弁護士たちの70日戦争を読んで
今朝(5月16日)の日経(スイッチ・オン・マンデー)に、フジテレビ代理人弁護士と、ライブドア代理人弁護士とのインタビュー記事が特集として掲載されていました。舞台裏に関するレポートとあわせて、たいへん興味深い記事でした。どちらも、「超」有名な東京の大手法律事務所のパートナーの方です。各種審議会、委員会の座長を務める東大の商法学者おふたりが、どちらもフジテレビ側に有利(と一応思われる)な意見書を提出されていたにもかかわらず、裁判所が別の判断を下ろしたことも興味深いのですが、「なるほど・・」と関心したのは、「もし、フジテレビ側に、引受権行使によって、ライブドアと同等程度の株数が得られるような新株予約権を発行することにしていれば、どうなっていたか」という問題です。
たしかに、通常の裁判ではなく、保全処分という裁判で争っている「特徴」を考えると、フジテレビ側としては検討に値する策だったと思います。ライブドア側の代理人も「そのような発行規模であれば、・・・司法判断は変わったかもしれない」と述べています。
ひとつめの理由としては、ライブドアの株数に拮抗する程度の発行株数であれば、明確に保身目的による株式発行とまではいえないのではないか、という点です。この点についてフジテレビ代理人は、「内部でもそうした議論はあった。・・(しかし)高裁は相手がグリーンメーラーでもないかぎりは予約権利用の防衛策は違法と判断しているのであるから、発行量が少なくてもやはり差し止めになったのでは」と述べています。しかし、裁判所の判断の枠組みは(概ねですが)まず発行目的を確定して、その目的が経営権取得をもっぱらとする、とのことであれば、特段の理由がないかぎり予約権発行は違法、とのことですから、そもそも「一般株主へ(委任状合戦などで)最終判断をゆだねる」という趣旨での発行であれば、その目的自体が別の解釈も成り立つことになるため、別の結論となったことも考えられます。
ふたつめの理由としては、たとえ株主の差止請求権が「被保全権利として」認められたとしても、最終的にライブドアの権利が「仮処分」を用いなければならないほどの侵害に急迫性がなかったのではないか、ということです。たしかに、ライブドアの株主としての権利は希薄化されることになりますが、もし株数が拮抗する程度の希薄化ということであれば、ライブドア、フジテレビいずれも株主への企業価値向上のための提案によって勝敗を決することが可能なはずであり、そのような手段でライブドアが権利侵害を防止することができる以上は、一切の予約権発行を差し止めてまで「権利を守る必要性」があったのかどうか、疑わしいものとなるように思われます。「急迫不正の侵害の有無」という、仮処分事件独特の要件を否認する争い方は、ときにたいへん有効な場合があります。私も以前、著作権協会相手の仮処分事件(全国で流行していた「カラオケボックス」の機械使用差し止め)のカラオケボックス運営会社側の代理人として、ほかに著作権協会の選択手段はある、と主張して、ボックス側にきわめて有利な和解に導いた経験があります。
もちろん、この話は、純粋な法律問題としての予想です。フジテレビ、ニッポン放送側の経営者としての経営判断やプライド、マスコミへの対応、さまざまなステークホルダーへの事件取組姿勢などを考えると、このような「弱腰」の策が選択の余地なし、とされたのかもしれません。(実際、この記事をみるかぎり、フジテレビ側の弁護士さん方は、そういった法務以外のいろいろなベクトルというか力のモーメントの中で、苦悩されていたことがうかがわれます)でも、駆け引きの材料として、保全処分の特徴を生かした論争のようなものを、もうすこし広報してもよかったのではないかな・・・と思った次第です。
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コメント
toshiさんこんばんは。コメントありがとうございました。私もこの日経の記事大変興味深く読みました。細部までよく取材されたいい記事だったと思いました。私にしてみれば新株発行権の違法性の判断に争いの余地があることがまず信じられませんで、いちいちといっては何ですがこれくらいのこと裁判所にかけないとわからないんだなあと意外に思いました。
投稿: bun | 2005年5月17日 (火) 20時28分
bunさん、こんにちわ。いつもながら、ストレートなご意見ありがとうございます(笑)記事にもありましたが、東大の現役教授おふたりの意見書というものが、どのような内容だったのか興味がありますね。有事導入型のライツプランへの意見だったのか、平時導入型も含めての意見だったのか。お金と時間があれば、知ることができるのかもしれませんが・・・
投稿: 管理人 | 2005年5月18日 (水) 11時46分