2023年12月 1日 (金)

続・公益通報者保護法の2025年運用改善を目指して-消費者庁始動?

今年も早いものでもう師走ですね。今年はずいぶんとリアルな忘年会が増えていますので、少しブログの更新も減ると思いますがご容赦ください。

もう5年以上前ですが、私が内部通報者の支援をしていた組織で(ここ1年以内に)大きな不正が発覚し「ああ、ついに出たのか。あのとき自浄作用を働かせておけばこんなことにならなかったろうに」と思わず嘆いてしまう事件がございました(どんな事件かは到底申し上げられませんが)。当時、(私の能力不足で)通報者の方の力になってあげられなかった後悔とともに、不正を「これは不正ではない」とこじつけていたトップ、監査役員(および会社側アドバイザーの方々)は今ごろどう思っておられるのだろうと、少し興味深く眺めております(以下、本題です)。

さて、11月14日のこちらのエントリー「公益通報者保護法の2025年運用改善を目指して-消費者庁始動?」の続編でございます。本日(11月30日)の日経ニュース「内部通報制度[未対応]66%、民間調査、実効性に課題」を読みましたが、帝国データバンクの調べで、改正公益通報者保護法への対応済の企業はわずか20%であり、ほぼ未対応(分からないを含め)が80%とのこと(全国11,500社回答のアンケート集計結果より)。

また、この記事では今年4月のパーソル総合研究所の調査結果として、不正を目撃しながら対応しなかった理由がいくつか具体例として挙げられており、「何も変わらない」「不利益処分がこわい」といったところが紹介されていました。消費者庁としては、上場会社を含む1万社を対象に、内部通報制度の実態を紹介し、しくみを解説した動画も作るそうです。なお、昨日のロイターニュースでは、消費者庁が昨今の企業不祥事報告書を本年度中に分析するとのこと(「公表」とまでは報じられていません)。まさに消費者庁が本格始動されるようですね。ビッグモーター社事案(裏返しとしての損保ジャパン事案)、日大アメフト薬物事案、タムロン事案(経費不適切支出で解任要求)、タカラヅカ歌劇事案など、昨今世間を賑わせている不祥事案件は内部通報もしくは内部告発(外部通報)が発覚の端緒です。まさにタイムリーです。

ただ、公益通報者保護法への対応(通報対応業務の整備)を社長に説得するのはなかなかむずかしい。メリットへの実感がわきにくいですね。さえき事件判決によって「見て見ぬふりは不法行為」ですよ、とかリニエンシー制度、司法取引、確約手続の不作為は社長自身の善管注意義務違反ですよ、とか申し上げても社長さんは(コンプライアンス担当役員には響いても)あまりピンときません。つまり人的物的資源が投入されないのです。

それよりも、公益通報者保護法が施行された平成18年当時と令和5年とでは、通報制度を取り巻く外部環境の変化をご理解いただくのが最も近道かと思います。①労働者の流動性の高まり、②ハラスメント防止への社会的合意、③社内証拠の持ち出しが簡単(SNS、スマホ、録画録音データ)、④通報者支援アドバイザーの急増、⑤職場環境への労働者のこだわり(第三者通報の急増)、⑥明確な法令違反はなくても倫理上問題のある行為は世間から叩かれる、あたりでしょうか。少子高齢化が進み、人材確保がむずかしくなっている中で、労働者の人権保護のための制度は業績にモロに影響します。少なくとも外からは「通報制度を整備していること」はそのような目で見られる時代になったということを認識していただきたい。

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2023年11月28日 (火)

日大アメフト薬物問題-理事長と副学長との確執について

さて、ひさりぶりの日大アメフト薬物事件に関するエントリーです。本日(11月27日)警視庁は新たに日大3年生の男子部員を逮捕した、とのことで、当該事件では3人目の逮捕者が出ました。ただ、逮捕者が出たことよりも、副学長がパワハラ(不法行為に基づく損害賠償請求)で林理事長を提訴したことの方が大きく報じられております。まだまだ日大の混迷が続きそうです。

1701086885530_512 理事長が副学長にパワハラをした・・・というのは、①副学長に「労働者性」は認められるか、②理事長と副学長との間には指揮命令関係(優越的地位の存在)が認められるか、といった疑問があるため、厚労省のパワハラ定義からは外れているようにも思えます。ただ、昨年3月の福岡地裁判決(かなり有名)は、株式会社の取締役会で(つまり他の役員の目の前で)、代表取締役会長が代表取締役社長に対してさんざん罵倒するような発言をしたことをパワハラと認定して、会長側に高額の損害賠償責任を認めています。したがって、裁判上は理事長の言動が、客観的にみて副学長の人格を否定するような言動と認められた場合にはパワハラと認定される可能性はあるのでしょうね。

なお、私立大学におけるガバナンスの問題としても、この裁判はとても興味深い。理事長の学長、副学長への指揮監督権限とはどういったものなのか、これまであまり議論されてこなかったので、経営上のガバナンスと教学上のガバナンスの関係が明確ではありません。おそらく開示されている日大の「寄附行為」を読むと、一定の手がかりは把握できるとは思うのですが、学校法人内の力学でいえば「理事会」と「理事長」と「学長(副学長)」と「教授会」ですね(現行法上「評議員会」は除きます)。そのあたりの力関係のねじれが、このたびの提訴に至る要因ではないかと勝手に想像しております。

私事ですが、昔から作家・林真理子氏のファンでして、今年「成熟スイッチ」を読んでいたころは、まさかこんな出来事が起きるとは想像もしておりませんでした(「昨日とは少し違う自分」がこんな形で登場するとは洒落にもならないです)。でもなんとなく「紫綬褒章をとって、日本文藝家協会の理事長になって、つぎに日大の理事長?ちょっと違うのでは?」と思っておりました。たしかエッセイで「(不祥事が続いていた日大を嘆きながら)こんな母校、私が変えてやる」とか述べて、そのノリで就任要請が来たように記憶しています。

日大の第三者委員会も、林理事長が「見て見ぬふりをしていた」と認定したわけではないので、もう少し有事の振る舞いを誰かに相談できなかったのか。学生が平穏に勉強・研究に打ち込める環境、教育の質の確保のための最善策は何か、その答えとしての幕引きを急いだのでしょうか。「芸の肥やし」とするにはあまりにも代償が大きすぎたような気がします。

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2023年11月27日 (月)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSHD特別調査委員会報告書について(その1)

「逆転裁判官の真意」(関西テレビ・ローカル)を早速視聴しました。期待していた以上に面白く、いろいろと考えるところがありました。おそらく近日中には関西テレビのtoutubeでご覧いただけるようになると思いますので、私の感想はまたそのときにchannelのご紹介とともにお話ししたいと思います。

さて、11月26日、TBSHD社はSMILE-UP社創業者による性加害問題へのTBSの対応について特別調査委員会報告書を公表し、併せて検証番組を放送しました。検証番組もTVERで拝見しましたが、今回は特別調査委員会報告書についての第一印象について述べておきます。

TBSHDのコンプライアンス担当役員を委員長として、検察官ご出身の弁護士2名を外部委員とする特別調査委員会は、純粋な第三者委員会とは言えませんが、一般の方々が素朴に疑問に感じている点について事実関係を一定程度明らかにしており、本件に対するTBSとしての姿勢がうかがわれる内容でした。新たに判明した事実についてはショッキングな事実もありますが、すでに各メディアが報じていますので、当ブログでは省略いたします。

まず、過去のタレント事件の報道について、編集局と報道局、またラジオ局とのかなり突っ込んだやりとりが印象的です。やはり報道局の公平・公正な報道が歪められたことは重大な問題です。ただ、もう少しツッコんでほしかったのは「このような編成局・番組制作局と報道局とのむずかしいやりとりは、旧ジャニーズ事務所問題以外にも頻繁に起きるものなのか、それとも旧ジャニーズ事務所問題は特別であり、他ではほどんと起きないレアケースだったのか」という点への説明です。ここは再発防止の実効性を検討するうえでも重要かと思いました。

次に「以前から、TBSにもいわゆる『ジャニ担』がいたのではないか?」と誰もが疑問を抱いていたと思います。癒着問題を語るにおいて非常に重要なポイントです。この点、報告書では編成局に担当者らしき人がいたことが明らかにされました(報告書33頁、34頁あたりの記述)。その背景事情として、旧ジャニーズ事務所内部の派閥争いが示されていました。TBSと第一派閥、第二派閥との関係がとても複雑ということだったので、おそらくTBS側でも調整役は必要だったと思います。

ただ、「ジャニ担」がいたとしても、いなかったとしても、忖度や圧力は旧ジャニーズ事務所と「編成局」、「報道局」とのやりとりでとどまっており、もっと個別の力を持った人の意見とか指示というところに光があたったほうがよかったのではないかと(TBSのほとんどの社員がジャニー喜多川氏と会ったことがないそうなので、なおさらです)。役職員の証言から事実認定するには限界があったのかもしれませんが、そこが少しぼやかしているようにも思えました。←ちなみにTBSラジオが編成局からの圧力に屈することなく旧ジャニーズ問題を取り上げることができた背景説明の箇所では、「俺が腹をくくるから」と部下に覚悟を示した特定の上司やラジオ番組の制作に影響を及ぼした外部第三者の存在を実名で取り上げていますので、余計にギャップを感じました。

TBSとしては、再発防止にあたり、今後の防止策の実施状況をモニタリング機関が監視監督したうえで、その進捗状況は逐次公表されるそうです。この点は外部の人から見るとTBSの自浄能力を示すものとして高い評価を得られると思います。TBSを含め、テレビ各局がこれまで示してきた検証結果と比較すると格段に高い評価を得られるはずです。佐々木社長が検証番組で述べておられたように、これからはサプライチェーン全体の人権侵害を防止する責任を果たしていかれることを宣言されたので、今後もしサプライチェーンにおいて不正・不祥事が起きた場合には、決して見て見ぬふりをせず、公正・公平な立場で報道していただきたいと切に希望します。

このTBSHDの検証結果を踏まえて、SMILE-UP社の事業を引き継ぐ新会社とどのようにスポンサー企業が対処すべきか、そのあたりは「その2」で述べたいと思います。

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2023年11月24日 (金)

「逆転裁判官の真意」(関西テレビ)への期待(今夜深夜放送)

テレビ局ネタでもうひとつ。11月24日深夜放送(関西ローカル)の「逆転裁判官の真意」は、関西在住の方にはご視聴をお勧めいたします。メディアが個別の元裁判官の「無罪連発」の真意にどこまで迫れるか?上田ディレクター(組織内弁護士)ひいては関西テレビの頑張りに期待いたします。

上田ディレクターといえば、今年、家族が離れ離れになる、えん罪被害の全貌を描いた「ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群」(2023年7月放送)で今年度上期のギャラクシー賞を受賞しておられます(そういえば「あるある大事典」事件直後に、上田さんから請われて天満駅近くの関西テレビ本社に呼ばれたのを思い出しました・・・)。

こちらの番組は頑張って夜中に視聴します!!しかしTVER等で全国ネットで放映されないのでしょうかね?

 

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SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSHDが26日に特別調査委員会報告書を公表

(以下、仕事中なので短めに)被害者救済の状況だけでなく、旧ジャニーズ事務所の活動を引き継ぐ新会社の社名も未だ明らかではないSMILE-UP社問題ですが、10月26日付けのエントリー「SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSの調査対応を高く評価する」でご紹介していたTBSの(外部弁護士2名を加えた)特別調査委員会報告書がいよいよ11月26日に公表されるようです(TBSHDのリリースはこちらです)。なお、報告書は「全文公表」のようです(もちろん関係者のプライバシーに配慮した「全文開示版」でしょう)。

報告書もさることながら、今回の中立性・第三者性に配慮した調査をもとに検証番組が放映されるそうなので、そちらもTVER等で確認しておきたいと思います(さすがに日曜日の朝5時半から生放送を視聴するのはツライ(^^;))。何度も申し上げますが、今回の検証はグローバル展開を目指すTBS社にとっては将来の事業戦略の成否にも関わる、いわば「攻めのガバナンス、攻めのコンプライアンス」の一環です。ひょっとすると、他の放送事業者やマスコミとは「目指すべきビジネスモデル」が異なるからこそ、かもしれません。ともかく「横並び」ではないTBSHDの姿勢に敬意を表します。

おそらく26日の公表内容によって、TBS社は視聴者をはじめステークホルダーの多くから賛同を得たり、また逆に批判を受けることになるでしょうし、そのリスクを抱えても、あえて調査活動の実践、活動結果の公表に踏み切ることになります。このような「中長期経営計画に沿ったビジネスモデルを実践する姿勢を開示して、同業他社との差異化を図ること」こそ、いま上場会社(及びそのグループ)に求められている「非財務情報の開示」「無形資産(TBSとの関係でいえば他社とのネットワーク・協働)が企業業績に及ぼす影響の開示」への真摯な姿勢だと思います。今後は旧ジャニーズ事務所の運営を引き継ぐ事業者との取引を再開するスポンサー企業にも、個々の企業ごとの姿勢が示されることを期待します。

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詳細が知りたい「オープンAI内紛劇」の対立構図

宝塚歌劇団に労基署の立入調査が入ったことが話題になっていますが、パワハラ問題ではなく長時間労働に関する調査なので、とくに新事実が出てくるものではなくて粛々と阪急電鉄側が応じればよいだけの話ではないかと。ただ、阪急電鉄側の自浄能力が疑われるような事態であれば「別の第三者」(たとえばBBCとか海外NPOとか国連人権委員会とか)が問題視する可能性はあるように思います(以下本題です)。

さて、対話型AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」を運営する米オープンAIの内紛劇ですが、同法人は11月22日、理事会が解任したアルトマン氏(前最高経営責任者CEO)をCEO職に復帰させることで基本合意したと公表しました。アルトマン氏の唐突な解任からわずか4日で収束したようで、アルトマン氏の解任かかわった理事3人は退任するとのこと(朝日新聞ニュースはこちらです)。

23日にロイターが報じたところでは、この理事3人とアルトマン氏との対立は「成長」と「開発の危険性」に関する考え方の相違にあったとされていて、解任事件の直前には同法人の研究者有志から役員会に対して「人類を脅かす可能性のある強力なAIの発見について警告する書簡」を送っていたそうです。もちろん世界最先端の技術開発会社であり、非営利法人が支配権を持つという特殊事情もあったと思いますが、AI開発とそのリスクマネジメントの「不調和」がどのような経緯でトップの解任劇にまで至ったのか、ガバナンスやコンプライアンスに関心がある者としては、詳細について知りたいですね。

ガバナンス論議において「攻めのガバナンス」とか「守りのガバナンス」とか「攻めと守りは一体だ」とかいろいろと抽象的な言葉が飛び出しますが、どんな力学が働いて収束に至ったのか。従業員の9割が理事3人の退任を要求したということはもちろん大きかったと思いますが、外部不経済への対応、AI哲学、コンプライアンスなど、どのような要素がどれくらい解任劇収束に影響を及ぼしたのか・・・。なかなか真実はオモテに出ないかもしれませんが、海外のメディアによって詳細な顛末が報じられることを期待します。

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2023年11月22日 (水)

少数株主による合法的な会社乗っ取り(従業員ガバナンス)

FanseatでサッカーW杯2次予選「日本対シリア」をLive視聴しておりましたが、5-0ということで日本の強さばかりが目立った試合でしたね。シリアはほとんどシュートも打てなかったように見えました。

さて、対話型AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」を運営する米オープンAIのサム・アルトマン前最高経営責任者(CEO)の解任をめぐって、同社の混乱が深まっています。同社従業員の約9割がアルトマン氏の復帰を求め、叶わなければ退職する意向を示したと報じられており、従業員らはアルトマン氏の解任に賛成した同社の社外取締役3名に対して解任通告を行ったそうです(たとえばこちらの朝日新聞ニュース 混乱極まるオープンAI アルトマン氏解任の背景にある「いびつさ」)。「従業員ガバナンス」を彷彿とさせる事件です。

もちろんオープンAI社の場合は記事にもあるように非営利法人が営利法人の支配権を握るといった特異なガバナンスが構築されていたり、従業員の数もかなり多いという事情もあって、「従業員資本主義」とまでは言えませんが、日本では少数株主が支配株主を会社から追い出すために「従業員ガバナンス」を活用する(?)ケースは時々あります。乗っ取り屋としては、ターゲットとなる会社のナンバー2とかナンバー3(以下「ナンバー2」といいます)で、しかも経営幹部層(部長クラス)にとても慕われている人に接近して、大株主である経営者を少数株主(主にファンドや同業者大手)が追い出すケースですね。

経営者が大株主の地位で当該ナンバー2を排除しようとすると、多くの支店長や工場長が「ナンバー2のほうについていきます」と宣言して会社の機能をマヒさせてしまう、というもの。もちろんナンバー2が乗っ取り屋の支配下で社長になる、ということです。前回のエントリーでも書きましたが、経営者は「自分にはリーダーシップがある」と考えている人が多いのですが、実はフォロワーシップがない(実は自分のことを客観的に評価できる人はとても少ない)ことに有事になって初めて気が付く、というもの。

ナンバー2の反乱に気づいたときには、もうほとんどの幹部層がナンバー2に賛同しているという始末。乗っ取り屋としては、あとは適正価格で経営者から持分を買取る手続きに移行するというストーリーです(抵抗して株式を紙屑にしたほうがよいか、適正価格で換金したほうがよいか、現経営者は法律家と相談して決断します)。医療法人や社会福祉法人の統合にもよく使われる手ですね。画策に社長が早期に気づけば社長にも対抗手段が考えられますから、乗っ取るほうは秘密裡に動く(そのために社内力学に精通している必要あり)ことが肝要です。

大会社においても、たとえば三越事件やヤマハ事件、セイコーインスツルメンツ事件など、経営者交代に従業員ガバナンスが機能した事例はいくつかあります。前回エントリーで述べた通り、私が指名委員会の委員として気を付けていたのは、当該社長候補者にフォロワーシップが認められるかどうか、という点でした。昨今の人的資本充実の要請とも合致すると思います。

 

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2023年11月20日 (月)

サクセッションプラン(後継者計画)に真摯に対応するための前提条件

11月17日の日経ニュース「トップ後継者計画、対応企業は26%どまり 民間調査」という法務ガバナンス関連の記事を読みました。記事によりますと、日本の上場企業において、経営者の後継を選別・育成する「サクセッションプラン」の導入がなかなか進んでいない、とのこと。民間調査では、サクセッションプランを策定して、これに対応している企業が全体の26%であり、「指名委員会」などトップ人事を監督する体制づくりは進んでいますが、企業価値向上を担える経営者選びなど機能面ではまだまだ課題が多いとされています。

1120 私自身が指名委員会委員をやったり、社外取締役アドバイザーとして支援をしている経験からみて、逆に「26%ものプライム上場会社がサクセッションプランを運用している」という回答のほうが驚きで、どうやって適切に運用しているのか教えてほしいです。私はサクセッションプランをうまく運用できない失敗からの反省は以下の2点です。これらが真摯に対応するための前提条件ではないでしょうか。

ひとつは(前も当ブログで少しボヤきましたが)社長候補者リストの作成とアフターケアーです。3人の最終候補者を選定して、育成して、その中から社長を選ぶのは良いとしても、では選ばれなかった2人に対してどう処遇すればよいのか?指名委員会には現経営者も委員として意見を述べるわけですが、社外取締役の委員と「残る2人の処遇をどうすべきか」あらかじめ議論しておいたほうが良いと思います。

もうひとつは「リーダーシップ」よりも「フォロワーシップ」こそ、社長候補者として大事、という点です。ガバナンスコードでは事業戦略のほうばかりに目が向きますが、どんなに立派な将来計画を立てたとしても、現場がこれを実践する力がなければ絵に描いた餅です。オープンAIのCEOの方が取締役会で解任されたそうですが、今後自分で会社を作り、多くの経営幹部もそちらへ移動する可能性が高いとなるや、今度は会社が引き止めにかかっていると報じられています。中間管理層も現場社員も、社長の方針に賛同するのは簡単ですが、これを実行に移すために必要なものはフォロワーシップだと思います。指名委員会が、このフォロワーシップをどのように評価するのか、ここがいつも苦心するところです。

指名委員会の運用は、下手をすると現社長の専横を許すことになり(「指名委員会が決めた」という事実が現社長のわがままにお墨付きを与える結果となって、かえってガバナンスの後退、機能不全を招く)、委員会を任意で作ったのであれば真摯に運用する覚悟が必要です。記事にもあるように、サクセッションプランの運用について、どう開示するか?という課題がありますが、上記のとおりサクセッションプランの運用はそもそも開示には一切なじまないものであり、指名委員会が汗をかいて根回しをして、ときには密室で喧嘩をして初めてうまく運用できる(結果として業績や収益が向上する)ものと(少なくとも失敗を繰り返した私は)考えております。

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2023年11月19日 (日)

御礼・祝ココログ人気ブログランキング第3位!

Blog20231118 いつも拙ブログをご愛読いただき、ありがとうございます。10月23日のこちらのブログで「人気ブログランキング第4位になりました!」と書きましたが、先週の異常な盛り上げりでついに(11月18日現在で)ココログランキング第3位となりました(これを書いている19日深夜の時点でまだ3位です)。ニッチな企業法務ブログでは、もう絶対にありえないので、またまたスクショを上げております(いつも15位から30位の間くらいです)。

タカラヅカネタほか、過去の記事を含めていろんな組織不祥事が世間で話題になっているのでしょうね。普通は平日3000アクセスくらいですが、先週は14000アクセス(一日)ほどになり、本当に今年は不祥事ネタが世間一般の方の関心事であることを痛感しました。

ただ、こんなたくさんの方に閲覧していただいているからといって、奇抜さを狙ったような物言いはいたしません。60を超えた初老のオッサンが自分の好きなことを好きな切り口で語るだけですので、また気になりましたらときどきブログをのぞいてみてください。今後ともよろしくお願いいたします。

山口利昭 拝

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2023年11月16日 (木)

文春砲-M防衛政務官のセクハラ疑惑について

41vwghhaehl (昨日のタカラヅカ事件と同様、これもブログで書くのを迷ったのですが)三宅伸吾防衛政務官のセクハラ疑惑が文春で報じられました。ホントに驚きで息がつまりそうになりました。当ブログを初期からご愛読いただいている皆様はご存知のとおり、私は「日経(当時の法務報道部)記者である三宅さん」のファンだったので、2005年の「乗っ取り屋と用心棒」2007年の「市場と法」も当ブログに書評を書かせていただきました(いま読み返すとなつかしい)。

当時、書評にも書きましたが、三宅さんは15年以上前から「買収が敵対的というのは表現としてよくない、むしろ競争的買収でしょう」と述べていて、昨今の公正な買収防衛ガイドラインの考え方を先取りしていたような慧眼をお持ちでした。おそらく当時は「乗っ取り屋と用心棒」のほうが売れたものと思いますが、私自身は「市場と法」のほうが好きで、今でも企業に対する事前規制と事後規制の関係などは参考にしております。

私の大阪の事務所にも2度ほど遊びにきてくれて、年齢も近いせいか取材よりも「しょーもない業界ネタ話」をしていたことだけ覚えております。ただ経済や法務の切り口から日本企業の価値を向上させるプロセスについて強い志をもっていたことは間違いなく、その後香川選挙区から参議院議員に当選したときも「三宅さんなら天下国家のために身を粉にして頑張るだろうな」と期待しておりました。活動についてもSNSを駆使して広く公表しておられます。

しかし、文春で書かれているようなことが事実だとすれば、当選直後のことだけにとても残念です。ご本人は完全否定しておられるようですが、文春お得意の第2報、第3報が心配なので、私としてはとりあえず静観しておきます(どうか誤報であってほしい)。それにしても2013年の出来事がなぜ今頃?・・・オソロシイ。

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«タカラヅカ劇団員事件と阪急阪神ホールディングスの「ビジネスと人権」方針