2017年12月14日 (木)

地面師詐欺事件と売主側に関与した専門家の法的責任-最高裁の判断下る

積水ハウスさん、アパホテルさんの事件報道をもとに、このところずっと注目しておりました地面師詐欺における専門家責任(弁護士過誤)に関する裁判についてのご報告です。こちらの経済系ジャーナル記事でも取り上げられているとおり、本人確認情報を提供した弁護士の法的責任に関する判断が、一審と二審では分かれておりました。一審では本人確認をした弁護士が敗訴したものの、控訴審ではその責任を否定する逆転判決が出されておりました。ちなみに、私が11月に取り上げたエントリーはこちらこちらです。

そして本日(12月13日)、事件関係者の方からご報告いただきましたが、地面師詐欺の被害者(なりすまし本人からの不動産買主)による上告受理申立てを棄却する最高裁決定が12日付けで出されたそうです。新証拠が上告人から提出されていたようですが、やはり私の予想どおり「なりすまし本人」に本人確認情報を提供した弁護士の過失(ミス)は最高裁で否定されたことになります。なお、本件裁判については、訴訟代理人から判例時報社に判決文が持ち込まれているようなので、追って逆転判決となった控訴審判決、そして昨日の最高裁決定が判例時報に掲載されることになるものと思います。

地面師詐欺事件で専門家責任が容易に認められるようになりますと、ゲートキーパーとしての法律専門家としての仕事を誰もやりたがらなくなり、また一部の悪質な法律家の暗躍の場を拡大することになってしまって、地面師詐欺被害を増幅しかねないといった危惧を抱いておりましたので、私個人としては結論には納得しております(なお、本件では真の買主から当該弁護士に対する損害賠償請求訴訟も提起されていますが、こちらは未だ裁判係属中だそうです)。

ただ一方で、これまでのエントリーで述べているように、たとえ売主側に法律専門家の関与があるとしても、とりわけ買主が法人の場合には売主確認に関する内部統制システムを適切に整備・運用する必要があるということが言えそうです。ほしい物件であればあるほど、「相手方が本人であってほしい、いや、本人に違いない」といったバイアスが買主側に働いてしまうので、冷静に売却を決定するためのプロセスをあらかじめ社内ルール化しておく必要がありそうですね。

12月 14, 2017 民事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年12月12日 (火)

取引先社員による内部告発の脅威-大手ゼネコン役員辞職

本日(12月11日)ある会合で、新刊の拙著をお読みになった方から「以前出された本よりも読みやすくなったが、『内部通報』と『内部告発』の区別はわかりにくい。せめて『内部告発』は『外部告発』と表記すべきだ。そうすれば内部通報との区別もイメージしやすい」とのご意見をいただきました。外部第三者への社員による情報提供は「内部告発」という用語が一般的に使われているのですが、一般の方に向けた本であれば、たしかにイメージしやすい表記をすべきだったかもしれませんね(法律上の用語でもないので、今後は検討いたします)。

さて、当ブログの本日の話題はといえば、間違いなく多くのマスコミで取り上げられているこちらの記事になってしまいます(清水建設、執行役員辞職。下請け業者に実家の雪下ろしさせ・・・毎日新聞ニュースより)。最初に報じたのが毎日新聞ニュースでしたが、テレビニュースでは、多くの下請け事業者の社員が清水建設執行役員の方の実家に集まり、雪下ろしではなく「草むしり」をしている映像が映し出されておりました。報道では「マスコミからの照会により社内調査を進め、本件が発覚した」とありますが、テレビニュースには下請業者社員の方が(顔ボカシをして)インタビューに応じておられたので、まちがいなく内部告発(外部告発)でマスコミに情報が提供されたものです。

大手ゼネコンさんの不祥事といえば、偽計業務妨害罪容疑で捜査が進行している談合や賄賂といった事例が思い浮かびますが、(もちろん競争不正という意味ではとても違法性は高いのですが)「会社のためにやった」という意味では、日本人はやや寛容なところがあると思います。しかし「実家の草むしり、雪下ろしを下請け業者にやらせた」というのは私利私欲のための優越的地位の濫用であり、社会的批判はとても強いものとなるはずです。当該下請け業者の資本金が3億円以下なのかどうか不明ですし、ゼネコンさんが法人として利益(役務の提供)を得たわけではないので、下請法違反には該当しないのかもしれません。しかし、この下請け業者さんは福島の除染作業を請け負って100億円もの売上を計上していたそうですから、ゼネコンさんが見返りに業務を委託していたのではないか・・・といった疑惑を持たれてもしかたのない行為です。

本事件に関連するネット掲示板を読んでおりますと「ゼネコンと下請けの関係からすれば、こんなの日常茶飯事だろ」「告発した社員は下請け業者から解雇されるだろうな、余計なことしたんだから」といった書き込みが散見されます。もし、本当に掲示板の書き込みが正当な意見だとすれば、ゼネコンさんの社内調査は(税金が使われている受託事業である以上)かなりスコープを拡大する必要があると思います。また、清水建設さんのヘルプライン(内部通報規程)では、おそらく取引先社員による内部通報も許容しているはずですから、当該下請け業者社員による内部通報の有無も調査すべきです(もちろん、このような不適切行為が「公益通報」に該当しないとしても、下請け業者への報復的な取引制限については民事上問題になりうるものと考えます)。

かりに「こんなのゼネコンの世界ではあたりまえ」であったとしても、世間の常識とかけ離れていれば告発の脅威にさらされます。人手不足の折、今後は同様の不祥事発覚がさらに増えるものと思われますが、社内で問題行為を早期に発見するためにも内部通報制度を充実する必要があります。

12月 12, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年12月11日 (月)

ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)

大林組さんの入札不正(偽計業務妨害容疑)事件が報じられていますが、今後どんな展開になっていくのでしょうかね?不正競争防止法違反事件に発展するのでしょうか、それとも共犯事件に発展するのでしょうか。今後の特捜部の捜査に関心が集まりますね(以下本題です)。

日本の上場会社で敵対的買収防衛策が話題に上るようになって10年が経過しましたが、同じく不祥事対応の重要性が真剣に語られる契機となったダスキン事件株主代表訴訟大阪高裁判決の確定からまもなく10年が経過します(最高裁決定は平成20年2月12日)。

法令違反の有無・・・という点では少し状況が異なりますが、近時の品質検査データ偽装問題でも、「安全性に関する問題は確認されていないが、安全性に関わる社内ルール違反の行動が認められた場合に、当該違反行為を公表すべきかどうか」という点が議論されています。「SNSに書き込みがあったから公表した」「神戸製鋼所が公表したことを参考にして公表した」「経産省から強く公表を勧められたので公表した」等、さまざまな理由が(社長さんの記者会見で)述べられていますが、おそらく社内の経営陣の皆様からすれば「この程度でなんで公表しなければいけないのか」といった心境ではないかと思います。

ただ、11年前のダスキン事件大阪高裁判決では、同社の取締役会での「積極的には公表しない」といった判断が善管注意義務違反とされました。違法添加物の入った「大豚まん」をすべて販売してしまい、販売終了後2年ほどが経過し、健康被害も出ていない状況のなかで、「過去に違法添加物の入った豚まんを売ってしまいました」と公表しないこと(あるいは公表の要否をきちんと判断しなかったこと)について、大阪高裁は取締役、監査役11名に総額5億7000万円の損害賠償を命じました(平成20年には最高裁でも高裁判決が維持されています)。

当該ダスキン事件株主代表訴訟判決については、取締役の内部統制構築義務や危機に直面した取締役への経営判断原則の適用といった論点がありますが、平成13年当時の取締役会と同29年の取締役会では、裁判所の考え方も異なるでしょうし、またコンプライアンス経営に関する社会状況も異なることから、ダスキン事件判決の(今日の企業社会における)射程距離についてあらためて考え直す必要があるのではないかと思っております。

詳細はまた具体的な事例などを交えながら述べたいと思いますが、私なりにダスキン事件判決から考えることは、①内部統制は整備面よりも運用面に議論が移っていることを法的にどう考えるべきか、とりわけ有事行動への「信頼の原則」の適用をどう考えるか、②不祥事発覚時に社内調査や第三者調査が行われることが慣行となりつつあるが、当該調査結果について裁判所はどこまで依拠できるか、③企業としては、どのような場合に(過去の)不祥事を公表することが法的義務とされるのか、「公表基準」なるものを策定した場合には、当該基準に従った行動をとれば善管注意義務を尽くしたことになるのか、④監査役や社外取締役等の非業務執行役員は、たとえ結果として違法行為を阻止できなくても、どこまでの行動をとれば善管注意義務を尽くしたと評価されるのか、といったあたりでしょうか。

いずれもダスキン事件に関する事実にヒントが隠されていると思います。おいおい、最近の事例などをもとに論点への考え方をまとめてみることにします。

12月 11, 2017 ダスキン株主代表訴訟控訴事件 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年12月 8日 (金)

拙著「実効的な内部通報制度」がアマソン(ビジネス法入門)で1位になりました。

2日続けての自分ネタで恐縮ですが、12月7日の昼過ぎから現在(8日午前1時)まで、拙著「企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度」がアマゾンの「ビジネス法入門」ランキングで1位になりました。皆様、どうもありがとうございます!皆様がご覧になる時刻にはすでに落ちていると思いますが、ともかく1時間毎に更新されるランキングで12時間ほど首位をキープできたのは素直にうれしいです。

これまでも1位になったことはありましたが、今回のようにジワジワと上昇して1位になるのは初めてです。良くも悪くも(?)、多くのビジネスパーソンの皆様に評価していただけたのかもしれません。ありがたいことに、経済雑誌でもご紹介いただけるようですが、企業不祥事がいろいろと報じられている現状と無縁ではないと思います。

本業と忘年会のために、ブログを書く時間がなかなかとれませんので、このようなご報告だけで本日は失礼いたします<(_ _)>

12月 8, 2017 本のご紹介 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年12月 7日 (木)

国家公務員倫理研修の講師を務めさせていただきました。

本業と講演でかなり忙しい時期でして、ブログの更新もなかなか進まない状況です。放送法の合憲性が争われた受信料訴訟に関する最高裁判決を含め、書きたいネタが山積しておりますので、またまとめてアップしたいと思います。

本日は人事院・国家公務員倫理審査会主催の研修(国家公務員倫理法に基づく研修)の講師として、200名以上の官僚の方々向けにお話をさせていただきました(霞が関プラザホール)。国会の会期中にもかかわらず、本当に多数の皆様にお越しいただき、ありがとうございました。このような機会は間違いなく一生に一度なので(笑)、私自身の弁護士としての経験をもとに、「公務員倫理はかくあるべし」という意見をはっきりと申し上げました。

終了後は裁判員制度の立ち上げにご尽力された池田審査会会長(元福岡高裁長官)や、立花委員(人事官)、前田委員(資生堂相談役)とも少しだけ意見交換をさせていただきましたが、さすがにこの場で前田委員に東芝の6000億円増資の件についてご質問する勇気はありませんでした(^^;;

あの「ノー○ンしゃぶしゃぶ事件」以降、国家公務員の方々の過剰接待問題があまり報じられなくなったのも、この審査会が「グレー案件」に積極的に関与するようになったから・・・ということのようで、私自身も企業のコンプライアンス経営支援に参考となる意見をいただき、とても勉強になりました。

12月 7, 2017 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年12月 5日 (火)

経営陣の処分と任意の指名・報酬委員会の役割

12月6日はNHKの受信料請求事件の最高裁大法廷判決が出ますね。ビジネス法務に直接関係があるというわけではありませんが、放送法の合憲性に関する判断はとても興味深いところです。放送と通信の垣根がなくなりつつある現状について最高裁が言及するのかどうか、判決をじっくり読みたいですね。

さて本日はひさりぶりのガバナンス関連のお話です。最近は不祥事が発覚しますと、社内調査委員会や第三者委員会が事実調査をして、「このような不祥事を発生させたのは、ガバナンスが機能していなかった」と指摘されることが多いですね。そこで調査委員会報告の結果を受けて、代表取締役の降格(取締役へ)や3カ月間減俸30%といった社内処分が発表されますが、これって任意の指名委員会や報酬委員会を設置している会社ではどうしているのでしょうか?

今年7月の東証の調査では、東証1部上場会社の3割以上が任意の指名・報酬委員会を設置しているそうで、そのような設置会社の半数近くでは委員の過半数を独立社外取締役が占めているそうです。ただ委員会の開催は年1回程度の会社が多いようで「本当に委員会が機能しているのだろうか」との疑問も生じます。

ところで、会計不祥事を発生させてしまった東証1部の某企業(指名・報酬委員会設置済)では、社内調査委員会を設置して調査結果を公表したのですが、社長や他の経営陣の減給にあたり、指名・報酬委員会を開催すべきかどうか、役員間で議論されたそうです。社内には懲罰規程に基づく懲罰委員会があり、そこで審議すべきなのか、それとも降格や減給を含め、新たに設置した指名委員会、報酬委員会で審議すべきなのか、たしかに迷うところかもしれません。

もちろん任意の委員会を設置した理由は、後継者計画に従って次期社長を選任するため、報酬決定に対する取締役会の監督の実効性を高めるためというものであり、ガバナンス・コードの要請もそのような点にあることは間違いありません。しかし不祥事が発生した場合の社内処分も指名・報酬に関わる問題ですから、独立社外取締役が過半数を占める委員会にて審議する実益もありそうです。結局、その会社では、懲罰規程に基づく審議経過の客観性を指名・報酬委員会が事後的に担保する、といった形で指名・報酬委員会が関与したそうですが、本当にそれでよかったのかどうかはわかりません(実質的にはすでに決定されたことを追認したにすぎない、ということになりそうです)。

企業不祥事といっても「法令違反」が認められないケースもあること、社内処分は案件ごとに自浄作用の発揮の一環として行われるものであること、経営陣の処分については利益相反状況が認められることなどを考えますと、私は指名・報酬委員会が積極的に関与するほうがステイクホルダーへの説明がつきやすいようにも思うのですが、いかがでしょうか。こういったことも含めて(実施宣言をした上場会社では)コードの運用責任が果たされるべきと考えます。

12月 5, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年11月30日 (木)

品質検査データ偽装に気づいた企業は素直に公表できるだろうか

(最近はこの話題が多くて恐縮です)経団連の会長さんが会員企業1300社に対して品質検査データに問題がないか、調査を要請することを決めたと報じられています(モノ作り企業を対象に・・・ということかと思いますが)。日本企業の国際的信用を毀損しないための要請だと思いますが、もし会員企業において検査データに問題が認められた場合には、果たして事実を公表できるのでしょうか?

これまで品質データの偽装を公表した神戸製鋼所、三菱マテ・グループ、東レ・グループでは、いずれも自ら不正を発見して、すでに取引先に申告済です。しかし、これから調査をして不正を発見した会社は、おそらく取引先にも不正を隠ぺいしたままの状態です。その状況で公表するとなりますと、顧客、取引先の混乱は相当なものになります。いままで公表した企業以上に「なぜ隠ぺいしていたのか」「なぜ不正に気付かなかったのか」と世間から大きな批判を浴びることは必至です。

また、これまで公表した企業の場合、取引先や顧客からの問い合わせが増えたことで「やむなく」公表に至ったわけですが、取引先に説明もしていない企業の場合は、内部告発でもないかぎりはバレる可能性は薄いはずです。だとすれば、やっぱり公表せずに隠し通すことに賭ける(墓場まで持っていく)ことを選択するのではないでしょうか?

「品質検査には誤差はつきもの。トクサイが認められている以上、品質検査官には裁量が与えられているのだから、これは誤差の範囲内での修正と判断したんだろうね。だから公表するほどでもないだろう」

経営者が隠すことを正当化するバイアスは十分に働くと予想します。

たしかに「隠し通すことに賭ける」ことでバレずに済む会社もあると思います。ただ、私の経験上、そのような会社には「負のストーリー」が脈々と受け継がれて、悪しき組織風土が根付くものと思います。何かあっても、社員は「この会社は不正は隠すことを容認している」として、現場の不正がトップに届かない風潮が増幅されます。内部通報制度も機能しないはずです。

そこでひとつの提案ですが、今回の品質検査データの調査にあたっては、公認不正検査士(CFE)資格者に「社内調査が公正に行われているか、その情報が経営トップに正確に伝わっているか」といった点についてチェックを委託して、CFEのお墨付きをもらうことを検討されてはいかがでしょうか。現在、日本には公認不正検査士が2000名以上います。弁護士、会計士等の資格保有者も多数存在します。社内調査の公正性担保、ということだけであれば費用対効果、という面においても適切ではないかと(こういったときにこそ、CFEが活躍すべきではないかと思います)。

そこまではむずかしい、ということであれば、せめて公正なプロセスチェックが期待できる監査役等による監視・立会は不可欠ではないでしょうか。ぜひとも、不正を隠すような事態、告発によって後日発覚してしまうような事態をなくすためにも、適切な不正調査の在り方についてご検討いただきたいと思います。

 

11月 30, 2017 企業不祥事を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2017年11月29日 (水)

品質検査データ偽装事件の発覚経過を機関投資家はどうみるか?

今朝(11月28日)の日経朝刊「迫真」が、神戸製鋼所品質データ偽装事件を詳細に報じています。先週の週刊エコノミストの拙稿で、私が疑問を呈した二つのポイントについて、見事に記事で明らかになっていました。ひとつは公表に至った経過です。予想どおりだったのは、偽装を知った顧客が他の取引先にも偽装の事実を告げて、取引先からの問い合わせが殺到した、とのこと。意外だったのは、経産省が公表を迫っていた、ということです(日産さんの無資格検査問題の影響もあったそうです)。

そしてもうひとつが、本当に公表する意思があったのか、という点ですが、やはり社長さんは「ここまでの話やないんやけど・・・」といった感想を抱いていたとのこと。偽装の記者会見よりも、(事業にとってもっと大切な)世界鉄鋼協会の年次総会に出席することのほうを優先的に考えておられたそうです。これ、私も「ごもっとも」と思います。取引先には偽装の事実を誠実に告げて「これからは気を付けてください」と言われて一件落着していたのです。おそらく会社の経営幹部のすべてが社長同様「ここまでの話ではないんとちがう?」といった感想をお持ちだったはずです。だからこそ、神鋼事件を契機に多くの会社で調査を行い、たとえ品質データ偽装が判明したとしても、なかなか公表にまで至らないと思うのです。

本日、グループ会社における品質検査データ偽装を明らかにした東レさんにしても、ネット掲示板に品質検査データ偽装のうわさが流れ、取引先からの問い合わせがあったこと、先行する神戸製鋼さんの件が世間的に重大な事件を受け止められていることから公表に踏み切ったそうです(東レの社長さんは「神戸製鋼の件がなければ、当社でも発表は考えられなかった」と述べておられます)。これからも同様の発覚経過をたどって公表に踏み切る企業が出てくるものと予想します。なお、世間では今回の一連の品質検査データ偽装は「法令違反ではない」と評価しているようですが、こちらのエントリーでも述べたように、私は法令違反の可能性が高く、それほど軽視されるべきものでもないと考えます。

ところで、このような問題が発覚すると、当然に当該企業の株価は下がるわけですが、私は「組織ぐるみ」でないかぎり、またステイクホルダーに多大な損害が発生しないかぎりは機関投資家の企業評価自体は下がらないとみています。要はこのような不祥事発生への経営陣の関与、不祥事発覚時の経営陣の対応が全てであり、「この社長の言動に表と裏がないか」というところが機関投資家の注目点ではないでしょうか。

企業にとっては不祥事対応は「リスク管理」かもしれませんが、機関投資家にとっては不祥事対応は「企業倫理」とりわけトップの倫理観のほうが重視されると考えています(それにしても社内の常識と社外の常識がこれほどまでにズレが生じた例は珍しいのではないでしょうか)。今回の一連の品質データ偽装事件は、コンプライアンス経営とは何か、あらためて見つめ直す機会になりました。

有事対応に従事する者としては、企業がリスク管理として捉えてくれればお金になりますが、企業倫理を訴えてもお金になりません(笑)。しかし機関投資家の方々は、有事に至った経過や有事の経営トップの発言内容から、経営者の倫理観に着目する傾向が強いというのが私の感想です。「あとで株主代表訴訟に耐えられない」とか「その発言は取引先や行政に迷惑がかかる」さらには「どういった場合に公表すべきか、その判断ルールを社内で策定すべき」といったリスク管理的感覚でモノを言うのではなく、経営者が心底から他人に迷惑をかけるやり方で儲けない、といった気持ちがあるのかどうか、そこを知りたいのが機関投資家だと思います。

もちろん、これは自分の過去の失敗経験からの意見であり、統計調査に基づくものではないので仮設の域を超えるものではありません。ただ、稼ぐ力を取り戻すことが大事な世の中なのであれば、「走りながら考えるコンプライアンス」を実践するために、機関投資家のコンプライアンス経営への考え方を理解することも重要ではないかと思います。

11月 29, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年11月28日 (火)

消費者裁判手続特例法のコストパフォーマンスは如何に?

11月27日の日経ニュース「消費者一括救済、訴訟ゼロ 特例法施行から1年余り」を読みましたが、施行から1年余り経過した消費者裁判手続特例法の活用事例が未だ一件もないとのこと。平成25年の法制定以降、ビジネス法務の世界では「日本版クラスアクション到来!」と恐れられ、「民事訴訟の特別版が出来たことで、まじめな企業もターゲットになるぞ!準備は大丈夫か?」などと盛り上げて(煽り立てて?)おりましたが、いざフタを開けてみるとこんな感じになっているようです。

ただ、私は平成28年6月30日に公表された「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資す る支援の在り方に関する検討会報告書」の内容について、検討会の座長でいらっしゃった升田純先生のお話をいろいろとお聴きしていたので、「運用するにはかなりハードルが高いなあ」という感想は持っておりました(上記の日経ニュースを深堀りされたい方は、この検討会報告書をお読みになることをお勧めいたします)。本特例法のコストパフォーマンスを上げるためには、①公益活動を担う弁護士の報酬等を含めた財政支援、②被害情報が特定適格団体にタイムリーに入るためのシステム作り、③企業側の瑕疵を立証可能とするための科学的知見の補助、といったところがポイントになろうかと思います。

また、「いまのところ訴訟が一件も提起されていない」と報じられていますが、これは消費者庁の「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」の存在も大きいのではないかと思っております。 その33頁以下に「(6)特定適格消費者団体の責務(法第75条第2項関係)」なる指針が示されていますが、特定適格消費者団体は、事業者に対していきなり訴訟を提起することが困難なのですね。原則として事業者との間で事前交渉を行うことが求められています。そうなると、トンデモ事業者は逃げたり、資産を散逸する時間ができますし、まじめな事業者は、共通義務確認訴訟で敗訴しないための要件を満たすように事前準備をすることも可能です。 つまり、「相当多数性」「共通性」「支配性」要件の欠如を指摘して、被害弁償や将来的な被害拡大防止策を図ることにより、特定適格消費者団体が提訴を断念するよう努めることになります。

私も当ブログにおきまして、「日本版クラスアクションが来るぞ!」と煽っていたひとりなので(笑)、少し言い訳に聞こえるかもしれませんが、消費者法関連の企業リスクというものは、大きな事件が起きたり、政局が変わることによって企業に突如降りかかります。そのときになって対処しても遅いのであり、今からきちんと不正リスク管理を怠らないことが肝要ではないかと思います(って、ホントに説得力に乏しい言い訳にすぎませんが。。。)

11月 28, 2017 消費者団体訴権と事業リスク | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月27日 (月)

コシダカホールディングス社の財務報告内部統制に関する疑問点

東芝さんの先日の臨時株主総会の法的問題点を指摘した弥永教授のご論稿(最新の雑誌「ビジネス法務」に掲載されています)を拝読いたしました。やはり法律上は「定時株主総会」とみるべき、というのはその通りかと思いますし、監査委員会のPwCの監査への相当性判断については「不相当判断」と解釈されているのも、私は賛同いたします。一方11月18日付けの週刊現代には、東芝元会長の西田氏の独占インタビューが掲載されていて、こちらも読みごたえ十分でした。しかし第三者委員会というのも「報われない仕事」です。世間からは「東芝の意向を忖度したとんでもない委員会」と批判され、調査対象の当事者からは「罰則もない連中がウソばかり書きやがって!」と罵られる。それでも社会からの期待は結構大きいのですよね。

さて、24日に無事(?)定時株主総会が終了したコシダカホールディングスさんの話題です。総会招集手続きの瑕疵を「修正」「補正」で乗り切れるのだろうか・・・と関心を寄せておりましたが、山口三尊さんのブログに詳細な総会議事記録が掲載されていましたので読ませていただきました(いつもありがとうございます)。

会計監査人からの監査報告が受領されず、また監査等委員会の監査意見も出ないままに招集通知を発送するといったことが「補正」で間に合うという点は「あまりにも監査制度をないがしろにしたものであり、到底容認できない」といった意見も私の周囲からは聞こえてきます。重要なのは「結局は会計監査人から不適正意見もらえるんだからいいじゃないか」という「結果オーライ」の問題ではなく、監査意見をどこまで会社側が尊重するか、といったプロセスの問題ですし、総会で社長さんが何度も述べておられるとおり、内部統制に関する問題が、今回は大きかったと思います。

ただ、ここで「内部統制の問題」と述べるのはあまりにも抽象的であり、それだけでは問題の核心に迫ることはできないと考えます。つまり、コシダカさんのケースでは監査委員の方は「内部統制ができていなかった。これから早急に構築します」と述べていますが、コシダカさんは東証1部の上場企業ですから、私はすでに立派な財務報告内部統制の仕組みは出来上がっていると思います(会計監査人も新日本さんですし)。むしろ、今回は「仕組みはあるのに、あえて運用していなかった」、つまり全社的内部統制をわざと無効化したのではないか、といった疑問が湧いてきます。金商法上の内部統制報告制度が施行されて10年です。コシダカさんのような立派な上場会社が、これまで財務報告内部統制を構築していなかったとは考えにくいです。むしろあえて内部統制を無効化してしまったとみるほうが自然です。ではなぜ無効化してしまったのか・・・、つまり運用面での不備に至った原因を明らかにすべきです。

そしてもうひとつ、コシダカさんの株主総会では内部統制については「有効」か「無効」か、という点に関心が集まるのですが、やや論点がずれているように思います。内部統制報告制度も立派な金商法上の開示規制だという点を再認識すべきです。刑事罰も民事責任規定もあります。今回のコシダカさんの内部統制について問題になるのは「有効」とか「無効」といった問題ではなく、そもそも内部統制の評価を経営者が行っていたのか・・・という点です。評価を行っていなかったとすれば「内部統制の有効性」どころか、立派な虚偽記載になります。山口三尊さんのブログ内容が真実だとすれば、社長さんは「(内部統制に関する)担当人材が空白の時期があった」と述べておられます。今回のような信じられないミスが発生しているということは、この社長さんの陳述とも併せ考えますと、社長さんが財務報告に関する内部統制(とりわけ全社的内部統制)の評価を行っていなかったのではないか・・・との疑問が湧きます。

いままで内部統制報告書の刑事罰規定や民事責任規定(いずれも金商法上の責任規定です)が問題とされたことはなかったのですが、私は経営者がそもそも評価をせずに意見を表明している会社が多いのではないかと感じています(これは内部統制監査でもわかりません)。このあたりでもう一度、経営者が評価をしたと(金商法上で)解釈されるためには、どの程度、財務報告内部統制に経営者が関与しなければならないのか、問題が発生する前に客観的に見直してはいかがでしょうか。

11月 27, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)