2020年9月21日 (月)

New Normal 時代の企業が取り組むべきリスク対策(ACFE JAPAN 年次カンファレンスのお知らせ)

第三者委員会の活動が最も忙しい時期となり、自身のブログを書く時間はございませんが、日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の毎年恒例の年次カンファレンスの告知だけさせていただきます(私自身の体調はすこぶる良好でございます!)。

例年この時期は「申し訳ありません、会場が満席となりました」と告知するのですが、今年はオンライン開催なのでまだまだ視聴者募集中です(ライブ視聴と録画視聴があるようです)。もう11回目なのですね。協会のキックオフミーティングを新橋の第一ホテルアネックスで開催した日が昨日のように蘇ります・・・。たしか八田進二先生と名刺交換をしたのもこの日でした。初対面の印象は「いかさまマジシャン」だったことを鮮明に記憶しています(本当のマジシャンであることを存じ上げるまでには相当の時間を要しました)。

2020年10月9日(金)オンラインで開催!第11回ACFE JAPANカンファレンス「Light the way.~New Normal 時代の企業が取り組むべきリスク対策~」

コロナ禍におけるカンファレンスにふさわしいメインテーマですが、おお!基調講演やご登壇者の皆様、豪華メンバーではありませんか!さすがに進化しています。元理事としては関係者の皆様のご尽力に敬服いたします。知ってる人がいっぱいいるけど、うーーん、女性のご登壇者が1人もいないのは(ちょっとだけ)気になるなぁ🐱💦

柳川先生、樋口先生というビッグネームの方々の講演もさることながら、遠藤元一弁護士の基調講演「New Normal 時代の企業不正会計への対応策」はさすがに拝聴したいですね。どういった切り口でお話しされるのか、とても興味深いところです。こういったとき、録画視聴があるのはオンライン開催の利点かもしれません。第3部の「特別講演」では、朝日新聞の加藤裕則さん、元日本監査役協会会長の岡田譲治さん等、企業リスクに精通しておられる方ばかりですし、テーマもリアルでおもしろそうです。

第4部のテーマは、私個人としてはあまりにも生々しいので(笑)、今の仕事が終わった後に拝聴したいと思います(笑)。新時代のガバナンス、内部統制、不正調査等にご関心のある方は、これは参加費を払ってでも拝聴する価値があると思います。まだリアル配信日までは16日ほど先ですが、ぜひともご参加をお勧めいたします。私もリアルは無理ですが11月19日までは録画視聴が可能なので、そちらで勉強させていただく予定です。

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2020年9月14日 (月)

事実は「報告書」よりも奇なり

(土日もなく)第三者委員会の仕事で相変わらず忙しくしております。体調はすこぶる元気ですが、新聞もネットニュースもあまり読む時間がないため、ブログネタに乏しく、更新ができないままでしてたいへん申し訳ございません<(_ _)>。

ただ、半沢直樹「帝国航空編」でモデル(?)として登場する(JAL再生)タスクフォースのリーダー富山和彦さんのこちらの毎日新聞インタビュー記事だけはおもしろく読みました。「事実は小説よりも奇なり」という富山さんの言葉のとおり、非常にリアルで参考になりますが、リアルをそのままドラマに仕立てることはむずかしいでしょうね。

そういえば企業不祥事発生時の第三者委員会報告書を(興味本位で)よく読みますが、実際に調査をやる立場だと、ひとつの報告書としてまとめ上げる過程で判明する事実が本当に大切だと感じます。委員の努力の結晶によって判明した事実のように読めることでも、実際にはいろいろな偶然が重なった結果だったりすることもあります。これまでの不正調査の経験をもとに「報告のためのストーリー(仮説)」を立てますが、調査過程で判明した事実によって脆くも仮説が崩れてショックを受けることもありますね。

リモートによるヒアリングでは証拠の価値判断が困難と思われることでも、実際にリアルの現場で五感で感じることによって「心証形成の自信を深めること」もあります。よく「リモート監査」による代替、と言われますが、調査を一生懸命やればやるほど、その心証形成においては大きな差があることを実感します。今後の課題だと思います。

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2020年9月 6日 (日)

企業法制-「法案を策定すること」と同じくらいに難しい「法案を通すこと」

日曜日の夕方に、少しだけ自由な時間がとれましたのでひさしぶりのブログ更新でございます。

先日、某重要法案の立案担当者の方のお話をオフレコでお聴きしましたが、「なるほど行政官はこんな論理で企業法制を成立に導くのか」と感心いたしました。担当省庁の局長さんが法案を通すために衆参両議院の議長さんのところであいさつに行く、といった行動(根回し?)は知っていましたが、思考過程にまで思いを巡らすことはありませんでした。

法制審議会等で4年も5年もかけて専門家委員(学者や実務家)が法改正を審議する、NPO団体や経済団体などの意見を取り入れながらも、なんとか学者である座長が改正案の提言をまとめて、これをもとに担当行政機関が法案を策定する。内閣法制局の審査も通る。しかしながら、衆参両院の要求事項が出てきて、これを呑まないと廃案(見送り)になってしまう。ひょっとするともう30年くら先にならないと改正が実現しないかもしれない。

行政官は専門家委員の献身的な努力を間近で見てきたため「ここで政治家の意見を呑まないと、委員の皆様による成果物が水の泡と消えてしまう。みんなの努力を無にしないためにも、妥協案を出して成立させよう」との意識が強く働く。ということで、理屈のうえではやや?がつくものの、なんとか法案成立に漕ぎつける。

私のような場末の弁護士は、成立した法案を批判して「なんでこの段階で、このような条項が入ったのか理解不明。」「法律全体の趣旨とやや矛盾している、委員は何を議論していたのか」といった意見を表明します。しかし、行政官の上記のような「法案を通すための妥協点を見出す作業」の存在はあまり理解していませんでした。たしかに国民の負託を受けた国会議員の意見は尊重すべきであり、法律全体の美的な構成が崩れるとしても、個々の国会議員の提言を実現しなければならない、ということになります。

昨年、会社法が改正されましたが、「コーポレートガバナンスをめぐる議論がきっかけとなって、近年、会社法というものが国の経済政策の重要な制度的インフラとして、その在り方が議論されるようになり、会社法の改正もこうした流れのなかで行われるようになった」(神田秀樹著 「会社法入門」初版211頁)のですから、会社法改正においても学者の皆様と立案担当者の力関係もずいぶんと変わってきたのでしょうね。会社関係者間における利害調整のための法律、という基本的な位置づけは同じでも、そこに富国政策という政治の力にも配慮せねばならない、ということになります。行政官には法案を通すためのバランス感覚が要求されるのでしょうね。

法案成立時に衆参の「附帯決議」なども出されるので、これも次の法改正へのプレッシャーになります。さらに最近は企業法制のエンフォースメント(ルールの実効性を担保するもの)が多岐にわたり、たとえばコーポレートガバナンスに関連するルールのエンフォースメントの策定も他省庁にまたがるわけですから(たとえば会社法改正事項を産業競争力強化法等で先行実施する、ガバナンス・コードのようなソフトローで大規模会社の規律を実現する等)、政治家との交渉だけでなく、他省庁の行政官との交渉にも配慮しなければならない、ということのようです。法案を通すことは法案を策定することと同じくらい、いや、ひょっとすると策定以上にむずかしい作業なのかもしれません。

 

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2020年9月 1日 (火)

生涯最初で最後の(?)2件の適時開示(私事でございます・・・)

大きな企業が淡路島に本社機能を移す、とのニュースに驚きました。ニューノーマルへの企業対応の本気度が伝わってきました。「創業の地」を有する企業も多いと思いますが、他社さんはどうするのでしょうかね。

さて、私事ではありますが、自身の「第三者委員会委員長」としての職務について、本日2件の適時開示が出されました。1件は早朝のコード6192「特別調査委員会の調査状況及び第三者委員会設置に関するお知らせ」、2件目は午後4時ころのコード5341「第三者割当による新株式、第4回新株予約権の発行及び引受契約締結に関するお知らせ」です(なお1件目は関東財務局より、有価証券報告書の提出期限の再延長が認められました)。

いずれも「感想すら漏らすことは控えるべき」と思いますので何も申し上げられませんが、当分の間は土日なく業務に精勤して皆様のお役に立つよう尽力しなければなりません(しかし、ホントに弁護士も会計士も、若い人はよく働きますねぇ。。。)ともかく健康を維持することも委員長の務めと心得え、無理せぬ程度に(?)動き回るようにいたします。

ということで、またまたブログが書けない日々が増えますが、どうかご容赦ください。

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2020年8月29日 (土)

公益通報者保護法の「改正法Q&A」公表(消費者庁より)

8月28日、消費者庁より「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第 51 号)に関するQ&A(改正法Q&A)」が公表されております。「まだ頭出し程度のもの」とうのが個人的な感想ですが、改正法の施行時期(おおむね令和4年になる見込みであること)や公益通報への体制整備義務を果たすための措置の概要などが示されております。

なお、今回の法改正は内部通報と内部告発(外部通報)を通報者に選択させて「制度間競争」を促す意味もあるので、とりわけ事業者の監督官庁への通報保護がかなり重要になります。そういった意味ではQ&Aの最後に示されている行政機関の公益通報を受理する体制整備の措置についても注目されるところですね。

いずれにしても、常勤の従業員が301人以上の事業者に内部統制構築義務を定め、公益通報対応従事者には刑事罰付きの規律を設ける等、法律の性格まで大きく変わるものなので、施行までに検討すべき事項が多いはずです。

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2020年8月27日 (木)

宝印刷「Disclosure&IR」誌に論稿を掲載していただきました。

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このようなご時世に贅沢に思われるかもしれませんが、おそらく9月末頃までは、かなり忙しい日々を送ることになりそうです。諸々書きたいブログネタはあるのですが、書き込む時間的余裕がなさそうです。ということで本日も短めに拙稿のご紹介をさせていただきます。

投資家向けの宝印刷さんの機関誌「Disclosure&IR」におきまして「令和元年改正会社法が社外取締役制度に及ぼす影響」と題する論稿を掲載していただきました。99%の上場会社に社外取締役が就任している現状で、会社法が(公開大会社である監査役会設置会社に)1人以上の社外取締役の選任を義務付けることって、なんの意味があるの?といったご疑問にお答えする内容です。とりわけ、このたびの会社法が社外取締役の設置を義務付けた制度趣旨から、今後は真剣に投資家と会社との間における「期待ギャップ」を埋める努力をしなければならないことを説明しています。

さらに、このたびの改正により、社外取締役にも一定の条件のもとで業務執行権限が付与されます(セーフハーバー・ルールであることは横に置いといて)。私は社外取締役の報酬の多寡を論じるよりも、社外取締役の果たすべき機能を語るには、こちらを真剣に論じることが重要だと思います(実際に、会社法上の社外取締役ではないが、社長と一緒に業務を執行する非常勤社外取締役さんて結構いらっしゃいますよね)。取締役会の実効性評価を実施する企業が増えていますが、本当に評価制度を運用する気があるのであれば、各社外取締役がステークホルダーから期待されている役割を果たしているか、といった点も評価基準にすべきではないかと。

上記機関誌は一般の書店では販売しておりませんが、上場会社のご担当者の方々に広くお読みいただければ幸いです。しかし目次をご覧の通り、かなり興味深いテーマを取り扱う機関誌なので、一般の書店でも販売してくれないかなぁ、との感想を持ちますね。

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2020年8月25日 (火)

企業が「正義」に対して発言する時代

本業がかなり忙しい状況でして、あまりブログを書く時間もないので、短いお話をひとつだけ記しておきます。

日経新聞8月24日の朝刊に阪大の先生による「やさしい経済学-企業が発言する時代」なる小稿が掲載されています。以前であれば企業が政治的な態度を明確にすることはマーケティング上はタブーとされてきたが、現代では「沈黙は共犯」と受け止められるようになり、企業としては「正義」について発言しなければならない時代になった、とのこと。同日の読売新聞(会員記事)では、偶然にも「どうなる21世紀の『国際秩序』、無視できない「正義」の「経済」への影響力」なる特集記事が掲載されており、なるほど時代が変わり、企業も政治問題については何らかの発言が必要ということになったのかもしれません。

たしかに消費者やNPO団体から「御社は化粧品のCMで『ホワイトニング』『美白効果』なる言葉を多用しているが、今後も白いことが優越的との印象を与える当該言葉を広告等で利活用することを予定していますか?」との質問が飛んでくる、という話を耳にしました。これに「回答を控える」との返事を出すとすれば、差別を容認する企業ということで、グローバルな事業展開が困難になることも考えられます。「沈黙は金」どころか「沈黙は共犯」という時代となれば、今後は企業が「正義」に対して発言すること(発言せざるをえないこと)も増えるような気がいたします。

同業他社がどのような反応をするのか見極めてから発言しようとすると「日和見主義」と指摘されかねません。経営トップの思想信条に委ねる、というのも、組織の発言がコロコロ変わることになってしまいそうです。よって、こんな時代だからこそ「組織風土」に根差した企業倫理綱領、行動規範に基づく発言が必要になるものと思います。平時から考えておかねばならない課題のようです。

 

 

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2020年8月21日 (金)

コンフリクトの疑われる代理人を相手方は裁判で排除できる-特許権侵害事件・知財高裁決定の衝撃

本日は企業法務マニアの方しかご興味が湧かないお話しで恐縮ですが(しかも長い・・・)、私の周辺でとても話題になっている件。令和2年8月3日に知財高裁から出されたこちらの決定(訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件)です。なぜ「知財高裁」かといいますと、基本の事件は塩野義製薬等が原告となって、薬品販売会社を相手に特許権侵害を訴えている事件だからです。

今回話題となっているのは、この「特許権侵害に基づく損害賠償」という基本事件に関する部分ではなく、原告である塩野義製薬側から「相手方の代理人に就任している弁護士を排除せよ」といった申立てがなされた部分(本件申立て事件)です。このたび、本件申立てが知財高裁で認められました。正確には「弁護士A及び弁護士Bは,基本事件につき,弁護士としての職務として相手方の訴訟代理をしてはならない」といった主文です。

そもそも職務上で信頼関係を築いている人と法律上対立している相手方の代理人になる、という弁護士の行為は弁護士倫理上問題であり、弁護士法や弁護士職務基本規程に反する行為となる可能性が高いわけです。そういった事実が認められるケースでは、仕事に直接影響を及ぼすようなペナルティ(たとえば弁護士法に基づく懲戒処分)が課せられます。

しかし、このたびの知財高裁の決定は、相手方には排除を申し立てる権利がある、としています。弁護士法や職務基本規程の規定は、単に弁護士職務の公正を維持するだけでなく、公正な職務を信頼する当事者の利益を保護する趣旨も含む(だから信頼に傷をつけられた当事者は裁判で争っている権利保護のためにも代理人の地位をはく奪できる)、とのこと。うーーん、これはいろんな場面で使えそうな予感がします。

もちろんコンフリが疑われる事件は最初から受任しなければよいわけです。東京の大手法律事務所では「コンフリ審査担当者」として、ベテランのパートナー弁護士が厳しくチェックしていることも事実です。ただ、そうは言っても受任した後に「え?これって利益相反じゃない?」といった疑いが生じる案件が出てくることもたしかにあります。本件の事案についても、だれがみても「おかしい」と判断できるような事案、でもなさそうです。正確なところはご自身で判決全文をお読みいただくこととして、概要だけを以下に記します。

塩野義製薬で10年ほど社内弁護士を務めておられたC弁護士が塩野義製薬を退職されたのですが、在職時は自社の知財戦略チームのリーダーだったそうです。このC弁護士が退職後、知財で有名な法律事務所に転職されることになりますが、当該法律事務所の別のA弁護士が本件の基本事件を争っている相手方の代理人に就任します。C弁護士が塩野義で知財戦略に関わっていることを知ったA弁護士は、(C弁護士の入所後)直ちに事務所内で徹底したチャイニーズウォールを敷いて、基本事件に関する情報が一切C弁護士に入らないような体制を整えます。最終的には事の重大性を認識してか、このC弁護士は入所1か月で当該法律事務所を退職することになりました。

相手方に(C弁護士が入所したとされる)当該法律事務所の弁護士が代理人に就く、ということを知った塩野義製薬はおそらく激怒して本件申立てに至ったものと推測されます。しかしながら原審は当該法律事務所が徹底した情報隔離の対策をとっていたことから(弁護士法、職務基本規程の細かい法律解釈は省きますが)当該法律事務所のA弁護士が就任できないわけではないとして申立てを却下しました。そして抗告審である知財高裁の判断は、ほほ同様の事実認定のもとで原審とは真逆の結論となりました。

たしかに当該法律事務所としては、C弁護士の入所を基本事件において有利に活用しよう、といった気持ちはなかったのかもしれません。しかし「外から見ればどう見えるか」「相手方が不当に権利を侵害されるという不安を抱くのは当然ではないか」といった価値判断から、知財高裁は基本事件の原告側に代理人排除権(?)を認めたことになります。

ということで、こういった決定が出た以上、いろんなことを考えてしまいます。たとえば海外の(法務社員が1000人以上在籍しているような)大企業が日本企業を相手に1000億円規模の裁判を仕掛ける、もしくは仕掛けられるといった事態となった場合、東京や大阪の大手法律事務所にくまなく「法律相談」に出かけて、「ではまた依頼するかもしれませんのでヨロシク!」といって相談料を支払ったとします。

そして相手方日本企業がいざ提訴された(提訴することを決議した)場合、いわゆる専門性の高い大手法律事務所は(すでに海外企業の相談に応じているので)コンフリの関係で日本企業の相談に応じられない、代理人になれない、たとえ就任したとしても海外企業はこの代理人を排除できる、結果として海外企業は日本での訴訟を有利に展開できる、ということになるのでしょうか?

いままでも上記のような話は笑い話として語られていたかもしれませんが、上記の知財高裁の決定が出た以上、弁護士自身の懲戒処分のリスクにとどまらず、相手方企業の訴訟リスクにまで発展する話になりそうです。ほかにもたくさん素朴な疑問が湧いてくるのではありますが、私個人としては、ぜひとも上記知財高裁の決定が最高裁では維持されるのか、変更されるのか、当事者の皆様に争っていただきたいと(ひそかに?)願っております。

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2020年8月19日 (水)

関西電力・役員報酬等補填問題調査報告書からみた「他社への教訓」

各メディアが報じているとおり、8月17日、関西電力は東日本大震災後の経営不振で減額した役員報酬等を補填していた問題で、社内に設置したコンプライアンス委員会主導による調査報告書を開示しました(役員退任後の嘱託等の報酬に関するコンプライアンス委員会の調査結果について)。関電の信用回復のためには、私は金品受領問題よりも役員報酬等補填問題のほうが重大と考えておりましたので、さっそく調査報告書の全文を読みました。

役員退任後の嘱託報酬が「役員報酬の後払い」と評価されるのか、報酬支払に関与していた経営陣の方々に善管注意義務違反が認められるのか、といった法的評価についてのコメントは控えさせていただきますが、認定された事実から、私は以下のような感想をもちました。かんぽ生命の不適切販売に関する追加報告書と同様、本報告書にも(他社においても参考となるような)教訓を含んでいるように思います。

調査委員会も厳しく指摘しているとおり、経営トップの方々による役員報酬の補填は、度重なる電力料金の値上げに応じていた消費者、賞与も出ない中で頑張っていた社員、「経営責任に基づく役員報酬の減額」を真に受けていた株主らの信用を完全に裏切る行為です。原発再稼働の遅延という想定外の事態が生じた中で、ステークホルダーに不利益を甘受させておきながら、役員だけが自身の不利益の回復を図るという方針がなぜ実行されてしまったのか、本報告書を読んでも明らかにはなりませんでした。

しかし、消費者から見れば「おかしい」といわれるような行為であったとしても、経営不振から厳しい報酬減額を呑んできた役員に報いてあげられる人だからこそ社長、会長にまで上り詰めたのではないでしょうか。昨日の記者会見でコンプライアンス委員会の中村委員長が「複数の元役員らが報酬の減額幅が大きかったことに不満をもっていた」と述べておられましたが(8月18日読売新聞朝刊より)、清濁併せ吞んでそこをなんとかする人だからこそ社内での人望が厚かったものと推測します。そして、ステークホルダーよりも目に見える先輩・後輩への仁義を尽くすことを優先する風土というのは、私はけっこう多くの日本企業にも通じるところではないかと考えています。

その象徴とも言えるのが秘密の共有です。元会長(相談役)は「おかしなことをやってるわけではないが、世間に知れると問題になるかもしれない。だから内密にしておいてくれ」といいながら、減額報酬や修正申告納税分の補填(の予定)を対象者に伝えたそうです。部下にとって経営者から秘密の共有を持ち掛けられるほどうれしいことはありません。サントリーの名経営者でいらっしゃった佐治敬三さんのご著書のなかでも「社員に頑張って働いてもらうには秘密を共有させることが一番」と書かれてありました。本報告書では「秘密の共有」は経営者における違法性の認識を示すものとして指摘されていますが、私は「なるほど、これなら補填される役員は意気に感じるだろうなぁ。。囁くタイミングも抜群。さすがだなぁ」との印象です。

もちろん、公益的な事業を担う企業だからこそ、経営者は一般の民間事業者以上に規範意識を備える必要があるのかもしれません。しかし個人的な要素だけでなく、身内の信頼よりもステークホルダーの信頼を大切にする組織風土をどのように形成すべきなのか、そこに光を当てて改革を図る必要があるように思えました。

さらに金品受領問題の場合には「会社は関与せず、役員個人で対応するように」といった方針が社内に存在したために、あまり意識をしませんでしたが、こちらの役員報酬等補填問題は(認識している役職員は少ないものの)会社内部で処理されていた問題です。つまり金の流れを追うことが調査において必要となります。そこで問題となるのが「秘書室経費」です。関電では、2018年には総務部に統合されるものの、それまでは経営トップと二人三脚で役員報酬等補填問題を担当していたのは「秘書室」だそうです。ということであれば、会計監査人が、これまで「秘書室経費」をどのように監査してきたのか、ということに関心が湧きます。

私が某社の第三者委員会の委員長を務めた際、外国公務員への贈賄は「役員室経費」で賄われていましたが、「開かずの間」となっているケースも多く、調査においてかなり抵抗された経験があります。会計監査においても「企業全体からみれば極めて小さな金額なので重要性がない」ということで、「秘書室経費」(役員室経費?)の金の流れを調査することもないのかもしれません。ただ、関電においてはこれだけ微妙な問題を秘書室が取り扱っていたのであれば、そこにお金の流れがよくわからない費用項目があったのではないでしょうか(金品受領問題発覚時の各役員の修正申告分の納税をどう補填するのか、そのあたりの社内の段取りに関する会話内容が興味深いです)。

関西経済の顔として活躍されてこられた方々が、なぜこのような問題を主導されたのか、正直今でもよくわからないのですが、(たとえ金品受領問題において和解をしてでも)国税調査からも守りたいような「お金の聖域」があったからこそ、世間の信頼を裏切るような行動に走ってしまったのではないか、と推測してしまいました。

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2020年8月17日 (月)

ワイヤーカードの会計不正事例-日本の「第三者委員会」制度では不正を暴くことはできただろうか?

先週に引き続き、会計不正に関連する話題です。連休中にドイツのワイヤーカード社の一連の会計不正事例に関する記事などを整理しておりまして、ふと疑問に思ったことを簡単に記しておきます。

2019年10月21日、ワイヤーカード社は、前週のフィナンシャルタイムズによる不正疑惑報道(及びその後の株価下落)を受けて、KPMGに独立監査を依頼しました。KPMGにはグループ全社の全情報へのアクセス権する、との取締役会、監査役会決議がなされたそうです。そして半年後である2020年5月1日、ワイヤーカード社はKPMGによる独立監査の結果を公表しました。

調査結果の内容は「ワイヤーカード社の不正を示す証拠は見つからなかったものの、真相解明に必要な証拠を十分に入手することはできなかった」というものです。この結果を受けて、ワイヤーカード社の会計監査人(EY監査法人)は財務報告の承認を拒否、その後、2200億円にも上る架空預金口座の存在が明らかになっていきます。

このワイヤーカード社の会計不正事件の発覚経過を眺めていますと、KPMGの「独立監査」の調査結果が大きな役割を果たしていることになります。そういえば、これまでの日本企業の会計不正発覚の経過において、第三者委員会が独自調査によって不正を発見した、ということがあったでしょうかね?比較的最近の事例では、たとえば雪印種苗の第三者委員会が調査対象範囲外で大きな不祥事を発見したこと、関西電力の第三者委員会が金品受領問題とは別に「報酬後払い疑惑」の存在に光を当てた、といった事例もありました。しかし、それらは極めて稀なケースであり、今回のワイヤーカード社の会計不正の存在を日本の第三者委員会が暴くことは困難だったのではないか、と考えています。

ここからは全くの私見にすぎませんが、先日ご紹介した八田進二著「第三者委員会の欺瞞」でもメインテーマとなっておりましたように、最近の第三者委員会は経営者との距離感が近すぎて、中立・公正な第三者たる立場での調査に疑問を抱くことが多い。「疑惑」の対象とされた不正事実の存否を明らかにするにあたり、当該事実の存在を示す証拠の有無については熱心に調査を行いますが、「この事実が存在しない、といったすべての『仮説』について否定的評価が揃った場合には『不正は存在しない』と推測してもよい」といった、仮設を立てての調査については熱心ではないように思います。

これだけ第三者委員会調査の影響力が大きくなってくると、往々にして「委嘱された対象事実の存在を認めるに足りる証拠はなかった」という調査結果が、「不正事実は存在しなかった」といった調査結果と同等であるかのように誤解されるケースが増えており、おそらく経営陣もバイアスが働いているので「不正はなかった、とのお墨付きを第三者委員会からもらった」と公表するケースが散見されます。しかし、もしこれらの仮説のひとつでも、要求された証拠によって明らかにならなかった場合には、第三者委員会としては「疑惑とされた事実は(証拠によって)認められなかったものの、不正は存在しなかった、と確信を持てる心証は得られなかった」という調査結果を出すことも必要ではないでしょうか。弁護士が中心となる委員会よりも、監査経験のある会計士さんのほうが馴染みのある調査結果ではないかと。

もしワイヤーカード社の会計不正が「独立監査」の調査結果によって明らかになったのであれば、このKPMGによる「独立監査」と日本の「第三者委員会調査」のどこが違うのか、ぜひともきちんと検証すべきだと思います。

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