2020年6月 5日 (金)

公益通報者保護法改正法案に対する参議院附帯決議(案)

本日はかなりマニアックな備忘録です。公益通報者保護法の一部を改正する法律案(閣法第41号 衆議院送付)に対する参議院「地方創生及び消費者問題に関する特別委員会」における審議が終了し、法律案は了承されましたが、そこに附帯決議案が出されました。以下、私のメモ程度ではありますが、改正法の理解に大いに参考となるため、参議院における附帯決議(案)の内容を記載しておきます。なお、青字部分は衆議院の附帯決議には入っておらず、参議院の委員会独自の決議案です。

政府は本法の施行にあたり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである

1 本法の改正趣旨や各条項の解釈等について、現行の公益通報者保護法及び公益通報窓口とともに、労働者、退職者、役員、事業者、地方公共団体、関係行政機関等に十分周知徹底すること。周知にあたっては、公益通報者として保護される要件をわかりやすく解説するとともに、公益通報者保護法の認知度が低いことを踏まえて、認知度が上がらなかった要因を分析し、それを解消する工夫を図ること

2 内部通報制度に対する労働者等の信頼性を高め、かつ、内部通報制度の導入に向けた事業者のインセンティブの向上を図るため、第三者認証制度の創設も含め、内部通報制度認証のさらなる普及促進を図ること

3 役員による事業者外部に対する公益通報の保護要件として求められる調査是正措置について、役員による公益通報を過剰に抑制することがないよう、事業者内部における通報対象事実の是正可能性の有無、程度や、公益通報をした役員に対する不利益取扱の蓋然性に留意した調査是正措置の在り方に関する考え方を明らかにすること

4 本法に基づき、内閣総理大臣が定める指針において、内部通報体制整備義務の内容を定めるにあたっては、法令順守の促進の観点に加え、通報者への不利益取扱いの防止や通報者の氏名等の秘密の保持等、通報者保護の観点を明確化するほか、内部通報に関する具体的な記録の作成、保管等を通じて、各事業者における内部通報制度の利用状況や、通報者保護の状況を事後的に検証できる仕組みとするよう検討すること

5 中小企業者を含め、実効的な内部通報体制の整備が促進されるよう、事業者の業種、規模等に応じて、導入可能な内部通報体制の好事例の周知、業界団体等による共通窓口の設置支援等、効果的な普及促進に努めること

6 消費者庁は、内部通報体制整備義務の履行を徹底するため、消費者庁内部の人材育成、人員増強を行うとともに、将来的に不利益取扱いをした事業者に対する行政措置を十分に担うことができる体制を整えるため、外部の専門家の知見の活用も含め、組織的基盤の強化を図ること

7 消費者庁は、内部通報体制整備義務の履行に関する行政措置を行うにあたり、その円滑かつ確実な実施に向けて、関係行政機関の協力を得つつ運用すること

8 公益通報対応業務従事者が、守秘義務を確実に守りつつ、不安を感じることなく公益通報対応業務に臨めるよう、具体的な業務における留意事項等を定めたガイドラインを整備するとともに、必要な研修、教育を十分に行うこと

9 公益通報対応業務従事者の守秘義務が解除される正当な理由については、通報者が安心して通報できるよう、詳細に解釈を明らかにするほか、事業者がとるべき措置に関して、考え方を明らかにすること。また、通報対象事実の調査および、その是正に必要な措置等を講ずる過程における過失または周辺状況からの推測等により、通報者の氏名等が不要に漏らされることがないよう、調査およびその是正に必要な措置等の手法に関する好事例の収集、周知等を行い、適切な公益通報対応体制の整備の促進に努めること

10 行政機関における公益通報対応体制の整備義務の履行が徹底されるよう、小規模な地方公共団体における公益通報対応体制の在り方について検討を行い、必要な支援策を講ずること

11 通報しようとする者が、事前に相談する場が必要であることから、民間における通報相談を受け付ける窓口のさらなる充実に関し、 日本弁護士連合会等に協力を要請するとともに、国および地方の行政機関における通報相談の受付窓口の整備、充実に努めること

12 消費者庁に開設する一元的窓口において、通報者からの相談対応の一層の充実を図るとともに、通報者への十分な支援を行うこと。また、行政機関が不適切な通報対応を行ってきた事例が生じたことに鑑み、通報者から行政機関における通報対応に関する意見、苦情を受けた際は、適切な対応を求めること

13 本法附則第5条に基づく検討にあたっては、行政処分等を含む不利益取扱いに対する行政措置、刑事罰の導入、立証責任の緩和、退職者の期間制限の在り方、通報対象事実の範囲、取引先等事業者による通報、証拠資料の収集、持ち出し行為に対する不利益取扱い等について、諸外国における公益通報者保護に関する法制度の内容および運用の実態を踏まえつつ検討を加え、その結果に基づいて、必要な措置を講ずること

以上

改正法施行3年後の見直しに向けて、多くの課題があることが附帯決議案から浮かび上がります。いよいよ施行から14年ぶりの改正が目前となりました。とりわけ従業員300名超の事業者の皆様、法律の性格が大きく変わりますので(2年の猶予はありますが)改正法案にはぜひ注目していただきたいと思います。

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監査等委員会の「抜かずの宝刀」ついに抜かれる!-天馬社の株主総会人事案に意見陳述権行使

公益通報者保護法の改正法案が、いよいよ6月3日から参議院で審議入りとなり、同日に開催された委員会では参考人意見陳述と質疑が行われました。2時間20分の審議を中継で拝見しましたので、また来週にでもその感想を述べたいと思います。

さて、本日(6月4日)のベトナム系ニュースによりますと、天馬社の外国公務員贈賄事件について、ベトナム当局が遂に動き出したことが報じられています(日本側に情報提供を要請している、とのこと)。日本における捜査当局の動きは不明ですが、株主総会を目前にして、経営陣の皆様は本当に厳しい状況と拝察いたします。

そして「厳しい状況」といえば、天馬社の経営陣にとっては、支配権争いを繰り広げる大株主(創業家元名誉会長側)との関係も厳しさを増しております。本日、大株主側のHP(天馬のガバナンス向上を考える会)に、天馬株式会社の監査等委員会による報道発表資料が開示されました。その後、深夜には会社側から「当社監査等委員会に関する一部報道について」と題するリリースが出され、意見陳述権を行使した当社監査等委員会の行動には中立性・公正性に疑義がある、との主張が示されました(こちらもぜひ参考にしていただきたく)。

なるほど、6月2日付けの監査等委員会による報道機関向けのリリースがメディアに投げ込まれていたことから、日経新聞の報道が先行していたわけですね(誰かが秘密裏に情報を記者にリークしていたのかと思っておりました)。しかし監査等委員会が報道機関向けに資料を提供する、というのはかなり異例です。おそらく会社側の開示姿勢に疑問を抱いておられたのではないかと。

上記資料(会社側リリースを含めて)を読みましたが、先週木曜日(5月27日)のエントリー「天馬社の経営権紛争-注目される監査等委員会の動向」で予想していたとおり、天馬社の監査等委員会(取締役監査等委員3名で構成)は、6月の定時株主総会に現経営陣(会社側)から上程される取締役選任議案に対して、創業家出身者を含む候補者3名の「選任は不適切」とする意見(意見の内容の概要)を示しました(会社法342条の2第4項、会社法施行規則74条1項3号。なお、陳述については、監査等委員会が選定する監査等委員が株主総会にて行うことになります)。

6月3日の日経新聞朝刊記事でも報じておりましたが、1000社を超える上場会社の監査等委員会が、会社側取締役選任議案において「会社側が推薦する取締役候補者は不適切」とする意見を陳述するケースは初めてであります。まさに「抜かずの宝刀」が遂に抜かれましたね。監査等委員会のリリースを読みますと、監査等委員会が「不適切」とする意見と並べて、取締役会側の意見(監査等委員会の意見への反論)も詳細に開示されていることが注目されます。監査等委員会が「一枚岩」ではないこともリアルに開示されています(3名のうち1名の監査等委員は意見陳述に反対意見)。

しかしファンドさんが現経営陣側に与しているとはいえ、会社側が深夜に開示したリリース内容を読みますと、現経営陣としては、社外の敵対する大株主だけでなく、社内の監査等委員会の動きにも配慮しないといけない、というのは、たいへんな状況です。取締役会側からも「監査等委員会は中立・公正な立場で意見を述べておらず、極めて遺憾である」とのリリースが出され、その根拠事実も示されていますので、あまり事実関係の真偽には踏み込まず、監査等委員会制度に関心のある者として、以下の点だけコメントさせていただきます。

まず「監査等委員会」というのは指名委員会等設置会社に準じた機関形態である、という「会社法の建付け」から、本当は「絶大なる権限を持っている」という点です(たぶん1000社を超える上場会社の経営者の方々は、そういったことを知らずに移行しているものと思います)。さらに、監査役制度と異なり、組織的監査が原則なので、今回のように2:1で意見が分かれてしまった場合には、その少数側の監査等委員の意見はどこにも反映されない、ということになります。したがって会社が有事に至った場合の監査等委員会の行動を止めることは、かなりむずかしい。つまり取締役会からすれば「けしからん」と言えるかもしれませんが、いっぽうで監査等委員会からも「取締役会はけしからん」と堂々と言えることになります。監査等委員会からすれば、取締役会から「君たちの委員会活動を報告しろ」と言われても、「は?そっちから我々の権限行使のために報告しろよ」と反論できるわけです。

以前、こちらのエントリーにてご紹介した神田秀樹先生のご論文(「会社法・金商法 随想-立法事実からみる、近況・課題その1-上場会社の期間設計と監査等委員会設置会社」判例時報2020年1月11日号 №2425号 4頁)でも述べられているとおり、実は取締役会の妥当性監督、妥当性監査の権限と、監査等委員会の妥当性監督、妥当性監査の権限の振り分けというのはよくわかっていないし、これまでもあまり整理して議論されてきませんでした。本件では取締役会の意見と監査等委員会の意見が真っ向からぶつかった実例であり、こういった議論を真剣にしなければならないことがわかります(なお、最新の神田秀樹著「会社法(22版)」267頁以下でも、取締役会と監査等委員会との権限の割り振りに関する問題-難問?が解説されています)。

日ごろは監査等委員会の経営評価機能(取締役人事や報酬に対する意見陳述権)はそれほど目立たないものの、このたびの天馬社のように「まさに会社が有事の場面」であれば、監査等委員会は前面に出る必要があると思いますし、むしろ意見陳述権を行使することが監査等委員である取締役の善管注意義務の実践場面だと(私的には)考えております(監査等委員会設置会社に任意の指名・報酬諮問委員会が存在する場合には、もっと複雑なことになりますが、とりあえずこれは私個人の見解です)。指名委員会等設置会社の場合は、指名委員会しか役員指名権を持たないわけで、これに準ずる立場にあるとすれば、かなり取締役会に対してモノが言えると考えるべきでしょう。

なお、本事例においては、監査等委員会の意見陳述権ばかりが注目されているように思われるかもしれませんが、天馬社の監査等委員会は、意見陳述権のほかに、取締役の責任追及委員会を設置し、さらには会社法344条の2第2項に基づき、監査等委員である新任の取締役選任議案を(取締役会に請求したうえで)上程している点にも注目したいところです。同社の監査等委員会は、会社法が監査等委員会に期待しているところを、そのまま実施している点において評価できますし、他社の監査等委員会を構成する取締役の皆様にも(会社の有事には、ここまでやるべきではないか・・・という意味において)参考になるのではないかと。

さて、このような監査等委員会の活発な活動、および大株主・会社双方の主張を前にして、今度は天馬社の株式を保有する機関投資家の方々の動向が注目されます。ご承知のとおり、今年3月にスチュワードシップ・コードの再改訂版が施行され、金融庁のHPを確認しますと、すでに多くの機関投資家が、当該再改訂版を遵守することを宣言しています(宣言期限は9月末まで)。ということは、会社側、大株主側どちらの取締役候補者にマルをつけるのか、その結果だけでなく判断理由まで開示されることになります(もちろん、機関投資家は、議決権行使場面のすべてにおいて理由を開示するわけではありませんが、これだけ注目される案件なので、間違いなく判断理由は開示されるでしょう)。

国内外の大手機関投資家の場合、短期的な利益よりも責任投資、つまり中長期の持続性を重視して議決権行使に及ぶことが考えられますが、いったいどのような事実を重視して、どのような判断基準に基づいて賛否を決定するのか、今後の責任投資の在り方を占ううえでも大きな試金石になる予感がします。自動車メーカーのグローバル展開には欠かせない商品を製造する天馬社なので、おそらく国内需要よりも海外需要に今後の業績は依存することになるはずですから、海外展開する企業として、何が不可欠なのか、ぜひ多くの機関投資家の判断理由を聞いてみたいものです。

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2020年6月 4日 (木)

「新型コロナウイルス影響下の法務対応」に論稿を掲載いたしました。

Img_20200528_220859_400 本日(6月3日)の日経朝刊に「会社の取締役案『不適切』 天馬の監査等委、総会で」との見出しで、天馬社の監査等委員会が意見陳述権を行使する見込みであることが報じられていました。先日のこちらのエントリーで予想していたことが現実になりましたね(私は本件には何ら関わっておりません。念のため)。ただ、本件については会社側から未だリリースがありませんので(株主総会の招集通知も開示されていないので)、内容が判明した時点で、また当ブログで取り上げたいと思います。

さて、本日は書籍のご紹介です。今週月曜日の日経朝刊1面にも広告が掲載されておりましたが、中央経済社ビジネス法務の別冊「新型コロナウイルス影響下の法務対応」におきまして、「在宅勤務制度におけるコンプライアンス上の留意点」なる論稿を掲載いただきました。14,000字程度の論稿ですが、なかなかコンプライアンスの視点からの執筆は苦労いたしました。内容を一口でご紹介しますと、

新型コロナウイルス禍において、事業者に対しては感染予防対策の一環として「従業員の出勤削減」「在宅勤務制度」への協力が求められている。特に、テレワークを中心とした在宅勤務制度の導入は喫緊の課題である。平時から「働き方改革」の一環として在宅勤務制度に取り組む企業のレベルとは別に、有事における在宅勤務制度の導入を検討している事業者を念頭に、①在宅勤務制度の導入時、②在宅勤務制度の運用時、そして③問題が発生した場合の危機管理時に分けて、事業者のコンプライアンス上の問題点を指摘し、対策を検討する

というものです。原稿の締め切りが4月20日ということで、4月下旬の状況を念頭に書かれたものであることをご容赦ください。「コンプライアンスの視点」として、在宅勤務制度をテーマにしたことは「当たり」でしたが、お読みになった方はおわかりのとおり、在宅勤務制度は弥縫策であり、コロナ禍終息後まで本格化しないのではないか・・・といった予想のもとに語っているところがありますので、そこは若干予想がはずれてしまいました(言い訳にすぎませんが)。こんなにテレワークが本格的に実施されるとは、正直予想しておりませんでした。有事の際に、有事のテーマを語るむずかしさを痛感いたしました。

ちなみに、サントリーホールディングス法務部長さんの「企業法務全般」から始まり、まさに有事における企業法務問題への対応を10名の執筆者がカバーする、というものであり、たいへん良く売れているそうです(6月2日の楽天ブックス「ビジネス・経済」で第3位)。

なお、中央経済社としては、書籍とともにこちらの出版社のHPからであれば「電子書籍版」を購入することも可能です(中央経済社としては、こちらの電子書籍と紙の本を同時に出版するのは本書が初めてだそうです)。まだまだコロナ終息までは時間がかかりそうなので、(私の執筆部分はともかく)ご参考にされてはいかがでしょうか。

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2020年6月 2日 (火)

6月定時株主総会-株主の出席を制限することへの(さらなる)素朴な疑問

先週金曜日(5月29日)は、6月の定時株主総会を完全延期する上場会社が急増しましたね(合計8社が7月以降に完全延期、そのうち3社が配当基準日も変更を決定)。6月に入りましたが、決算発表を延期した企業を中心に、まだまだ完全延期に踏み切る上場会社が増えそうな予感がいたします。

さて、本日(6月1日)の日経朝刊や最新の週刊東洋経済(6月6日号)などでは「バーチャル総会への関心が高い」「株主総会のオンライン化が進む」といった特集記事が出されており、有事における6月総会の話題はまだまだ関心が高いことがうかがわれます。厳密に考えるならば、コロナ禍における株主総会の簡素化の適法性問題とバーチャル株主総会の適法性の問題とは別個の問題であります(この点、メディアの解説は、やや混同されているように見受けられます)。ただ、おそらくコロナ禍における緊急避難的な定時株主総会の開催が、今後の「バーチャル株主総会」の実施に向けて「大きな契機」となることは間違いないでしょう。

6月の定時株主総会は完全延期すべき、とする立場の私としては、定時株主総会の簡素化について「伊藤忠商事の定時株主「出席自粛要請・役員のみ開催」総会に関する素朴な疑問」なるエントリーで素朴な疑問を述べたところです。さらに、経産省Q&A指針に従う形で、5月28日にはエイベックス社が「当社役員のみで開催する定時株主総会」について、伊藤忠社とほぼ同様のリリースを出しました。役員自身も株主のケースが多いので「株主ゼロ総会」とは言いませんが、少なくとも「一般株主の参加を予定しない定時株主総会」を開催する上場会社は、「株主の皆様の健康配慮を最優先と考えて」今後も増えるものと推察いたします。

この「株主総会の簡素化問題」については、5月中旬以降、著名な学者の方々や総会実務に詳しい法律実務家の方々の論稿、座談会記事等が多数出されておりますので、可能な限り拝読するようにしているのですが、やはり私としては(考えれば考えるほど)素朴な疑問を払しょくできません。有事の問題(コロナ禍という緊急避難的な状況だからこそ適法とする視点)であれ、平時の問題(そもそもコロナ禍でなくとも、バーチャル総会を可能とする視点)であれ、一般株主の総会出席を制限できる根拠、というものは理解できますし、議論する実益もあると思います。

しかし「一般株主の入場を一切認めない定時株主総会」については、なぜ違法ではないのか、私には理解できません。たとえば現実出席を認めない代わりに議決権の事前行使(書面投票制度、電子投票制度)が推奨されるわけですが、電子投票制度の採用は、各社とも(総会ごとに)取締役会で決めることになっています(書面投票制度については、上場会社の場合は会社法で強制されることになります)。この電子投票制度について、神田先生(学習院大学教授、東大名誉教授)の基本書を読みますと

株主の承諾がなくても取締役会決議で総会ごとに電子投票制度の採用を決めることができる。その理由は、株主は常に株主総会に出席する機会が確保されているからである。・・(中略)・・・なお、そのような会社(注 議決権を行使できる株主が1000人以上存在する会社)以外の会社が書面投票制度を採用する場合も、同様に取締役会決議で決めることができるが、その理由も同様である(文中の傍線ならびに注書きは筆者作成)

と解説されています(「会社法<22版>」神田秀樹著 201頁)。つまり、株主が(定時株主総会に)出席しようと思えば現実に出席する道が確保されているからこそ、書面投票制度や電子投票制度が取締役会決議によって導入できるわけです。ということは、そもそも株主の出席を認めない株主総会を開催するのであれば、たとえ緊急時の定時株主総会であったとしても、書面投票制度やインターネット投票制度は使えない、ということになりそうです。

書面投票制度や電子投票制度の実務からみても、たとえば書面投票を行った株主が、現実に出席をしたり、誰かに委任状を交付した場合の取り扱い(現実出席した場合には、その時点で書面投票は無効とされる)や、書面投票と電子投票を重複して行使した場合の取り扱い(定款に定めがある場合には、当該定款に沿った取り扱いを行う)に関する慣行や通説がみられます。こういった実務慣行や通説に従うならば、株主総会における事前の承諾や事後における総会参与権限の確保があって、はじめて事前の議決権行使(書面投票制度、電子投票制度)に関する取締役会決議の有効性が是認できることになります。

経産省Q&Aなどは、「出席を一切認めない株主総会も(議決権の事前行使の機会を確保することで)可能」とされていますが、このあたりの理屈はどうクリアになっているのでしょうか。私としては、「一般株主の出席は認めない」とは記載されていなくても、「一切認めない」ように読める書きぶりであれば、それだけでも会社法違反の可能性が出てくるのではないかと考えます。そして、当該瑕疵については、裁量棄却の法理や権利濫用の法理といった「株主総会の効率的な運用」を重視した考え方では払しょくできないものではないかと考えます。

毎度申し上げますとおり、株主総会の決議の効力を判断するにあたり、会社運営の効率性を図ること(裁量棄却や権利濫用制限法理)と、株主の総会参与権を保障することとのバランスをどこで図るべきか、という視点で検討しなければならないことは、私自身も心得ております。しかし、前回5月18日のエントリーで述べたように「株主総会における立憲主義と民主主義」の発想で考えた場合には、たとえ平時におけるバーチャル株主総会の在り方を検討する場面においても、また有事における緊急避難的総会の在り方を検討する場面においても、多数決原理の根本を支える株主権(公益権と自益権)は例外なく保障される必要があると考えます。

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2020年5月28日 (木)

天馬社の経営権紛争-注目される監査等委員会の動向

5月27日の日経ニュースでも取り上げられていましたが、プラスチック成型大手の天馬社の(株主総会を前にした)経営権争いが厳しさを増しているようです。当ブログでは、当初は天馬社の外国公務員贈賄事件に注目しておりましたが、どうも(このたびの海外贈賄事件については)従前からの創業家間における経営権争いが表面化する契機となった意味のほうが大きかったようです。

27日は会社側、大株主側双方からリリースが出ていますが、私的に注目したのは大株主側(前名誉会長側)の立ち上げたHP「天馬のガバナンス向上を考える会」のリリース内容です。海外贈賄の事実を知った経営陣が、会社対応を協議する場に監査等委員である取締役らを除外していたという事実が読売新聞で報じられ、私的にはとても悲しい気分になりました。

しかし、その監査等委員会は「取締役責任追及委員会」を設置していたのですね(資料4シート参照)。3名の監査等委員の方々が創業家出身者を含めた取締役の責任追及に動くとは。。。うーん、これは驚きました(といいますか、こんな重大な事実については適時開示の対象にならないのでしょうかね?実務の詳しいところは存じ上げないのですが・・)。

ひょっとすると、これだけ監査等委員会に独立性、中立性があるからこそ、不祥事対応の場面で疎外されていたのかもしれません(勝手な推測ですが)。しかし天馬社が定時株主総会を控えて、現経営陣および大株主のいずれの側からも取締役選任議案が上程されているわけですから、監査等委員会として、さらに果たすべき職責があるはずです。そうです、平成26年会社法改正以来「抜かずの宝刀」とされてきた監査等委員会の経営評価機能の発揮であります。具体的には会社法342条の2、第4項に基づく取締役選任議案に対する意見陳述権の行使です。

ちなみに、会社法342条の2、第4項の条文とは、

監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任若しくは解任又は辞任について監査等委員会の意見を述べることができる。

というものでして、監査等委員会設置会社には指名委員会、報酬委員会が設置できないので、そのかわりに(指名委員会等設置会社における委員会に準ずる役割を果たすために)監査等委員会が取締役の人事議案や報酬議案に関する意見を形成し、意見があればこれを株主総会において陳述する権利があることを規定しています。

なお、平成26年改正会社法制定当時の立案担当者(法務省大臣官房参事官)の方の解説によれば、

・・・そして、監査等委員会が選定する監査等委員が、株主総会において業務執行者を含む取締役の人事についての監査等委員会の意見を述べることによって、監査等委員会の意見が広く株主に知らされ、株主による議決権行使に影響を与え、株主総会における業務執行者を含む取締役の選解任および報酬等の決定を通じた株主による監督も実効的に行われることになります

とのこと(坂本三郎編著「一問一答平成26年改正会社法」42頁)。そしてこの趣旨を受けて、会社法施行規則74条1項3号により、監査等委員会の意見の内容(正確には「意見の概要」)は、株主総会参考書類において開示されることになっています。

大株主と現経営陣との間で経営権紛争が表面化した以上、一般の株主にとってはまさに監査等委員会の意見を聴取したい場面です。少なくとも、社内の業務執行を担当してきた会社側提案の取締役候補者については、選任されることが妥当かどうか、監査等委員会としては意見を陳述すべきではないでしょうか。もちろん「意見陳述権」なので、監査等委員会から選定された監査等委員は意見を述べる法的な義務はありません。ただ、こういった場面のためにこそ、監査等委員会には経営評価機能を果たすことが期待されているわけでして、今後の天馬社における監査等委員会の動向には注目が集まるものと思われます。

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2020年5月27日 (水)

有事の定時株主総会-監査役(監査等委員)は「重要な後発事象」に配慮しているか?

(27日午前 追記あり)

私の本意ではありませんが、多くの上場会社が(予定どおり?)本年6月に定時株主総会を開催する予定のようです。そのような上場会社の場合、ちょうど今頃の監査役、監査等委員の皆様方にとりましては、会計監査人から監査報告の通知を受領して、期末監査の報告会を行い、監査役、監査役会、監査等委員会としての監査意見を形成する時期であります(さらには、監査意見を取締役会に報告する時期でもあります)。

何度も申し上げておりますとおり、(予定どおりに定時株主総会を開催するのであれば)会計監査にも、監査役監査にも(十分な監査資源が投入できないという)不安が残ります。このような有事における株主総会を前にして、監査役(監査等委員)の方々にご留意いただきたいのが監査報告に関する有事特有の内容です。具体的には会社計算規則127条、同128条に規定された「重要な後発事象」に関する記載であります。

上場会社においても、監査役(会)は会計監査の職責を負うわけですが、公認会計士という専門職の「会計監査人」が存在しますので、会計監査人の監査の方法及び内容の相当性を判断すれば足りる、というのが平時の会計監査の姿です。会計監査人は会計専門職が担当しており、監査役さんは(期中において)当該会計監査人と十分なコミュニケーションを図っていますので、あとは業務監査(会381条)と書面監査(同384条)に注力すればよい、というところです。

しかしながら、今年はコロナ・ショック、つまり有事における定時株主総会です。業績を伸ばしている企業もありますが、多くの企業の決算発表で示されているとおり、経営状況の悪化を回避できないまま株主総会に突入します。したがって、会社債権者や株主の方々は、計算書類や財務報告にはどこまでコロナ・ショックの影響が織り込まれているのか、そもそもそれらの書類は本当に信用できるものなのかどうか、高い関心を寄せることになり、当然のことながら開示情報をもとに、財務関連書類の信用性の高さを探ろうとします。

そこで、コロナ・ショックが当年度決算及び翌事業年度の決算にどのような影響を及ぼすのか、ステークホルダーが開示情報から把握することに有用なのが監査報告における「重要な後発事象」に関する記載です。決算日以後に生じた会計事象が今期もしくは翌期に適切に反映されるように、きちんと注記されているか(もしくは今期業績に織り込まれているか)会計監査人がチェックを行い、会計監査人自身が「重要な後発事象」を記載することが可能です(会社計算規則126条2項)。

会社法監査と金商法監査の役割分担ということで、どちらかというと会社法監査は「(書類が適正に作成されていることの)保証機能」が重視されがちですが、「後発事象」に関する記述は(本来は金商法監査が負うべき)「情報提供機能」としての役割を担うものといえます。金商法監査の結果は実務上株主総会の後に出てくるので、会社法監査の結果にも情報提供機能を果たしてもらわないといけない、というところです。

ただ、当ブログ5月12日付けエントリー「株主の出席を禁止してでも6月総会実施?-定時総会は(やはり)完全延期すべき」でも述べましたが、私の予想に反して、決算短信の注記には(コロナ・ショックによる業績への影響について)「重要な後発事象」への記載はほとんど見られませんでした。事業上のリスクとして、翌事業年度へのコロナ・ショックの影響に関する記述はみられるものの、結局は「コロナ・ショックの影響がそもそも重要性があるかどうかすらわからない」というのがホンネだったと思われますし、会計監査人もこれをやむをえないと判断しているものと推測されます。したがって、会計監査人による監査報告には「重要な後発事象」は記載されないことが予想されます。

ところで、計算書類への会計監査人による意見が監査役(監査役会)に通知されてから監査役監査意見の形成(決算承認取締役会)に至るまで、およそ3週間ほどの期間が経過します。3月期末日には、まだコロナ・ショックの影響がどこまで業績に及ぶのか判明していなかった上場会社も、すでに2カ月弱が経過して、そろそろ業績への影響も判明してくる頃ではないでしょうか。そこで有事の監査役監査として問題となるのが会計監査人設置会社における監査役(会)の監査報告の中身です。上場会社の監査役(監査等委員の場合は「監査等委員会」)は、(会計監査人による監査報告に「重要な後発事象」が記載されていない場合には)重要な後発事象の内容を監査役等の監査報告として記載することになります(会社計算規則114条、127条、128条、128条の2)。

具体的には、会計監査人が監査報告の内容を監査役や監査等委員会に通知し、監査役等がその監査報告の内容を取締役に通知するまでの間に生じた「重要な」後発事象については、監査役等の監査報告において報告されます。先に述べた通り、会計監査人がチェックをしている決算短信では、ほとんど後発事象が記載されていないので、(短信は監査の対象ではありませんが)計算書類に対する会計監査人の監査報告(会社計算規則126条)にも「後発事象」に関する記載がないものが増える可能性があります。※

※・・・(27日午前 追記)当該記載につきましては「名無しさん」から「私の思い違いである」として意見をいただきました(ありがとうございます)。記載の一部を修正したうえで、名無しさんからご指摘を受けた点について、ミスリーディングのないよう、ご意見部分を引用させていただきます。

監査人は決算短信の数値について大きな誤りがないかどうかといったレベルでの数値確認は行っていますが、何も保証は与えていません(短信にもそのように記載されています)。後発事象や追加情報、GCに関する記載内容も計算書類監査終了までに表現が変更になることは多々あります。増資しましたといった事実のみの後発事象であれば、記載内容の修正は生じませんが、将来見積に係る記載ですので、短信にこのように記載したからもう直さないという会社の主張に対しては、監査人は相当に抵抗するはずです。会計士協会やASBJから将来見積に関する仮定への影響については、積極的に開示するように発信されていますので、監査人も記載内容について慎重に検討を行っています。なお、コロナの将来見込に対する影響、仮定については「追加情報」として記載される場合も多くなります。(引用おわり)

そこで「では(会計監査人を監督する立場にある)監査役、監査等委員からみて、御社の今期もしくは翌期の業績に対するコロナの影響はどうなのか」と関心が向くわけです。債権者や株主にとっては情報収集のための重要な機会となります。監査役の場合には、独任制ですから、常勤監査役、社外監査役において「重要な後発事象」の判断が異なる可能性もあります(その場合には、監査役会監査報告に個別意見が付されることになります)。

当社業績に対するコロナ・ショックの影響が判明してきたので、今期の会計監査の修正を求めるべきなのか(会計監査人に対して監査のやり直しや限定付意見を求めるべきか)、それとも翌期の決算に影響を及ぼすものとして後発事象を報告すべきなのか、あるいは(やはり?)「後発事象」は認めるものの、業績に影響を及ぼすほどの「重要性」があるかどうか未だ不明なので記述は控える、とすべきなのか、監査役(監査等委員)が個別判断もしくは協議(監査等委員会の場合は決議)をしておかなければ、監査役、監査等委員の方々は善管注意義務違反に問われることになります。また重要な後発事象があるにもかかわらず、あえて何らの記載もしないとなれば、当該監査役等の方々は会社法976条6号(株主総会に対する監査役等の虚偽申述)によって過料に処せられる可能性もあります。

したがって定時株主総会において株主から質問を受けた監査役等の方々は、「重要な後発事象の有無、およびそのように判断した理由」について、口頭であっても説明義務が生じます。例年とは全く異なる「有事の6月定時株主総会」を実施する上場会社の監査役、監査等委員の皆様には、監査報告のご準備も含めて、この点十分にご留意いただいたほうがよろしいかと思われます。

なお、会計監査人による監査報告の通知前に、すでに生じていた「後発事象」で、会計監査人が看過したゆえに、その監査報告に記載されていないものについても、監査役監査報告で補充してよいものと解されていますので(「会社法コンメンタール10」216頁片木教授の解説参照)、監査役等の皆様は、会計監査人と意見が相反してでも真剣に検討すべき事項であることを理解しておかれるべきと考えます。

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2020年5月25日 (月)

緊急事態宣言解除後の6月定時株主総会は(やはり)完全延期すべきである

5月22日、経産省は「株主の皆様へのお願い -定時株主総会における感染拡大防止策について-」として、6月に予定されている上場会社の株主総会に参加される予定の株主の皆様へ向けて「呼びかけ」を行っています。とくに株主総会の会場への来場については

企業では、株主総会の開催に当たって様々な感染拡大防止策を講じていますが、多数の株主が会場へ来場した場合、結果として3つの密(密閉・密集・密接)が生じてしまう懸念があります。このため、御自身を含む来場株主の健康への影響等を十分考慮いただき、原則会場への来場はお控えいただくようお願いいたします。

として、出席自粛を呼び掛けています。株主の健康への影響を考えた場合、経産省がこのような呼び掛けをされるのは適切と考えます。しかし、株主に出席自粛を呼びかけるほど6月に総会を開催することが危険なのであれば、そもそも会社側には延期を呼び掛けるのが当然ではないでしょうか。

5月25日には緊急事態宣言が首都圏でも解除される予定ですが、全面解除後の政府の「基本的対処方針」原案によれば、(事業者に対しては)職場への出勤について、在宅勤務や時差出勤など、人との接触を減らす取り組みを続けるよう、今後も求めるそうです(NHKニュースはこちらです)。もし6月総会をそのまま実施するとなれば、これから関係社員や機関投資家、印刷会社、証券市場の関係者、さらには有報監査に向けた会計監査人の勤務状況は繁忙を極めるわけです。もし、緊急事態宣言後の基本的対処方針を遵守して、総会関係者の健康への影響は考慮するのであれば、6月総会は完全に延期すべきでしょう。

また、延期したとしても、いつまでコロナ禍が続くかわからない、といった意見も出ていましたが、東京都が5月22日に公表した「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」によれば、段階的ではありますが、100名から1000名のイベント開催も(モニタリング指標に従って)段階的に容認される見込みが示されています。もちろん「第二波」が生じないこと、事業者や株主が基本的な感染防止対策を怠らないことが前提ではありますが、総会を延期することによって、株主および総会関係者いずれの健康にも配慮した株主総会を開催する可能性が高まります。もはや完全延期のための条件はほぼ出揃ったものと考えます。このような状況であるにもかかわらず、なにゆえ「出席自粛」などといったイレギュラーな形をとってでも6月に総会を開催しなければならないのか、本当に理解が困難です。

「イレギュラーな状況での6月総会」という意味では、コロナ禍という緊迫した事態において、簡素化した総会を6月に開催することも、また7月以降に総会を延期することも同じです。ただ、「意味」の内容は大きく異なります。株主に示した配当の基本方針を守るために「つつがなく総会を終わらせる」こと、株主には議決権の事前行使を保障することが重要と捉えるのか、総会を取り巻くステイクホルダーの健康を重視し、また会計監査の役割を重視するために、短期的利益を喪失させることは申し訳ないれども、長期的利益を重視して経営したいというメッセージを示すことを重要と捉えるのか、という違いがあります。

5月24日のNHKスペシャルに、700兆円の運用を誇るブラックロックの日本法人代表の方が出演されていましたが「我々はコロナ禍でも変化できる企業、変化に強い企業を見極めたい」と述べておられました。コロナ・ショックにおいてビジネスモデルをどう変えていくのか、提供する商品やサービスに、「どのように役に立つのか」だけでなく「どんな意味を持たせるのか」という点へのメッセージにこそ注目しています。私は、株主総会ひとつとっても、その株主総会の運用にどのようなメッセージがあるのか、株主を含めたステイクホルダーに示す機会と捉えるべきではないか、と考えます。

かつての「上場会社の株主総会」といえば、総務担当者や法務担当者が主導して「つつがなく終わらせる」ことがなにより大切だったわけですが、私はもはや時代が変わった、株主総会は広報担当者や社外の広報コミュニケーション事業者と総務・法務部門との協働作業が必要になってきたのではないか、と考えております。とりわけ提訴リスクが極めて低い日本の上場会社の場合には、(バーチャル株主総会の実施も含めて)株主総会の在り方も、おおいに議論すべき時期が到来しているのではないでしょうか。

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2020年5月22日 (金)

(速報版)公益通報者保護法改正案、全会一致で衆議院通過(参議院へ回付)

今国会に提出されておりました公益通報者保護法の一部を改正する法律案(内閣提出)について、本日衆議院本会議において全会一致で可決され、参議院に回付されました。今国会での成立は困難かも・・・と少しあきらめかけておりましたが、なんとか成立する見込みです。

産経ニュースによりますと、附帯決議として「内部通報の記録作成や保管など後に検証できる体制整備の検討など8項目を政府に求めた」そうです。事業者の内部統制システムの一環として、(従業員300名以上の事業者に対しては)内部通報制度の整備義務が法制化されますが、その整備義務の内容についてはおそらく施行日の6カ月前までには(政府から)指針として示されるはずです。その指針として示される骨子が附帯決議で明らかになっているのかもしれません。なお、事業者が整備義務を尽くしていたかどうか、という点は、様々な法律効果や裁判上の利益(不利益)と結びつきますので、改正法施行日(公布日から2年以内)前に内部統制システムの整備が不可欠です。

また、原案は消費者問題委員会の段階で一部修正されていたようで、

修正案は、施行後3年をめどに検討する事項として「裁判手続きにおける請求の取り扱い」も盛り込んだ。裁判となった場合に、立証責任を法人側に負わせることを念頭に置いている。

とのこと。つまり、公益通報者が通報によって会社から不利益処分を受けたと(裁判で)主張する場合、通報行為と不利益取り扱いの因果関係については通報者側が負担するのが原則ですが、この立証責任の負担を会社側に転換する、ということです。2010年の拙著、および消費者庁の委員会等で、私がずっと改正すべきと主張してきた点が、ようやく本格的に検討課題に上るようで、これは公益通報者保護制度の拡充、ひいては企業のコンプライアンス経営の推進にとって大きな前進です。

衆議院・参議院のHPで内容が判明次第、もう少しエントリーを補足したいと思います。とりいそぎ速報版のみ。

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監査役等による株主総会の適法性維持に関する職務執行について

毎年恒例となっておりました日本監査役協会の春期リスクマネジメント講座ですが、全国7回の開催が予定されておりましたところ、ご承知のとおり大阪の2講演のみ開催後に中止となりました。その講演では、(レジメをお持ちの方は参照いただきたいのですが)監査役、監査等委員は株主総会の手続きに問題が生じた場合に、何らかの対応をとれるのか(とる義務があるのか)、それとも傍観者にすぎないのか、というテーマで例題をお出ししておりました。

昨年、一昨年のアドバネクス社の株主総会では、大株主による動議、出席株主の行動と委任状の処理等の適法性が問題となりましたので、もし同様の事態において、出席株主から「そこに座っている監査役さんの意見はどうなの?」と質問されたらどうしますか?といった例題です。

ところで、そのような例題が参考になりそうな事案が相次いでいます。ひとつは乾汽船さんの4月30日付けリリース(監査役による臨時株主総会開催禁止の仮処分に関する和解のお知らせ)、そしてもうひとつが本日(5月21日)付けプロスペクトさんのリリースです(当社監査等委員による臨時株主総会開催禁止の仮処分申立てのお知らせ)。いずれも大株主と現経営陣との経営権争いが表面化した株主総会に関する事案であり、この6月総会においても参考になるところだと思います。実際の例では、諸々の背景事情があるはずですが、そこは捨象して、理屈の問題として考えてみたいと思います。

監査役、監査等委員において、会社が上程する議案を通じて総会の適法性をチェックする、というのであれば会社法上の根拠があるのですが(たとえば会社法384条、399条の5等)株主側の提出する議案(および参考書類)を通じて適法性をチェックする、というのは、おそらく「株主総会の決議取消に関する提訴権」(会社法831条1項、同828条2項1号)くらいしか根拠はないと思います。いずれにしても、監査役等は取締役の職務執行の監視・検証を職務としますが、これに付随する職務として、株主総会の手続きの適法性を審査する義務もある、と考えることができるのではないでしょうか。

そうしますと、冒頭の例題のような場面においても、監査役さんは「私は取締役の職務執行の適法性を判断するのが職責であり、総会運営権は社長である議長の専権。議長交代の動議が成立して議長が交代してしまえば、その議長による専権。よって私は意見を述べる立場にはない」と逃げ切れるかというと、そうもいかないのでは、と考えております。

昨日のエントリーでも、少しだけ頭出しをしましたが、そろそろ6月総会に向けた株主提案権の内容が公表されるようになり、今年も株主総会で経営権争いが繰り広げられる事案がいくつか出てきそうですね。そういった経営権争いが表面化した総会、不祥事が明るみに出た企業の総会では、さすがに株主総会の簡素化はむずかしいかもしれませんね。

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2020年5月21日 (木)

コロナ禍における有事株主総会に潜む「会計不正の芽」に注意せよ

当ブログで「これは他山の石として教訓にすべし」と、2度ほど取り上げた天馬社の件ですが、なんと6月の定時株主総会において注目の「お家騒動」が繰り広げられる見通しとなりましたね(東洋経済のニュースはこちらです)。このたびの同社の不祥事についても、やはりそれまでの経営権争いが色濃く影響していたのでしょうね。公表された資料や記事などをもう少し読んだうえで、またコメントしたいと思います(以下本題です)。

さて、(コメント欄でtyさんも指摘しておられましたが)本日(5月20日)のフジサンケイビジネスアイに「企業の株主総会 延期3%止まり」なる見出しで、令和2年5月19日付け一般社団法人信託協会の「『新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応』に係る要望書」の内容が紹介されていました。見出しのとおり、3月決算会社2400社のうち、6月定時株主総会を完全延期(基準日変更)する予定の会社は75社にすぎず、全体の3%程度であり、95%の企業は(継続会方式も含めて)6月に予定どおり定時株主総会を開催する、とのこと。

総会が簡素化され、また集中化されればされるほど、総会関係者の負荷が高まることも懸念されますが、私がもっとも懸念しているのが「監査の空洞化」です。大手監査法人の方々にお聞きしたところでは、期中監査の末期2カ月(3月、4月)と期末監査のほぼ全期(3月、4月、5月)については在宅勤務で監査作業が行われていたようです。また、内部統制監査の中心となる経営者とのコミュニケーション、経理・内部監査担当者との相談、監査法人内の社内審査等も原則として在宅勤務です。

その結果として、5月中旬に会社法監査を終了させた会計監査において、①国内外の子会社監査未了、②実地棚卸の立会率の低下、③取引先の残高確認の未了、④証憑確認(突合作業)のサンプル不足、そして⑤内部統制システムの運用評価未了といった問題が現実に発生しているようです。このような問題に直面しつつも、会計監査人は「特別な検討を要するリスク」を中心に、限られた時間内での監査手法に工夫をこらしながらリスクアプローチによって適正意見のための心証を形成しているのが現実ではないでしょうか。

今月号のFACTAでは、会計評論家の細野祐二氏が「無形固定資産(のれん)の減損処理がコロナ決算の最大の問題点」と述べておられますが、私も基本的に同じように考えております。要するに、コロナ禍における各上場会社の将来見積り自体は不明確なものは仕方がないと思うのです(おそらく、より正確な見積りについては、今後開示されていくものと期待します)。しかし、この「仕方がない」状況を利用(悪用?)して、過去の会計処理上の問題点を表面化させず、これが次第に大きな額となって、もはや隠蔽しかありえない状況になってしまうリスクを懸念しております。

「監査の空洞化が会計不正を招く」といっても、なにも大げさなことを申し上げているつもりはありません。というのも、私なりに、上場会社において「会計不正」が生じる、もしくは発覚する現実を見据えたうえで懸念を抱いているからです。

ちなみに、会計監査人が不正を発見する、というのは(かつてのNHKドラマ「監査法人」の主人公のように)、かっこよく被監査会社の倉庫から粉飾の証拠となる書類を見つけ出して経営者を糾弾する、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、何度か内部告発の代理人や第三者委員会委員として経験したところから申し上げるならば、そんな「不正発見」の場面に遭遇したことなどありません。水戸黄門や遠山の金さんのような会計監査人はたぶん存在しないと思います。なぜなら、会計不正問題というのは、シロとクロの間に、とても深いグレーゾーンが存在し、このグレーゾーンはシロにもクロにもなりうる領域だからです。どんなにAIが不正発見に有用な時代になったとしても、これは変わりません。

「とりあえず今年は重要性がないということにしておきますが、来年は修正が必要でしょうね」「これくらいの目標を達成しないと減損の対象になるのではないでしょうか、来年までの宿題にしておきましょう」「まあ、会社のほうで修正を認めていただけましたら、今年度の損失で済ませて、過年度決算の訂正までは必要ない、ということにしておきましょう」

といった具合に、会計監査人は「不正の芽」をひとつひとつ、会社側とのコミュニケーションの中でつぶしていくことが「会計監査人が不正を発見する」平均的な姿だと思うのです。これはとても地味な作業です。

そして、この6月総会で最大の問題は、会計監査人と経営者、監査役、もしくは経理責任者との間で、この「不正の芽をつぶしていくためのコミュニケーションの時間」がとれなかった、不十分であった、という点ではないかと。早い段階で「不正の芽」をつぶしておけば「粉飾」などと指摘されることもないわけですが、会計監査人が会社と協働して「つぶす」ことができないほどの金額的重要性が認識されるに至った場合には、もはや会計監査人も(原則に立ち返って)批判的立場を前面に出さざるを得ない、ということになります。

もちろん、日本公認会計士協会から「留意事項(2)」が公表されていますので、経営者の見積り、とりわけ減損会計や税効果会計(繰延税金資産)に関する処理については厳格な姿勢で監査はなされていると思います(したがって、とくに問題はない企業も多いはずです)。また、経営者確認書のドラフトには「新型コロナウイルス感染症の業績への影響にも慎重に配慮しました」といった項目を追加しているはずですから、会計監査人のリーガルリスクには一定の保険がかけられているものと思います。

ただ、そのようなリーガルリスク以前の問題として、やはり会計監査人も会社になかなか物言えない立場になってしまい、最終的には株主の損失が発生してしまうのではないか。そのような会社がいくつか出てきてしまうと、会計監査の信頼、ひいては証券市場の健全性維持にとってマイナスではないか、との懸念が生じます。やはり私は6月の定時株主総会は完全延期すべき、もしどうしても6月総会を開催するのであれば、計算書類、事業報告の品質確認が大前提、と考える次第です。

いつも長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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«伊藤忠商事の定時株主「出席自粛要請・役員のみ開催」総会に関する素朴な疑問