2020年4月10日 (金)

コロナ禍のもとで6月の定時株主総会を開催するリスクは極めて大きい

毎年、この時期は会社法に詳しい先生方が「今年の株主総会の傾向と対策」なるテーマで講演をされますが、今年はご存知のとおり「有事における株主総会」の話題一色です。おそらく6月総会を控えておられる会社の担当者の方々は、3月総会の様子を参考に、この「有事株主総会」を(平穏無事に)乗り切ることをお考えかと拝察いたします。しかし3月20日ころと現在では、もはや社会の状況は一変しています。

会社法に詳しい専門家の皆様は「定時株主総会は縮小してでも開催するほうがよい(望ましい)」とおっしゃています(ほぼ有識者の全ての方々のご意見だと思います)。しかし、東京や大阪に特措法に基づく緊急事態宣言が出され、国民に特措法45条1項違反(外出自粛要請違反)を推奨するような株主総会は、「開催することが望ましい」と本当に言えるのでしょうか?東京で181人、大阪で92人もの感染者(一日あたり 4月9日)が出る状況で、もはや株主総会の開催はあまりにも無謀と思います。

もちろん延期することのデメリットは大きいものがあります。退任予定の役員の方々に、もう少しだけ頑張ってもらわねばなりません。剰余金配当においても、権利付き最終日がずれることで(株価には配当分も織り込み済だ、として)投資家から批判されることもあります(現に、東証が「総会延期によって配当をもらえないことがある」と3月下旬に注意喚起して大騒ぎになったことは記憶に新しい)。事務手続きが増えて社員の方に負担をかけることも悩ましいです。

また、「まあ、そうは言っても6月下旬になったら収束しているかもしれないから、6月になって考えればいいのでは・・」といった楽観論もありえます。しかし、健康リスクに加えて、4月7日の日本公認会計士協会会長の声明は重い。重すぎます。私がリモート会議でご一緒している何人かの公認会計士の方々も「とうてい5月中頃までに計算書類の監査を終えることは困難」「会長はよくぞ声明を出してくれた」とつぶやいておられます。

テレワーク等、自宅での仕事が推奨される中で、どうやって経理や監査、会計監査人が5月中旬までに監査を終わらせることができるのでしょうか。たとえ物理的に可能であったとしても、切迫した状況の中で、不正の兆候を見つけた場合に声を上げる雰囲気などないと考えます。「監査や法務は二の次、ともかく例年通りにさっさと総会を終わらせろ」といった雰囲気で株主総会が開催されるとすれば、もはやコンプライアンスなど無いも同然です。「配当」が大切であることは重々承知しておりますが、株主の短期的利益に配慮するあまり、中長期的な利益をないがしろにする姿勢は、もはや昨今の企業統治改革の方針にも合致しません。

「延期したとしても、コロナ禍がいつ収束するのか見えないではないか」との声も聞かれます。いつまでも延期するわけにはいかないので、とりあえず6月総会の場合には7月末までに開催せざるを得ないでしょう。その際にこそ、先日公表された経産省・法務省連名によるQ&Aが(バーチャル総会の開催案も含めて)活かされると考えます。会計監査人の監査に(限定付き意見等)不十分な点が残るのであれば、会計監査の方法及び結果の相当性判断と財務報告に関する内部統制の相当性判断に責任を持つ監査役監査でカバーするしかないと思います。「いつコロナ禍が収束するかわからない不確実性」はありますが、6月総会を開催することによって感染者を出してしまう不確実性、会計不正事件が顕在化することの不確実性と比較すれば受容可能だと考えます。

有価証券報告書の提出期限の猶予、法人税および消費税の申告時期の延期についても、それぞれ「株主総会の延期」を見越してほぼ準備が整いました。これで、株主総会延期(7月総会)のためのインフラは揃いました。経路不明の感染が急増している現状からみますと、もはや「規模を縮小して、感染対策を万全に行う」というレベルの総会対策で国民の生命・身体を守れると考えることはリスクが大きすぎると思います(とくに出席株主には高齢者の方が多いことも心配です。基礎疾患がある方はご遠慮願う、といった対応では甘すぎるでしょう)。会計監査の重要性に目を背ける姿勢にも会計不正のリスクが大きく潜んでいます。

「延期したくでもできなかった」というケースと「延期できるのにしなかった」というケースでは、役員のリーガルリスクが異なります。また、緊急事態宣言が発出されたことで、株主および役員・従業員の感染の「予見可能性」も大きく変わりました。基準日と決算日を異にする実務慣行が日本企業には存在しないこと、株主確定コスト生じること、配当・税務スケジュールが遅延すること、第一四半期決算の時期が重なること等、様々なデメリットがあることは承知しておりますが、それらの弊害は「延期したくてもできなかった」ことの理由にはなりえません。コロナ禍の現状を踏まえますと、とりあえず6月に定時株主総会を開催する上場会社においては、開催時期を延期をして、考えられる弊害はトライアル&エラーで対応していくより方法はないと考えます。

なお、くどいようですが、上記は私個人の見解であり少数意見であります。どうしても6月総会を予定どおりに開催したいと考える場合のリスクについては重々承知のうえで実施に踏み切るべきでしょう。

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2020年4月 8日 (水)

新型コロナウイルス緊急事態宣言と在宅勤務推進に向けた企業の対応

5月総会の東証1部上場会社が総会の延期を決定しましたね(リリースはこちらです)。再三申し上げているとおり、私は株主や従業員の方々の安全のためには当然の措置ではないかと思います。しかし、4月総会の56社、残る5月総会の20社はどうされるのでしょうか?

さて本日(4月7日)、新型インフルエンザ等対策特別措置法(第32条1項、令和2年法4号追加-附則1条の2)に基づき、新型インフルエンザ等緊急事態宣言が発出されました(発効は4月8日午前0時)。

事業者は、政府や地方公共団体のコロナウイルス感染防止のための対策に協力する義務がありますが(同措置法4条2項)、緊急事態宣言が発出され、該当都府県の知事に(社員に対する)法的な外出制限の権限が付与されましたので(同法45条1項)、社員の在宅勤務を推進する、交代出勤制を導入する等、事業者には職務の安全性確保の必要性が高まっています。

Zaitakukinmu2 本来、働き方改革や生産性向上を目指して、テレワークを中心とする在宅勤務制度の推進が図られていますが、このたびは事業の継続性を維持するための在宅勤務制度の導入が、大企業や中小企業といった規模を問わずに検討する必要があることから、左図のような法的アプローチが必要ではないかと考えております。

このたび、某法律雑誌の緊急特集(緊急発売)「新型コロナウイルス対応の企業法務」におきまして、コンプライアンスの視点から執筆させていただくことになりましたが、できればその要旨だけでも早めに当ブログでもお伝えしたいと考えています。不定期ではありますが、企業の有事対応としてのテレワークを中心とした在宅勤務に関連する法律問題を取扱う予定です。働き方改革の一環としての在宅勤務の論点とは、また少し変わってくるかもしれません。

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2020年4月 6日 (月)

新型コロナウイルス「緊急事態宣言」と企業コンプライアンスの実践

業務中ではありますが、緊急事態宣言が出される見込みとなりましたので、とりわけ法務部門の方々に向けてお知らせいたします。

すでにご存じの方も多いとは思いますが、商事法務NBL最新号(2020年4月号)におきまして、BCPに精通された法律専門家の方々による「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正法と企業の押さえるべきポイント」「新型インフル特措法」の一部改正と企業のリスク管理・BCP」なるご論稿が、いずれも無償で閲覧・ダウンロードが可能となっております。

こちらから閲覧・ダウンロード可能です。商事法務さん、さすがですね)。

緊急事態宣言が出された際の、企業の内部統制システムはいかにあるべきか、すくなくともどのような視点で緊急事態宣言に対応しなければ注意義務違反、善管注意義務違反になってしまうか等、非常に参考になるところでして、企業の皆様も参考にされてはいかがでしょうか。

金融庁が会計基準(固定資産の減損ルール)の柔軟な運用を推奨したり、法務省と経産省が連名で「有事における株主総会Q&A」を公表しています。私なりに解釈しますと「有事には合法的粉飾もありうること」「バーチャル総会の違法性阻却事由という特段の事由の例示」が公表されたものと拝察いたします。いずれも未曽有の有事ゆえの超法規的措置と理解しています。同様に、緊急事態宣言が出された際のBCPの在り方としては、個別条項の文言よりも、特措法の趣旨を尊重した運営こそ企業のコンプライアンス経営にとって必要なものだと確信しています。

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社内抗争が不祥事を生む-経営者必読の第三者委員会報告書

(4月6日 16:40 一部修正しました)

新型コロナウイルスの対応に世間の関心が向いていて、ほとんど記事にもなっていませんが、4月2日、上場会社の経営者の方々にぜひともお読みいただきたい第三者委員会報告書が公表されました。プラスチック成型・加工大手の天馬社(東証1部)が公表した第三者委員会報告書(第三者委員会の調査報告書の公表等に関するお知らせ )であります。たいへん興味深い内容で、週末一気に読了いたしました。ちなみに報告書「公表版」については、公的機関による捜査・調査に支障を与える可能性に配慮し、外国公務員への現金交付 が行われた国や海外子会社が特定されないように記述を工夫し、現地通貨については 一定のレートで円換算した金額を「○円相当」と表記されています。

天馬社の海外子会社が現地税務当局から調査を受け、法人税法違反の事実を指摘されます。海外子会社トップに対して「だいたいこれくらいの追徴金額、罰金になりますよ」と税務調査のリーダーから連絡を受けるのですが、その際、当該調査リーダーは「まあ、1500万円くらい持ってきてくれたらなんとかしますけど」と贈賄の要求がありました。海外子会社のトップは、日本の海外統括責任者に相談をするのですが、最終的には支払いが承認されたことで、1500万円を(現金で)支払ってしまうことになります。

外国公務員に(求めに応じて)1500万円の賄賂を支払うことで、9000万円の追徴金額がわずか160万円になるのだったら(もしくは4億2000万円の罰金が1600万円の罰金で済むのだったら)、皆様はどうしますでしょうか?相談した本社トップから「そんなことはお前が自分で考えろ!相談するな!」と言われたら、海外子会社マターとして処理するでしょうか?そのように社長から言われて「社長と秘密を共有できた」と意気に感じてしまうでしょうか?

たとえ後ろめたい気持ちになったとしても、たとえば2年前に同様の事案で賄賂を提供してうまくいった事案(しかも社長も黙認)があれば、「今回も同じように・・・」と考えてしまうのではないでしょうか。また、日ごろから少額ではあるけれども、現地の公務員にファシリテーション・ペイメントを供与する慣行が続いていたとすれば、支払うことに躊躇しますでしょうか。

さらに、現地での対応にコンサルタントを活用している場合に、コンサルタント手数料の中に「現地調整金」名目のよくわからない経費が紛れ込んでいる可能性があるとすれば、コンサルタントに「絶対に袖の下に使ってはいけない」と厳命できるでしょうか。私は本報告書を読みながら、海外子会社で結果を残すことを期待されている子会社トップの気持ちになっていろいろと考えておりました。

本件は、日本の上場会社において、海外贈賄事件を防止するための教訓もさることながら、海外贈賄事件が発生してしまった際の経営陣の身の処し方を考えるうえで、たいへん大きな教訓を含んでいます。まずなによりも、①どのような企業行動が海外贈賄の要件(たとえばFCPA、中国商業賄賂、UKBA等を念頭に)に該当するのか、最低限のトレンドを認識しておくこと、②発生させてしまったことよりも、これを隠蔽することのほうが、より厳罰の対象となること、③贈賄の事実の隠蔽は、会計不正事件へと発展するおそれがあること等を、経営者は認識する必要があります。

そして本件の最も大きな特徴は、海外贈賄事件を公表するに至ったきっかけが社内における派閥争いにある、という点です。社長派と名誉会長派とに分かれて、本件の海外贈賄事件による責任問題を主導権争いの道具に活用してしまおう、内部通報制度も社内抗争の道具に使ってしまおうといった目論見が、本件をオモテに出したといっても過言ではありません(このあたりの社内抗争の詳細は、録音データなどによって如実に報告書で再現されています)。本来ならば、有事に活躍しなければならない監査等委員(取締役)らはまったく「蚊帳の外」に置かれていて、監査役等の活躍に期待する人から見れば悲しい限りです。

もし社内抗争がなかったとすれば、海外贈賄の事実が発生したことが速やかに取締役会で報告されて、監査等委員も交えて対応が検討されたと思います(そうすれば、社外有識者から、的確な海外贈賄リスクへの対応方法の指南を受けられたはずです)。また、これを(一部の取締役によって)隠蔽することなどは回避されたものと思われます。さらに、コンサルタントの活用方法も適切だったと思います(実は、今回の海外贈賄事例では、賄賂を提供せずとも、コンサルタントの助言によって相当額の追徴金の減額が得られたことが明らかになっています)。

なお、本報告書を受けて、天馬社は今後どのような対応をされるのか明らかにされていません。本来ならば、第三者委員会報告書の公表と同時に、会社としての今後の対応も公表します。たとえば検察へ不正競争防止法違反の事実を報告をするのでしょうか、誰にどのような社内処分をするのでしょうか、ガバナンスの再構築はどうされるのでしょうか。こういったことを速やかに公表できない、という点も、やはり社内抗争が存在するからだと推測されます。企業の社会的信用を回復させるために、いままさに自浄能力を発揮しなければならないときに、発揮できないというのは誠に痛い。

海外贈賄問題に関する経営者の認識は、どこの企業でも天馬社の経営陣と似たり寄ったり、というのが現実ではないでしょうか。現在は新型コロナウイルスへの対応で精一杯かとは存じますが、少し落ち着かれましたら、ぜひ当報告書をお読みいただき、経営陣のベクトルの方向が一致していることの重要性、海外贈賄問題への対処が不正競争防止法違反の問題だけでは済まないことをご理解いただきたいところです。

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2020年4月 2日 (木)

経産省の不祥事(虚偽報告)は早く見つかって良かったのではないか?

本日(4月1日)の読売新聞朝刊(社会面)に「経産省職員が虚偽文書 関電改善命令 ミス隠ぺい、幹部ら処分」と題する記事が掲載されています。すでに報じられているとおり、経産省は関西電力に対して業務改善命令を発出したわけですが、手続上は取引監視委員会の意見を聴取しなければ命令を出せないにもかかわらず、委員会の意見聴取を担当者が失念していた、とのこと。後で気が付いて、慌てて委員会の意見を聴取したのですが、その聴取の日付けを命令発出前に書き換えていたそうです。担当部局の幹部も許容していたこと、担当者が相談した他の部局の職員も黙っていたことが判明しています(3月31日付け経産省によるリリースはこちらです)。

残念なのは、この隠ぺいの発覚は、改善命令に関する決裁文書への情報公開請求がなされたことがきっかけ、という点です。組織の自浄能力の欠如が露呈されてしまいました。もし情報公開請求がなければ、経産省内部で隠ぺいは(誰もトップに報告することもなく)そのまま眠ってしまうはずだったということです。

3年ほど前、人事院からの要請で、各省庁の幹部160名を集めたコンプライアンス研修の講師を務めましたが、その際「公務員の無謬性」についてお話させていただきました。なぜそこまで「無謬性」にこだわるのか?公務員だって「人生山あり谷あり」ですから不正に手を染めることだってありますし、ミスも起こします。なぜご自分の過ちを認めないのか、不思議でならないことを申し上げました。

このたびの経産省の件も同様であり、私には隠ぺいするほどのミスであることが全く理解できません。どうして「法令の認識不足で手続にミスがありました。現時点の命令を取消して、あらためて明日、命令を発出します。失礼しました」と言えないのか?上司もなぜ、その隠ぺいを了承してしまうのか・・・、私にはそれほどまでにコンプライアンスよりも「無謬性」を重視する発想がわからないのです。この公務員の発想を心底から理解できなければ、公務員の隠ぺい体質は直せないだろうし、森友問題の解明もむずかしいのではないかと考えます。

しかし、今回の経産省の件は、情報公開請求によって早めに発覚し、関係者の処分を終え、経産省にとってはとてもラッキーだったと思います。もしこのまま隠ぺい問題が放置され、数年経過してから「虚偽文書疑惑」のような形でオモテに出たとしたらどうなっていたでしょうか。おそらく「関電と経産省とのなれ合い体質(疑惑)」「手心を加えた経産省(疑惑)」といった形で週刊誌ネタになっていたはずです。経産省は強く否定したいのですが、根も葉もない噂に(確たる証拠をもって)反論できないがゆえに、手続ミスの隠ぺいでは到底すまないような組織の信用毀損に至ってしまう可能性もあります。

上記経産省リリースによると、再発防止策として「二度と起こさないための研修」をされるそうです。しかし、私は「残念ですが、どんなに立派な研修をしたとしても、また同じようなミスはかならず起きます」と言いたい。再発防止策は、起きたときにどうするのか、ということを省内、担当部署を越えて議論することです。あの大阪府警ですら、証拠偽造が頻発した折、府警本部長の指揮で「もし、偽装を署内で見つけたら、君はどう対応するか」というDVD研修に至りました。(※1)公務員の「過剰な無謬性」を捨て去ることが再発防止の第一歩です。

今年も財務省ほか、人事院研修の講師をさせていただきますが、同様のことを強く公務員の方々にお伝えしたい。

(※1)2012年、新聞でも報じられましたが、大阪府警でコンプライアンス e ラーニングの DVD が警察官 2 万 3000 人に配られました。2 年間続けて非常に大きな不祥事が大阪府警に続きました。7 年も前の事件の証拠を紛失してしまったから自分で作ってしまったとか、証言の調書を偽造してしまったとか、本当に恥ずかしい不祥事が 7 件も続きました。このことによって本部長が交代しましたが、大阪府警のコンプライアンス教育も変わりました。府警教育では「あなたが上司として、部下の不正を見つけたときにどうするか。」「あなた自身が証拠をなくしたときにどうするか、誰に報告するか」こういうことを e ラーニングで始めたのです。あの大阪府警で、警察官は不祥事を起こしてはいけないという今までのスタイルから、起こしたときにはどうするかという発想に変わったのです

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2020年3月31日 (火)

優秀な営業社員はなぜ実績とコンプライアンスを両立できるのか?-「かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会報告書」より

昨年の代表的な企業不祥事である「かんぽ生命保険契約問題」ですが、昨年12月18日付けの第三者委員会報告書につづき、今年3月26日に追加報告書が公表されました。合計275頁に及ぶ大作でして、なんとか読了いたしました。委員の方々および委員補佐、フォレンジックス調査ご担当者の皆様の成果品として、たいへん興味深く拝読させていただきました。先日の関電金品受領問題の報告書を読んだときにも同じ感想を持ちましたが、「かんぽ問題」として日本郵政グループを一括りにはできず、やはり各組織で微妙にコンプライアンス意識(組織風土)に違いがあり、とてもおもしろい。

当該第三者委員会報告書(とくに追加報告書)において、もっとも関心がありましたのが「2018年4月24日のNHKクローズアップ現代+(プラス)において、あれだけ保険商品の不適切販売に関する事件が大きく取り上げられたにもかかわらず、なぜ日本郵政グループ(とくにかんぽ生命と日本郵便)の経営陣は調査委員会を立ち上げなかったのか・・・」という点です。しかし、この大作には、その答えが出てきませんでした。たしかに「クロ現問題への日本郵政グループとしての対応」については記述があるのですが(追加報告書77頁以降)、各社取締役会がクロ現問題にどう反応したのか…という点には触れられていません。

この点について善解するならば、おそらく日本郵政や日本郵便そしてかんぽ生命の社外取締役さん達も、「あんなおかしな契約をとっているのか。これはいったん募集を停止して調べる必要があるのではないか」と声を上げたのではないかと推測します。しかしながら、2018年1月から、日本郵政グループ挙げて不適切募集をなくすための施策を開始しており、その施策に関する中間報告によって「次第に不適切案件が減っている」という報告を聞いてしまった。したがって、社外役員も「NHKで紹介された事案は極端な事案であり、もう少し様子をみておこう」ということになったのではないかと。

ただ、やはり私には理解できないのです。私も実際に2018年4月のNHKクロ現をアーカイブで視聴しましたが、視聴後の感想としては「これは金融庁が動くだろう。その前に社外役員を委員長に据えた社内調査委員会を立ち上げて、件外調査を含めた徹底調査が必要だろう」と確信しました。それまでも西日本新聞社が執拗に特集を組んで問題を指摘していましたが、このNHKクロ現の影響力は絶大だと感じました。

たとえば賃貸住宅大手であれば、レオパレスの建築瑕疵事件、スルガ銀行の不正融資事件が大きく新聞報道された際、「私が社外取締役を務める会社でも同じことは起きてるのではないのか?」ということで、経営陣と相談をして社内調査委員会を立ち上げ、結果は国交省、金融庁に報告します(どこの会社とは申しませんが)。後で内部告発等で発覚してしまい、「自浄能力のない企業」といった社会的評価を受けることだけは避けたいという思いがあるからです。かんぽ生命や日本郵便でも、同様の意識を経営陣が持ったはずであり、しかし、これを打ち消すだけの「何かの動機」があったと思います。そこのところが、上記報告書を読んでも、やはりすっきりとしませんでした。

ところで、かんぽ生命保険契約問題に関する特別調査委員会報告書を読んで、なるほど、と感心したことがありました。実は不適切販売行為に及んだ営業社員の人たちが多い中で、販売実績も優れており、またコンプライアンス的にも模範となる(つまり募集品質が高いと評価された)人たちがいます。その方々にはある共通点がある、ということで8項目にわたって解説がなされています。実際にその営業担当者の方々の生の声も紹介されています(追加報告書48頁~52頁)。どのような共通点があるか、ということにご興味がございましたら、ぜひ3月26日公表の追加報告書をお読みくださいませ。

どうすれば販売実績と募集品質を両立させることができるのか・・「なるほど、これはぜひ私もお手本にしよう」と思える内容が含まれています。金融機関だけでなく、メーカーさんの営業社員の方にも参考になるかもしれません。とりわけ営業担当者の方々は、ぜひとも51頁の「金融機関の販売思想に違和感を抱いた」とされる有能な営業担当者の意見をぜひお読みいただきたい(この内容は私が架空循環取引を防止できる企業の営業方法そのものと痛感しました)。インセンティブ報酬制度を採用しつつ、「人」で商品を売るのではなく「企業の品質」で商品を売る姿勢がどれだけ社内に浸透するか・・・、ここに販売実績とコンプライアンスの両立の鍵があると考えています。

最近は関西電力金品受領問題の第三者委員会報告書に関心が集まっていますが、こちらのかんぽ生命保険契約問題の二つの報告書も、コンプライアンス経営を考えるうえで立派な「生きた教材」になると思いました。

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2020年3月30日 (月)

関電金品受領問題-責任調査委員会における調査の限界

3月29日の日経朝刊(社会面)に「関電の監査役会 専門委員会を設置-金品受領問題巡り」との見出しで、小さな記事が掲載されていました。関電の金品受領問題で、関電の監査役会が経営陣に対して法的責任の有無を問う委員会を設けるそうです。1か月ほどまでにも共同通信のニュースでも出ていましたが、やはり昨年10月にこちらのエントリーで予想していたとおり、関電現旧役員の法的責任については、先日報告書を提出した第三者委員会とは別個に判断をするようです。

「経営から独立して専門家で作る委員会を創設」とありますので、おそらく独立第三者で構成される責任判定委員会が構成されると思います。ただ、関電の株主からの提訴請求を受けて、関電監査役会が動いた形になっていますので、取締役の職務執行の違法性について判定することは当然ですが、現旧の監査役の方々の職務執行の違法性についてはどうなんでしょうか?監査役会が委嘱する専門調査会ということだと、そもそも監査役の皆様に甘い判断になってしまうのではないか、との懸念が残ります。

もうひとつの問題は、創設される専門調査会には事実認定の権限があるかどうか、という点です。先日まで活動していた第三者委員会が認定していた事実をもとに責任判定を行うのか、それとも第三者委員会の認定した事実とは別に、あらためて責任判定に必要な範囲での事実調査・事実認定ができるのか、ということです。もし新たな事実調査ができるとなりますと、「この委員会にぜひ協力せよ」といった役職員への告知は、監査役会が行うだけではやや迫力不足ではないかと。やはり新社長が「関電が変わるためにも、ぜひ専門調査会に協力せよ」との宣言を強く告知しなければ、新たな事実は見つからないと思います。

上記日経新聞記事だけでは明らかではありませんが、このような問題をきちんと整理しなければ、この専門調査会による責任判定には限界があるように思います。

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2020年3月28日 (土)

会社法務A2Zに「法務担当者の『気づき』とは?」と題する論稿を掲載いただきました。

03241321_5e798ae22a1ea_20200328211601 第一法規「会社法務A2Z」2020年4月号におきまして「法務担当者の『気づき』とは?」と題する拙稿を掲載していただきました。私自身がある会社で実際に経験した事例をもとに、法務部門に期待される様々な気づきについて検討していただく、という内容です。 法務担当者の気づきの構造として、私は「違和感」「想像力」「好奇心」が大切だと思いますが、結局のところ、そういった法務部門の「やる気」を高めるのは組織力学ではないかな・・・と思ったりしております。

新型コロナウイルスの影響によって「外出自粛要請」が出ておりますので、この週末ぜひ書店で購入を!とは申しません。もしご興味がございましたらネットでぽちっと購入して、ご自宅でのお仕事の合間にでもお読みいただければ幸いです。

しかし、最近出版社から原稿依頼のあるテーマがずいぶんと難しくなってきました。一から構成を考えないと書けないものばかりでして、読者の皆様にウケるのかウケないのか、執筆後もわかりません。ぜひとも、法務部門の方々と意識を共有したいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。

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2020年3月27日 (金)

社長が新型コロナウイルスに感染・入院-「有事における定時株主総会の決行」に思う

3月26日は12月決算会社の定時株主総会の2番目のピークでした(1番のピークは27日です)。本日開催された某東証1部上場会社の定時株主総会は、①社長が新型コロナウイルスに感染して入院中のため欠席、②他の取締役・監査役の5名が「濃厚接触者」「感染者に接触した可能性がある」ということで音声のみの参加、③一人の取締役は中国から帰国できず欠席、④最終的には14名の役員中7名がマスク着用のうえ総会に出席という状況で、(いくつか株主からの質問もあったようですが)1時間20分で無事終了に至ったそうです。なお、会社の事前リリースでは、新中期経営計画説明会は(新型コロナウイルスによる事業への影響のため)延期、とのこと。

さて、私は3月9日のこちらのエントリーにおきまして、「3月総会を予定している会社の中には、総会を延期する会社も出てくるのではないか」と予想しておりましたが、予想に反して出てきませんでしたね。たとえ法務省から「延期は基準日をずらすことで可能」といった見解が述べられても「配当による株主利益に配慮すれば、そんなに簡単に基準日を変更できるわけではない」というのが有識者の方々のご意見のようです。まあ「総会集中日をなくすために7月総会会社を増やすべき」という議論はすでに10年以上前から会社法に詳しい方々の間では議論されてきたことなのですが・・・

ということで、3月総会を開催する上場会社では、万全の新型コロナウイルス対策をとったうえで、総会を運営されたようです。その対策としては、①総会の会場への出席よりも議決権行使書面の提出もしくはインターネットによる議決権行使をお勧めする、②体調が悪い場合には出席をご遠慮願う、③質問を制限する、④総会における業績の説明を省略して時間をできるだけ短縮する、といったところが多かったと思います。社会情勢からみて、このような運営もやむをえないとも思えます。

しかし、総会を延期するという選択肢もあるなかで、ガバナンス・コードと総会運営との関係性についても配慮すべきではないかと思うのです。たとえば、昨今の株主総会では株主の意思決定機能(議案を成立させる機能)だけでなく、定量的な経営評価機能(たとえ可決されたとしても、どの程度の反対票が投じられたか、を経営に活かす機能、ガバナンス・コード補充原則1-1①)が重視されている中で、出席株主の質問数を例年よりも少なく制限できるのでしょうか。限られた時間の中で、重要な質問とそうでない質問を整理して、できるだけ株主総会を活発化させよう、との趣旨で株主の質問数を制限した令和元年改正会社法の趣旨にも反するように思えます。

また、総会の時間制限や事前の議決権行使の勧奨が、「株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないように配慮すべきである」と定めるガバナンス・コード補充原則1-1③に抵触することはないのでしょうか。全体からみればごく少数の一般株主であったとしても、質問権の行使は当然のことながら株主の重要な権利行使です。この権利行使の制限は、基準日株主の配当への期待権と比較して正当化できるものなのでしょうか。

さらに、そもそも基準日株主の利益のために基準日をずらせない、といった会社の対応は、「株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設置を行うべきである」とするガバナンス・コード補充原則1-2③に抵触することはないのでしょうか。株主への配当は、決算期ではなく、あくまでも配当の時点で会社が有する財産の中から支払われるものなので、当該コードをコンプライしているのであれば、このような状況だからこそ上記コードに準拠した行動が求められるように思います(参考 「会社法(第2版)」田中亘著 156頁)。

もとより、コーポレートガバナンス・コードにコンプライするかどうかは経営判断です。しかし、いったんコンプライした以上、これに反する行動は取締役の法令違反(善管注意義務違反)です。「なにがなんでも総会は延期しない!予定どおり開催する!」という上場会社担当者の頑張りは称賛に値するのですが、そこに社長をはじめとする取締役・監査役の法令違反行為のおそれがないのかどうか、そこをどう合理的に説明できるのか、少し思い悩んでいるところです。もし、冒頭にご紹介した某上場会社さんのような事態となった場合、それでも御社は予定どおりに株主総会を開催されますか?それが(総体としての)株主の合理的な意思と合致していますでしょうか?やっぱり株主の皆様は(たとえ総会を延期してでも)元気な社長さんの前向きな話を聴きたいのではないでしょうか・・・とても悩ましい問題です。

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2020年3月25日 (水)

公益通報者保護法改正-対応業務従事者の守秘義務について

昨日にひきつづき、手前みそのような話で恐縮ですが、今朝(3月24日)の朝日新聞の経済面「日本郵便の内部通報者探し-コンプラ担当から情報」なる見出し記事に、(首都圏版のみではありますが)私のコメントが掲載されました。ある局長の不正を申告する内部通報を受理した調査担当責任者(コンプライアンス担当)が、「社内調査を行う場合には、被通報者の上司に先に連絡を入れておくこと」という社内慣行に従って上司に連絡を入れたところ、当該上司(関係者)が通報者探しを行ってしまった、という事例です。

私は社内調査における「関係者への事前連絡の危険性」を述べ、もしそのような慣行があるならば、すぐに廃止すべき、通報者保護がなぜ組織にとって重要なのか考え直す時期だとコメントしました。今国会に公益通報者保護法の改正法案が提出されましたが、そこで第12条として「公益通報対応業務従事者の義務」が規定されています。要は公益通報対応業務従事者は、正当な理由なく通報業務で知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない、ということです。そして、改正法21条により、もし漏らした場合には、当該業務従事者には刑事罰(30万円以下の罰金)が適用されることになりました。

この「公益通報対応業務従事者の守秘義務」および「守秘義務違反への刑事罰適用」は、自民党PTの提言を踏まえて導入された規定です。内部通報や外部通報(内部告発)に対する企業の内部統制の実効性を高めること、および通報者への事業者による不利益取扱いを根絶から防ぐことを目的としています。

会社のコンプライアンス担当者に刑事罰をもって対応する、というのが改正公益通報者保護法の姿勢です。すでに労働安全衛生法では、「健康診断等に関する秘密の保持」として、会社の担当者に社員の健康診断上の秘密を漏えいした場合には刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される規定がありますので、法制度としてとくに違和感はありません。よく経済団体の反対を押し切れたものだと思いますが、通報者への事業者からの不利益取扱いを根絶するためには、たとえ調査に困難を要する場面が増えるとしても、通報者を徹底的に守る必要がある、という点が理解されたものと思います。もちろん(現実的には)調査のために関係者へ事前連絡が必要な場面も想定されますが、「正当な理由」となりうるかどうか慎重な判断が求められます。

今後、冒頭の日本郵便のような事例が発生したとなると、コンプライアンス担当者および犯人探しの実行者(おそらく犯人探しの過程で他人に情報を漏えいすることが予想されます)は会社もしくは別の社員から刑事告訴もしくは告発(おそらく地検への告訴・告発)されることになります(今後は公益通報者保護法自体が公益通報の対象事実になりますが、12条に直罰規定が設けられましたので、違法行為に対しては直ちに検察庁案件になります)。したがって、事業規模に関係なく、企業としては、今からでも公益通報者保護のための体制作りを徹底しておくべきと考えます。

ちなみに、公益通報者保護法の改正案が成立した場合、公布日から2年の範囲内で、政令で定める日から施行されます。その前に従業員300名以上の事業者に義務付けられる(違反には行政による制裁あり)公益通報対応のための内部統制のガイドラインが策定される予定です。

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