2021年5月13日 (木)

やはり内部告発の威力はスゴイ(がんこ寿司、スギHD)

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事務所近くの中之島公園のバラが満開の時期となりました(当ブログでは、あまりこのような書き出しはありませんが)。 

さて、東京で調査案件が佳境に入っておりますので、Twitter程度の書き込みで恐縮です。すでにご承知のとおり、スギHDさんやがんこ寿司さんの不祥事が明るみになっています。いずれも内部告発(スギHDさんのケースは社内か公務員かは不明ですが中日新聞への情報提供、がんこ寿司さんは読売新聞への情報提供)がなければ発覚しなかったはず。告発の威力を痛感します。

まさか外部へ漏らす社員などいないだろう、という安易な気持ちがあったのか、それとも「この程度の問題を新聞社が記事にすることはないだろう」と甘くみていたのかは不明ですが、違和感を覚える行動は「かならず発覚する」という気持ちで一度立ち止まって考える時間が必要かと思いますね。いくら忖度の気持ちからであったとしても、取材が来てから不正をやめる、という態様は、企業の社会的信用を失います。

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2021年5月10日 (月)

統治指針に「人権」明記-コンプライアンスの視点で考える

少し前になりますが、5月5日の日経朝刊1面に「統治指針に『人権』明記-金融庁・東証 企業の積極対応促す」なる見出しで、6月に施行される上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードに「人権尊重を求める規定」が盛り込まれることが報じられていました。企業の人権配慮への取り組みは欧米の投資家を中心に問題意識が高く、人権意識が低いと映れば投資対象からはずれるリスクもあるとのこと。

ガバナンス・コードに「人権尊重を求める要求」が明記されるとなると、私は企業経営において、以下の3点に留意する必要があると考えています。まずひとつめは「会社法の目的とCSR」です。株式会社の「営利性」との関係で、企業は株主利益の最大化を図ることが目的ですが、人権尊重についてコンプライするとなれば、社長を含む取締役・監査役の善管注意義務(主に経営判断原則)にどのような影響を及ぼすのか。株主の利益よりも(株主の長期的利益と同様に?)従業員の利益を優先する経営者の判断が株式会社の「営利性」との関係で矛盾を生じないのか。

ふたつめは「共助の精神」を重視することです。本来「人権保護」は国家の仕事であり、(憲法の私人間効力という問題はあるものの)そもそも民間企業の仕事ではありません。しかし、プラットフォーマーのように国家権力よりも実質的に強大な権限を行使しうる民間企業が出てきた以上、国家の仕事の一端を企業が担う(国家権力の一部を企業が行使する)、という発想も欧米ではあたりまえになってきました。おそらく、国家権力の一端を担う企業や、業界団体を統率する企業は、今後ルールメイキング、ロビー活動、ペナルティの運用において有利な立場となり、コンプライアンス経営の立場から多大なアドバンテージを持つことが考えられます。

そして最後が「経済安保への向き合い方」です。人権規制への対応において欧米政府や企業と足並みをそろえるか、それとも中国における商権を重視して中国・ロシア経済圏の考え方を重視するか、その経営判断において「人権尊重」の考え方も異なるものになるでしょう。新疆ウイグル自治区における労働問題に対して「ノーコメント」を貫いて中国における経済活動を維持する代わりに、フランスにおいてNPO団体から刑事法違反を告発されたユニクロさんのような事例が、経済安保体制の強化によってますます増えるものと予想しています。

いずれの問題も、まずは企業もしくは経営者の「経営哲学」が求められるのではないかと。ガバナンス・コードが改訂されるから、これにどう対応するか、という表層的な取り組みではなく、まずは「ポストコロナの時代に、自社はどうなりたいのか」というところを確立したうえで、上記のような問題点の解決方法を見つける姿勢が求められるものと思います。ともかく「経営と法務」の距離を相当近づける、その際、「法務」という職務内容を見直す(法務の「既成概念」を排除する)ことから始める必要がありますね。

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2021年5月 6日 (木)

東芝-CVCによる買収提案劇中断のモーメントについて

当ブログで過去に何度か取り上げたCVCによる東芝買収事案ですが、ご承知のとおりCVCによる買収提案の「事実上の撤回」に至ったようです。過去のエントリーでも述べた通り、私は①経産省はこの案件についてはどのように関与しているのか、②もし経産省とCVC(及び東芝の一部取締役)との事前の根回しなしに買収提案に至ったのであるならば、実現可能性はどこから来るのか、という点にどうしても関心がありました。

結局「わからずじまい」だったのですが、5月3日の朝日新聞ニュース(会員向け有料記事)で、ようやく疑問点が少しだけではありますが解消された気分になっております。当該記事「2兆円超の東芝買収、頓挫の舞台裏 新体制の行方は」によると、まず①については経産省は「元CEOと距離を置く東芝幹部」と「元CEO周辺」の双方から連絡を取り続けていた、とのこと。「蜜月だった元CEOの退場に幹部はため息をつく」とのことなので、ほぼ中立であったものの、CVCによる買収可能性については経産省も検討していたのかもしれません。

つぎに②については、(報道内容が真実だとすれば)「2003年に設立されたCVC日本法人には焦りがあった」「日本法人はすかいらーくへの出資や資生堂の日用品事業の買収等を手掛けたが、希望は最大で1000億円台。もっと大きな案件ができないのか、と英国本部からせっつかれていた」(関係者の証言)とのこと。なるほど、大手ファンドの日本法人としては、それなりにパフォーマンスを上げなければ「撤退」の危機に瀕するわけで、「見切り発車」の意欲があるところに、東芝の一部取締役の方々の意向が重なって4月7日の日経朝刊スクープに至った、ということのようです(なるほど・・・)。

また日経スクープは4月7日の早朝でしたが、社外取締役らが元CEOの動きに対応しだしたのは前日の6日のこと。つまり、スクープの前に東芝法務部の担当者から重要情報が届いたそうです。通常の企業であれば、法務部といえども執行部との関係が深い。したがって、社外役員に重要情報を伝えるには経営者の判断が必要です。その法務部から(指名委員会等設置会社といえども)経営トップへのお伺いなしに社外取締役に重要情報が届く、という社内の雰囲気がすべてを物語っているような気がいたします。

最後に私の独断による意見ではありますが、CVCによる買収劇中断に至った要因はいろいろとあるかもしれませんが、最後はやはり東芝の経営幹部層の皆様の強い気持ちが(社外取締役の方々の行動に火をつけた、という意味において)大きかったのではないでしょうか。このあたりは、有事に向き合う社外取締役、社外監査役の皆様には示唆に富むストーリーではないかと思うところです。

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2021年4月27日 (火)

ガバナンス・コード改訂版に対応する日本の上場企業を機関投資家はどうみるか?

本日も日帰りの東京出張で、帰阪後もまとまった時間がとれませんでしたので、自分用の備忘録としてガバナンス関連の話題をひとつ。備忘録なので、私個人の意見などはあまり記載しておりませんのでご了承ください。

先週末、金融庁Gコード&Sコード・フォローアップ会議のメンバーの方と、ある団体の会合で意見交換を行う機会がありました。ガバナンス・コード2021がもうすぐ適用されますが、ガバナンス・コードに対応する日本企業についての当該メンバーの方のご意見がとても興味深い。

まず「日本企業はエクスプレインする(コードに従わない理由を説明する)企業が少なすぎる」とのこと。「日本企業はガバナンス・コードへの誤解があるのではないか」とおっしゃっておられました。自社にとって最適なガバナンスはどのようなものか、企業理念に沿った考え方が、ます自社で確立していることが前提。だからこそ、投資家はエクスプレインを期待している。これほどコンプライする、ということは、そもそも自社のビジネスモデルに沿ったガバナンスの理想形が存在しないのではないか。だからあまり考えることもなくコードができれば従う・・・ということになるのではないか。

たしかに英国では「コンプライ」が基本であり、エクスプレインは例外的かもしれない。しかし、それは英国が2008年のリーマンショックの際に改訂した「守りのガバナンス」に関するコードが中心だからであり、また、国家ではなく「シティ」が主導で策定されたソフトローだから(人から押し付けられた規制ではなく、自分たちで決めたルールだから従うのが当たり前)。攻めのガバナンスのためのガバナンス・コードを国から要求されて従うとなれば、日本と英国と背景事情が全く異なる(よって、堂々とエクスプレインすればよい)。

役員からみてコードへの対応として重要なのは取締役会の実効性を評価することであろう。しかし、自己評価ができているとは思えない。とくに社外取締役の評価はどうしているのか。日本では「健全なリスクテイク」のために社外取締役が果たすべき役割があるはず。ではそのような役割を果たす社外取締役は、誰がどのように格付けしているのか。

私の聞き間違いもあるかもしれませんので正確性は保証できませんが、ご意見には共感するところが大きいです。やはり「成長戦略を後押しするガバナンスなど掲げているのは日本だけ。ガバナンスは不正防止、社長の暴走抑止、エージェンシーコストの低減、といったところが目的」という点はとても重要ですよね。ガバナンス・コードへの対応は二の次として、まずは自社の持続的成長のための最適なガバナンスを考えることが最優先ではないか(←これが2013年以来、ガバナンス改革に一生懸命取り組んできた日本が得た知見では?)といった考え方が次第に浸透するような気もします。

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2021年4月22日 (木)

改正公益通報者保護法に基づく指針案報告書が公表されました(その他、お知らせ)

本日、某社の不正案件に関する特別調査委員会の設置が決まり、当職が委員長を拝命いたしました。6月下旬の取締役会に報告書を提出する予定でして、それまでまた東京と大阪を行ったり来たりの生活となります。ブログの更新がむずかしくなりそうですが、どうかご容赦ください。

さて、昨年6月に成立した「公益通報者保護法の一部を改正する法律」では、事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等が義務付けられることになりましたが、具体的な義務の内容については指針で定めることとされています。消費者庁は、指針の内容等について検討するため、昨年10月から「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」を開催していましたが、本日(4月21日)、検討会報告書が取りまとめられ、消費者庁ウェブサイトに掲載されました

まだきちんと読めておりませんが、来年の改正法施行に向けて、企業実務的にも重要なので告知だけさせていただきます。

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2021年4月20日 (火)

東洋紡・品質不正事件-出荷先の不適切受領に光をあてた記事

4月16日の日経クロステック「東洋紡、4度の隠ぺい 報告できなかった品質不正」を読みました(有料記事)。自動車部品用に東洋紡が製造している樹脂(プラナック)製品が、チャンピョン品(米国認証機関における試験用に別途製作した製品)で試験をクリアしながら、性能の異なる販売用製品を出荷していた事例でありまして、米国認証機関の抜き打ち検査で発覚したようです。未だ調査は続いているようですが、昨年末の社内調査の内容をとりあげた記事の内容がなかなか興味深い。

東洋紡は2020年10月、米国の第三者機関による認証試験に、実際の商品よりも燃えにくいサンプルを提出する不正があったと発表しておりました。同社が昨年12月に公表した調査結果によりますと、プラナック事業は2010年3月末に印刷用インク大手のDICから譲り受けたのですが、譲渡前の交渉で東洋紡の担当事業部の責任者はDICの認証不正を認識したにもかかわらず、上層部に報告しないまま不正を続けた(不正を引き継いだ)とのこと。東洋紡は、代替品の開発を断念した20年に入って経営幹部に報告され、DICから引き継いだ不正事実が発覚したそうです。

東洋紡より昨年末に公表されたのは調査概要でありますが、品質偽装品を受領した側が「偽装であること」を知りながら受領してしまったことに言及しているところに関心が向きます。上記日経クロステックの記事によれば、出荷元であるDIC社が性能偽装によって認証を受けていたことを東洋紡の担当者はデューデリジェンスによって認識していたにもかかわらず、これを経営陣に報告せずにそのまま製品を受領し、その後は不正を引き継いでしまったそうです。クロステックの記者は「その場でDICに不正事実を告げて、取引を有利に進めればよいだけの話なのに、なぜ経営陣に不正事実を報告できなかったのか」と疑問を抱いています。

なお、調査報告では「おそらく製品を受領する担当者のリスク感覚が希薄だったことが原因」と分析しているようです。たしかに要求基準に満たない品質が判明した場合には(まだ品質偽装事件が頻発していない時期であれば)「この程度なら問題ないか」といった意識だったかもしれませんが、さすがに性能偽装によって米国規格を通した、という場合にまで「リスク感覚が希薄だった」といった分析では済まないように思われます。なぜ問題を認識しながら報告できなかったのか、という点の深堀は私も必要だと考えます。

これまで多くの日本企業において「品質偽装事件」が発覚していますが、出荷する側の問題だけでなく、偽装製品を受け取る側の問題に光をあてた記事は初めてではないでしょうか。当ブログにおいては2017年10月18日付け「神鋼品質データ事件の責任は神鋼だけが負うべきなのか?」、2018年4月3日付け「グループ管理、サプライチェーンにこそ不祥事の『根本原因』があると考える」等で何度も申し上げているように、品質偽装事件は不正を行った企業だけの問題ではないと考えております。偽装製品を受領する側においても、偽装を知りながら受領せざるを得ない事情があり、その事情にこそ光をあてなければ日本企業の品質偽装事件はなくなりません。

近時発覚した小林化工の薬剤混入事件でも社長さんの弁明に出てきましたが「納期を守れず、サプライチェーンを構成する他社に迷惑をかけるくらいなら法令違反や社内ルール違反もやむなし」「効率的な経営を最優先する企業風土があった」という理由は、社内でコンプライアンス違反を正当化してしまうのでしょうか。東洋紡のように、自社の技術が高まれば高まるほど、他社の不正にも気づきやすくなるのですが、サプライチェーン全体の納期を遅延させるくらいなら、他社の不正を許してしまおうと考える、その根本要因はどこにあるのか?それは諸々考えられるところですが、不正競争防止法違反や独禁法違反、景表法違反事件などを本気で防止するためには、他社との協働作業を通じて不正を根絶する取組みが、そろそろ必要になるのではないかと。

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2021年4月19日 (月)

日産元会長逮捕劇の端緒は常勤監査役の覚悟にあった-日産クーデターの真相より

4月17日までの5日間の連載記事「日産クーデターの真相」(朝日新聞・経済プラス)は、先週のエントリーで述べた通り、監査役・監査等委員の皆様には本当に必読の内容でした。どこまでが裁判での証言で、どこからが記者独自取材の内容なのかはわかりませんが、日産元会長が逮捕されるまでの社内調査の経緯が克明に描かれていて、とても参考になりました。

お読みになった方はおわかりのとおり、日産の常勤監査役(当時)のI氏が悩みを専務執行役員のK氏に打ち明け(役員食堂での雑談)、その後K氏から紹介された弁護士(元検事)の勧めで司法取引を活用する環境を整備し、最後にS社長(当時)に調査の全容を説明したうえで引き継ぐ(その1か月後に元会長逮捕)。検察官と交渉した際、I常勤監査役が「もし情報が洩れるようなことがあったら、検察は手を引く」と断言されたこと、司法取引の当事者となる法務担当執行役員や秘書室長らが「司法取引」を行うことによって「自分もあぶないのではないか」と衝撃を受け、冷静さを失っていた状況も描かれていました。

ルノーとの統合に反対していたK専務執行役員と出会ったこと、正義感から元会長の行動を阻止したいと考えていた法務執行役員が存在していたこと、内部通報制度の活用だけでは壁を乗り越えられないと感じていたときに「日本版司法取引制度」の施行が開始されたこと、「裏報酬」に光をあてて検察庁が金融商品取引法違反による起訴を決断したこと等、クーデターが起きた要因は複合的だったことがわかります。ただ、I常勤監査役が「日産のものつくり」をこよなく愛していて、「このままでは日産の技術が失われてしまう」といった危機意識を持ち、元会長と対峙する勇気がなければ日産の事件は表面化しなかったと言えます。

他社の監査役、監査等委員の皆様への教訓としては、常勤監査役I氏が法務担当執行役員に悩みを打ち明けるシーンでしょう。法務執行役員の方が「この人は本気でゴーン氏と対決するつもりだ」と驚き、その後、I氏に対して元会長の不正事実を克明に説明をしますが、やはり監査役、監査等委員が本気で監査権を行使する気概を示すことで、経営執行部側から情報が届く、ということだと思います。逆に言えば「監査役」「取締役監査等委員」とは名ばかりで、本気で社長と対決する覚悟のない監査役、監査等委員に対しては、経営者が関与する重大な不正情報は耳に届かない、ということです。

この連載記事は「日産事件は、ルノー統合を良しとしない日産幹部のでっちあげではない」(日産元社長のS氏が裏で動いていた、というものではない)と締めくくられています。ただ、ルノー統合の動きが加速していなければ、元会長は退任後に莫大な「裏報酬」をもらいながら、今もルノー・日産の統合会社のトップに君臨していたのではないでしょうか。そう考えますと、日産の技術畑を歩み、こよなく日産を愛しておられたI常勤監査役の調査権行使(社内調査の指揮・先導)と違法行為差止権限の行使(監査役自ら元会長と対面することを避けて、内部通報者に司法取引を勧めて、外部から元会長の動きを制止させること)は称賛に値するものと考えます。

もちろん「何が正義なのか」といった広い意味で本件をとらえるならば「元会長は日本の刑事司法制度の被害者である」「裁判を受けていれば無罪の可能性があり、クーデターは正当化されない」といった意見もありましょう。ただ、会社法上の監査役制度を前提とすれば、監査権の実効性を確保するために検察や金融庁との連携が必要な場面も当然に出てくるわけで(改正公益通報者保護法施行後は、監査役による公益通報という手段も出てきます)、このような常勤監査役の監査権の行使は善管注意義務、忠実義務の実践の「あるべき態様」ではないかと思うところです。

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2021年4月16日 (金)

週刊金融財政事情に論稿を掲載いただきました。

1618551767455-2_400 日経や産経のニュースによりますと、東芝の経営陣や金融機関が、ファンドによる買収提案に対して消極的な意見を持っていると報じられています。ファンドによるバイアウトが成立するとなれば、そもそも指名委員会等設置会社である必要性も、また独立社外取締役が設置される必要性もなくなるはずなので、東芝の現経営陣の判断は多分に利益相反性を帯びているものと考えられるのですが、いかがなものでしょうか。

さて、週刊金融財政事情の最新号(2021年4月20日号)に「日本郵政の検証報告書から読み解く内部通報制度の重要性」と題する論稿を掲載していただきました。当ブログでも必読!と書いた日本郵政の内部通報制度の検証報告書ですが、この報告書は、他社が今後の法改正(公益通報者保護法)やガイドライン・指針の策定に伴い、現状の内部通報制度を見直すにあたってたいへん貴重な資料と思われますので、本稿を執筆いたしました(なお、日本郵政は当該報告書に沿って内部通報制度を見直したようです)。

とりわけ(日本郵政グループの)現行の内部通報制度の検証方針を(図表にして)ご紹介しておりますが、ここは公益通報への適切な対応体制の整備が義務付けられる事業者にも参考になるのではないかと。日本郵政の報告書はとてもよくまとまっているものと思いました。全国書店にて発売中なので、ご興味がございましたらご一読くださいませ。なお、私的には同誌に掲載されているNOT法律事務所弁護士の方による論稿「コロナ禍で相次ぐ大企業の減資、『資本金1億円』の誘因」がとてもおもしろかったので、そちらをお読みなることもおススメいたします。

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2021年4月15日 (木)

東芝は経産省と良好な関係を維持できるのだろうか?-一連の報道から考える

CVCによる買収提案から1週間が経過した4月14日、東芝では臨時取締役会の開催を前にCEOが辞任の意向を示したことが報じられました。4月8日のエントリー「CVC、東芝へ買収提案-なぜ初期提案の情報が洩れる( *´艸`)?」で述べたように、やはりCVCの買収提案にはストーリーがあったようです。ただ、東芝社内において指名委員会が幹部社員によるCEO信任調査を継続していた事実や、今年に入って経営陣の間でCEO信任について対立があった、という事実は全く知りませんでした。

文春オンライン、ロイター通信をはじめ、多くの報道内容から、素人なりに一番真相に近い記事を掲載しているのは毎日新聞の「東芝社長、電撃辞任の裏側 買収もくろむファンド、その視線の先」だと考えております(有料記事かもしれませんが)。現時点で全体像を把握するには、この毎日新聞の記事をお読みになるのがよろしいかと。上記エントリーにて、私は4月7日の日経スクープ記事を「胸のすくような記事」と申しましたが、ホント、取締役会議長を務める社外取締役さんは、当該記事を読んで激怒したでしょうね。

辞任された元CEOの方と経産省には太いパイプがあることもストーリー通りで、経産省サイドとしては元CEOによるストーリーを支援していたのではないかと想像します。外為法規制への審査、(ファンドの保有株式次第ですが)海外諸国における競争法上の審査など、内外の規制当局との交渉はハードルが高いはずで、外資ファンドによる買収を進めるにはどうしても経産省の力が必要なはずです。経済安保体制が高まる中、東芝メモリが売却された2018年当時とは競争法上の審査の厳しさも変化しているように思います。元CEO辞任劇をみておりますと、社外取締役を中心としたガバナンスが機能した事例のようにもみえますが、どうしても東芝が国益と深く関わる企業であるがゆえに経産省との信頼関係抜きには非公開化はうまくいかない、というのが現実の見方ではないでしょうか。

さて、そうなりますと東芝の元社長さんがCEOに復帰されるとしても、経産省との関係はどうなるのだろう・・・という点がポイントになるように思います。2017年当時、東芝メモリ(現キオクシア)の売却先を決定するにあたり、経産省と当時の東芝経営陣との間で揉め事はあったのか、なかったのか・・・。おそらく今後のメディア報道は復帰した社長さんと既存株主との信頼関係の構築に焦点をあてるものと思いますが、私はむしろ当該社長さんをはじめとした東芝経営陣と経産省との信頼関係の構築に焦点をあてて今後の展開に注目しておきます。

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2021年4月14日 (水)

監査役・取締役監査等委員の皆様にお勧め-日産クーデターの真相(朝日けいざい連載記事)

4月14日午前 追記あり

4月13日の朝日新聞朝刊「けいざい+(プラス)」で連載が始まった「日産クーデターの真相」ですが、なかなか興味深い内容です。グレッグケリー氏の裁判における証言や、新たな取材によって判明した「ゴーン氏逮捕までの経緯」を連載記事で再現する、というものです。第1回は「監査役は不審に思った」とサブタイトルで、日産の常勤監査役のI氏がゴーン氏の不正疑惑を抱くに至った経緯が記されています(当該経緯はまだ第2回にも続きます)。

I氏は実名、写真入りで登場です。I氏の実名は、当時日産元会長逮捕劇を扱った週刊文春2018年12月6日号でも掲載されていましたが、朝日の著名記者の方が新たにI氏に取材をされたようで、上記記事ではI氏が元会長の不正疑惑に迫る要因となった新事実が明らかにされています(第2回はI氏の違和感が不正疑念へと変わるきっかけとなる「社員食堂での後輩との会話」が掲載されるそうです)。

I氏は日産の副社長から監査役になった方ですから、積極的に社内の情報を収集できる立場にあったのかもしれませんが、カリスマ経営者に対峙する監査役(取締役監査等委員)の「職業的懐疑心」を理解するには貴重な題材ですね。監査役・監査等委員は職業的懐疑心をもって監査職務にあたることは善管注意義務、忠実義務を履行する者として「あたりまえ」のことですが、その「あたりまえ」のことが経営者の不正疑惑を前にするとできないことが多い。社長の違法行為を差し止める権限があるとしても、まずは「違法行為」「著しく不当な行為」である確証を得なければ権限行使の決断はできないでしょう。

3年前の文春記事では、たしか法務担当の執行役員(今回の記事にも登場します)らと意思を通じて、最終的には司法取引(刑事訴訟法上の協議・合意制度の活用)に至ったものと記憶しており、I氏が直接ゴーン氏と対峙した、ということではなかったと思います。たしかに監査役、監査等委員が司法取引の当事者となる場面というのは想定しにくいです。ただ、今後は(公益通報者保護法の改正によって)、一定の職務行為を行うことが前提となりますが、監査役も公益通報者となり、たとえば金融商品取引法違反事実の疑惑については証券取引等監視委員会や公認会計士・監査審査会等へ通報することが監査役としての正当な職務行為とされます(正確には監査役、取締役としての守秘義務が「正当理由」によって解除される、といったほうがよいかもしれません)。

つまり、監査役として経営者と強硬姿勢で対峙するだけの勇気がないとしても(※)、「強硬姿勢で対峙すること」と同視しうる程度の作為義務(経営者による違法行為の是正措置義務)は認められるようになると考えます。少なくとも、是正措置が必要かどうか、その判断の前提となる情報収集は必要だと思います(常勤監査役、監査等委員から情報を共有された社外監査役、監査等委員も同様の注意義務が発生するはずです)。もちろん、社長の不正疑惑を抱くきっかけとなる最初の「違和感」は、会社の業務全般に精通していなければ湧いてこないかもしれません。しかし、その「違和感」を監査役会(監査等委員会)を構成する他の監査役、監査等委員と共有することで、疑惑→確信に発展します。

※・・・監査役さんが裁判で敗訴した事例では、「見なかったことにしましょう」と他の監査役に勧めていた例、社長に違法行為の即時停止を求め、停止しなければ監査役を辞任する、と申し入れたものの、社長解任を提案する取締役会の招集をしなかった例、社長の行動に違和感を感じつつも、それ以上何もしなかった例など、もう少しの勇気があれば敗訴しなかったものと思われます。

冒頭の朝日新聞の連載は、おそらく「日本版司法取引」に至る経緯に最も関心が寄せられると予想します。ただ、監査役が経営者の不正を追及する決断に至る経緯については、あまり世間的に公表されることがありません。当該連載では、そのあたりが明らかになることを期待しております(本件とは関係ない話ですが、私が第三者委員会の委員長を務めた過去の報告書では、監査役の権限行使に至る経緯を詳細に開示しております。有事に直面する監査役、監査等委員の皆様への有益な参考例としての「公共財」として残したい、という気持ちからです)。

4月14日午前追記;今朝の連載2回目「危ない橋を渡る」もなかなかおもしろい!この続きがとても楽しみです。

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