2016年7月27日 (水)

株主による情報収集と監査役の不提訴判断(理由通知制度)

来年の会社法改正を展望するうえで注目せざるをえないのが商事法務研究会で開催されている会社法研究会の審議状況です。7月21日の研究会では株主代表訴訟に関連する論点が審議されたようで、株主による資料収集の在り方も議論された模様です(すいません、まだ議事内容までは確認しておりませんので「模様です」という表現にしました)。たとえば企業不祥事の発覚によって株主に損害が発生した場合、一般株主は取締役の善管注意義務違反を根拠に株主代表訴訟を提起するケースが多いことはご承知のとおりかと(なお、最近はオリンパス事件、東芝事件のように会社自身が当時の役員に損害賠償請求訴訟を提起することもあります)。

株主代表訴訟を提起する場合、株主はまず監査役さんに対して「会社を代表して取締役らを提訴せよ」と請求するのですが、会社法では監査役さんが提訴しない、という判断を決定した場合には、(代表訴訟を準備する株主側からの要求に基づいて)その判断理由を通知することになっています(会社法847条4項、同386条1項1号、規則218条)。しかし、この「不提訴理由通知」の制度が、代表訴訟を提起する株主の情報収集に役立っているかといいますと、かなり疑問があるのではないか、との意見が出ています。

たとえば7月15日付け日経朝刊16面(企業面)では、免震ゴム偽装で揺れた東洋ゴム工業さんにおいて、一般株主が取締役ら19名を提訴するように会社側に請求した(今年5月)のですが、結論として同社監査役さんらは提訴しないとの判断に至り、その旨を株主に通知したことが報じられています。おそらく東洋ゴム工業さんの広報を通じての話だと推測しますが、判断理由は「半数以上の取締役は免震ゴム事業に関与していない」「免震ゴムに関与した取締役については、現在大阪府警による捜査対象とされているために、聞き取り調査ができない状況にある」とのことだそうです(なお、このブログを書いている段階で、株主宛ての不提訴理由通知書の全文は確認していないので、あくまでも報道レベルでの情報です)。

私個人の考え方としては、この「不提訴理由通知制度」というのは、監査役さんにとっては有事対応の一種だと思いまして、かなりリーガルリスクを伴う職務だと考えています(もちろん損害発生との因果関係等、責任認定にあたっては別個の法的判断も必要としますが)。したがって、本来は不提訴とした理由は、開示されることを前提に慎重な判断が求められるはずです。しかし、現実の運用をみておりますと、「どんな理由を出そうが提訴しない、という判断であれば株主代表訴訟は提起されるんだから、株主に有利になるような証拠の存在や事実認定を示す必要はないのでは。」といったかなり軽い認識を監査役の方々がお持ちのように見受けられます。

このたびの東洋ゴム工業さんの件でも、果たして「府警の捜査が続いているので責任判定の根拠となるヒアリングができなかった。そもそも多くの取締役は免震ゴム事業に関与していなかった」ということが不提訴の理由になるのかどうか、という点はなかなか微妙なところではないでしょうか。おそらく株主の方は(免震ゴム関連業務に)関与していない取締役さんが存在することを前提に、取締役の監視義務違反や内部統制構築(運用)義務違反を指摘しているはずです。また、たとえ府警の捜査が続いていたとしても、免震ゴム偽装の件は社外の特別調査チームによる報告書が公開されており、そういった資料に基づいて責任判定を行うこともあり得ますし、刑事事件の根拠とは異なる民事事件の根拠事実に限ってヒアリングを行うことも考えられます。正確には「不提訴理由通知書」の中身を確認しなければ申し上げられませんが、おそらく一般の株主の感覚としては「監査役としては職務を放棄したのではないか」との認識を抱いたのではないでしょうか。

このような不提訴理由通知が監査役としての任務懈怠に該当するのかどうかは別として、監査役が会社側の利益に立って、株主への実質的な情報提供を尽くさず、また一般の株主の側でも「監査役による提訴判断は何の役にも立たない」という意見が一般化している現状では、この監査役による不提訴理由判断(理由通知制度)は法改正の必要性が高いのではないでしょうか(そもそも平成18年会社法改正の際、この不提訴理由通知の制度趣旨が国会審議によって少し変わったという経緯もあるのですが、そのあたりは触れないことにします)。

ここ20年ほど、株主代表訴訟の提訴件数はほぼ横ばいであり、裁判所も担保供与を認めている事案がないので、それほど濫用事例は見当たらないように思います。したがって株主代表訴訟の原告適格を少数株主化したり(現在は一株株主でも可能)、訴訟委員会制度を活用するというところまでの法改正は必要ではないと思いますが、せめて監査役による不提訴理由通知の「判断理由」を(法または政令により)類型化して、株主が真に提訴の有無を判断できるような体制に整備すべきではないでしょうか。せっかく社外役員が増えているのですから、社外役員で構成される委員会が判断する、ということも考えられます(その上で、提訴理由が示されたにもかかわらず株主が提訴するのであれば、たとえば担保提供をある程度柔軟に裁判所が認めたり、訴訟の早期の段階で悪意認定を行う、といった運用を検討してみてはどうでしょうか)。

上場会社に社外取締役の数が急増している中で、あまり株主代表訴訟が認められやすくなることは政府の成長戦略と逆行することになりそうですが、そのあたりは監査役による不提訴判断理由をできるだけ柔軟に広げて、ある程度は監査役さん方もリーガルリスクを共有することを前提に運用すべきです。そのほうが「公益の番人としての監査役」にふさわしい職務が期待できるように思う次第です。

7月 27, 2016 監査法人の法的責任論(粉飾決算) | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年7月25日 (月)

日本版司法取引が企業実務に及ぼす影響について

本日のNHKスペシャル「ロッキード事件の真相」は新証拠(スクープ)もあり、私ほどの年齢の者には興味深いものでした。当時の特捜部検事でいらっしゃった堀田さん、松田さん、宗像さん、松尾さんも登場され、また児玉誉士夫氏に近い方も実名で登場されました。どんなに情報化社会が進展したとしても、ホンモノの「国家機密」というものは闇の中であり、その国家機密の社会的影響力が薄れた頃に、またひっそりと社会に顔を出す・・・というものなのでしょうね。ロッキード事件といえば、コーチャン氏の嘱託尋問調書の証拠能力を最高裁は否定しましたが、今年の改正刑事訴訟法で新設された刑事免責制度が日本の刑事訴訟法に存在していれば事件はどんな展開になっていたでしょうか。

さて、平成28年改正刑事訴訟法の論点はいくつかありますが、企業実務に影響を及ぼす改正項目といえば、なんといっても日本版司法取引(証拠収集等への協力における合意及び協議制度)です(2018年6月までに施行が予定されています)。旬刊商事法務の最新号にも実務家の方の論文が公表されましたが、多くの法律雑誌も一斉に特集記事を組まれるようで、私のような者にも複数の出版社から座談会出席のオファーをいただきました。結局、最初にオファーをいただいたY社さんの特集記事の座談会に出席させていただくことになりまして、先週、佐伯先生、川出先生(東大の刑法、刑事訴訟法の教授)、木目田先生(西村あさひ法律事務所弁護士)との収録を終えました。実に楽しい収録で、1時間半の予定が2時間になってしまいました。

27916354_1正直に申し上げて、私は改正刑訴法についてはそれほど精通している者ではございませんので、不祥事に対する企業対応(危機対応)や公益通報者保護法改正問題などを中心に発言したのですが、それでも改正刑事訴訟法に関する論点について佐伯先生(司会)から質問が飛んできましたので、とりあえず(?)準備しておいてよかった・・・と安堵いたしました。その準備にあたり、左にご紹介している新刊「日本版司法取引と企業対応」は、とても役に立ちました。おそらく企業実務担当者や経営者の方々にとって、日本版司法取引を理解するには最良の一冊ではないかと思い、ご紹介する次第です。

日本版司法取引と企業対応-平成28年改正刑訴法で何がどう変わるのか(平尾覚 著 清文社 2,500円税別)

元東京地検特捜部検事でいらっしゃる平尾弁護士(私の知人と共著で こちらの本を出版された先生ですね。そういえば先週、日経新聞でもご意見を述べておられましたね)によるもので、刑事訴訟法の改正項目(日本版司法取引部分)の解説にとどまらず、今後企業実務で想定される事態を具体例をもとに検討するというところが特筆すべき点です。改正刑訴法で導入された司法取引制度は(アメリカで多くみられるような)自己負罪型の司法取引ではなく、あくまでも他人の刑事事件に対する捜査協力型の司法取引制度です。そこで、企業自身も経済犯罪で処罰の対象となることを前提として(言葉は少し悪いですが)企業が社員を売る、社員が企業を売る、社員が仲間の社員を売る、といった事態が当然に予想されます。著者の方がかなり想像力を膨らませて企業実務の上で起こりそうな悩ましい場面を想定しておられるのはとても参考になります。海外不正事件に対する米国の司法取引との対比、独禁法上のリニエンシー制度との対比なども示されており、座談会でも話題になりましたが「活用次第では自己負罪型司法取引」としての運用も可能ではないか、といったことにも言及されています。

20151207g813さて、平尾先生のご著書は元検察官の視点も交えて「すでに出来上がった法律への現実的対応」というところに焦点をあてた本ですが、そもそも日本版司法取引にはどのような法律上の問題点があるのか、というところも法律家の皆様には興味があるのではないでしょうか。また、私自身、弁護士倫理という観点からも「これはたいへんな制度だぞ」といったことを当ブログでも述べさせていただきました(こちらのエントリーを参考にしてください)。そこで、日本版司法取引に刑事弁護の視点から批判的な立場で書かれた本を理解することは、司法取引に関与する弁護人の立場からすると、大きな武器になるのではないかと思いまして、私は座談会出席にあたり、左の本も準備の参考にさせていただきました。

日本版「司法取引」を問う(白取祐司・今村核・泉澤章 編著 旬報社 1.500円税別)

いわゆる刑事訴訟法改正の「焼け太り」現象に警鐘を鳴らす一冊です。もともと刑事司法改革は(郵便不正事件のような)冤罪を防止するために、「取調べの可視化」に代表されるような刑訴法改正が目的だったはずです。ところが蓋を開けてみると、組織的犯罪を中心とした実態解明への要請から司法取引が導入され、検察は大きな武器を獲得してことになり、これが新たな冤罪の温床になるのでは、と危惧されるようになりました。このあたりは日弁連でもかなり議論されてきましたが、それほど強い反対が出なかったところ、刑事裁判実務に詳しい学者・弁護士の方々が本書を出版されました。一般の皆様にもわかりやすい平易な文書で書かれていますので、法律的知識がそれほどなくても読みやすい一冊です。被疑者・被告人はなぜ自白するのか・・・、という刑事捜査実務の現実を見据えますと、ホワイトカラーの方々が会社犯罪で身柄を拘束されると容易に検察官に迎合するおそれがあることがわかります。そのような現実のもとで、この司法取引制度を適切に運用するためには、検察官も刑事弁護人も、そして供述の信用性を見極める裁判官も、かなりプレッシャーのかかる状況で合意内容書面を取り扱う必要性が実感できます。

日本版司法取引の実効性次第では、政令によって広い範囲の犯罪に活用されるようになるかもしれませんし、さらに自己負罪型司法取引の導入も検討されるかもしれません。民法(債権法)改正に向けた企業実務対応も重要ですが、企業コンプライアンスの視点からは、この刑事訴訟法改正に向けた対応にも注意が必要です。我々法律実務家も、新たな職業倫理上の課題を突き付けられたものとして、企業に対して「弁護人選任のプロセス」を十分説明しておく必要があると考えます。

7月 25, 2016 刑事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月21日 (木)

金融庁も検察も国民を敵に回すべきではない(東芝元経営者立件騒動)

東芝不正会計は違法・・・、金融庁が公式見解を発表しようとしましたが、検察との意見相違が報じられるなかで、同庁は急きょ、発表を中止したそうです(経緯を詳細に報じる産経新聞ニュースはこちらです)。すでにご承知のとおり、東芝会計不正事件について、元経営トップの3名の訴追を要望する金融庁と、証拠上立件は困難として訴追を見送る検察庁との対立が話題になっています。東芝事件の元経営トップの立件について、検察と証券取引等監視委員会(特別調査課)との間で温度差があることは、実はかなり前から(風の噂で?)私は聞き及んでおりました。

先日のエントリー「企業不正に立ちはだかる司法の壁と行政当局の対応」でも述べましたが、昨日(7月19日)の朝日「法と経済のジャーナル」(有償版)の詳しい記事を読むと、やはり長銀事件最高裁判決(無罪判決)の射程範囲をどう考えるか、という点が金融庁と検察との対立の一因のようです。今回の東芝事件における経営トップの訴追において、果たして長銀事件最高裁判決が先例となりうるかどうかは、たとえば中央ロー・ジャーナル最新号(第12巻4号)の金築誠志先生(何度も当ブログで述べましたが、私が最も尊敬する元最高裁判事の方です)によるご論稿「判例について」を読むと参考になるのではないでしょうか(もちろん、これは法律専門家向けのお話ですが、金築論文は裁判実務的にたいへん有益な論稿でして必読ではないかと)。

ところで「なぜ金融庁は公式見解の発表をとりやめたのか?」という点ですが、検察庁からクレームがあったということよりも、(告発があった場合に)検察審査会の職務の独立性(検察審査会法3条)を侵害するおそれがあったからではないかと勝手に推測しています。社会的に話題となった事件において、司法改革の一環として導入された検察審査会の起訴議決が活用されるケースが増えています。もし、後日検察審査会が開催されるような事態となり、行政当局が「これは違法である」と公式に意見表明をしてしまいますと、検察審査会もこの意見に影響を受けてしまうことになりそうです。しかし、これは(国民の素直な処罰感情を訴追に反映させるという)審査会の機能を不全に至らしめ、国民の利益を侵害するおそれがあります。

そしてもうひとつ考えられる理由は、平成30年6月までに施行される「日本版司法取引」への対応です。今回の東芝会計不正事件は、経済犯罪に対する平成28年改正刑事訴訟法上の司法取引(刑事訴訟法350条の2以下)の典型的な活用場面です。東芝事件では、「公正なる会計慣行の逸脱」という論点だけでなく、不正会計の実行者とその指示者が別であり、故意の立件に困難が伴うことが予想されます。粉飾の共犯者(トップから指示を受けた者)に捜査・公判への協力と引き換えに訴追免除する約束をとりつけて経営トップの認識を裏付ける供述を引き出すというものですね。

なお、金融庁職員(特別調査官)は強制捜査の権限は有していても、「司法警察員」ではないので司法取引を行う権限はありません。あくまでも金融庁から告発を受けた検察の権限です。したがって、今後同様の事案を立件するにあたり、金融庁は検察による司法取引の権限をどうしても活用したいところです。したがって金融庁と検察は、これからさらに信頼関係を密に保持することが必要です。場末の弁護士の勝手な邪推にすぎませんので、「話半分」くらいにお聴きいただければ結構ですが、こういった理由がホンネの部分だったりするのではないかと。

7月 21, 2016 刑事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月19日 (火)

モノ作りの誠実性を示した神鋼子会社JIS規格偽装事件

IOTに必須の半導体であろうと、日常生活を支える農作物であろうと、モノを作る商売には誠実性が必要だと思いますし、その姿勢は消費者にも理解されるものだと確信するところです。このところ、技術部門における性能偽装やデータ偽装に関する企業不祥事がしばしば報道されていますが、6月初めに発覚した神鋼子会社である神鋼鋼線ステンレスさんのJIS規格強度偽装事件も、同様の深刻な不祥事ではないかと考えます。ステンレス社では15年ほど前から歴代4人の工場長のもとで、JIS規格を下回る品質のバネが販売されていたそうで、同社はJIS取消しとなり、7月下旬をめどに親会社が第三者調査の結果を報告するそうです。

本件はあまり大きく報じられることもなく、親会社である神戸製鋼所さんの株主総会でも紛糾するような事案ではなかったようですが、不祥事を見抜いたご本人(新任工場長)が親会社副社長らとともに謝罪会見に出席するという異例の事態となり、私的にはとても関心がありました。とくに7月11日付けの日経ビジネス(WEB)のこちらの記事(不正の現場を誌上で再現、あなたは見抜けるか?)は、神鋼子会社さんで、なぜこのような不祥事が発生したのか、またどのように新しい工場長が見抜いたのか、詳しく解説されていて、リスクマネジメントの視点からとても参考になるのではないかと思います。

ただ、私の一番の関心は(関係者の方々にはたいへん失礼であることを承知の上で申し上げますが)、この新しい工場長さんは、どうしてこの規格偽装を親会社に報告する気になったのだろうか?という点です。「どうやって見抜いたのか」と言う点よりも、「どうして不正を申告する気になったのか」という点にとても興味が湧きます。従業員数も非常に少ない子会社の不正、しかも典型的なグループガバナンスの不全が問題視される事例ということで、公表すれば天下の神戸製鋼の信用にも傷がつくことは容易に予想がつきます。このような場面において、当の新工場長さんが不正の報告を行うにはとても勇気が必要だったのではないかと。

なんといっても歴代の4人の工場長さんに対するヒアリングの結果として、15年間も不正が続いていたことが判明しているのですから、新たに赴任した工場長さんとしては赴任先の社員との信頼関係を形成するためにも「過去の事例についてだけは見て見ぬふりをする」という選択肢はなかったのでしょうか(「ほんのわずかの強度不足」だったことが判明しています)。申告すればステンレス社はJISを取消され、商売に多大な影響が及ぶことは当然に予想されたところかと思います。それとも(これも失礼ながら穿った見方をすれば)「こんな不正事件を自分の責任にされたんじゃたまらん」ということで、自身の責任回避の目的から早々に不正報告に至ったのでしょうか(これは公務員組織などの不正報告の動機としては時々語られるところですが・・・)。

ここからは私の推測にすぎませんが、あの謝罪会見に(不正を見抜き、親会社に報告をした)新工場長さんが出席したということは、社内・社外に向けての神鋼さんのメッセージだったのではないでしょうか。売上でいえばグループ全体の1%にも満たないほどの規模の子会社不正であったとしても、モノ作り企業としては絶対に許せない不正であり、これを申告することは称賛に値する姿勢であるということを、とりわけグループ全体に示したのではないかと勝手に推測いたします。

たしかに神戸製鋼さんといえば、あの有名な総会屋事件に対する株主代表訴訟があり、また2008年にも関連子会社における不正事件があり、さらに本事件をきっかけとして、他の子会社でも規格外製品を原子力発言所で使用させてしまったという事件が発覚し、コンプライアンス意識の欠如を指摘されてもやむをえないところがあります。しかしモノ作りに対する誠実性を社内・社外に示すには、やはり間違ったことはきちんと調査をして公表するという姿勢が求められます。とりわけグループガバナンスにとって大切なことは徹底した監視よりも目的意識を現場でいかに共有するか、という点ではないでしょうか。そこでは不正防止よりも、不正発生時の適切な対応こそ、意識向上には不可欠です。親会社の技術担当者だった方が子会社に出向され、そこで親会社の意識を根付かせるためには、たとえこれまでの工場長だった方々が「見て見ぬふりをしていた」としても、このような毅然とした態度が最も効果的ではないかと。「これが当社グループとしての『普通』だ」と言える社員が増えることが、企業風土の健全化をもたらす要因になるものと考えます。

あまり社会的には話題になっていない事件ですが、7月下旬に報告される社外調査委員会による事実認定や原因分析、再発防止策の提言などを注目してみたいと思います。

7月 19, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年7月14日 (木)

監査等委員会設置会社の指名報酬委員会は経営者支配の隠れ蓑か?

コーポレートガバナンス・コードへの対応として、最近は(上場会社が)監査役会設置会社、監査等委員会設置会社において「任意の」指名委員会、報酬委員会を設置するケースが多いですね。5月18日の日経朝刊では475社の上場会社がこのような任意の委員会を設置していると日経新聞で報じられていました(現在は500社を超えているかもしれませんね)。最近の社内のゴタゴタ劇において、こういった任意の委員会が活用された事例も見受けられますし、セコムさんのように、委員会の透明性・公正性に疑問が投げかけられた例もありました。このような事例が増えているためか経産省の研究会では任意の指名報酬委員会の運営指針のようなものも検討されるそうです。

以前、私は新聞の取材に「監査等委員会設置会社に任意の指名委員会を設置することはあまり好ましくないのでは」とコメントしたことがあります。この考え方に対しては、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行に反対する機関投資家の方々は(たとえばRMBキャピタルさんのこちらのリリース等)「監査等委員会設置会社に移行するのであれば、過半数を独立社外取締役で構成される指名報酬委員会を設置することを条件だ」として、任意の委員会設置を好意的に受け止められておられることも事実です。

昨夜(7月12日)、比較的大きな上場会社の現役の取締役監査等委員の方と夕食をご一緒させていただきました。その方は、機関である監査等委員会の「監査等職務」についてもよく理解をされていて、指名委員会等設置会社の監査委員会以上に、経営面での重要な役割を果たさねばならないことを自覚しておられました。そして、その方は経営執行部が任意で指名委員会を設置する企画に強く反対されていました。社外取締役で監査等委員会の全員が、任意で設置される指名委員会の委員を兼務するように設計されているそうです。

CEOも指名委員会の委員として出席するところに監査等委員である独立社外取締役全員が含まれているということは、おそらくCEOの意向を中心にして議論が進むことは当然であり、そこで出てきた結論に対して監査等委員会としては「過半数を占める」社外取締役が指名委員会の意向に反する意見は出せないだろう、つまり監査等委員会の権限を骨抜きにするためには、任意で指名委員会を設置して、そこに社外取締役を押し込んでしまうことが一番良い方法ではないか、と考えられます。通常、指名委員会は取締役会の諮問機関であって、監査等委員会の諮問機関ではないと思われますので、任意の指名委員会の意見と監査等委員会による人事に関する形成意見との優先順位が明確ではなく、また双方に独立社外取締役が関与するとなると監査等委員の方々は監査等職務をどのように尽くせばよいのかよくわからなくなりそうです。

ひょっとすると、CEOは監査等委員会の負担を極力軽くするために任意の指名委員会を設置する、ということなのかもしれません。しかしながら、社内取締役の人事や個別報酬についての妥当性をきちんと判断するために監査等委員会を活用しようと考えている常勤の取締役監査等委員にとってみれば、実質的には監査等委員会の最大の権限である「監査等職務」を形骸化させることになる、と危惧することは間違いないところでして、やり方次第では、取締役監査等委員の皆様にとっては「会社法違反」として善管注意義務違反になる可能性も否定できないのではないでしょうか。

クックパッド社では、創業者と現経営者との間の内紛によって指名委員会の決定が事実上無視されたような結果となりました。当時の同社監査委員である社外取締役さんが、本件について監査報告で厳しく指摘しておられました。決定権限のある指名委員会等設置会社の指名委員会と、意見形成職務しかない(つまり指名権限はない)監査等委員会とでは、たしかに会社法違反とされるレベルに違いがありますが、それでも任意の指名委員会と監査等委員会の関係をきちんと整理せず、実質的に監査等委員会が意見形成職務を怠っているような事態だけは回避しなければならないと思います。

7月 14, 2016 監査等委員会設置会社 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月12日 (火)

企業不正に立ちはだかる司法の壁(限界?)と行政当局の対応

7月8日の日経、朝日等の朝刊において、捜査当局は東芝会計不祥事に関する経営トップの刑事責任追及を見送る公算が強くなった、と報じられていました(朝日の社会面の記事が詳しいようです)。とりわけ朝日新聞の記事で印象的なのは、金融庁(証券取引等監視委員会)はなんとかPC部品取引(バイセル取引)に関して刑事立件をしたかったのですが、地検が慎重な判断を崩さず立件を断念したという内部事情です。

経済的合理性はどうであれ、実際に部品取引の事実は実在していたことや、他社でも同様の取引が行われていたこと等から、利益の水増しが多額ではあるが経営トップ個人の刑事責任は問えないと検察が判断したとのこと。検察では、ちょうど8年前の長銀事件最高裁無罪判決の論旨が今も生き続けているのではないでしょうか。

昨年5月、エディオンさんの営業秘密を取得したとして営業秘密侵害の件(不正競争防止法違反)で書類送検されていた法人としての上新電機さんですが、こちらも大阪地検は秘密取得に上新さんの役員が関与していたことは認められず、また再発防止策も真摯に実施しているとのことで立件を断念したことがマスコミ(産経新聞)で報じられていました。最近の企業不祥事は、経営者のプレッシャーに耐えかねて現場責任者(担当部署)が不正に走ってしまったことが発端とされるケースが目立ちます。本当にそうなのか、経営トップの不正指示や不正容認が立証できないにすぎないのかは不明ですが、いずれにしましても組織のトップの不正関与を立件することには厚い司法の壁が横たわっていることは間違いありません。

このような事態に対して、今後は検察も平成28年改正刑事訴訟法における司法取引制度(合意制度)、刑事免責制度などを活用して「経営トップの関与」に切り込むことが予想されますが、その適用範囲はかなり限定されていますし、刑事裁判官が司法取引(合意)による供述(録取書)にどのような心証を得るのかは未知数です。そこで、金融庁や経産省等、企業規制を担う行政当局からは、「司法判断はあまりにも遅くて成長戦略の遂行のための規範としては使いにくい」「裁判例はとてもわかりにくくて、経済活動における予測可能性を判断するためには役に立たない」といった声も聞こえてきます。

私は法律家の視点から、経営者が(善管注意義務違反を含めた)不正リスクを低減させるためには、司法判断を尊重した上での「健全なリスクテイク」が必要だと考えています。先日のジュピターテレコム事件最高裁決定(7月1日第一小法廷)のように、取締役の重要な経営判断時における予測可能性に最大限配慮する姿勢が司法判断に出てきたり、事実上法務省管轄で行われている会社法改正審議(会社法研究会での審議)で濫用防止のための株主権制限等を法文化して事業の効率性に資する会社法を検討する等、司法の世界も一定の努力をしています。

しかしながら、どうも世間の認識とはズレがあるように感じます。コーポレートガバナンス・コードも、いわば取締役の善管注意義務違反の有無を予測するためのモノサシとしての役割が期待されていますし(コード案の「考え方」参照)、平成26年の金商法改正の際に、金融庁から提案された「(法人の有価証券報告書虚偽記載賠償責任の過失責任化に伴う)過失の客観化」についても今後「民間エンフォースメント」として検討されることが予想されます。

経産省の研究会における会社法解釈指針の策定やモデル事例の紹介も、できるかぎり裁判所の法的判断を認識可能なものにしたい意向があるように感じます。また独禁法違反や不正競争防止法違反の規制については民々による紛争解決を活用する姿勢が顕著にみられるようになりました(たとえばエディオンさんは、法人としての上新電機さんに対して、今年5月、営業秘密侵害による損害賠償請求訴訟を提起しています)。これも民間エンフォースメントの活用です。企業に求められている不正リスクの低減化は、シロクロをつけることを民間活力に担わせることと同時に、行政規制や自主ルールの権威を高めて、(他の会社に妥当するかどうかは二の次で)自社の事業遂行に必要な範囲でのグレーゾーンを排除することに求められているようです。

会社法や金商法、不正競争防止法等、それぞれ所轄する各省庁の足並みが揃うのかどうかはわかりませんが、アベノミクスの成長戦略を推進するための企業規制の流れは止まらないものと思います。法律以外のエンフォースメントを多用して、各省庁が「あるべき企業規制」を模索する中で、各企業はどのように不正リスクを低減させて社会的信用を維持、向上させていくべきか検討することが急務だと考えます(この点につきまして、私なりの腹案は持っておりますが、それはまた別の機会に述べたいと思います)。

7月 12, 2016 グレーゾーン再考 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年7月11日 (月)

点検 ガバナンス大改革 年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値

9784532320935参議院選挙も終わり、アベノミクスの更なる施策が打ち出されることになりそうでして、成長戦略としてのガバナンス改革もスピードアップして推進されることが予想されるところです。

果たして「攻めのガバナンス」の施策が形だけで終わってしまうのか、それとも実質を伴ったものとして各企業に浸透して企業価値向上に結び付くのか、現時点までのガバナンス改革を検証しようと試みた一冊が本書(左写真)です。先週頃から書店に並ぶようになりました(追記 7月11日の日経朝刊一面 にも広告が出ています)。

点検 ガバナンス大改革 (R&I 格付投資情報センター編集部 編 日本経済新聞出版社 2,300円税別)

年金・機関投資家が問う日本の企業価値という副題が付されていますが、R&I格付投資情報センター編集部の方々のほか、機関投資家、経済学者、企業IR・SR担当者、シンクタンク研究者、法律家等により執筆されたものでして、私も第1章を担当させていただきました。野村総研の堀江貞之さんも執筆されていますので、こちらのNRIさんのご紹介内容が参考になります。私はガバナンス改革の理想と現実ということで、かなり現状に対して厳しめの意見を書かせていただきました。ホンネで書きましたので、内容的にはかなり面白いのではないかと。

弁護士25年目のある方が「社外取締役奮闘記」の中で経営判断原則とコーポレートガバナンス・コードとの関係などにも触れている点なども私的には興味深いところです(この弁護士の方は、ちなみに私ではございません)。オムロンさんのガバナンスといえば、同社の社外取締役である冨山和彦さんの論稿等がよく紹介されますが、本書では同社のコーポレートコミュニケーション本部長さんの視点から「ガバナンスを機能させるため」の方策が記載されているのも新鮮です。

ガバナンス改革において「機関投資家」と一口にいいますが、本書を読むと、機関投資家にも様々な立場があり、株主総会の環境整備や株主との建設的な対話などの問題にも、それぞれの立場によって微妙に考え方が異なることがわかります。単純にガバナンス改革を点検するだけでなく、今後企業価値向上に結び付けるための処方箋も示されているので、私自身も今後の参考にさせていただきたいと思います。

ちなみにR&Iさんは、6年ほど前のAIJ事件で、誰よりも早く「AIJはおかしな運用をしている」と同社「年金情報」で意見を述べた「骨のある」団体です(実際には金融庁が処分を行うまでは同誌での指摘はほとんど取り上げられなかったのですが)。ガバナンス改革の方向性に異論をはさむ人がほとんどいない今日、そのR&Iさんを中心として「このままでガバナンス改革は本当に企業価値向上に役立つのだろうか」といった問題意識を世に問う(警鐘を鳴らす)ことには十分な意味があるのではないでしょうか。私自身もいろいろと問題点を指摘しておりますので、(ここのところ本のご紹介ばかりで恐縮ですが)ぜひご一読いただけますと幸いです。

 

 

 

7月 11, 2016 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月 7日 (木)

よみがえる旧商法(月刊「企業会計」の特集記事のご紹介)

Dsc_0001今朝(7月6日)の日経新聞の広告にも掲載されておりました中央経済社「月刊企業会計」8月号では、「蘇る旧商法-会社法世代のためのコーポレートガバナンスの歴史」と題する特集が組まれております。今日、ガバナンス改革の中で主たる課題とされているテーマについてはそれぞれ企業社会に浸透してきた歴史がある、この歴史を見つめ直すことを通して、ガバナンス改革における「実質を伴うガバナンス改革」の方向性を検討しよう、といった趣旨で組まれた特集です。

月刊企業会計最新号(8月号)

表紙のとおり、私も「内部統制」に関するテーマで論稿を執筆させていただきました。大和銀行株主代表訴訟、神戸製鋼所株主代表訴訟の二つの裁判を取り上げて、内部統制というテーマが(法律の世界で)議論されるに至った経緯を、当時の(経済界が苦慮していた株主代表訴訟への対応等)時代背景とともに振り返る内容です。後半は内部統制を法的責任論として語るにあたっての今後の課題について個人的な意見を記しております。当月刊誌の主たる読者層である経理実務担当者、会計専門職の方々だけでなく、法律実務関係者の方々にもお勧めする一冊です。

各テーマをご覧いただければおわかりのとおり、いずれも近時の会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの実効性審議の中で熱く語られている事項に関連しているところでありまして、(少なくとも私以外のご論稿は)ご執筆者の個人的な見解も盛り込まれていて読み応え十分です。個人的には、自分が一番「ガバナンスの歴史との関連性を知らなかった」という意味で勉強になったのが会計監査人制度とストック・オプション制度でした。

今回の原稿執筆にあたって、弁護士会の図書館等で平成10年から13年ころの新聞記事や法律雑誌等を読み漁りましたが、「内部統制システム」という言葉が裁判所の判断で初めて出てくるのは大和銀行株主代表訴訟・・・・・ではなかったのですね。そのあたりの事情は、内部統制システムという概念が、当時の株主代表訴訟制度の法改正および法解釈の紆余曲折の中で登場してきた背景事情からわかります(意見の異なる法律家や企業実務家の中で、喜びととまどいをもって議論が進められていた点はおもしろいですね)。

大和銀行事件判決の伏線となる野村證券株主代表訴訟事件判決は、大杉謙一先生が「経営判断原則」のところで詳しく紹介しておられます。また、大和銀行事件判決の後の商法特例法における委員会等設置会社(当時)の議論については(毎度のことながら興味深い論点提示で)中村直人弁護士が執筆されています。さらに神戸製鋼所事件の裁判で有名な「和解における裁判所所見」が出された背景には、牛島信弁護士が執筆されている株主総会対策への社会的な要請があったこともわかります(当時の新聞記事を読むのもたいへん有益でした)。次の会社法改正の論点として「株主代表訴訟の在り方、濫用防止のための訴訟委員会制度の見直し?」といったあたりが熱く語られようとしている昨今、かつての株主代表訴訟の在り方を巡る熱い議論がなされていた時代に焦点を当てることにも意味がありそうです。

平成18年改正会社法に慣れ親しんでいる私たちにとって、「目からうろこ」のお話がたくさん登場するところでして、現在のガバナンス改革を少し異なる視点から考えるうえでは有用な一冊ではないかと思います。ご興味がございましたら、ぜひともご一読いただければ幸いです(ちなみに「企業会計」は全国書店にて発売しております)。

7月 7, 2016 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月 5日 (火)

東芝MS争奪戦に勝利したキヤノン社の「灰色買収」を考える

東芝の優良子会社である東芝メディカルシステムズさんの株式取得を巡り、キヤノンさんと富士フイルムさんが争奪戦を繰り広げた事例は(私自身独占禁止法の法的論点から解説できるほどの知見はございませんが)、やはり経済法コンプライアンスの視点からはどうしても取り上げたい事例です。

ご承知のとおり、キヤノンさんが公正取引委員会に対する事前届出義務を潜脱するスキームを用いて東芝メディカルシステムズさんを買収したことが話題になっています(詳細経緯は東洋経済さんの記事が参考になります)。公正取引委員会が異例の発表で(SPCと種類株式を活用したキヤノンさんのスキームは)「ブラックではないがグレー。今後、このような手法を採用するのであれば事前に相談してもらわないと刑事告訴も検討する」と述べておられますので、まさに「灰色買収」といってもよいと思います。ちなみに「灰色」といわれているのは審査手続きに関する点でして、買収が実質的に競争を制限するほどのことではない、という実体に関する点ではございません。

しかし、富士フイルムさんが「なぜ今回は灰色で、次回からは黒なのか、公正取引委員会に説明を求めたい。このようなアンフェアなことがまかりとおるようでは経済法が形骸化してしまう」とコメントされているように、私も素直に疑問を感じます。今後同様のケースがあれば違法と認定するということは、なぜ今回は違法とは認定しなかったのでしょうか。6月30日付けの公取委リリースを読んでもよくわかりません。平成21年独禁法改正で、株式取得による買収について、それまでの事後報告制から事前届出制に移行しましたので、そんなにテキトーで良いというわけでもありません。

東洋経済さんの上記記事では、活用されたSPCとキヤノンさんとの親子関係が認定できなかったから、とのことですが、その理由は「今回は灰色だが次回からは違法」との結論とはつながりません。私的独占は不公正取引の温床になることから規制されるのだといわれていますが、被害者による民事救済で適法性が担保されない以上、公取委の審査手続きの公正性はかなり厳格に考えるべきではないかと。そういった意味では「灰色」なのは、むしろ公取委の判断ではないかとも思えます。

東芝さんもキヤノンさんも「東芝の債務超過を免れる目的でやった」と弁明されているようですが、これも検察への告発義務を負う公取委が判断する理由にはならないのではないでしょうか。可罰的違法性の有無を論じるのは検察庁だと思います。いずれにしましても、キヤノン側にも、富士フイルム側にも(おそらく)リーガルアドバイザーとして大手の法律事務所が支援されていると思いますので、公取委もいろいろとプレッシャーがかかる中での判断だったことが推測されます(富士フイルム側は、3月中旬から公取委に対して質問状を提出していたそうです)。

ウルトラC(?)で東芝の優良子会社さんを手に入れたキヤノンさんですが、さて、今回の争奪戦への勝利は諸手を挙げて喜んでおられるものでしょうか(もちろん、まだ海外での審査は終了しておりませんので、完全に勝利したとはいえませんが)?独占交渉権を取得した大きな要因だと思われますので、企業倫理という視点からは議論の余地がありそうです。公取や相手方から「グレー」といわれた取引で勝ち取ったことわけですが、これって多くのビジネスパーソンからみたら、「違法ではない以上、独占交渉権を握ったことは賞賛すべきであり、なんら批判されるいわれはない」とみる方もいらっしゃるでしょうし、また「こんなアンフェアな取引をやる会社だということが従業員に浸透したことは大きな問題だ」と考える方もいらっしゃると思います。

当ブログをお読みの皆様はいかがでしょうか。経済法にお詳しい方にいろいろとご教示いただけますと幸いです。EU離脱問題やダッカでの襲撃事件等、キビシイ話題の中に埋もれてしまいましたが、この事例はコンプライアンス経営の視点から、もっと議論されてもいいように思いました。

7月 5, 2016 経済法 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年6月30日 (木)

出光興産VS創業家-創業家の反対表明は当然ではないのか?

(30日午後 追記あり)

出光興産の創業者一族の方々が、昭和シェル石油さんとの合併に反対表明をされたことが話題になっています。28日の出光さんの定時株主総会ではすべての議案が可決されましたが、創業家の資産管理会社の代表者が議案質問の際に、合併反対表明をされたそうです(マスコミでは「代理人弁護士」とありますが、代理人ではなく「弁護士資格を有する社長さん」ですね。そうでないと創業家側のストーリーが立たないです)。29日の毎日新聞夕刊では「会社側が創業家の株式保有比率を低下させるために第三者割当増資を検討」と報じたため、会社側が(慌てて?)「そんなことは一切検討しておりません!」と適時開示を出しています。

法律上の「主要目的ルール」に関する議論等はさておいて、私は創業家の株式比率を下げるために第三者増資を検討することは、いくら会社側の要望が強いとしてもタブー(禁じ手)だと思います(そんなことをすると全国のオーナー企業さんを敵に回すことになりかねません)。どうせやるなら(?)オモテ沙汰にならないように、巧く創業家を崩すことを検討すべきです。大塚家具さんやロッテさんではありませんが創業家一族だって一枚岩ではないかもしれません。また出光さんの株を保有する公益財団法人について、創業家の税務対策として活用しているのかどうか不明ですが、公益財団法人の評議員や理事と創業家との属人的な関係、同法人の資産である議決権行使に契約上の制限が課されていないかどうか、といったところも問題になるかもしれません(ちなみに出光興産さんの定款をみると、種類株式は発行されていないようですね)。

日経新聞の論調は、2010年2月のキリンとサントリーの統合撤回のときとまったく同じ状況で、業界におけるシナジー効果が失われることへの懸念が示されています。しかし、私の個人的な意見としては、あのキリン・サントリー統合撤回のときに、当ブログのエントリーで(恥ずかしい経験談と共に)述べたのと同じく、創業家側の対応には共感いたします。勝ち負けのハッキリしていない上場会社の国策的統合は失敗する確率は極めて高いと思いますし、成功するとしてもそれは才覚や能力ではなく「神風(運)」に依拠するものと考えます(対立する中東の国と親密な関係にある2社に神風は吹くのでしょうか)。

時代の要請によって変容はしていますが「大家族主義」を貫いてここまで経営をされてきた出光さんは、「ここぞ」というときに創業家が経営に口を出すのがむしろ当然のことではないでしょうか。私の経験上、経営者にモノが言えない従業員に代わってモノを言う(言わねばならない)のが創業家です。「創業家の乱」などと見出しが躍っていますが、これも株主主権主義ではなく、労働者主権主義を重視した普通のコーポレートガバナンスの在り方のひとつだと考えます。企業風土が変わればビジネスの種を伸ばす土壌(ガバナンス)の在り方も変わるのがむしろ当然だと思います。

労働組合を作らない(会社は従業員の生活を保証するものであり、解雇もせず、給与は労働の対価ではない、との)出光さんの企業風土が、他の会社の風土と合うかどうか、それを最も判断できるのは(100年以上、この会社を経営してきた)創業家一族ではないでしょうか。そもそも創業者(佐一氏)が「財産と経営を一致させてこそ、会社は社会の公器としての責任を全うできる。株式会社など、いかがわしいものである。税務上しかたなく株式会社形態を採用しているにすぎない」と公言しておられた企業なので、その精神的支柱はいまも創業家にあると思います。創業家の支配力が単純に持株数だけではわからないということは、先日の大手流通グループさんやセコムさんの件でも明らかではないでしょうか。

(30日午後 追記)臨時報告書によると、28日の出光興産定時株主総会において、社長に対する取締役選任議案の賛成率は53%だったそうです。創業家側の保有比率を34%とみても、多くの株主が合併に反対していることがうかがわれます。創業家の精神的支柱、100年企業の社風というバランスシートに乗らない「無形資産」の持ち分保有者の声は大きいなぁと感じます。

6月 30, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (9) | トラックバック (0)