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2005年5月24日 (火)

商事法務の座談会記事(買収防衛策)

企業価値とその司法判断ということについて、敵対的買収への防衛策を中心に、いろいろと考えてきましたが、ここ数日に少し頭を整理しようと思い、関連雑誌などを読んでみました。そのひとつが「商事法務5月5日、5月15日合併号です。

企業価値研究会に参加されたメンバーの方4名による座談会が掲載されておりますが、この座談会「企業買収防衛策をめぐる法的論点と実務上の対応」はさすがに論点公開を作成された方々の意見表明モノとあって、もっとも「論点公開」の趣旨を理解しうるものだと思いました。経済産業省の日下部課長や武井弁護士が「経営者の判断プロセスについて、司法判断が及ぶものとすれば、企業価値をめぐる現場での争いを前向きに解決できるのではないか」としている提言はたいへん示唆に富むものだと思います。また、機関投資家代表の村田氏の意見についても、たいへん勉強になります。立場が違えばあたりまえと言えばあたりまえですが、そもそも司法裁判所が具体的な防衛策の発動や、策定にあたって、「どのようなものなら違法、適法」と判断されること(つまり司法が政策形成機能を果たすこと)自体、避けるべきである、それでは予見可能性、法的安定性に欠けてしまい、投資意欲を萎縮させてしまう、という問題点を強く主張されているところです。われわれ弁護士とは異なり、企業法務の現場サイドの方々の意見というのは、企業買収防衛策問題にかぎらず、おそらくこの村田氏の意見に集約されるところではないでしょうか。どのような行動をとれば、単に訴訟に勝てる、というだけでなく裁判にもならないか、その方法を教えろ、ということでしょうね。さらに、この問題に限っていえば、機関投資家という立場からすると、あとで司法裁判所によって、防衛策が発動されたり、解消されたりするということは、機関投資家自体が、その判断予想をしたうえで投資するかしないか、の判断を迫られることとなり、「リスクのたね」がひとつ増えることになるになるわけで、できれば回避したい問題となってしまうわけです。先日厚生年金基金連合会が、具体的な防衛策を示さない発行予定株式数の増加、役員数の減少を定める定款変更については基本的に反対する、との意見を発表しておりましたが、これも機関投資家としてのリスクをひとつ回避することの表れだと思います。

そして、非難、お叱りを受けることを覚悟のうえで私見を述べさせていただくとすれば、もっとも(過激?)な見解をお持ちなのは誰でもなく、神田座長ではないかな・・・との感想を持ちました。過激というのが語弊があるとすると、いま最も常識的な買収防衛プラン、として世間で評価されつつあるような対処法からみると、もっと「現経営者側の判断でぶっとばしていいんだ」みたいな、そんな見解を希望としては持っておられるように感じました。まず実体法としての商法が思い描く「取締役」というものは経済的にも法律的にも合理的な判断ができる人を想定しているのであって、だからこそ株主から信認を得ているのではないか、またそれを前提とする規定が現商法にはあるではないか、という思想が横たわっているように思えるのです。ちょうど憲法の勉強で、憲法の基本原則である「国民主権」と代議制に関する論点を勉強していたことを思い出します。国民の意味をひろく抽象的に捉えるか、一般市民、大衆という意味にとらえるかによって、国民の代表である代議員の意味も変わってくる、という論点です。この考え方の違いによって、選挙制度の合憲、違憲という判断も異なってきます。これを株主と取締役ということで置き換えてみると、神田教授は「個々の株主の利益などは、ひとつひとつ集約することは困難であり、これを株主の個別の意思をそのまま経営に反映させることは至難の業であるし、それによって企業価値、株主価値の向上は期待できない、したがって取締役がそのような株主の「総意」のようなものを汲み取って株主利益を反映させればよいのではないか、なぜなら取締役は短期間のうちに株主の信認を受けているのであり、また総意を汲み取ることができるだけの経済的、法律的な合理性を有する人間だから」という思想をお持ちのように感じます。もちろん、そのような思想以外にも、有事における株主の行動が、とうてい企業価値の理性的な判断を期待しうる状況にはない、という具体的な弊害も理由のひとつではあるでしょうが。(この理由は商事法務の座談会記事にも掲載されております)

もし、新聞報道にあるように、法務省と経済産業省との間で、防衛策ガイドラインの公表内容に対立があるとすれば、この「株主と取締役との関係に対する理解の違い」にも、その一因があるように思えてなりません。(また 続きモノ、とさせてもらいます)

追記

今朝(5月24日)の読売朝刊に厚生年金基金連合会の幹部の方のインタビュー記事が掲載されていました。その記事を読みますと、上記の理由以外にも、いい買収と悪い買収があるんだから、有事において株主が買収の是非を十分判断しうるシステムでないと具合が悪い、という趣旨を強調されておりました。松下の事前警告型のシステムを高く評価されているのが印象的でした。(私は一部欠陥があり、買収希望者からは訴訟に持ち込みやすいシステムだと認識していますが)

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コメント

先日はコメント頂きありがとうございました。
toshiさんのBlogは内容盛りだくさんですね。
実は、受験生時代、法律系の科目は苦手だったので、敬遠していました。
ただ、実務になると、とっても重要な事なので、勉強しなくちゃな~。と痛感しています。
これを機会に、ちょくちょく訪問して勉強させて頂こうと思っています。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: O | 2005年5月24日 (火) 05時40分

oさん、コメントありがとうございます。本当はoさんが紹介されていた弁護士さんのHPのようなものが、会計士さんには向いていると思いますが、私のはちょっとマニアックな話題なもんで。。ただ、最近は仕事で経理、税務の知識が必要ですんで、よく覗かせてもらっています。こちらも勉強させてください。

投稿: toshi | 2005年5月24日 (火) 14時39分

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