2019年9月17日 (火)

人の仕事に「おかしい」「やめとけ」と警告することはむずかしい-ゆうちょ銀行不適切販売問題

産経新聞9月14日の朝刊に「不適切投信 『規定指導不足』 高齢者23万5000人調査へ」との見出しで、ゆうちょ銀行と日本郵便の社内調査の結果が報じられています。日本郵政グループでの不適切販売といえば「かんぽ生命問題」が大きく報じられましたが、こちらの高齢者向けの不適切な投資信託の販売問題もかなりマズいです。かんぽ生命の件は第三者委員会による調査が行われましたが、こちらは社内調査で終わるのでしょうか。本件は16日になって朝日新聞ニュースでも取り上げており、社内調査報告書だけでは済まないような気もしてきました。

70歳以上の高齢者に投信を販売する場合、社内ルールでは「勧誘前確認」と「契約前確認」が行われることになっていますが、この「勧誘前確認」は販売担当者とは別の管理者が行うことになっています。しかし、実際には多くのケースで「勧誘前確認」が行われていなかった、とのこと。ゆうちょ銀行の担当者は「ノルマのプレッシャーが原因ではない」としたうえで(勧誘前確認作業という)「社員が手間をかけなくない」と安易に考えており、社員の認識不足が原因だったと説明しています。これに対して前記朝日新聞は、社内関係者の話から「(販売ノルマに起因した)プレッシャーが原因」で確認する側も営業実績ほしさに黙認していたのではないか、と推測しています。

おそらく社内調査の結果から判明すると思いますが、ゆうちょ銀行としては「勧誘前確認」と「契約前確認」によって、担当者による勧誘や契約のどの程度の割合において販売業務が止まったのかを明らかにすれば良いと思います。たしかに一定割合が「勧誘前確認」で止まっているのであれば、ゆうちょ銀行が説明しているとおり「ルールの趣旨を認識していない管理者が存在していた」との理由は真実に近いと思います。

しかし、ほとんど業務が止まっていなかった(勧誘前確認によって問題案件の契約が事前に阻止されてなかった)のであれば、そもそも「勧誘前確認」など形骸化していた、と言わざるを得ません。ただ、認知症が重篤な疾患がなかったかどうかを調査するのが確認作業の趣旨だそうですが、別の担当者が熱心に勧誘をしたいと思っているところで、「ちょっとおかしいから、勧誘は控えるように」と、業務にストップをかけることはむずかしい。「たとえ営業成績が悪くなったとしても、高齢者に迷惑をかける契約はしてはならない」といった組織風土が明確にならないかぎり、契約前にストップをかけることは困難ではないかと。

ということで、本件は不適切な投信販売を事前に防止するための内部統制システムが有効に機能していなかったことが原因ではないかと思います。そして、実際に契約を勧誘する現場担当者は、このシステムによって「勧誘にお墨付きをもらった」として堂々とノルマ達成に向けて営業ができるわけですから、機能していなかったが、現場の不適切勧誘を助長することになるので、かなりマズいシステムだといえそうです。

しかし、実際に多くのケースで勧誘前確認がなされていなかったとなりますと「なぜ日常の内部監査では(勧誘前確認がなされていないことを)見つけることができなかったのか」という重大な問題が残ります。たしか金融機関の内部監査部門というのは、金融庁からの強い要望もあって「日本企業の中で最も優れた内部監査機能」をお持ちのはず。これこそゆうちょ銀行が再発防止のために徹底的に検証しなければならないはずであり、当該調査には利益相反的な要素が含まれている以上、第三者による徹底的な調査が必要になるものと考えます。

 

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2019年9月12日 (木)

日産CEO辞任事例は「ガバナンスが機能した」といえるのだろうか?

先週金曜日のエントリーでご紹介したグレッグ・ケリー氏のインタビュー記事(文藝春秋7月号)が、現在文春オンラインで全文閲覧可能になっています(ご興味のある方はぜひご覧ください)。先週金曜日の時点では「社内処分で済むのだろうか」と問題を提起しておりましたが、ご承知のとおり9日の取締役会で日産CEOの方は辞任を決意されたそうです(ただし取締役としては残るそうです)。

10日以降の世間の評価では「日産のガバナンスが機能した」とされています。もちろん、私も先週金曜日のエントリーでは「監査委員会が機能したのではないか」と評しましたが、その後の一連の報道をみておりまして、本当にガバナンスが機能した事例と言えるのかどうか、若干疑問が生じてきました。おそらくお気づきの方もおられるとは思いますが、記事の詳細部分があまり話題に上らないので、あえてひとこと書かせていただきます。

というのも、9月6日のブルームバーグ記事によりますと、一連の社内調査を主導した方は、コンプライアンス担当の女性理事の方で、この9月10日に退社予定だそうです。社内調査では、副社長や司法取引に関与した幹部も不正に報酬を得ていたことも、併せて報告されたそうです。日経の記事にも女性幹部の方が社内調査を主導したとありました(どのような理由で退社されるのかは不明です)。そして、9日の取締役会では、(社内調査の報告が終わり、CEOが退席した後)社内のCOOの方が「即刻辞任しないと日産はもたないと思う」と口火を切ったかのように報じられています。しかし、朝日新聞の9月11日朝刊の記事では、当該COOの方が口火を切る前に、日産の女性社外取締役が最初に「即刻退任」を提案し、これに外国人取締役らが賛意を表明した、その後COOが・・・と経緯が示されています。

つまり女性理事の社内調査が報告され(ひょっとすると「職を賭して」?)、女性社外取締役や外国人社外取締役が動かなければ(少なくとも)9日のCEO辞任劇はなかったと思われます。つまり、7名の社外取締役が「CEO即時退任」に動いたようなイメージではなく、あくまでも動いたのは女性理事や女性・外国人社外取締役であり、いわばダイバーシティが機能した、といったほうが正確ではないでしょうか。もちろん「ダイバーシティ」もガバナンスの重要論点のひとつではありますが、「社外取締役が機能した」=ガバナンスが機能した、と評されるのも少しおかしいように思います。

このたびのCEOの事実上の解任については、ガバナンスが機能した事例として他社にも参考になれば、と思いましたが、結局のところ女性や外国人の社外取締役がおられて、コンプライアンス担当理事も外国人女性、また即時退任に賛意を表明したのも親会社からきている取締役構成の中で、しかも支配会社が存在する中で、たまたまCEO退任がまとまった事例と評価できます。

このような事情からみますと、今回の辞任劇は日産の置かれた状況、役員構成などが揃ったからこそ可能だったわけで、私自身は「他山の石」にできるような事例ではないように感じました。むしろ機関投資家の方々から、今後はますます「ボードには女性や外国人の社外取締役を1名以上選任せよ」「いや、ボードだけでは足りない、女性幹部職員を早急に育成せよ」といった声が高まることになるのではないかと。

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2019年9月10日 (火)

財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)の有効活用に関する提言

9月6日、金融庁HPにて「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂(公開草案)」が公表されました。財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことに伴い、原則として合わせて記載するものとされている内部統制監査報告書についても改訂する必要がある、ということからの改訂だそうです。

しかし、近年の一連の監査改革は、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性から進展しているのですから、財務報告に関する内部統制報告制度も(直接「監査」に関わるものとは言えませんが)同様の趣旨から見直しが図られるべき時期に来ていると思います。

近年、会計不正事件が発覚した場合、有価証券報告書が訂正される事件は多いのですが、その際に、内部統制報告についても訂正報告書を提出する会社と提出しない会社(訂正しない会社)が見受けられます。「なぜ内部統制報告書を訂正したのか」「なぜ訂正しないのか」という点が、会社側からの説明がないのでまったく財務諸表利用者からは財務報告の信頼性について理解できません。 

たとえば「なぜ訂正しないのか」・・・重大な会計不正事件が発覚した後、有価証券報告書の訂正には応じているのに、なぜ内部統制の評価は訂正しないのか、まずその理由は説明すべきです。たとえ不正が発覚しても「財務報告内部統制に関する経営者評価は有効である」(内部統制を無視・無効化した不正事件だった、評価対象範囲外で不正が起きた)という理屈はありえますので、そうであればその旨をわかりやすく経営者は示すべきです。訂正報告書は監査対象ではないから(訂正はしない)というだけでは財務諸表利用者からみれば「なんのこっちゃ?」となるのでは?

「なぜ訂正したのか」・・・もともと有効と言いながら、不正発覚を機に訂正したわけですから、なぜ開示すべき重要な不備があったのに、そもそも「不備はない」として有効と評価したのか、監査人も(ダイレクトレポーティングではありませんが)、なぜ内部統制は有効ではなかったのに、有効とした経営者評価にお墨付きを付与(適正意見)したのか、説明が必要です。会計不正が発覚したとしても、うえで述べたように別段、内部統制は有効と評価結果を維持することも理屈としては正しいからです。にもかかわらず「訂正報告書を出す」判断に達したのであれば、「内部統制報告書の虚偽記載」が疑われる事態なのに、ではどうして虚偽記載にならないのか、会社側、会計監査人側が説明するのが本義ではないでしょうか。

そもそも内部統制報告制度には刑事罰や課徴金制度が存在するにもかかわらず、この10年以上全く発動されていません。発動することまで必要ないのであれば、せめて財務諸表利用者に説明責任を果たすことくらいは必要ではないでしょうか。内部統制報告制度の効率性だけでなく、その有効性についても検証すべきと思いますが、いかがでしょうか。

最後に、まったく話は変わりますが、日経9月9日夜に電子版に掲載された「四面楚歌の西川・日産社長 報酬上乗せで」はとても興味深い記事ですね。この報道内容、もっと深堀りされることを期待しております。9時40分頃からの日産記者会見をすべて視聴しましたが、SARの有報開示の問題点や文藝春秋におけるケリー氏の証言(自宅購入費の会社負担を西川氏はケリー氏に迫ったのか)について記者さんからツッコミが欲しかったと思いました。(おや!?上記日経の電子版記事の見出しが10日深夜に削除されてますね。なんぞある!?)

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2019年9月 6日 (金)

日産現社長の報酬上乗せ問題(私的に重要と考える)3つのポイント

昨日深夜に朝日新聞ニュースが第一報を報じた後、各メディアも報じている「日産現社長さんの報酬上乗せ問題」ですが、日経ニュースが「3つのポイント」として、①報酬の内容(株価連動型インセンティブ受領権、いわゆるSAR)、②日産のガバナンス不全、③指導力への高まる不信感ということで問題を整理しています。私としては、まず6月の株主総会で日産は指名委員会等設置会社になり、5名中4名が社外取締役で構成されている監査委員会が主導した社内調査については敬意を表したいと思います。

いままでなら、たとえ文藝春秋2019年7月号にケリー氏の証言が掲載されたとしても、おそらく沈黙(無視?)してやりすごしていたのではないでしょうか。ゴーン前会長に対する社内調査、司法取引の経過、その後の捜査協力という経緯からみて、日産の現幹部に対して「検察は厳しい姿勢で向き合うことはない」と確信し、ともかく不都合な事実については沈黙を保っていればなんとかなりそうな気もします。しかし、文藝春秋の記事に反応して、監査委員会が「空気を読まずに」社内調査で現社長の不適切な報酬上乗せ問題を明らかにした点は、日産のガバナンスの実効性が高まったことを示しているように思いました(今後、調査報告内容の説明義務を果たすか・・・という点にも注目すべきかもしれませんが、そこまで期待するのはむずかしいかもしれませんね)。

ところで上記文藝春秋のグレッグ・ケリー氏のインタビュー記事を全て読み、今朝の現社長さんの弁明を聞き、以下は中立・公平な気持ちでこの「報酬上乗せ問題」のポイントを挙げるとすれば以下の3点ではないかと思います(ちなみに9月5日夜にアップされた文春オンライン記事で文藝春秋7月号のインタビュー記事の一部が紹介されています)。

まず、日産は取締役会を開いて「内規違反」による社内処分を検討するかもしれない、と報じられていますが、ホントにそれで済む話でしょうか。会社法違反、金商法違反として「違法行為」と認定される可能性があるのではないかと。「事務局にまかせていたので、決してSARの権利行使日を自ら移動させたつもりはない」(現社長)とのことですが、現社長が自ら行使日を1週間移動させる動機となる事実が克明に文藝春秋には記載されています(上記文春オンライン記事でも紹介されています)。また、2012年度から2014年度までの日産の有価証券報告書を読みますと、現社長の報酬に含まれる「株価連動型インセンティブ受領権」の公正価額は毎年1400万円~1500万円とされており、これが会計上の見積り金額だとしても、実際に4700万円ほど上積みされた利益額1億5000万円とは大きくかけ離れています。ちょっと冷静に考えてみますと、「(現社長が事務局に指示した、というのは)ケリー氏のデタラメ、虚言にすぎない」と断定することはできないように思います。

もし現社長さんがおっしゃるように「事務局のミスだった。他の取締役にも同じようなことが起きている」のであれば、おそらく「もらえるのに、ミスでもらえなかった」こともミスとして起きているはずで、これを証明してみせれば良いと思います。にもかかわらず、現社長さんや他の取締役さんの報酬額決定過程で発生しているミスが、すべて「もらいすぎ」の事例だとすると、うーーーん、ホントにミス?といったことになるのでは?

つぎに、今回の事例がゴーン氏やケリー氏の刑事裁判に及ぼす影響です。両氏がこれまで起訴事実を完全に否認している以上、日産関係者は公判維持のために今後も検察に全面的に協力する必要があるでしょう。おそらく刑事弁護人は、「司法取引」の脆弱性を突くことに力点を置いた戦略を検討していると思いますが、有罪立証のキメテとなるべき証拠価値判断として、果たして日産関係者の証言の信用性に、裁判官は何らの疑問を持たないでしょうか。会計評論家の細野祐二氏は、ご著書「会計と犯罪」の中で「ゴーン事件で無罪を勝ち取れるかどうかは(証拠が拮抗している場合)国民世論に依拠するところが大きい」と述べておられますが(同書273頁)、私も「証人供述の信用性」を裁判官が検討するにあたり、やはり国民世論の流れは無視できないと思います。そのような意味で、大手メディアがこの「報酬上乗せ問題」をどのように報じるのか、マスコミの動向にも注目したいところです。

そして最後に(これは日経の上記記事の整理とも近いのですが)現社長の求心力の低下がルノーとの関係に与える影響です。いろいろな社内紛争事案に関わった経験からみますと、紛争が顕在化すればするほど、どちらかの勢力が有力な外部勢力と接近して社内の有利な地位を築こうとします(これは人間のサガとして、やむをえないところかと)。これを外部勢力が使わない手はありません。いくら政治的な力学が働いたとしても、これはなかなか止められない。9月4日に開かれた監査委員会の様子がすぐに朝日新聞の記者に伝わるところをみても、現社長の求心力が低下するまでもなく「一枚岩」であることに不安が生じているようにも思われます。「報酬上乗せ問題」が契機となって、このあたりの社内力学にどのような影を落とすのか(それとも前以上に一枚岩になりうるのか)がポイントになると考えます。

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2019年9月 5日 (木)

統計改革と不適切統計問題(西村委員長の基調講演)-ACFEカンファレンス2019

日産前会長の事件に関連して、またまた朝日新聞が「社長案件」に関する第一報を報じましたね。4日の日産監査委員会の審議内容を朝日記者がどうして知っているのでしょうか(ナゾです。。。)

さて、開催まであと1か月となりましたACFE年次カンファレンスの告知でございます。今年は記念すべき第10回目のカンファレンスですが、毎年少しずつ内容が格式の高いものになっているように感じるのは私だけでしょうか。私が登壇していた頃は、もうすこしハチャメチャで「ゆるい」企画が存在したような気もします(笑)。そういえば私が緊急入院で「穴」をあけたこともありました(その節は関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけしました。<(_ _)>)それにしてもずいぶんとレベルが高くなりましたね。

今年は、ACFE本部の会長Bruce Dorris氏による来日講演(その後、藤沼JAPAN会長との対談)、日弁連第三者委員会ガイドライン策定10年を踏まえた国廣弁護士、竹内弁護士、そして八田先生による鼎談(国廣弁護士による講演「第三者委員会の実態と課題」もあります)、企業実務家の皆様による「内部監査は不正の兆候を発見できるか」(シンポ)など、不正調査に関心のある方にはおススメのプログラムに仕上がっています。さらに朝日新聞編集委員の奥山俊宏氏によるランチセッション「組織の風土から見た福島第一原発『失敗の本質』― 事故9年で分かってきたこと」も開催されます。ACFE JAPANは、2019年次カンファレンスのHPを作成しておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。

そして個人的に「カンファレンスの質が高まっている」と感じるのが総務省統計委員会委員長の西村淸彦氏をお招きしての「統計改革と不適切統計問題」に関する基調講演です。ご承知のとおり、毎月勤労統計の不正調査を指示して、統計不正問題が発覚するきっかけを作った方です。これは興味深い基調講演であり、スゴい企画だと感心いたします(私はすでに理事を退任しましたので経緯は存じ上げませんが、理事の皆様は、よく西村委員長を招聘できましたね)。ここ数年、カンファレンスは「満員御礼」の盛況ぶりが続いておりますが、今年も満員(申込停止)になることが予想されます。まだ現時点では申込を受け付けていますので、(上記リンク先のHPから)ぜひとも10月4日(金)のカンファレンスにお申込みいただきますようお願いいたします。

 

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2019年9月 4日 (水)

新たなM&A指針-監査役に社外取締役の職務を監査する気概はあるか?

6月28日に経産省から「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、その特集論稿「M&Aに関する新たな規律」が掲載されたジュリスト9月号を拝読いたしました。先日、支配株主による従属会社の買収案件の第三者委員会委員を務めたこともあり、新たなM&A指針の草案については通読しておりましたが、指針作成に関わられた先生方のジュリスト論稿を拝読して、2007年に公表されたMBO指針とはかなり内容が異なることに今更ながら驚きました(といいますか、もっと早く気付くべきだったかと・・・)。

本指針は、構造的な利益相反と情報の非対称性の問題が存在するM&A取引に関して、目標となる原則(実務上の対応)を示したものですが、なかでも公正性を担保するための特別委員会の役割が詳細に示されています。特別委員会は、M&A取引における公正価値算定を中立・公正な立場から関与するのではなく、「一般株主の利益代弁者」として前面に出ることが望ましいとされ、前面に出る結果として「取引条件の形成過程において独立当事者間取引と同視しうる状況が確保される」とのこと。なるほど、それゆえに特別委員会のメンバーとしては(外部有識者ではなく、株主に対して法的な責任を負う)社外取締役が望ましい・・・とされています。また、こういった特別委員会委員の活動は、一般株主に詳細に開示されることも要請されています。

次の会社法改正では、社外取締役への業務委託に関する規定も盛り込まれる予定ですが、こういった指針を読むと、社外取締役の職務は結構むずかしくなりそうですね。ということで、以下は私の素朴なコメントであります。

まずなんといっても、タイトルにあるように、監査役(会)は社外取締役が善管注意義務を尽くしているかどうか、今後はしっかりと監視・検証する必要があります。これまであまり「監査役と社外取締役」との関係は議論されてこなかったと思いますが、会社の重要な局面で社外取締役が前面に出ることが想定(期待)されるとなれば、監査役は社外取締役の職務執行の適法性をきちんと判断し、その結果を株主に監査報告によって説明する必要性が高くなるはずです。社外取締役は会社の手続きが適正かどうかをサラっと眺めるだけでは不十分であり、M&Aの必要性と相当性を(株価算定評価書やフェアネス・オピニオンを参照にしながら)一般株主の利益保護のために自主的に判断しなければなりません。監査役は、その判断過程を監視・検証するのですから、監査役の役割も重大です。今後はその気概を監査役(会)がきちんと持たねばならないと思います。

つぎに、特別委員会が一般株主の代弁者として支配株主らと必死で交渉して、その結果として「独立当事者取引と同視しうる状況が確保される」のであれば、特別委員会も独自の法務アドバイザーを確保する必要が出てくるのではないでしょうか。もちろん、こういった有事には構造的な利益相反関係が生じる会社自身にも(中立・公正な)法務アドバイザーが就任するわけですが、社内取締役へのアドバイスと社外取締役へのアドバイスを同一のアドバイザーが行うことで、一般株主からは「自分たちの利益を(特別委員会は)最優先に検討してくれた」と判断してもらえるでしょうか。ちなみに私が当事者(委員長)だったニッセンHDの第三者委員会(支配株主のセブン&アイによる完全子会社化手続き)は、このあたりに十分配慮して第三者委員会独自の法務アドバイザーをニッセンのアドバイザーとは別に選任いたしました。

そして最後に、本指針は「部分買付け」のような場面でも、一定程度参考にされることが期待される点です。支配株主による第三者割当増資の引き受け、支配株主に準じた大株主による買収などにも本指針が適用されることになると思われますし、現金買収と株式買収も同等に扱う、とのことですから、次の会社法改正による「株式交付制度」(自己株による部分買付け)などにも指針が適用されることになろうかと。そうなりますと、上場会社のかなり多くの社外取締役の方々にとって、本指針に示された特別委員会委員の職務を理解しておく必要がありそうです。価格決定申立て事件等の裁判では、従前のMBO指針も参照されていましたので、このM&A指針についても、裁判規範に準じるものとして検討しておきたいと思います。

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2019年9月 2日 (月)

リクナビ問題が明らかにした「法令遵守」と「コンプライアンス」の違い

リクナビ内定辞退予測の問題が浮上してちょうど1カ月が経過しました。この1カ月のリクナビ問題をみておりまして、様々な企業コンプライアンス上の論点が指摘できますが、これからの日本企業の国際競争力を語る上でどうしても指摘しておかねばならないのが、本件問題が「法令遵守」と「コンプライアンス」の違いを浮き彫りにしたことだと思います。

読売新聞8月27日朝刊社会面に「学生に配慮欠けた」と題するリクルートキャリア社の社長会見記事が掲載されていましたが、そこでは「問題の本質は①学生視点の欠如と②ガバナンスの不全」が指摘されていました。私はその記事を読んで「ガバナンスの不全とは組織のどこに問題があったのだろうか?」と疑問を持ちました。そして、同じ日の朝日新聞朝刊「情報軽く扱ったのでは?保護委、リクナビ側を批判」では、同社内部統制担当役員の話として「同意の有無にかかわらず、やるべきではなかったが、研究開発的な商品だったため、学生の視点やリスクについて複数の目でのチェックが不十分なままスタートしてしまった」とあったので、なるほど「複数の目によるチェックが効いていなかった」ことがガバナンス不全との言葉で語られていたのだと理解しました。

ところでこの内部統制担当役員の方の話の中で、一番関心を持ったのが「そもそも同意があったとしてもやるべきではなかった」と述べている点です。この問題が個人情報保護委員会に指摘され、マスコミでも騒がれ始めた頃は「同意を得ていたので問題はない」「一部同意を得ていないことが判明したので、対応を検討したい」ということで、内定辞退予測サービスが「法令違反」にあたるかどうかに企業の関心があったと思います。ちなみに私が当ブログで本件を取り上げた8月7日のエントリーでも、私自身、「法令違反に該当するかどうか、という意味で灰色」と述べていました。

しかしながら、社会の批判が次第に高まるなかで、「そもそも同意があったとしても問題ではないか」との声が上がり、会見での担当役員の方のお話になったのではないでしょうか。9月1日の産経新聞ニュースでも、情報法に詳しい大学の先生も「丁寧に利用目的を書いて同意を得られたからといって内定辞退率予測ということをしてもいいのかという問題だ。就職や結婚など、重要な自己決定の場で、AIなどで情報を分析することが許されるのか」と指摘しておられます。5年ほど前に、JR西日本の協力を得て情報通信研究機構が顔認証システムの試験を実施しようとしたところ、社会的に大きな批判を浴びて弁護士5名による第三者委員会を設置しましたが、その報告書の結論は「個人情報保護法に違反するシステムではない」というものでした。そこでは「法令遵守」に関心が集まりましたが、社会的な納得はそれだけでは得られなかったものと思われます。

第4次産業革命が進み、日本企業がIoTやAIの開発で世界と闘う中、国内法違反を回避するだけでは技術開発で遅れをとってしまう、ということです。企業倫理や国際人権、海外の競争法執行政策など、「法的にグレーだけれど、競争に負けないように突っ込まないといけない」場面において、グレーをシロに変えることができるのか、それともクロと断定されて国際競争上のハンデを背負うことになるのか、これがまさに現時点における企業コンプライアンスを考える視点です。リクナビ問題は独禁法上の「優越的地位の濫用」に該当する、といった解釈まで登場しました。もはや「コンプライアンス」を守りの意識だけでは認識しえない経営環境になってきたことを、リクナビ問題は如実に示しています。

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2019年8月30日 (金)

アサヒ衛陶における第三者割当増資(行使価額修正条項付き新株予約権発行)について第三者委員会委員長を務めました。

本日午後4時に開示されましたとおり、アサヒ衛陶社(コード5341)の第三者割当増資につきまして、東証・企業行動規範に基づく第三者委員会の委員長を務めました。

報告書の概要は、開示書類の15頁以降にかなり詳しく記載されております。財務アドバイザーのご担当者の方から(個々の契約条件下における行使価額修正条項付きの)新株予約権の評価方法について、計算方法(モンテカルロシミュレーション)を含め詳細に説明いただき、「相当性」に関するチェックもかなり委員間で議論をいたしました。法務アドバイザーの法律事務所を含め、関係者の皆様には委員会活動に多大なご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。

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2019年8月28日 (水)

ココカラファインの「前面に出る第三者委員会」と株主への説明責任

(8月28日午後1時15分更新)

ドラッグストア大手のココカラファインとの統合を巡り、スギホールディングスとマツモトキヨシホールディングスで提案合戦が繰り広げられました。ご承知のとおり、ココカラさんはマツキヨさんとの統合を決めて、8月16日には統合協議開始の覚書締結に至るわけですが、6月12日のエントリー「ココカラ正念場!?なぜ特別委員会?」で述べたように、重要な経営判断になぜ第三者委員会を設置しなければならなかったのか、このように決着がついてもよく理解できません。8月15日の日経ビジネス(WEB)記事「マツキヨと統合協議のココカラ、なぜ特別委員会で決めたのか?」でも、M&Aに詳しい一橋大学の田村教授は「このような状況で特別委員会を設置など、聞いたことがない」と述べておられます。

今朝(8月27日)の日経朝刊2面に「始動!ドラッグ大再編!起点はマツキヨ・スギ破談」なる特集記事が掲載されており、上記ココカラ第三者委員会は「前に出る委員会」、つまりマツキヨ、スギHDの社長と面談し、直接交渉を行う委員会であること、8月14日の経営判断が下るまで、両社首脳は水面下で経営陣と面談することもできなかったことが報じられています(ココカラさんの8月14日リリースでは、取締役会も第三者委員会と並行して両社提案を検討していた、とのことですが、これは第三者委員会から得た資料を取締役会でも検討していた、という意味でしょうか?)。

たとえばココカラがすでに両社いずれかと業務提携をしているとか、社外取締役の派遣を受けている、といった事情があれば、取締役会としての中立性や公正性に疑問が生じうるわけですから、株主利益に配慮して「独立社外取締役を含む第三者委員会を設置して交渉を委託する」ことも十分考えられます。しかし、前のエントリーでも書きましたが、今回はまさにドラッグ業界での経験豊富なプロの経営者の方々が、両社首脳とのギリギリの交渉を経て決定してこそ株主も経営陣の選択に納得するのではないでしょうか。M&A成否のために、統合先の提案を審議し、シナジーを検討することも大切ですが、統合に向けた自社の姿勢から、「(統合を成功に導く)ココカラの組織力」を示すことも大切だと思います(こういった有事の場面で、社長が交渉の先頭に立ち、なぜマツキヨを選んだのか、批判や異論もある中でわかりやすく株主に説明する姿勢こそ組織力だと思うのですが・・・)

なぜマツキヨHDさんを選んだのか、といった説明も、上記ココカラさんのリリースではよくわかりませんでした。ここからは(?ややこしくてすみません)私の単なる憶測でのストーリーにすぎませんが、①そもそもココカラファインはセイジョー、セガミ薬局を中心に6~8社のドラッグストアが統合して生まれた会社なので、他社との統合には拒絶反応がなく、統合後の経営については自信がある、②調剤(スギさんの強み)とPB(マツキヨさんの強み)とを比較した場合、自社の強みを生かすためにはPBを取り入れることで店舗の付加価値を上げる戦略が有利、③スギHDとマツキヨHDの過去の買収戦略を比較した場合に、スギさんよりもマツキヨさんのほうが買収先の独立性を尊重する傾向があり、その買収戦略がココカラ社の社風にも合致している、といったところではないかと。このような推測が正しいのか間違っているのかはわかりませんが、第三者委員会の結論を聴き、取締役会で十分な審議を経て、こんな説明をしてもらえれば一般株主も納得できるのではないかと思いました。

ココカラさんの上記リリースでは、第三者委員会の結論と取締役会の判断に矛盾はありませんでした、と書かれていますが、もし矛盾があったらどうなっていたのでしょうか?記者会見においてココカラの社長さんは「第三者委員会?いやいや、単に意見を聴いただけです」と述べておられましたが、そうであれば「前面に出る第三者委員会」は不要だったのではないでしょうか(取締役会には中立公正な財務アドバイザーがいらっしゃったそうですが、それで十分では?)。6月28日に公表された経産省「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、「前面に出る特別委員会」の存在が少数株主保護(公正価値の判断)につながる(特別に中立・公正性は求めない)とされていますので、そのような趣旨で特別委員会を設置されたのかもしれませんが、もしそうだとすれば取締役会も特別委員会の意見を尊重するはずであり「意見を聴いただけ」ということにはならないと思います。

上記日経ビジネス記事では、関係者の話として「どっちにも不義理ができなかったので、身動きがとれなかった」と書かれていますが、そのような活用方法は、第三者委員会制度の在り方を根源から否定することになりますので絶対にあってはならない話です。第三者委員会は不祥事についても、また公正なM&Aにおいても、会社を取り巻くステイクホルダーへの説明責任を果たすために活用されるものですが、「不義理できないので」「身動きできないので」活用するということになりますと、「最初から結論ありき」といった推測がはたらき、中立公正性への(第三者委員会という制度自体の)信頼が揺らぐことになることを危惧します。

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2019年8月26日 (月)

FM東京不正会計事件-組織ぐるみの不正対策は公益通報者保護法強化しかない現実

遅ればせながら、8月21日にFM東京のHPに公表されました第三者委員会調査報告書を読みました。前経営者をはじめ、多くの社員が関与している不正とのこと。業績の悪いグループ会社の連結外し、という古典的な手法であり、委員会も「本件問題行為は会社法違反、会計基準違反」としています。報告書では、前経営者の在任期間が長く、社内の人事権も一手に握っていたことから、「誰も経営者に異論を唱えることができなかった」といったガバナンス上の課題が述べられています。なお、報告書を読み、個人的に印象に残ったのは以下の2点です。

こういった第三者委員会の報告書を読んでいて、いつも思うところですが、日本企業の社外役員(社外取締役、社外監査役)のリーガルリスクへのツッコミは希薄だなぁと感じます(いえ、自分への戒めも込めて、ということです)。ホントに社外役員に対して日本は優しい国です。このような不正が発生しても、「社外取締役は何をしていたのか」「法的責任は問われないのか」と世間から批判されることもないのですね。非上場とはいえ、株主や取引債権者はおられるわけですから、社外役員の役割について、もう少し話題になっても良いのではないかと思いますが。。。

まさに「知らぬが仏」ということですが、100億もの投資事業を担当していたグループ会社について、どうして社外取締役の方々は業績に関する情報収集をしていなかったのでしょうか。5名の社外取締役の方々は株主会社から派遣されていたので、あまり関心がなかったのかもしれませんが(FM東京さんは会社法上の大会社なので)内部統制の基本方針を決議しているはずであり、財務に関する情報収集体制も構築されているはずです。意図的に前経営者が社外役員に情報を遮断していたとしても、なぜ社外役員が重要子会社の情報を収集できなかったのか、とても疑問を感じます。

もう一点が、今回の組織的不正は、会計監査人への内部告発によって発覚した、ということです(正確には社内の内部通報窓口と会計監査人に同時に情報提供があったようです)。会社の規模からみて、内部監査部門が不正を発見することは容易ではなく、また取締役会の監督機能や監査役監査にも期待ができないとなりますと、やはり内部通報や内部告発が唯一の不正早期発見に向けた効果的手法だったと言わざるを得ません。

本件もやはり公益通報者保護法の改正に向けた立法事実を提供する事例だと考えます。近時の田中亘東大教授の論文(旬刊商事法務2195号13頁以下「公益通報者保護制度の意義と課題」)では、画期的な近時の研究発表も紹介されております(内部告発を内部通報と同様に保護したほうが、内部通報制度自体の有効性を高めることになる、とのこと)。近いうちに、公益通報者報奨制度や(告発者への不利益制裁に対する)刑事罰適用といった論点も、改正対象として検討課題に上る日がくるかもしれません。

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