2018年4月19日 (木)

「あえてexplainするという選択」-関経連CG改革への建議

外部調査委員会で委員長を務めておりますTN社の件において、連日DF(デジタルフォレンジック)で深夜まで頑張っておられる委員(委員補佐)の皆様をみておりますと、ノホホンとブログを更新している気持ちにもなれず、ずいぶんと更新頻度が落ちております。また、新聞で大きく報じられております事件の品質管理委員会委員にも就任したことで(開示されましたら、またあらためて告知いたします)、工場見学など早朝から活動せねばならず、当分の間は週1ペースの更新になるかと思いますが、どうか見捨てないでくださいね(笑)。

ということで、いろいろとブログネタはあるのですが、どうしても書きたかったのが関経連さんの「実効性あるコーポレートガバナンスへの改革に関する意見について」と題する建議です(4月17日リリース)。うーーーん、毎度ながら、関経連さんの企業統治改革への意見、とんがっていてスキです(笑)。企業統治の仕組みについては、個別企業ごとに柔軟な制度設計とすべき、というのが基本思想でして、表題にも書いたとおり、コンプライを目標とするのではなく、あえてエクスプレインする、という選択肢もあるのではないか、と締め括っています。ホント、そのとおりかと。最近は機関投資家の方々の中にも「コンプライよりもエクスプレインする企業のほうが形式よりも実質的な改革を進めている企業といえるのでは」という意見も出ていますよね。

ただ、上記関経連意見の個別提案をみると、機関投資家の気持ちを逆なでしているものも散見されます(四半期報告廃止、社外取締役の制度化反対、政策保有株式制度の柔軟化、議決権行使助言会社への規制導入、ROE指標重視への警鐘等)。関経連さんの意見は「三方よし」の近江商人の教えを基本としており、「株主も(大切にすべき)ステイクホルダーのひとつにすぎない」というところが基本にあります。たとえばROEの過度の重視は企業倫理、日本企業の経営哲学にそぐわないと明言しています。

ホンネで言えば、この関経連さんの意見に共感する上場企業さんも多いと思います。そもそもコーポレートガバナンスの在り方をソフトローで誘導すること自体、議論の対象にすべきですが、どうせコンプライするのであれば、日本を代表するグローバル企業(外国人株主の保有比率が高い企業)の多くが範としている「近江商人 商売十訓」のほうが参考になるような気もいたします。「正札を守れ。値引きは却って気持ちを悪くするくらいがオチだ」なる訓戒は、売上高営業利益率にも通じるのではないでしょうか。

とりあえず、関経連さんの意見における個別提言については、また時間のあるときにでも、きちんと読んで理解しておきたいところです。あと、UACJさんの株主による人事権行使の件や積水ハウスさんの株主代表訴訟ネタについても書きたいのですが、後者については私の立ち位置からして問題がありそうなので(笑)、もはやブログでは永遠に書けないかな・・・。さらに財務次官のセクハラ問題で財務省顧問弁護士が調査窓口となったことが波紋を呼んでいますが、これって内部通報の外部窓口を顧問弁護士が務めている企業が多いこととどんな関係に立つのか・・・、また別途エントリーでまとめたいと思います。

 

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2018年4月16日 (月)

利益相反行為への関与と企業年金損害との因果関係を認めた判決

この6月に施行が予定されているコーポレートガバナンス・コード改訂2018(案)では、自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業自身が取組むことを要請しています。最終受益者たる従業員の資産を預かる立場として、スチュワードシップ・コードへの署名を促し、併せて事前規制による基金の健全性確保を図ろうというものだと理解していますが、司法が関与する事後規制という意味でも重要と思われる判決が出たようです。

4月13日(金)日経新聞の夕刊(社会面)によりますと、年金基金(九州石油業厚生年金基金-すでに解散)が、同基金の資産を運用していたファンドの元社長を被告として争っていた損害賠償請求訴訟において、元社長の損害賠償責任を認める控訴審判決(東京高裁)が出ました。当該年金基金には年金コンサルタントが助言をしていたそうですが、このコンサルタントに、「うちのファンドに資産を預けてもらえるように助言してくれれば、その資産額に応じてフィーを払う」と同ファンドが約束し、実際にも当該コンサルタントの助言によって多額の基金が預けられました。しかしながら、その運用結果として260億円以上の損失が基金に発生したそうです。控訴審では、ファンドの元社長による「(コンサルタントの)利益相反の助言への関与」について故意の不法行為が成立するとして157億円の賠償義務を認められています(ただし、請求額は1億円とのこと)。

基金側の代理人は「今回の判決は、ファンドや年金コンサルタントに警鐘を鳴らしたものといえる」と述べておられます。なお、利益相反行為は年金コンサルタントが行ったものであり、その利益相反の助言に関与したものとしてファンドの元社長さんの不法行為が認めらていますが、ファンド自身への損害賠償請求は棄却されているようです(ちなみにファンドとしては「双方代理」の事実を年金基金側には伏せていたそうです)。元社長の行為に対する違法性判断を含め、いろいろと論点はありそうで、そもそも「双方代理」については行政処分をもって事後規制を図るべきとの意見もありそうです。

本件では利益相反行為を助長した関係者個人の民事賠償責任が認められたところに大きな意義があるだけでなく、役員個人による利益相反行為の関与(助長行為)と基金の損失・損害(157億円)の間に相当な因果関係が認められた、という点にも興味が湧きます。何度も繰り返し、当該ファンドへの資金移動があり、その都度コンサルタントへの報酬が支払われたようなので、どういった理屈で因果関係が認められたのか、ぜひとも判決文を読んでみたいところです。

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2018年4月10日 (火)

会計監査人、内部告発者に参考となるエフオーアイ事件高裁判決

今年の3月23日に東京高裁で言渡されたエフオーアイ事件控訴審判決の速報版は3月26日付けエントリーで書きましたが、ある事件関係者の方から「研究資料にしてください」ということで判決全文を頂戴いたしました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。一審で敗訴したエフ社の監査役と元引受証券会社が実質的に控訴をしていましたが、監査役さんの控訴については棄却、元引受証券会社さんの控訴については逆転で責任(損害賠償責任)が否定されるという結論になっています。

元引受証券会社の責任を否定した判決理由部分をザックリまとめますと、

引受審査の場面においては、元引受証券会社は企業会計及び会計監査の専門家である公認会計士等と同等の作業を重畳的に実施させる実益は乏しく、専門家との合理的な役割分担の下で効果的な審査の実現を図るのが金商法の趣旨であると解される

監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情が判明した場合、元引受証券会社は、自ら財務情報の正確性について公認会計士等と同様に実証的な方法で直接調査する義務はなく、一般の元引受証券会社を基準として通常要求される注意を用いて監査結果に関する信頼性についての疑義が払しょくされたと合理的に判断できるか否かを確認するために必要な限度で追加調査を実施すれば足りると解すべきである

財務情報には明らかに不自然点があり、二度にわたる内部告発が元引受証券会社に届いたのであるが、元引受証券会社としては、公認会計士等による監査結果に関する信頼性に疑義が生じた場合に該当するものとして、一定の追加調査を行っており、それは通常要求される程度の調査を行ったと評価される。よって「相当な注意を用いた」といえる、つまり元引受証券会社には過失はない

といった論旨です(元引受証券会社の主張に対しては、高裁はかなり詳細に理由を述べているので、興味のある方はぜひ判決全文をお読みください)。会計監査人の監査結果への信頼・・という点が、元引受証券会社の免責の根拠として重視されています(いわゆる「信頼の原則」の適用。なお金商法21条1項4号、17条の解釈あり)。本判決の結論からみると、財務情報に違和感のある場合はもちろんですが、それ以外、たとえば内部告発が会計監査人に届いた場合などにも、会計監査人の注意義務違反、善管注意義務違反の有無が慎重に判断されるものと思われます。エフオーアイ事件訴訟では、会計監査人は早々に和解をされたようですが、監査法人(会計監査人)には(行為規範を考える上で)おススメの判決ではないかと。

なお、本判決を詳細に読みますと、内部告発の工夫次第では元引受証券会社をかなり追い詰めることもできそうですね(まぁ、今回もかなり追い詰められたわけですが・・・)。会計監査人や元引受証券会社、さらには取引所に対して深度ある調査を求めたいのであれば、内部告発人としては告発文書の書き方に注意をすべきと感じました(そういえば先日のイビデングループ・セクハラ最高裁判決でも、「通報者が何を会社に要求していたのか」ということが論点になっていました。あまり詳しくはここで論じることはしませんが、内部通報や内部告発にもコンプライアンスに精通した代理人が就くことが重要かもしれません)。

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2018年4月 6日 (金)

もはや「なんちゃってコンプライ」ではすまされない「ガバナンス・コード改訂版への対応」

(4月6日 午後追記あり)

毎日、調査委員会のヒアリング準備に追われておりまして、まともなエントリーが書けておりませんが、3月30日に公開されましたコーポレートガバナンス・コード改訂(案)をようやく読みましたので、ひとことだけコメントさせていただきます。私の個人的な印象は、タイトルのとおり「ガバナンス改革の深化が進み、もはや『なんちゃってコンプライ』ではすまなくなるぞ!」というもの。

2015年に施行されたガバナンス・コードについては、多くの上場会社がホンネとタテマエを使い分け、「コンプライ」といいながら、実際には面従腹背、後ろを向いて舌をペロッと出しているというのが実際のところではないでしょうか。そんな日本の上場会社の「なんちゃってコンプライ」に終止符を打つべく、今回の改訂が実施されるものと思われます(正式施行は6月が予定されています)。

まずなんといっても「CEOの後継者計画の実施と、選解任プロセス透明化のための指名委員会の設置」です。後継者選任プロセスに独立社外取締役がどのように関わるのか、きちんと方針を開示している会社は少ないですし、きちんと運用しておられる会社はさらに少ないと思います。

つぎに「取締役会における取締役報酬の具体的な決定」ですね。こちらも報酬決定の透明性が求められていますので、報酬委員会による個別取締役の報酬決定が要請されています(文面では「個別」とは記載されていませんが、個別でなければ意味ないですよね)。役員報酬はインセンティブ報酬のほうが話題になりますが、こちらもキツイです。これ、ホントに上場会社で実施されるのでしょうかね?それとも正直に「できません、なぜなら・・・」とエクスプレインされるのでしょうか。

さらに「内部留保の取り崩し(健全なリスクテイク)」です。これまで、上場会社の内部留保については「将来の投資に迅速に対応できるよう手元流動性が必要なため」と説明していましたが、これからは「アンタ、なにゆうてまんねん!」ということになりそうです。「事業リスクを的確に把握したうえでの事業ポートフォリオの見直し」が要請されていますので、手元資金(内部留保)をどの程度確保しておくのか、その合理的な理由を示さなければ「資本コストを意識していない経営者」と烙印を押されてしまうわけで、これもキツイです。

(追記)4月6日の日経朝刊19面に「自社株の買い越し1.3兆円 企業、市場に資金返却」なる見出し記事を見つけました。「企業統治強化の流れの中で、経営者が株主に報いる姿勢を強めている」とありますが、手元資金の有効活用を求める投資家の要望が企業行動に及ぼす影響は大きくなりつつあります。

そして「政策保有株式の縮減」です。株式の持ち合いは「サラリーマン経営者がリスクをとらずに自社の議決権を保有している状態」という見方が強いです。オーナー経営者であれば株主と経営者の利害が一致しますが、サラリーマン経営者の場合には利益相反状況です。だからこそ、サラリーマン経営者の会社にはインセンティブ報酬制度の導入が強く求められていますが、なんといってもリスクをとらず、資本コストも意識しない経営は許されない、という機関投資家の意見が強くなっているので、今後どう解消していくべきか、コンプライする以上はその道筋を明らかにしなければならないと思います。

以上、思いつくままにコメントしましたが、ガバナンス・コード対応には「ホンネとタテマエ」の使い分けは許されないと考えます。本気で対応するか(コードの趣旨に沿った形で運用するか)、さもなくば堂々と「コードには従いません、なぜなら・・・」と言い切るか、御社の選択肢は二つに一つだと思います。ちなみに英国版ガバナンス・コードが2016年に改訂されていますが、「当社は日本版には従わない、ただし個々の企業文化を重視する英国版には従っている」といった理由もありかな…などと考えています(そもそも日本版コードは英国版コードに従っているのでしょうか?従っていないのであれば、その理由を示していただきたいものです)。

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2018年4月 3日 (火)

グループ管理、サプライチェーンにこそ不祥事の「根本原因」がある

当ブログにお越しの方々はすでにご承知のことと思いますが、日本取引所は3月30日付けで「上場会社における企業不祥事予防のプリンシプル」を公表されたようです(日本取引所のリリースはこちらです)。パブコメとこれに対する取引所の考え方もリリースされており、プリンシプルを理解する際に役に立ちそうですね。さて、皆様方の会社にとって、「不祥事の芽」とはいったいどのような事情を指すのでしょうか。

ところで、この予防のプリンシプルでは、原則5では「グループ全体を貫く経営管理」、そして原則6では「サプライチェーンを展望した責任感」について言及されています。原則1から4までとは少し毛色が違うような気もしますが、(これは個人的見解ですが)、このグループ管理とサプライチェーンにおける予防責任という点にこそ、不祥事の「根本原因」に迫るヒントが隠されているように考えています。

企業不祥事発覚時に組織される社内調査委員会、第三者委員会は、不祥事の発生原因をどうしても社内事情に求めたくなります。報告書をみても、組織風土や内部統制・ガバナンスの不全について、社内の状況を中心にまとめられています。しかし、過去に性能偽装事件や労基法違反事件、薬機法違反事件、カルテル、FCPA疑惑の調査に携わる中で、私は本当に不祥事の根本原因を追究するのであれば、グループやサプライチェーンの構造的な欠陥にまで踏み込む必要があると考えています。

たとえば、①親会社で労基法違反の疑惑が生じたので、当該業務をそっくり特定の子会社に移管して「ブラック企業」の評判を回避した事例、②社外役員の顔に泥を塗ることができないので、FCPA疑惑が生じる金銭支出についての判断を海外子会社の役員会に移行した事例(もちろん実質的な意思決定は親会社の執行部です)、③談合疑惑に巻き込まれないように、取引先中堅ゼネコンに談合をさせる大手ゼネコンの事例、④大手メーカーの受注調整(在庫管理)を最適化するために、「納期を守ること、欠品を出さないこと」を最優先事項として取引先に要求し、品質偽装等の不正を「やらざるをえない」状況を取引先に作出している事例など、数え上げたらきりがありません。

これらの行為を「リスク管理」と呼ぶ方もいらっしゃるかもしれません。また「こういった知恵を出すのが法務の仕事だ」とおっしゃる社長さんもいらっしゃるかもしれません。ただ、これでは何も変わりません。短期的には収益につながるかもしれませんが、長期的な企業価値を毀損することは明らかです。

よく「企業風土」とか「コンプライアンス意識」といったことが語られますが、(社員による私利私欲のための違法行為は別として)一社だけで完結する企業不祥事は少ないと感じています。まさにいま金融庁や取引所が語る「根本原因」にまでさかのぼる勇気があるのであれば、このグループとしての風土、サプライチェーンにおける不正防止の最終責任者の特定、という点こそ指摘しなければなりません(ただ、不都合な真実という意味で、誰も語ろうとしない領域かもしれませんが・・・)。今回の「不祥事予防のプリンシプル」を語るにあたり、この原則5と6については、そういった理解のうえで読み進める必要があると考えます。

 

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2018年4月 2日 (月)

大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)の社外監査役に就任いたしました。

本日(4月1日)、大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社、Osaka Metro)の社外監査役に就任いたしました。大阪市交通局の時代から「監査役担当」という形で経営会議には出席しておりましたが、民営化によって監査役会設置会社となり、会社法上の社外監査役に選任いただきました。関西ではJR西日本に次ぐ規模の鉄道会社となりますが、皆様の生活を支える企業の経営に携わる者として、誠実に職務を遂行しく所存です。

朝早く、取締役会を開催した後、梅田駅のセレモニーに参加をして、その後は監査役会。お昼からは新阪急ホテルにて記念パーティーに参加いたしました。たいへん盛大なものでしたが、私は主にグループ会社の役員の皆様にいろいろと各グループ会社の現状を教えてもらいました。100%子会社は少なく、多くは関西企業が少数株主として資本参加をしています。運輸収入以外にも収益基盤を広げるためには、グループ会社との連携も重要になると思いますので、企業集団としての事業リスクなどにも配慮しながら監査を進めていきたいと考えています。

東京メトロ(東京地下鉄株式会社)の取締役相談役の方も社外取締役として経営に参画いただきますし、本日、東京メトロの常勤監査役の方ともお話ができました。ぜひとも東京メトロさんの事例も参考にさせていただこうかと思っております。

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2018年3月29日 (木)

米国の内部告発法は決して「内部告発奨励制度」ではない

三菱マテリアルさんのHPに特別調査委員会の最終報告書が公表されましたね。かなりショッキングな内容であり、多くの経営者の方にもぜひお読みいただきたいところです。

また、品質偽装問題を生じさせてしまった企業にとって気がかりな記事が本日(3月28日)の日経朝刊に掲載されていました。「米、車欠陥の内部告発制度 タカタ元社員が1号に」との見出しで、米国の自動車公益通報者法が紹介されていました。同法に基づいて、日本のタカタ社のシートベルトの不具合を告発した2名の社員に、1億円以上の報奨金が出されることが決まった、とのこと。今後は日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーにも矛先が向けられ、新たな脅威になるといった論調でした。

タカタ社の事例を契機に成立、施行された米国の自動車公益通報者法ですが、従業員による不正申告によって企業が約1億円以上の制裁金を課された場合(和解も含みます)、当該従業員には10%から30%の報奨金が付与される仕組みになっています。通報者は日本企業の従業員でも構いませんし、通報事実は施行前(2015年12月以前)の不正に関する情報でも構いません。日本国内での不正でも、当該自動車(自動車部品)が米国内で使用されているのであれば対象になります。

通報者には自動車メーカーだけでなく、部品メーカーや販売会社、そしてそれらの下請け業者も含みますので、日本企業にも相当の脅威となることは間違いないと思います。ただ、だからといって米国の内部告発保護法が「内部告発奨励法」かというと、それは間違いだと思います。上記の記事では紹介されていませんが、たとえば自動車公益通報者法の条文をよく読みますと、公益通報者が保護され、また報奨金をもらえる条件として「先に会社の内部通報制度を利用して、それでも会社が是正措置を講じなかった場合」とされています。つまり、内部通報制度をしっかりと整備し、また運用していれば、内部告発者が多額の報奨金をもらえる可能性は低い、ということになります。

ただ、企業の内部通報制度が整備されていたとしても、7つほどの例外(通報制度を活用せずとも内部告発ができる場合)が定められていますので、具体的にどのような内部通報制度を整備、運用していればよいのかは、法文をチェックしておく必要があると思います。つまり、「いい加減な内部通報制度ではダメ。通報者の秘密を守り、通報者に不利益な処分をあたえないことが保証されている制度でなければならない」ということがわかります。最近の米国における内部告発関連の法制度は、社内通報を重視する傾向が強いのではないかと思われます。したがって、日本企業の対策としても、まずは自社の内部通報制度をしっかりと構築し、従業員に信頼されるような運用を心がけることが第一ではないでしょうか。

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2018年3月27日 (火)

報告書の全文公表と弁護士秘匿特権の放棄

今朝(3月26日)の日経法務面に「訴訟対応か説明責任か-不祥事調査の全文公表で『秘匿特権』の放棄も 企業の新たな課題に」といった見出しの特集記事が掲載されています。そこでは神戸製鋼さんと東芝さんの第三者委員会報告書のジレンマが取り上げられていますが、(偉そうに語るわけではありませんが)当ブログの2015年7月21日のエントリーにて、すでにこの問題を取り上げておりまして、ただ、当時はあまり皆様に注目されておりませんでした(笑)。

このたびの神戸製鋼さんの場合は、すでにDOJから書類調査要請があり、またクラスアクションも提起されている状況なので、訴訟リスクという観点からは全文公表を控えるということもあり得ます(なお、第三者委員会は設置されているわけですから、独立公正な立場での調査に応じているのであれば弁護士秘匿特権は放棄されているのではないか・・・という根本的な問題は残っているように思いますが・・・)。ただ、だからといって他社事例でも保守的に考えると神戸製鋼さんと同様の対応が無難、とまでは言えないように思います。

先のエントリーを書いた当時、私は「東芝事例は第三者委員会報告書制度の限界ではないか」・・・とも思いましたが、最近は「訴訟対応か説明責任か」といったような明確な二分論はあてはまらず、やりようによっては調和(バランスをとること)も可能ではないかと考えています。なぜなら、不祥事の原因究明の本旨は「関係者の責任追及」ではなく、再発防止に向けた不祥事発生の「根本原因」に向けられるようになったからです。

もちろんディスカバリーが問題となるような不正事案は、経営者が関与していたり、組織ぐるみの不正が行われていた場合ですが、会社が説明責任を尽くす必要があるのは「中長期の企業価値を向上させるにふさわしい企業の品質」の有無です。最近の調査委員会は、企業の品質を見極めるために「根本原因」つまりガバナンス、内部統制、そして組織風土(コンプライアンス意識の有無)に光を当てて説明をしなければならないわけで、そこでは秘匿しなければならない個々の役員の事情よりも、いわゆる「組織の構造的欠陥」を解明することに力点が置かれる傾向にあります。したがって、全く訴訟リスクがないとまでは申しませんが、秘匿特権が保護する内容と第三者委員会が調査をする内容とでは少し違うのではないかと考えています。

第三者委員会制度というのは、あまり諸外国にみられる制度ではなく、一番近い制度を持つカナダでも、調査をするのは裁判官だとある研究者の方からお聞きしました。したがって、果たして弁護士秘匿特権や弁護士作成書面(プロダクツ)に該当するのかどうか、たしかに微妙な問題を含んではおりますが、訴訟の数が極端に少ない日本ならではの利点もあるわけでして、「公表したくない」という企業側の後ろ向きの姿勢を正当化するような使われ方だけは「企業の品格」を疑われることになりますので回避すべきと思います。

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2018年3月26日 (月)

エフオーアイ損害賠償請求訴訟の控訴審判決ほか(最近の話題)

土曜日(3月24日)の日経朝刊記事には2度驚きました。すでに当ブログでは何度も報じておりましたエフオーアイ事件の裁判ですが、控訴審判決が出て、みずほ証券さんの損害賠償責任が否定されたそうです。もうひとつのエフオーアイ裁判(エフ社の架空売上の発覚を妨げた取引先従業員の法的責任を認めた判決)も影響したのかもしれませんが、「みずほ証券がエフ社の取引先への調査で販売実績を確認しており、通常要求される注意義務を尽くしていた。したがって相当な注意を払ったが有価証券届出書の虚偽記載を知ることはできなかった」と判断された、とのこと。

本件はエフ社の従業員による内部告発(取引所、監査法人等への情報提供)によって調査が開始されたものですが、当該告発が調査にどのような影響を及ぼすものなのか、とても関心を寄せています。ぜひまた控訴審判決の全文を読んでみたいところです。本件には東京の大手法律事務所の皆様がたくさん関与されていますので、またコソっと要旨だけでもお教えいただければありがたいです・・・笑

そしてもうひとつの驚きが同じ社会面に掲載されていたリニア工事の捜査に関する記事でした。たしか経済紙にあった風評ネタではJR東海による地検への告発が捜査の発端のように書かれていましたが、実は大手ゼネコン社員による地検への告発が発端だったのですね。いや、これは私も存じ上げませんでした。昨年に改訂された「従業員からの通報に関する国の行政機関のガイドライン」では、行政機関が捜査の端緒として「内部告発による」という点も秘匿されることになりましたので、この点が明らかになったのは意外です。

告発をした社員がどのような意図で情報を提供したのかはわかりませんが、果たして当該告発社員に代理人弁護士がついていたのかどうか、どれほどの社内証拠を持ち出して地検捜査の協力をされたのか、といったところが、また内部告発に関連する話題としては興味があります(おそらくこのあたりの事実は絶対にオモテには出てこないと思いますが)。上記の日経記事でも取り上げられているとおり、最近は日本版司法取引への関心が高まりつつあります。しかし、私的にはむしろ「国の行政機関向けガイドライン」の改訂によって、従業員の行政機関への内部告発が飛躍的に活用しやすくなっている点のほうが企業には大きなリスクになっているのではないかと感じております。

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2018年3月22日 (木)

JICPAジャーナルに「職業倫理」に関する連載寄稿を掲載いただきました。

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6月1日から施行される日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合意制度)について、最高検は司法取引に関する運用指針の通達を出したそうですね。国民から信用される制度にするために、慎重な運用を図る、とのことだそうです。財政経済関係犯罪に関する適用にも大きな影響が出そうですね。

最近、本業の関係で海外機関投資家の方々と「日本企業の不祥事対応」に関する意見交換をする機会が増えました。そこで感じるのはプロの職業人と呼ばれる人にはスキルと同時にエシックス(倫理)も必要、という視点です。とりわけ経営者との対話では、数字に表れない「職業倫理」に注目している、ということを聞かされます。そういえば3月で青学を退職される八田進二先生も、「会計プロフェッション」と「経理屋」との違いはスキルではなく、職業倫理にあるということを最新のご著書「会計。道草・寄り道・回り道」でも書いておられました。

ということで(?)、JICPAジャーナル(会計・監査ジャーナル)の最新号(4月号)より、「精神論ではなく、実践論としての職業倫理を考える」という論稿を毎月掲載していただくことになりました。第1回は「職業倫理に基づいて行動できるほど人間は強くない」とのタイトルで、職業人の非倫理的行動を見つめて、これを冷静に受け止める大切さを書かせていただきました。

仕事柄、会計士さんと接する機会が多く、会計不正事案の原因究明や再発防止策を一緒に検討するのですが、会計士さんがクレッシーの法則を用いて「動機」「機会」「正当化根拠」にキレイにまとめておられる図表を見て、いつも思うことがあります。

「生まれ育ってきた環境を捨象して、こんなにキレイに人間の行動を分析できるのだろうか・・・」「アメリカ人の作った法則が、文化の異なる日本人のホワイトカラーの分析にも役に立つのだろうか・・・」

短時間に効率よく不正の原因究明をしなければならないのであれば、クレッシーの法則も有用かもしれませんが、組織の根本原因を究明して組織不正の再発防止に有用な提言をするのであれば、もっと理性では割り切れない行動に至った「(日本人の習性に由来する)人間の弱さ」を見つめる必要があるのではないでしょうか。そんなことを考えながら書いております。おそらくご異論・ご批判も頂戴するような内容ですので、またご一読いただき、お友達や同僚の皆様といろいろとご議論いただければ幸いです。

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