2021年6月15日 (火)

今年は「有事に直面する監査役(監査役員)」の話題が豊富ですね。。。

コーポレートガバナンス・コードの公表や東芝の調査報告書の指摘事項等、世間を賑わせている話題から完全に取り残されておりますが(;゚Д゚)、いよいよ特別調査委員会の仕事もあと1週間、ということでして、ブログの更新ももう少しで復活でございます。

そもそもインプットする時間がないので「ブログを書きたい!」という衝動も湧いてこない状況でありますが、さすがに世間を眺めてみると、今年は監査役(監査役員)に関連する話題が多いことに気づきます。本業が少しヒマになったら書きたいネタとして、①日産元会長事件発覚の端緒となったI常勤監査役の調査権限の行使、②ユニデンホールディングス常勤監査役の限定付き監査意見とこれに対する経営執行部の反論(6月14日も火花が散っています)、③アルケゴスショックで巨額損失を発生させた(と言われている)野村HDの監査委員候補者への議決権行使助言会社による反対推奨意見、④東芝調査報告書の指摘に基づく監査委員候補者の変更、⑤天馬における監査等委員会と経営執行部とのさらなる攻防・・・。いずれも、ガッツリ個人的な意見を述べたいものばかりであります。

「攻めのガバナンス」が謳われる中で、問題が発生すると「守りのガバナンス」の要となる人たちの責任が問われる、ということでしょうか。リスクの顕在化を100%防ぐためには、そもそも顕在化しない可能性が高い場面でも利益獲得行為を止めなければならないのは当然(つまり「オオカミ少年」を尊重しなければいけない)わけですが、機関投資家の方々はこれをどう理解されているのでしょうか。会社に損失が発生したからといってリスクマネジメントの責任者が更迭されるとなれば、もはや「運」に頼るしかないように思います。むしろ普段から「守りのガバナンス」の運営状況に機関投資家の方々がどれだけ気を配っているか・・・今後はそこに注目すべきかと。

いずれにしましても、監査役(監査役員)と経営執行部との対立が顕著となった場合には、どちらの行動が正しいのか、株主の皆様に判断していただけるような情報開示こそ、取締役の善管注意義務の実践ではないかと思います。大株主を代表する社外役員(社外取締役、社外監査役)が増えるとなれば、今後は身内の紛争もオープンにすることが「株主から信認を得られる姿勢」として評価されるのかもしれません。

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2021年6月 8日 (火)

トヨタ自動車パワハラ事件にみる「ビジネスと人権:行動計画」の重要性

6月8日10:45 最終更新

第三者委員会の業務もあと2週間、ということで、まだ時間的な制約がある中、本日も短めのエントリーで失礼します。今朝(6月7日)の朝日・毎日新聞の1面記事で「男性社員の自殺 パワハラが原因と認定 トヨタ社長が謝罪 遺族と和解」とありましたが、トヨタ自動車の社長さんが(和解の席で因果関係を認めたうえで)上司のパワハラで自死された社員のご遺族に(2度にわたって)パワハラ事件の再発防止策を説明されたそうです。

お恥ずかしい話ですが、企業側のパワハラ調査を担当する者として、大きな企業の社長直々にご遺族との面談に出向き、陳謝をして再発防止策を誓うというのは経験したことがないので、この報道にはたいへん驚きました。政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」(令和2年10月)ではハラスメント対策が重点項目とされていますし、ガバナンスコード改訂2021版でも「人権尊重」が補充原則の中に盛り込まれることになりますので、パワハラ撲滅は企業のリスクマネジメントにおいて優先順位が上がってきたことは間違いないと思います。

少し話は違いますが、5月28日の朝日新聞朝刊(東京版10面)に「投資信託保有者2万人アンケート」の結果として、ESG経営に対する投資家の意識が示されていましたが、50代~70代の投資家が「環境問題の改善、再生エネルギーの普及に取り組む企業」を投資対象とする、という回答が圧倒的に多かったのに対して、20代~30代の投資家は「貧困・飢餓問題、教育格差の是正、ジェンダーフリー、女性活躍推進に取り組む企業」を投資対象とする、という回答が圧倒的に多かったことに関心が向きました。若い方はESGの「S」に関心が高いことが示されています。ハラスメント問題への世代間ギャップは、経営層にとって要注意です。

パワハラを生む企業風土を変えるための一番の特効薬は、やはり社員に共感されるストーリーです。トヨタ自動車のトップ自ら和解の場に出向き、再発防止を誓う、というのは大きな「ストーリー」になりうるものかもしれません。トヨタ自動車の上記記事では、多くの社員が「見て見ぬふり」だったことが報じられていますが、ストーリーによって変えなければならないのは(パワハラ行為そのものよりも)「見て見ぬふり」に徹する多くの社員の意識ではないか、というのが実際にパワハラ調査業務に携わっている者としての心境です。

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2021年5月31日 (月)

監査業務の法的考察(弥永先生の新刊のご紹介)

100000009003440500_10204毎年この時期には6月総会関連のテーマでかなり長いエントリーをアップしておりますが、今年は本業(調査案件)にほとんどの時間を費やしておりまして、なかなかブログを更新する時間がとれません(あと20日ほど・・・)。そこで、入手した新刊書のご紹介だけしておきたいと思います。私がとても関心のある分野「法と会計のはざまの問題」を深く考察する一冊ですが、弥永真生教授による「監査業務の法的考察」(弥永真生著 2021年5月30日発売 日本公認会計士協会出版局 3,520円)

帯書きでは「27のテーマで監査業務を法律学から視る 法律学(主に会社法)と監査論との橋渡しを試みた意欲作 監査業務・法律学の関係者の議論の活性化を願って研究した成果を1冊にまとめました」とあります。最近の日本公認会計士協会機関誌「会計・監査ジャーナル」の連載をもとに、あらためて研究成果を加えられた1冊だと思いますが、27のテーマはいずれも「法と会計のはざまに横たわる諸問題」といえます。私が(もう6年ほど前ですが)監査法人側で関与した事例なども紹介されていて、近時のKAM開示に関連する法律問題も取り上げておられます。弥永先生の「素朴な疑問(わたしの独り言)」なども注記で詳細に語られるなど、なかなかおもしろそうです。

内容とは全く無関係ですが、この本の厚さで470頁ということで、とても質の良い紙を使っていますね。ひさしぶりに紙質の良い本に出会いました。弥永先生の前著「会計処理の適切性をめぐる裁判例を見つめ直す」と同様、通読をするのはかなりしんどそうですが、会計や監査に関連する法律問題を調べるにはどうしても手元で参照したい一冊です。

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2021年5月24日 (月)

もはや「レピュテーションリスク」では語れなくなったコンプライアンス経営の姿勢

少し前までは「もはやコンプライアンスは『法令遵守』の時代ではない。社会からの要請への適切な対応こそコンプライアンスの要諦である」と語られていました。そして、その「社会からの要請」への不適切な対応は企業の社会的評価(レピュテーション)を毀損する、ということで、レピュテーションリスクへの対応こそコンプライアンス経営の神髄であると言われていました。

もちろん、これは間違いではありません。しかしながら「では、いったい何が企業にとっての『レピュテーションリスク』なのか」というと、たとえば1990年代に「企業の業績悪化の理由」として語られていた「バブルがはじけて・・・」というフレーズと同様、中身がフワッとしていて、世の中が移ろいゆく中で、意味が変遷しうるようなあいまいな概念です。私の関心分野で申し上げるならば、企業のレピュテーションを毀損する原因は「企業不祥事の発生」なのか「発生した不祥事の発覚」なのか「不祥事隠ぺい」なのか、それとも「不祥事隠ぺいが経営者を含んだ組織ぐるみであること」なのか。「レピュテーションリスク」なる言葉を用いると、語る人によって意味するところはマチマチなのです。

ただ、ポストコロナに向けて、コンプライアンス経営を語るにあたっては、そのようなフワッとした「レピュテーションリスク」なる言葉で説明できる時代ではなくなってきました。5月23日の日経朝刊「文化時評」の特集記事では「企業広告は政治を語るべきか-企業が自らを守るには表現することが必要。その根底にあるべきは自律した倫理観だ」との見出しで、これからの企業のリスクマネジメントの姿勢について語られています。私も「政治を語るべき」とは言いませんが、議論の方向性についてはそのとおりであり、「企業は自らのビジネスにおける哲学を語ること」がコンプライアンス経営にとって不可欠になると考えています。

まず、「ガバナンス・コード」(企業統治指針)の浸透です。comply or explainは「事実上の行動規範の強制」だと言われてきましたが、今年の改訂内容をみれば、上場企業にとって粛々と従うには相当ハードルが高くなったと言わざるを得ないでしょう。粛々と従うのではなく、「無理なものは無理」「従いたくないことは従わない」とハッキリ明言しなければ企業価値を失ってしまう企業も出てくるはずです。もちろんコードを策定する側からすれば、市場全体での資本の最適配分が実現すればよいわけですから「労働の流動性及びM&A法制さえ確保されていれば、そもそもつぶれてしかるべき企業はつぶれてもよい」という思いはあるはず。しかし個々の企業にとってはたまったものではありません。そこで、企業はきちんと自社のモノサシを明示して、そこから逸脱するものは従わない、という姿勢を示す必要があります。

つぎに「共助の精神」の必要性です。近時「ビジネスと人権」について語られる機会が増えたことは皆様ご承知のとおりです。そもそもグローバルな視点でみても、「人権」を擁護するのは原則として政府の役割であり、私益を追求すべき企業の役割ではありません。しかしながら、政府よりも強大な権限によって人権を制限しうる巨大企業、一国の主権だけで自国民の人権を擁護しえない(または課税の公平性を実現できない)ようなグローバル企業が登場したことから、企業は政府の仕事の一端を担う必要がある、といった思想が、各国政府で共有されるようになりました。

日本国内において、この5月から「誹謗中傷動画の削除」に向けて法務省とグーグルが官民連携で対策を練ることになりましたが、これは典型例だと思いますし、官民連携だけでなく、大企業がサプライチェーン全体の人権侵害の排除に取り組むことなども民民連携として不可欠になります。官民連携に積極的に取り組む企業としては、今後ルールメイキング、ロビー活動、ペナルティ付与等において、他社とは異なるアドバンテージを持つわけで、もはやコンプライアンス経営は「守りの経営」ではなく「攻めの経営」と親和性を持つことになります。「共助の精神」を発揮するためには、当然のことながら社内外への御社の企業哲学を発信し、共感してもらうことが必要となります。

そして最後が「経済安保への向き合い方」です。上記日経「文化時評」で取り上げられたテーマです。御社は欧米のほうに向いて事業を展開するのか、それとも中国、ロシアのほうに向いて展開するのか。沈黙は許されず、きちんと企業としての方針を明示しなければならない時代になった、ということでしょう。どのような発言をしてもレピュテーションは毀損されるのですから、たとえ毀損したとしても、御社の長期的な企業価値を向上させるためには、あえてレピュテーションリスクをとりにいかなければならないと思います。

たとえば私が日本企業にとって来年、再来年あたりに直面するコンプライアンス問題として「ワクチン接種」の課題を想定しています。上司Aが部下Bに対してワクチン接種を推奨し、もし接種を拒否した場合には同じチームからはずす、と申し向けた場合、会社はどう対応すべきか、かりに部下Bが女性社員であり「ワクチンの母性に及ぼす影響がある程度判明する2年後までは接種は控える」と言われた場合はどうか。海外のグループ会社の現地社員の場合はどうか。消費者の安全に配慮して「お客様と接触する当社社員は、全員ワクチン接種を済ませております」との広告を打った場合、この表現には世間がどう反応するか。世界の多くの企業で既に発生している難問ですが、御社としての企業哲学をきちんと示さなければ、日本国内のみならず、世界のNPO団体等から「ブラック企業」「ESGに後ろ向きの企業」と名指しで攻撃されるかもしれません。

これまでレピュテーションリスクを低減するためには「沈黙は金」としていたかもしれません。しかし、沈黙はレピュテーションリスクを顕在化させる時代となりそうです。企業哲学を語れるCEO、またはCEOの傍らで企業哲学を語れる人材が「攻めの経営」にとって必要な時代になると考えます。

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2021年5月21日 (金)

当職の調査委員会案件は折り返し地点です(あと1か月・・・)

いつもブログをご覧いただきありがとうございます。関西は梅雨入りして鬱陶しい天気が続いております。

さて、某社の第三者委員会(委員長)の仕事もようやく折り返し地点となり、6月下旬の最終報告書提出まで1か月となりました。ヒアリング業務だけでなく、深夜まで、自分でキーワード検索をかけてフォレンジック調査を行ったり、あれこれと考える(妄想する?)ことも多くて、なかなかブログを更新する時間がとれません。なので、もうしばらくブログの更新頻度は少なくなりますが、どうかご容赦ください。

この時期は株主総会関連の話題も豊富ですし、気になる事件も増えていますね。ブログネタはたくさんあるので、また一段落しましたら気合を入れて書きたいと思います。とりいそぎ「元気にしております!」ということで。🐱

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2021年5月18日 (火)

課税コンプライアンスもESG経営の一環である

Kandai 5月16日の日経朝刊2面に「投資家、適切な納税促す-企業税務、透明性求める(ESGの一環と認識)」との見出しで、海外の年金基金が投資先の企業に対して納税の責任を求める機運が高まっていると報じられています。多国籍企業などが納税回避を続ければ、社会の不平等が深まり、企業自身の持続的成長を危うくする、との考え方が背景にあるそうで、日本企業も例外ではなく、納税の透明性がいっそう問われることになるそうです。

ちなみに上の資料は、昨年、関西大学のESGシンポで講演をしたときのPPT資料でして、前にも当ブログでご紹介した内容と同じです。英国を中心に用いられている評価基準です。ガバナンス評価といえば、当然に「課税コンプライアンス」も判断基準となるのであり、サプライチェーンを通じて公正な経営を維持することが求められています。

なぜこのような項目がガバナンス評価の要素になっているかと言えば、それぞれ歴史(ストーリー)があるのですよね(本日は解説する時間がありませんが)。こうやって各項目を眺めると、日本で語られているガバナンスの基準とはずいぶん判断要素が違いますね。半分くらいはコンプライアンス経営に関わるものではないかと。

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2021年5月17日 (月)

企業監査を社会インフラにするためには「協働」が不可欠と考える

5月14日の日経朝刊の社説「リスク直視した企業監査を」を読みました。2021年3月期から金商法監査にKAM(監査上の主要な検討課題)開示が導入されることをきっかけに、リスクを向き合う企業監査の実現を目指せ、との内容です。新しい制度の導入によって、会計監査への関心が高まることはとても有意義なことで、社説においてKAMが取り上げられることは喜ばしいと思います。

ただ、2008年に施行されたJ-SOX、2014年3月期決算から採用された監査における不正リスク対応基準のときもそうでしたが「会計監査に携わる方々が頑張ることによって、より価値の高い監査制度が導入できる」と誤解されてしまうのではないかと危惧します。会計監査の品質が高まれば(それだけで)ディスクロージャー制度の向上につながる、というのは幻想にすぎないと断言します。

なぜなら、会計監査が社会インフラとしての有用性を高めるためには、(企業側:ガバナンスの向上)→(監査人、監査役等:新しい制度の運用)→(情報利用者:会計リテラシーの向上)という連鎖が不可欠だからです。とりわけガバナンス改革が進み、機関投資家と企業とのコミュニケーションが促進される現時点では、J-SOX、不正リスク対応基準が策定された頃にもまして、上記のバリューチェーンが重要になります。

ちなみに平成16年以来、いくつかの上場会社で社外役員を務めてきた当職として、「KAMが社会インフラとして有用性を高めるための必要条件」と考えているのは、①ステークホルダーがKAMを投資判断に活用することで「エージェンシーコスト」を低減できるような実務慣行が形成されること、②社長が管理会計だけでなく制度会計への関心を高めること(最低でも会計監査人から提案される「有報提出時の確認書」の中身について「なぜ、この項目について確認しなければならないのか」理解すること、③経理部門が(課税や損益について)1円でも会社に貢献する意欲を持ち、会計監査人と正々堂々と渡り合える気概と能力を持つこと、であります。

ちなみに上記②の「経営者の制度会計への関心」ですが、将来見積もりや引当金計上、費用と収益の時間的対応関係等、いずれも役員会では「正常性バイアスの塊」になっていますよね(笑)。社内で「職業的懐疑心」を持つ人が声をあげられるかどうか・・・、ここが海外企業との「経営哲学の違い」のような気もしております。

間違っても「会計上のリスクを詳細に開示することが、不正リスクの高い企業であること、損失の可能性が高い企業であることを示す」といった誤解だけは生じさせないためにも、ガバナンス×企業監査制度×投資家の会計リテラシーの三位一体でKAMの活用を図る必要があります。そうでなければ、私はJ-SOXの二の舞になってしまう(会計監査人と内部統制部門、監査役等だけの関心事、現場のルーチンワーク化、開示情報の「金太郎飴化」、内部統制の有効性に関する「後だしジャンケン開示」など)と思います。

なお、最近の会計監査の話題としては会計監査人のローテーション制度の導入問題もありますが、そちらへの当職の考え方はまた別エントリーで書かせていただきます。

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2021年5月13日 (木)

やはり内部告発の威力はスゴイ(がんこ寿司、スギHD)

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事務所近くの中之島公園のバラが満開の時期となりました(当ブログでは、あまりこのような書き出しはありませんが)。 

さて、東京で調査案件が佳境に入っておりますので、Twitter程度の書き込みで恐縮です。すでにご承知のとおり、スギHDさんやがんこ寿司さんの不祥事が明るみになっています。いずれも内部告発(スギHDさんのケースは社内か公務員かは不明ですが中日新聞への情報提供、がんこ寿司さんは読売新聞への情報提供)がなければ発覚しなかったはず。告発の威力を痛感します。

まさか外部へ漏らす社員などいないだろう、という安易な気持ちがあったのか、それとも「この程度の問題を新聞社が記事にすることはないだろう」と甘くみていたのかは不明ですが、違和感を覚える行動は「かならず発覚する」という気持ちで一度立ち止まって考える時間が必要かと思いますね。いくら忖度の気持ちからであったとしても、取材が来てから不正をやめる、という態様は、企業の社会的信用を失います。

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2021年5月10日 (月)

統治指針に「人権」明記-コンプライアンスの視点で考える

少し前になりますが、5月5日の日経朝刊1面に「統治指針に『人権』明記-金融庁・東証 企業の積極対応促す」なる見出しで、6月に施行される上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードに「人権尊重を求める規定」が盛り込まれることが報じられていました。企業の人権配慮への取り組みは欧米の投資家を中心に問題意識が高く、人権意識が低いと映れば投資対象からはずれるリスクもあるとのこと。

ガバナンス・コードに「人権尊重を求める要求」が明記されるとなると、私は企業経営において、以下の3点に留意する必要があると考えています。まずひとつめは「会社法の目的とCSR」です。株式会社の「営利性」との関係で、企業は株主利益の最大化を図ることが目的ですが、人権尊重についてコンプライするとなれば、社長を含む取締役・監査役の善管注意義務(主に経営判断原則)にどのような影響を及ぼすのか。株主の利益よりも(株主の長期的利益と同様に?)従業員の利益を優先する経営者の判断が株式会社の「営利性」との関係で矛盾を生じないのか。

ふたつめは「共助の精神」を重視することです。本来「人権保護」は国家の仕事であり、(憲法の私人間効力という問題はあるものの)そもそも民間企業の仕事ではありません。しかし、プラットフォーマーのように国家権力よりも実質的に強大な権限を行使しうる民間企業が出てきた以上、国家の仕事の一端を企業が担う(国家権力の一部を企業が行使する)、という発想も欧米ではあたりまえになってきました。おそらく、国家権力の一端を担う企業や、業界団体を統率する企業は、今後ルールメイキング、ロビー活動、ペナルティの運用において有利な立場となり、コンプライアンス経営の立場から多大なアドバンテージを持つことが考えられます。

そして最後が「経済安保への向き合い方」です。人権規制への対応において欧米政府や企業と足並みをそろえるか、それとも中国における商権を重視して中国・ロシア経済圏の考え方を重視するか、その経営判断において「人権尊重」の考え方も異なるものになるでしょう。新疆ウイグル自治区における労働問題に対して「ノーコメント」を貫いて中国における経済活動を維持する代わりに、フランスにおいてNPO団体から刑事法違反を告発されたユニクロさんのような事例が、経済安保体制の強化によってますます増えるものと予想しています。

いずれの問題も、まずは企業もしくは経営者の「経営哲学」が求められるのではないかと。ガバナンス・コードが改訂されるから、これにどう対応するか、という表層的な取り組みではなく、まずは「ポストコロナの時代に、自社はどうなりたいのか」というところを確立したうえで、上記のような問題点の解決方法を見つける姿勢が求められるものと思います。ともかく「経営と法務」の距離を相当近づける、その際、「法務」という職務内容を見直す(法務の「既成概念」を排除する)ことから始める必要がありますね。

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2021年5月 6日 (木)

東芝-CVCによる買収提案劇中断のモーメントについて

当ブログで過去に何度か取り上げたCVCによる東芝買収事案ですが、ご承知のとおりCVCによる買収提案の「事実上の撤回」に至ったようです。過去のエントリーでも述べた通り、私は①経産省はこの案件についてはどのように関与しているのか、②もし経産省とCVC(及び東芝の一部取締役)との事前の根回しなしに買収提案に至ったのであるならば、実現可能性はどこから来るのか、という点にどうしても関心がありました。

結局「わからずじまい」だったのですが、5月3日の朝日新聞ニュース(会員向け有料記事)で、ようやく疑問点が少しだけではありますが解消された気分になっております。当該記事「2兆円超の東芝買収、頓挫の舞台裏 新体制の行方は」によると、まず①については経産省は「元CEOと距離を置く東芝幹部」と「元CEO周辺」の双方から連絡を取り続けていた、とのこと。「蜜月だった元CEOの退場に幹部はため息をつく」とのことなので、ほぼ中立であったものの、CVCによる買収可能性については経産省も検討していたのかもしれません。

つぎに②については、(報道内容が真実だとすれば)「2003年に設立されたCVC日本法人には焦りがあった」「日本法人はすかいらーくへの出資や資生堂の日用品事業の買収等を手掛けたが、希望は最大で1000億円台。もっと大きな案件ができないのか、と英国本部からせっつかれていた」(関係者の証言)とのこと。なるほど、大手ファンドの日本法人としては、それなりにパフォーマンスを上げなければ「撤退」の危機に瀕するわけで、「見切り発車」の意欲があるところに、東芝の一部取締役の方々の意向が重なって4月7日の日経朝刊スクープに至った、ということのようです(なるほど・・・)。

また日経スクープは4月7日の早朝でしたが、社外取締役らが元CEOの動きに対応しだしたのは前日の6日のこと。つまり、スクープの前に東芝法務部の担当者から重要情報が届いたそうです。通常の企業であれば、法務部といえども執行部との関係が深い。したがって、社外役員に重要情報を伝えるには経営者の判断が必要です。その法務部から(指名委員会等設置会社といえども)経営トップへのお伺いなしに社外取締役に重要情報が届く、という社内の雰囲気がすべてを物語っているような気がいたします。

最後に私の独断による意見ではありますが、CVCによる買収劇中断に至った要因はいろいろとあるかもしれませんが、最後はやはり東芝の経営幹部層の皆様の強い気持ちが(社外取締役の方々の行動に火をつけた、という意味において)大きかったのではないでしょうか。このあたりは、有事に向き合う社外取締役、社外監査役の皆様には示唆に富むストーリーではないかと思うところです。

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