2017年1月17日 (火)

関経連共催コーポレートガバナンス・シンポでコーディネーターを務めました

Dsc_0031_4001月16日、私が理事を務めております日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークは、関西経済連合会との共催企画を開催いたしました。タイトルは「コーポレートガバナンス改革で日本企業は変わったのか?-ガバナンス・コードと向き合う企業の理想と現実-」。タイトルでほぼおわかりのとおり、企画及びシンポのコーディネーターを担当させていただきました。企業不祥事ネタは一切出さず、「稼ぐ力」としてのガバナンスだけに焦点を当てましたが、盛会だったのはひとえに関経連さんの(プロと申し上げて良いほどの?)ご準備によるものでした。

大阪弁護士会館2階ホールは通路に椅子を追加するほど満席となりまして、JR西日本さん、読売新聞さん、日本生命さんほか、企業の社長、元社長の方々にも多数ご出席いただきました。日経、朝日の記者さんにもお越しいただきましたが、記事になるかどうかは不明(たぶん好学上の目的でお越しになられていたかも・・笑)。ガバナンスネットワークの牛島信理事長による基調講演の後、「関西企業はガバナンス改革にどのように向き合うか」といったテーマで、帝人相談役の長島さん、関経連企業法制委員会の主査でいらっしゃる積水ハウス常務の中田さん、機関投資家代表のニッセイアセットの井口さんといった方々に登壇いただきました。大発会の鐘をたたきながら「成長戦略のためには企業統治が最重要」と担当大臣がおっしゃる東京では語れない内容でも、みなさん、雪で遅延する新幹線に乗って関西にお越しになると「口が軽くなる」ようで(?)、ガバナンスの理想と現実をホンネでお話いただきました。

シンポが盛り上がった要因は、まず関経連さんが昨年公表された「わが国企業の持続的な企業価値向上とコーポレートガバナンス整備のあり方に関する調査研究報告書」がなかなか他の経済団体では出せない内容だったから、という点が挙げられます。「四半期報告制度は、そもそも中長期の企業価値向上にはそれほど効果的ではなく、一方報告書作成に要する企業の負担が増すばかりなので、最終的には廃止すべき」といった提言も、「株主との建設的な対話」の中で議論させていただきました。すでにガバナンス改革に乗り出して20年近く経過した帝人さんの歴史から、社外取締役制度やアドバイザリーボード(取締役会の諮問機関)はどのように価値向上に結び付くか、といったこともお話が聴けましたし(やはりガバナンス改革の実効性検証にはまだまだ時間が必要ですね)、ショートターミズムから中長期の企業価値評価へと舵を切る運用機関のアナリストがどれだけ厳しい状況に置かれているか・・・といった話題も(スチュワードシップ・コード改訂直前の時期でもあり)興味深いものでした。

どんなにガバナンス・コードにコンプライしても、またコンプライしなくても、自社のガバナンスのベストを真剣に模索する企業こそ持続的成長を図ることができる、またどんなに辛口の意見であっても、真剣に自社の成長を支援してくれる株主と目的ある対話を続けることが大切だということを、私自身も認識いたしました。対外的には新大統領の経済・金融政策との関係で、また対内的には「働き方改革」というガバナンスの根幹を揺るがす課題との関係で、とても良いタイミングでシンポができたと思っております。登壇者の皆様、ご来場された方々、ガバナンスネットワーク事務局の方々、そして関経連の事務局の皆様、本当にお世話になりました。

1月 17, 2017 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月15日 (日)

経営者の刑事責任は内部統制の適切な構築で免責される

軽井沢町のスキーバス転落事故が発生して丸1年が経過しましたが、長野県警は、バス運行会社の運行管理責任者とともに、経営者(社長)も業務上過失致死傷罪で書類送検する方針だそうです(1月14日付け日経夕刊社会面等)。立件の可否については今後、検察と協議するとのこと。安全面に最大の配慮をすべき運行管理責任者が(運転者とともに)起訴されるというのはわかりますが、果たしてバス会社の社長さんまで刑事処分に問えるのでしょうか。

もちろん、顧客の死亡事故について、社長さん個人が業務上過失致死傷罪で有罪とされた例は過去にも認められます。たとえば三菱自動車のリコール隠しによる山口県での事故発生事案では社長さんが有罪となりましたし、パロマ工業の湯沸かし器事件でも同様です。ただ、そこでは社長さんが商品の安全性の欠如を十分に知っていながら放置していた、という責任根拠が認められていましたが、今回は「運転手本人が観光バスの運転の経験があまりないということを知っていて、訓練を一回した行わなかったこと」から、社長にも(傷害ではなく)乗客の死亡事故の発生に関する予見可能性がある、と判断されたようです。当該運転手がすでに何度か事故を起こしていたことを知っていたとか、運転当日、危険運転に及びそうな体調であることを知っていて勤務させていた、といった事情は認められないようです。

事故がたいへん痛ましいものであったため、「社長にも刑事処分は当然」という捜査の方向性に賛成する方も多いかもしれません。ただ、会社の経営技能は多方面に及びますから、安全面についてはどの程度の予見可能性、結果回避可能性があれば経営者が刑事責任を問われるのか、その線引きはきちんと明確にしておくべきだと思います。たとえばこのたび最高裁判事に就任される山口厚先生のこちらの論稿などは、一般の方々向けに過失犯について書かれたものなので、とても参考になると思います。たとえば、経営者(監督者)が漠然とした(死亡事故に関する)予見可能性があるとした場合には、万全の措置で結果回避義務を尽くさなければ過失犯に問われてしまうというわけではなく、たとえば経営者が他の役職員の適切な行動を信頼できるような状況が認められる場合には業務上過失致死傷責任は免れる、ということも十分考えられるようです。

つまり、顧客の安全に配慮すべき内部統制を適切に構築して、運用されていれば(たとえ安全面の欠如に関する情報を経営者が入手していたとしても)信頼の原則によって刑事責任を免れる可能性がある、ということかと。また、このような法解釈をとることが、企業の安全体制整備へのインセンティブとなり、今後の重大事故防止にもつながるのではないでしょうか。ただし、今回の長野県警の捜査方針からみて、今後は顧客の身体・生命の安全を脅かす企業事故が発生した場合には、経営者を含めて「提訴リスク」が顕在化する可能性が高い時代が到来したことは間違いないと思います。

1月 15, 2017 刑事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年1月13日 (金)

会社法改正によって日本の会社は変わらない?

先日の日経法務面でも話題になっていましたが、2017年3月ころには「会社法の一部を改正する法律」附則25条に基づいた会社法改正を検討する会社法研究会の報告書がとりまとめられるそうです。附則25条というのは、

(平成26年改正会社法が)施行後2年を経過した後、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案した上で、必要があると認める場合には、社外取締役設置の義務付け等所要の措置を講ずる

というものです。商事法務さんのHPで会社法研究会の審議状況は時々チェックしているのですが、社外取締役制度に関する法令をこうすべき、といった議論が白熱しているようには(いまのところ)思えません。この2年間、東証の独立役員制度に加えて、コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されたこと、会社法において監査等委員会設置会社という機関設計が認められるようになったことで、ずいぶんと社外取締役が増えました。会社法で社外取締役を強制導入することが、いまから必要なのかどうかといいますと、あまりその必要性は認められないような気もします。少なくとも形式面では社外取締役が急増したのですから、今後は実質面において、「社外取締役が選任されることで業績が向上した」「不祥事の予防や発見に効果があった」といった立法事実が明らかになった時点で検討すればよいのかもしれません(あくまでも個人的な意見です)。

そういえば、以前このブログでもご紹介しました江頭憲治郎先生のご論稿「会社法改正によって日本の会社は変わらない」(法律時報2014年10月号59頁以下)が発表されて2年以上が経過しました。会社のガバナンスが上手くいっていないからといって、会社法の規制を強化してもほとんど無意味であり、会社法が乗っている基盤(いわば「下部構造」)が変わらない限り日本の会社は変わらないというスタンスのご論稿です。そしてこの「下部構造」というのは、①機関投資家、②経営者選抜システム、③会社事件にプリンシプル(原則主義)の適用を嫌う裁判所の姿勢、というものだそうです。

私も江頭先生が指摘されている②経営者選抜システムの変化がなければ、ガバナンス改革で会社が変わることはないだろうな・・・と思います。実務技能に長けた方が社内で勝ち上がり、そのまま社長に就任する制度の下では、経営技能を習得する機会がないのでCEOの人材不足をもたらしている、同じようにビジネスの世界で勝ち上がった経営者OBが社外取締役に就任しても、執行部との目線が同じなのでなんら会社は変わらないといったあたりが説得的です。

ところで、この「会社法が乗っている基盤(下部構造)」には全く変化はみられないのでしょうか。機関投資家についてはスチュワードシップ・コードの浸透があり、企業との建設的な対話を図るという意味ではやや変化が生じてきたように思えます。また②についても、法で規制できるような課題ではありませんが、「働き方改革」が推進されて、同一労働・同一賃金に関する指針案等も出てきました。大きく変わるというものではありませんが、少なくとも日本型雇用慣行が少しずつ変化する傾向は(政府の力で)出てきたように思います。

問題は③ですね。裁判所が商事事件を判断するなかで、原則的な判断基準を示すということはあまり見受けられません。ただ、ガバナンス・コードをコンプライしている会社の役員が、その運用を怠っているようなケースでは善管注意義務違反に該当する、といった判断がなされることもあるかもしれません。また、近時の最高裁判決の傾向をみていると、経営判断の内容には踏み込まず、判断過程の適正手続性審査に重点を置いているとも読み取れそうなので、その手続きの経済的合理性をチェックするなかでプリンシプルの趣旨を尊重しているのかもしれません。このような諸事情から、「下部構造」に変化はみられるように思います。

不祥事防止よりも、業績向上のためのガバナンスということも会社法改正が検討される一因のようですが、その実現のためには「会社法改正でできること、できないこと」「法改正に向けて尽力する関係者の並はずれたパワーが発揮される可能性があるかどうか」といったところをまず理解しておく必要があると思います。そうでないと、やはり「会社法改正では日本の会社は変われない」といった結論を再確認することになってしまうような気がいたします。

1月 13, 2017 会社法を語る人との出会い | | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年1月10日 (火)

日経「私見卓見」に拙稿が掲載されました(1月10日朝刊)

本日(1月10日)の日経朝刊15面「私見卓見オピニオン」欄におきまして、当職の「内部通報制度は企業の信用を高める」と題する論稿(1000字程度)を掲載いただきました。たくさんの応募論稿の中から編集者の方々に選定いただいたことはとてもありがたいのですが、それは内部通報制度や内部告発が社会的にも関心を集め出したことの裏返しだと思います。「働き方改革」が進む中、公益通報者保護法の改正問題、改定された民間事業者ガイドラインの浸透といったことに、これからも企業の関心が高まることを願っています。

1月 10, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年1月 9日 (月)

企業の「相談役」「顧問」制度にはガバナンス・コードはなじまない

どのマスコミよりも早く、NHKさんが経産省の最新コーポレートガバナンス調査の集計結果を報じています(1月8日付けNHKウェブニュースより)。東証1部、2部上場2500社のうち、871社から得た回答をもとに集計したところ、①「相談役」や「顧問」を導入している企業は70%以上にのぼり、②そのうち35%の企業で「相談役」や「顧問」が現経営陣に対して指示や指導を行っていることが判明したそうです(私の実感では、導入企業はもっと多く、また指示や指導はあたりまえ・・・と思っていたのですが)。

上記ニュースによると、経産省は、こういった実態が企業統治をゆがめることのないよう制度の在り方を提言していく方針だそうです。おそらく経産省の「コーポレートガバナンス・システム研究会」で今後審議がなされるものと思いますし、金融庁のガバナンスフォローアップ会議、法務省に近い会社法研究会等でも話題になるものと予想しています。著名な議決権行使助言会社さんでも、今後上場会社が顧問、相談役制度が経営に影響を及ぼす方向性に動くときには関連議案には反対票を投じるように推奨されるようです。このような流れからしますと、とりわけ上場企業の「相談役」「顧問」という制度は、現在のガバナンス改革の中ではかなりネガティブなイメージで捉えられているように思われます。

私が社外取締役を務めている会社では(ガバナンス報告書ですでに開示している範囲で申し上げますが)、60歳取締役定年制に例外はなく、取締役は一切会社には残りませんので、会長職はもちろん、顧問も相談役制度もありません。私が取締役に就任した以降に、何名かの社内取締役(専務や常務)が退任されましたが、退任後は一切会社とは関係はなくなり、もちろん顔を出すこともありません。その影響からか、事業部門の垣根を超えて一切の派閥はなく、社外取締役、執行役員を含めて、本当に一生懸命次期社長候補者を探さねばならないという状況になります(だからこそ社長候補者の選任過程は、その判断基準も含めて透明化しないとやっていけないのです)。

ただ、実際に社長選任過程に関わり、また他社でいくつもの派閥争いの紛争解決に関わる経験から申し上げますと、当社の制度は当社に特有のビジネスモデルや雇用慣行、さらには会社成長の歴史に由来するものだからこそ機能しているのであり、決して他社でも「相談役」や「顧問」を廃止することで取締役会の実効性が高まったり、社長後継者プロセスが透明化されるかというと、そんなに甘いものではないと考えています。むしろ長年「相談役」「顧問」がおられた上場企業にはそれなりの利点(長所)があるわけで、その存続を個々の企業ごとに考えなければ「短所を補完するためのガバナンス」によって長所を阻害することにならないか、非常に懸念を抱きます。

たとえば対内的効果としては、人事への関与があります。社長後継者争いには、何名かの候補者が出てくるわけですが、最終的に社長が選任された後、「お前もまだまだこれからがあるんだから、捲土重来を期せよ」といって社長になれなかった候補者を社内につなぎとめるのは相談役、顧問として会社に残る方です(会長とか現社長とか)。もし「捲土重来の機会を保証する人」がいなければ、(ポスト争いに敗れたと烙印を押された方は)官僚の世界と同じく、さっさと優秀な人材が他社に移ってしまい、企業の競争力はそがれます。社長候補と呼ばれるほどの有能な方をみすみす他社にとられてしまうことを見逃すわけにはいかないと思います。

また、対外的効果としては、ステイクホルダーへの影響力行使という利点があります。もちろんご本人自身も企業帰属意識を充足させるような肩書を持ち続けたいと思うわけですが、それ以上に世間は組織に帰属している人だからこそ評価をする、といった風潮があります。たとえば経産省や金融庁、法務省といった官僚組織が、有識者会議に民間委員を任命する場合、「●●会社元代表取締役」という肩書で選任するでしょうか。そうではなく「●●会社相談役」とか「●●会社最高顧問」といった企業帰属が一目でわかる肩書がある方を選任するほうが「経済界の意見を聴いた」といった名目作りには大切だと考えておられるのではないでしょうか。経済団体の理事職への就任といった場面でも同様です。もし今後、政府が相談役制度や顧問制度は廃止すべき、との意見をガバナンス・コード等を用いて提言するのであれば、政府委員を経済界から選任する場合にも、相談役や顧問の肩書のついた方は選任しない、もしくはそのような肩書は委員名簿に公表しないといったことを検討しなければ矛盾するのではないでしょうか。

ガバナンス改革は形式から実質へと進化させるべき、とお正月の大発会において麻生大臣が述べておられましたが、この相談役、顧問制度はまさに「実質化」にとっては重要な課題です。本件については賛否両論あるでしょうし、ガバナンス改革推進に熱心な有識者の皆様方からは私の意見についてはご異論もあるでしょう。ただ、相談者や顧問制度の長所と短所を機関投資家を含めてきちんと議論することが大切ですし、そのうえで「一律要請」になるようなガバナンス・コードは活用すべきではなく、最終的には企業自身の判断に委ねる、相談役制度、顧問制度を維持する説明責任は、株主との建設的な対話の中で果たす、といったことが妥当な落としドコロではないかと考えています。

1月 9, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月 7日 (土)

東芝会計不正事件-歴代社長立件にはいくつかの壁がある(その2)

今年に入って朝日新聞、読売新聞で続けて東芝歴代社長さんの刑事立件の壁を問う記事が掲載されました。とりわけ1月5日(木)の読売新聞朝刊「証券監視委-脱下請け進む」と副題のついた特集記事は力が入っていましたね。東芝さんの歴代三社長の刑事告発について、証券取引等監視委員会はまだまだあきらめず、立件に向けた調査が進んでいるそうです。

検察庁と金融庁の異例の対立・・ということですが、私の基本的なスタンスは昨年10月のこちらのエントリーで述べたこととそれほど変わっておりません。歴代三社長さんの「犯意」を立件することには壁があるように思えます。なお、そこでは書いておりませんが、多くの有識者の方が指摘されているように、PC部品取引(バイセル取引)に粉飾があったとしても、それがどの程度投資家の投資判断に影響を及ぼすのか・・・といった「重要性」に関する解釈問題も、きちんとクリアしなければいけない課題かと思います。

ところでこの「重要性」ですが、よく「たとえ虚偽記載がなされたとしても、東芝さんの全売上の何%にすぎない」といった数値基準をもって重要性(量的重要性)の判断がなされるようですが、質的重要性というのは考慮されないのでしょうか?PC取引部門における売上が全体のわずか数%であったとしても、その虚偽記載が誤謬ではなく、東芝関係者による粉飾(故意による会計不正処理)だとすれば、その事実が東芝の売上全体に及ぼす影響(つまり氷山の一角にすぎない可能性)は大きいのであり、質的重要性は高いとみるべきではないでしょうか(一般の投資家の方も、虚偽記載がミスで発生した場合と、粉飾で発生した場合とでは投資判断も変わると思うのですが。あまりこのあたりの議論はされていないように思います)。歴代社長さんによる具体的な粉飾の指示がなされなくても、目標達成に向けたプレッシャーが強いということであればなおさら、カンパニートップによる不正会計の可能性(動機)は強まるわけですから「質的重要性」は高まるのではないかと。

さらに、無責任な野次馬的発想ですが、こういったときこそ金融商品取引法上の内部統制報告制度を活用できないのでしょうか。内部統制報告書の虚偽記載罪によって経営トップを立件するということも検討に値するのではないかと。当ブログでも10年以上前に「内部統制報告制度と刑事処罰の現実性」と題するエントリーを書きました。そこで書いたとおり、内部統制報告書の虚偽記載罪は5年以下の懲役(法人両罰規定あり)とされていますが、この刑事罰は本当に活用できるのだろうか・・・といったことに疑問を抱きました。

現在も、10年前の疑問はそのままなのですが、経営トップの有価証券報告書の虚偽記載罪に関する故意を立件することが困難なのであれば、その補完として内部統制報告書の虚偽記載罪で立件するということもありうるのかな・・・と思います。たとえば朝日新聞の記事で報じられているように、PC取引に関する会計上の問題点を指摘されないよう、関係取締役以外の取締役には月次の予算・決算数値を資料として配布しなかった(隠していた)、といったことや、読売新聞の記事にあるように「今期は少し暴走してもよい」といったことを社長がメールで指示しているとすれば、個別の会計処理の認識はなくても、自社の統制環境に開示すべき重要な不備があることを社長自身が認識していたということは少なくとも評価できるのではないでしょうか。

内部統制報告書は、経営者が自らの責任で有効性を評価した上で投資家に意見を表明するものです。統制環境に重大な不備があったかどうか、という点はもちろん経営者の評価が含まれるわけですから、三洋電機株主代表訴訟の一審判決で示されたように、経営者による「経営判断原則」に準じた取扱いがなされると思われます。ただ、当時の東芝さんの業績からみれば、経営トップの方々は、会計処理についてより慎重な立場で内部統制の有効性を評価すべき立場にあったのではないでしょうか(銀行の取締役の特別背任罪の成否について判断した北海道拓殖銀行事件最高裁判決参照)。私としては、内部統制の有効性判断には経営者に広い裁量権が付与されているものとは思いますが、たとえば業績が悪くて財務制限条項に反するおそれのある状況とか、赤字と黒字の境界線上にあるとか、具体的に会計監査人から会計処理の問題点を指摘されていた場合などには、経営者の裁量権は著しく狭まり、より慎重な判断が求められるようになるのではないかと考えます。

東芝さんは、すでに「当時は開示すべき重大な不備があった」ことを認めて内部統制報告書の訂正報告書を訂正されました。そして現社長さんが「現在は重要な不備がない」と判断されています。だからこそ、昨年末に(一老さんがコメント欄で述べておられることに私も納得しておりますが)取締役会で大いに議論したすえに「当社の評価が厳しい状況になるとしても、正直に米国ウエスチングハウス社の損失予想について開示しよう」と決断されたのではないかと推察いたします。1月10日から銀行団の方々に説明会を開催されるそうですが、そのような状況になることも覚悟のうえで(内部統制は有効に機能しているからこそ)状況を正確に開示されたのではないかと。

1月 7, 2017 内部統制と刑事処罰 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月 4日 (水)

公益通報者保護制度に関する民間事業者・労働者の意識調査結果の公表

私の本業とも関係する話題ですが、消費者庁は本日(1月4日)、公益通報者保護制度に関する民間事業者および労働者の意識調査・実態調査(アンケート集計)の結果を公表しました。4年ぶりの実態調査報告なので、4年前との結果比較も含まれています。二つの報告書で合計200頁になりますが、概要版も出ておりますので、そちらでサラっとご覧になることも可能です。

ご承知のとおり、企業不祥事が明るみとなる端緒は、なんといっても内部通報や内部告発です。「社内調査が端緒」というケースも多いのですが、実は内部通報が社内調査のきっかけということもあります。経営トップが社内不正に早期に気付くためにも内部通報制度の充実は欠かせません。独禁法のリニエンシー制度、(会社法、金商法、不正競争防止法違反にも適用が検討されている)改正刑事訴訟法における協議・合意制度、景表法上の課徴金制度、(年末に特例適格消費者団体が誕生して注目される)消費者裁判手続き特例法、(TPP発効を条件としていますが)確約手続、海外カルテル、海外贈賄規制等、企業の重大な不正リスクを低減するためにも必須の内部統制システムです。これだけ労務コンプライアンス違反への社会的批判が厳しくなったのですから、パワハラ・セクハラ等の通報をいち早くキャッチすることも大切です。

また、この報告書の注目点としては、労働者の意識調査結果報告の75~76頁あたりです。労働者として、内部通報制度が整備されている企業に入社したいと回答した方が8割を超えており、またひとりの消費者として、内部通報制度が充実している企業の商品・サービスを購入したいと回答した方も85%を超えています。企業ブランドを高めるためにも内部通報制度の整備・運用は重要であり、企業にとって、不正の早期発見という有用性以外にもメリットがあることがわかります。

私も委員を務めておりました消費者庁・公益通報者保護制度の実効性検討委員会では、どちらかというと「内部告発(マスコミや監督官庁に情報提供すること)」をした従業員をどのように保護すべきか、といった点の議論が中心でしたが、民間事業者としては、内部通報制度を充実させることで、いかにして内部告発者を出さないか、という点に注力していただきたいと思います(なお、この点は私個人の意見であることを申し添えます)。

1月 4, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

株主上程議案に対する監査等委員会の意見陳述権行使

昨年から注目しております某上場会社(東証マザーズ)の支配権争い事案ですが、予想どおり、年末に募集株式の発行等について差止め仮処分の決定が出されたそうです(大阪地裁決定)。会社側は債務者審尋もなく突然決定が出されたことから、1月4日午前9時に保全異議を申し立てるそうですが、仮の地位を定める仮処分において債務者審尋なしに決定を出すというのも、年末の要急事案としての特別事情が認められた、というところでしょうか。

一昨年のアルファクス・フード・システムさんの事例あたりから、この支配権争いが顕在化している時期の第三者割当増資については、主要目的ルールはかなり後退してきている(原則として不公正方法による株式発行と推定する)方向にあるように感じますし、社外役員は「有利発行」か否か、著しく不公正な株式等の発行か否か、という点への判断と情報開示が強く求められるようになってきているように思います。

ところでこの某上場会社さんは監査等委員会設置会社です。過半数の社外取締役さんで構成されている監査等委員会には、経営評価機能を発揮するために株主総会における役員の選任・解任に関する意見陳述権が付与されており、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会においても権限行使が期待されています。この某上場会社さんは、大株主の要求に応じて臨時株主総会を開催するそうで、そこでは大株主さんの上程議案(大株主から提出された取締役選任議案)が審議されます。この場合、会社側は株主上程議案に対する意見を表明することになると思いますが、そもそも監査等委員会は意見陳述をする立場にあるのでしょうか。

会社法の条文上は何らの制限もありませんから、株主上程議案による取締役候補者への意見形成も監査等委員会の職責に含まれるようです。しかし、そもそも指名委員会類似の監督機能を果たすために監査等委員会の意見陳述権が認められたわけですから、取締役選任に関する株主上程議案にまで意見を述べることは制度趣旨を超えるものではないか、とも思われます。つまり株主側から「監査等委員会としての意見を聴きたい」と質問されても、そのような意見を述べる立場にはない、として説明義務を果たさなくてもよい、ということになるのかどうか。最近の有力な見解では、意見陳述権といえども、述べるべき時に述べないというのは取締役監査等委員の善管注意義務違反に該当するそうなので、このあたりはきちんと整理しておくべきではないでしょうか。

ちなみに監査等委員会設置会社の「現実」を知るうえで、月刊監査役最新号の別冊付録に「選任等・報酬等に対する監査等委員会の意見陳述権の実務と論点-中間報告としての実態整理-」なる報告書が掲載されておりまして、ここに監査等委員会設置会社のアンケート結果が集計されていて、とても参考となります。愕然としたのは監査等委員会の意見によって経営執行部の意見が修正されたと回答した会社がわずか1社(67社中)。また意見を開示した会社においても、監査等委員会がどのようなプロセスで代表取締役の人事や報酬の妥当性を判断したのか、開示情報から把握できる企業はほとんど存在しないというのが現実です。

いまガバナンス改革のフォローアップは形式から実質へと移っていますが、このままだとガバナンス・コードの改訂において「監査等委員会設置会社は指名委員会等設置会社への段階的プロセスである」とか「監査等委員会設置会社の取締役は過半数を社外取締役にすべき」という流れに移行するのではないでしょうか(冗談ではなく、本当にそのように移行する可能性があるように感じます)。監査等委員会設置会社に移行した会社は今年が正念場であり、監査等委員会の実質的な機能発揮、つまり社長人事や社長の報酬に積極的に監査等委員が関与しているという実態を各社とも形成・開示することが不可欠かと思われます。

1月 4, 2017 監査等委員会設置会社 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月 3日 (火)

謹賀新年2017

みなさま、あけましておめでとうございます!<m(__)m>本年も拙ブログをよろしくお願いいたします。

大阪は例年になく穏やかな気候の年末年始でした。短い正月休みでしたが、いちおう目標としておりましたふたつの判決文の熟読も終えまして、なにかの形でまたフィードバックしたいと思っております。

1月 3, 2017 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年12月30日 (金)

今年もお世話になりました(年末のご挨拶)

例年この時期は家族旅行ですが、今年は諸事情ございまして私個人の仕事納めが本日になってしまいました。事務所の入っているビルがおそろしいほど静まりかえっております。

本業については一切ブログではお話できませんが、いろいろと社会的にも騒がれた事件に関与できて充実した一年でした。また、これはブログでも書きましたのでご承知の方も多いとは思いますが、代理人としてではなく、当事者として訴訟リスクを背負う事態となりました。株主代表訴訟リスクというものを、自分のこととして実感することができました(まだまだリスク顕在化のおそれはありますが・・・)。当事者になってみると、やっぱり「有能な代理人」の支援を受けることがどんなに精神的な安定につながるか、身にしみますね(笑)。あ、あとD&O保険の存在も(笑)。

まだまだブログで書き足らないことが多いのですが、ひとまず今年はこれでお休みさせていただきます。どうか良いお年をお迎えくださいませ。

山口利昭 拝

12月 30, 2016 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)