2018年1月17日 (水)

社外取締役は「見ざる聞かざる言わざる」が得策?

本日(1月16日)の日経新聞朝刊に「社外取締役の義務化」に関する会社法改正関連の記事が掲載されていました。大会社に社外取締役の選任を義務付けた場合、もし社外取締役が辞任して「ひとりも社外取締役がいない状態」になったら取締役会は開けるのだろうか・・・といった疑問もあり、果たして会社法で義務化する必要はあるのかな・・・とも思います。

ところで判例時報の最新号(2351号)に、AIJ投資顧問年金消失事件に関連して、ITM証券の社外取締役、常勤監査役が同社破産管財人から提訴されていた裁判の判決が掲載されています(東京地裁平成28年7月14日)。結論からすれば、いずれも請求は棄却(つまり社外取締役さん方の勝訴)となっていますが、要は「年金基金等に金融商品を不正に販売するにあたり、社内取締役の違法な業務執行を行っていることを疑わせる事情が存在し、かつ、社外取締役らがその事情を知り得ることが(法的責任を認めるにあたり)必要」としています。

判決では、その「違法な業務執行を行っていることを疑わせる事情」の存否、「知り得る状況」の存否について詳細に検討されています。ただ、上記のような基準で検討するとなりますと、そもそも社外取締役って、見ざる聞かざる言わざるが一番法的責任を免れるには得策ではないか、と思えます。熱心に監査活動を行って社長の不正を知ったにもかかわらず、これを止めることができなかった監査役さんのほうが、海外往査といいながら、愛人と海外バカンスを楽しんでいる監査役よりも厳しく責任を追及されるって、どうなんでしょうかね?(笑)「ガバナンス改革」のもと、社外取締役の積極的な経営参画、監視機能の発揮が求められていますが、「一生懸命社外役員として頑張れば頑張るほど法的責任が認められやすくなる」というのはいかがなものでしょうか。

社外取締役や監査役の監視義務、監査義務を熱心に果たしたほうが馬鹿を見ない結論に至るためには、①違法性を認識しうる状況をなぜ構築できなかったのか、②業務執行の違法性を認識しうる状況が存在したにもかかわらず、なぜ当該社外取締役は認識しえなかったのか、といったところまで遡って、「信頼の原則」を適用するほうが妥当ではないでしょうか。

 

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2018年1月12日 (金)

子会社不正について「親会社による公表は不要」なる選択肢

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週刊エコノミストの最新号(1月16日号)に、拙著「企業価値を向上させる実効的な内部通報制度」の書評を掲載いただきました。おかげさまで、アマゾンのランキングもそこそこ復活してまいりました(どうもありがとうございます)。以下本題です。

1月11日の毎日新聞1面および2面では、ガラス最大手の旭硝子さんの子会社(AGCテクノグラス社)が、2015年以降、実験や臨床検査に使われる「遠沈管」の一部について、必要な検査項目の一つを実施していない製品を大学や研究機関に納入し続けていたことが報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。とりわけ同紙2面記事では、子会社不祥事について親会社が会見をせず、また子会社HPのみで不祥事を公表している親会社(旭硝子社)の情報開示姿勢に疑問を投げかけています。

会見を開くかどうかは、不祥事の軽重によって会社側の裁量に委ねられるところが大きいように思いますが、たしかにグループ会社のHPのみ公表しながら親会社では一切公表しないという「公表判断」については少し考えてみる必要があると思います(なお、親会社である旭硝子さんは、今回のマスコミ報道を受けて1月10日に親会社HPで簡略に不適切行為の内容を公表しました)。

親会社側は、経営幹部の方が「(品質検査を実施しなかった製品については)消費者が使う製品でなく、不正な保証書を出した納入先もわかっていたため、問題ないと判断した」と釈明しておられるようです。ただ、子会社の公表文章を読みますと、品質検査の未実施が2015年2月から開始されていたとのことで、約3年間も続いていたことがわかります。品質検査書の偽装が特定の社員によってなされていたとしても、ほかの社員も「見て見ぬふりをしていたのではないか」つまり組織ぐるみのルール違反ではないか、との疑問も湧きます。また、取引先への製品回収等に関する呼びかけがなされていますので、子会社HPのみでの広報で本当に情報収集の姿勢に問題がないのか、これも疑問が生じるところです。さらに、親会社の方が説明されているような理由であれば、子会社でも公表する必要はなかったのではないか、と思います。わざわざ子会社だけで公表した、というのは、(少なくとも文面を読んだかぎりでは)内部通報者に外部へ情報提供をさせないための方策に過ぎないのではないか、とも疑われそうです。

他社事例では、公表しない不祥事は一切しない、公表する場合には親会社と子会社双方のHPで公表する、といった取扱いケースが多いのではないでしょうか。「不正が重要とは判断しなかったので一切公表しなかった」といった理由は明確ですが、子会社では重要だが、親会社では重要とは思わなかった、という理由は果たして世間的に理解されるのかどうか。今後、他社でも同様の公表姿勢が選択肢のひとつになるかもしれませんので、少し考えてみる必要がありますね。

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2018年1月11日 (木)

特設注意市場銘柄指定制度におけるプリンシプル・ベースの運用

昨日(1月9日)の日経朝刊(私見卓見)に、日本取引所自主規制法人理事長による「東芝問題と『建設的曖昧さ』」なる小稿が掲載されました。ご承知のとおり、昨年10月、取引所自主規制法人は、特設注意市場銘柄に指定されていた東芝社について、指定解除と上場維持を決定しました。この自主規制法人の措置については、市場関係者の方々から「判断基準があいまいで投資家を混乱させた」と批判されており、上記論稿は、これに応える内容となっています。

私にとって、「特注銘柄指定制度の運用はプリンシプルベースといってよいのかどうか」よくわからなかったところでしたので、理事長ご自身の見解とはいえ、「やはりプリンシプル・ベースに基づく運用がなされるのだ」と認識できたことは「一歩前進」でした。この理事長の見解についてはご異論・ご批判もあるかとは思いますが、金融庁長官を務めておられた頃の「金融規制の質的向上:ルール準拠とプリンシプル準拠」(平成19年当時)で述べておられるご意見と、ほとんど変わっていないと思います。「建設的な曖昧さ」という概念は、銀行監督の世界では標準的な考え方とのことですが、この概念を一般の上場会社への(取引所による)監督にも適用する、ということの意味が大きいように思います。

たしか2010年に理事長(当時:金融庁長官)が執筆された「金融行政の座標軸」の中で、上場会社に適用される内部統制報告制度には、日本でもめずらしいプリンシプル・ベースでの法運用を前提とした規制手法を採用した、と書かれていました。特注銘柄制度においても、内部管理体制の構築状況を判断基準とする以上は、プリンシプル・ベースに準拠した運用がなされているとしても不思議ではありません。ただ、私見卓見では「ルールベースとプリンシプルベースの微妙なバランス」のうえで運用すると述べられています。特注銘柄制度が制裁ではないとしても、上場会社の事業に重大な影響を及ぼす制度である以上、(どのような場合に指定され、また上場廃止になるのか、もしくは指定を解除されるのか、といった)予見可能性についても一定の配慮がなされていると思われます。

では、予見可能性にも配慮した運用ということであれば、東芝社が指定解除となった要因はどこにあったのでしょうか。この点は、いままであまり議論されていないように思います。ひょっとすると理事長個人の見解として、文藝春秋2017年12月号の手記や週刊東洋経済のインタビューで述べておられた意見が参考になるのかもしれません。ただ、私の推測としては、①米国子会社WH社における内部統制上の不備(経営幹部への圧力をかけたとされる)に関する通報内容を速やかに開示した姿勢、②債務超過が明らかとなった後の解消に向けた一連の経営判断が、社外役員を中心とした取締役会が主導したこと、そして③現社長が、東芝グループに向けて「現場の不都合な事実はすみやかに情報提供してくれ」と何度もメッセージを繰り返してきた姿勢、といったところではないでしょうか。

上記はあくまでも私の推測ですが、こういったプリンシプルベースの規制手法を適用するのであれば、判断主体である取引所の考え方を、事後的にも開示することが「予見可能性」との折り合いからみても妥当な気がします。なぜ東芝についてはこの時期に指定解除という決定に至ったのか、たしか報道では反対意見もあったように記憶しておりますが、公式にも示していただければある程度は予見可能性にも配慮していると評価されるのでは・・・と思う次第です。

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2018年1月 9日 (火)

相次ぐ企業不祥事-最新事例から導く『ガバナンス』を機能させる視点と実践策

本日はお知らせでございます。ひさしぶりに東京でコンプライアンス経営に関する一般向けセミナーを実施することになりました。みずほ総研さんにご協力いただいたものでして、「最新事例から導く『ガバナンス』を機能させる視点と実践策」と題する講演でございます(副題は「不祥事の抑止・早期発見、有事対応に不可欠な、健全なガバナンス構築とは」とついております・・・かなり長い 笑)。すでに30社ほどからお申込みをいただいておりますが、当ブログをお読みの方々にも、ぜひご聴講いただきたく告知させていただきます。

今朝(1月8日)の日経朝刊11面(法務面)でも「汚職リスク 投資家が評価」と題する詳細な特集記事が掲載されていました。資本市場がSDGs(国連の持続可能な開発目標)への関心を高める中、長期リターンを目指す機関投資家の期待に応えるために、不正リスクを低減させるためのガバナンスを対外的にアピールすることはとても重要です。当ブログでも、昨年8月にこちらのエントリーにて「コード・オブ・コンダクトの実効性」を(清原健弁護士の小稿を引用しつつ)紹介しております。このあたりは海外企業はかなり先行しています。

上記日経記事にあるように、2017年後半からDOJ(米国司法省)は、ふたたび海外企業のFCPA(外国政府高官への贈賄禁止)違反への摘発を強めており、日本企業の摘発も例外ではありません。汚職だけでなく、不正についても捜査の手が延びていることは最近の神戸製鋼さんへのDOJの書類提出要請からもうかがわれます。記事中の信越化学工業さんや三菱商事さんのように、平時からの防止体制を積極的にアピールする企業も出てきています。とりわけ日本では、健全なリスクテイクに向けた「ガバナンス改革」が進む中でのアピールなので、攻めと守りのガバナンスは一体的に考えることが不可欠です。ということで、上記のようなタイトルのセミナーを緊急開催することといたしました。みずほ総研さんのHPでの告知文を以下引用いたします。

不正会計、品質データ改ざん、情報漏えい、労基法違反など、日本を代表する名門企業における不祥事が連日報じられていますが、とりわけ業績に大きな影を落とす不祥事が目立ちます。不祥事対策というと、どうしても有事の対応ばかりが注目されますが、実は平時の健全なガバナンスの構築こそ、不祥事の抑止、早期発見、そして信用回復の場面に欠かせません。また、ガバナンスの「攻め」と「守り」は表裏一体の関係です。 本セミナーでは、「攻めのガバナンス」への真摯な取り組みが不祥事防止につながり、また「守りのガバナンス」への取り組みが中長期的な企業価値向上、競争力の強化につながることを、精神論ではなく実践論として解説致します。企業法務分野を専門とし、大手企業の社外取締役や社外監査役を務め、コンプライアンス経営の最前線に立つ講師が、最新の事例を交えながら説明致します。

昨年話題となった「原因と結果の経済学」ではありませんが、企業不祥事の発生原因やガバナンス構築と不祥事防止の関係といったことについても、「因果関係があるのか」「単なる相関関係にすぎないのではないか」といったところの検証が必要だと思います。また文化心理学の発想による「ボスだけを見る欧米人、みんなの顔まで見る日本人」ではありませんが、議決権行使助言会社や機関投資家が企業を見る目を意識することも必要だと思います。まだまだ試論にすぎませんが、持続可能な企業経営に必要なコンプライアンスについて、私なりの(精神論ではなく)実践論を3時間半の講演でお話したいと考えております。みずほ総研さんのセミナーということで、お値段は若干高め(?)ですが、お時間と興味がございましたらぜひ内幸町のセミナールームにお越しいただければ幸いです。

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2018年1月 5日 (金)

社外取締役の活躍が期待されるトヨタの相談役廃止審査制度

今朝(1月4日)の毎日新聞(東京版)7面には「主要121社アンケート」の集計結果が掲載されていまして、「相談役・顧問制度を今後廃止する」と回答した企業はわずか2%しかありませんでした。そもそも制度が存在しない企業もあるかもしれませんが、それなりに相談役・顧問の存在が企業価値向上に資するものと(表向きには?)判断している企業が圧倒的に多いようです。東証に提出するコーポレートガバナンス報告書には、今月以降新様式による「相談役・顧問に関する事項」が記されることになりますが、どのような開示実務が定着するのか楽しみですね。

ところでトヨタ自動車さんは新たに「相談役審査制度」を今年から導入するそうです。現在同社には50名ほどの相談役がいらっしゃるそうですが、同社の社外取締役の方々が、相談役任期を更新するかどうかを審査したうえで決定するシステムに変更するとのこと(中日新聞ニュースはこちらです)。これは私が昨年の週刊エコノミスト(2017年9月26日号)や雑誌「ビジネス法務」(2017年12月号)の論稿で提案させていただいていたシステムに近いものであり、私も推奨したいと思います。

ただ、審査の主体となる「役員人事案策定会議」ですが、社長、副社長らが委員の半数を占める(社外取締役は半数)中で、果たして社外役員の方々が「忖度抜きに」判断できるかどうかは微妙なところではないでしょうか。本当に社外取締役が機関投資家の意見を代弁する立場にあるならば、(社外取締役の職務としては厳しいものではありますが)ぜひ社外取締役が中心になって審査制度を運用していただきたいと思います。できれば「そもそも当社に相談役・顧問制度は必要なのかどうか」という点まで審査対象にしていただければと。

さらに、相談役制度存廃への社外役員の関与において懸念事項とされるのは、「出身企業の相談役・顧問をやりながら、他社の社外取締役を務めている経営者OBが多い」という現実です。ガバナンス改革が叫ばれるようになった3~4年ほど前から、「社外取締役には経営者OBが最適である」というのが通説となり、大きな上場会社では経営者OBの社外取締役さんが増えています。したがって当然のことながら、出身企業の相談役・顧問を続けながら他社の社外役員(社外取締役、社外監査役)を務めるケースも増えているようです。そのような方々が、ご自身の身分をさておいて「相談役や顧問として残る必要なし」と公正な立場で審査できるかどうか不安があります(トヨタさんの場合、どうなのかは存じ上げませんので、あくまでも一般論ですが)。

最近の議論として、「社外取締役の受け手を増やすために、相談役・顧問制度を廃止せよ」とか「経営者OBは外に出て日本企業の発展に寄与せよ」とのフレーズで、「社外取締役?OR相談役?」を迫りますが、そもそも相談役を務めながら社外取締役に就任しているケースが多いのですから、そのような議論は少し的外れではないかと考えています。

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2018年1月 3日 (水)

謹賀新年

皆様、明けましておめでとうございます。今年はやや正月休みも短めで、4日、5日あたりから仕事始めの方も多いのではないでしょうか。

さて、PCでお読みの方はおわかりのとおり、約10年ぶりにブログのメインページを更新して、シンプルな構成に変更いたしました。サイドバー項目も、あまり活用されないものは非公開にしました。といいましても、まだ工事中でして、表紙に使いたい写真を現在作成中でございます(もう少し見栄えの良いものにしたいと思っております)。

今年も楽しい法務ブログを書きたいと思っております。どうかよろしくお願いいたします!

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2017年12月29日 (金)

年末年始に読みたい-企業不祥事調査報告書のおススメはズバリこれ!

日産自動車、亀田製菓、東レ、ミクシィ、三菱マテリアルと、連日のように企業不祥事に関する調査報告書が開示されています。また、神戸製鋼の第三者委員による調査は2月まで続行されるようで、年末にかけて多くの調査委員会報告書がマスコミの話題になりました。12月28日には、某社(証券コード2388)において、不適切会計事案に関する第三者委員会報告書をもとに、会計監査人が「限定付適正意見」を表明する事態に発展しています(限定付適正意見は今年3件目でしょうか、監査法人も限定付適正意見を表明することに躊躇がなくなるかもしれませんね)。

そのような中で、あまりマスコミでは取り上げられていませんが、たいへん秀逸であり、皆様にご一読をお勧めしたいのが12月27日にリリースされたJA全農神戸食肉偽装事件に関する特別調査委員会報告書です。JA全農の常勤監事さん等が委員に含まれているので日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会とはいえません。しかし「中立公正な立場でJA全農を取り巻くステイクホルダーへの説明責任を果たす」といった委員の思いが報告書の読み手にも伝わってきます。ちなみに食肉偽装事件の概要は、こちらのニュースをご参照ください。

なぜ「おススメ」かといいますと、お読みいただくとおわかりのとおり、認定事実、原因分析、再発防止に向けた提言等すべてとてもわかりやすい文章で「一般の方に向けて」書かれています。一読すれば、ほぼ事件の全容が頭に入ります。とくに委員の質問とヒアリング対象者の回答、全社アンケートへの社員の回答例がとても効果的に使われていて、JA全農におけるコンプライアンス経営の課題が明確に浮かび上がってきます(この手法は当該委員長の好みの問題かもしれませんが、他社が題材としてコンプライアンス経営を学ぶうえではとても参考になります)。

JA全農神戸直営レストランにおいて、料理長が「神戸牛フィレ」と偽って「但馬牛フィレ」を長年使っていた(偽装していた)わけですが、発覚はJA全農への第三者(と思われる)による情報提供だったそうで、残念ながら内部通報は確認されませんでした。JA全農神戸では、実はそれなりに内部通報制度は機能していたようです。ではなぜ本件では機能しなかったのか、そこにスコープをあてて、料理長の不正を知りつつ何も言えなかった関係者の証言を詳細に紹介しています(この手法はたしか日本交通技術社の海外贈賄事件の報告書やゼンショー労働環境改善に関する報告書などでもみられたような・・・)内部通報制度を機能させるための提言についても傾聴に値する内容であり参考にさせていただこうかと思っております。

料理長がなぜ偽装に手を染めたのか、その動機についても、また不正を正当化する理由についてもリアルです(このリアル感は、他社にも参考になると思います)。さらに「監査制度がなぜ機能しなかったのか」という点も重要なポイントです。報告書を読むかぎり、少しの努力で料理長の不正は見抜くことができたように感じます。職人に対する遠慮があることや、監査人に職業的懐疑心が欠けていること等から、簡単に見抜くことができそうな不正でも(この言い方は多分に「後出しジャンケン」なので、あまり好みませんが)見抜くのが困難であることがわかります。JA全農神戸が本件偽装事件を起こした最大の原因は、実はこの監査の脆弱性にあったのではないか、と委員による指摘がなされていますが、その意見の前提となる「いかに容易に見抜けたか」という点の説明が実に巧い(ここも参考にさせていただきます)。

委員の方も、報告書の最後に「この事件を機会に、全農でも本報告書を教材として使っていただきたい」と書かれていますが、他社でも十分に教材として活用できるものと思います。しかし報告書を読んでいて、こんなにお腹がすいてきたりヨダレが落ちそうになるのは初めてでした(^^;。神戸牛にしても但馬牛にしても、関西人にとってはまさに「垂涎のブランド」なのです。

※※※

今年のエントリーはこれでおしまいです。今年も拙ブログを御愛読いただき、ありがとうございました。本日も、関与している事件で「ギョッ!」とすることが発生して、到底「仕事納め」にはなりませんでしたが、とりあえず(強制終了で?)来年に持ち越しです。本当にジェットコースターのような一年でしたが、ブログを書く時間が「ひとときの息抜き」となりました。来年も健康に留意しつつフル回転で本業に没頭いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。では、皆様良いお年をお迎えください<m(__)m>

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のぞみ34号台車亀裂事件-JR東海運行責任者への称賛こそ重要

12月11日に発生した「のぞみ34号台車亀裂事件」ですが、台車の亀裂が発見されたことで新幹線開業以来初めての「重大インシデント」として取り扱われています。マスコミは、なぜJR西日本の関係者が新大阪駅で緊急検査をしなかったのか、安全性軽視の姿勢は福知山線事故以来変わっていないのではないか、と批判をします。

社員間の情報伝達ミス、JR東海への引継ぎミスは批判されても当然であり、一歩間違えれば大惨事につながりかねなかったことを考えますと、再発防止策を真剣に検討しなければならないことは誰も否定しません。重大な事件を契機に、可能な限り亀裂に至ったプロセスを分析することも(私は専門家ではないのでどこまで可能なのかはわかりませんが)必要なのでしょう。ただ、私がこの事件において一番関心を抱いたのは、名古屋駅での緊急検査および運行休止を決断したJR東海の運行関係者の姿勢でした。

のぞみ34号が京都駅を出発した時点で、13号車付近で異臭を感じた(JR東海の)車掌さんがいらっしゃったそうです。とくに乗客からの苦情もなかったようですが、「異臭」から新幹線ダイヤを大幅に狂わせてでも緊急検査が必要と判断したことに躊躇はなかったのでしょうか。さらに名古屋駅の緊急検査で判明したことは床下のオイル漏れでした。その時点でも台車の亀裂までは発見していませんが、乗客約1000名を別の列車に移して運行を止める行動にも躊躇はなかったのでしょうか。

異臭の原因はたいしたことではなかったとなれば、「人騒がせな緊急検査で多くの乗客が迷惑を受けた」「ダイヤの混乱を生じさせた」と言われ、「本当に異臭がしたのか?」「車掌の疲れが原因だったのではないか?」と逆に責められる可能性もあるでしょう。しかし、私は台車の亀裂が見つからなかったとしても、このJR東海の車掌さんの行動こそ称賛されるべきであり、また「ダイヤを混乱させ、結果としてたいした故障が発見されずとも、乗客の安全のために新幹線は止めるべし」とするJR東海の組織風土こそ重要だと考えます。

毎度申し上げるとおり、こういった発想には副作用が伴います。「たいした故障でもないのに新幹線が頻繁に遅れて乗客に迷惑だ」「一部の新幹線の検査で東京から博多まで全ての列車が迷惑する」「こんなに故障が多いとなれば安全神話も昔の話、世界への売り込みもできなくなるだろう」などと揶揄されることになります。しかしどんなに整備を万全にしたところで事故は100%防止できるものでもなく、また人的ミスも同様です。だとすれば(間違っているかもしれないけど、みんなのために警告を出そう、という意味で)「オオカミ少年」を許容する寛容さを社会に求めることまでは無理だとしても、せめて鉄道会社自身としては組織風土として構築しておかねばならないと考えます。

重大な事件の発生を踏まえて、JR西日本では「運転停止判断のための緊急時のルール作り」「亀裂を感知するセンサーの設置」「目視だけに頼らない事前検査体制の整備」といったことが再発防止策として実施されることになると思います。しかし、いくら体制を整備しても、人間は有事を有事として捉えることには限界があります(人は常に平時でいたいというバイアスが働きます)。おそらく危機に直面した社員にマニュアル通りに合理的な判断を求めることはむずかしい場面があると思います。

だとすれば、「乗客の安全を最優先とした判断は、たとえ結果が間違っていても称賛する」といったメッセージが求められるのではないでしょうか。JR西日本の組織風土に問題があるとすれば、そのようなメッセージをいかにして社員の方々に浸透させることができるか、そこに光を当てることが有用ではないかと。いろいろとご異論もあろうかとは思いますが、短期的に見れば企業の利益を損ねる行為かもしれませんが、長期的にみれば企業の競争力(ひいては新幹線の国際的信用力)を高めることにつながると思います。

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2017年12月28日 (木)

東レ有識者報告書の教訓-「働き方改革」は企業不祥事を誘発する

内部通報の外部窓口を担当していて、最近通報が増えていると感じるのが幹部社員の長時間労働です。昨日(12月26日)の毎日新聞ニュースでも、ジタハラ(時短ハラスメント)によって自動車販売会社の店長さんが過労自死に至った、との疑惑に関する報道がありました。来年は、ジタハラはさらに深刻な問題として取り上げられるようになりそうです。

ところで本日、東レ(子会社)品質検査データ改ざん事件に関する有識者報告書が公表されましたので、さっそく全文に目を通しました。外部有識者による報告書ですが、第三者委員会ではないので、自ら改ざんに関する事実認定や原因分析を行ったわけではありません(社内調査やその後の対外対応に至った会社行動が妥当だったかどうかを検証することが目的だそうです)。しかし、上記報告書によって社内調査の詳細、東レ社としての原因分析の結果等が判明したので、事件の内容がとても理解できました。

いろいろと参考になる記述がありましたが、とりわけ目を引いたのが東レハイブリッドコード社における品質保証室長(改ざんした2名の室長)の勤務状況でした。同社では(当時)品質保証室は社長直轄部署で、部長待遇の室長1名と6,7名の品質保証部社員で構成されていたそうです。そして品質保証部社員の方々は、ほとんど定時に帰るのですが、社員が算出したデータをもとに品質検査証明書を作成するのが室長の役目とのことで、深夜まで仕事をされていたそうです。ときどき「これって規格外の品質ではないか?」と思い、製造部門に連絡をしても「それはアナタの部署の検査方法に問題があるんだろ!もう一回検査してみろよ!」と拒絶されることもあったようです。

組織間の力学バランスの歪みが不正の要因だったものと私は考えていますが、上記有識者報告書を読んだかぎりでは、「このような不正はどこの組織でも起きる。とりわけ働き方改革を『システム』として採用している企業はかなり危ない」と感じました。部下に残業をさせず、定時に帰らせることに中間管理職が気を遣うことになれば、これまで以上に幹部職は仕事を抱えます。納期を守ることや他の部署に迷惑をかけないことのほうが不正に手を染めることよりも大切と思えてきます。もちろん品質に関する法令に違反するわけでもなく、また消費者や相手方にも迷惑をかけないのだから・・・といった「正当化根拠」、自分だけで不正を完結できるといった「機会」も要因ですが、やはり動機・プレッシャーの要因が一番大きいはずであり、今後は働き方改革への対応が拍車をかける気がします。

国を挙げての「働き方改革の推進」ですが、経営管理部門が現業部門にシステムを押し付けるだけでは不祥事の芽になってしまいます。人を増やす、納期を遅らせる、仕事量を減らす、といった「事業の効率性のジレンマ」とどう折り合いをつけるか・・・、つまりシステムではなく経営判断の一環として取り組む姿勢がなければ同様の不祥事はかならずどこの企業でも増えるものと予想します。究極的には社員の「個」の力を高める方向で対応するのか、それとも組織力を高める方向で対応するのか、おそらく社長の決断が必要であり、社長は「働き方改革」の難題から逃げないことが求められるのではないでしょうか。

東レ有識者報告書では、規格から大きく逸脱していたデータについて、品質保証室長は改ざんに至っていなかったとして、「安全性には問題なかった」と結論付けています。ただ、調査対象となった期間内に、どれだけの規格外データ報告案件があり、そのうちのどれだけが廃棄処分となったのか定量的な調査結果は示されていませんでした(この点は、とても重要なポイントだと思いましたが・・・ひょっとすると企業秘密に関わる事実なのかもしれません)。もし、品質保証室が他の部署に何も言えない雰囲気が存在していたのであれば、検査方法に問題があったとして、そのまま不問に付している可能性もあり、安全性確認にやや疑問が残ります。また、品質保証室長に与えられていた「権限内の修正行為」と「改ざん行為」との区別もあいまいです。いろいろと素朴な疑問は湧いてきますが、ただ上記有識者報告書は、他社でも発生する不祥事への教訓を多く含むものと言えます。

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2017年12月27日 (水)

企業法務2018年の展望(会社法務A2Z)

すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、本日(12月26日)より日経ビジネスオンライン記事として、「謝罪の流儀2017 残念ながら御社でも不祥事は起きます」なるタイトルで、当職へのインタビュー記事が掲載されました(取材当時は、某社の支配権争いの交渉が佳境だったので、かなり表情が疲れているように思います 笑)。近時の企業不祥事への意見だけでなく、私なりのコンプライアンス経営への見方等、語らせていただきましたので、ご興味のある方はご覧いただければ幸いです。

P_20171226_214441_400_4 さて、もうひとつお知らせでございます。会社法務A2Z(第一法規)2018年1月号の特集「企業法務(テーマ別)2018年の展望」におきまして、「危機管理・不祥事対策」を執筆いたしました。この企画は毎年A2Z誌では好評だそうですが、今年も担当させていただきました(なんとなく、同じ人が同じテーマで担当しているような気がしますが・・・)。もちろん2017年の展望とは内容はかなり異なります。2017年はかなり「展望」が当たっていたと思いますが、2018年はどうなりますか(笑)、法務に関わるご担当者の皆様にはお読みいただきたいと存じます。

今年は29日まで、まだまだ仕事が続きます。弁護士の視点から、とてもおもしろい仕事が多いので、また守秘義務に反しない範囲で(少し落ち着いたら)ブログ等で紹介できるかもしれません。

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