2021年4月13日 (火)

東芝のバイアウト戦略(?)こそガバナンス・コードの趣旨を実現したものでは?

(4月13日午前 追記)

会社法規則の内容まで織り込んだ改訂版の会社法関連書籍も、いよいよ4月22日の江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」の発売でほぼ一巡の様子となりますね。会社法の改正では日本の会社は変わらない(法律時報86巻11号65頁)、コーポレートガバナンス・コードが「攻めのガバナンス」に資するなど、諸外国でも聞いたことがない(「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」早稲田法学92巻1号95頁)と、近時の企業統治法制について厳しい意見を述べておられる江頭先生が、令和元年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コート再改訂版の施行を念頭に、どのような改訂版を出されるのか、たいへん興味があります。

さて、上記ご論文「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」(2016年)の中で、江頭先生はコードによって要請されているような事項の遵守は、上場会社の資本コストを下げる(エージェンシーコストを下げる)ことには役に立つかもしれないが、そもそも「攻めのガバナンス」つまり持続的な成長(中長期的な企業価値の向上)には役に立たない、と指摘しておられます。「いやいや、独立社外取締役が増えることでCEOの選解任に社外取締役がボードの主導権を握り『攻めのガバナンス』は実現できるではないか」との意見もあるかもしれません。しかし江頭先生は「もちろん社外取締役が外からCEOを連れてこれるなら別だが、そこまでできる社外取締役などおそらく存在しないだろう」と看破しておられます(ホント、その通りかと)。

そのうえで、コードには要請されていないものの、もしコーポレートガバナンス・コードの趣旨(中長期的企業価値の向上、攻めのガバナンス)を実現させるコーポレートガバナンスの手法があるとすれば、それは「バイアウトファンドによる買収」以外にはないとおっしゃっています(同上114頁)。-バイアウト・ファンドによる買収は、経営者によるリスクテイクを容易にし、経営者・従業員の生産性を向上させると主張されているが、そうであるならば、当該手法はまさに「会社の持続的な成長」をもたらすコーポレートガバナンスの手法といえよう、とのこと。

いままさに東芝は、アクティビストファンドの大株主によって経営判断の一部を握られ、もはや資本コストを低減させることがむずかしい状況にあります。そうなると、CVCによる買収こそ、東芝に残された唯一の企業価値向上のための手法ではないか、という理屈も成り立ちそうです。もちろん、これは理屈、理論の世界の話であって、私の個人的な意見としては、前のエントリーでも述べたように、すでに官民で(日経さんも含めて?)ストーリーが出来上がっているのではないかと推測いたします(なお、私は当該ストーリーについては賛否はとくに表明しておりません)。そして上記の理屈が当該ストーリーの正当性・合理性を担保することになりそうな気もいたします。

このような事前のストーリー作りが許されるのは、東芝が廃炉技術や解読不能な暗号技術など、国益に関わる有形無形の資産を保有する「特別な会社」だからであります。重大な経営判断に至るプロセスの透明性、公正性が要求されることは当然であり、社外取締役の方々を中心とした議論が必要ですが、けっして「社外取締役が中心となって議論したこと」が、上記ストーリーのお墨付きを与えたことにならないように、それぞれの社外取締役の個人的な意見も外からわかるような工夫が必要かと思います。

4月13日午前 追記:朝日新聞朝刊(13日)によると、東芝は社外取締役や法律・会計の専門家を含めた特別調査委員会を設置する方針を固めたそうです。ぜひ調査委員会の活動内容についても明らかにしていただきたいですね。

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2021年4月12日 (月)

再生可能エネルギーの活用は本当にESG経営と言えるのか?

スマートジャパンの4月7日付けニュース記事によりますと、国立環境研究所の全国調査の結果が公表され、太陽光発電で失われた土地で最も多かったのが「里山」だった、とのこと。つまり、この調査結果からしますと、日本において太陽光発電を推進するとなると、一方において環境破壊が進む可能性がある、ということになりそうです。すでに海外では海洋での太陽光発電技術も進んでいるようですが、日本では「塩害」のために海洋付近ではむずかしいとされており、そうなりますと今後は「里山」を切り開いてでもエネルギーの転換を進めざるを得ないのでしょうか。それならそれで環境破壊への対応も併せて検討しなければサステナブルとは言えないように思います。

最近、個別企業の統合報告書等において、自社のカーボンニュートラルへの取組みとして、再生可能エネルギーへの転換を謳う企業が増えていますが、それはクリーンエネルギーへの転換のためであれば環境破壊もやむをえない、というメッセージになりはしないでしょうか。もし再生可能エネルギーを活用するのであれば「それはどこで作られた再生可能エネルギーなのか」という点で活用するエネルギーの価値も変わるのではないかと。

4月11日の時事通信ニュースでは、ユニクロのフランス法人がNPO法人から刑事告発を受けたことが報じられていますが(中国・新疆ウイグル自治区での人権問題をめぐり、ウイグル族を支援するフランスのNGOなどは9日、少数民族の強制労働で恩恵を受けているとして、人道に対する罪の隠匿の疑いで「ユニクロ」の仏法人を含む衣料・靴大手4社をパリの裁判所に告発したと明らかにした、というもの)、これまでは本件に関するファーストリテイリングCEOの会見での対応のように「政治的は意見についてはノーコメント」でよかったのかもしれません。

しかし、これだけESG経営への前向きな姿勢が海外から注目を集めるようになると、「ノーコメントは問題解決に消極的な姿勢」と推定され、消費者やNPO団体から厳しい指摘を受けます。私個人の考え方としては、ノーコメントを貫くことも日本企業の戦略として妥当ではないか(経済安保の情勢のなかで、そもそも簡単に結論を出すべき問題ではない)と思いますが、昨年12月、こちらのエントリー「ESGへの取り組みは加点主義なのか、減点主義なのか?」でも、花王の社長さんの発言をご紹介しましたが、ESGへの前向きな取り組みは、一方において新たな人権侵害や環境破壊の要因となることを認識すべきです。そのバランスをどう調整していくか、というところまでの取り組みが必要ではないでしょうか。

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2021年4月 9日 (金)

組織風土の違いを感じる東芝(内部告発)と日立(内部通報)の有事対応

昨日の東芝のCVCによる買収提案受領のニュースに続き、本日は日立が上場子会社である日立金属をベイン(連合)を売却先に選定したことが報じられました。国益に大きな影響を及ぼす日本企業というところでは同じですが、海外ファンドから株式非公開化を目的とした買収提案を受けた東芝と、重要子会社(日立金属)を海外ファンド連合へ売却を決めた日立では、どれくらい「組織風土」に違いがあるのでしょうか。

東芝の場合、自身の会計不正事件については金融庁への2名の社員による内部告発が事件発覚の端緒だったわけで、当時は「自浄能力の欠如」と言われました。もし、あの内部告発がなかったら、いったいどうなっていたのでしょうか?ほかにも内部告発者が現れて、遅かれ早かれ会計不正は発覚していたのか、それとも今でもうまく隠蔽し続けていたのか。とくに根拠はありませんが、私は今でも債務超過は上手に隠され続けているのではないかと思います。

一方、日立の場合は(経営の失敗をあえて出し切るかのように)2008年度決算で7800億円の損失を計上し、先日の日立金属の品質偽装事件についてもグループ内部通報によって(長年に及ぶ)不適切な品質偽装の事実を確知し、日立金属の経営トップの隠ぺい工作を認識するやいなや(調査報告書を待つまでもなく)直ちに日立金属の経営トップの交代を実践しました。←後半部分は本年1月に公表された調査報告書および昨年の新聞記事等を参照。

同じような内部通報制度を整備していたとしても、制度が機能する会社と全く機能しない会社があるわけですが、結局のところ、それは通報制度の運用を支える組織風土の違いに起因することが多い。通報することによって「犯人さがし」がされる風土であれば、社員による外部への通報(内部告発)が増えるわけですし、通報することが社内で賞賛される風土であれば、社員も安心して社内通報ができます。「見て見ぬふりなど許されない」「業務の効率性を理由にコンプライアンスを秤にかけない」といった理念を現実の業務で活かせる組織風土はこれからの経済的競争力の大きな要素です。

いま、東芝も日立も役員の皆様は「有事」に直面しているわけですが、有事対応においても組織風土の影響を受けるのではないでしょうか(それは独立社外取締役がたくさんいらっしゃるとしても同様かと)。「自浄能力の違い」といってしまえば簡単ですが、もっと具体的な物言いをするならば、独立社外取締役への報告体制の運用に違いが生じるのではないか。

日立製作所が日立金属のプロバーだった社長さんを、不祥事発覚後(少なくとも対外的にはどこに問題があったのか不明な時期に)ただちに交代させたというショッキングな出来事は、グループ内における報告体制の機能不全への警鐘だったと思います。社内におけるレポートラインが健全であることは、社外取締役からみても、経営判断に必要な情報は適宜的確に受領できる体制が保証されていることを推察させます。

しかし東芝のように(昨年のグループ会社の架空循環取引への関与もそうですが)他者から指摘を受けるまで不都合な事実は開示しない、といった事例が続きますと、たとえ独立社外取締役が多数を占める取締役会であったとしても、重要な経営判断に必要な情報が事前に(社外役員も)共有できているのだろうか・・・との疑念が生じてしまいます。このたびの海外ファンドからの買収提案についても、おそらく東芝の社外取締役の皆様には「現株主の株主価値の最大化」に向けた細心の注意を払った行動が求められますが、トップの「利益相反状況」が顕在化するなかで、必要な情報が共有されるのでしょうか。

2015年の会計不正事件を契機として、大きくガバナンスの改善が期待されている東芝ですが、今回の有事は組織風土の改革が果たされたかどうかを見極める上でも試金石となる事例になりそうです。

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2021年4月 8日 (木)

CVC、東芝へ買収提案-なぜ初期提案の情報が洩れる( *´艸`)?

Img_20210407_212957_512 英国ファンドのCVCが東芝に2兆円買収提案、という記事は、胸のすくようなひさしぶりの日経新聞トップスクープでしたね。東芝が本日午前8時半に開示した内容は、「今朝の買収提案に関する日経報道は当社が発表したものではありません。昨日CVCから初期提案を受けたばかりであり、詳細情報を集めて取締役会でこれから検討いたします」というものでした。

しかし日経のトップ記事を読むと「CVCは今後、自らの提案に賛同するファンドを募って共同で買収する」とか「現在の株価にプレミアムを3割ほど乗せることができる程度のレンジを想定する」とか、本来は東芝側が判断すべき理由である「非公開化によって経営判断を早める」といった非公開化の目的まで書かれてあります。いくらなんでも昨日の初期提案の内容から、朝刊記事の締め切り時間(4月7日未明)までに書ける内容ではないような・・・( ̄▽ ̄;)

どうして初期提案の情報が日経記者さんに漏れるのかな・・・そういえば日経さんのスクープ記事といえば、2007年のJTと日清食品が加ト吉社買収の検討を行ったときのこと(こちらのブログ記事)を思い出しました。(;^ω^)どう考えても日経さんにタイミング良く「書いてもらった」としか言いようがない(笑)

「いやいや、まだ初期提案を受領したばかりであります。もちろん、今後正式な提案があれば取締役会で真摯に検討してまいります」って、ホンマかいな(笑)と素直に思ってしまいますよね。東芝の現会長さんがCVC会長から転身されたときの記事(2018年2月のこちらの記事)でも、「将来、CVCが東芝の支援をする可能性は否定できない」って書かれてありますし、今後TOBが開始される予定であるにもかかわらず(国益とも関わる東芝の情報技術やエネルギー技術の保護について)経産省や財務省の審査(外為法規制)のための事前相談もまったくなされていないとも考えられないですし、なんといっても日経スクープの早さからしてすでに関係者間でのストーリーが出来上がっているのでは、と思うのは私だけでしょうか(笑)。過去に英国ファンドがJパワーの買い増しに動いたときに、財務省が外為法で中止命令を出した状況とはずいぶんと異なるように思います。

しかしそうなると、東芝の現株主であるファンドの皆様は、3割のプレミアムが上乗せされる、といわれる現在の株式価格が本当に東芝の企業価値を反映したものかどうか、疑いを持つのではないでしょうか。本来ならばもっと株価が上がるような有利な情報を開示していない、といったことはないのでしょうか。子会社における架空循環取引や定時株主総会における議決権集計問題等、株主に対して十分な説明責任を果たしてきたと言えるのかどうか。もちろんCVCの正式な提案があれば、これに対抗する提案も飛び出すかもしれませんが、仮にストーリーがあるとしても、今後シナリオ通りにはなかなかいかないような気もいたします。

もちろん、上記は野次馬的な立場にある私の推測にすぎません(株式取引は自己責任でお願いいたします)。ただ、長期保有を前提とするPEによる(企業統治の在り方が問われる)TOBというのは極めて異例だと思いますし、今後どのような展開となるのか注目しておきます。

 

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2021年4月 6日 (火)

内部通報への妨害行為が立件される時代-内部通報制度認証(WCMS)申請・審査の実態報告は参考になります

4月6日午前 追記あり

4月5日夜の朝日新聞ニュースで知って驚きましたが(追記:4月6日の朝日朝刊社会面にも掲載されております)、日本郵便の元局長さんが内部通報者への恫喝行為で起訴されたのですね(強要未遂罪)。書類送検から1年以上経過していたので不起訴処分かと思っておりましたが、内部通報の妨害行為、とりわけ公益通報者への不利益な取扱いは、強要罪で刑事立件される可能性がある、ということは民間事業者の皆様方もよく認識しておいたほうがよいと思います(以下本題)。

さて、先日(3月23日)、消費者庁HPにおいて「内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)の登録事業者が100社を超えたこと」が発表されていました。これを契機としたのかどうかはわかりませんが、本日(4月5日)、認証第三者機関である商事法務研究会のHPにて、「内部通報制度認証(WCMS)申請・審査の実態概況報告-登録事業者100社の概況と審査の概要ー」がアップされています。追記:にこらうすさんがコメントされているように、YouTubeによる解説チャンネルもできていたのですね。そちらもご参照ください(すいません、私は閲覧しておりませんが・・・)。

申請したけれども、資料や説明が不十分として補正が要求される対象となる項目が結構多いのですが、多くの申請企業にとって補正の対象となった項目をみると、内部通報制度の整備・運用のどこにむずかしさがあるのか、ということがよくわかりますね。通報事実に対する調査協力を確保する仕組みや調査妨害を防止する仕組み、被通報者による不利益取扱いを防止する仕組み等は、その運用面も含めて各社頭を悩ませている様子がうかがえます。また、禁止される不利益取扱いの類型の具体化や外部窓口の中立性、公正性等の確保についても補正が求められることが多いようです。

とりわけ後半部分は審査項目のどこに注意しながら整備・運用すべきか、という点を「補正による主な確認事項」としてまとめられているので、とても参考になります。今までなら「認証登録をして、自社の内部通報制度が充実していることをアピールしたい企業は登録申請してみてはいかがでしょうか」といったコメントがピッタリでしたが、これからはおススメせずとも認証申請を行う事業者が増えるものと予想しております。

その理由としては、なんといってもガバナンス・コード改訂2021の施行が大きい。ズバリ内部通報制度の充実を要請している原則2-5、補充原則2ー5①については変更はないものの、補充原則2-3①は、

取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティーを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

と修正されました。まさにESG経営の一環として「従業員の健康・労働環境への配慮、公正・適切な処遇」が要請されていますので、内部通報制度の充実は攻めのガバナンスとの関係でも必須の条件になるということです。労働者保護の施策を対外的にアピールするには、まさに認証制度を活用するのが近道だと思われます。

さらに、来年施行される改正公益通報者保護法が「公益通報への適切な対応体制の整備等措置」を常用雇用者300人超の事業者に義務化したことです。これに伴い、今後は民間事業者向けガイドライン(平成28年版)も改訂されるはずです(おそらく改正法の「指針」が公表された後に、指針の解説等と一緒にガイドラインも改訂されるものと予想されます)。もちろん事業者の「内部通報対象事実」と「公益通報対象事実」は異なるものですが、事業者向けの内部通報制度ガイドラインに沿った対応がなされていれば、公益通報への適切な対応体制の整備についても広くカバーできるものと考えられます。

そして上記の実態報告を読んでみて気が付いたのですが、補正の対象となっている項目は、いずれも「経営者が認証登録を支援する気持ちがないと通報制度の整備・運用が進まない」ものが並んでいるという事実です。つまり担当者任せで認証申請をしてみたものの、補正を求められて「これは経営者から許諾を得ないとルール改正がむずかしい」という項目が残ってしまう。そういった項目だからこそ「何度も登録機関から突き返された」のでしょうね。つまり経営者自身が内部通報制度の重要性を認識する、全社的に内部通報制度が機能する組織風土を醸成することのきっかけになる、という点はこの認証登録制度のメリットかと思います。

現在は「自己適合宣言登録制度」として運用されていますが、将来的には「第三者による適合認証登録制度」になることが想定されていますので、いまのうちから整備・運用の勘所を知っておくのも得策ではないかと。サステナビリティ経営が謳われる時代、ぜひコンプライアンス経営の実現、労務環境の向上のための制度を活用してみてはいかがでしょうか。

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2021年4月 5日 (月)

企業統治改革が進む中で、「社長レース」に敗れた方の処遇はどうなるのか?

先週金曜日のエントリー「監査機関の一元的統合に関する課題にどう答えるか?」にはコメントやメールを多数いただきまして、どうもありがとうございました(リモートでフォローアップ会議を公聴されている方もおられるのですね)。監査役制度や内部監査の在り方など、様々なご意見をお持ちの方が多いことをあらためて知りました。

ところで、週末に、当ブログのエントリーをお読みになった某経営コンサルタント会社の社長さんや人材開発会社の社長さんとお話しする機会がありまして、たいへんおもしろいお話を拝聴いたしました。監査役制度を廃止して監査等委員会や監査委員会に統合することはマズい、そもそも統合は無理ではないか・・・といった意見をお持ちでした。

「監査役は社長レースに敗れた人たちの最適なポジションである」「山口先生のブログで『監査役制度の統合』が検討されていたが、実務的にはナンセンス」「有望な人材による社長レースが繰り広げられ、最終的に敗れた役員は常勤監査役として待遇面で厚遇しつつ、議決権を持たない立場であれば最も波風が立たない」「敗れたほうの候補者を支援してきた優秀な幹部候補が会社を辞めずに済むことにもつながる」「プロ経営者の市場があれば別だが、日本企業の場合には監査役制度が緩衝材として活用されるのはやむをえない」とのこと。

「監査役の任期4年には意味がある、任期途中で退任してもらう、といった考え方は問題だ」「取締役会改革が進む中で、監査役は妥当性監査も当然に行うべきであり、監査報告を活用すべきである」といった意見を私が述べますと、上記のような答えが次々と返ってきました。うむむむ、なるほど。。。

上記経営コンサルタントの方のお話では「最近は資源の最適配分ということで、グループ会社の統合、切り出し等も推奨されているようだが、グループ会社のトップについても監査役制度と同じ役割を担っている」「優秀な人材に競わせて、最終的にトップになれなかった人を厚遇して『会社の敵を作らない』ためには『グループ全体の業績にそれほど影響を及ぼさないグループ会社』の存在は必要。人材流出を防ぎ、社内外における人的ネットワークを失わず、社内融和を図ることはまさに守りのガバナンスとして必須」「おそらく経営者OBの独立社外取締役が指名委員会の委員であれば、そのあたりの組織力学はよくわきまえているだろう」とのことでした。

上記経営コンサルタントの方は、大きな会社のガバナンス構築に長年関わっておられるので、そのような意見をお持ちなのかもしれません。ただ、たしかにサクセッションプランが策定されたり、指名委員会・報酬委員会が設置されることが増えるとなると、早い時期から次期社長候補者を選定することになります。その際、敗れた候補者に対しては、会社はどのような待遇で臨むのでしょうか。これまで会長、相談役といった方に事実上の社長指名権限が残っていた時代であれば上記経営コンサルタントの方のような考え方も妥当していたと思うのですが、ぜひガバナンス改革に熱心な企業、とりわけ社外取締役さん方が社長の選解任の中心的役割を果たしておられる会社の対応方針については知っておきたいところです。

なお(上記のお話とも関連しますが)「守りのガバナンス」という意味では、社長と意見が対立した社外取締役として、「辞任」という選択肢をとることに躊躇しない人もいらっしゃいますが、「攻めのガバナンス」という意味では、社長と意見を対立させる勇気のある社外取締役っていらっしゃるのでしょうか?とくに社外取締役が2名以下の場合であれば、「とりあえず反対意見を述べておく」で済むかもしれませんが、今後は3分の1とか3名以上の社外取締役が役員会の構成員になるわけで、そうなりますと社外取締役の意思決定が会社の業務執行を決定する可能性が高まるわけですよね。

6月に施行されるガバナンス・コード2021を実施するためには、まだ1000人ほどの社外取締役が不足していると報じられていますが、「攻めのガバナンス」つまり健全なリスクテイクを決断する場面で、(報酬1000万円をもらえる地位を捨てる覚悟で)本気で社長と異なる意見を述べることができる人って、どのくらいいるのか・・・。あまりそのあたりって、議論されていないような気がいたします。

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2021年4月 2日 (金)

監査機関の一元的統合に関する課題にどう答えるか?

昨日(3月31日)、金融庁のHPにて、3年ぶりの改訂となるコーポレートガバナンス・コード改訂(案)が公表されました。日経や読売の事前報道でほぼ全容を知っておりましたので、内容は予想どおりでした。

ただ、よく存じ上げている方からメールでいただいた意見(感想)として「フォローアップ会議では3つの統治機構を一元化するべしとの意見が何人かの意見から出ました。方向としては委員会設置に向かうと思いますが・・・」といったコメントが気になりました(私は審議経過について、あまり知りませんでした)。監査役制度に関するフォローアップ会議での議論がかなり薄かったことは理解しておりますが、監査役制度はもはや不要(会社法上の機関形態を指名委員会等設置会社に一本化して監査委員会制度に移行すべき)、という方向性なのでしょうか。

もし機関投資家からみて「監査役制度」に魅力がないのであれば、広い意味で(会社法の理屈は抜きにして)監査役も取締役会の監督機能を担う一環として捉えて、取締役会の多様性の構成要素として説明する工夫をしてみてはいかがでしょうか。月刊監査役4月号では、MHM法律事務所のM先生が「監査役とスキル・マトリックス」なる論稿で、監査役も(新たなガバナンス・コードで開示が要請されている)スキル・マトリックスの対象とすべきか、といった問題提起をされていますが、ぜひガバナンス・コードへの対応として、常勤、社外を問わず監査役の特性(属性)についても積極的に開示すべきと考えます。

また改訂ガバナンス・コードでは、取締役や監査役の情報入手の重要性との関係で「内部監査部門の充実」に光が当たっていますが、なぜ監査役専属スタッフの活用については記載がないのでしょうか。キャリアパスの一環として監査役室に専属勤務するスタッフの存在は、監査役制度の実効性を高めます。たとえば私が社外監査役を務める会社では、現在4名の監査役会専属スタッフが在籍していますが、そこから見える監査役の役割は明らかに(内部監査部門と連携する監査役の役割とは)異なります。そのようなガバナンスの状況が開示されないことは、投資家にとってはとても「もったいない」と思います。

社外取締役に経営者の監督機能を果たしてもらうことでエージェンシーコストをできるだけ少なくしたい、会計監査人や内部監査人が別に存在するのだから、それ以外の監査コストはできるだけ低減したい、という機関投資家の気持ちからすれば、「監査は取締役・監査委員の会合で代替できるのではないか」「情報収集は優秀な内部監査部門と連携すればよいのではないか」といった素朴な疑問が湧いてきても不思議ではないでしょう。といいますか、最近のガバナンス改革の流れからすれば、そういった意見が今後も強くなるような気がします。

しかし内部監査部門に優秀な人が集まれば集まるほど、人事評価の対象は「指導機能」であり、「保証機能(不正を探すこと)」から離れることになります(優秀な社員が集まる経営管理部が不正を全く見抜けなかったことは、東芝事件の第三者委員会報告書でも記載されていました)。監査役へのダブルレポートと言われますが、そもそも監査役が欲しい情報とCEOが欲しい情報とは当然異なるわけですから、監査役専属スタッフの収集する情報とは明らかに異なるわけです。

社外取締役が期待された役割を果たしているか、対話の際に説明する会社の業績情報に信用性があるといえるか、そういった市場に参加する競争条件に問題がないガバナンスであることを担保できるシステムとしては、年に数回開催される米国のような監査委員会ではなく、年16回程度開催される監査役会のほうが適切ではないか。そして監査役会制度のあり方は(もちろん実効性が評価されなければならないわけですが)最終的には投資家のエージェンシーコストを下げることにつながるものと考えます。

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2021年3月31日 (水)

法学から考えるESGによる投資と経営(新刊書のご紹介)

Img_20210330_201036_512 いよいよ3月31日には金融庁と東証から改訂2021コーポレートガバナンス・コードが公表されるはずですが、今朝(3月30日)の読売新聞1面トップでは「気候変動 企業の戦略開示-金融庁、東証 リスク、投資家に」と報じられていました。東証のプライム市場に上場する企業には、気候変動関連の戦略や目標の情報開示を要請する、とのこと。おそらく気候変動に対する経営戦略や目標、リスク管理などを投資家に報告すべき、との指針が出され、いわゆるTCFDに即した情報開示が推奨されることになる模様です。

3月初めの金融庁フォローアップ会議では「信頼される監査制度」について議論されていたようで、そこまでは会議再開時の予定通りだったと思うのですが、いきなり「気候変動関連の情報開示」という新しいテーマが入ってきたのでしょうかね?真相はよくわかりませんが、おそらく政府の強い要望があったものと推測いたします(それにしても一般の上場会社が6月までに準備できるのでしょうか?)。

さて、先週までは書店に立ち寄る時間もなかったのですが、昨日、どうしても気になっておりました一冊をようやく購入することができました。筑波大学(大学院)教授の大塚章男氏によるご著書「法学から考えるESGによる投資と経営」(2021年3月初版 同文館出版2,200円税別)です。帯書きは「株主利益の最大化」や「金銭的な投資利益の最大化」のみを追求するべきなのか?ESG投資・経営について、法的視点から企業への影響や新たな経営のあり方を考える」とあります。

大塚先生の7年間の研究成果だそうですが、上場会社の経営者の皆様、社外役員の皆様にはおススメの一冊です(同文館の編集・企画のAさん、相変わらず良い仕事してますね。(*^-^*))。前半部分はESG投資の概要や株主構造の変化とESG経営との関係、日米英における最近のガバナンス関連事情の解説がよく整理されています。投資家側はアクティビストとインデックスファンドと分けて解説されている点やESG投資の具体的な手法などもコンパクトに解説されていて有益です。私自身、前半部分は結構勉強してきたつもりなので、比較的サラっと読めました。ただ、ガバナンス・コード2021改訂版をきちんと理解したい、という方には、2014年ころからの日本の事情もよくまとまっていて理解が進むと思います。

そして圧巻は後半です。ESG経営に関わる企業側には会社法の視点からESG経営への法的規律について、とりわけ取締役の善管注意義務との関係で様々な課題が示されています。また、ESG投資に傾斜する投資家側には信託法の視点から(受益者に対する)忠実義務とESG投資との関係について課題が示されています。企業側にとっても、機関投資家の忠実義務とESG投資との法的規律を理解することは有益ですよね。

令和元年改正会社法及び関係政省令が施行され、最近は会社法関連の実務書、基本書がたくさん出版されていますが、どうしても「おなじみの論点に対する正解」「改正法に対応するためのひな型」に光があてられてしまいます。しかしながら、本書はESG経営や投資の実務に会社法、信託法の視点から「有意義な問い」を投げかけていて(たとえばSDGs、ESG重視の戦略決定に「経営判断原則」は適用されるのか等)、とても読んでいて新鮮な気持ちになります(平易な文章で書かれているので、企業の皆様にも普通にお読みいただけます)。株主資本主義からステークホルダー資本主義へ、といった安易な理解だけでは「株主利益の最大化」に重きを置いてきた取締役の法的義務の内容まで変えることはできない厳しさ(会社法解釈の厳しさ?)を痛感いたしました。

なぜ今、気候変動に対する経営戦略を開示しなければならないのか、そこになぜ投資家が注目をするのか、本書には「なるほど」と納得できるヒントが示されています(あくまでも「ヒント」です。「正解」は各社各様の状況によって変わるものであり、自分の頭で考えなければならない、ということなのでしょう)。法律学の視点からガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを論じる書籍というのは、これまであまりなかったのではないでしょうか。上場企業に対しては、機関投資家から(公式、非公式を問わず)重要な提案が示されたり、またエンゲージメントの機会が増えたりすることが予想されますが、本書はそのような場面における企業対応にも十分に参考になる内容です。大塚先生、勉強になりました!<(_ _)>

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2021年3月29日 (月)

花王「美白・ホワイトニング」表現撤廃に他社は追随するか?

ようやく調査案件が終了しましたので、今週からまたブログを更新できそうです。ここ3週間ほど情報をインプットする時間がなかったのですが、できるだけ頑張ってエントリーしますので、またよろしくお願いいたします。

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ところで、上のPPTシートは、現在研修講師を務めておりますリスクマネジメント研修(日本監査役協会)の資料からの抜粋でございます。昨年から私がずっと気になっておりました実例を「設問」として取り上げ、現役の監査役、監査等委員の皆様に考えていただくために作成しております。

ちょうど3月27日の日経朝刊の記事では、「花王、美白表現を撤廃-人種の多様性議論に配慮」なる見出しで、花王さんが今後3年ほどの間に、全商品における「美白」「ホワイトニング」なる表現を漸次廃止していくことを決定した、と報じられていました。花王の執行役員の方によると「多様性の観点から議論して決めた。美白という表現によって白い肌がベストと伝わるのは良くないと考えた」とのこと。

日本には化粧品大手がいくつか存在しますが、ユニリーバやロレアル等の世界的企業が「ホワイトニング」表現撤廃に動く中で、どこがどのように対応するのだろうか、と関心を持っておりましたが、花王さんが遂に動き出した、ということと理解しました。ポストコロナの時代を見据えて、企業のコンプライアンスやESG経営への動きがどうなるのか・・・ということについて、改めて私見を述べたいと思いますが、上記記事にもあるように、日本の他の化粧品メーカーさんは花王さんに追随するのか、それとも別の視点で意見を述べられるのか、今後も注目しておきたいと思います。

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2021年3月25日 (木)

(速報版)改正公益通報者保護法の指針案(素案)が公開されましたね

本日(3月25日)、消費者庁HPに改正公益通報者保護法の「指針案」の素案が公開されました。検討会が「指針案」を出すわけですが(指針を策定するのは政府)、その指針案の素案が会議資料から明らかになりました。

今後改訂が予想される平成28年12月「民間事業者向けガイドライン」と同様、指針の理解はとても重要です。今後、「指針の解説」が作成されることになりますが、これまでの民間事業者向けガイドラインは「指針の解説」と統合されるかもしれませんね。中身はまた時間のあるときにじっくり拝見いたします。ブログ更新に全く時間がとれませんので、とりいそぎ速報版ということで。

追記 3月26日午前

そういえば少し前のエントリーに、サンダースさんが「昨晩のJIJI.COM のニュースに、「告発の元部長、解雇無効 神社本庁が全面敗訴 東京地裁」とありました。是非、お時間のある時に解説を頂けたらと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。」とおっしゃっておられました。遅くなりましたが、こちらも判決文が読めるようでしたらぜひご紹介したいと思います。

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