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2005年5月25日 (水)

法務担当者の「心の準備」

一介の地方弁護士でありながら、たいへん偉そうな題目を掲げてしまいましたが、まあブログでの勝手な意見として聞き流してください。昨日のエントリーのなかで、企業法務担当の方というのは、「訴訟で勝つか負けるかではなく、訴訟にならない方法を教えてください」と法律専門家に相談されるケースが多いということを書きました。法的安定性、予見可能性を強く求める、というのは企業法務部のあり方としては正しいと思いますし、「訴訟になること=企業としての事件」という図式も間違いではないと思います。したがって、私が企業法務部の担当者の方へ回答する場合にも、もし訴訟になった場合には、このような主張立証でいけば勝てますと、言いたいところなんですが、もっと前段階で、ここまで予防しておけばおそらく訴訟にはならないでしょう、ただしこれは予防ということで、双方の合意が必要ですから、法律外でのビジネス上の力関係に影響されるものです、そのあたりは経営判断でどうぞ、という回答をしてしまいます。

たしかに、相手との取引上の優劣関係から、法的に完全に有利な契約を締結して、絶対に有利な証拠をとりつけておけば、訴訟となる可能性はかなり低減することは事実です。したがって法務担当者としての最善の努力義務は尽くしたことになると思います。しかし、これで「訴訟にならない」のは、相手方が「泣き寝入り」するからです。「泣き寝入り」する主な要因としては「勝訴の見込みがない」「相談できる相手がいない」「たとえいたとしても勝訴の見込みがないので費用が払えない」「裁判がうっとおしい」などの理由からです。いままでは、相手方のこのような事情によって「訴訟リスク」を低減させることが可能でした。

しかし、今後は「泣き寝入り」の法則によって、訴訟リスクを低減することが困難になると思われます。なぜなら、泣き寝入りの法則を支える事情がおそらく今後はなくなってしまうからです。まず圧倒的に増える弁護士の数です。ここ数年で都市部における弁護士数は飛躍的に増えていきます。ロースクール出身者が研修所を卒業するころには、非常に多くの法曹が社会に散らばります。また、すでに8300名以上の司法書士の方が簡易裁判所における代理業務の資格を取得しており、(つまり示談目的であれば数億円の事件でも、司法書士さんが代理人として業務を行えます)積極的に市民の相談に応じています。つまり、相談できる相手がいない、という点においては実情が急激に変わりつつあり、法律問題を低額で相談できる専門家は飛躍的に増えているというのが現状です。また、低廉な費用で利用できるADRが充実してきました。私も大阪弁護士会民事紛争処理センターの示談斡旋人をしていますが、近年利用率は飛躍的に伸びています。ここでは法律専門家が中立第三者となって、双方から紛争の実情を聞き、訴訟となった場合の勝訴見込みなども配慮したうえで適切な和解案を提示します。つまり、専門家の代理人を立てなくても、誠意をもって双方の主張および証拠の評価を第三者が行い、それぞれの立場の優位性などを検討するわけで、代理人を立てたりせずとも、また勝訴見込みをあまり気にしなくても気楽に申立ができるため、泣き寝入りの大きな要因が排除されてしまいます。

さらに、弁護士に(独禁法の関係から)標準報酬規定が撤廃され、依頼者との報酬決定方法が自由に設定できることになったことも大きな要因です。以前から使用されていた弁護士もおられましたが、最近は事件の性質からしてタイムチャージを採用する弁護士がたいへん増えています。(もちろん、タイムチャージといいましても、きちんと訴訟に勝ち、回収が成功した場合には成功報酬を別途頂戴する契約ですが)いちおう、事件の勝訴見込み、金銭回収見込みなどはきちんと依頼者に説明する義務がありますが、依頼者もまとまった着手金は払えなくても、毎月「これくらいの費用ですむ」という見込みがあれば、たとえ敗訴の可能性が高いとしても、「納得するまでやってみよう」という動機付けとなります。また、これなら(報酬体系が明確なので)受任する弁護士としても、非常に気楽に、思いっきり相手とやってやろう、という気持ちにもなれますね。

以上のような我々を取り巻く社会の変化から、一般市民、中小零細企業の立場で、今後は「泣き寝入り」の法則が成り立たない時代がやってくるのは間近でして、間違いなく多くの企業がいやがうえにも「訴訟社会」に巻き込まれることは事実です。今後の訴訟社会における企業法務のあり方について、法務担当者の立場から、すこしばかり問題意識を持っていただければ、と思います。

5月 25, 2005 商事系 |

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