談合と企業価値
先週、鉄鋼製橋梁談合事件についてコメントを書きましたが、いよいよ談合参加企業のうち幹事会社8社、営業担当幹部10名に対する強制捜査および出頭要請が出され、30年に1度(検察幹部)、といわれる談合事件の検察捜査が開始されました。毎日新聞の夕刊には、この幹部1名の方の(捜査前の)コメントや、刑事告発の基本的要件(談合破りに対する制裁の有無、役員クラスの関与、談合参加企業の市場規模など)が掲載されており、非常に参考になります。
強制捜査の対象企業からコメントが寄せられています。ほどんどが「事実とすればまことに遺憾。厳正に捜査を見守りたい」とのこと。いままではこれでよかったと思いますが、イマドキこのコメントではマズイのではないでしょうか。経営トップクラスが談合参加の有無について知らなかった、ということは、まったく「内部統制システムを構築していなかった」というに等しいことではないでしょうか。個別の受注に関して違法行為があったかどうか、ということはまずトップクラスが熟知しておくべき事柄でしょうし、事実がトップに伝わっていなかったとすれば、大きな問題です。またすでにこの問題は平成16年10月ころから社会問題化していましたから、その後社内で厳正な調査をしていなかったとすれば、企業のコンプライアンスへの取組というものは、まったく放置されていたと言われても仕方ないように思われます。
さらに、前記毎日新聞の記事によりますと、捜査の対象となっている幹部社員の弁護士費用なども一切企業のほうで負担して、面倒をみる、ということのようです。会社のためにしたんだから、面倒を見て当然ということでしょうか。
さて、談合に加担していた47社のうち上場企業については、この6月の株主総会で一般株主からいろいろと質問されることが予想されます。一般株主はこの談合問題について、どのように受け止めるでしょうか。もし、談合をないものとすれば、外資を含めた競争に負けることとなり「企業価値」が減少するためにやむをえないものだったと判断するでしょうか。それとも、「いや、どんなことがあっても談合はよくない、一時的に株価が低落しても、長期的に企業価値を向上させるよう努力してほしい」と考えるでしょうか。
企業トップとしては、今後「企業価値を高める」ために、自社がどのような姿勢で臨むのか明確にすべきだと思います。談合は、自社が企業価値を高めるために必要だと思えば、そのように言えばいいし(適法な談合システムを提言するのか、現独禁法の規定を問題視するのか)、絶対あってはならない、ということであれば、①談合への参加の有無への内部統制システムの取組方法、②違反社員への姿勢(刑事事件となったときの懲戒問題や弁護士費用捻出の有無)③談合へ参加せずとも、企業価値を高めることができる経営計画の提示④他の談合を発見した場合の自社の対応(通報するか、黙認するか、やはり参加するか)など、はっきりと株主に説明する必要があるように思います。
日本人の感情として、「会社のために誰かがやらないといけない悪事に手を染めた社員なんだから、後始末してやるのが当然」というのも(すくなくとも私は)理解できます。だったら堂々と「うちはそんな会社です。そんな会社だからこそ外資と闘って、今後も株主の皆様に大きな利益をもたらします」と説明すべきです。もし、「いや違法行為で儲ける会社は社会的な責任をまっとうしているとはいえません。そのようなことをする社員は厳罰で臨みますし、敗者復活はありえません。」ということであれば、今後の談合抜きでの企業価値向上のスキームを説明すべきだと思います。本件に関与した47社が、株主や社会に対して、どのように自社の姿勢を広報すれば、どのような企業評価を受けるのか、コンプライアンス経営のための重要な事例として注目されます。もし、各社同様のコメント、各社同様の対処方法ということであれば、また「より巧妙な談合」が繰り返される結果になるだけだと認識してしまいそうです。
追記
メールで、この問題は受注者だけでは解決できるものではなく、発注者による競争入札制度自体を改正する必要がある、というご意見を頂戴しました。そのあたりの実務について、あまり詳しくないもので、すこし論点が欠落していたようです。もうすこし勉強します。
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