2020年1月21日 (火)

企業統治改革3.0は敵対的買収と会社訴訟による多元的けん制機能の発揮へ

日経のWEBニュースのみの記事ですが「(金融最前線)相次ぐ敵対的買収『三田証券は押さえたか』」はたいへん勉強になりました。昨年から今年にかけて、TOBや委任状勧誘による敵対的買収案件がとても増えましたね。直近でもレオパレスや前田道路など、興味深い事例が報じられています。そのような中で、敵対的買収の行方を左右する証券会社として「三田証券」に注目した記事ですが、

方針は明確だ。敵対的であっても、既存株主にとってメリットがあり、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化につながるTOBであれば受託する。保有株を高値で買い取らせるグリーンメーラーには協力しない。

との社長の発言は、まことにその通りかと。2014年に始まった企業統治改革も、ガバナンス・コードが改訂された2018年から「形式から実質への深化」が進み、モノ言う株主の力が増してきました。しかしながら「取締役会改革」を中心とした改革にはどうも限界があるようです。日経ビジネス2019年6月17日号「ガバナンス新時代への提言」の中で、神田秀樹教授(学習院大学)は概要、つぎのように述べておられます。

ガバナンス改革の焦点の一つは、取締役会の役割をどう位置付けるかだ。かつて日米の企業は経営者の力が強かった。米国では1980年代から敵対的買収などで株主が経営者をコントロールするようになり、その後、機関投資家の発言力も増した。しかし敵対的買収案件や企業間の訴訟案件が少ない日本では取締役会に経営者をけん制する役割を求めすぎる面がある。日本でも、今後はもっと敵対的買収が増えていくべきだし、企業間の裁判がもっとあっていい。経営者を監視するガバナンスは買収、訴訟などを含め多元的にけん制機能を働かせることが必要だ。

そういえば昨年はヨロズ仮処分事件があり、また、今年は株主(機関投資家)による代表取締役の解任請求訴訟(ネット上に訴状が全文公開されています)が始まっています。取締役改革が本丸まで来ておりますが(人事、報酬、持ち合い株解消等)、それでも限界に来ているとなれば、「改革3.0」は、まさに敵対的買収と企業間訴訟によるガバナンス改革が浸透するかもしれませんね。

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2020年1月20日 (月)

ガバナンス向上のためには監査法人のローテーション制度は不要?

海外逃亡した日産前会長ゴーン氏の刑事弁護費用が日産の保険(会社役員賠償責任保険=D&O保険)から賄われている・・・というニュースはきわめて興味深いですね(yahooニュースはこちら)。昨年12月3日に成立した改正会社法では、D&O保険の法制化が図られていて、誰にどれだけの保険金が支払われたのか、それを誰が了承したのか等、(正確には政省令改正後に判明しますが)事業報告で開示されることになりますから、会社としては、このようなことも株主総会で説明責任を果たす必要が生じます。刑事手続き費用が保険から捻出されるのは当然といえば当然ですが、世間的にD&O保険の内容について知ってもらうことが最優先の課題だと考えています(ここから本題)

さて、1月19日の日経朝刊2面に「監査法人、10年超継続7割」との見出しで、(会計監査を担当する)監査法人を長期間にわたって変更していない上場会社が7割に及ぶ、と報じる記事が掲載されています(監査法人の在任期間を開示する新たなルールを早期適用している上場会社の調査)。老舗企業の中には(会計監査人として)同じ監査法人を50年以上も選任し続けているところもあるのですね。たしか東芝も50年近く変更していなかったと思います。

監査法人を変更しない理由として「パートナーローテーション(同じ監査法人だが、責任者が5年で交代する制度)を実施しているから『なれあい』は防止できる」といった理由と「会社のことをよくわかっている会計監査人のほうがガバナンス向上に資する」といった理由があるようです。たしかに、上記日経記事の問題意識は「どうすれば会社と監査法人との『なれあい』を防ぐか」というものなので、監査を受ける会社側の上記理由も「もっとも」のように聞こえます。

しかし、会社と会計監査人との関係が長期化することの問題は、単に「なれあい」だけではありません。「なれあい」から想像できることは、なにか問題に気づいても「問題を指摘しない」「不正の疑惑を見逃す」といったイメージです。「なれあい」と聞くと「不誠実な関係」を思い浮かべますが、誠実な会社と会計監査人の関係にも長期化が及ぼす弊害があるように思えます。

たとえば、関係長期化の問題は「社内の常識は社外の非常識、ということに気づかない」というところにもあると考えています。以前、会計士の職業倫理に関するエントリーでも触れましたが、毎年少しずつ不適切な会計処理が行われて5年経過した場合、最初の1年目と5年目を比較すれば誰だって「おかしい」と感じます。しかし1年ごとに判断がリセットされてしまえば「茹でカエル状態」になって「不正に気付かない」ということもあるのでは。

また、同じ会計事実をみていても、東芝事件の新日本とPWCの意見の相違、ライザップの「債権取り立て益」計上への新旧監査法人の判断、少し古いですが三洋電機の「(子会社株式評価に関する)三洋減損ルール」に対する第三者委員(会計士)と会計監査人との意見の相違など、同じモノをみても意見が分かれるのですから、投資家にとっても会計監査人の交代にメリットはありそうです。

私は「なれあい」よりも、この「会計士が同じものをみても、意見は分かれる」ということを知る機会が投資家に与えられない・・・というところに関係長期化の問題点があるように思います。昨年6月に「KAM相当事項」を三菱ケミカルホールディングスグループが開示しましたが、そのほとんどが「無形資産の評価」に関するものであり、プロの会計監査人ですら他の専門家に評価をゆだねざるを得ない、という現実を知りました。今後、制度会計に無形資産の評価が当たり前の時代となれば、いくつかの監査法人から資産評価を受けることも、企業のリスク管理のひとつではないでしょうか。

もちろん、欧州がローテーション制度を採用したからといって、会計不正を防止する、という意味では、決して同制度だけが方策とは限らないと思います。ただし「見送る」のであれば、ローテーション制度を採用していない米国のように、監査法人に厳しい責任(たとえば最近でも会計不正を見逃したPWCに630億円の民事賠償命令が認められたそうですが)を認める制度を採用することも検討する余地があると思います。

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2020年1月17日 (金)

いよいよ公益通報者保護法の改正か?-自民党PT論点整理始まる

(1月17日午後1時半 追記)

1月20日に召集される通常国会では、過去最少52本程度の提出法案数のようですが、本日、自民党PT(消費者問題調査会 公益通報者保護制度に関するPT)による論点整理が行われましたので(リリースはこちらです)、提出法案の中に公益通報者保護法の改正法案が含まれる可能性がありますね。

昨年の首相所信表明でも「公益通報者保護を強化する」とありましたし、日弁連のこちらの集会なども「2020年通常国会に公益通報者保護法の改正法案が提出される見通し」とありますので、どうしても期待してしまいます。こういったニュースは共同通信さんが早くて正確なのですが。。

2018年の年末に内閣府・消費者委員会の専門調査会がとりまとめた報告書の方向性が維持されているのでしょうか、それとも経済団体の反対に配慮して「やや後退」になってしまっているのでしょうか、法案の中身についてはわかりません。

ただ、先日も若干ご紹介したように、2019年11月26日、EU内部通報者保護指令が公布され、(内部通報制度に消極的だった)ドイツやフランスでも内部・外部通報者の保護を徹底した公益通報者保護法の国内法化が進みます。企業は内部通報を受理する専門社員を雇用しなければならず、また、通報者への不利益処分が課された場合には「報復であることの推定」により立証責任が転換されることで、労働者の徹底保護が図られます。

このような海外事情や日本郵政グループの事例、JDIの事例をはじめ、近時の企業不祥事の発覚端緒をみても、EUと同様の保護法制は日本でも急務です。従業員の方々が、安心して通報制度を活用できる組織風土を築くためにも、改正公益通報者保護法の成立・施行が待たれます。

(追記)

今朝(1月17日朝)の日経4面に「内部通報保護へ要件緩和」として、通常国会に改正法案が提出される見込みであることが報じられています。日経さんが早かったですね(失礼しました)。

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2020年1月16日 (木)

役員報酬と債権法改正における「成果完成型委任契約」

120年ぶりに改正された民法(債権法)が、いよいよ4月1日に施行されます。改正民法では、「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という用語が頻繁に使われてるのが特色です。なので、企業の一般的な常識をもって改正民法を解釈したいと思うのですが、会社法上の役員報酬制度と委任契約との関係がよくわかりません。

会社と取締役(役員)との関係は民法の委任に関する規定に従う(会社法330条)わけですが、その「委任契約」の内容が今回の債権法改正で変わります。これまでの委任契約(準委任契約)とは別に「成果完成型委任契約」に関する規定があります。

一方で、最近はガバナンス改革の流れにおいて、上場会社の取締役の報酬に「業績連動型報酬制度」を採用することが当たり前になりました。そこで疑問が生じるのが、この業績連動型報酬制度を採用した企業の取締役については、単なる委任事務の処理だけではく、成果完成型の委任事務の契約も含まれているのではないか?というものです。

請負契約における「仕事完成義務」とは異なり、この「成果完成型委任契約」は、受任者に成果完成義務は発生しない、とされています。そうであるならば、業績連動型の報酬制度を採用している会社では、「取引上の社会通念に照らして」成果完成型委任契約が会社と取締役との間で締結されたとみるのが当事者の合理的な意思解釈のように思えます。

私、このたびの債権法改正の経緯についてはあまり詳しい弁護士ではありませんが、民法に「成果」という用語が使われるのは初めてではないでしょうか。「請負契約」に「仕事の結果」という用語はありますが「成果」なる用語は出てきません(間違っておりましたら訂正いたします)。法務省の立案担当者の方が執筆された本(「一問一答民法・債権関係改正」商事法務)を読んでも、「成果」の定義は出てきません。

もちろん役員報酬における「業績連動型報酬」は一定の結果を残せば報酬がもらえるわけですが、これを「成果完成型委任契約」だとすれば、たとえ一定の数値目標をクリアしていなくても、「請負契約」の改正民法634条の準用によって「おれはここまでの成果は残した」として業績連動型報酬の一部を会社に請求することもできそうな気がします。また、そう考えるのが「取引上の社会通念に従った」解釈ではないかと(ある日突然、業績が達成できた・・・ということはないと思います)。

【改正後民法】
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第634条
 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

同様の問題は会社法上の役員ではありませんが「執行役員」についても生じるかもしれません。債権法改正が企業法務に及ぼす影響は、まだきちんとわかっていないところが多いと聞きます。強行法規が多い会社法と異なり、民法は任意法規が多いので、その交錯点にはまた様々な学者、実務家の論点となりうる問題が潜んでいるように思います。

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2020年1月14日 (火)

関電幹部を恫喝する「高浜町元助役」の声を聴いて、あなたはどう思いますか?

日産前会長の逃亡事件について、あまりグレッグ・ケリー被告(被告人)の金商法違反被告事件への影響は報じられないようですね。本当に「日本の司法制度への影響」を議論するのであれば、これからグレッグ・ケリー氏の有価証券虚偽記載罪がどうなるのか、無罪となれば、もしくは有罪となればゴーン氏の事件にどのような影響が出るのか、そこを議論することが大切ではないかと思っております。ゴーン氏の行動に対する評価は将来の国民に委ねるとしても、グレッグ・ケリー氏の裁判は否応なしに今年始まるわけでして、ゴーン氏も、またフランスのPR会社も注目しているはずです。

さて、関電幹部の金品受領問題については第三者委員会の報告待ち・・・ということで、ほとんどマスコミでも報じられることがなくなりましたが、少し前に共同通信ニュースで、関電幹部を恫喝する高浜町元助役の音声が公開されました(共同通信のToutubeニュースはこちらです)。「金品受領を拒否できないほど、恐ろしい恫喝だった」「ダンプで家に突っ込んでやるぞ、と言われた」等みなさん口にしていたので、おそるおそる聴いてみました。皆様も約2分の音声動画なので、ぜひ聴いてみてください。

うーーーーん、評価はいろいろだと思いますが、私が内部通報の窓口担当として音声データをチェックしている昨今のハラスメント動画のほうが数倍は恫喝のレベルが高い、というのがホンネのところです(男性上司、女性上司を含めて)。この音声動画は「いつまでに返事すんねん!?」で終わっていますが、誠実な企業で起きるハラスメントは「いつまでに返事するの?」の次に「じゃあ、返事できなかったらどうするの?どんなふうに責任とるの?」と続きます。

それにしても、平成8年のこの音声データは、何の目的で録音されたのでしょうか?このデータを警察に持ち込んで元助役を刑事告発するためだったのでしょうか?組織的だったのでしょうか、それとも苦しい立場に置かれた関電幹部が、個人的に悩んで録音行動に及んだのでしょうか?あるいは第三者が盗聴によって録取したのでしょうか?どうして今になって共同通信の記者にデータを手渡す気になったのでしょうか?わずか2分の音声データではありますが、そこから文字では表現できない情報が集まり、いろいろな疑問が湧いてきます。

以下は全くの推測にすぎませんが、おそらく関電幹部が「金品受領」を拒めなかったのは、単に恫喝されるのが怖かったのではなく、①当該元助役の神話に基づくカリスマ性に畏怖していた、②元助役の言うことを聞かないことで、「社内の空気を読まないやつ」として、関電内でハラスメントの対象となることを怖れた、③そもそも恫喝された、といいながら、本当は関電の原子力発電事業のために必要な人だったので、うまく活用していた、のいずれかではないでしょうか。やはり五感に訴える一次情報は重要です。

日産前会長の逃亡事件についてもうひとつ議論していただきたいのが、「じゃあ、こうなる前に、どうすれば日産社内のガバナンスでゴーンさんを追放する(クーデターを起こす)ことができたのか?」という点です。「3人の代表取締役全員が『問題なし』と承認しているのに、どうして検察から『違法だ』として逮捕されなければならないのか?」「日本で司法取引が制度化されたのは、取調べの可視化とのバランスをはかるためと聞いたが、司法取引で始まった事件にどうして弁護士が同席していないのか?」という海外メディアの素朴な疑問に、日本人はどう答えるのでしょうか?お金も迫力もある経営トップの追放は、国の力を借りなければ排除できない、といった日本企業の文化を世界に広めたことこそ、大きな問題だと思います。

これまで不正行為の摘発よりも「プライバシー」が尊重されてきたドイツ、フランスでさえ(国際犯罪への対処を優先せざるを得ないとして)公益通報者保護制度が誕生しています。音声や録画データを残してハラスメントの証拠として活用するということも、社内不正を自助努力で排除するためにも普通に検討してみるべきではないでしょうか。

 

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2020年1月 9日 (木)

日産前会長ゴーン氏の記者会見を視聴した感想

中東情勢が緊迫するなかで、日本企業のBCPの動きのほうに関心が向きますが、とりあえず「興味本位」で1時間半ほど、ベイルートにおけるゴーン氏の会見を生動画で視聴しました。アラビア語、ポルトガル語、英語、仏語で記者から質問が飛んできても、それぞれの言葉で回答するのはスゴイと思いましたが、「同時通訳不能」な状況が増えたところでとりあえず視聴をやめました。

文藝春秋の2019年1月号、同7月号、一昨年末からの週刊文春のいくつかの記事等を読んでいましたが、「日産の共謀者の実名を暴く!」とのことで、私なりにひそかに会見の成り行きには期待をしておりました。

しかしながら、あっと驚くようなストーリーが具体的に語られることはなかったですし、政府関係者の実名公表も控えたまま、すでに「ゴーン封じの主役」として報じられていた名前ばかりが並んでいましたので、全く新鮮味がなかったです。逃亡方法については「関係者に迷惑をかけたくない」として、一切話さないのは予想どおりでした。ルノーへの思いも一切語りませんでした。最後には「17年間滞在した日本が大好きです!保釈中もたくさんの日本人に応援してもらいました」とのこと。いろんなところに「忖度」しておられました。

「私は無罪の証拠を握っている!ぜひ公開したい!」と力説していた証拠も、すでに新聞等で報じられていたものばかりなので期待外れでした。ゴーン氏は、一生懸命解説していましたが、日本企業のガバナンスや会社法制度の予備知識がないと問題点がわからないのでは、と感じました。

唯一驚いたのは、存じ上げている東京大学のT先生が実名で登場したことでした。アドバネクス事件では東京地裁第8民事部(商事部)の裁判官に「喝!」を入れておられましたが、ゴーン氏が全世界に向かって「東京大学の会社法の学者Tさん(実名)は、きっと私に有利なことを書いてくれる」と述べるほどですから、とても信頼されているのでしょうね(全く関係ない話ですが、消費者庁の公益通報者保護制度実効性向上検討会の前座長が最高裁判事に就任されたので、ぜひT先生には後任の座長になってもらいたいのですが・・・)。

東京地裁の裁判官から「そんなに奥さんと話がしたいって、いったいどんな話がしたいのですか?」と聞かれて、ゴーン氏は閉口したそうですが、「そりゃそうだよな、普通は夫婦の会話なんか聞かんわな・・・」と素直に思いました。

ゴーン氏の会見でも少し言及されていましたが、元代表取締役のグレッグケリー氏(被告人)は、この会見をどんな思いで視ていたのでしょうか。ケリー氏の金商法違反被告事件が終わらないかぎり、検察とゴーン氏との闘いも終わらないだろうな・・・(しかしグレッグケリー氏の弁護人も相当のプレッシャーでしょうね)。

 

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2020年1月 7日 (火)

社外取締役制度は「お楽しみ福袋」に似ている(と思う・・・閲覧注意)

本日は一部の有識者の方からお叱りを受けそうな内容です。近時の企業統治改革の影響で、コーポレートガバナンス関連のお仕事(たとえば機関設計の変更等)をさせていただいたり、(もちろん無償で)社外役員のご紹介などもさせていただく機会が増えました。そういった機会が増えると同時に「社外取締役を導入すると企業価値が上がるのか」とか「社外役員は不祥事を防止できるか」といった議論の虚しさ(怪しさ?)をひしひしと感じています。

たとえばある上場会社に3人の社外取締役さんがいたとします(取締役の合計数は社内を含めて8名)。3人の出自は経営者OB、弁護士、著名コンサルタント。現実には、この3人の相互作用によって緩い関係が成立する場合もあれば、きわめて現経営者と敵対的な厳しい関係が成立する場合もあります。つまりどんな出自の組み合わせであっても、3人の組み合わせによる相互作用が重要であり、ガバナンス報告書に書かれているような個々の能力などあまり関係ないと思います。

また、同じ3人の組み合わせであったとしても、任期の古い順からA、B、Cなのか、B、C、Aなのかによっても社外取締役の活動の実相が変わります。A→B→Cの順で社外取締役に就任したために攻めにも守りにも厳しい職務遂行が果たせるのであって、B→C→Aという順番、もしくはBさんが退任してC→A→Dとなって全く役に立たない「ゆる~いガバナンス」という現実もあります。

ガバナンス・コードにおいて「取締役会の実効性評価」の実施というのが要請されています。すでに多くの上場会社で実施されており、実際に真剣に取り組んでみると、8人で構成されている取締役会の「雰囲気」(あえて「実効性」とは言いません)は、外から変えられるものではなく、たまたま8人が、その順番で取締役になった、ということによる相互作用によって作られる、というのがホンネのところではないでしょうか。

もし外から変えられることがあるとすれば、「35%を保有する大株主が、うちの会社を子会社化するらしい」といった噂が役員会に流れて、大株主から派遣されている社外取締役さん以外が「一枚岩になる」ということくらいかと。。

社外取締役が増える、となりますと、なんとなく「健全なリスクテイクに資する」とか「経営陣の暴走を止めることができる」という気がするわけですが、それは増員された社外役員制度を運用してみないとわからないですね。なんか得した気分でその会社の株を買ってみても、開けてみないとわからない、まさにお正月の福袋と同じです。機関投資家の方々が、なんとか中身を覗こうとして袋に小さな穴を開けてみるのですが、「なんだ、お飾りばっかじゃねえか!」と後悔するだけかもしれませんよ(笑)。

PS・・・「福袋」といっても最近は中身が見えるものも多いので、昔のようなワクワク感がなくなってしまったかもしれませんが。実は私もお正月の家電量販店の「福袋」だけは購入してしまうのですよね。

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2020年1月 6日 (月)

情報コンプライアンスの実践に関して参考になった記事のご紹介

情報漏えい問題に関する危機対応を支援する者として、最近の記事から勉強になったものを二つご紹介します。

ひとつは昨年12月13日の日経ビジネスWEB「リクナビ問題、社名非公表だった1社が明かす契約・利用の実態」。政府の個人情報保護委員会は、リクナビ問題において、リクルートキャリア社と契約していた37社中34社の社名公表に至りましたが、3社については社名公表を控えました。その1社である三井住友銀行が、日経ビジネスの取材に応じて、サービス利用の実態を明かした記事です。社名公表と非公表を分けた要因はどこにあったのか、その取材結果は意見にわたる部分も含めて説得力がありました。

そしてもうひとつが昨年12月28日の読売オンラインニュース「HDD流出対策、区施設でデータ消去完結・・・専用ソフト活用」。神奈川県の行政文書情報流出問題がいままた新たに市民の不安を生じさせるような事態に至っておりますが(発見された18個のHDD以外にも、まだ転売されたHDDが存在することが判明)、世田谷区の不要PCの処分の過程における個人情報データの徹底した管理の状況が紹介されています。

二つの事件は別々のものですが、いずれも「個人情報保護のために、最低限これだけはやらねばならない」という「善管注意義務」の視点ではなく、「個人情報を預けている者からすれば、これだけはやってほしいと期待していることに対応する」という「信認義務」の視点で行動しているところに共通点があります。世田谷区の例は平時の取り組みに関するものですが、三井住友銀行の例はリクルートキャリアとのやり取りの中で「契約解除」という判断を行った点で有事の取り組みにも通じるところがあります。

組織の法的責任ということではなく、レピュテーションリスクから組織を守る、という意味においては「担当者の想像力と決断力が必要」です。国内外を含めて、今年は個人情報保護法の改正や新法の施行に目が向きがちですが、コンプライアンスの視点からは、他社にも参考になるところが多いと思い、ご紹介した次第です。

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2020年1月 4日 (土)

日産元会長ゴーン氏の海外脱出事件-「日本の常識」と「海外の常識」

日産の元会長ゴーン氏が、保釈中に海外へ脱出した事件には本当に驚きました。メディアの報じる情報は様々であり、未だ真実はよくわかりません。ただ、プライベートジェットで日本を離れ、母国レバノンに滞在していることは事実のようです。8日にもゴーン氏が記者会見を行う、との情報もありますので、また会見内容に話題が集中するのかもしれませんが、年末年始の報道内容から、私なりの感想を少しだけ述べてみたいと思います(私個人の推測に基づく意見も含まれています)。

1 ゴーン氏の逃亡行為の「正当性」

私も日本の司法制度に関わる者として、今回のゴーン氏の海外脱出は「とんでもないこと」であり、日本の裁判制度を無視した(侮辱した)事件として到底認容できるものではありません。もし、今後の保釈制度の運用になんらかの影響を及ぼすとすれば激しい憤りを感じます。誰の責任かは別として、脱出ルートは可能な限り解明すべきです。

ただ、これは「日本の司法制度に関わる法曹としての常識」による感情であり、海外とりわけ欧米諸国の人たちの常識にも合致するかどうかは冷静に見極める必要があります。「ゴーン被告が逃亡」と最初に報じられたときに、私が思い浮かべたのは芦部信喜著「憲法」に登場する「抵抗権」でした。「抵抗権」といいますのは、

国家権力が人間の尊厳を侵す重大な不法を行った場合に、国民が自らの権利・自由を守り、人間の尊厳を確保するため、他に合法的な救済手段が不可能となったとき、実定法上の義務を拒否する抵抗行為を、一般に「抵抗権」という。(私の手元にある芦部「憲法」(新版)336頁・・参照文献としては、いささか古いものですが、最新の(第7版)もおそらく同様かと)。

と解説されています。芦部先生は、日本でも「人権保障規定の根底にあって、人権の発展を支えてきた圧政に対する抵抗の権利の理念を(日本国憲法に)読み取ることは、十分に可能である」と述べておられます。実定法以前に、市民革命を正当化する「自然権」の存在を展開したホッブズの主張では、この抵抗権の一環として、拘禁状態からの逃亡も抵抗権の行使とされます。ちなみにゴーン氏はレバノンの内戦が始まる前に、17才でフランスに移り住み、そこで高等教育を学んでいます。

したがって、ゴーン氏は今後自らの行為の正当性を世間に理解してもらうために、日本の司法制度が人権思想に反するものであり、きわめて不公正なものであること、自分は実定法の背後にある「自然権」を行使したものであることを海外に向けて発信しなければなりません。オリンパス事件を告発した元社長マイケル・ウッドフォード氏が「ゴーン氏の行動を全面的に支持する」とインタビューで答えているのも、革命を経験した国民の常識から出てくる発想ではないかと思います。

2 刑事法における「属地主義」と「積極的属人主義」

ゴーン氏の容疑事実(会社法違反行為と金商法違反行為)が日本で行われた以上、日本の刑事法(刑事手続法を含む)の適用を受けるのは当然です(属地主義)。しかし、世界には「積極的属人主義」を適用する国もあるわけですから、たとえばゴーン氏が国籍を持つ国が「ゴーン氏がわが国の刑事法で定めた法令に反する行為を行った疑いがある以上、わが国で刑事手続を進めたいので身柄を引き渡せ」と要求するのは権利というよりも国の義務である、と主張することもありうる話です。したがって日本に送還要求を行う国があっても不思議ではありません。

私はレバノンという国の司法制度はよくわかりませんが、たとえ入国手続きが合法であったとしても、日本で不正が疑われている行為がレバノンでも犯罪行為に該当するのかどうか、国としてはきちんと調査を行う必要はあるかと。そこでゴーン氏は「国と対等の立場で争うことが保障されているレバノンにおける刑事裁判」に臨むのではないでしょうか。だから「裁判を受ける権利が保障されている国において、私は逃げも隠れもしない」と堂々と語ることが予想されます。

3 ビジネスマンとしてのゴーン氏の活躍はこれからも続く

一昨年のゴーン氏の逮捕劇以降、日本で出版されたゴーン氏関連の本をいろいろと読みましたが「たとえ日本で処罰されとしても、この人はそれでビジネスマンとしての生涯を終えるとは到底思えないな」と感じました。今回の脱出劇も、彼にとっては「現時点において最優先で解決すべき課題」であり、それが最終目的とは思えません。「日本脱出」は、これからもさらなるビジネスマンとしての活躍のための一手段だと考えます。

もちろん、身柄引き渡し条約による連携により、ゴーン氏は簡単に海外諸国を回ることはできなくなるかもしれません。しかし、海外を含め、少しでも活躍できる環境を整備するためにも、ゴーン氏は、今後(自らの行動の正当性を認知してもらうべく)徹底的に日本の司法制度についての批判を展開するものと予想します(真偽は明らかではありませんが、ゴーン氏がアメリカのネットフリックス社と動画配信に関する契約を締結した、と報じられていますね)。

取調べに弁護人を同席させない、有罪率が99%を超えている、長期間の勾留を平気で認める(人質司法)といった批判も考えられますが、そのような理由だけでは海外諸国の賛同は得られにくいのではないでしょうか。むしろ日本の国益を守るために、日産と国が組んで正当な経済活動を妨害する目的で刑事訴追を受けた、という個別事案特有の問題に批判の照準が向けられるのではないかと思います。「欠席裁判」が認められていない日本において、司法制度の信用性を低下させないためにはどうすべきか、たとえば保釈制度の厳格化は避けつつ、被告人のプライバシー権の一部制限(GPS装置の携帯義務)の容認など、具体的な提案を準備しておく必要がありそうです。

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2020年1月 3日 (金)

新年、あけましておめでとうございます。

謹賀新年。

みなさま、穏やかなお正月をお迎えのことと存じます。

本年も、拙ブログをよろしくお願いいたします。

弁護士 山口利昭

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