内部統制監査と文書提出命令制度
刑事事件やら、仮処分事件の合間の時間を見つけて、6月末の株主総会用の問答集を作成しています。社外監査役の立場なもんで、常勤の方のお作りになる骨子案をもとに、チェックを入れるのが私に期待されているところなんでしょうが、平成17年2月に改正された日本監査役協会の「監査基準」をざっと読みますと、なんと45条ある条文のうち8つの条文に「内部統制システムの構築状況の監視」という文言があり、かなり気になってしまいました。
今朝(5月10日)の日経新聞一面でも、金融庁は2008年3月期にも、全上場企業に企業統治監査を必須のものとして、具体的には公認会計士による内部統制監査を義務付ける方向だと掲載されていました。他企業との取引における意思決定過程を文書化したり、全事業所の業務手続を文書化したり、もっといえば最終意思決定機関の意思決定過程についても文書化される、ということになるんでしょうね。おそらく、リスク管理の向上のために今後は内部統制システム構築が、各企業の取締役会で決定されて、有価証券報告書のなかで報告されたり、監査役による監査報告書などでも報告されることが予想されます。
しかし、ちょっと考えてみると、この「内部統制監査」やら「企業統治監査」というものも、一歩間違えると「怖いなあ・・・」と思ったりします。われわれ弁護士の立場からすると、これは「メシの種」になるんではないかな、と考えたりします。というのも、内部統制システムが、意思決定過程の文書化ということになりますと、いままでわれわれが訴訟で苦労してきた「文書提出命令の申立」というものがかなり有効に使える可能性が出てきます。(いままで、私自身、「こんな文書を相手方企業が出してくれたらなあ・・」と喉から手が出るほどほしかった文書が、訴訟に出てくる可能性が大きくなるんですよね。もちろん、その文書が存在するにもかかわらず企業が出さない場合には、訴訟のうえでは相手方の主張内容を認めたことになってしまいます)平成11年以降の新民事訴訟法220条以下によれば、当事者もしくは第三者が所持している文書については、かなり広く文書提出義務を認めていますので、企業の相手方もしくは企業の保有している(と思われる)社内文書も、訴訟の立証に必要だと思えばそれが開示される機会は格段に増えるものと予想されます。もちろん「営業秘密」との関係で、ある程度の文書開示を阻止することもできるでしょうが、それでも文書自体の一部だけを非開示とする扱いがなされるでしょうから、立証事項と関連する部分の開示を阻止することまではなかなか困難ではないでしょうか。
こんなことを考えていると、社外監査役の立場からいうと、さも得意げに「うちの企業はこんなに内部統制システムが構築され、また具体的にこのように運営されている」と広報するだけでは、脇が甘いような気がしてきました。そもそも社内における意思決定過程の正確性を担保する文書、業務の適正性担保のための文書ということであれば、その文書作成の目的は投資家保護という立派な役割を担っているわけですから、単なる「社内文書」とはいえませんので、ほとんど文書提出義務が認められる「文書」になってしまいそうなんで、企業の営業秘密との関連性が明確になるような文面にしてみたり、開示可能部分と監査目的以外、非開示とすべき部分を明確に分離したり、できるだけお金をかけてIT情報化するなど、かなり工夫することが必要だと思います。今後、おそらくこのような内部統制システムの構築が当たり前になるにつれて、この民事訴訟法上の文書取扱条項(提出命令やら文書送付嘱託などの問題)が論点として議論されてくるのではないでしょうか。
| 固定リンク
« 法の無力 | トップページ | 社外取締役と種類株主 »
コメント
いつもながら鋭いご指摘のとおりで、たぶん、企業内での取り扱い、システム構築・・・悲喜こもごもになると思います(^^;)。実際の監査が可能になる以前のむしろ制度構築の過程で企業の「格」というか経営者の資質が結果としてあぶりだされる制度といえます。私もブログで私なりの見解をエントリー予定です。
投稿: ろじゃあ | 2005年5月11日 (水) 09時02分
ろじゃあさん、どうもです。千葉マリンの挑発広告の記事、おもしろかったです。。あれなら話題になりますよね・・・
投稿: 管理人 | 2005年5月12日 (木) 01時50分