2019年10月15日 (火)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定

このたびの台風19号による被害の報道に驚愕しております。被災された皆様には、こころよりお見舞い申し上げます。

さて、週刊東洋経済10月12日号では、昨年の積水ハウス地面師詐欺事件に関する続報が「積水ハウス詐欺被害『封印された報告書』の驚愕」と題して詳細に報じられています。同誌記者が、地面師詐欺事件に関する社内調査委員会報告書の全文を入手し、当該報告書を参考に書き上げたものだそうで、(すでに一部の経済ニュースでは取材記事としては報じられていたものの)「なぜ天下の積水ハウスさんが地面師に嵌められたのか」その実態に迫る内容が示されています。

積水ハウスの取締役の方々が(約55億円の損害賠償金の支払いを求めている)株主代表訴訟の被告になっていることは存じ上げておりましたが、同社がどうしても公開したくなかった社内調査委員会の報告書について、裁判所から文書提出命令が出されていたことは、私はつい最近知りました。というのも、判例雑誌(金融・商事判例1574号-9月15日号)で、この文書提出命令申立て事件の抗告審決定(令和元年7月3日 大阪高裁)の全文が掲載されていたからです。原審、抗告審とも、裁判所は株主代表訴訟の原告側の申立を認めて、同訴訟の補助参加人である積水ハウスに対して社内調査委員会報告書を提出するよう命じています(抗告審は確定し、同社は裁判所に提出-ただし現在は閲覧制限がかかっているようです)。

前記東洋経済の記事を読まれた方は、積水ハウスの組織的な問題などに関心が向くものと思いますが、私はこの文書提出命令の決定内容から、他社でも事件や事故発生時における社内調査委員会を作成した場合には、内容を秘匿したり、概要のみ一部開示するだけで済ませるのはむずかしいのではないか、と感じました。相手方から文書提出命令がなされた場合に、文書提出義務が発生することの根拠となる民事訴訟法220条4号「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」の解釈が問題となりますが、大阪高裁は、平成11年の最高裁決定の立場を踏まえて「自己利用文書」に該当するのかどうか慎重に判断をして「自己利用文書」にはあたらないと結論付けています。

専門性が高いので、ここでは大阪高裁決定の内容を述べることはしませんが、社内調査報告書といっても、まったくステイクホルダーへの説明のためには使わない、といった状況は考えにくいように思います。たとえば上場会社の場合、2016年に公表された「企業不祥事対応のプリンシプル」に沿った形で社内調査を行うことが多いと思います。また、今年6月末に公表された経産省「グループガバナンス実務指針」において示された「有事対応の指針」でも、前記東証プリンシプルとほぼ同じことが示されていますが、社外取締役や社外監査役が委員になって「公表の要否を含めた判断」のために社内調査委員会が発足し、「個人の責任よりも組織としての構造的な欠陥の存否への判断、再発防止策の検討」を目的とした調査が行われます。現経営陣が、事件や事故発生時に対外的な説明責任を尽くすべきかどうかを判断するために、中立公正な第三者的立場にある社外役員に調査を担わせる以上、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」と(会社側が)立証することは困難かもしれません。

ただし、裁判所はインカメラ方式によって対象文書の内容にアクセスできますので(民事訴訟法223条6項)、文書の内容が(開示されてしまうと)関係者のプライバシー権を侵害する場合、団体の自由な意思形成を阻害してしまうおそれがある場合、その他開示によって文書所持者の側に看過しがたい不利益が生じる恐れがある場合には提出命令は出されません。したがって、会社として社内調査報告書をどうしても全文開示をしたくない、ということであれば法律専門家の意見等を聴取しながら社内調査委員会の報告書を作成することを検討すべきでしょうね(もちろん、その姿勢が「コンプライアンス経営」の観点からレピュテーションリスクを新たに生む可能性はあります)。

先日の関電金品受領事件でも社内調査報告書の開示・非開示が問題となりましたし、神戸製鋼品質偽装事件でも(海外当局からの捜査に影響を及ぼすとして)全文開示をしないという経営判断が問題視されました。いずれにしましても、積水ハウスの社内調査報告書に対する文書提出命令申立て大阪高裁決定は、コンプライアンスや危機管理に携わる皆様にとって重要な裁判(決定)であります。

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2019年10月11日 (金)

関電金品受領問題を他人事ではなく自分事として考える視点

毎日新聞の有料会員の方はすでにご承知かと思いますが、10月9日の毎日経済プレミア記事「関電社長に『裏の世界との決別』を求めた内部告発文書」によると、今年3月から6月までに4通の内部告発文書が経営陣(監査役含む)に届いたそうで、その「衝撃の告発文書」の一部も公開されています。この一連の告発文書を読みますと、関電の常任監査役の方は今年3月~4月の間に経営陣と本問題への対処について協議(説得?)を行っていたことがわかります。しかしながら、常任監査役が社長と副社長に説き伏せられて「このままにしておく」ことが決まったようです。10月4日のエントリーの冒頭でも書きましたが、本件が発覚した当初「監査役が経営陣に疑問を呈していた」と報じられていましたが、この報道内容は概ね正しかったようです。

会長、社長辞任という大きな問題に発展した関電金品受領事件ですが、関電役員の初動時期に立ち返り「もし、自分が(金品を受領していた)関電の役員だったら、どんな対応をとっていただろうか」と考えてみたいと思います。まず上記告発文書の内容を知った時点ですが、まず多くのメディアで報じているように「被害者意識」は持つでしょうね。被害者意識が、この「金品受領問題」を矮小化する理由としては大きい。

会長、社長、常任監査役とも「公表はしない」と判断したそうですが、この理由としては、①自分たちが要求したのではない、我々は金品受領を強要された被害者である、②たしかに不適切な点はあるかもしれないが、すでに(しぶしぶ)国税の要求に従っており、十分な社会的制裁は受けている(倫理のつじつま合わせ)、③これを自主的に公表したとしても、我々の行動が犯罪ではないか、との国民の誤解を招きかねず、かえって社会的混乱を惹起するだけである、④今公表しても、あとでバレたとしても関電の社会的信用が毀損することは同じなのだから、バレないほうに賭けることが合理的である、といったところではないでしょうか。

「社長、そうはいっても内部告発文書がある以上、バレない保証はありませんよ。ここはきちんと説明して不明朗な金銭問題と決別することが大事です」と正論を述べる役職員がいたとします。その際、

「じゃあ、公表して(国民の誤解を招いて)原子力政策がにっちもさっちもいかなくなってもいいのか!?いつまでも利用者に石炭火力による高い料金を払わせていいのか!?君は当社が政府のエネルギー政策をダメにしてしまうことに責任をもてるのか!?」

といった経営陣からの反論にどう回答すればよいのでしょうか?

「うちの社外役員には検事総長だった人もいる。次年度には大阪高検のトップだった人も来る。コンプライアンス委員会のトップにも大阪地検検事正だった人がいるんだ。法律のプロから『違法性はない』と言ってお墨付きをもらっているんだから、何もしないのが一番だろう」

と念押しされ、それでも公表すべき、と言えるのでしょうか?

「そうだろ?よく考えてみれば軽微な問題なんだ。君も理解しただろ。あんな告発文書なんか、マスコミが受け取ったって『怪文書』にしかみえないよ。マスコミだって我々が被害者だって説明すれば記事にもならないよ。逆に我々自身が公表すれば『そんな大きな不正なのか』って言われるだけだよ。」

とまあ、こんなストーリーになるのではないかと。以前、こちらのエントリーにも書きましたが経営者は「不正の疑い」をもみ消すのではなく、そもそもなかったというアリバイ作りを行うのが常道であり、そのアリバイ作りに協力してくれる監査役、内部監査部門こそ社長に好かれます。 

初動対応として自主公表を決断するためには、ここでなんとか本件を「会社の問題」として捉えるべきでした。すくなくとも取締役会やコンプライアンス委員会、リスク管理委員会の議題として議論すべきでした。せめて隠密裏にでも社外取締役に情報を届けるべきだったと考えます。これを会社の問題ではなく「個人の問題」として捉えますと、みなさん、(バレても大丈夫と思えるような)不正の「正当化」を始めます。ある人は「儀礼の範囲内」の拡張解釈に走り、ある人は「金品の返還」ではなく「森山さんへの新たな御礼」と解釈します(いわゆる「不正のボーダレスリスク」)。中には「前任者からの引継ぎ案件だから」とか「他の人ももらっているから」といった理由で未返還を正当化した方もいたかもしれません。いずれにしても、本件は「個人の問題」として処理してしまったことが「稚拙な有事対応」の要因だったように思います。

「これまで個人の問題として処理しておりましたが、国税による調査の結果を踏まえ、会社として対応することにいたしました」として、潔く自主公表すべきでした。自主公表していれば、金品を受領した役員は大きく批判をされることはあっても、すくなくとも「原子力を扱う一般電気事業者は、不利益な情報はかならず隠す」という国民の疑惑を招くことはなく、原子力を扱う事業者としての関電の誇り(会社の品格)は守れたのではないでしょうか。これから第三者委員会の調査が始まり、これまで出てこなかった新事実が明らかになりますが、それでも関電役員の初動対応は社会的な信用を回復するためのハンデになってしまったように感じます。

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2019年10月 9日 (水)

社外取締役を「お客さま」にしておく時代は終わったと思う

関西電力の金品受領問題は共同通信(毎日新聞)ニュースによって、新たなフェーズに入ってきたようです。この件はネットを注視していればすでに風評ベースでは出回っていたもので(ネットではもっと詳しい情報が「風評として」出ていますね)、私も当該ニュースに登場する企業のHPは2~3日前にチェックしておりました。しかし、こうやってニュースになると「なるほど、ネット上の風評は結構真実に近い」と納得しますし、今後設置される第三者委員会(9日にでも委員が決定するかもしれませんが)は、かなり調査事実を広く捉えないと説明責任を果たせないように思います。風評からフェイクニュースと真実を見極めるのはけっこうたいへんかもしれません。

さて、この関電事件もそうですが、大きな企業不祥事が発覚するたびに「社外取締役は会見の直前までコンプライアンス問題を知らなかった」「取締役会では知らされていなかった」と報じられます。まさに「知らぬが仏」です。不正が発覚した企業において、「社外取締役さん方に相談したら『いますぐ公表せよ!』と言われるに決まってるから、とりあえず黙っておこう」というのが経営陣のホンネではないかと。いや、もう少し遠慮気味に申し上げるならば「立派な社外取締役さんを当社の不祥事に巻き込んではいけない」という動機もあるかもしれません。いずれにせよ「取締役会改革」と言いながら、なかなか社外取締役が経営監督責任を全うできるような環境は形成されず、いつまでたっても「お客さま」として扱われる会社が多いのではないでしょうか。

「そんな受身でどうする!ガバナンス・コードでも社外役員の情報収集が大事と書いてあるではないか。監査役と連携するなりして自分から積極的に情報収集せい!」との意見も出てきます。もちろん正論ではありますが、事務局がリスク情報を掌握しているわけでもなく、また裁判上(下級審判例ではありますが)、取締役には社内調査権限はないとされていますので、実効性のある情報収集の手法というのも見当たりません。ということで、社内の経営陣にとって「いやがうえにも」社外取締役に自分達の不利益情報を伝達せざるをえないような状況を考えたほうがよさそうです。

ところで、10月4日の第200回国会(臨時国会)の所信表明で、安倍首相は「会社法を改正します!社外取締役を義務付けて、経営の透明化を図ります!」と述べておりましたので、この国会で会社法改正法案が成立するかもしれません。この会社法改正では、社外取締役の選任義務付け(ただし上場企業・公開会社の取締役会)が明記されますが、併せて社外取締役に対して(一定の要件を満たせば)会社の業務執行を委託することを可能にすることも明記される予定です。会社の利益と社内取締役(執行役)との利益が相反するような状況や、経営陣の指揮監督によらず独立性が求められる場面で、案件ごとの個別審議をもって(取締役会が)業務委託する、というもの。

どのような業務がこれに含まれるかは「社外取締役への業務委託基準」のような社内ルールをもって検討するのかもしれませんが、たとえば経営陣の不正に関する社内調査や社内処分を判断するための事実調査などは、まさに社外取締役さんが中心になるべき業務と言えるのではないでしょうか(先日のマツキヨとスギ薬局によるココカラファインとの提携争奪戦における独立委員会業務などもこれに含まれるのでしょうか)。こういった社外取締役への業務委託の是非については取締役会で審議するわけですから、社外取締役さん方を「お客さま」扱いすることは、もはや許されないと考えます。安倍首相の所信表明にあるように「社外取締役を選任することで経営の見える化を図る」というのも「知らぬが仏」の状況を打破してこそ前進するのでしょう。

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2019年10月 5日 (土)

関西電力金品受領事件-第三者委員会は二つに分けるべきでは?

関西電力の経営陣が高浜町元助役から金品を受領していた問題は、かなり深刻な様相を呈してきました。10月5日午前の毎日新聞ニュースでは、関電の監査役会が昨年秋ごろに社内調査報告(平成30年9月11日付け調査委員会報告書)を受けていたにもかかわらず、取締役会に報告していなかったことが明らかになった、と報じられています。 10月4日の日経夕刊の1面でも同様の記事が掲載されていました。私は9月30日のエントリーで「もし監査役会に取締役が報告をしていたら監査役会としては動くはずですから、そもそも報告していなかったのでは?」と予測しました。しかし、実際には取締役さんは報告をしていたのであり、監査役会として動かなかったということなので、見事に期待は裏切られてしまいました。

上記毎日新聞のニュースでは、ひとりの監査役さんが「取締役会に報告をしなかった理由」を述べています。その理由とは、①社外の弁護士が入ったうえで違法ではないと判断しているから、②森山氏が金品の受取りを強要し、返還は困難であったから、とのこと(ちなみに、日経の記事によると「社外監査役も含めた7名全員で監査役会で社内調査報告書の内容を共有し、取締役会には報告しない」と判断したそうです)。社内調査のトップが元大阪地検検事正、そして社外監査役には元検察トップがいらっしゃる(当時)ということで、著名な法律のプロが「違法性はない」と判断した以上、常任監査役を含めその他の監査役の人たちが「違法性がない」と判断したこともやむをえないと思います。

しかし、会社法382条(監査役の取締役会への報告義務)は、

監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。

と定めておりまして、「違法性がない」というだけで監査役の報告義務が免除されるわけではありません。地域の取りまとめ役である高浜町元助役から金品を受領していれば、たとえ取締役収賄罪(会社法967条)が(過去に)発生している可能性が低い場合でも、今後、発生する「おそれ」は十分に認められますし、またそもそも高額な金品を経営陣が受領していること自体が「著しく不当な事実がある」と判断できます。ましてや、森山氏が恫喝などによって金品の受領を強要していたこと(金品の返還を拒んでいたこと)を監査役として知ったわけですから、「今後、この問題が取締役贈収賄罪に発展するおそれ」があると判断し、取締役会での判断次第では事前差止め(会社法381条1項)の請求を行うことも検討しなければなりません。

報道では「監査役会で決めた」とありますが、そもそも監査役は独任制です。このような判断は、7人の監査役の間で意見が分かれても不思議はないわけで、監査役会で議論することは自由ですが、ひとりひとりが報告義務の有無を判断しなければなりません。そして、たとえひとりでも「報告すべき」との意見であれば単独ででも報告しなければなりません。

なお、「公表しない」ということも監査役会で判断した、と報じられていますが、「公表の要否」の判断は、ただちに取締役の善管注意義務違反には結びつきませんので(いわゆる「コンプライアンス経営」の問題)、本日は取り上げません。監査役会の判断を検討するにあたり、蛇の目ミシン最高裁判決やダスキン大阪高裁判決など、重要な裁判例も参考になると思いますが、こちらも本日は省きます。

ということで、ここ数日の関電の監査役会に関する報道をみるかぎり、今後の関電における自浄能力の発揮を監査役会に期待することはむずかしいかもしれません。関電問題の喫緊の課題は第三者委員会の設置だと思いますが、私はオリンパス事件、東芝事件と同様に、第三者委員会を二つに分けで、事実関係を明らかにする第三者委員会と経営陣の責任を明らかにする責任判定委員会を別の有識者に委嘱するのが妥当ではないかと思います。経済産業省からの要請は「年内には事実関係を明らかにせよ」とのことですが、過去にさかのぼり、しかも原子力部門以外での件外調査まで行うとなりますと、相当な規模の調査が必要です。これを年内に終わらせるとなりますと、事実関係をまず念入りに調査する第三者委員会を設置し、その後、当該委員会報告書を参考に、関係者の責任判定に必要な事実を別途調査する、ということが必要だと考えます。

調査の目的は、原発運営の安全性を確保して地域の皆様を守ること、そして効率的な経営を維持し、電力料金を支払っている方々の利益を守ることに尽きます。そのためには、ここまで問題が大きくなった以上は、念入りな第三者委員会調査が求められるものと考えます。

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2019年10月 4日 (金)

投資家の会計リテラシーを高めるKAMの導入について

関西電力の複数の監査役の方々が、今年6月の総会前に「経営陣が高浜町元助役から3億2000万円の金品を受領していた」事実を知り、疑問を呈していたことが、複数の関係者の証言により判明したそうです(共同通信 3日午後9時)。結局、当該事実は監査報告で明らかにされなかった、ということですが、また深刻な問題が浮上してきました(以下、本題です)。

資料版商事法務の最新号(2019年9月号)に「『監査上の主要な検討事項に相当する事項』の作成を実施して」と題する公認会計士の方(EY新日本有限責任監査法人)のご論稿が掲載されています。EYさんは三菱ケミカルホールディングスに対して「KAMに相当する事項の報告」を提出し、この6月三菱ケミカルさんは自身のHPに当該報告を公開されています。最近は話題にもなっていますので、私も講演等でご紹介しています。ちなみに「KAMの開示」は2021年3月期(連結会計年度)から適用されますので、現在は「KAMに相当する事項」ということで任意に開示されたものです。

三菱ケミカルホールディングス社とEYさんが前向きに対応したからこそ、他社の参考になるような内容の報告書(KAMは4項目)が作られたものですが、実際には前年度のKAMを元に、限られた時間内で今年度のKAMを選定しなければならなかった経緯などを読みますと、他社も経営陣を巻き込んで、けっこう早めに準備をしておく必要がありそうですね。執筆された会計士の方も最後におっしゃっていますが、ガバナンスがしっかりしている上場会社でなければ適切にKAM開示はできないわけで、いま機関投資家から要望の高い「リスク管理能力の見える化」に資する制度になりそうです。

ただ、実際に三菱ケミカルホールディングスのKAM(相当事項)の内容を拝見しますと、(公認会計士協会によるKAM試行のときから言われておりましたが)産業ガス事業の企業結合(PPAによって分けられた顧客価値に関連する無形資産とのれんの測定)、耐用年数を確定できない無形資産の評価、繰り延べ税金資産の評価など、いずれも経営者の将来見積もりや経営判断に依拠する項目が並んでいて、会計数値によって会社の実態を示すとしても、どんな計算に基づくのはよくわからないものばかりです。

私のような素人からすると「これって、ホンマに会社の実態を数値で反映できるの?」「経営者の言ったことをどこまで信用するの?」といった疑問も湧いてくるわけですが、監査人としては、おそらく専門家に逐次依頼をして評価してもらう必要がありそうですし、経営者の将来見積もりの合理性を、同業他社の過去事例などをもとにAI分析で判断することも必要になると思います。機関投資家の投資判断が、今後ますます「人財とネットワーク」なる無形資産を重視する時代になりますので、(監査のプロセスが表示される)KAMの開示はさらに注目されるのではないでしょうか。

ひとつ心配なのが「内部統制報告制度と同じ道をたどること」です。リスクを開示する、ということは、内部統制報告制度と同様、基本的には経営者には嫌なこと(やっつけ仕事?)です。経営者にとって嫌なことを「私がやりますから!お忙しい社長は黙ってみててください、つつがなく制度対応をしますから」と一手に引き受けて出世したい人はたくさんいます(笑)。「そうか!じゃ、よしなに」ということで、12年ほど前はJ-SOX対応が「金太郎飴」状態になってしまいました(むずかしくいうと「ボイラープレート化」)。KAM開示についても、企業、監査人、投資家全てが「市場の信頼性向上」にとって必要なものという意識を持たないと、どうもJ-SOXと同じ道を歩いていくような気がいたします。

このたびの企業統治改革がある程度「実効性があった」と評価されるに至ったのも、機関投資家の活動によるところが大きいと思います。ぜひ企業のリスク開示の場面においても、投資家の皆様に会計リテラシーを向上させていただき、「KAM開示に積極的な姿勢の企業は資本コストを下げてもよい」といったスタンスで新たな制度に臨んでいただければ「金太郎飴」状態は回避できるかもしれません。

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2019年10月 2日 (水)

競争政策に多用されるか-「確約制度」適用第1号事案

本日は備忘録程度のエントリーです。日経夕刊(10月1日)でも報じられているとおり、楽天トラベルを運営する楽天が、独禁法違反(不公正な取引方法)の疑いのある契約条項を自主的に撤廃したそうです。予約旅行サイトの競合3社が公正取引委員会から立入調査を受けていたところ、公取委から確約通知が発せられ、楽天は改善計画を示した、というもの。競争法違反の疑いのある事業者の行為について、競争当局と事業者との合意によって自主的に解決するのが「確約制度」ですが、この確約制度が適用されました。

楽天の独禁法違反の疑いは「自社サイトの予約料金が最安値になるよう契約条項で宿泊施設等に要求していた」というもので「拘束条件付き取引」(不公正な取引方法-独禁法19条違反)への該当性が問題とされています。しかし、上記のとおり確約手続きが適用されましたので、楽天に違法行為は認定されずに解決しています。日経や読売が報じるところでは、昨年12月末に施行された「確約制度」の第1号事件だそうです。

競争政策のグローバル化が進み、TPP11協定の「競争政策章」のなかで国内施行が決定した確約手続ですが、競争法の執行には人的・物的資源を要しますので、「法執行の国際標準化」という意味でも確約手続の活用には大きな意義があるように思います。「優越的地位の濫用」をはじめとする「不公正な取引方法」の排除は、GAFA問題で揺れるプラットフォーマーへの適用、リクナビ問題で話題となった個人情報保護法との関係整理、そして吉本興業事例で議論された「働き方改革」(フリーランス保護)への独禁法適用などでそれぞれ問題になり、企業規制において公正取引委員会の活躍の場は急激に広がりそうです。とてもじゃないけど公取委の現有資源では「法執行」において追い付きそうにないはずです。

そこで「疑いがありますよ」といった確約通知を事業者に発出して、事業者の側で公取委の要望する行動を任意にとるのであれば、これは人的・物的資源の大きな節約になりますね。先日、消費税増税直前に(恥ずかしながら)私が社外取締役を務めるD社が消費税転嫁対策特別措置法違反で公取委から勧告を受けましたが(たいへん申し訳ございません<m(__)m>)、このたびの楽天さんの確約制度適用も何か象徴的な事例になりそうな予感がします。

今後は、ひょっとすると確約制度も公取委によって多用されるかもしれません。ただ、コンプライアンス経営を重視するあまり、なんでも認めてしまうのも「グレーゾーン対策」としては問題です。楽天と同様、公取委から調査の対象とされた残りの2社がどう対応するのか、そちらも興味がありますね。

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2019年9月30日 (月)

関西電力裏金受領事件-やっぱり「お天道様は見ている」

(10月2日 本文の一部を訂正しております)

先週金曜日あたりから大きく報じられております「関西電力の経営トップら20名への裏金受領事件」ですが、29日の朝日新聞系ネットニュースによりますと「本件は告発文書が今年3月頃から出回っており、その告発文書をAERAが独占入手した」とのこと。私は、本件ニュースの初報以降、今回の一連の事件がどこでどうやって報道されるに至ったのか、とても関心がありました。上記記事によりますと、社内から「告発文書」の存在(及び文書自体)が記者に情報提供されているわけですから、告発者(社内とはかぎりませんが)が拡散させたのか、それともこういった「告発文書」の存在を知った社員の方がマスコミに情報提供した、というところが真実ではないでしょうか。

そのあたりの経緯も時間の経過とともに明らかになると思いますが、私はこれまでの報道から、いくつか関電のガバナンスについての意見を述べたいと思います。まずは29日の読売朝刊1面で報じられているように「経営トップらが原子力発電関連の業務において不適切な金品を受領していたこと、そして国税庁の指摘を契機に社内調査委員会を設置したこと、調査の結果を受けて社内処分を行ったこと」が取締役会に報告されていなかった、という事実です(一部の取締役の方の証言もあるようです)。経営者も関与する問題について、外部の弁護士3名を含む6人の調査委員会を設置するにあたり、いくら巨大な組織とはいえ、取締役会で報告もしくは承認がなされないということは通常あり得ません。経営トップの不正行為を調査する社内調査委員会を設置するにあたり、取締役会で審議・検討しない、というのはあまりにも不自然です。

次に、経営トップの金員受領は、(違法かどうかは別として)それが明るみに出るとなると関電の信用を大きく毀損する問題ですから、当事者を含め、本件を知った取締役は会社法357条により「会社に著しい損害を発生させるおそれのある事項」として監査役会への報告義務が生じます(会社法コンメンタール8商事法務 92頁)。監査役会に報告が上がっていたのかどうかは不明ですが、監査役会としては(報告があれば)当然問題にするはずなので、おそらく報告をされていなかったと推測します。たしか関電の社外監査役さんには刑事事件のプロでいらっしゃる方(元高検検事長)がおられたと思いますが、社内調査委員会の設置を検討するよりもまず刑事法のプロでいらっしゃる社外監査役さんに相談するのが筋ではないかと。

さらに、社長さんの記者会見では「違法性はないので公表する必要はないと判断した」と述べておられますが、どのような法律を対象として「違法性」を検討されたのでしょうか。普通に考えますと、会社役員の職務に関連しての金品受領について、会社法967条の「取締役等の贈収賄罪」を対象とした違法性判断ではないかと思われます(新聞等でコメントされている有識者の方々も、会社法967条違反事件を前提として、要件が公務員収賄罪よりも厳格なため、立件はむずかしいと述べておられます)。

ところで、私は刑事事件の専門ではないので確信はありませんが、電力会社の役職員の方の収賄には「経済関係罰則の整備に関する法律」が適用されるのではないでしょうか(たとえば古い判例ではありますが、電力会社の従業員に贈賄した人に対して同法が適用された事例があるようです)。そうなりますと、不正調査の範囲は取締役だけでなく、原子力部門に関わる従業員も対象となり、また「不正な請託」は要件ではないので違法性判断も変わってくるように思います(最新の六法全書にも掲載されている法令なので生きている法律だとは思いますが・・・すいません、間違っておりましたら訂正いたします)。ちなみに関電トップの人たちに金品を供与したとされる元高浜町助役だった方は、資金をねん出した建設会社の顧問だったそうで、当建設会社はこの5年で売上を6倍も伸ばしているそうです。

(追記 10月2日 経済関係罰則の整備に関する法律は現在も存在するのですが、「別表」から電気事業を営む者が削除されておりますので、現在は関西電力のような「一般電気事業者」には適用されないものと解されるようです。よって訂正させていただきます)

なお、他社であれば、違法性の有無で公表の要否を判断してもよいかもしれませんが、関西電力は「たとえ違法性がなくても、その疑いがあれば公表すべき」と考えます。なぜなら原子力部門を持つ特殊な事業者だからです。少しでも「情報開示に後ろ向きである」といった企業の姿勢を国民に見せてはいけない。むしろ「そんなことまで開示するの?」といった姿勢が必要です。

以前、JR西日本で福知山線事故付近におけるATS故障が発生し、これを同社が開示しなかったことで批判を浴びました。2010年10月の当ブログエントリー(JR西日本・脱線現場でのATS作動に関する公表の要否)でも書きましたが、他社ではこの程度の故障まで開示する必要はなくても、重大事故を発生させたがゆえに開示しなければならない・・というのが世間の感覚だったと記憶しています。今回の一連の公表姿勢は、今後の同社の原子力発電所の事業戦略に大きな影を落とす可能性も出てきます。したがって、このたびの金品受領の件については、徹底した調査とその調査結果の開示が求められますし、これを自主的に行うことが重要だと思います(なお、最新のニュースによりますと、関電は社内調査報告書の多くの部分を自主的に開示する予定とのこと。ぜひそうしていただきたい)。

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2019年9月25日 (水)

日産のガバナンスに対する機関投資家の評価は如何に?-深まる社内調査への疑惑

9月24日の日経イブニングスクープでは「物言う株主、日本に攻勢 統治・還元に改善圧力」と題する特集記事が掲載されました。「人財とネットワーク」が企業のもっとも重要な投資対象と言われ、グラスルイス社がガバナンス・データ分析会社と業務提携する中で、日本企業のガバナンスはもはや「無形資産」として評価されるようになったといえます(9月16日、17日のNeo Economyに関する日経新聞記事参照)。

いま話題のウィーワーク社のように、米国企業では種類株式によって経営者は保身を図りますが、日本の上場会社ではほとんど認められておりません。日本企業は世界のアクティビストと丸腰で相対しなければならないわけですから、物言う株主が日本に攻勢をかけるのは当然のことでしょう(議決権行使結果の個別開示や政策保有株式の縮減等、攻勢をかけるべき土壌もほぼ整いつつあります)。

そのような中、9月24日のWSJ(ウォールストリートジャーナル)のニュース「ゴーン氏巡る日産の内部調査、社内弁護士が利益相反を懸念」は新事実満載で、驚くべき内容です(WSJ又は毎日新聞の有料会員のみ閲覧できます)。もちろん海外の機関投資家の方々も、すでに上記記事の内容を把握していると思いますが、この記事内容がある程度の信ぴょう性があるとするならば、日産のガバナンスはかなりヤバい状況です。社内調査に関連する利益相反問題を指摘する内部通報が人事部に滞留しており、通報の名宛人である取締役には届かない状況、とのこと(ホンマかいな💦!?)昨日のエントリーで書いた内容と同じであり、経営トップに恥をかかせないために、部下が「汚れ仕事」を引受けて自身の評価を上げる・・・ということでしょうか(あくまでも私の推測ですが・・・)。まさかとは思いますが、このWSJの記事がウソとも思えません。。。

そもそも、日産と長年の付き合いのある法律事務所が(身内の不正に関わる)社内調査を担当する、ということからみて「中立公正な調査」は期待できません。社内調査の時点で、社内の法律顧問から問題提起を受けたにもかかわらず、どうして強行したのでしょうか。また、当該法律顧問の方によれば、(別の)日米ふたつの法律事務所から「利益相反リスクに関する文書」が日産の取締役宛てに送付されているにもかかわらず、これが名宛人の取締役に届いておらず、さらに当法律顧問が名宛人の取締役に「他の取締役と文書を共有せよ」と要請したにもかかわらず、なんら返答がなかった、とあります(ホ、ホンマかいな😵!?)

もちろん、日本人的な感覚では「そんなに騒ぐほどのことではないでしょう。我々だって利益相反のリスクがあることくらいは社内調査の時点でわかっていましたよ。でも、我々も、そして担当法律事務所も、そういったリスクは承知のうえで、慎重に調査をしたのですから、利益相反関係から生じうる弊害が全くないことを確信しています」ということだと思います。したがって、このWSJの記事に追随する日本のマスコミも出てこないかもしれません。ただ、機関投資家も海外の感覚をもった人たちでしょう。欧米の企業にとって利益相反の解消は、日本企業とは比較にならないほど厳しく要求されるはず。そして、日産のガバナンスに対する評価に大きく影響するはずです。

毎度当ブログをお読みいただいている方々はご承知のとおり、私はゴーン氏の逮捕劇勃発のときから「まず明らかにすべきは日産のガバナンス問題ではないか」と言い続けてきました。日産としては米国SECとの証券詐欺禁止法違反に関する和解が成立して「やれやれ」というところだったと思いますが、このWSJへの内部告発記事のインパクトは大きい。日産は、10月末までに次のCEOを選任しなければならないわけですが、もはや社内からの昇格者ではもたないのではないでしょうか。もし日産のガバナンスという「無形資産」に大きな価値があるとするならば、まずはこのWSJの記事(法律顧問の内部告発)について真摯に説明すべきと考えますが、いかがでしょうか。

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2019年9月24日 (火)

東電事故刑事無罪判決-内部統制構築の虚しさを感じました。

9月19日、東京電力の福島原発事故の刑事責任を問う裁判(東京地裁)で、元経営陣3人に対する無罪判決が出されました。いわゆる「指定弁護士」が検察官役となって訴追する強制起訴事件ですね。東電の経営陣が津波襲来を予想して安全対策をとっていれば、福島第一原発事故を防ぐことができ、双葉病院の患者ら44名が(避難活動によって)死亡する事態には至らなかった、というのが業務上過失致死傷被疑事実の要旨です。

被害者、ご遺族の方々にとっては到底納得できない判決だと思いますが、経営者に有罪判決が出たパロマ工業事件、無罪判決が出たJR西日本脱線事故などの判決に至る論理過程をみておりますと、「予見可能性」「結果回避可能性」を立証するにあたり「経営者の刑事責任を問うハードルは高いなぁ」と感じており、今回の強制起訴事件でも同様の印象を持ちます。なお、このように新聞等で大きく報じられた下級審判決は、もうすぐ最高裁のHPで紹介されますので、またぜひ判決全文を読みたいところです。

現時点で、この東京地裁判決を(裁判の経過も含めて)詳しく知ることができるのはNHKニュースWEB「詳報 東電刑事裁判『原発事故の真相は』」ではないかと思います。判決文が公開されていない現時点で、この裁判の内容を把握したい方にはご一読をお勧めいたします。私は、判決を紹介する20日の日経朝刊記事を読み「なぜ、経営陣(東電の取締役)に情報収集義務が認められないのか?政府機関の長期評価で15メートル以上の津波が襲来する可能性があると指摘されており、当該指摘を経営陣が知った時点からは情報収集義務が発生するのではないのか?そのための内部統制構築義務違反が認められるのではないのか?」との疑問を抱いておりました。

そして上記NHKの詳報を読んだところ、たしかに指定弁護士側は、そのような主張を展開していたようです。経営陣に当時の原子力部門の責任者が政府機関による評価結果を伝えていたそうです(メールも残っています)。このあたりの供述調書は、強制起訴事件になって初めて明らかになったので、やはり強制起訴制度には一定の意義がありますね。しかしながら、裁判所は「経営者が直ちに動かねばならないほどの問題として伝わっていたわけではない、長期評価の信用性を学会に問い合わせるために(安全性に関する)判断を保留にしていたことは、安全対策を後回しにしていたというものではない」として(事故の予見可能性を根拠付ける)経営者の情報収集義務はないと評価しています。

同様の情報を責任者から聞き、経営者がすぐに安全対策に乗り出して事故を回避できた電源開発と比較した場合、1200名の従業員の電源開発とは比べ物にならないほど東電の組織は巨大であるため、組織にとっての不都合な事実が経営者に届くことは至難の業だと思います。だからこそ「情報と伝達」に関する内部統制システムをきちんと構築しなければなりません。平成20年当時といえば、東電はおそらく日本一素晴らしい内部統制システムを整備していたはずです。

しかしながら、①経営幹部としては、トップには不都合な情報を伝えたくない、②かといって第三者に伝えると、誰が伝えたかわかってしまって人事評価に響く、③たとえ有事であっても「有事ではない」とトップに伝えて、自部署で解決することがトップからの評価につながる、④(これは前にも書きましたが)仮に有事と伝えても、トップとの議論の中で「有事ではない」と修正させられてしまう、⑤議論することがトップにとって面倒であれば「監査役のお墨付き」「都合の良い外部有識者のお墨付き」で修正させられてしまう、というのが「タテ組織、タテ社会の掟」です。そもそも「情報収集義務」は経営トップが有事であることを認識しうるような情報が伝達された時点で発生するわけですが、このようにトップには(巧妙に)有事とは判断しかねる情報としてのみ伝わるシステムになっているように思います。経営トップの「知らぬが仏」を防ぐための内部統制システムであるにもかかわらず、その内部統制が機能しない知恵がタテ社会の組織では垣間見えます。

勇気ある東電の元経営幹部数名の供述調書および公判における証言の存在が強制起訴事件で明らかになりました。しかし、そこで判明するのは、経営者に責任が及ばないための組織としての知恵(また、そのようにふるまうことで経営者から評価を受ける経営幹部の知恵)であり、やはり経営者の法的な責任(民事も含めて)を追及することの難しさを認識いたしました。

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2019年9月17日 (火)

人の仕事に「おかしい」「やめとけ」と警告することはむずかしい-ゆうちょ銀行不適切販売問題

産経新聞9月14日の朝刊に「不適切投信 『規定指導不足』 高齢者23万5000人調査へ」との見出しで、ゆうちょ銀行と日本郵便の社内調査の結果が報じられています。日本郵政グループでの不適切販売といえば「かんぽ生命問題」が大きく報じられましたが、こちらの高齢者向けの不適切な投資信託の販売問題もかなりマズいです。かんぽ生命の件は第三者委員会による調査が行われましたが、こちらは社内調査で終わるのでしょうか。本件は16日になって朝日新聞ニュースでも取り上げており、社内調査報告書だけでは済まないような気もしてきました。

70歳以上の高齢者に投信を販売する場合、社内ルールでは「勧誘前確認」と「契約前確認」が行われることになっていますが、この「勧誘前確認」は販売担当者とは別の管理者が行うことになっています。しかし、実際には多くのケースで「勧誘前確認」が行われていなかった、とのこと。ゆうちょ銀行の担当者は「ノルマのプレッシャーが原因ではない」としたうえで(勧誘前確認作業という)「社員が手間をかけなくない」と安易に考えており、社員の認識不足が原因だったと説明しています。これに対して前記朝日新聞は、社内関係者の話から「(販売ノルマに起因した)プレッシャーが原因」で確認する側も営業実績ほしさに黙認していたのではないか、と推測しています。

おそらく社内調査の結果から判明すると思いますが、ゆうちょ銀行としては「勧誘前確認」と「契約前確認」によって、担当者による勧誘や契約のどの程度の割合において販売業務が止まったのかを明らかにすれば良いと思います。たしかに一定割合が「勧誘前確認」で止まっているのであれば、ゆうちょ銀行が説明しているとおり「ルールの趣旨を認識していない管理者が存在していた」との理由は真実に近いと思います。

しかし、ほとんど業務が止まっていなかった(勧誘前確認によって問題案件の契約が事前に阻止されてなかった)のであれば、そもそも「勧誘前確認」など形骸化していた、と言わざるを得ません。ただ、認知症が重篤な疾患がなかったかどうかを調査するのが確認作業の趣旨だそうですが、別の担当者が熱心に勧誘をしたいと思っているところで、「ちょっとおかしいから、勧誘は控えるように」と、業務にストップをかけることはむずかしい。「たとえ営業成績が悪くなったとしても、高齢者に迷惑をかける契約はしてはならない」といった組織風土が明確にならないかぎり、契約前にストップをかけることは困難ではないかと。

ということで、本件は不適切な投信販売を事前に防止するための内部統制システムが有効に機能していなかったことが原因ではないかと思います。そして、実際に契約を勧誘する現場担当者は、このシステムによって「勧誘にお墨付きをもらった」として堂々とノルマ達成に向けて営業ができるわけですから、機能していなかったが、現場の不適切勧誘を助長することになるので、かなりマズいシステムだといえそうです。

しかし、実際に多くのケースで勧誘前確認がなされていなかったとなりますと「なぜ日常の内部監査では(勧誘前確認がなされていないことを)見つけることができなかったのか」という重大な問題が残ります。たしか金融機関の内部監査部門というのは、金融庁からの強い要望もあって「日本企業の中で最も優れた内部監査機能」をお持ちのはず。これこそゆうちょ銀行が再発防止のために徹底的に検証しなければならないはずであり、当該調査には利益相反的な要素が含まれている以上、第三者による徹底的な調査が必要になるものと考えます。

 

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«日産CEO辞任事例は「ガバナンスが機能した」といえるのだろうか?