2018年11月15日 (木)

企業統治改革が進む中でのソフトバンクGの親子上場

各紙で報じられているとおり、ソフトバンクグループさんの通信子会社が12月に上場するとのことで、超大型親子上場(の関係)が誕生することになります。ビッグな調達額や有利子負債額の話題が満載ですが、唯一、読売新聞(11月13日朝刊)だけが親子上場を審査した東証さんの苦悩について報じておりました。

7月の予備申請から4カ月、東証さんは通信子会社(ソフトバンク社)の独立性確保に関する判断に相当慎重だったそうです。最後は、親会社の会長兼社長の方が通信子会社の代表権を返上したことで「経営の独立性が高まった」との判断に至り、承認されたようです。親子上場は(いろいろと利点もあるものの)日本特有のもので、海外投資家からの批判なども考慮してうえでの慎重対応だったと思われます。

ただ、企業統治改革が進む中で、親子上場を選択するにあたっては、情報開示や行動規範の実践という面で気苦労は増えるのではないかと思います。たとえばコーポレートガバナンス・コードの原則1では、株主の権利・平等性が強く要請されており、構造的には親子上場はこの原則に違反するおそれを常に抱えています。通信子会社の経営判断において、他社以上に少数株主の利益に配慮している旨の情報開示を心掛けねばなりません。

また、当然のことながら機関投資家の議決権行使の姿勢も厳しくなるわけでして、たとえば三井住友信託銀行さんは、昨年12月、上場子会社の取締役会については3分の1以上を独立社外取締役とすることを求める旨、自社ガイドラインで明らかにしています。現に、新日鉄住金さんの上場子会社である日新製鋼さんの今年の総会では、同行は上記の条件を満たしていないとして取締役10名全員の再任議案に反対票を投じています。

さらに、現在経産省で審議されているグループ経営管理指針への対応です。来年春ごろに正式版がリリースされる予定だそうですが、攻めと守りの両面から、親子関係の適正化を図るためのガイドラインが示されるので、とりわけ親子上場のケースではどこまで指針に沿った経営管理ができるのか、注目される点かと思います(独立性が十分に確保されている上場子会社の経営とグループ・ガバナンスの発想は両立するのでしょうか)。いずれにしましても、上記読売新聞でも解説されているとおり、(企業統治改革が推進される中で)親子上場の数自体は今後も減少傾向にあるのかな・・・と推測いたします。

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2018年11月13日 (火)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(3・完)

金融庁に新たに設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」の開催資料を読み、思わず会計監査制度の将来について(素人ながら)自説を述べてまいりましたが、今回のエントリーが最終回となります(ちなみにご興味のある方は、エントリーその1エントリーその2はこちらでございますのでご参考まで)。経営財務の最新号には上記懇談会の第1回会議におけるメンバーの主な発言要旨が掲載されておりますね(メンバーのお名前も含め)。

前回のエントリーの最後におきまして、

「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか

と書きました。今こそ「会計監査の社会資本性」について語る必要があると考えておりますが、その理由は私の5年前の著書「法の世界からみた会計監査」(同文館出版 2013年)でも少しばかり述べております。私は行動経済学、認知心理学の考え方が、そもそも会計監査の理解にとっては必要ではないかと考えています。

先日、こちらのエントリーの中で、ゴリラのバスケット実験をご紹介し、「人は(視野に入ったものであったとしても)自分が見たいものしか見ない(見えない)のではないだろうか」との感想を述べました(おかげさまで、このエントリーはたいへん多くの皆様にお読みいただきました)。このゴリラのバスケット実験は「注意の錯覚」を扱ったものですが、この実験を行った認知心理学者クリストファー&ダニエルらによる「錯覚の科学」(文春文庫)の中で、「自信の錯覚」に関する研究結果も紹介されています。人は自信なさげの説明よりも、自信たっぷりの説明ぶりの説明をつい信用してしまう、というもの。著者らは、この自信の錯覚を、医師と患者の関係から解説しています。

多くの臨床実験の結果から「患者は医師の(いいかげんな)説明でも、医師が自信たっぷりに説明すれば信用してしまう。しかし、医師が目の前で参考書を取り出してきて、いろいろと調べた末に処方の結論を出した場合には、たとえ正しい処置がみつかったとしても患者は不安を覚えてしまうそうです。「自信はアテにならない」ことは多くの実証研究でも証明されているのですが、どうしても「自信の錯覚」に患者は陥ってしまう。本書では、難病治療の世界で有名な米国医師の話が引用されています。同医師によると「医師にはある程度の自身は必要。だが最良の医師とは、患者の目のまえで『わかりません』と正直に言える人である」とのこと。

会計監査もこれと同様ではないでしょうか。「監査は神聖不可侵」と自信たっぷりに意見が述べられれば、投資家も会計監査人の意見を疑わないでしょうし、英国のように「俺が会計基準だ」と自信たっぷりに説明されれば、投資家は安心すると思います。ただ、このたびの東芝さんの会計不正事件における会社と二つの大きな監査法人の間で発生した監査意見の相違を目の前にしますと、監査を行う人によって「監査意見は絶対」というものではないのであり、(ひょっとすると)会計監査人の巧拙によって投資家が損失を被る可能性はあるということが示されたと思います。これまでのところ、〇〇監査法人の意見が正しく、〇〇監査法人の意見は稚拙で誤りだった、といった判定は市場関係者の間でなされていません。したがって、「会計監査の世界においても、やはりセカンドオピニオンは存在する」との結論をとらざるをえない。

そうであれば、少なくとも会計監査の利用者にとって、どっちの会計監査人の理由と結論を信用すべきか、その優劣を素人なりに判断する道は保証されるべきですし、そのための会計監査人の説明義務についても議論されてしかるべきです。会計の素人に「真の会計監査の品質などわかるはずがない」のであれば、せめて(自己責任を問いうるだけの)「品質に関する安心」だけでも提供できる制度があれば社会資本となりえると考えます。これが今求められる会計監査の「社会資本」としての価値だと考えます。よりよい会計監査の判断には被監査企業や投資家の協働が必要されるゆえんはそこにあると考えます。職業倫理をわきまえた会計プロフェッションである以上、会計監査人は自信たっぷりに監査意見を述べるべきと思います。しかし、「意見不表明」「不適正意見」についても堂々と述べるべきですし、最終的には投資家に会計監査の質を判定してもらうだけの気概を持つべきではないでしょうか。

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2018年11月12日 (月)

時宜に適ったMBO手続き指針の改訂に期待いたします。

先週11月7日、「攻めの企業法務」なるタイトルで、経産省の方(経済産業政策局)が大阪弁護士会で基調講演をされたので聴講してまいりました。競争法関連のお仕事をされているそうですが、経産省としては3年ほど前からGAFA規制の必要性については検討されていた、とのこと。お話は私自身の仕事についてもたいへん参考になりました。ただ、ここ10年、中国政府とガチでバトルを繰り広げてきたGAFAのリスクマネジメントをみておりますと、ヤワな日本政府の規制で委縮することは考えにくく、むしろ日本企業が規制の網にひっかかる間に「チャンス」とばかり攻勢に転じるのが米国の巨大IT企業の「攻めの企業法務」ではないか・・・と予想しております。

さて、経産省の企業規制といえば、GAFA対応だけでなく、国内上場企業向けのソフトロー対応にも注目すべきであります。現在進行形のCGS研究会におけるグループ・ガバナンスの実務指針のほかに、あらたに「公正なM&Aの在り方に関する研究会」が設置され、平成19年に策定された「MBO手続き指針」がひさしぶりに改訂されるそうであります。11月9日の日経朝刊が報じるところでは、MBOだけでなく、これに準じるような利益相反構造にある企業再編手続きも含めての指針作りや社外取締役の積極的なMBO手続きへの関与の是非あたりが検討されるようです。

MBO指針が策定されて11年、利益相反構造をもつ多くの企業再編が行われる中で、企業再編の手法に影響を及ぼす会社法の改正も行われ、また少数株主保護に関する裁判例なども出ておりますので、このタイミングでMBO手続き指針を改訂するのはまことにタイムリーなものだと思います。私も一昨年には社外取締役として少数株主保護を最優先に図る立場を務め(セブン&アイ・グループとニッセンHDとの三角株式交換による100%子会社化)、昨年には統合比率の公正性確保のための第三者委員会委員長を務めました(住友ゴムとダンロップスポーツによる合併手続)ので、MBO類似の利益相反構造における取締役行動のむずかしさは痛切に感じたところです。したがって、「健全なリスクテイク」を後押しするであろう、このたびの指針の改訂には大いに期待をいたします。

社外取締役の積極的関与といえば、金商法上の開示責任を問われた判決もさることながら、シャルレ株主代表訴訟判決(第一審神戸地裁平成26年10月16日、控訴審大阪高裁平成27年10月29日)あたりは(社外取締役の)行動規範を知るうえで理解しておくべきと考えます。たとえ(結果的に)少数株主に実質的な損害を与えなくても、支配株主の利益を優先した疑いのある手続きを進めてしまいますと「手続的公平性配慮義務違反」ということで善管注意義務違反の責任を問われる可能性がありますので要注意かと。また、統合される側の社外取締役さんは、(数か月間)ふだんの5倍から10倍程度の職務時間を求められますので、3社以上の社外役員を兼務されている方などは、本業や他社役員の仕事とのやりくりは覚悟しておく必要があります。さらに、昨年6月にこちらのエントリーでも書きましたが、ここ数年、MBOに関わる第三者委員会の性質にも変遷がみられますので、社外取締役自身が構成員となる第三者委員会がどのような性格でMBO手続きに関与すべきか、そのあたりの理解も必要になると思います。

なお、実際に自分がMBOに携わってみて思うところは、法律家やコンサルタント会社の指導を受けますと、どうしてもMBOのプロセスの公正性、つまり取締役の忠実義務や公正価値算定などに関心が向きます。しかし、本当に大事なのは「人間模様の上手な整理」という点です。インサイダー取引リスクを防止するために、ごく限られた範囲の人の間で隠密裏にコトが進みます。そんな中で、企業再編への社内の反応はマチマチです。カリスマ創業者でもいないかぎり、コトは予定調和的に進むわけではありません。統合に向けた様々な障害を、どう統合後の企業価値向上につなげていくかはMBOを進める当事者の力量や胆力、妥協力にかかってきます。親会社と子会社に至った経緯とか、子会社社員が今度どのように取り扱われるか・・・親会社にとってどの程度重要な会社とみてもらえるか、といったところを上手に整理していかなければ、それこそMBO手続きによって当事者の法的責任は回避できたとしても、M&A自体は失敗に終わってしまうと思います。

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2018年11月 9日 (金)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(2)

さて、昨日のエントリーその(1)の続きでございます。改めて申し上げますが、私の意見はどこからか引用した考えではなく、あくまでも私の個人的な妄想(?)によるものでありますので、誤解なきようお願いいたします。

昨日は「なぜ(会社と意見相違した会計監査人の判断理由を開示する)制度が、市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか」といった疑問を呈しました。企業側からも監査法人側からも、いろいろとご異論が予想されるにもかかわらず、このような制度を策定するにあたっては、その「社会資本」としての価値が必要ではないかと考える次第です。

まず、市場の有効性・効率性を向上させる・・・という点は、費用対効果を厳密に精査する行政規制手法の在り方との関係です。会計監査の有用性を高めるにあたり、できるだけ行政の資源を投下しないで高い効果をあげる方法を考えます。他の省庁でも同様の手法が採用されますが、競争原理の導入と利用者のリテラシーの向上の「合わせ技」に求められます。つまり利用者(ここでは投資者)のリテラシーを向上させつつ、会計監査の主体に競争原理を持ち込み、「信頼できる監査法人」と「そうでない監査法人」について投資者の目利き力による選別に期待をします。

「監査法人の適正意見ならどこも一緒」ではなく、「あの監査法人の適正意見なら信用できる(高い報酬も当然だ)」といった投資家の感覚が、ひいては企業による監査法人の選別につながるというもの。いわば「利用者志向の財務報告」を実現するプロセスであり、これに近い考え方は旬刊商事法務の最新号(2181号)スクランブル「KAM導入は利用者志向の財務報告をもたらすか」でも披露されています。ただ、このような考え方が成り立つためには「監査意見も間違えることがある」「監査意見は神聖不可侵ではない」ということが所与の前提であり、「監査意見にもセカンドオピニオンがある」ということを認めなければ出てこない考え方だと思います。

そして、会計監査の有効性・効率性を向上させる・・・という点ですが、これは「会計監査の信頼向上は会計監査人の努力だけではなしえず、市場の番人としての共助の精神が必要」というものです。たとえば自動車のリコールの要否については、日本では専門性の高い技術が必要なのでメーカーと国交省との協議で判断されますが、米国では一般市民の意見や情報も取り入れながら「みんなで決める」(だから不具合に関する情報提供義務違反には厳しい制裁が課されます)もの。これと同じように、会計監査の質を高めるためには利用者、被監査企業、他の監査人らを巻き込んで、よりよい「解」を求めるという考え方です。したがって、ここでは会計監査人の説明義務がクローズアップされますし、当然のことながら被監査企業に対する守秘義務解除のための「正当理由」との関係が問題となります。また「よりよい解を求める」というためには監査意見にはセカンドオピニオンもある・・ということを認めなければ前に進まないと思います。

おそらく「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか・・・そのあたりは(その3)で述べたいと思います。

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2018年11月 8日 (木)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(1)

(11月8日午前11時 最終更新)

今朝(11月7日)の日経朝刊において「『不適正決算』判断理由は?-金融庁、監査法人に説明求める」との見出しで、新たに金融庁内に設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」が始動したことが報じられていました。第一回の懇談会資料もリリースされていますので、今後同懇談会で議論される予定の論点がわかります。いくつかの論点がありますが記事で紹介されているのは、会計監査において、会社と監査法人との意見が食い違った場合(たとえば会計監査人が財務諸表について「限定付適正意見」や「不適正意見」を付した場合など)、会計監査人はなぜ異論を唱えたのか、その判断理由を(会計監査人が)説明する(開示する)ような制度の是非を検討する、というものです。

このような制度は今のところ世界中探しても存在しないと思いますし(2020年3月期から早期適用が推奨されているKAM制度についてはすでに海外で先行していますが)、おそらく企業側からも監査法人からも様々な消極意見が出てきそうです。ただ、なぜこのような懇談会が立ち上げられ、監査法人の判断理由開示制度が真剣に議論されるに至ったのか、といったところは、(イ)東芝不正会計事件における二つの監査法人と東芝との監査意見を巡る不明瞭な問題が発生したことと、(ロ)この問題を受けて開催された経営財務3356号(2018年4月23日号)掲載の八田進二氏(青山学院大学名誉教授)と佐藤隆文氏(日本取引所自主規制法人理事長)との対談で、一定の問題整理が試みられたことが「きっかけ」になったのではないかと推測いたします(そこで議論されている論点が、審議資料2の論点表とピッタリ一致します)。キーワードを探すとするならば、数年前に国際的な倫理規則でも容認され、日本の倫理規則でも条件付きで容認されている「監査意見のセカンド・オピニオン」でしょうか。

私自身は、それほど違和感なく、この制度は経済的合理性あるものと考えておりますが、どのようなご意見が出てくるのか、今後の審議に注目したいと思っております。なぜなら、①市場の健全性確保の有効性・効率性を図ることは近時の会計不正事例の急増(昨年は不正開示事例が68件)という事態からみて当然ですし、また②会計監査の有効性・効率性の向上は、監査報酬がなかなか増えない日本の現状からみて、当然に実施していかなければ監査法人の経営維持は図れないからです。ではなぜこの制度が市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか・・・、そこは「その2」以降で私なりの意見を述べたいと思います。

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2018年11月 7日 (水)

日本版司法取引の運用は本当に客観証拠中心主義か?

5日の日経法務面での記事に続き、6日は読売朝刊に日本版司法取引に関する詳細な記事が掲載されています。さすがMHPS事例を最初にスクープした読売だけあって、「初の司法取引 証拠80点 免責企業 贈賄工作資料提出」との見出しで、約束内容を書面化したMHPS(三菱日立パワーシステムズ)社と東京地検特捜部の「(6月28日付)合意内容書面」の中身までスクープしていて、たいへん参考になります(担当検事、弁護人、社長の署名があるそうです)。

この合意内容書面にしたがって、MHPS側は贈賄工作の資料を含む80点超の証拠を提出したそうで、その中には贈賄資金を捻出した際の資料も10点ほど含まれているようです。なお、上記読売記事によりますと、今回の捜査協力は、司法取引の運用で懸念されていた「無実の第三者を冤罪に巻き込む危険性を極力回避するため」、供述ではなく、客観的な資料の提出が中心だった、とのこと。なるほど、(日本版司法取引については)国民が納得できるような運用を目指す、というのが検察庁の考え方なので、そういった配慮もあったのかもしれません。

ただ、FACTA2018年10月号(36頁以下)の記事によりますと、そもそもMHPS社員による2015年2月の内部通報をきっかけとして、MHPS側は東京地検に経緯を報告、その後の地検の内偵捜査には(なんらかの情状酌量を期待して)全面的に協力をしてこられたそうです。しかし2017年12月に地検から(半年後に施行予定である)司法取引の適用をほのめかされ、司法取引を前提として捜査協力を続けてきた、とあります。

つまり、たしかに「合意内容書面」を作成する時点では客観的な証拠提供が中心だったのかもしれませんが、それまでの約2年半の間、MHPS役職員は、地検に様々な供述を行い、その供述をもとに検察側が客観的証拠の存否を確認し、合意内容書面を交わすかどうか、つまり司法取引を行うかどうかを判断したのではないでしょうか。そもそも合意内容書面の締結に至るまでの経緯をみれば、やはり供述に依存するところはあったのではないかとの疑念を抱きます。

最近の日本版司法取引に関する記事を眺めておりますと、「他人の犯罪」を申告する被疑者側がイニシアティブをとって検察と交渉できる制度、そしてその制度運用に関わるリスクが語られているように思われるのですが、そもそも今回のMHPSさんの事例は(FACTAの記事でも触れられているように)検察側の特殊な事情があって適用された可能性が高く、かなりレアな適用事例ではなかったか・・・と考えております。

つまり、司法取引と言いますが、被疑者側から持ち掛けて検察と容易に合意できるようなものではなく、まずは(供述等をもとに)検察側が十分に立件の可能性を判断し、その間は「アメ」もちらつかせず、取引することへの検察側のメリットが確認されて初めて取引が行われるというものであり、たとえば取引を持ち掛ける企業側としても、「持ち掛けて失敗する」デメリットも十分にあるということを認識しておくべきと考えます。上記FACTAの記事では、検察から司法取引を持ち掛けられたMHPS側が、「司法取引は自社のレピュテーションリスクを毀損する」としていったん断った・・・という点も、(おそらく弁護人候補者と相談して決めたとは思いますが)経営判断としては十分ありうるのでは・・・と。

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2018年11月 6日 (火)

スバル検査不正-なぜ社内不正終結宣言後に不正が続くのか?

スバルさんの一連の検査不正については、これまで当ブログでは取り上げておりませんでした。しかし、各紙で報じられているとおり、スバルさんは「一連の車の検査不正に関連し、規程を逸脱したブレーキの検査を今年10月まで続けていた」として「新たに約10万台のリコールを国交省に届け出る」そうです(東京新聞ニュースはこちら)。スバルさんの車のエンジンは縦置きではなく横置きということで、リコールは普通の販売店では対応できないため、これまでのリコールでもかなりの時間を要するそうですが、またまた対応がむずかしくなりそうです。

なお、上記東京新聞ニュースによると、スバルさんは一連の不正は昨年末に終結していたと説明していた、とのこと。昨年10月に最初の無資格者による検査不正が発覚してから、1年が経過した今年10月まで不正検査は続いていた、しかも今回は国交省による調査で発覚した、というのはどう理解したらよろしいのでしょうか?日産自動車、三菱マテリアルでも同様の事態がみられましたが、非常に理解に苦しむところです。素直に「まだまだ出てくるんじゃないの?」と想像してしまいますので、業績にも影響が出そうですね。

ところでスバルさんは今年4月27日、①完成検査工程における燃費・排出ガス測定業務の運用状況の実態、測定値の書き換えに関する事実関係、②上記事実関係等の原因・背景の分析、③再発防止策の検討を目的として、こちらの完成検査時の燃費・排出ガス測定に関する調査報告書 (社内調査報告書)を公表しておられますが、この後、9月には社外の弁護士による調査によってブレーキ検査の不正が明らかになっていました(毎日新聞ニュースはこちらです)。

4月の社内調査報告書によれば、測定数値書換えの原因について、適正値の範囲に収まらない結果が出た場合には上司からその原因究明を求められるが、その原因究明には時間を要するために安易な改ざんに至ってしまったとあります。おそらく忙しかったりしますと、検査の公益性に関する規範意識が薄れてしまい、不正が恒常化していったものと推測します。ただ、そのような原因だったとすれば、たとえば昨年10月の不正発覚や今年4月の調査報告書の公表、さらには9月の社外弁護士による調査結果をきっかけとして、社内でも「きっちりやらないとヤバいぞ」といった雰囲気が漂い、これまで発覚していなかった検査不正もピッタリやめてしまうのではないでしょうか。その後も不正が続いていたというのはなんとも不思議です。

やはり「不正は起こしてはいけない」という経営陣の思いが社内に蔓延していた、ということでしょうか。不正防止にリスク管理の重点が置かれ、「不正発見」「不正は起きる。起きた時にどうすべきか」といったリスク管理の思想は希薄だったと解釈すべきかもしれません。ぜひとも、このあたりの社風に関連する構造的な要因について、関係者の方々からお話を聞いてみたいものです。

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2018年11月 5日 (月)

企業統治改革が進むなかで「役員退職慰労金制度」も評価されるべきでは?

11月2日の日経夕刊「十字路」に、会社法に詳しい弁護士の方が「役員退職慰労金制度の是非」と題する小稿を書かれており、興味深く拝読いたしました。最近、同制度に関連する議案については、株主総会で最も反対票が集まるところでありまして、ご承知のとおり、役員退職慰労金制度自体を廃止する上場会社も増えています。しかし、この「役員退職慰労金制度」はそんなに悪い制度なのだろうか、使い方によっては株主にとっても有利ではないか・・・というのが上記「十字路」のご論稿の趣旨であり、私も同感です。

会社法上、取締役の退職慰労金は「役員報酬」に含まれるものと考えられていますので、株主総会決議によって金額等の決定をすべて取締役会に一任することは許されませんが、明示的もしくは黙示的にその支給基準を示し、具体的な金額・支払期日・支払方法等は基準によって定めるべきとして取締役会に一任することは許される、というのが最高裁判決の立場です。したがって、このような判例を前提として実務が運用されているとすれば、たしかに役員退職慰労金の具体的な決定プロセスの不透明性は否めないため、機関投資家から不評を買うことは理解できます。

ところで、機関投資家の方々から制度廃止の要請が強いといえば「相談役・顧問制度」も同様です。相談役・顧問制度については、(同制度にもそれなりに長所はあるので)私は一律廃止すべきではなく、指名委員会を構成する社外取締役が中心になって、実質的な支配権行使に出るような弊害をチェックすればよいという意見を何度も述べてきました。以前、当ブログのエントリー「社外取締役の活躍が期待されるトヨタの相談役廃止制度」でもご紹介しましたが、トヨタ自動車さんなども、このような制度運用を採用されているようです。

これと同様に、企業統治改革が進み、複数の社外取締役によって取締役会が構成されるようになった現在、「退職慰労金決定プロセスの不透明性」は、社外取締役の頑張りによって解消できるようになったのではないかと。上場企業を例にとりますと、今年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、社外取締役が過半数に満たない取締役会では指名・報酬に関する任意の委員会の設置が要望されています。この報酬委員会に社外取締役が積極的に関与していれば、役員退職慰労金の具体的な支給決定プロセスはかなり公正なものとして担保されるはずです。

また、上記「十字路」に書かれているご意見のように、もし支給基準等が株主総会で明確に説明されていないのであれば、議案の中で開示させることによることでも足りるのではないでしょうか。攻めのガバナンスが政府主導で推奨されるなか、中期経営計画を策定し、その遂行を通じて企業価値を向上させる仕組みが求められているのであれば、むしろ退職慰労金制度は十分なインセンティブになりうるのではないかと思われます。制度の短所を社外役員等の活用で補完することができるようになった今、むしろ役員退職慰労金制度をもう一度見直すことも検討してみてはいかがでしょうか。

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2018年11月 2日 (金)

続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制

10月30日のエントリー「代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」(以下「前回エントリー」と表記します)の続編であります。10月30日時点では、百十四銀行さんのスキャンダルがどのような経緯で表面化したのかわかりませんでした。しかし昨日(11月2日)発売のZAITEN12月号の記事を読み、ようやく納得いたしました。この百十四銀行さんの事件がZAITENで表に出る前に、同行が自社の対応を公表することにした可能性が極めて高いと思われます。

しかし地銀トップのスキャンダルを調べ上げ、(推測にすぎませんが)社内処分をリリースさせたZAITENもなかなか、ですね。本エントリーをお読みの皆様の会社で同じことが起きた場合、ZAITENさんの記事が掲載される前に動きますか?それとも様子見ですかね?

会長および執行役員とともに、取引先との宴会に同席させた「女性社員」とは、20代の入社まもない行員だったそうです。前回エントリーでは「幹部候補であれば問題ないのでは」と書きましたが、このZAITENさんの記事が真実だとすればちょっと元会長さん、執行役員さんを弁護する余地(善解の余地)はなさそうです。しかし本当に取引先の要望で新入の女性行員を同伴させたというのは・・・・・ちょっと信じられないですね(ZAITEN誌によると、現実に取引先から「セクハラの範疇を超えた不適切行為」があったということですから)。

また、前回エントリーでは、百十四銀行さんの内部統制やガバナンスには一定の評価が与えられるのでは・・・と述べましたが、ZAITENさんと百十四銀行さんの広報とのやりとりを読みますと、あまり社内処分や公表には熱心ではなかったことが窺えます。このようにZAITENさんのスキャンダル記事が掲載される予定を知って処分を公にした・・・・ということであれば、ちょっとガバナンスや内部統制を前向きに捉えることには躊躇いたします(つまり前記エントリーの一部を訂正したいと思います)。さらに、内部通報が同行に届いた事実は間違いないようですが、しかし通報事実がZAITENのもとに届いている事実も間違いないわけですから、同行の通報受理後の調査に問題があったことが推測され、この点からも内部統制が有効に機能していたかどうか疑問が残ります。

なお、前回エントリーにおきまして、

①けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、②穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、③そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところです

と書きましたが、ZAITENの記事を読んでも、そのあたりは明らかにはなりませんでした。とくに社外取締役が、当初の社内処分に異を唱え、外部弁護士による調査に持ち込んだ経緯については、上記記事にも何ら掲載されていません。むしろこのZAITENさんの詳細な記事と百十四銀行さんの記者説明とのギャップから推測しますと、銀行自身が自浄作用を演出したような穿った見方も成り立ちます(おそらくそんなことはない、とは思いますが・・・)。会長さんは社外取締役も辞任されたそうなので、今後は「これで収束」ということになるのかもしれませんが、ZAITEN記事によって真相はさらに闇の中に埋まっていくような気がいたしました。百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスが果たして評価できるものであったのか、それとも私の推測が間違っていたのか、どこかで第二報が出てくることを期待しております。

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2018年11月 1日 (木)

公取の新型武器(確約制度)でAmazonを狙い撃ち?

新聞報道のとおり、TPPの発効日が今年12月30日となりました。ということは独禁法の確約制度(確約手続)が12月30日から施行される、ということですね。

公正取引委員会から「確約手続に関する対応方針」(9月26日付け)が公表されておりますので日本企業はそちらでご準備いただくわけですが、本日の毎日新聞ニュースにあるとおり、来年早々からグーグルなどのプラットフォーマー向けに、公取委が実態調査に乗り出すそうです。

たしか今年3月、公取委はAmazonさんに独禁法違反の疑いで立ち入り調査をされていたようなので、まずは「日本企業の下請化」を阻止するためにも、Amazonさんを筆頭にGAFAあたりがターゲットになるのではないかと勝手に推測しております(あくまでも勝手な憶測です)。

これから独禁法に詳しい法律家の方々の需要が増えるかもしれませんね。また、内部通報制度の活用にもますます関心が寄せられるものと思います(ちなみに10月31日、和歌山地裁で「内部告発者への懲戒処分は無効」とした重要判決が出た模様です 朝日新聞ニュースはこちらです。追ってまた感想を述べたいと思います)。

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«KYB免震偽装事例と公益通報者保護法の改正に向けた立法事実