じております。社長案件であろうが、不正の予兆を感じたときに、これを止める役員として期待がかかるのが監査役さんです。

ところがこの「監査役」さんが、現実には企業不祥事を止める役割を果たしていないようです。10月15日、日本監査役協会HPに監査役協会会長による声明が公表されました。声明では「某銀行」とされていますが、いわゆるスルガ銀行事例の第三者委員会報告書における(常勤監査役への)厳しい指摘を契機として、不正を防止すべき役割を担う監査役職務への警鐘が鳴らされています。会長声明では、某銀行の常勤監査役の職務懈怠が「善管注意義務違反」と評価されたことへの屈辱感(くやしさ?)が示されています。ただ、私は多くの企業不祥事において、監査役監査の問題が指摘されていないことに悔しさを感じております。そもそも監査役には不正防止の役割がそれほど期待されていないのではないか・・・、といった残念な気持ちです。

上記会長声明では「三様監査」の重要性についても述べられています。会計監査人、内部監査人らとの連携を図って不正予防に努めることは大切ですが、最近の裁判で監査役が敗訴した理由も「連携と協調」にあることを忘れてはいけません。厳密にいえば「三様監査」ではなく、もっと広く取締役会との連携、監査役間の役割分担とコミュニケーションという点が問題となりましたが、セイクレスト事件裁判、エフオーアイ事件裁判で、なぜ監査役は(控訴審でも)敗訴してしまったのか。裁判官は決して「監査役が不正を止められなかった」ことをとらえて法的責任を認めたわけではないのです。監査役の法的責任との関係でも取締役や会計監査人との連携が重要であることは、また、監査役さん向けの講演等で詳細に解説をさせていただきたいと思います。

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2018年10月15日 (月)

企業統治改革-後継者計画の前に労働慣行の見直しが必要

10月10日の朝日新聞朝刊「経済気象台」に、「後継者計画の客観・透明性」との見出しで近時のコーポレートガバナンス・コード改訂に関する解説記事が掲載されていました。「後継者計画」との見出しですと、中小会社の事業承継を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、記事は上場会社向けのいわゆる「取締役会改革の一環としての後継者計画」に関するお話です。

企業の持続的成長のカギはなんといっても経営者ですが、その経営者の後継は現経営者が不透明な手続きで決めている、という点に投資家が不満を述べていました。そこで改訂コードでは、社外取締役らが中心となって任意の指名委員会等が(計画の初期段階から)関与すること、また経営者の選解任手続きを規約化することなどが求められています。記事では「長期的な企業価値向上のための合理的人選が、現状の指名委員会で可能かどうか」と疑問を呈しています。そもそもそういった後継者計画が、果たして中長期の企業価値向上につながるのかどうか、根本的に疑問を投げかけています。

14年ほどにわたる私自身の社外役員の経験(指名委員会やガバナンス委員会の委員長等)や、改訂コード対応への上場会社さんからのご相談事例など、ホントに狭い経験に基づく個人的な意見しか申し上げられませんが、私も後継者計画(サクセッションプラン)自体が企業の持続的成長につながるのかどうかは、やや懐疑的です。大きな理由は、日本企業の労務慣行が後継者育成計画を許容する土壌とは言えないからです。

職能ではなく、マネジメント能力(修羅場をどう乗り切ってきたか)の視点から「ふさわしい人」を育成プログラム候補に推薦するわけですが、年功序列・終身雇用の性格が強いタテ組織の「360度評価」は本当の実力者が選別されるのかどうか不安が残ります。「あの部署(カンパニー)から候補者を出さなければ部署の士気が下がる」「とりあえず〇〇君を候補者にしないと相談役は黙ってない」「あくまでも『候補』なんだから、女性もひとり入れないとマズいんじゃない?」など、いろんな忖度やしがらみがノイズとして入ってきます。職能による労働の流動性が高まり、「上司よりも仕事」「社長よりも会社」といった労務慣行が成り立たないと、ちょっと今のままでは制度の運用が成り立たない(選定者が厳しい責任のもとで権限を行使できない)気がします。

さらに(これも自身の経験からですが)、後継者計画に従い、育成プログラムの最終段階になりますと、優秀な幹部候補者数名から経営者候補が1名に絞られます。つまり、優秀な幹部の数名は「レースに敗れる」わけです。たしか米国では後継者選任手続きで指名されなかった人たちは、さっさと他社に移って自らの実力を存分に発揮する場を求めるそうですが、日本だとそんな風にはいかないようです。「レースに負けた人」として、そのまま組織に残るのは(敗者復活戦のムードが高い組織なら良いのですが)、相当に厳しいでしょうし、モチベーションも上がらない。もし、後継者計画を実践するのであれば、このあたりの労働慣行についてもケアが必要と思います。

投資家からすれば、企業業績の変動比率(ボラティリティ)を上げることが好ましいわけですから、真の実力者を(透明性のある手続きのもとで)次期経営者に選任したいのは当然ですし、私自身も、サクセッションプランとそれに紐づいた選任・解任プロセスの透明性自体に反対というわけではございません。ただ、その前にやることがあるのではないか、と。自身の組織を見つめ直して、果たして後継者計画や選任・解任プロセスの透明性(ひいては社外取締役が主体となって選任・解任に関与すること)を実践するにふさわしい組織風土なのかどうか、そこをまず役員全体で審議したうえでコンプライ・オア・エクスプレインを決するべきではないかと思います。

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2018年10月13日 (土)

最近の論稿、メディア露出等について(まとめ)

ひさしぶりに台風を気にすることもなく、また秋の日差しが心地よい大阪の週末でございます。ということで(?)、遅ればせながら最近の論稿発表等をお知らせいたします。タイトルを「最近のもろもろ」としたかったのですが、川井信之弁護士のブログの「もろパクリ」になってしまうのでやめました・・・( *´艸`)。

P_20181008_221227_400①旬刊経理情報(中央経済社)の10月10日号に「2018年秋施行予定、内部通報認証制度の概要と企業がとるべき対応」と題する論稿を掲載いただきました。手続的なことよりも、準備段階からどのような制度構築を図るべきか・・・という点に重きを置いて書かせていただきました。

なお、同号では森・濱田松本法律事務所の先生が書かれた「これから監査等委員会設置会社への移行を検討する際のポイント」と題する論稿が掲載されており、こちらがとても参考になりました。私も「これから監査等委員会設置会社から監査役会設置会社へ戻すことを検討する際のポイント」と題する論稿を書こうかな(笑)。たぶん、どこの法律雑誌でも取り上げてもらえないと思います・・・(*´Д`)トホホ。

②つぎに、10月9日、神戸新聞に「神鋼データ改ざん1年 識者に聞く」と題するインタビュー記事が掲載されました。こちらはWEB版(神戸新聞ネクスト)でもご覧になれます。神鋼のデータ偽装事件につきましては、私なりの原因分析や他社への教訓といった考え方がありますので、「こんな見方もあるのか」といった感想を持たれるかもしれませんが、ご興味がございましたらご一読くださいませ。

③デロイトトーマツさんの「企業の不正調査白書2018-2020」の巻頭対談に出演いたしました。西村あさひ法律事務所の三村まり子弁護士との対談です。白書をダウンロードしていただきますとお読みいただけます。GEや海外の巨大製薬会社で法務責任者をされていた三村さんの経験・知見はとても新鮮でしたね。

P_20181008_221440_1_400_2④そして最後になりますが、週刊金融財政事情(金融財政事情研究会)10月8日号におきまして「スルガ銀行は不祥事を防ぎえたか」と題する論稿を掲載いただきました。公務員機関と金融機関には独特のコンプライアンス経営が求められるということを、その理由とともに書かせていただきました。第三者委員会報告書を読み、いろいろと考えることが多かったのですが、スルガの件は証券会社や保険会社を含め、多くの金融機関の方々の関心がとても高いものであることを痛感いたしました。役員の責任問題はほとんど指摘せず、(他社の参考になるように)おもに組織としての構造的な欠陥に焦点をあてて書いたつもりです。

また、現在執筆中の経済誌や法律雑誌の原稿などもありますので、これからはできるだけタイムリーにご紹介したいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2018年10月12日 (金)

ファーストリテイリング社の社内取締役復活-指名委員会は機能したのだろうか?

ファーストリテイリング社の2018年8月期の決算短信が公表されましたが、「その他」項目においてCEOの長男、次男の方々が同社の取締役に選任されることも発表されました(もちろん11月末に予定されている定時株主総会での承認が条件です)。おふたりとも、これまでグループ会社の業務執行に携わっておられたので同社では(CEO以外に)ひさびさに社内取締役が復活することになります。

日経ニュースによりますと、CEOは記者会見で「もし私がいない場合でもガバナンス(企業統治)がきくという意味。決して2人が経営者になるということではない」と述べられたそうです。また、別の日経ニュースでも

――CEOの長男氏と次男氏が取締役に就任する人事を発表しました。経営体制の未来像を教えて下さい。
CEO「(自身の)退任は考えていない。必要とされるうちは社長をしたい。OやG、その他の執行役員も成長している。自分がいなくても十分に経営できる。取締役に2人の息子を選任するが、勘違いしないでもらいたいのは、決してこの2人が経営者になるという意味ではないということだ」

と語っておられます。社外取締役中心の取締役会がモニタリング機能を発揮する、ということで、長男、次男の方々は会長や副会長となって監督する役割を果たしていく、それがガバナンスの在り方だ・・・といった趣旨のご発言と理解いたしました。これはオーナー家の存在する上場会社としては大塚製薬グループさんの経営形態にかなり近いものですし、大株主創業家が存在する上場企業のガバナンスとしては決しておかしなものではないと思います。

なお、ファーストリテイリングさんの場合、社外役員が中心となって構成されている人事委員会(指名委員会)が組織体制や人事体制について審議・提言する立場のようですから、そもそも創業家から経営者を出すかどうかは人事委員会の意向が強く働くことが筋だと考えます。しかし、上記のCEOのご発言からしますと「うーーーん、やっぱり創業者が取締役や後継CEOをひとりで決めるのだなあ」と感じてしまいます。そして、これだけタレントぞろいの社外取締役さん方は、(人事委員会を通じて)後継者計画について何も発言する権限と責任はないのだろうか、とも「勘違い」してしまいそうになります。ぜひとも人事委員会がどのような活動をされたのか、どこかのタイミングで明らかなればいいですね。

とくに今年はガバナンス・コードが改訂され、上場企業はどこも「後継者計画の策定」「社長解任手続の透明化」「任意の委員会の設置と役割の明記」あたりのテーマで悩んでおられます。オールコンプライされているファーストリテイリングさんが、ガバナンス・コードへの対応という意味において、「世襲ではないか」と(少なくとも外からは)思われる取締役選任状況について、どのような説明をされるのかは注目しておきたいところです。

以前、NEWSPICKSのインタビューにサントリーHD副社長のNTさん(次期社長となるであろう創業家の方)が「創業家は経営の狂気と理性とのバランスを図ることが理想的ではないか」と回答されていたのが印象的でした。社長が暴走するときには創業家が理性となってこれを止め、官僚的なムードで社内が沈滞したときには狂気となって会社を活性化する、ということをお話されていたように記憶しています。もちろん大株主として外から発破をかけるということもありえますが、創業家が取締役という立場で経営に参画する以上は、やはり会社の状況次第では経営者として会社をひっぱることも(会社のためには)十分にありうるのではないでしょうか。大きな企業の長期にわたる成長を維持する場合には、経営を引き継ぐという意味で「創業家の世襲」もあってよいと思います。

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2018年10月10日 (水)

不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について(その2)

9月18日付けエントリー「不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について」では、不祥事を発生させた企業の株主総会において、機関投資家は取締役選任議案にどう対応するのか・・・という点について意見を述べました。昨日、当該エントリーをお読みになった同業者(弁護士)の方から、「議決権行使に関するものではありませんが、こちらをご参考ください」ということで機関投資家協働対話フォーラムさんの「書簡送付のお知らせ」を教えていただきました。

なるほど、議決権行使基準とは異なりますが、パッシブ運用を行う投資家の方々は、このような視点から協働対話を求めておられるというのは参考になります。具体的な要請としては、第三者委員会への企業の全面的なサポートと適切な情報開示、そして社外役員の人選に関する考え方に関する十分な説明などが示されています(手紙を送付した不祥事企業からは、きちんとした回答が得られなかったことにも言及されています)。また、このような要請を行う根拠としては、

日本版スチュワードシップ・コード原則4-1は「企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである」と規定しています。パッシブ運用の投資家は、不祥事が発生した企業に十分な説明を求めるとともに、投資家が懸念する課題を伝えて課題認識を共有化し、改革を促し、企業価値の再生を支える役割が求められています。

と示されています。 「より十分な説明」の内容次第ではレギュレーションFDとの関係でルール違反にならない配慮が必要ですが、スチュワード株主の方々は業績だけでなく倫理的側面にも関心を向けておられるので、こういった手法も考えられるところです。

さらに、これは不祥事発生時の対話ではありませんが、10月1日に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」なる書簡送付のお知らせが公表されています。近年、国内外機関投資家をはじめとする投資家・株主の議決権行使の活発化・厳格化に伴って、株主総会において会社提案議案に対して相当数の反対票が投じられるケースが増えていますが、その原因分析や今後の対応などについての説明が要請されています。こちらはスチュワードシップ・コードではなく、コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①が根拠として示されています(ちなみに2018年7月に改定された英国コーポレートガバナンス・コードでは、相当数の反対票の目安として20%以上の反対票が投じられた場合が想定されています)。

コーポレートガバナンス・コードのエンフォースメントについては、先日の日本内部統制研究学会でも少し話題になっていましたが、私は「対話」の存在が大きいと思いますし、そのためには機関投資家側の積極的な働きかけが必要です。ただ、機関投資家といってもスチュワード株主もアクティビスト株主もいらっしゃいますので、誰の反対票で相当数に及んだのか・・・という点には注意が必要ではないかと。「株主は一枚岩ではない」ということは、こういった対話でも心得ておくべきではないでしょうか(こういった対話の場では、会社側も「こんな株主に保有してもらいたい」という意思を示してもよいのではないでしょうか)。

協働対話フォーラムさんの代表者の方は、以前日弁連主催の社外取締役シンポジウムでもご一緒させていただきましたが、ESG投資にとても造詣の深い方だったと記憶しております。ポピュレーション・アプローチ(コードによる上場企業全体への働きかけ)だけでなく、ハイリスク・アプローチ(日本企業の「横並び主義」の傾向を前提とする、特色のある企業にピンポイントでの働きかけ)についてもパッシブ運用の機関投資家が動き出す意義は大きいのではないでしょうか。

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«会計監査に関する情報提供の充実と「3本目の矢」