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2005年5月20日 (金)

企業買収防衛策に対するガイドライン

平成18年施行予定の「新会社法」が衆議院を通過したことから、5月中にも法務省と経済産業省は過度の企業買収防衛策がとられないように「企業買収への防衛策ガイドライン」を発表するそうです。すでに出されている「企業価値研究会の論点公開」を参考にして、ガイドラインが作成されるもののようです。

果たしてこのガイドラインが策定されたとして、そのガイドラインに沿った形で防衛策をとれば違法とはならないのか、また逆にガイドラインを無視した防衛策をとった場合に、適法にはならないのか、ふと疑問を抱いてしまいます。結論からいうと、私はガイドラインに従った防衛策を作ったとしても、まったく司法判断において適法とされる保証はない、と思います。

その理由のひとつは、ガイドラインの制定経緯です。ガイドライン行政は「護送船団方式」などといわれた行政の肥大化、強権化からの回帰として、行政のスリム化を目指した国民の要請に基づいて活性化してきたものです。つまり、行政による事前審査、事前規制、過度の行政指導、民間の丸抱え保護を抑制し、自由な民間活力による社会の活性化のために、規制は最小限度にとどめる、という思想に根ざしているもので、したがってガイドラインという形での「やわらかい」指導が重用されることになります。そして、事前規制を行わないことによる権利侵害や社会的不平等の発生については、裁判所等による事後規制に委ねることになります。もちろん、公正取引委員会や証券取引等監視委員会のガイドラインのように、その遵守が法律と同等程度に要請されるものもありますが、これらは独禁法や証券取引法などの守るべきルールがまえもって、しっかり存在していて、しかもルール違反がなかったかどうか、事後規制権限を付与された機関が作成するものですから、事後規制方法に影響を与えるガイドラインであることは当然でして、今回の経済産業省、法務省の発表するガイドラインとは性質が異なるものだと思われます。最高裁判所や高裁が出すガイドライン、ということであれば、おそらく法的ルールに近いものと解釈できますから、司法判断の予見可能性を探る重要な資料にはなりえますけど、そもそも経済産業省や法務省は、適法性を判断する権限をもっていない省庁ですから、ガイドラインの拘束力は薄いと考えます。

理由のふたつめは、すでに私が(勝手に)発言しているとおり、防衛策の適法性、違法性はそのスキームの「形」ではなく、「運用のありかた」に影響される部分が大きいと思いますので、ガイドラインにしたがったスキームを選択したとしても、「企業価値」「株主価値」の判断が合理的になされるような運用がなされていない限り、防衛策は違法とされる判断は十分ありえる、と思われるからです。

もちろん、取締役としては代表訴訟による提訴というリスクを最小限度にとどめるためにもガイドラインに沿ったスキームを選択することが適切であることは言うまでもありませんが、ガイドライン行政のあり方を考えてみた場合、後で後悔することのないよう、その運用面においても常時改善のための検討を怠らないようにすべき、と思います。推測の域を出ない私見ですので、閲覧されている皆様で、一度ご検討いただけたら、幸いです。

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