2019年11月14日 (木)

拙稿のご紹介「親子上場問題を中心とするグループガバナンスの課題」

1281692823_o本日の日経ニュースにて、東芝が2000億円を投じて上場子会社3社を完全子会社化する(TOBによって他の株主から株式を取得する)と報じられています。日立化成等、上場子会社の解消を急ぐ日立製作所と同様、企業統治改革の流れの中で「親子上場の解消」は他の産業部門でも進みそうです。

ということで(?)、本日発売のリスクマネジメント・TODAY117号(2019年11月15日発行)に「親子上場問題を中心とするグループガバナンスの課題」と題する論稿を掲載いただきました。LIXIL・CEO解任事件をめぐるガバナンス強化の課題については樋口晴彦先生(警察大学校)のご論稿に譲るとして、私は経産省「グループガバナンスの実務指針」や「公正なM&A指針」等のソフトローから、親子上場問題(正確には上場子会社問題)のトレンドを解説する、という体裁になっております。

マスコミの論調等では、どうしても上場子会社の少数株主保護に光が当たることが多いように思いますが、コングロマリット・ディスカウントを低減させることへの(親会社、支配会社に対する)機関投資家の圧力は思いのほか強いものがあります。なので、親子上場解消の場面では、親会社の役員にも相当強いプレッシャーがあるわけでして、そのあたり支配会社、被支配会社双方に公平な見方で執筆をしたつもりです。お読みになられる機会がございましたら、ぜひご意見・ご感想などお聞かせいただければ幸いです。

ちなみに(これは上記拙稿の内容とは無関係ですが)上場子会社に不祥事が発生し、グループ全体のレピュテーションリスクが顕在化した場合、親会社の役員に監督義務違反による法的責任が発生する・・・というのは、福岡魚市場株主代表訴訟事件のように、両社の役員を兼任するようなケースでないと認められない、というのが現在の常識的判断だと思います。ただ、最近のガバナンス実務指針や公正なM&A指針に従って、上場子会社の社外取締役が動くことが主流となりますと、たとえばビューティ花壇株主代表訴訟の地裁・高裁判断過程などを前提に考えますと、うーーーん、親会社取締役も安閑としてはいられないのではないかと。

 

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2019年11月13日 (水)

立法事実がなくても会社法は改正できる?(改正法案、いよいよ審議入り)

本業が忙しいので本日は短いエントリーです。日経ニュース等によりますと、ようやく会社法改正法案が衆議院で審議入りした、とのこと。なんとか今国会で成立しそうですね。日経ニュースで法務大臣の答弁が紹介されていますが、立憲民主党の議員の方からの質問(ほとんどの上場会社ですでに社外取締役は存在するが、義務化することの必要性はあるのか?)に対して、大臣は

市場の信頼性を高める観点から、社外取締役の監督が法律で保証されているとのメッセージを発信することは大きな意義がある

と回答した、とのこと。しかし、ほとんどの上場会社に社外取締役が存在する現在、有価証券報告書提出会社に社外取締役を1人以上の選任を義務付けることには「立法事実」はないと思います。これまで、会社法改正にあたっては法改正の必要性を裏付ける立法事実が厳格に求められてきたと思うのですが、「メッセージを発信することに意義がある」ということでも法改正はできるのですね。これからの法改正の必要性判断の前例になるのでしょうか。

しかも法改正によって「社外取締役がいなくなった場合に、果たして取締役会決議は有効に成立するのか」とか「社外取締役を選任しないことによる罰則(過料)は会社に科されるのか」といった「解釈のグレーゾーン」まで招来してしまうわけです。今後、立案担当者の方から解釈指針のようなものが出るかもしれませんが、納得できる内容でしょうか。おまけにヤフーとアスクルの騒動によって社外取締役の存在が不可欠とされる「被支配会社」に誰も社外取締役がいなくなってしまった、これって社外取締役の監督が法律で保証されているといえるの?・・・という「負の立法事実」まで出てきてしまいました。

平成26年会社法改正のとき、上場会社等である監査役会設置会社が、社外取締役を置いていない場合は「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明する義務が設けられました。つまり会社法は「企業価値を上げるためには、社外取締役がいないほうがよい上場会社は存在する」ということを認めたわけです。しかも5年以内に社外取締役義務付けの要否を検証することが附帯決議で求められていました。その検証結果が「立法事実」であることは間違いないわけですから、少なくとも「5年経過して検証したところ、やっぱり企業価値向上のためには一人以上の社外取締役がいなければ企業価値は向上しない、ということを理由付けるコレコレの立法事実が認められた」との説明が必要です。

どうも「気持ち悪さ」を感じます。法改正の審議が進むことは喜ばしいのですが、会社法改正があまり「美しくない」と感じるのは私だけでしょうか。

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2019年11月11日 (月)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい(その2)-積水ハウス提出証拠閲覧制限申立て却下・大阪地裁決定

10月15日の当ブログエントリー社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定にて、積水ハウス取締役らに対する株主代表訴訟の補助参加人である会社に「社内調査委員会報告書を提出せよ」との高裁決定が出されたことを報じました。しかし、この事件には続編がありまして、その詳細を紹介する記事「積水ハウス地面師事件-【調査報告書】封印の限界」が週刊東洋経済の最新号(2019年11月16日号)に掲載されています。

積水ハウスさんは、この社内調査報告書の中身について「なにがなんでも開示したくない!」ということで、証拠として提出した後も、民事訴訟法92条に基づく(第三者による)閲覧制限の申立をされていたそうです。しかしこの11月1日、大阪地裁は積水ハウスさんの申立を却下、閲覧制限を正当化する理由は認められないと判断したようです。民訴訟92条による提出証拠の閲覧制限が認められる理由としては、開示によって当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれある場合、不正競争防止法上の「営業秘密」に関する記載がある場合ですが、本証拠開示については否定されています。ちなみに、民事訴訟における訴訟記録については原則公開です(民訴訟92条1項)。

この地面師事件のエントリーの際には毎度申し上げておりますとおり、私は積水ハウスさんの事件遭遇を揶揄するつもりは一切なく、今回の件は他社の有事対応、全社的内部統制の在り方でも参考になるものと思い、ご紹介する次第です。民事訴訟法上の秘密保護の手続きは、大別して①口頭弁論等の手続にかかる秘密保護措置(訴訟記録の閲覧等の制限)と、②文書提出命令等にかかる秘密措置保護とに分かれ、民訴法92条はこの①に関するものです。

結論からみますと(まだ即時抗告によって大阪高裁が逆の結論になる可能性はありますが)、積水ハウスの社内調査報告書については①および②とも裁判所から否定されましたので、ますます「(企業不祥事発生時における)社内調査報告書の秘匿・非開示はむずかしい」と考えたほうがよさそうですね。いや、社内調査報告書だけでなく、適時開示を予定していないような不祥事に関する第三者委員会報告書なども、後日紛争になったときには文書提出命令の対象とされる可能性があると思われます(ぜひ、このあたりは今後法律家の方々の意見などもお聴きしたいところです)。

地面師詐欺事件に詳しい布施明正弁護士(たしか判例時報や経済誌などで紹介されている他の有名な地面師事件の代理人をされている方ですね)が、上記週刊東洋記事で述べておられるように「本件は上場企業で起きた大型事件であり、その真相を記した調査報告書は社会全体の財産」という見方が裁判所の意見に近いものと思います(まだ決定全文は読めておりませんが、おそらく即時抗告審の決定も含めて、また判例雑誌等に紹介されるものと思います)。

いずれにしましても、企業としては「不祥事公表の要否」に関する判断の前に、少なくとも社内調査を行い、その調査結果の報告を受けるわけですから、当該報告書が後日第三者に開示される可能性が高いことを認識しておくべきかもしれません(「べきかもしれません」と書きましたのは、私なりには非公開の調査報告書を作成する工夫の余地はあるのではないか・・・とも考えられそうだからです。ただし、その工夫は新たなコンプライアンス・リスクを顕在化させる可能性もあり、このあたりは思案中です)。

しかし積水さんは文書提出命令事件の主張といい、この閲覧制限申立ての主張といい「関係者のプライバシー保護の必要性」を強調しておられますね。ということは、当該調査報告書の記述の中に、事件の全容を解明する内容だけでなく、なにか「きな臭い」組織内部の紛争に関連する事実なども含まれているのでしょうか?このあたりがナゾでありますが、個人的にはそのあたりを詮索することは控えたいと思います。

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2019年11月 7日 (木)

今こそ「フィデュシャリー【信認】の時代」-信認義務の活用に向けて

2016年5月に、こちらのエントリー「監査役もフィデューシャリー・デューティーの時代」にて、樋口範雄氏(東大名誉教授、現武蔵野大教授)の名著「フィデュシャリー『信認』の時代」をご紹介しておりましたところ、このたび内閣府「公益財団法人トラスト未来フォーラム」の役員の方から「絶版となった樋口先生のご著書が、当HPより無料でダウンロードできるようになりました」とのご連絡をいただきました(どうもありがとうございます!トラスト未来フォーラムのHPはこちらです)。以下、同HPの紹介文(引用)ですが、

情報通信ネットワークの浸透、情報格差の拡大、グローバル化と高齢化の進展等を背景に、取引当事者間の関係がより複雑・デリケートなものとなっている中、取引先目線・立場での思考・実践を核とする「フィデュシャリー」に係る考え方は益々重要なものとなっています。樋口範雄教授は、「フィデュシャリー」の概念を広く日本に紹介された第一人者であり、1999年出版の本書では、信託を代表とする「フィデュシャリー」の意義と広がり等について分かり易く解説されています。「フィデュシャリーの時代」がいよいよ本番を迎えつつあるとも言える今、本書のご一読をお勧めします。

たとえば、このたびの会社法改正では「社債管理補助者」という制度が新設されますが、その権利・義務の内容を「信認義務の法理」を参考にして現行の「社債管理者」制度と比較しますと理解が進みます。また、日本ではGAFAに代表されるプラットフォーマー規制に向けて行政(公正取引委員会)が動いていますが、米国では「情報フィデューシャリー」として、プラットフォーマーに信認関係における受認者の責任を認める学説が有力に唱えられています(無体財産規制と同様、いわゆる民民規制によって行政目的の実現を目指す)。信認関係の法理をデータ保護の世界にも適用することでプラットフォーマー規制の実効性を上げるという考え方は、今後国際的な規制の標準化に役立つのではないかと思います。そして、日本の監査役さんの職責を論じるうえでも、とりわけコンダクト・リスクへの対応が求められる昨今、ますます「信認義務」の発想が必要になってきていると確信します。

有斐閣さんと樋口先生のご協力のもと、信認義務や信託法理論をわかりやすく解説している本書が無料で読める!というのはなんとも素晴らしい。もちろん(出版時以降)信託法などは改正されておりますが、信託法理や「信認義務」を理解するには必読の一冊です。司法の世界にもAIが活用されるようになれば、日本でも判例の集積が企業実務に及ぼす影響が高まります。「監査役等に期待される行動とは何か・・・」個別具体的な事案に沿って信認義務の内容を検討することは、デジタル時代の監査役等の行動規範を形成するには有用な理論だと考えます。

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2019年11月 5日 (火)

公開シンポ「社外役員の急増で取締役会は変わったのか」のお知らせ(告知)

Simpo001  本日は11月末に開催されますシンポの告知でございます。来る11月29日、大阪弁護士会と日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークとの共催によりまして、「社外役員の急増で取締役会は変わったのか?」と題する公開シンポジウムを下記要領にて開催いたします。パネリストは大規模企業や中規模企業で社外取締役、社外監査役を務めておられる企業実務家、法曹の皆様です。ガバナンス・ネットワークの理事長である牛島理事長にも登壇いただきます。開催の趣旨およびパネリストのメンバーは左のチラシをご参照ください(クリックしていただくと大きくなります)。私も司会(モデレータ)を務めさせていただきます。

日時 2019年11月29日(金)午後2時~5時 

場所 大阪弁護士会館2階ホール 定員200名程度

 

10月2日の日経ニュースによりますと、全取締役に占める社外取締役の比率は今年初めて3割を突破したそうで、とりわけ女性役員も1000人を上回ったそうです。秋の臨時国会に提出された会社法改正法案でも、(公開大会社について)社外取締役の義務化が盛り込まれています。さらに、経産省CGS研究会が策定した「グループガバナンス実務指針」では、企業の有事における社外役員の活躍が要請されています。

 

Simpo002 たしかに社外取締役の数も増え、また社外監査役に期待される役割なども明確になってきました。しかし、本当に企業統治改革のもとで期待される役割を果たしているのでしょうか?また、企業側も、世間で期待される社外役員の役割を担ってもらうための努力をしているのでしょうか?このシンポジウムでは、社外役員としての経験豊富な方々に、企業統治改革が進む中で企業が変わったのか、そして自分たちも変わってきたのか、具体的な質疑応答を通じて検証したいと考えております。

取り上げたい論点は、2枚目(下)のチラシに上段部分に記載したとおりです。私自身、機関投資家の皆様と意見交換をする機会が増えましたので、そこで見られる機関投資家の期待と企業の期待のギャップを意識しながら各論点への検証を進めていきたいと考えています。しかし、「この制度は良い、悪い」といった制度論を議論するつもりはなく、「あるがままの制度を受け入れて、どう運用すれば企業価値の向上に役立つのか」を徹底的に考えます。時間は大切です。決して「総花的」な面白みのないシンポにはしたくないので、出席者の方々と一緒に考えながらシンポを進めるべく工夫をしております。

大阪での開催となりますが、これから社外取締役・社外監査役に就任したいと考えておられる方々、すでに就任されている方々、そしてこれから社外役員の採用を検討されている企業の皆様、ぜひ公開シンポへご参加ください。もちろん社内の役員の方、士業や研究者の皆様も大歓迎でございます(参加無料です)。お申し込みは左のチラシ(またはリンク先)記載の弁護士会HPから(もしくはQRコードから)よろしくお願いいたします。

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2019年10月31日 (木)

企業行動規範の開示は不祥事の重篤化を防ぐ(コンダクト・リスクマネジメント)

先日、こちらのエントリーにて、危機管理・有事対応の世界で著名な弁護士の新刊書をご紹介して「恥ずかしながら、私は『コンダクト・リスク』なる概念は存じ上げませんでした」と述べました。しかし、ちょうどビジネス・ロー・ジャーナル2019年12月号に、東浩弁護士(田辺総合法律事務所)の「コンダクト・リスク管理と企業カルチャー革命」なる論稿が掲載され、すでに金融コンプライアンスの世界では7年ほど前から不正リスク管理のために使われている概念と知りました(まだまだ修行が足りませぬ・・・)。

ご承知のとおり「コンプライアンス」なる言葉が「法令遵守」を超えて、広く「企業が、社会からの要請に適切に対応すること」と訳されるようになりました。たとえ企業行動に「法令違反」が認められなくても、社長・会長が辞任しなければならないほど「企業の信用が低下する事態」が生じてしまう時代です。そのような不祥事を予防・発見するために「コンダクト・リスク」を抽出して管理することが要請されます。東弁護士の整理を引用すると、①社会規範に悖る行為、②商慣習や市場慣習に反する行為、そして③顧客の視点の欠如した行為こそ、コンダクト・リスクが顕在化するおそれのある行為だそうです。検査データの改ざん、不適切な契約勧誘、不適切な個人データの取扱い等、最近の不祥事例を掲げながらコンダクト・リスクの顕在化事例が紹介されています。

当該コンダクト・リスクの管理手法等については、また東弁護士の上記ご論稿をご参照いただくとして(とてもわかりやすく解説されています)、私が上記ご論稿のなかで関心を持ちましたのは同氏によるデータ分析の結果です。多くの上場企業のHP等で開示されている「企業行動規範」「倫理指針」等を分析し、最近大きな企業不祥事を発生させてしまった会社(たとえば商工中金、日本郵政グループ、リクルートグループ、神戸製鋼所、東芝、野村グループ等)に共通する「企業行動規範の特徴」を示しておられます。他の(不祥事が発生していない)企業では「行動規範」等に「当然のこと」として書かれているものが、4~5項目ほど、これらの企業には共通して書かれていない・・・ということが判明しています(なるほど・・・)。

どのような項目が不足しているのか、という点は上記ビジネス・ロー・ジャーナル12月号をお読みいただければ「添付図表」からわかります。ただ、私の感想としては、近時大きな不祥事を発生させた企業においても、開示されている行動規範の中では「足りない」とされる項目についても、実は社内的には規範化されているものも多いのではないかと推測します。ただ、これを開示していない・・・ということは、行動規範の遵守を対外的に誓約していないことに等しいわけで、担当者任せで行動規範を策定したことも推認されます。つまり、開示しない姿勢自体が組織風土の問題にも通じているのではないかと考えます。「コンダクト・リスク」なるものが、このような姿勢に如実に現れるのではないでしょうか。

そういえば昨日(10月29日)の日経WEBニュースでは、九州電力が、社員や役員が守るべき企業倫理などをまとめた「コンプライアンス行動指針」をホームページで公表した、と報じられていました。九電の広報部門は「これまで社内文書として取り扱い『非公開』にしてきたが、関西電力幹部の金品受領問題を受けて、九電の姿勢をアピールするため公表に踏み切った」と説明しています。九電のコンプライアンス行動指針は2002年に策定されたそうですが、これまでは社内文書化しているだけでした。関電の問題発覚後、九電は(同様の事実がないか)社内調査を行ったうえで、行動指針の開示に踏み切ったそうです。

企業行動規範や倫理指針を対外的に公表する、ということは経営者の明確なコミットメントがなければ実現しないわけで、この「行動規範の開示」こそ、現場社員の不正防止だけでなく、いわゆる「二次不祥事」の予防にも良い影響を及ぼすものではないかと思います(私が「なぜ行動規範の開示が良い影響を及ぼすと考えるのか」という点については、また別途エントリーで述べたいと思います)。もちろん、宣言する以上は、規範に沿った行動が社内外から期待されるわけですから、力を持った法務部門や内部監査部門が必要になるでしょうね(うーん、そこが一番の課題かも・・・)。 

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2019年10月30日 (水)

タニタの働き方改革は労働規制逃れ(偽装請負)になるのか?

10月29日の日経WEB「NIKKEI STYLE(出世ナビ)」に「タニタ働き方改革は労働規制逃れか-社長が疑問に回答」なる記事がアップされており、興味深く読みました。2017年から始まったタニタの働き方改革には賛否両論の意見が噴出しており、社長さんは「批判が出てくるのは織り込み済み」とにこやかにインタビューに回答されています。タニタの「日本活性化プロジェクト」と銘打った制度では、独立を希望する社員は退職し、新たに「個人事業主」として同社と「業務委託契約」を結び、それまで行っていた仕事を「基本業務」として担当する、とのこと。このシステムに「労働基準法違反ではないか」との批判の声もあるようです。

たしかに、社員だった人が、会社との間で「業務委託契約」を締結して個人事業者となった場合に、会社の使用者性が争点とされたベルコ事件の一審判決(札幌地裁平成30年9月31日)は、業務委託契約、代理店契約を締結している「支部長」さんの下で働く従業員との関係で、ベルコには「使用者性」はないとされました(平成30年12月25日のベルコ2次判決も同旨、なお現在、札幌高裁で控訴審が係属しています)。会社と支部長さんとの関係は労働契約ではないから、支部長さんのもとで働く従業員もベルコの労働者には該当しないということです。全国の労働組合は当該判決を批判していますが、労働者の労働時間制限が厳しくなった昨今の状況の中、企業側としては、この手法を多用するのではないかと予想しておりました。

しかし、今年7月、地労委(北海道労働委員会)の命令では、同じベルコの案件について、真逆の判断となりました。地労委は、会社と支部長との業務委託契約の中身について9項目ほど詳細に事実認定を行い、支部長のもとで働く従業員にも労働者性があるとして、会社の不当労働行為を認めています。支部長やそのもとで働く従業員の働き方に裁量権があったとしても、実質的には歩合給制度に等しい、支部長に(仕事に関する)諾否の自由があったとしても、実質的には(ベルコとの)指揮監督関係が成り立っているとしています。事実認定の内容を読みますと、いずれも仕組み自体の問題ではなく、仕組みの運用上の問題が取り上げられています。このような地労委の判断が出た後に、高裁はどのような判断を下すのか興味が湧きますね。

ということで、タニタの働き方改革の手法について、「シロかクロか」といった両意見が出てくるのも当然のように思います。おそらく、仕組みだけをみても判断できない。その仕組みが日ごろからどのように運用されているのか、その運用上の問題こそ労務コンプライアンス、内部統制上のキモになると思われます。仕事に関する裁量権、実質的な諾否の自由の有無など、日常の運用状況を把握しなければ評価は困難ですから、企業としても「運用状況のチェック」に関する相当なコストを要するはずです。また、そもそも働き方改革のなかで、就労形態の多様化、分節化が進んでいるので、業務委託と労働契約との垣根がますます曖昧になってきます。そうなると、会社としても「偽装請負」と認定されないために、日頃からの運用状況を厳格にチェックする必要があると考えます。

労働規制違反やハラスメントなどの労務コンプライアンスについては、できるだけ時間軸をもたせて対応する必要がありますね。「これはダメ、あれはセーフ」といった平面的な判断ではうまくいかないことが多いように感じます。本件のような業務委託契約の導入も、本当に社員を想ってのことか、それとも会社都合のために導入したのか、それは「運用」に如実に現れるのではないでしょうか。

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2019年10月29日 (火)

会社法の教材になる(であろう)アドバネクス総会決議不存在確認控訴審判決

10月16日のこちらのエントリーで予告しておりましたアドバネクス株主総会不存在確認等請求事件の控訴審判決ですが、10月18日に東京高裁で出されたようです。東洋経済プラス(有料会員向け)の23日記事「まさかの原告全面敗訴!それでも続く創業家元会長とアドバネクスの対立」、そして27日記事「会社法の専門家が指摘するアドバネクス裁判の問題点-一審でひどい判決を出した民事8部は猛省すべきだ」をさっそく読みました。企業法務に関心の高い法律家が注目する判決ですから、おそらく法律雑誌には近々掲載されると思いますので、また判決全文を読みましたら感想を述べたいと思います。なお、状況から判断しますと、創業家側から上告受理申立てがなされる可能性が高いので、当該高裁判決は確定しないと思われます。

地裁判決の後、学者の方々が論じておられた各論点については、ほぼ全て原告側(創業家側)の言い分が通ったわけですが、判決では2019年のアドバネクス定時株主総会が「不存在」といえるほどの重大な瑕疵(総会招集手続違反の瑕疵)はない(2018年総会の2019年総会への瑕疵の連鎖は否定、2018年の総会が不存在となり、たとえ一審原告らが2019年総会時点まで取締役だったとしても、有効な決議が行われた2019年6月の総会時点で退任の効果が発生するので、一審原告らが退任した現時点において2018年の株主総会の不存在を確認する実益はなくなったので請求棄却、却下)とのことで会社側全面勝訴の結果となりました。なお、株主請求によって開催された2019年9月の臨時総会でも、現取締役らの事実上の追認決議がなされています(この追認決議の有効性を争う裁判も過去には結構たくさんあるようです)。

とりわけ上記東洋経済プラスの27日記事は、田中亘東大教授の詳細な解説が参考になります(ただし、田中教授は控訴審で原告側から意見書を提出しておられます、念のため)。「今後、会社法の教材として利用されるほどの重要な裁判」とのことで「こんな重要な裁判を東京地裁第8民事部は一人の裁判官に書かせているが、合議で検討すべきであった。高裁では私の意見は概ね判決に採用されたが、地裁判決はひどかった、第8民事部は猛省せよ」と述べておられます。たしか資料版商事法務に地裁判決が掲載された際、当該解説にも「単独よりも合議で判断すべきだったのでは」と書かれていましたね。

中小閉鎖会社の内輪もめ裁判ではなく、上場会社の株主総会決議の有効性、さらに瑕疵の連鎖(後の総会決議の有効性への影響)が問題となるわけですから、総会手続の適法性保証の必要性と会社を取り巻く法律関係の画一的処理の必要性をどこで折り合いをつけるべきか・・・このあたりのバランス感覚を学ぶために、会社法の貴重な教材になることは間違いないと思います。今後は多くの研究者のご論文が公表されるはずですし、有斐閣の判例百選(改訂版)などにも登載されるかもしれませんね。また、(まだ確定はしておりませんが)実務にも大きな影響を及ぼす判決だけに、企業側、機関投資家側双方で理解しておくべき裁判です。

最後に個人的な感想にすぎませんが、①構成員に不備のある取締役会が代表取締役を選任することは「ガバナンス・コードによるCEO選任の透明性」が求められ、「取締役会改革」が進むなかで、軽微な瑕疵とは言い切れないのではないか、②(理屈ではなく実益の視点から)責任追及訴訟の提訴権者が拡大されて「適法性保証」を重視する傾向が強まる会社法の改正の風潮からみれば、「訴えの利益」も理屈だけでなく実質的な利益の有無で判断されるべきではないか(過去の最高裁判決の射程範囲はどこまであるのか)③そもそも地裁や高裁の審理期間が長くなることによって、総会決議を争う当事者の側が不利益を被ることを受忍せざるを得ないことは、民事訴訟における当事者の公平を害することにならないのか、といったことも考え併せますと、まだ創業家とアドバネクスとの紛争の決着はついていないようにも思いました。

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2019年10月28日 (月)

かんぽ生命における不正調査-「社内リニエンシー」の実効性は期待できるか

10月25日の朝日新聞朝刊は、金融庁がかんぽ生命に対して「不正の認定方法」に問題がなかったかどうか、調査を開始したと報じています。従来、かんぽ生命は、法令違反の件数を「年間20件程度」と金融庁に報告をしていましたが、このたびの問題発覚によって日本郵政グループが調査したところでは平均年280件ペースで「法令違反行為」が発覚しているようです。あまりにも実態との差があるので金融庁は調査を行う、とのこと。

ところで、上記記事の1週間前に、同じ朝日新聞朝刊に興味深い記事が掲載されています(10月17日朝刊)。日本郵政グループは、かんぽ生命の不正な保険販売に関わった疑いのある郵便局員の調査を開始するが、対象者が違反行為を自主的に申告すれば「有利な情状として考慮し」、処分を軽減・免除する(ことがある)との異例の通知を出したそうです。

私も不正調査の際に、何度か社内リニエンシー制度を活用したことがありますが、その実効性を高めるためには組織としての工夫が必要です。簡単にいえば「アメとムチ」を組織として徹底できるかどうか、という点です。「アメ」はもちろん処分の軽減・免除です。よく社内リニエンシーはモラルハザードを生むと批判されますが、(社内ですでに疑惑が生じている)特定の不正に関する申告を促すためには有効です。一般探索的な不正発見のために活用しなければ、モラルハザードもそれほど気にすることはありません。

しかし、私の経験(主に失敗例)からみても、単に自主申告を促すだけで、関係者から申告が増えるほど甘くはありません。そこには「ムチ」つまり「もし申告せずに、あとで客観的な証拠や他の社員によるヒアリングで不正が判明した場合には、逆に『申告しなかったことをもって不利な情状として考慮して』厳罰をもって臨む」という会社の姿勢が伴うことが必要です。そして、日常において会社が社員と接する際に用いられている「性善説」もしくは「性弱説」の発想を「性悪説」に180度転換する必要があるので難しい。

たとえば、かんぽ生命の社内リニエンシーの運用について、上記記事では「不正な保険販売に関わった疑いのある郵便局員」を(反面調査を先行させることによって)最初に特定するようです。まだ客観的な証拠もない「疑い」の時点で「あなたは疑われている郵便局員だ」と特定して、それを本人に告知する、関係者との接触を禁止する、というのは皆様方の会社で可能でしょうか?(プロのCFE-公認不正検査士-が2万人以上いる米国でも、疑わしい社員への告知は慎重を期さないと法的なトラブルになります)しかし特定しなければリニエンシーの実効性が高まらないので「(後で何も出てこなくても)疑いがあれば調べるのが会社の姿勢なのだ」という組織風土が成り立たないと難しいでしょう。

また、かんぽ生命は「対象者の供述に依存するものではなく、客観的事実、物証、第三者の信用性ある供述などに基づいて、我々は不正の認定を行います」とあらかじめ告知しておくそうですが、自主申告の対象はあくまでも「事実」であり、違法かどうかの評価は含まない、と告げるべきです。疑いをかけられた社員は「会社は長年貢献してきた我々の説明よりも、お客さんや取引先が供述していることを信用するのか?」と疑心暗鬼になります。

「自己負罪」ではなく「(事実に関する)自主申告」を促すものであることをきちんと説明しなければ、社内リニエンシー制度はなかなか実効性は上がらないと思います。「申告すればかならず処分を減免します」と伝えるのではなく「処分を減免することがありますよ」と伝えるのは、このように評価の問題は会社が責任を負うからこそです。「評価の責任は会社が負う」気概を社員に示すためには、やはり性悪説に立たねばならないわけでして、私があまり社内リニエンシーをお勧めしないのは、(自分のプロとしての失敗をおそれるわけではなく)このような気概を企業が持つことが難しいからであります。

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2019年10月25日 (金)

企業不祥事対応に関する良書2選(新刊書のご紹介です)

10071623_5d9ae80ac83fa私自身、不正調査関連の委員長職務を3つほど掛け持ちしている関係で、なかなか本のご紹介ができませんが、ほぼ同じタイミングで企業不祥事防止関連のおススメ良書が2冊出版され、私の本業にも参考にさせていただいておりますのでご紹介いたします。

(図解)不祥事の予防・発見・対応がわかる本 竹内朗(編)プロアクト法律事務所著(中央経済社 2,500円税別)

ACFE(日本公認不正検査士協会)理事であり、企業の危機管理・有事対応の分野では著名な竹内朗弁護士の法律事務所が書かれた本です。タイトルのとおり、ふんだんに図表を活用していて、読みやすく、徹底的に実務目線の解説書です。後でご紹介する本にも登場しますが、最近「コンダクト・リスク」なる言葉が浸透しているのですね(恥ずかしながら、私は存じ上げませんでした)。

企業不祥事対応の最新事情(防止や早期発見における最新事情)も紹介されていますので法務や監査、内部監査等の実務部隊の方々にとても参考になる一冊です。第三者委員会実務も詳しく書かれていますが、私は不正発覚時の初動対応などが最も参考になるように思いました。

また、「三線ディフェンス」の解説なども図表を交えて盛り込まれていて、ぜひ不正防止や早期発見のトレンドとしてご理解いただきたいところですが、本書は「ESGや開示規制と不祥事対応の関係」や危機管理広報など、機関投資家を意識した項目も目につきます。不祥事対応といいますと、先に述べたように法務や内部監査、総務といった部門がスキルを学ぶべき、といった観念があるかもしれません。しかし当ブログでも何度かお話したとおり、最近は機関投資家も企業不祥事に強い関心を抱いていますので、ぜひともIRや広報担当者、財務・経理担当者の皆様にもお薦めしたい一冊です。(まったく関係ない話ですが、プロアクト法律事務所も所属弁護士が増えたのですね。いやいや、商売繁盛でなによりでございます)。

しかしながら、どんなに実務部隊のスキルが向上したとしても、法務や監査、内部監査等の重要性を経営者が認識し、それなりの予算をつけなければ不正予防はおろか不正の早期発見も困難です。つまり、経営者自身に不正予防や早期発見の重要性を認識してもらう必要があります。次に紹介する本は、ぜひ「経営者に読んでいただきたい」一冊です。

41az5wltcpl_sx340_bo1204203200_ とうことで、こちらもよく存じ上げている方の、ひさしぶりの新刊書でございます。さきほどご紹介した「不祥事の予防・・」もアマゾン1位ですが、こちらもアマゾン1位(つまり、私がとくにブログでご紹介せずとも二冊とも売れている、ということですが)です。

企業不祥事を防ぐ 国廣正 著 (日本経済新聞出版社1,700円 税別)

言わずと知れた危機管理部門の第一人者、さきほどご紹介した竹内朗弁護士のお師匠さん(出身事務所の代表者)でもある国廣さんの新刊書です。実は単著ではひさしぶりですが、今年商事法務から出版された「コンプライアンス・内部統制ハンドブックⅡ」の共著者でもあり、この「ハンドブックⅡ」は隠れた名著だと思います(けっして従来から出版されていた「ハンドブック」の改訂版ではなく、斬新な視点から「ハンドブック」をさらに展開しているところが秀逸です)。

ぜひ経営者の方々にこの国廣本を読んでいただき、コンプライアンス経営への認識を改めていただきたい。私が最も共感しているのは、帯にも記載されていますが、コンプライアンスを前向きに捉えるための「ストーリー」が必要ということです。おそらく国廣さんが関与した事件だと思いますが、うまく初動対応できた会社が匿名で紹介されていて、このストーリーによって役職員の気持ちが変わる(当然、不祥事対応という形で行動も変わる)実例が3つほど掲載されています。これは私もふだんの仕事に参考にさせていただきたいと思いました。しかし「これでもか」というほど、国廣さんがご自身で関与した事例の分析が紹介されているので、解説の説得力がありますね。(やや上から目線で恐縮ですが)かなり国廣さんが頑張って書かれた一冊です。

上記竹内弁護士(プロアクト法律事務所さん)の本でも登場しますが、国広さんの本書でも「新時代のリスク管理を考えるにあたって」ということでコンダクト・リスクなる言葉が登場します。私も意味(リスクの内容)はよくわかっているつもりですが、なるほど最近はこのような言葉が使われているのですね。

私も単著本はちょうど2年前に出版して以来書いておりませんが、こういった企業不祥事関連の本を拝読すると「また書きたい」と意欲が湧いてきますね(このお忙しい方々が出版されているので「忙しい」は理由にならない。「時間は作るもの」ですよね)。

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