タイガー&ドラゴン(その1)
予定どおり、経済産業省と法務省連名による「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」が出ましたね。両省が策定にあたって対立している、などというニュースも出ていたので、とても楽しみにしておりました。
まだザッとしか読んでおらず、全体に対するコメントなども、専門家の方々がなさると思いますので、外野からの無責任な発言になるかと思いますが、私の印象としましては、まさに「タイガー&ドラゴン」・・すばらしい指針だなあと作成者の英知に感服する自分と、ちょっとおかしんちゃうかな・・と指針の隙間に目を輝かせる自分が混在しているところです。社外監査役としての仕事からすれば、関与している企業にとってできるだけ完璧な防衛策を検討したいと思うところもあり、また隣接業種の方々と研究会を開催している買収者向けのスキーム検討にあたっては、この指針の脆弱な部分を掘り下げたいと考えてもいるところでもありまして、仕事柄、たいへん貴重な資料であり、興味深いものです。
第一印象としましては、「西濃運輸の信託型ライツプランも、この指針ならオッケーなんかなあ・・」ということでしょうか。この指針の7ページあたりに、私が昨日書いておりました「さっぱりわからない」点の回答も出ているようです。財産権侵害の可能性、商法280条ノ21第1項に関する脱法行為のようにも思えるのですが、いちおう株主総会の特別決議を発行の条件にしておりますし、また新株予約権の内容については、適法性を高めるための工夫もこらされているということでセーフということなんでしょうか。
ちょっと、法律家としての疑問としては恥ずかしい限りなんですが、この指針6ページから7ページにかけて、新株予約権を株主に割り当てるにあたって、買収者だけに割り当てないことや、買収者にも割り当てるけども、行使させない、ということが「株主平等原則」に違反しない、とする理由、ほとんどわかりません。これ、法律家以外の方でも、読んで頭ですぐ納得できますでしょうか。
「株主平等の原則とは、株主は、株主としての資格に基づく法律関係については、その有する株式の数に応じて平等の取扱を受けるべきである、という原則である」これは、神田教授の「会社法第四版補正2版」49ページに書かれている株主平等原則の定義です。この平等原則の定義と、指針6ページから7ページにかけて書かれている理由とが整合するのでしょうか。(誰かひとりぐらい、新聞のコメントで同じことに疑問を抱いた専門家の方でもいらっしゃたら心強いのですが)指針の理由では、そもそも商法では新株予約権は株主としての権利の内容ではないから、とか新株予約権の割当は株主としての権利とは無関係であるから、ということが書かれておりますが、しかし「第三者割当」でもなく、「社債権者」への割当でもない、れっきとした「株主割当」で新株予約権が発行されるわけですから、これはどうみても株主との法律関係上での「取扱上の」問題だと思いますけど。おそらく指針の考え方は、「そもそも新株予約権は、現行法上会社が自由に割り当てることができるものであるから、たまたま買収者を除いた株主にだけ発行するとか、行使させる、という発行方法は株主の権利内容への干渉とは異なる、ということなんでしょう。しかし、新株予約権に現行法が随伴性を認めていないのは、そのことで直接金融が容易になるから、との政策的な判断からであって、本件のように支配権獲得を目的としていることが明らかな場面に、自由割当の理由を持ち込むことには大きな矛盾があり、説得力がないと思います。そのうえ、常識的に考えても「株主だけに割当」ているのに、発行されない株主とか行使できない株主が出てくるということはやはり素直に考えても「株主の取扱に差をもうけた」と判断するのが筋ではないでしょうか。
まだほかにも「企業秘密」の開示を、「企業価値判断」時における株主から企業が開示を求められたとき、どうするんだろう・・・などと素人疑問は尽きないのですが、とりあえずまだ熟読しておりませんので、きょうはこれまでということで。指針を読んでのご感想など、また詳しい方のご教示をお願いします。。。
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