2019年12月10日 (火)

神奈川県文書情報漏えい問題-ブロードリンクの社長さんは辞めてはいけない

昨日のエントリーには多数のアクセスをいただきましたが、本日はやや短めの続編です。個人情報を含む大量の行政文書が記録された神奈川県庁のハードディスク(HDD)がネットオークションで転売された問題で、HDDの処理を請け負ったブロードリンクの社長さんが記者会見を開いたそうです。

同社の社内調査によると、逮捕された元社員が入社した2016年2月以降、同元社員がオークションに出品して落札されたものは7844個、このうち記憶媒体が3904個あったとのこと。ということは、もはや神奈川県だけでなく、ブロードリンク社が受託していた他の行政機関や民間会社の記憶媒体も多数含まれていた可能性があります。

同社に廃棄処分を委託していた組織(行政機関、民間団体)は、今後「うちの組織も同社に廃棄処分を委託しており、ブロード社と共同で調査したところ当組織が預かっております個人情報、具体的には「生年月日」「氏名」・・・の入った記憶媒体も転売されており、情報漏えいの可能性があります」と開示するのでしょうか? あくまでも「可能性」ではありますが、情報を漏えいされた個人の側で「自己防衛」できる余地がある以上、被害拡大防止義務が発生する組織も多いと思いますので対応に悩むかもしれませんね(皆様、どうされますでしょうか?)

気になるのは、記者会見をされた社長さんが「再発防止の対策を立てた後、辞任する意向を示した」ことです。しかし、昨日も申し上げましたように、このような不祥事は、今後も頻繁に起きるはずです(どんなに内部統制システムを構築してみても100%の防止は無理)。そのたびに社長さんが辞任してしまっては高いスキルをお持ちの経営者がいなくなってしまい、日本の大きな損失につながってしまうのではないでしょうか。

技術発展の段階において、情報漏えい事件は「許された危険」として社会的に認知される時代が到来するかもしれません。たとえば原発には廃炉の優秀な技術者が不可欠であることと同じく、ビッグテータの集積には収集したデータを安全に始末する優秀な技術者も不可欠です(全部物理的に破損させる、という手法を選択するのであれば別ですが)。そして、そのような技術は、データ管理も含めてトライアル&エラーによって無形資産化していくしか方法はないわけで、「失敗すれば辞任」では、いつまでもAIの発展に不可欠な無形資産が形成されないままになってしまうと思います。

私が役員を務めております大阪メトロは、日本で初めての顔認証改札システムを稼働させました(朝日新聞ニュースはこちらです)。5年ほど前のJR東日本、JR西日本の失敗を参考に、記事にもあるように「メトロ社員を対象とした実証実験」から始めます。慎重を期しての船出ですが、実用化されればまた新たなリスクが顕在化することが予想されます。恥ずかしい失敗もあるかもしれませんが、それでも、乗客の方々の利便性や安全性確保のためには実用化は不可欠だと思います。

ブロードリンクの件については、もちろん従業員管理に杜撰な点があったとすれば、責められるべきですし、再発防止のための施策を講じなければならないわけですが、失敗を次に活かす(敗者復活を許容する)風土がなければ、最終的には我々国民(消費者)が大きな損失を被る社会になってしまうように思います。

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2019年12月 9日 (月)

神奈川県文書情報漏えい問題-人は知らないほうが幸せなこともある?

先週金曜日(12月6日)の朝日新聞のスクープ記事に驚いたことは先週書きましたが、その後、廃棄HDDをヤフオクで転売したブロードリンク社の社員は解雇処分となり、逮捕されました。本事件は間違いなく、今年最大の企業不祥事だと思います。

私の事務所もたくさんの保存文書を一定期間経過後に廃棄していますが、かならず溶解処分を行います。といっても、私が溶解の現場に立ち会うわけではなく、専門業者の「溶解証明書」を受領することによって廃棄処分を終えた、としています(たしか裁判所は職員の方が溶解の現場を確認している、と聞いたことがあります)。つまり、「溶解証明書」を発行したとしながら、重要文書を保存されてしまうリスクは必ずあるわけで、もうそこは専門業者さんと私との信頼関係しかないわけです。

HDDの廃棄処分というのも同様です。神奈川県も富士通リースも最後は「信頼」しかないわけで、もし「ほれみろ!そんなことだから重大事件が起きたではないか!」と言われますと、廃棄処分に要する費用が高額となり、その分は国民が負担せざるをえないということになるのでしょう。今回は、「それを言っちゃおしまいよ」と「パンドラの箱」を開けてしまうことになるのではないか・・・、そこが今年最大の企業不祥事と考える理由です。個人情報漏えいのリスクは事前防止を中心に考えるのか(その事前防止の高額な費用は誰が負担するのか)、それとも情報漏えいが頻繁に起きることはしかたないが、起きたら早期に発見する、発見したら個人の側で自己防衛をきちんとする、漏えい者には厳罰を科すという事後防止を中止にに考えるのか。

12月8日の朝日朝刊社会面の記事では、当該元社員は同様のHDDを570件ほど転売していたと報じられていますから、社会に及ぼす影響は計り知れないのではないかと。そもそも朝日新聞が本件をスクープできたのは、①IT企業の経営者の方が、たまたまネットで当該HDDを入手できたこと、②当該経営者の方が、仕事用に使いたいので中身の安全性確認のために市販の復元ソフト(1万円以下だそうです)でデータの復元作業を行ったこと、③数百万件に上るデータから情報の重大性に気づいたこと、④IT企業の経営者の方が(なにゆえか)これはたいへんなことだと思って(県ではなく)朝日新聞に情報提供を行ったこと、⑤朝日新聞が元社員(当時は社員)とコンタクトをとり、元社員は(これもなにゆえか)取材に応じて事実を認めたこと(朝日は裏付けがとれたこと)といったことが「たまたま」重なったことによるものです。毎度申し上げるとおり「企業不祥事は時の運、社会が作り上げるもの」です。ただ、運といっても確率論の上での「運」ですから、その確率を減らす努力を行う、これがコンプライアンス経営です。

「こんな事件が起こらなければいいけどな」と思っていたところに、朝日のスクープによって本当に最悪の事件が起きていることを(国民は)知らされてしまった。神奈川県知事は「マスコミは『文書、大規模流出』といっているが、県の情報がネット上に大量に出ているわけではない」と釈明しています。しかし1万円以下の復元ソフトで「差押え情報」などを含めた個人の納税情報が閲覧できる状況に置かれている、という事実はもはや否定できず、多くの国民・県民を不安に陥れてしまったことは間違いないでしょう。上記のような偶然が重ならなければ、国民は自分の重要な情報が流出していること(可能性)を知らないままに、幸せに生きていけたはずです。不謹慎ではありますが、これが現実だと思います。

さて、神奈川県民を含めて、多くの国民が「もはや個人情報はどうなるのか」といった不安を抱えて生活しなければならない以上、どうやって「不安」を「安心」に変えていくことができるでしょうか(もはや不都合な真実を知ってしまった以上は「安全」は取り戻せないはず)。「今回の事件は偶然が重なったから発覚したものであって、そんな偶然はめったに起きないから、たとえ個人情報が漏えいされても悪用されることは杞憂にすぎない」ということなのか。「いや、それは許されない」ということで、もし不安を解消したいのであれば、誰がどれだけの負担をもって不安の除去に取り組むべきなのでしょうか。今年、いくつかのベネッセ情報漏えい事件の判決が出され、親会社の責任が認められていることから、こういった事件は関係者の法的責任の有無に関心が寄せられるのかもしれませんが、私はそのような法的責任問題よりも、今後も普通に起きることが予想される大量の重要個人情報漏えい問題に、国民がどう対処すれば安心できるのか、そこに関心を持って事件の行方を見守りたいと思います。

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2019年12月 6日 (金)

今年最大の企業不祥事(組織不祥事?)-県文書漏えい問題(朝日新聞スクープ)

今朝(12月6日)の朝日新聞一面をみてビックリしました。「神奈川県文書 大規模流出」(関西版はもっとショッキングな見出しです)。どれほど国民の財産保全に影響が出るのか、ちょっと想像がつきません。県や国がどう対応すれば「安全」を「安心」に変えることができるのでしょうか?仕事中なので、追ってまたコメントしたいと思います。まちがいなく今年最大の不祥事かと。

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内部通報制度、子会社不正(会計不正事件)にじわり浸透か?

12月4日の日経朝刊(3面)に「会計・経理不正、最多64件 上場企業・海外子会社で目立つ」との見出し記事が掲載されています。日本の上場企業で会計や経理の不祥事が増えている、2019年11月末までに64社が会計・経理不正の発生を開示し、これまで最多だった2016年を7件上回った、と報じています。

毎度同じことばかり申し上げますが、特に不適切会計事件が増えたのではなく、以前から件数は(結構多いので)それほど変わっていません。たまたま以前に比べて不適切会計事件が発覚しやすくなったから開示(せざるを得ない)件数が増えたものです。

仕事上、従業員側からも会社側からも相談を受けますが、「今だけだから」「新事業が軌道に乗ったらやめるから」と言いながらこっそりお化粧してみたり、実際にも利益で(過去の粉飾分を)消しこんでいたりする不適切会計事案は多いのです。もちろん「アカンこと」ですが、経営は人間がやるもんですからソノ気になってしまうのでしょうね。

では、なぜ発覚して開示せざるを得なくなったかといいますと、その理由の第一は、なんといっても監査法人の不正会計への厳格な姿勢です。以前は、誰がみても逃れられないくらいの証憑を会社に突き出して「不正やってますよね」と追い詰めて発覚するパターンが大半でした。しかし、昨今は「疑惑」があれば会社に調査を要請する監査体制、その「疑惑」はサンプルチェックではなく全数をAIで処理して探し出す技術力、といったところが監査法人の「厳しい姿勢」を支えているものと思います。

つぎに会社が開示せざるを得なくなったもう一つの理由は「内部通報制度の実効性が高まってきたこと」ではないでしょうか(これは私個人の推測です)。上記日経記事で紹介されていた4事例全て、つまりJDI事例(幹部の横領)、イオンのグループ会社の事例、藤倉コンポジットの事例、そして(調査まで少し時間がかかりましたが)大和ハウスの中国子会社事例のいずれも社内における通報が不正発覚の端緒(社内調査の端緒)です。通報が増えた、というよりも通報による社内調査が真剣に行われるようになった、というところが要因であり、まさに内部通報制度の実効性が高まってきたことを推測させます。

ところで最近の内部通報関連の話題といえば、やはり認証制度ですね。内部通報の制度認証を取得した企業が11月末現在で37社となりました。おそらくここまで数字が上がってきますと「ウチもそろそろ認証マーク取得したほうがいいのかな・・、SDGsの8番目の項目にも関係するらしいし・・・」とお考えの企業も増えてきます(当事務所にもご相談件数が増えています)。

ただ、認証マークの更新料が少し高いですよね(大企業の場合50万円)。自己認証制度で50万円ですから、皆様が本格的に取得したいと考えている第三者認証マーク(今後実施予定)だと、いったい年間の更新料はいくらになるのでしょうかね?ちょっとメーカーでは予算がおりないのではないでしょか。。。認証制度の普及のためにも、更新料はもう少しお安くならないものでしょうかね。

 

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2019年12月 5日 (木)

令和発の会社法改正法案の成立(で、ひとこと)

本日の参議院本会議における投票結果(賛成222 反対17)により、会社法の一部を改正する法律案・関係法律の整備法案が可決成立しましたね。今回の会社法改正は、比較的大きな会社の実務に関わる項目が多いので、拙ブログをご覧の皆様の会社にも影響が及ぶのではないかと思います。

といいますのも、政策実現的な色合いの濃い改正項目が多いので、「改正会社法」といっても、関連諸法(諸制度)との関係を理解する必要があると考えます。たとえばハードローで言えば今後立案される会社法の政令(結構、会社実務に影響を及ぼす項目の具体的内容が政省令に委任されています)、金商法の政省令(行為規範を、事業報告以外の開示規範で代替します)があります。

また、ソフトローでいえばガバナンス・コード改訂版、経産省実務指針や解釈指針など、会社法が強制権限を行使しなくても、ディスクロージャー制度やソフトローで会社が自主的に動いてもらう、問題があれば法改正ではなくガイドラインを動かして実務に影響を及ぼす、といった法政策がとられる可能性が高いです。

もし会社法改正が実務に及ぼす影響を理解するのであれば、税制改正や経済法領域を含め、こういった政策実現のための諸領域の動向にも配慮しないと「落とし穴」にハマる可能性がありそうですね。平成26年改正のとき、分不相応に(?)改正会社法を解説する本を出版して恥をかいた私の失敗経験からの教訓です💧今回は他のエラい方の書かれる解説本を読んで勉強します💦



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2019年12月 4日 (水)

特定の取締役・監査役を狙い撃ちした損害賠償請求は適切な内部統制を崩壊させる

公認会計士の資格を有する監査役(会計限定監査役)さんが、一審(平成31年2月21日千葉地裁-合議判決)で監査見逃し責任に問われて5700万円の損害賠償金の支払いを命じられました。訴えたのは、経理担当の社員に2億7000万円を横領された会社でして、当該会社の監査役(会計限定監査役)さんを会社自身が訴えた、という構図です(損害賠償請求訴訟)。ちなみに、経理担当社員は10年間にわたって120回ほど横領を続けていたのですが、横領が継続していた頃の取締役や他の監査役は提訴しておらず、この公認会計士の資格をもった監査役さんだけが提訴されています。

そして、金融・商事判例1579号(2019年12月1日号)によると、控訴審(令和元年8月21日東京高裁判決)では、この監査役さんが逆転勝訴(一審原告の請求棄却)で命拾いされました。まだ上告・上告受理申立てがなされていますので確定はしていませんが、当該監査役さんにとってはまさに「地獄から天国」、苦悩の半年間だったでしょうね。2017年6月に、こちらのエントリー「監査役もフィデューシャリー・デューティーの時代?(その2)」において、安愚楽牧場事件に関連して会計限定監査役さんが一審で敗訴、二審(大阪高裁)で逆転勝訴した事例を紹介しましたが、判決のトーンが良く似ているように思いました。

地裁判決も高裁判決も全文が掲載されていましたので両方読みましたが、会計限定監査役さんの事例とはいえ、一般の監査役さんにも参考となる教訓が(地裁レベルでも高裁レベルでも)豊富ですね。上記判例雑誌には(編集の段階で)重要な個所には下線が引かれているのですが、私は下線が引かれていない、以下の東京高裁の判決内容にとても感銘を受けました(以下引用)。

・・・(略)ところで、使用人の不正を防止すべき第一次的な責任を負うのは取締役及びその指揮命令を受ける管理職(上司)たる使用人であって、会計限定監査役ではない。また、正確な会計帳簿を作成すべき第一次的な義務を負うのも取締役及びその指揮命令を受ける管理職(上司)たる使用人であって(会社法432条1項)、会計限定監査役ではない。・・・(中略)・・そうすると、本件各横領行為の発生については、会計限定監査役たる第一審被告よりも、取締役たる第一審原告代表者及び〇〇の方が、はるかに容易に防止することができる立場にあったものであって、取締役の善管注意義務違反こそ検討されるべきである。・・・(中略)・・このように、一部の取締役又は監査役だけを恣意的、狙い打ち的に損害賠償請求の対象とすることは、業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の規定の趣旨に反する。・・・(中略)会社の現在の取締役が、歴代の又は現在の取締役及び監査役のうち、恣意的に一部の取締役又は監査役だけを対象として、理由なく狙い打ち的に損害賠償請求をすることは、現在及び将来の取締役又は監査役に、会社(取締役会、代表取締役)に対する信頼感や善管注意義務を履行しようとするモチベーションを喪失させ、ひいては取締役の職務執行又は監査役の監査の実効性、効率性を損ない、会社の業務の適正の確保を危うくするものである。

要は社長に好かれる人であれば、不正に目をつぶっていても任務懈怠責任を問われない・・・そういった風潮が組織に蔓延してしまうと内部統制システムは骨抜きになってしまう、ということでしょうか(上場会社であれば株主代表訴訟によるけん制機能がはたらくものと思いますが)。

ちなみに、この東京高裁判決は、第一審原告の当該請求は信義則違反であり、権利の濫用でもある、とまで言及しており、会社側に対してかなり厳しい姿勢を示しています。他にもっと損害賠償請求が認められやすい取締役や監査役がいるのに、なんで社外の監査役だけを狙い打ちするのか?まずは歴代の社長を提訴しないこと自体が、現役員の任務懈怠、善管注意義務違反ではないのか?といった裁判官の声が聞こえてきそうです。最近は不祥事が発生すると、代表訴訟よりも先に「自浄作用」として会社自身が会社役員を提訴するケースもありますが、そういった場面でも被告の選定には合理的な理由が必要といえそうです。

こうやって高裁判決から読んでみますと、「ではなぜ千葉地裁は監査役の任務懈怠を認めたのだろうか」と疑問に思うわけですが、千葉地裁が監査役の任務懈怠を認めた根拠として、「日本監査役協会の監査実施要領やマニュアルにはこう書いてあるから」とか「日本監査役協会の新任監査役向けガイドにはこう書いているから」とか「日本監査役協会の元理事である〇〇氏の著書にはこのような行為規範が示されているから」というのがたくさん判決文に出てきます。これに対して東京高裁判決では、「もちろんマニュアルに書いてあるような行動は望ましいものではあるが、監査役の善管注意義務とは別問題である」と概要説明されています。

10年以上、日本監査役協会で研修講師を務めている私に向けられた警告のように感じました(笑)。なるほど、日本監査役協会の監査基準やマニュアルが判断基準として活用されることがあるとしても、ベストプラクティスであり、注意義務の水準をそのまま測るものではない、ということを改めて認識した次第です(たしかに会計士さんである以上は一般の方よりも高度が注意義務が求められそうですが、年間36万円の監査役報酬で5700万円の損害賠償義務というのもなぁ・・・)。

 

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2019年12月 3日 (火)

SDGs・ESGへの企業トップの取組みと「許された危険の法理」(の発想)

12月2日の日経朝刊トップに「『課題解決力』収益けん引 環境・社会問題への対応(本社SDGs調査)」なる見出しで、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に取組んでいる上位企業ほど自己資本比率(ROE)などの指標が高いという調査結果が報じられていました(私が社外取締役を務める会社も偏差値60以上65未満のグループとしてネット版のほうでは掲載されておりました)。

拙ブログで毎度申し上げるところですが、こういった調査は「そもそも業績が良い会社だからROE向上やSDGsに取組む余裕があるのでは?」といった疑問も素直に抱くところでして、私も未だ企業業績とESG(SDGs)との関連性には懐疑的なところがあります。もちろんSDGsに取組むことは、企業として立派な姿勢であり企業品質の向上につながることは否定いたしません。ただ、「素晴らしい」と頭では理解できても、それだけで企業のトップによるSDGs推進の行動につながるかと言えば、そんなに甘いものではないはずです。

本日の日経産業新聞の記事「ESG投資、社外取締役が一役、呼び込みにプロの視点活かす」も読みましたが、ESG投資がさかんになったから対応する、というのも企業の主体性に欠けるようにも思います。私はESGやSDGsなる言葉を使うよりも、「許された危険の法理」の発想で考えたほうが、結果として経営トップがSDGsの目標達成への取組みを実行する確率が高まるのではないかと考えています。

「許された危険の法理」とは(私もあんまりエラそうに語る資格はありませんが)、

社会的に有益あるいは不可欠な行為は,それが法益侵害の危険を伴うものであっても許容されるとする理論。その行為から実害が発生したとしても,結果回避につき相当な措置がとられていれば違法ではないとする。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

と解説される法律(主に刑事法)用語です。自動車や飛行機の運行は典型例ですが、何が「許された危険」にあたるかは、時代の変遷とともに変わります。

たとえば本日の日経新聞朝刊(法務面)に、①MaaS進展のための電動キックスケーターが法の壁に突き当たって開発が進まない現状、②顔画像データの活用のための実証実験が進んでいるが、ビジネスの場では躊躇してしまう「人権侵害リスク」について報じられています。たしかにセブンペイのように、ビジネスのレベルで「安全」を秤にかけてしまうととんでもない社会的批判を浴びるので、各社とも技術革新に法の壁を感じることは常識的な判断かと思います。

しかし、そのビジネスモデルが社会的な課題解決に不可欠、世界規模での環境維持に有益なものであると認知されているとすれば、ビジネスリスクが顕在化したとしても経営者の法的責任、経営責任が免責されるだけでなく、企業自身の社会的信用が毀損される可能性も低下するのではないでしょうか。また、日々の業績に貢献している従業員の方々からみても、研究開発に多大な投資をして失敗したとしても「俺たちが汗して稼いでいるお金を無駄使いしやがって!」と糾弾されることもなくなるのではないかと。

もちろん危険のレベルが「許された」ものと言えるためには、相当程度の社会的な納得感が必要です。自らのビジネスモデルが社会的な課題を解決できることの説明と、結果回避に向けた相当な措置をとっていること、つまり「安全性」をステイクホルダーの「安心」のレベルに変えていく工夫が必要です。だからこそ「非財務情報」としての開示が不可欠と考えます。

コンプライアンス問題が目の前に横たわると、とたんに思考停止になってしまいがちですが、ビジネスを進めるうえで「ゼロリスク」はあり得ないわけです。企業自身の「儲け」と「安全性」を秤にかけることはコンプライアンス問題として許されませんが、社会的有益性と法益侵害とを秤にかけるのであれば、最後にモノを言うのは企業行動の誠実性(たとえばリスクが顕在化した際の消費者や当局との向き合い方)だと思います。ESGやSDGsを理解するにあたり、あまり高邁な発想とは言えませんが、経営陣を「その気にさせる」ためには、こういった発想が必要ではないでしょうか。

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2019年12月 1日 (日)

共催シンポ「社外役員の急増で取締役会は変わったのか」-盛会御礼

11月29日午後2時より、大阪弁護士会2階ホールにおきまして、大阪弁護士会・日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク共催シンポジウム「社外役員の急増で取締役会は変わったのか」が開催されました。おかげさまで238名のご出席をいただきました(申込者の93%の方にご出席いただいたことになり、これは驚異的なことです)。拙ブログの告知を読んで足を運んでいただいた方も多かったと思いますので、あらためてお礼申し上げます。

まず反省点ですが、①論点が盛りだくさん、およびパネリスト4名がいずれも発言力が強い人(?)ばかりだったため、会場からの質問をお受けする時間がとれなかったこと、②アンケート回答依頼の準備も間に合わなかったこと、③「社外役員」とタイトルをつけておきながら、話題のほとんどが社外取締役に関するものであり、監査役(監査等委員)特有の論点について言及が薄かったことです。また、当日の様子を映像でご覧になる方もおられることを念頭に、モデレータである私がもう少しゆっくり話すべきところ、会場向けにいつもの調子で話をしてしまったことも、後でやや反省しております。

次に良かった点は、進行役の私自身が、議論を通じて取締役会の変化(もしくは変化すべき方向性)を理解することができたところです。シナリオはほとんど作成しておりませんでしたので、ときどき脇道にそれることもありましたが、むしろパネリストの方々との真剣な議論のなかで、たとえば指名・報酬委員会の実効性と取締役会での付議事項との関連性、取締役会の多様性と企業価値(業績)向上との関係性など、たいへん多くの気づきをいただきました。私なりに「気づき」があったら、その都度、再確認する形でホールの皆様にも投げかけておりましたので、そういった気づきを出席された皆様方と共有できておりましたら幸いです。

半年前から、パネリストの方々含めて約10名のスタッフで準備してきましたので、こうやって盛会のうちに終わってホッとしております。スタッフの皆様、CGNの皆様、そして大阪弁護士会事務局の皆様にも、この場を借りて御礼申し上げます。何名かの出席者の方から「ぜひまた来年も関西でこういったシンポジウムをやってくださいね!」と言われましたが、当分やらないでしょう・・(たいへん勉強にはなりますが・・・正直、しんどいです💦)企業法務に詳しい〇〇法律事務所の△△先生や■■法律事務所の××先生のようなお若い方が中心になって企画していただけるのであれば、お手伝いくらいはしたいと思います。🎵

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2019年11月28日 (木)

機関投資家も読んでいる(と思う)有価証券報告書の「監査役会の活動状況」の開示

11月26日に日本監査役協会HPにて、「2019 年3 月期有価証券報告書の記載について(監査役会等の活動状況)」 なる調査研究結果が公表されました。2018年のDWG(ディスクロージャー・ワーキング・グループ)報告書の提言を受けて、2020年3月期決算から「監査役会等の活動状況」が有報の記述情報として記載されることになります。そこで、監査役協会では先行適用をしておられる企業の記載内容を検討されたそうです。

個人的にかなり関心の高い分野なので早速拝読しましたが「少しだけガッカリ」😞でした。いえ、監査役協会の研究成果にガッカリしたのではなく(これは立派な成果だと思います)、各社の監査役会の活動状況として開示された中身にガッカリでした。今年6月28日に「KAMに相当する事項の開示」として三菱ケミカルホールディングスが「監査報告書の透明化」の先行適用を試みて、その内容がとても参考になったものですから、なおさら期待しすぎてガッカリしたのかもしれません。

いろいろと各社の開示内容を読みましたが、会社法の解説本で「最低限度、これくらいは監査役(監査役会)の職務として必須です」と書かれた内容がそのままコピペされような記述ばかりであり、「これは機関投資家が読んでも、この会社のリスク管理能力をスコア化することはむずかしい」と思いました。もちろん「金太郎飴」的な開示情報は、なにか問題が生じたときに上げ足を取られないための保証としては役に立つのかもしれません。

しかし、このたびのDWG報告書、開示府令改訂の趣旨は、企業と株主との建設的な対話を実質化させるための情報開示の充実だったはずです。そうであれば、各社が「当社のリスク管理能力はどれほどすばらしいか」ということを監査機能の視点からアピールする機会だと思います。前にも書きましたが、私の講演をお聴きになった運用会社のESGチームの方が「監査役制度の能力を把握できれば資本コストを下げることも検討する」とまでおっしゃっています。したがって、これを「金太郎飴状態」(ボイラープレート化?)にしておくことはもったいない。

私としては「当社のリスク管理に必要な監査役制度を検討したところ、あと3名は監査役が、あと5名は監査役スタッフが必要と考え、現在経営執行部に監査役および監査役スタッフの増員を要請している」くらいは記載していただければと思います。ホントに私個人の感想にすぎませんが(社名を挙げて恐縮ですが)おお、この活動状況の記載は参考になるなあ」と思えたのは、リコー、味の素、三菱FG、そして不祥事が発生したことへの監査役会としての対応をきちんと記載しておられる野村HDくらいではないかと。

先日、「イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子」を読みましたが、「なるほど、イオン監査役アカデミーを創設して、外部講師を招いて監査役を育成するような会社には、こういった監査役制度を大切にする組織風土があるのだなぁ」と感激いたしました(ちなみに、この本にファーストリテイリングの柳井さんが絶賛の帯を書いている理由については触れられておりません-笑)。このたびの経産省「グループガバナンス実務指針」でも、監査役候補者の育成が提案されています。企業統治改革の中で監査役制度も変わりました、と機関投資家にアピールしていただき、監査役制度の深化を図っていただきたいと思います。

 

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2019年11月27日 (水)

会社法の一部改正法律案はなぜ修正されたのだろうか?

(11月27日午前10時55分 更新)

11月5日にこちらのエントリーにて告知いたしました大阪弁護士会・CGネット共催公開シンポジウムもいよいよ今週金曜日に迫ってきました。おかげさまで本日(11月26日)現在、定員をはるかに上回る260名の方々に参加申込をいただき、弁護士会館2階ホールの設営も変更させていただきました。やはり改正会社法の成立により、上場会社に社外取締役が義務化される、という機運が高まってきたことによるものでしょうか。ともかく当日に向けて精一杯準備いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。ということで、本日は改正会社法の話題です。

本日(11月26日)、会社法の一部を改正する法律案(一部修正案)が衆議院本会議で可決され、今国会で改正会社法が成立する可能性が高まってきました。提出時の法律案から一部修正され、株主提案権の改正のうち、議案提出権(会社法304条)は現行法のまま、議題提案権(議案要領通知請求権 305条)の議案の個数制限だけが改正されるということになりました(305条の修正案はとても読みにくいですね)。「目的等による提案の制限」は議案提出権、議案要領通知請求権いずれも改正から外れたことになります。

株主提案権の濫用事由を法文で列挙することにより、会社側の判断のみで権利行使を阻止できるとするのは過度の株主権制限である、一部の濫用事例が認められるだけでは権利制限を一般化する立法事実とは認められない、濫用かどうかは極めて難しい判断であり、問題があれば司法判断や会社法の過料の制裁で対応することで足りるのではないか・・・といったところが修正の理由になっているように思います(こちらの衆議院法務委員会ニュース参照)。

しかし、それを言い出すと会計帳簿の閲覧制限(会433条2項)や株主名簿の閲覧制限(同125条3項)、総会における取締役の説明義務の免除(同314条)といったところはどうなるのでしょうかね?(コメント欄で「とおりすがりの一職人」さんがおっしゃるとおり、議決権行使書面の閲覧制限-会311条5項-についても議論がありそうです)それぞれ重要な株主権の行使場面ですが、抽象的な濫用的要件をもって会社側で権利行使を制限できるという点では同じような気もしますが。。。株主提案権の制限廃止だけが問題になるのであれば(株主総会の運営の適正化を図るための)議長の議事整理権で区別がつきそうですが、総会前の議題提案権の制限についても修正(廃止)が認められましたので上記の各種株主権制限規定の趣旨と区別できるのでしょうか。

会社法制(企業統治関係)部会での法改正の審議でも、「目的等による提案の制限」はそれほど熱心に審議されていなかったように思います(もっぱら議案の個数制限ばかりが議論されていたものと記憶しております)。私の中では「なぜ株主提案権の目的等による制限」のみ修正されたのか、いまだによく理解できておりません。

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