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2005年6月30日 (木)

株主優待券と利益供与(その2)

(6月30日 午前11時半 追記あり)

昨日、「おつりのもらえる」株主優待券についてエントリーを書きましたが、早速Hardwaveさんのブログで詳細な分析記事が掲載されましたので、ご紹介させていただきます。(しかし常々感心いたしますが、Hardwaveさんて、こういった分析モノ得意技ですねえ・・・どうもありがとうございました。)この魅力的なエントリーを拝読して、税務会計面からさらに突っ込んだフォロー記事もあったらいいなあ・・などと贅沢な欲望が湧いてきました。。

二日続けての総会で、かなりヘロヘロですので、きょうはこのへんで失礼します。。。

(追記)

すこし以前(6月23日)の総会関連報道ですが、外食産業でたいへん元気のいい「ワタミ」の株主総会で、株主優待券を社会福祉活動のために利用できないか、との株主提案があり、この提案を受けて、企業側が「優待券の原価分について、株主様より返還の意思ある場合には、寄付扱いとできるようなシステムを早急に作る」と回答されたそうです。(日経ネット記事はこちら)つまり、ワタミさんの場合でも優待券には「原価部分」という認識がおありのようですから、優待券そのものの現金価値というものは把握されていないものでしょうし、したがって「おつり」はでないものと思われます。(しかし株主優待券をCSR活動に利用したり、総会出席者が同伴者含め4300人という話題性など、スゴイですねえ・・)

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2005年6月29日 (水)

株主優待券と利益供与

bunさんの「最後のニッポン放送株主総会三部作」の力作を拝読いたしまして、株主総会といっても、世間の耳目を集めるものとそうでないものとでは雲泥の差があることをいまさらながら認識しました。私のほうは、何度も総会リハーサルを行ったものの、「想定の範囲内」の株主様からの質問に終始し、予定時間を30分ほど超過した約1時間で総会は終了(その後の懇談会を含め2時間半)しました。(ただ、昨今の総会ブーム?のためか出席株主数は昨年の1,5倍でした)ホンマ、この会社は減収減益(配当は昨年同様)にもかかわらず多数の株主様に激励を受け、恵まれた会社やなあ・・・とつくづく思います。いちおう監査役問答集も作ったのですが、予想どおりと申しますか監査役へはなんの質問もなく、終わってしまいました。

ところで懇談会の際に、株主様からの気になる質問(ご意見)がありました。「おたくの店では株主優待券を使うときに、おつりももらわれへん。ほかの企業はおたくの倍の年間4万円分の優待券くれるし、おつりもきっちりくれる。なんとか、もうちょっと他社を見習ったらどないでっか?」

あとで、その株主様から確認したのですが、たしかに株主優待券が500株(1単元)以上保有している株主様に一律4万円分のお食事券、しかも「おつりはもらえます」と記載されております。私も株主優待券がある程度高額なものについては見聞もありましたが、おつりをもらえる株主優待券というのは聞いたことがなかったので、少しビックリしました。

そもそも「おつりをもらえる」株主優待券というのは適法なんでしょうかね?株主優待券というのは、利益が出ていない企業であっても、株主に対してなんらかの経済的利益を付与するものであって、利益処分とは異なるものですから、株主にとっては「雑所得」として取り扱われ、ある程度会社が自由に発券することができるものとされています。株主の自益権、共益権とは無関係の企業サービスの付与ということですから、株主平等原則とは無関係である、という説もありますが、いちおう通説では「保有株式数の違いによって企業から受けることができるサービスに差が生じるので、形式的には株主平等原則違反となるが、そのサービスの内容により軽微なものと認められるものが多く、実質的には平等原則に違反するとまではいえない」というものです。しかし、ひとりあたり4万円、もし1000円だけ使って後はおつりを39000円もらえる、というのは単に企業の経済的サービスを受けるというよりも、1単元以上保有している株主に対する現金供与であり、保有株主の数によっては利益処分の脱法行為もしくは(利益が出ていない場合には)違法配当、もしくは一部株主への利益供与に該当するのではないでしょうか。私の認識では株主優待券というのは一種の割引券のようなもので、したがって株主のほうで割引サービスいっぱいの利益を自ら放棄すれば、もちろんおつりはもらえないというような考え方を持っていましたので、この「金券」的発想というのがどうも違和感を覚えます。

もちろん議決権を行使できる程度の株数を保有する個人株主を勧誘するための広告、宣伝的効果のため、一部株主に金銭的利益を享受させることも、株主平等原則に反しないし、利益供与にもあたらない、との見解もありそうですが、ひとり4万円(年間)というのは、利益処分を厳格な要件のもとで定めている商法の「債権者保護」の精神にも反するように思われるのですが、どうなんでしょうかね。最近は株主優待券の使用についても、以前と異なり消費税通算売上金に対しての金額を差し引かれますので、「金券的発想」のほうが妥当するのかもしれませんが、どうもしっくり納得できません。

まあ、その企業の株主様にとってみれば、配当金プラス4万円が受領できるわけですから、文句がでるわけもないのですが、ただ同業他社として「あそこは、4万円もらえるのに、おたくはそれ以下、しかもおつりももらわれへん」と比較されるほうとしてはかなりショックです。HPでも大きく「株主優待制度のお知らせ」と広報されていますので、きちんと法的な根拠はクリアされているのでしょうね。

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2005年6月27日 (月)

総会リハ(その2)

いよいよ明日は株主総会当日ということで、市民会館での「通し稽古」となりました。(昨年はこの市民会館で就任される立場だったので、気が楽だったんですけど)オジキをするタイミングや説明時の目線の向きなど、総務部の方と代行さんから「逐一」細かいチェックを受け、まるで舞台監督と大衆演劇の役者のような雰囲気。しかし一般株主の方々へ「投資に足る企業」としての安心感を抱いていただくため、けっこう大切なお仕事とわりきって大衆演劇の脇役をつとめようと決心しました。

以前、弁護士会に著名な大衆演劇の座長さんをお迎えしたとき、舞台の雰囲気が来場しているお客さんの様子で毎回違うので、アドリブがたいへん重要である、との興味深い話をお聞きしたことがあります。総務担当の方がたにはたいへん申し訳ないのですが、年に一度の株主総会、いろいろと厳しい質問がとぶなかで、利益処分案の裏に存在する緻密な計画性、長期的展望から真の株主価値を見出そうとする防衛策、そして役員改選と、さまざまな審議の中で真摯に会社の目指そうとしている方向の是非を判断してもらえるような総会になってほしい、よりよいシェアーホルダーズ・リレーションズの場となってほしい、と願います。そのためには少しばかりのアドリブがあってもいいのじゃないかな・・・と(社外の人間としては)考えたりもします。修正動議やら、質問打ち切りの動議など、いろいろな場面を想定しての稽古となりましたが、(法律家の立場としても)あまり法律用語の飛び交うようなギスギスした総会ではなく、議長ができるだけ議長の裁量によって質問を受け、誠意を持って回答して、「ここの総会は、来年もほかと重なっても覗いてみたい」と思っていただけるような総会になれば・・・と思っています。

審議事項のなかで、どこをどのように突っ込まれると、企業側としては回答がムズカシイか、など本当は具体的な問題を提起して、その対処方法をここでエントリーしたほうが、企業法務担当者の方がたには有益な情報となると思うんですけど、悲しいかな実名ブログの宿命として、問題が発生することは回避しなければなりません。また、総会総括のエントリーのなかで検討してみたいと思っています。

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2005年6月25日 (土)

セカンド・オピニオン

ほぼ毎日更新されているナポリ好きの会計士さんのブログで、「セカンド・オピニオン」の話題が出ておりましたので、私も少しばかりお話させていただきます。

私は最近、仕事で依頼者の方に(私のほうから)セカンド・オピニオンを勧めるようになりました。でも、よく考えてみると、「なぜ別の弁護士さんの意見を聞いてみてください」と申し上げるのか、いくつかのパターンがあることに気づきましたので、整理してみたいと思います。

ひとつめは、「契約関係(信頼関係)の強化」ということですね。いくつかの弁護士の意見を聞いいただき、「やっぱりこの人に任せてみようか」という気持ちを抱いてもらって、正式に委任状をもらう、というとき。ある程度自分の弁護士としての能力に自信がついてくると、心の余裕からか、「いますぐに委任状はいただきません。よく考えて、別の弁護士のご意見も聞いてからご連絡くださいね」と余裕まじりでセカンド・オピニオンを勧めます。ホントに別の弁護士さんのところで意見を聞いて(そっちのほうが安いなあ)と他の弁護士さんに依頼される、ということになってしまうと「あれ?」なんて思うときもありますが、まあこの余裕が「いえいえ、もう先生にご依頼申し上げる気持ちは変わりませんから・・・。先生にご依頼して負けてしまったら納得します」と言っていただける要因となるケースが多いようです。

ふたつめは依頼者に弁護士選びの自己責任の意識を喚起するとき。ただ、このケースでもふたつに分かれると思います。まず実際に経験が浅くて、自信をもってアドバイスできないケースなんですが、(この事件は受任すればオイシイかも・・・)とちょっと色気が出てしまって、なんとか積極的に受任の方向へ持ち込みたい、でも弁護過誤になるのは嫌だから、「どうしても」といわれたら受任しよう・・・といった方向へ持ち込みたい、みたいなヨコシマな気持ちから「他の専門家の意見も聞いてみてください」と探りをいれたりします。つぎに、「この人はいろんな弁護士事務所を渡り歩いてきたな」と直感でわかる方で、弁護士はそもそも金儲けのために動くもんだから、騙されないようにせなあかん、という非常に猜疑心が強い人が依頼者のケースですね。こういった方は、意外と多いんです。受任した後でも、「先生、この準備書面の原稿、ここに誤字がふたつありますよ。本当に私の事件、誠心誠意やる気あるんですか?」と食ってかかる方もときどきいらっしゃいます。さすがに16年も弁護士をしていると、事件途中で「この人とはやってられませんわ」と信頼関係が破壊されるおそれのある方は、相談段階でわかるようになりますんで、リスクは減りましたけど、やはりそんなニオイを放っておられる方がお越しになるとセカンド・オピニオンを勧めて、どっかで責任の所在をまず明確にしてから受任しよう、という外形を整えたくなります。

最後は、やはり「お断り」のサインとして、セカンド・オピニオンを勧めることがありますね。こういった場合は、この方はおそらくどこの事務所へ行っても、サード・オピニオン、フォース・オピニオンと、次から次へと別の意見を聞いてください、と勧められると思います。本当は「あなたのその事件は、どこ行っても断られますよ、勝ち目ないし、弁護士にも受任のメリットないし」とズバっと言ってあげたほうがその人のためになる、と思うのですが、対応の悪さから弁護士会へ懲戒請求される、ということで面倒なことに巻き込まれたくない、という気持ちも働いてしまうので、ついつい責任転嫁のような物言いでソフトにお断りしてしまう、という結果になってしまうわけであります。

そもそもセカンド・オピニオン、というのは、専門家の説明義務、委託者の自己責任原則の徹底、自己決定権の確保などの要請から進展してきた概念のはずですが、依頼者と受託者との人間関係のあり方によって、実際の利用方法はサマザマではないか、と思われます。たいへんみっともない話になりましたが、企業担当者として、また個人として弁護士を利用される場合、「ほかの弁護士の意見も聞いてみてください」などと言われるケースでの参考になればと思い、ストレートに意見を開陳した次第です。

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2005年6月24日 (金)

総会ネタ(その1)

株主総会前半戦のヤマ場を迎えました。

① 横河電機と東京エレクトロンで買収防衛策が否決、との記事があります。

  いずれもわずかの賛成票が足りなかったとのことですが、もともと平成15年の時点から、厚生年金基金連合会の株主議決権行使基準では「定款の変更 授権株数については原則として肯定的に判断する、ただし既存株主の持分に関する大幅な希薄化が懸念される場合には肯定的な判断はできない」とされていますから、防衛策以前の問題として、機関投資家の厳しい判断があったものと思われます。同様の大幅な授権株数増加を決議する日清製粉は6月28日ですが、ひょっとすると後で総会を開催するメリットがあるかもしれませんね。

 しかし機関投資家の力を示すには十分な結果となりましたね。

(6月25日追記)

 今朝の日経朝刊にも、かなり大きく取り上げられています。昨日、「買収防衛策以前の問題として、株式の希薄化が問題とされている」と書きましたが、機関投資家の説明では、株式希薄化の懸念と同時に、授権枠拡大の具体的な説明不足、つまり買収防衛策の具体的な説明がなかった点についても触れられていました。付記させていただきます。

(追記おわり)

② セイコーエプソンの株主総会では増配に関する緊急動議が出されたけども否決された、とのこと。

 包括委任状やら十分な議決権行使書を事前にとりつけているでしょうから、個別審議でも原案を先に諮ってしまえば、その結果否決されてしまうことになるのでしょう。

 そういえば、昨日のJR西日本の株主総会では、大阪の弁護士さんの株主から「減配して、余った利益を被害者救済基金にしてはどうか」との提案があった、との報道がなされていましたが、株主自ら減配の提案を行った場合、これは修正動議となるのでしょうかね。おそらく総会後の株主説明会の席上での提案だったと思われますが、もし総会審議中に減配の提案があったとすれば、修正動議か、単なる意見表明かの釈明を求めることになるのではないかな・・・と思われます。しかし「減配する」というだけが審議事項に関連性があって、「被害者救済基金にする」ことは新たな利益処分に関する提案ということと解釈すれば、全体として審議事項には関連性がなく、単なる意見表明だったと考えられそうです。

「貴重なご意見として、承りました」と昨日の議長は回答していたそうです。

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JR西日本の補償交渉予定

来週は指導担当企業と、自分が監査役をしている企業の「ふたつの総会」がありますので、ちょっと準備に忙しく、エントリーもままならないため、短文で失礼します。

きょう、大阪新聞ニュースに、今後のJR西日本福知山線事故ご遺族への補償方針が報道されていました。

(追記 リンク切れしていましたので、下記に記事内容を抜粋させていただきます)

JR西、遺族への慰謝料 交通事故より1000万円増額


 乗客106人の犠牲者を出した兵庫県尼崎市のJR脱線事故で、JR西日本は22日までに、遺族への補償のうち慰謝料について、算定基準となる交通死亡事故より、少なくとも一律1000万円を上積みする方針を固めた。重大な過失により、安全であるべき鉄道で起きた事故の〝特殊性〟を考慮したもようだ。ただ、慰謝料の算定は個々の遺族の事情によっても異なり、最終的な提示額は流動的。まだ交渉に応じる気持ちに至っていない遺族も多く、JR西は「遺族感情」に配慮しながら慎重に対処する方針だ。

 JR西は18日、遺族や負傷者を対象に開いた説明会で、今後の補償について「事故は当社に100%の責任がある。事故の重大性から、従来の国内の人身事故の基準以上の補償を考えている」と表明し、前例を上回る形で補償する基本方針を示していた。

 遺族への補償は、①事故による精神的苦痛に支払われる慰謝料②犠牲者が将来得ることができた「収入」(就労可能年齢67歳、主婦・学生らの場合は就労を仮定)などをもとに算出する逸失利益③葬儀費用―が主な対象となる。

 鉄道事故の場合、基準になるのは交通事故賠償額の算定方式。慰謝料は「一家の大黒柱」を失った場合など、個々の家庭状況によって数100万円ほど異なり、おおむね2000万-3000万円の範囲内になるケースが多い。

 しかし交通事故でも、加害者に飲酒運転や信号無視など悪質で重大な過失があれば、被害者側に支払う慰謝料を増額する事情として認められる。

 JR関係者によると、JR西は脱線事故がそうした重大な過失にあたると判断。安全性が当然に要求される公共交通機関の鉄道で起きた未曾有の事故という特殊性を踏まえ、危険がある程度予測される道路上の交通事故より、慰謝料を増額することを決めた。

 そのうえで鉄道の安全性を信頼した末に事故に遭い、何の落ち度もなかった犠牲者の無念や苦痛を最大限に考慮し、前例のない措置として、従来の慰謝料に少なくとも一律1000万円を上乗せするとみられる。通常の交通事故に照らせば3-5割増しになる計算だ。

 また、JR西は逸失利益について、従来の計算式に基づいて職業や年齢などから個々に検討して算定するとみられ、慰謝料などを合わせた最終的な補償額を決める。父母を亡くした児童・生徒のための奨学金制度の創設に向けても作業を急ぐ。

 ただ、中には「命をお金に換えられない」「気持ちの整理がついていない」などと早い時期の補償交渉を望まない遺族も多い。JR西は遺族感情に配慮し、補償交渉の開始時期などを含め、個々の遺族の実情を見極めながら対処する方針。

 交通事故の賠償問題に詳しい松本誠弁護士(大阪弁護士会)は「悪質な交通死亡事故では慰謝料が大幅に増額されるケースが増えている。今回の事故は、安全対策の不備など組織の責任も問われており、JR西もマニュアル通りではなく、思い切った措置をとらざるを得ないと判断したのではないか」と話している。(記事終わり)

通常の自動車事故算定基準よりも一人あたり慰謝料1000万円上積み、というあたりでの提示金額を検討している、とのことです。たしかに、最近の悪質な運転による交通事故では慰謝料の大幅引き上げの事例というのは地裁レベルでもよくみられます。昨日のJR西日本の株主総会(正確には株主報告会でしょうか?)での株主と経営陣とのやりとりを報道で読んだかぎりでは、本件事故によるJRの事故処理のために要する金額は聞かれていても、その合理性まで問題にするような発言はさすがに聞かれませんでした。(まあ、大口の株主さんがどのような意見なのかは不明ですが)

そんななかで、「車両運行の安全性向上と従業員の勤務条件の向上のための施策が継続して運営されることを監視するために社外取締役をもっと増やせ」という意見が一部の株主さんから発言されていたようです。そういえば、この6月17日に日本監査役協会から出された「正しい敵対的企業買収に向けた提言」のなかでも、はっきりと社外取締役制度導入に関する提言が出されています。

提言2 特定の株主が支配権を有している株式公開会社の場合、少数株主の利益保護の観点から、過半数の取締役を独立取締役とするべきである。

この提言は、親会社による子会社支配などを想定したうえでの、提言だと思いますが、それでも「少数株主の利益保護のための過半数の独立取締役」という概念はかなりスゴイ提言ですね。株主の利害というのはかならずしも一致するわけではありませんから、平時における取締役会でも(極端にいえば)少数株主の利益代弁者の意見が親会社の意見を凌駕してしまう可能性が出てくるのでしょうか。ちょっとすぐには頭で納得できない疑問が湧いてきます・・・それとも、「少数株主の利益保護のため」というのは、「全体の株主利益を考えるときに、大口株主の利益だけでなく、少しは少数株主の利益のことも考えられる人」ということでよろしいのでしょうかね。

株主の利益を代弁するために社外取締役を迎え入れる、といっても、どのような株主のどのような利益を代弁するのか、それとも少数株主の意見も考慮するが、やはり全体の株主価値の向上ということを最優先に考えるのか、もし今後、上記のJRのような理由から社外取締役を導入することがあるならば、そのあたりを明確に株主に説明をしておかないと、あとで社外取締役の善管注意義務違反を問題視されたり、オンブズマンさんあたりから株主代表訴訟の対象とされるケースも出てくると思います。6月23日の日経新聞朝刊を読みましても、社外取締役として人気がある方がたはCEO経験者であり、かつ識見の高い方ばかりでして、経営上のご指導を役員が賜る、という言葉がピッタリの人選ですよね。現実に社外取締役を迎え入れる責任者の意識と、新聞やニュースによって「企業買収」などの言葉といっしょに広く知られるようになった「社外取締役」という言葉のイメージから一般の方々が理想として思う浮かべる意識との乖離が、現状ではかなり著しいと思われますので、日本取締役協会くらいの団体が、この「イメージ」の相違を少しずつでも埋めていくようなきっかけを作っていただけたら・・・と期待しています。

で、その提言内容は本来、「正しい敵対的企業買収に向けた提言」とありますので、そのこととの関連で「社外取締役」「独立取締役」について意見を書きたいのですけど、ちょっと時間がありませんので、またの機会ということで。

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2005年6月22日 (水)

ニレコ新株予約権発行差止事件の補論

大阪地裁の地下書店で「ビジネス法務8月号」を購入しましたところ、その20ページ以下に三苫裕東大助教授の「補論=ニレコ新株予約権発行差止仮処分事件地裁決定について」と題する論稿が掲載されておりました。いわゆる鹿子木決定に対するご意見ですが、私がこのブログで6月2日以来、いろいろと勝手な意見を述べてきたことと、ほぼ同旨であったことでホッと胸をなでおろしているところです。とりわけ、新株予約権の行使条件については、取締役会で発行を決議した場合だけでなく、株主総会の意思が反映される仕組みが組み合わされている場合でも、(行使条件の成就が)取締役会における緊急避難的措置が許容される場合に限られるという趣旨であることを前提として、ほとんど有事導入型と、その要件においては変わらないとされ、あえて平時導入にメリットがあるとするならば、行使条件をあらかじめ明確にしていることから、有事の際の取締役会の行動の相当性を立証しやすくする程度であること(敵対的買収者の悪性の推認)ぐらいであろう、と説明されており、これまでエントリーしてきました私の意見とほぼ同一のものであります。

ただ(たいへん偉そうな物言いで恐縮ですが)、この三苫助教授のご意見で、ひとつ欠落している重要なポイントがありまして、有事における発動要件の判断者として重要な地位を占める独立第三者の判断領域に関する点であります。私は、社外取締役、社外監査役に発動要件の最終判断者たる地位を付与するのであれば、もっと広く「企業価値とは何か」「ステークホルダーの利益というものを企業価値判断に含めてよいのかどうか」裁量の幅を持たせるべきではないのか、との自論を有しておりますが、この鹿子木決定によるならば、その判断領域はたいへん狭いものになるわけでして、平時導入型ライツプランにおいて、行使条件を明確に規定した場合には、その独立第三者による発動判断はほとんど狭小なものとなってしまうおそれがあります。経済産業省、法務省の発表したガイドラインを前提とするならば、企業価値もしくは「脅威」の判断というものを、やや抽象化した概念として捉えて(このあたりがたいへん巧妙だと感じ入ったのですが)、司法は「発動までのプロセス判断を行うことに特化するもの」と役割を限定して、今後の社外第三者の議論の発展を期待できたのですが、この鹿子木決定を前提とするならば、独立第三者が企業価値、脅威の有無についての判断者としては期待できないということで一蹴されてしまい、今後の議論の発展がなくなってしまうところがちょっと悲しいところでもあります。

なお、たいへん著名なブログの管理人の方より、TBをいただきましたので、ふたつほどコメントさせていただきたいのですが、ひとつは鹿子木裁判官が無国籍的に企業買収を奨励するものである、とまでは、ニッポン放送事件とニレコ事件だけでは論じられないのではないか、と思う点であります。もし、新会社法の運用やこの企業買収防衛策の制作にあたって、米国流を本旨とするならば、先に述べましたようにもうすこし独立第三者の活躍に対する期待というものが感じられたのではないかな・・・と思います。鹿子木裁判官としては、たとえアメリカ流の株主利益の代弁者に期待を寄せたとしても、この日本の企業社会では無理があると考え、むしろ司法が政策形成のために前面に出た場合に、その実体判断が容易になるような「法と経済」を融合した解釈指針をもって今後の解決にあたる、という気概をもっていることが今回の決定理由に一番現れているものと思います。

そして、もうひとつの点ですが、この問題に司法が積極的に関与して、政策形成機能を果たすことへの批判が考えられます。以前のエントリーをお読みいただければおわかりのとおり、高裁赤塚決定のほうが司法の謙抑性を趣向するものとして私の好みに合致しています。ただ、現時点で実務界に混乱を生じさせるのと、すでに多数の企業が多額の費用を投下して信託型ライツプランを導入した後に、司法判断が出て混乱を生じさせるのでは、実務に及ぼす影響の度合いは比較にならないと思われますし、今の時点で司法の見解を示すというのも「ありかな・・・」ともちょっとだけ考えたりもします。鹿子木裁判官は最高裁の事務局で勤務されていた時期もあり、そういった司法行政についての自論もお持ちなのかもしれません。すこし話は変わりますが、債権放棄と無税消却に関する昨年12月の最高裁判決によって、倒産実務が大きく変わり、私のような破産管財人業務を行う弁護士にとっても、仕事のやり方が大きく変わりましたが、この判例がもっと早く出ていたら銀行の不良債権処理ももっと早く促進されていたのではないか、と思えてなりません。実際にこのような大きな政策形成機能をもった判例の効用を目の当たりにすると、企業社会に対する司法の役割(とりわけ今後飛躍的に増加する法曹の数からみても、その影響力が大きくなることは避けられない現実です)は、変えていかなければならない、という考え方を持った裁判官が登場することもあながち不思議ではないように思っています。また、ご意見ございましたらご教示ください。

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2005年6月21日 (火)

信託銀行が葬儀社と遺言信託提携

最近、よく拝読させていただいている熊谷弁護士のLatest Legitimacyのエントリーで、興味深い記事を見つけました。

中央三井信託が葬儀社と代理店契約 遺言信託の拡大へ

冠婚葬祭業者との遺産業務、遺言業務については、大阪の弁護士業界でも注目をしていたところでありまして、実は先週、私自身も「全国展開している大手葬儀社」の専務さんと協議をしていたところでした。またまた信託銀行に先を越されたというか、経営のスピードが民間会社と弁護士集団とは雲泥の差というか、この記事を読んでかなりのショックを受けました。まあ、昨年12月に信託業法が改正され、一般事業者との販売代理店契約が可能になりましたから、予想していたことではありましたが。

葬儀社という業界も、いわゆる所轄の官公庁というものがなく、また自主規制団体というのも目立ったものがありませんので、いわゆる東証、大証一部上場企業から、街のボッタクリ業者まで玉石混交だそうです。なかなか宣伝広告を行う手段に乏しいため、皆様ご存知の「互助会」システムによるものがあったり、「プレミアクラブ」のような生前から会員になっておいて、「いざという時」に割引を受けたり、将来の葬儀費用を生前から信託銀行に積み立てさせておいたり、とさまざまな趣向を凝らして顧客獲得の努力をされているそうです。おそらく今回の販売代理店契約というのも、生前における葬儀費用の信託と、それに伴う遺産などの法務、税務に関する相談サービスなどがセットになった商品の販売などが中心になるものだと思います。ただ、先日の専務さんの話によりますと、葬儀社さんが生前から前面に出てきますと「なんや、お前ら俺を殺す気か」と資産家本人の反感を買う可能性があるらしく、あくまでも信託銀行や証券会社あたりが相続対策サービス商品を提供して、そのときに葬儀社の名前をさりげなく表示するにとどめるくらいがベストだそうです。

日本人の保有資産1400兆円のうち、65歳以上の人が保有しているのが700兆円ということですから、遺言信託業務に信託銀行が積極的なのは納得できますし、弁護士業界も成年後見制度で主導権を握って、遺産業務、遺言業務に広報をかけようという意気込みも理解できるところです。しかし、もし遺産をめぐって相続人間で紛争が発生するような場合には、たとえ遺言を作成していたとしても紛争を完全に予防することはできませんので、弁護士が予防法務的に関与することにもメリットはありますが、相続人間でほとんど紛争発生の可能性がないケースでは、(平成15年の生前贈与に関する税制改正なども追い風となって)管理問題を含めて信託銀行に委託することにメリットはあるように思われます。

最近の家庭裁判所における遺産分割調停は、調停委員が話し合いで納得させるようなものが少なくなり、当初から裁判官が主導権を握って法律判断を駆使して解決していくタイプの審理が多くなりましたので、関与する代理人弁護士の遺産分割審判や調停に対する技術もかなり高等なものになってきましたし、またそのような高等な戦術を駆使できる弁護士の数も増えてきました。(たとえば遺産調査方法、遺産の範囲確定方法、生前贈与の主張、持ち戻し免除の意思表示の立証方法、寄与分、特別受益算定方法、後で遺言内容をひっくり返す方法などなど、もちろん税務についても同様です)したがいまして、遺産を残す方がどんなにキレイに残そうと努力しても、また信託銀行からどんなに優秀な弁護士の紹介を受けたとしても、それが法定相続分から離れた配分案であればあるほど、後でひっくり返る可能性は出てくるわけでして、弁護士にとって「メシのたね」になると思えば、今後も遺言業務、遺産業務への弁護士の関与た、たいへん増えてくることは間違いありません。今後かなりの年月にわたって、この弁護士業界と信託銀行あたりとの遺言サービス分野での競争が続くものと予想されます。

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2005年6月19日 (日)

運転再開、社外取締役に知らせず

宝塚線再開日、社外取締役に知らせず JR西日本

 神戸新聞ニュースからの引用です。きょうから宝塚線(福知山線)が始発から再開されましたが、いつ再開するか、などJR西日本の社外取締役には社内から知らされず、おふたりとも報道で知った、とのこと。

 間近に迫った株主総会(6月23日)ですが、それまでに被害者説明会(遺族説明会と負傷者への説明会)を開始し、同時に運転も再開したいというのがJR西日本側の強い経営判断によるものであることが理解できますが、やはり「社外取締役」は「お飾り」ということなんでしょうか。しかし、株主総会の開催と「非常に強く関連性のある経営判断」だけに、これを社外取締役の意見を聞くこともなく決めてしまう、ということが事実だとすると、やはり安全性への対応というのも、一時だけの対策にすぎないと危惧する意見にも納得してしまいます。

(追記 6月20日午後9時)

神戸新聞の社説にもうすこし詳しい記事が掲載されていました。

 あり得ないことが起こった

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2005年6月18日 (土)

東証社外取締役、1人除き独立性疑問・金融庁

東京証券取引所の社外取締役の独立性に疑問(金融庁)

金融庁は以前から上場企業に「社外取締役」を多数導入することに積極的ですから、このNYSEへの照会とその回答に基づく意見表明は、最近のゴタゴタとはそれほど関係ないものと思います。今後、独立性の強い社外取締役の導入を推進するにあたって、監督する立場にある取引所自身が「社外性」に問題を抱えていてはマズイ・・・というところからの表明だと思われます。

東証では、10名の取締役のうち、5名が(商法188条の定義にあてはまる)社外取締役ですが、そのうち2名が取引先(上場企業)の取締役であり、1名が株主企業のトップであり、1名が元々の法律顧問(前田教授)ということで、これらの方がたはNYSE基準によれば独立性に問題がある、とのことです。

以前から、法律実務家や法学者の論文などでは、この「社外取締役」と「独立取締役」とは異なるものである、という研究成果が出されておりましたが、実社会の出来事としてはっきりと問題になったのは今回が初めてではないでしょうか。(機関投資家や運用基金あたりの議決権行使基準などでも、まだここまで区別して意見表明はされていないのではないでしょうかね?私の無知でしたらゴメンなさいですが・・)比較的手に入りやすいところでは、「ビジネス法務7月号」の山田教授の論稿などが、もっともわかりやすく「社外取締役」と「独立取締役」の概念を解説されておられるようです。

日本のビジネス社会で、商法188条の定義する「社外取締役」の適任者を見つけること自体苦労するのに、ましてやアメリカ流の「独立取締役」を導入するというのも、ちょっと無理かなあ・・・というのが今の私見なんですけど、ただ以前から申し上げておりますとおり、社外性に加えて独立性を強化することは、裁判所におけるプロセス審理に影響を及ぼす原因にはなるのでは・・と考えております。経営判断法理の適用場面とか、内部統制システムの構築義務の履行状況とか、最近問題となりました企業買収防衛策の発動場面の判断など、裁判所が実質的な経営活動の妥当性までは踏み込まないけれども、その妥当性を推認するためのプロセスまでは判断する、という場面において、「独立取締役」が関与していたことが会社側に有利な事情として考慮されるのではないかな・・・と考えています。

(追記)HardWaveさんのエントリーより抜粋

厚生年金基金連合会は株主議決権行使基準において独自の社外取締役の独立性に関する判断基準を定められています。その中には、NY証券取引所規則のようなものに加え、大株主や主要取引先なども独立性はないと判断するとしています。

とのことです。ご指摘ありがとうございました。

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2005年6月17日 (金)

株主価値と社会的責任論(CSR)

企業のCSR経営ということを最近よく耳にします。日経のCSRプロジェクト記事では、株主価値を最大にすることこそ、CSR経営の本質である、と言われたり、いやいやそれはアメリカ流であって、欧州流の「ステークホルダーの利益と株主の利益をそれぞれの企業が比較考量して、持続的成長をめざす手法」が本流だ、と別の本では言われたいたり。いずれにせよ、「企業の社会的責任」という言葉から、ただちに会社法上の法的義務が発生することがないというのは現状の把握としては正しいと思います。

たいへん痛ましいJR福知山線の事故で、電車が衝突したマンションの住民の方がたとJR西日本との補償交渉が始まりました。私の感情論からすれば、この住民方への補償については、購入価格を上回る補償、具体的にはすでに組んでいる住宅ローンの金利を含め、別の同一条件でのマンションが購入できるだけの金員補償+それぞれの迷惑料を支払うべきか、と思います。

しかしながら、裁判における現在の損害賠償理論からすれば、このような水準まで賠償する必要はないものと思われます。そこで、もし取締役らが、私の意見のような補償金を住民の方がたへ支払ったとすれば、JR西日本の株主からすれば、なぜ裁判をされても届かないような金額の補償をするのか、その合理的な説明をせよ、と取締役へ釈明を求めることも考えられますし、理論的には株主代表訴訟を提起されることも考えられるのではないでしょうか。

このようなとき、企業の社会的責任という言葉によって、なんとか取締役の説明義務を尽くすことはできないでしょうか。たしかに、本件マンション住民への補償金額は、通常の法的な支払い義務を超えたものかもしれないが、真摯に対応することで大きな事故を発生させた企業の誠意を地域住民の方がたに評価していただき、長期的にみれば株主の価値向上にもつながる、と。もしくは、このまま法的交渉が長引けば、それだけマスコミによる非難も継続し、企業の名声(評価)が毀損されてしまうことよりも、若干法的な根拠のない上乗せがあったとしても、そちらによる毀損のほうが企業価値低下という面からは少ないものであると。

ただ、この手法によると、「それではどういう場合に超法規的措置をとり、どういったときには賠償理論どおりの措置しかとらないのか、明確な基準はあるのか」と聞かれた場合に、株主に切り返す言葉があまり見当たらないように思います。広く報道された場合に限る、と説明したとしても、なんとなくあいまいな説明になってしまいそうですし。

感情と正義感で自分の意思を律することが可能な一般株主ならば、代表訴訟を提起するということも考えないでしょうが、他人から大事なお金を預かって運用している機関投資家であれば、そんな感情のことなどいってられませんし、むずかしい問題だなあと思ってしまいます。

PS 大阪弁護士会でも、兵庫県弁護士会の救援活動に次いで、福知山線事故の被害者の方がたへの法律相談を開始しました。おもに精神的に負傷された方のための救済を中心に支援しているようです。

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2005年6月16日 (木)

ニレコ抗告審決定への意見(総括)

なんとか早足で東京高裁15民事部の抗告審決定、全文読んでみました。

昨日、ネット記事で決定要旨を読んだときとは違い、実際に決定全文を読みますと、異なった印象を持ちますね。(これだからきちんと判決や決定に目を通さないと、意見を書くのはコワイです。 Σ(^^;)゛)
私の意見をひとことで言うと、「ニレコの代理人の方からすれば、抗告審まで争った甲斐があった」ということですね。すくなくとも、この決定を高裁が出したということは、ほかの信託型ライツプランに対する司法の影響が、かなり薄まったといえるのではないでしょうか。
昔から「司法の謙抑性」(司法は当事者の紛争解決に必要な範囲で法解釈、事実認定を行うものであり、解決の必要以上の社会に影響を及ぼすことは慎むべきである)といいますが、この高裁決定は実に「オトナの判断」だと思います。本件新株予約権の発行が「著しく不公正な発行」かどうか、という点について、防衛策の厳格要件やその相当性などについて深く立ち入ることなく、既存株主が本件発行によって不測の損害を被るかどうか、という点だけに絞って「著しく不公正な発行」と認定し、その余の論点には触れていません。さらに、保全の必要性についても、原審では最高裁決定(平成16年8月30日 住友信託、UFJ仮処分決定事件)の保全要件(保全の必要性に関する要件)との抵触について、かなり真正面から取り上げて、事後の損害賠償請求では償えない損害がある、と認定したのに対して、この抗告審は商法上の実体法としての「差止請求権」の存在を根拠として、「実体法」の解釈という手法を用いて(つまり、回復不可能な損害とまでいわなくても、実体法で差止請求権が規定されてるじゃないか、株主が「損害を受けるおそれ」があれば実体法で差止が認められるのだから、その保全目的のための必要性がそんな厳格な要件になるわけない)として、「民事保全法」上の要件を解釈した最高裁決定との矛盾がまったく発生しないように巧妙な解釈を施しています。(この点、保全異議審のときに、一部債権者側代理人の主張のなかでも触れられていたのですが、そこでは保全法上の「必要性」解釈というレベルを超えたものではありませんでしたので、最高裁の判断との整合性を問題とされていたようです)さらに、債権者の特色(投資ファンド)を持ち出して、事後における損害回復では償えない面もある、と締めくくるあたり、プロの責任ある法律家としてレベルの高さを感じました。(あくまでも、私の印象なんで・・・ )
司法の政策形成機能を強く打ち出した鹿子木決定と、オーソドックスな「オトナの裁判」を見せつけた赤塚決定とを比較した場合、話題として取り上げておもしろいのは鹿子木決定ですが、やはり私個人の好みとしては今回の高裁決定を推したいと思います。防衛策のスキーム如何によって、証券マンの方々が一般顧客に奨める銘柄が変わる、という事態になるのは時期尚早ではないでしょうか。今回のニレコさんのプランは特別だった、でも他のプランへの影響はまだわからんよ、そういった印象を残したまま、もうすこし買収防衛についての最適方法を(ライツプランということだけでなく)みんなで検討する時間があってもいいように思います。今回の高裁決定が地裁決定の影響を払拭するとはいえませんが、冒頭に述べた結論のとおり、防衛策導入へのいろいろな可能性を残したまま、司法判断の幕を引けたのではないか、と認識しています。

PS

この高裁の論理と、保全法解釈に関する最高裁の判断内容を綜合すると、たとえば事業再編時の独占交渉権に関する契約書のなかに、「AはBから、独占交渉の趣旨に反する行動があった場合には、差止請求されても異議ないものとする」という明文規定を設けておけば、独占交渉権侵害について交渉差止め仮処分が認容される、といった結論になるのでしょうかね?どっかで使ってみたいですね。

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2005年6月15日 (水)

ニレコの抗告審やはり差止認容(決定全文あり)

(6月16日午後5時 追記)

ちょっとわかりにくいのですが(高裁のホームページのメインには表示されていないので)高裁の6月15日保全抗告棄却決定の全文が掲載されておりますので、お知らせしておきます。

 ニレコプラン差止に関する抗告審決定全文

(理由中、一部マスキングされているところがありますね?なんでだろう。)

なんだかんだと本業が忙しいため、また夜にでも目を通したいと思います。

(追記おわり)

本当に15日の夕方までには、決定は出るもんですね。

朝日ネットの決定要旨を読みましたが、あまり目新しい論点は出ていないようです。ライブドア・ニッポン放送事件のときは、三審理とも、それぞれ特有の意見があって、面白かったのですが。(高裁HPは全文掲載っていうのは遅いような気がします。)

ニレコは臨時取締役会で新株予約権発行取りやめの決議をされたようです。とりいそぎ速報のみにて。

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総会リハ(その1)

こちらの会社は顧問弁護士の先生が毎年総会指導をされないので、どうしても総会の質疑応答に疑問が出ると私のほうへ視線が集まる。。。

「代行さん」が株主役になって、いろいろと意地悪な質問。社長「発言の際には番号と名前を言ってください」株主役「え?名前は言わないといけないんですか?だって、個人情報でしょう?言いたくなければ番号だけでいいのでは?」社長「まあ、いままでの決まりですから・・、ってこれでいいの?」一同「・・・・・・」

私(って、取締役でもないのに、発言していいのかどうかわからないけど)「ここは株主様の大切な発言を記録しております。私ども監査役は本当に株主様の権利を適正に行使しうる総会が行われることも、株主様の利益保護のため監視しなければなりません。株主様の特定に、間違いがあっては困りますので、どうか上のお名前だけでもご自身で述べていただき、正確な議事録が作成されることにご協力いただきますよう、お願いいたします。また、企業の営業目的での個人情報取得とは趣旨が異なりますし、そこのところよろしくお願いいたします」などと、説明。

でも代行さんの説明によると、今年から株主発言の前に番号だけでよし、とする企業が目立って増えているとのこと(先に言ってよ・・・)

代行さん「さっき、社長は社外取締役の導入に前向きとか言っておられたけど、なんで役員数が半減するんですか?矛盾してません?」一同「・・・・・・・」んで、またこちらに視線。。。まあ、こんな質問がいろいろと出てきます。代行さんは、6月29日まで毎日、どっかの総会リハだそうで、参考意見をいろいろと聞く。

気になったのは、議長や担当取締役が株主様からの質問を受けて、すぐに想定問答集から答弁を探すこと。もうすこし、株主様の質問の趣旨を明確にするために、問い直してみたり、審議事項との関連性について株主様に説明してもらうために、質問を切り返してみたりして、株主様との対話の姿勢があってもいいのではないか。そのほうが株主様のほうも、質問に対して緊張感が出てくるし、「ああ、質問してよかった」と納得してもらえると思うのだが。。

でも、総務部、法務部の方々は「あんまり余計なこと話さないで」と暗黙のプレッシャーを醸し出している。。。

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2005年6月14日 (火)

談合事件の弁護士費用は誰が負担するの?

これはないと思っていましたので、ちょっと意外でした。(毎日新聞ネット記事です)

橋梁談合、3社が容疑者の弁護士費用を負担

回答してきた企業のうち3社ですから、回答拒否とされる企業を合わせると、もっと多くの企業が、談合で刑事被告人もしくは被疑者とされている社員の弁護士費用を負担しているようですね。

違法行為をしていた社員の私選弁護士報酬を会社が負担する、ということは、会社は違法行為を行った担当社員の面倒をみる、ということですから、世間的にみれば言い訳ができないと思います。少なくともコンプライアンス経営ということを標榜しているのであれば、またすでに違法行為を認めているのであれば、なぜ会社が弁護士費用を支払うのか、ちょっと対応に苦慮するのではないでしょうか。

会社を責めるのは簡単ですが、逆にこのような場合に弁護士費用を会社が負担することを株主に説明する理由というものを考えてみました。

①たとえ捜査段階で、担当者が事実を認めているとしても、判決が確定するまでは無罪の推定がはたらくわけであるから、その時点までは会社が立替ておいて、有罪確定となった場合には担当者に立替分の請求を行う予定である。

②担当者が有罪となると、企業の行政処分にも影響を及ぼすものであり、企業の利益を守ることと、担当者の刑事被告人としての地位を擁護することとは利益相反の関係には立たないし、むしろ企業の利益を守るためには刑事弁護人にも同一の弁護人に就任してもらうことが望ましい。したがって刑事弁護士費用も負担した。

③たとえ担当社員が談合をしており、それが違法行為だとしても、社員が会社の利益のためにしたことによる面倒を会社がみることは当然である。仕事熱心な従業員あっての会社であり、そのような会社第一の精神を持つ社員が存在する企業だからこそ、株主様にも長期的な利益を還元できる。コンプライアンス経営といっても、そこにはおのずと限界がある。

もし、株主代表訴訟を提起された場合には、このような理由になるのでしょうか。ただ、弁護士の立場からしても、やはり2点ほど疑問が残ります。

1点目は、公取委の立入検査のときに、あれほど「談合はない、公取委の調査はけしからん」と言っておきながら、検察庁が動くという報道がなされるやいなや、各社とも「談合はあった、捜査には全面的に協力する」と発表しているわけで、まずこの時点で、公取委立ち入り段階での担当弁護士としては辞任すべきではないか、という点。弁護人がすでにこの時点で談合認定のための証拠にアクセスしていた可能性が高いと思われるからです。

2点目は、やはり「弁護士費用を会社が負担する、というのはマズイ」と考えて、個人負担になぜ切り替えなかったのか。弁護士自身の倫理上の問題も発生するようにも思われますから、やはり弁護士費用を企業が負担しているところでは、その理由をきちんと公開すべきだと思います。

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ニレコ保全異議決定全文を読んで

総会リハーサルのため時間がありませんし、明日にでも抗告審決定が出るんじゃないか、という段階ですから、深い検討はできませんが、やっぱり一言エントリーしときます。

私は決定理由よりも、まず第一に「債務者側代理人がどこに力点を置いて保全異議を申し立てたのか」そこが一番知りたかったところです。残念ながら「総花的」な主張となっており、いずれの論点も、債権者側代理人から余裕をもって反論されてしまった、という印象です。(決定文にまとめられた債権者の主張、債務者の主張からの印象ですので、誤解があれば訂正いたします)とくに、保全の必要性に関する鹿子木決定批判の部分では、初歩的なミスもあったりして、短時間で異議申し立てをしなければならない債務者代理人側の苦労がたいへんなことがうかがわれました。「逆転」という実をとることを最重要課題とするのであれば、市村決定が理由部分でもっとも逡巡していた部分、つまり保全の必要性に関する論点のうち、最高裁判決との整合性の部分にエネルギーを集中してもよかったのではないかな・・・と思ったりしました。ただ、そのような方法ですと、せっかくの保全異議が、ほかのライツプランに影響を与える論点について(鹿子木決定の修正は)無視せざるをえない、ということになりそうですが。

さて、この決定理由を全文読みまして、通常の信託型ライツプランへの司法判断の影響というものが、ほぼ理解できましたでしょうか。平時に株主総会の決議を得て、有事にライツを消却しない、という判断を取締役会(もしくは特別委員会)が決議する、というスキームを採用している場合、新株予約権の発行もしくは有事の新株の発行自体、差止の対象となりますでしょうか。数日前のエントリーで紹介いたしましたとおり、西濃運輸さんは、明確に「差止はされない」と株主様に説明しておりますし、私は「差止の可能性大」と述べました。

西濃運輸さんの説明では、このニレコの事例は「取締役会決議で平時に導入したものだから、有事発動の条件がきわめて厳しいが、平時に株主総会決議で導入すればもっと有事発動の条件は緩和される」という論理が前提となりますが、この保全異議決定を読んで、その論理が確認されたとは思えません。むしろ、裁判所は「平時において、取締役会が株主総会より有事の際の企業価値破壊者からの防御のために、緊急避難的防衛措置の委任を受けることはあったとしても、それ以上に企業価値の大小を比較検討するところまでの委任はできない。企業価値の比較、どちらが経営者としてふさわしいか、ということは本来的に株主が決めることである」と考えているように解釈するのが素直だと思います。かりに一歩譲って、平時に株主総会での決議で導入することで、有事発動条件が緩和される(なぜ株主総会の決議だと緩和されるのか、ちょっと私には理解困難ですが)としても、取締役会が恣意的な判断ができないほどに条件が明確でなければならないわけですが、西濃さんのスキームの場合①社外第三者による取締役会判断への拘束性②行使条件の明確性、いずれの面においても東京地裁決定を前提とする場合、手段の相当性に問題があると思われます。

また、抗告審の判断が待たれるところです。

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2005年6月12日 (日)

組織のおはなし

いくつかのブログで「組織」の話がテーマとなっておりましたので、私の見渡せる範囲でのお話をさせていただきます。

私は社外監査役のほかに、上場企業でコンプライアンス委員や不祥事再発防止のアドバイザリーボード委員などをさせていただいております。大学卒業して20年以上経ち、組織というものの一員になることは、これらの仕事を始めるまではまったくありませんでした。いま「社内取締役対社外取締役」などの構図で緊張関係が働く、みたいなオーソドックスな話題が「企業統治論」のなかで盛んに言われておりますが、実際に組織の中におりますと、もっと生臭い緊張関係があります。それは社内抗争といいますか、「会長派」と「社長派」、「生え抜き派」と「銀行出身派」の役員構成の渦中で「宙ぶらりんの社外派」のような存在になってしまい、私の意見が、あるときは「会長派」に都合よく引用され、あるテーマでは「生え抜き派」に重宝がられる、といった具合で、思い描いていた理想とはかけ離れた現実の世界を経験しなければなりません。ビジネスの栄光を勝ち抜いてこられたような著名な経営者が「社外」として迎え入れられた場合には、このようなこともないかもしれませんが、役員よりも若い人間が、専門をかわれて中枢部門に参画するような場合には、この「社内力学」との緊張関係もかなりやっかいなものです。最初はわからなくても、1年2年とおつきあいしていれば、いくら社外の人間といってもこの「社内力学」がわかってしまいます。先日、社外取締役の人数について、司法判断との絡みでエントリーを書きましたが、実際の社外者の機能という面からいっても、社外者が社内者と拮抗するほどに数において存在しなければ、理想であるところの「社内取締役対社外取締役」という図式が実現しないように思います。また、「こんなに社外者が増えたらえらいことになるぞ」という緊張関係が、社内を一枚岩にして、ひょっとしたら無駄な「社内力学」によるリスクを低減させる方向に働くかもしれません。(いやいや、そんな甘くないですぞ、という声が聞こえてきそうですが・・)

門外漢にもうひとつだけ偉そうに言わせてもらえるならば、社外取締役や特別委員会に少しばかりの力があるとするなら、「専門的な知識、見識を経営に応用する」のは二の次でして、その前に大事なことは、そんな「社内力学」を少しでも捻じ曲げて、「このままだと企業買収なんか起こらなくても、自分たちの保身が危ないかも・・・」くらいの危惧を抱いていただくことが必要!、と痛感します。。。企業経営や業界の細かい実情をわからない人間がそんなに増えてもいかがなものか、とおっしゃる方も多く、また現実に社外取締役不要論を強く唱える「元気のいい会社の役員さん」もいらっしゃいます。でも「組織の宿命」というか、大きな組織であればあるほど、「無駄なエネルギーの消費」があるわけで、この社内力学を変容させることに、なにも専門の業界事情や業界知識は必要ありません。

そんなわけで、きょうは法務とはまったく関係のない話になってしまいましたが、社内力学に負けてしまっては社外取締役、社外監査役制度など、まったく機能しないという結論(いや試論?)であります。

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2005年6月11日 (土)

信託型ライツプランに対する西濃運輸の見解

6月9日、西濃運輸さんは、自社ホームページにおいて、導入予定の信託型ライツプランが株主へ迷惑をかけるものではなく、その発行が適切なものであることを(ニレコの新株予約権発行への東京地裁決定を引用しながら)説明しています。

信託型を採用していることで、実質的には随伴性のある新株予約権を、行使時点の株主に交付することから、買収希望株主以外の一般株主に不測の損害を与えるものではないこと、取締役会決議によって導入するのではなく、株主総会の特別決議によって導入するものであるから、有事における発動要件については相当性があることなどを、鹿子木決定と比較しながらかなりわかりやすい説明で「Q&A」方式でなされています。

ニレコの新株予約権発行と異なり、信託型を利用していることによって一般株主に不測の損害を与える可能性が薄いことや、現株主がこの信託型ライツプランを導入することによって明確な損害を被る可能性が低いことについては納得できます。しかしながら、従前から私が鹿子木決定のうち、もっともライツプラン導入にとっての「足かせ」となりそうな「悩ましい問題」と考えていた点(「ニレコに対する東京地裁決定への意見」参照)への回答部分については、よく読んでも私の頭では理解できないのです。

西濃運輸さんの上記「Q&A」のうち、Q15の部分が、私が以前より「悩ましい問題」として考えている点への西濃運輸の回答です。新株予約権を実際に行使する場合の要件ですが、鹿子木決定は、かなり要件を厳格に考えているのは、ニレコのプランが「取締役会決議に基づいて発行される場合」だから、株主総会の意思を反映した西濃運輸の信託型ライツプランとは場面を異にしており、直接問題となるものではありません、と述べておられます。また、実際の鹿子木決定の理由中の文言を引用して、厳しい行使条件は、あくまでも取締役会決議によって発行された場合に限定されるのだ、ということを力説されています。私も、この鹿子木決定を最初に読んだときには、この西濃運輸さんと同じように考えました。(というよりも考えたい、と思いました)しかしながら、まず西濃運輸さんが鹿子木決定から引用している文章は、一般的な行使条件についての鹿子木決定の見解を述べた部分ではなく、その後につづくニレコ事例への「あてはめ」の部分を引用しているにすぎないのでありまして、裁判官の法律解釈(法律判断)の後の(その判断を前提とした)事例へのあてはめ部分である以上、本事例を紹介する際に「取締役会決議の基づく場合には」という文章が導入されることは至極あたりまえのことでして、文言の反対解釈として、株主総会による承認がなされた場合を排除している、とまで読むことは明らかにおかしいと思われます。

また、西濃運輸さんは、取締役会で発行を決議した場合と株主総会の承認を得て導入を決定した場合とでは「場面が異なる」と述べておきながら、それでは「株主総会で承認を得た場合には行使要件が緩和される」とは一切述べていないところが歯切れが悪いです。行使要件がもし緩和されるとするならば、それはなぜ緩和されてもよいのか、そのあたりを明確に説明できないところが悩みといえるのではないでしょうか。

さらに、鹿子木決定がライツプランの有事における行使条件について、一般的な見解を述べている部分(決定書では2の(2)のイ)では、会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面においてでも、取締役会決議でライツプランを導入できる場合があることの説明として「次期株主総会までの間において、会社に回復しがたい損害をもたらす敵対的買収者が出現する可能性をまったく否定できない」ことを理由として掲げています。ここだけを読むと、たしかに「要件が厳格なのは、ニレコが取締役会決議で発行するからなのかな」とも考えられるのですが、その後に鹿子木決定は「ただ、この場合においても新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みが必要というべきであり」とされていますので、この理論からすれば、事前に株主総会での発行承認を得た場合と、取締役会で発行を決議して事後に(追認されて)株主総会での承認を得た場合とで、その発動場面における行使要件を一方は厳格で、一方は緩和されてもよい、と解釈することは矛盾を生じます。つまり結論としては、事前にきちんと株主総会での承認を得た場合というのは、株主に不測の損害を与えないものであることについて防衛策の適法性を高めることや、手段の相当性のうち、行使条件の基準が明確となるとなることによって、現経営者側の相当性立証が容易になることへの利点はありますが、発行時のスキームの相当性のうち、行使条件が比較的緩和される、ということまでは鹿子木決定では明確にされていない(むしろ、取締役会決議で発行する場合と変わらない)と思われます。

ほかにもまだ2点ほど、「これは苦しいのでは・・・」と思われる部分がありますが、ちょっと時間の関係でまたの機会にさせていただきます。なんの利害関係もない外野の弁護士の見解ですから、いろいろ間違ったところもあるかもしれませんが、週末にもしお時間がございましたら、一度ご検討いただきたいと思います。

なお、ニレコ保全異議審の決定についてはまだ読めておりません。

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2005年6月10日 (金)

ニレコの新株予約権発行差止異議審

ニレコの防衛策に関する保全異議決定が出ましたね。同じ東京地裁第8民事部の別の裁判官三名によって審理、決定がなされましたが、結論は原審と同様、無担保での差止認容ということだそうで、ニレコは即時、保全抗告を高裁に対して行ったそうです。(6月16日が発行予定日ですから、それまでに抗告審が決着するのでしょうかね?)

明日ころに東京地裁のホームページに異議審の決定全文が出るものと思いますし、まだネット記事程度しか読んでおりませんが、今年3月末現在の株主に対して新株予約権を発行する、というニレコ防衛策特有のスキームの部分について、「株主全般に不測の損害を与える」ということが被保全権利の認定、保全の必要性認定のいずれの場面でも強調されているようですから、一応ほかのライツプランへ与える影響というのは少ないのでは、と思います。というか、特定日における株主への割当、というスキームについてはガイドライン発表当初から相当性に疑問あり、とされていましたから、ちょっとひっくり返る可能性は少ないとは予想していましたが、ただ原審(鹿子木決定)で、スキームの相当性があるといえるためには、(たとえ防衛策の策定に株主総会の意思が反映されていたとしても)独立した第三者の意思決定に拘束された取締役会の判断が「濫用的買収者から一般株主を守るための緊急避難的事態かどうか」という点のみに限られる、というかなり限定的な場合しか発動ができないような趣旨でしたから、そのあたり、(もし株主総会の承認をもってライツプランを導入した場合に)取締役会(もしくは特別委員会などの独立第三者機関)の構成や、発動できる要件の解釈など、緩めの防衛策を肯定できるような趣旨のことが記載されているのかどうか、私個人的には非常に注目をしております。(ネット記事からでは、そのあたりまでは読み取ることができませんでした。ただ、判決や決定というものは、そもそも事案解決に必要な部分でのみ理由を付せば足りるとも言えますので、この裁判官の判断で、「一般株主に不測の損害を与えるような防衛策ということであれば、それだけで相当性なし」と蹴ってしまうこともできるのでありまして、そのほかの論点に言及していない、ということも考えられます。

来年の新会社法が施行されますと、スキームの相当性に問題のある新株予約権を使った防衛策に対しては導入部分から司法判断の対象となりやすい(差止請求+新株予約権発行無効確認訴訟 現行法では無効確認訴訟は不適法との判例がありますが、新会社法案では法案828条に明文化されています)のですが、株主総会の承認を得た形であれば、なんとか乗り切れるのではないでしょうか。ただ、鹿子木決定を前提とするならば、株主総会の承認を得た形であったとしても、有事における防衛策発動の場面において、発動要件が非常に厳格なために、どのような結論となるのかは、不透明だと思われます。(私個人の見解としては、鹿子木決定の要件に加えて、新株予約権の行使できる株主と行使できない株主を差別することが株主平等原則違反になる、ということも見逃せない論点だと思っていますが)

さらに、実際に新株予約権を個々の株主に付与する時点における課税問題についても、現時点では不透明のようですね。とりあえず付与される時点では一般株主は雑所得に対する税金を支払う現金をどこからか用意しなければなりませんし、申し込み時点における株価と行使可能となる時点の株価次第では、価値に見合う以上の余計な税金を支払わなければならない事態になるようです。本当に発動されるような事態というのは、確率としては僅かかもしれませんが、その僅かの確率が現実化した場合、立法的な解決をほどこしていない現状では一般株主に多大な迷惑をかけることも予想されます。

平時のライツプランを検討するにあたっては、リスク回避のために、予備的な防衛策をも検討しておくのが無難かもしれませんし、そもそも司法判断は平時における買収防衛策の導入にどうも否定的な見解が強いように思われますから、司法リスクを考えた場合、株主価値を高める別の方策によって、「副次的に防衛策となりうるような」手段をとる企業も増えるかもしれませんね。恐ろしいのは、買収防衛策を導入すること自体が「現経営者の保身であり、経営に自信のない証拠」と受け取られて、株価が漸次的に下がってしまうことではないでしょうか。

明日あたり、保全異議決定の全文を読んで、すこし意見が変わっていましたら、ゴメンなさいです。。

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2005年6月 8日 (水)

裁判員制度(弁護士の視点から)

ビジネス法務というこのブログの趣旨からは逸脱しますが、いろいろなブログで話題になっていますので、弁護士としての視点(といいましても、私だけの持論ですが)から「裁判員制度」についてひとこと語ります。

まず裁判員制度となって、一番大切なのは身なりと法廷での「しぐさ」です。模擬裁判に参加して、模擬裁判員になった市民の方の感想は「人を裁くことに参加する当事者が、本当に真剣に仕事をしているかどうかに疑問をもった」とのことです。私にとっては毎日の職場であっても、被告人や被害者、裁判員にとっては一生に一度、来るか来ないか、という法廷で、居眠りをしたり、鉛筆をぐるぐる回しながら相手の尋問を聞いていたり、すこしだらしない格好の服装をしているだけで、「この人は本当にココロから被告人が悪くない、と思っているのだろうか」と勘ぐった、という意見が多いようです。検察官も弁護人も、まずは当事者として身なりをただし、被告人、被害者への接し方に留意することがまず第一です。

裁判所に市民感覚を、といいますが、本当に市民感覚を刑事裁判にとりいれることができるかどうかは、ひとえに弁護士の努力にかかっていると思いますよ。たとえば、弁護士さんのブログに裁判員制度よりも、まずやらなければならないのは取調べの可視化だ、との主張がありました。具体的に、そのような問題点がある事件に、私が国選弁護人として選任されたとしたら、どうするか。

取調べが異常に厳しくて、やってないことを自白してしまった、と被告人が法廷で主張しているケース。たとえその被告人が自白していたとしても、またある程度、その被告人が犯罪を犯していたかもしれないという「グレー」の事件の場合、私なら堂々と無罪主張をします。

「みなさん、この被告人に対して、こんな今の日本では信じられないような密室の取調べが行われていました。みなさんは、いまこの被告人が本当に犯行に至ったと確信していますか?100パーセントそう思いますか?もし、1パーセントでも良心があるのなら、これからも同じような苦しみで無実の罪をかぶせられてしまう人を一人でも少なくするために、あなた方の手で違法な捜査を変えていってください。一生に一度しかないこの機会に、この法廷という場で、あなたが日本を変えたという証を、ここに残していってください。最高裁も、これまで、違法な捜査で押収した証拠は、有罪の証拠として用いてはならない、という判例を残しています。実際の談合などの捜査では、司法取引すら行われています。大きな利益を守るために、いまできること、それはなにか、みなさんの良心に私は問いたいと思います」

もちろん、ある程度、自白強要のおそろしさ、というものを法廷で立証できたことが前提となりますが、悪を絶対懲罰するために多少の過誤も許されるとみるか、善は絶対保護するために、多少の悪の取りこぼしも許されるとみるか、一般市民に問うのは、すべて弁護人の努力次第だと思っています。

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監査役と会計監査

監査業務として、会計監査人との連携問題としては、内部統制構築やその運営状況の監視などが話題になると思うのですが、今日はちょっと気になった別の話題ですが。。。

現商法によれば、大会社の場合でも監査報告の最終責任は会計監査にしても監査役にありますよね。監査役会で会計監査報告書の最終チェックはしなければいけませんし。その会計監査報告なんですが、現状がなにも変わっておらず、また会計基準に変更もないのに、ただ会計監査人の指導方法が変わって業績内容が変わる可能性がある、という場合、監査役はどのような立場に立てばよいのでしょうか。

たとえば昨年まで、長期フラット為替(10年モノ)をヘッジ会計として適用していたところ、会計監査人が「これはヘッジ会計が適用できないことになったから、金融商品の時価評価として損益計上しないといけません」と言われ、もし会計監査人の指示に従わないと限定付適法意見もしくは不適法意見しか出せないとの雰囲気になったら、監査役としてはどうしたらいいのでしょうか。会計監査人が最終判断をするのではなく、会社が判断しなければいけないわけですから、「会計士さんに言われたので、こう変更しました」などと言うわけにもいかず、かといって今までの報告書が不適切でした、というわけにもいかず、でも会計監査人の意見を無視するわけにもいかず、対応に苦慮するのではないでしょうかね。

公認会計士協会関連の公式団体が、フラット為替については指針の解釈として、リスクヘッジではなく、デリバティブ投機であると公表した、したがってヘッジ会計を適用せず金融商品の評価指針にしたがっての評価に切り替えたほうが妥当と考えた、したがってこれまでの報告は不適切とは言えないが、望ましい方向へと変更したものである、とか、ちょっと曖昧な表現で逃げるのが無難かもしれません。しかし、会計基準も実務指針もなんら変更がないにもかかわらず、ただ公認会計士協会の内部組織から出された文書一枚で監査役が変更を決意した、というのは、監査役にとって適法な行動かどうか疑問が残り、会社に対する忠実義務もしくは善管注意義務に違反するおそれがあるようにも思われます。会計士さんと真摯に協議したうえで会計士さんの意見を重視したことの結果である、ということはどっかに書きたいところですが、それを書くと、じゃあ今までの会計士の意見は不適切だったのか??と突っ込まれる気もします。

長期フラット為替予約に関する公認会計士協会の内部組織(正確にはリサーチセンター)による公開文書というものは、指針の解釈なのか、それとも指針の解釈を超えたものであるか、ということが、解釈自体の「誤り」も含めて訴訟の争点となり、東京地裁では今年2月末に公認会計士協会側が勝訴判決を得ております。ただし、この裁判の判決は読んでおりませんが、原告ご自身のHPで読むことができる原告、被告双方の訴訟書類からすると、おそらく東京地裁では、本案にあまり踏み込むことなく、被告である公認会計士協会を勝たせていると思われますので、たとえ控訴されているとしても、もっとも重要な争点への裁判所の判断が下されるかどうかはちょっと疑問です。

内部統制に関する会社側と会計監査人との意見の違いから、「不適法」とされるというのであれば、なんとなく理解できるのですが、なんにも会社側に落ち度がないのに、いきなり会計監査人から会計基準の解釈を変更しないと不適法となりますよ、などといわれる事態というのは会社としても納得いかないでしょうし(解釈の変更なら、たとえ従わなくても「不適法」ではないやろ!といいたくなりますし)、またもっとも責任問題の発生する監査役としては、たいへん対処に困る事態が予想されますが、このあたり実務に詳しい方の意見もお聞きしてみたいものです。

もし、この問題で会社が会計監査人側に文句を言えないとするならば、つぎは長期フラット為替によるリスクヘッジを勧めた銀行サイドへ文句を言うことになるんでしょうか。いずれにせよ、最初の段階で会計士協会と金融機関とで、こういったデリバティブ商品が企業会計上どのように取り扱われるのか、統一見解を検討してほしいところです。

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2005年6月 7日 (火)

社外取締役の人数と司法判断への影響

6月6日の日経「スイッチオンマンデー法務」特集記事では、社外取締役の経営重要局面での行動を過去の事件から拾い出して、「独立性を保ちつつも(社外取締役の)数も重要である」との意見が書かれていました。

ライブドア・ニッポン放送の事件の場合、ニッポン放送の社外取締役全員がフジテレビに対する新株予約権発行議案に賛成した、ということで、社外取締役制度が機能しなかったと評論されています。この事件の場合、ニッポン放送の取締役は19名で、うち社外は4名でした。一方、三菱東京フィナンシャルグループとUFJホールディングスとの統合の際における三井住友フィナンシャルグループによる敵対的買収事案の際においては、UFJHDの取締役会構成は取締役7名で、うち社外が3名でした。

この両事件はよく報道などで比較されていますが、UFJHDの判断はおおむね適法性、合理性において問題はないと評価されており、SMFGの買収提案を採用しなかったことについて専門家などから詳細なアドバイスを受けて、十分な時間をかけて株主価値を検討した、とされています。

たしかに、今朝の日経特集記事を読んで、やはり社外取締役の人数というものもかなり重要である、ということは否定できないように思います。というのも、私もUFJHDの場合は十分な検討が行われたという認識を持っていますが、それはやはり取締役会での「4対3」というクロスマジョリティーがあったからこそ、取締役会で十分な審理への方向が決まったものと推測されるからです。もし、ニッポン放送取締役会においても、19名のうち、倍の8名程度が社外取締役で占められていたとするならば、有事導入防衛策でも司法判断において適法とされる可能性の高かった「グリーンメーラー」であったかどうか、という点まで慎重な調査がなされたかもしれません。15対4という現実の取締役比率では、どんなに反対してみても、結論を左右できるほどのものではなく、11対8程度の意見分立ということであれば、買収希望者自身への調査や、どちらが経営するほうが株主価値向上に資するかなど、徹底した調査への動機付けとなったかもしれません。たとえば、今後買収防衛策の発動時の企業行動が司法判断の対象となるならば、どのようなプロセスによって発動に至ったかという争点において、この社外取締役の人数比率というものも、「公正中立の第三者」なる要件該当性を判断するときの一つの指針になろうかと思われます。

ただ、そうは言いましても、著名な大企業であればともかく、通常の上場企業が、ふさわしい社外取締役を何人も招聘することは物理的にも、費用的にも至難の業だと思います。したがって、社外取締役の人数に代わる具体的な評価方法を考える必要があると思いますし、それは社外取締役の平時における株主やステークホルダーとの緊密なコミニュケーションに尽きるものと思います。内部の取締役と数的に拮抗している社外取締役が存在するということであれば、その有事のおける判断のみでも「独立第三者」としての機能が果たされたと司法で評価されることもあろうかと思いますが、もし人数が少ない場合であれば、その社外取締役の通常の行動自体から、「独立、公正な第三者であり」かつ「適正に株主の立場で株主価値を評価できる」と判断してもらうしかない、と思いますね。社内取締役と社外取締役との数的比率に起因するハンディを克服するためには、ともかくまずは社外取締役の平時におけるプロセスと、そしてその判断をトップが尊重せざるをえないような客観的な要件、これに尽きるものです。

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2005年6月 6日 (月)

証取監査と内部統制

おととい、「会計士さんのお値段(その2)」をエントリーしましたが、東京の会計士の方よりコメントをいただきました。(コメントは「会計士のお値段」のほうに付けていただいております)報酬に関する会計士さん方の意識や、高額報酬をとるためのスキームなど、たいへん示唆に富むお話です。ありがとうございました。すこしだけ紹介させていただくと、

報酬に結びつけるStepについて、彼(注、投稿者の元親方さん)は以下のことをよく言います。
Step1 お客さんのことをよく知る
Step2 その過程で財務に及ぼすリスクを把握する
Step3 そのリスクを経営者に説明する(経営者にとっては耳の痛いこともよくあります)
Step4 その説明を経営者に理解してもらう
Step5 そのリスクを改善する
Step6 その提案・改善した結果を監査報酬に反映させる
彼は、これを繰り返していました。今もそうです。このStep6までいかないと報酬には結びつかないと思います。彼、最近は、年をとったので、Step6の報酬はどうでもいいようですが。私の税務のお客さんも監査法人より監査をうけています。ただ、低報酬の監査法人は、このステップをクリアしていないような気もします。
私は、このStepをクリアできる能力があるかどうかが報酬に結びつくと考えています。

たしかに、このなかでも、ステップ4のあたりがムズカシイのではないか、と私は思います。本当に理解してもらえたのか、表向き理解しているようなフリをしているのか、そのあたりを見極めるためにも、オーナーとのコミュニケーションを大切にするのでしょうね。私なんか、顧問税理士さんから、いろいろとうるさく言われても、税務調査でイタイ思いをしないと、「ああ、やっぱり税理士さんの言ったことを実践しとけばよかった」と認識できないほうなんで、これをイタイ思いをする前にクライアントに認識させるには、本当に人間的信頼感みたいなもんが必要なんではないかな・・・と思います。さらに、このステップ6が報酬と結びつくということは、ある程度改善策を「今」とることが企業にとってお得であることを説明しないといけないでしょうから、そのあたりのタイミングなども重要ではないかな・・とふと「商売人」的発想で考えてしまいました。

この arnase さんの6月5日のエントリーを読んで、一昨日の私の記事とも関連することでおおいに参考になったのは、やはり「会計士の不正発見」という場合の「不正とは何か」をまず議論する必要があるのではないか?という疑問でした。たしかに、これは大きな問題だと思います。財務報告に関連する不正報告ということであれば、まだ不正発見ということについて、「不正の定義」もできるかもしれませんが、会計士協会や金融庁が公認会計士による監査に義務付けようと(有価証券報告書への記載ということで)考えているのは、もっと広い意味で企業の内部統制や内部監査の対象となる「不正」ということを念頭に置いているわけです。そうしますと、ここにいう不正というのは、たとえば私法上で取引が無効となるような違法行為を含むのか、行政上での取締対象行為上における違法行為を含むのか、それとも刑事罰を含むようないわゆる犯罪性のある違法行為に限るのか、など、そのあたりの定義付けが必ず議論されることになりますね。内部統制の目的といっても、コンプライアンス行動の推進やら、企業行動の効率性というものもありますから、広く考えれば私法上での違法行為をなるべく減少させることまでも「不正発見」に含むことが可能なわけですが、でもそうなると会計士さんに法的な解釈まで要求することになり、過剰な負担になることは明らかでしょう。現実論として、今後の議論というのが待たれるところでしょうし、ひょっとするとすでに始まっているのかもしれません。

期待過剰なところから始まって、できないとなると、最初の信頼すら失ってしまう、という危惧を現役の会計士さんが実際に抱いておられるのを読んでみて、会計士さん方の急速な環境変化への期待と不安みたいなものを感じました。

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2005年6月 4日 (土)

会計士のお値段(その2)

先日、会計士は普通に企業から「100点の仕事」を要求されるので、能力による報酬変動の評価はむずかしいのではないか、という話を書きました。そんな話をしているうちに、6月2日の日経を読んでおりますと「企業統治 チェック厳しく 金融庁3年度にも新ルール」なる記事が出ておりました。会計士協会も、不正発見のための新たなルール作りを模索しており、今後の監査法人の企業統治への関与が重視されていることが期待されているようです。

そんな中でbunさんの会計監査不正発見に重点?ほんとうにそれでいいのでしょうかを読んで、私も同じ問題意識を持つようになりました。

実際に、私が内部統制システムにある程度関与しているのは、上場企業でも2、3社にすぎませんが、どう考えても、社長もしくは専務クラスが自白しなければ発覚しないなあ、と考えられるシステムが本店、支店含めても数多く散見されるのです。(もちろん、これは現に隠匿しているという意味ではなく、もしその気になったら、なんぼでも隠せるなあ・・という意味であります、念のため)ある問題は情報処理システムからであり、またある問題は人間関係からであり、また別の問題は業界独自の慣行からだったりします。お金の流れにからんでいれば、会計士さんも「?」と感じ取ることができるでしょうが、「不正一般」という意味からすれば、会計士さんも普段の期中監査などでもわからないものが一杯あります。どんなに企業側がコストをかけたとしても、会計士さんにその発見を強く要求することは無理があるなあ・・・と私は実感しています。むしろ、会計士さんの能力の差が明確になるとすれば、このような「不正一般」への嗅覚というか、些細な情報から不正のニオイを嗅ぎ取る能力のようなものが今後必要とされるのであれば、そういった能力の差が認識できるかもしれません。でも、考えてみると、そんな能力がある人が企業にとって歓迎されるかというとこれも現実の社会では逆の結果になってしまうようにも思えます。ここまでは「グレーゾーン」でこっからは「クロ」と指導してもらえる会計士さんをコンサルタントとして迎える、というのもあるかもしれませんが、これも会計士さんの責任との兼ね合いからすると、本当に能力のある人がそんなことするかなあ・・と疑問を抱いてしまいますし。監査法人にとってみれば、報酬アップの要因になるでしょうから、歓迎すべきことかもしれませんが、そのしょって立つ責任の重さを考えると導入には相当慎重な議論が必要ではないでしょうか。

最近は、アメリカのCOSOレポートを中心としたリスクコントロールシステムを取り入れる企業も多いと思うのですが、あそこに出てくる人間像というのは、「99パーセントの合理的理性人」と1パーセントの「常識逸脱人間」がいて、その逸脱人間の行動をどうやって合理的に排除していくか、みたいな前提があるようです。しかしこの考え方は、99パーセントの合理的理性人が常識逸脱人と交わっても変わらないということでしょうが、実際の会社では99パーセントが1パーセントにひきずりこまれちゃうことはたくさんあるわけで、「悪いことを共有したり」「かばってあげたり」「楽だからそっちに部署ごと合わせたり」、そこまで防止することはほぼ絶望的に不可能なわけで。。。

そういったところを十分認識しておかないと、bunさんのおっしゃるとおり、できないことをできるように思って進めると、もっと悪い方向へ向かうような、そんな事態になってしまうことを危惧してしまいます。(おそらく、こんな議論がこれからたくさん、なされないと不自然ですよね?)

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「政府指針、司法が追認」て本当?

6月2日の読売ネットの記事に、政府指針を司法が追認した とありました。

今後は概ね、政府指針に沿った形で、各企業が防衛策を模索するであろう、とのことです。

本当にそうでしょうか??どうみたって、政府指針と鹿子木決定とは内容が違いすぎます。私だって、役員している会社や、相談を受けている企業の防衛策について、指針に基づいた策定を一応念頭に置いていますが、鹿子木決定によるならば、社外取締役が「企業価値の向上のためには現経営陣による支配権維持が望ましい」とか「どっちが上回るかわからないから、ひとまず発動させずに、株主の意思にゆだねよう」という裁定は下ろせないのではないでしょうか?なぜなら、企業価値判断などのようなものは特別委員会で判断すべきではなくて、特別委員会が判断すべきなのは、買収提案者による買収は、防衛策をとらないと、株主の損失が回復困難であることが明らかな場合かどうか、(しかも、その明らかであることは、司法判断では会社側が立証しないといけないでしょう)ということで、今後予想される敵対的買収のほとんどの場面において新株予約権行使の条件の立証は難しいからです。

ちょっと、今からバーレーン戦が始まるので、きょうは小ネタということで失礼します。。

(追記)

土曜日ということで、ちょっとこのブログにお越しいただいている方のリンク解析というものを見たんですが、

①ブックマークが圧倒的に多く、逆に「bloglines」が意外と少ない

②閲覧時間が午前8時から同10時、午後5時、6時に集中している

③トラックバックによる影響(恩恵?)をかなり受けている(微笑or苦笑)

④平日と休日のアクセス数の差がとんでもなく大きい

ということで、(別に調査結果というほどのことでもないですけど)会社勤めの方が朝が夕方に「お気に入り」から見ていただいている、というのがほとんどのような気がします。モバイルでどっからでもブログをチェックされているような方には、あまり読んでいただいてないかもしれません。有名な岡口判事のHPみたいにWEBネタとか、便利ツール紹介、法曹界のおもしろネタのようなものをエントリーしてないから、しかたないかもしれませんね。めげずにこれからもマニアックなブログめざして頑張ります・・・・・

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2005年6月 3日 (金)

ニレコの防衛策に対する仮処分決定への意見

実は「金融庁の企業統治新ルール構築」とか「大手銀行の取引先を巻き込んだCSR政策」など、書きたいことが山ほどあったんですけど、いろんな方からトラックバックをしていただいて「べらぼうに」アクセス数が増えましたので、やはりニレコの新株予約権発行に対する東京地裁決定についての感想を書かせていただきます。私のような町の弁護士の意見を聞いていただけることはありがたいのですが、いかんせん、外野の声ですので、(47thさんのように政策形成機能をもった立場にはありませんので)そこのところ、よろしくお願いします。実は、以下の文章は今後の私の社外取締役、社外監査役の研究のためにも備忘録としてホームページに掲載しております。そちらを先にごらんになった方は、「なんや同じやんけ!」って言われそうなんで、あらかじめご了承願います。

今夜、東京地裁のホームページから、ニレコの企業買収防衛策に対する新株予約権発行差止仮処分命令申立事件の決定全文を読みました。いわゆる特定日における株主に譲渡制限付で新株予約権を発行する、というものですが、(昨日のコメントではこの点、誤解がありましたので訂正いたします)東京地裁商事部の鹿子木裁判長の論旨は非常に明快でありまして、一読しただけで、この裁判官の企業買収防衛策への考え方、企業価値論、独立取締役の役割への期待度、企業と株主との関係のあり方などがほぼ100%理解できました。
昨日、私のホームページのトップで、報道からの決定に関する印象を書きましたが、そのものずばりの趣旨が「総括」部分に記載されていたので、私にとってはおよそ予想していた内容の決定理由でした。ただ、この決定理由がすばらしく明快で秀逸であることと、決定内容を妥当なものとして、納得できるかどうかは別でして、私見としてはあまりにも企業買収防衛策への締め付けが厳格であり、この決定理由からするならば、現在導入されているライツプランのほとんどが予約権発行時点での差止もしくは、有事における行使条件発動自体の差止の対象になるのではないかなあ、と思っています。(すくなくとも、現経営陣側には、その恐怖感を抱かせるに十分ではないでしょうか?)きょうの夕方の報道によりますと、債務者側(ニレコ側)代理人は、この決定を不服として保全異議の申立を行ったとのことですが、(たとえニレコが「既存株主への不測の損害」要件で敗訴したとしても、他企業で導入を予定しているライツプランのためにも、この決定理由の「要件の厳格性」だけは緩和しておかないと、ほかの企業にも多大な影響が出るのでは)といった苦渋の選択のなかで申立を決意したことが予想されます。私のような市井の弁護士にはあんまり関係のないことかもしれませんが、こと東京、大阪の大型法律事務所や信託銀行にとりましては、この決定が買収防衛策の企業浸透度にも大きな影響の与えるだけに、(私が代理人であったとしても)ライツプランを用いた防衛策への法的安定性を勝ち取るための異議申立は必須だと思います。

ところでこの決定を読んで、ちょっと誤解しそうになりますが、平時のライツプランを適法とする要件が厳格であるがゆえに、現商法の条文に忠実であるとか、司法判断が保守的であるとか、はたまた経済産業省や法務省のガイドラインそっくり、というような軽いイメージでの決定ではないかな、と思われそうな点があります。しかし、私はそんな軽いもんではないと思ってます。鹿子木裁判官は、私とほぼ同い年の判事さんですが、90年代には通産省産業政策課へ出向したり、最高裁事務局で司法行政に携わるなど、(いわゆる裁判官のエリートコースと言われておりますが)その経歴からすると、アメリカにおける企業買収のあり方などは、おそらく熟知しているはずでありまして、また個別事件の判決のもつ政策形成機能についても人一倍、理解をされているはずです。また、2003年に発足した「法と経済学」の設立発起人として、判事として唯一名前を連ねておられ、個別事件における法的判断、法律解釈においてミクロ経済学的要素を取り入れることにはご自身、かなり積極的と思われます。(この決定理由、とりわけ株主の不測の損害発生に関する理由付けのあたりに、その判断手法が如実に現れています)これは私の推測の域を出ませんが、鹿子木裁判官の決定に流れる思想は、決定理由第3の3(保全の必要性)への判断理由に書かれている内容にほぼ尽きるものと思います。「会社支配権の争奪は、あかんたれな経営者を排除して、合理的な企業経営を可能とするという側面もあるんやから、否定すべきやない。いややったら、なんぼでも定款変更して譲渡制限会社にすればいいやんか。それがいややったら、最初から支配権争奪はあたりまえやっちゅうねん。不適切な買収を防止するのは、収益を改善して株主を重視した経営をすればいいやん。安もんの買収策はかえって企業価値を低下させるだけやわ」(表現は若干くだけた形に修正していますが)と明確に述べています。この主張というか意見に対しては、いろいろ見解も分かれるものとも思いますが、このように自信をもって判示されている点に、この裁判官が以前から実際のM&Aの現場をよく知っておられ、それなりの自論を有しているのではないか、と窺われるのであります。

社外取締役、社外監査役への期待という面でいいますと、この鹿子木裁判官の判断は非常に厳しい。おそらく、法律解釈に経済学的な実証を採り入れることに積極的だとするならば、独立取締役がどれだけ中立公正な第三者としてのメンバーを揃えたとしても、その人達が有事において「敵対的な買収者による買収が株主の利益を著しく毀損する(なお、この言い方は鹿子木裁判官の要件を前提とした場合でありますが)ものかどうか」適切に判断できる「目にみえる」証拠がでてこないのですから、期待できないのも当然の帰結です。また、このような独立取締役がアメリカでなく、この日本において、どれだけ公平な第三者として活躍できるのか、本場アメリカと比較できるだけの見識も持っておられるのではないでしょうか。私は、独立取締役の職務に緊張をもたせるためにも、有事における司法判断において、企業価値の適切な判断者として、この独立取締役の職務執行をプロセスとして判断すればいい、との意見ですが、企業価値の優劣すら独立取締役へ判断をゆだねることは許されず、「明白に著しい損害を株主に与えるかどうか」ということぐらいしか、判断は期待できない、ということなんでしょうかね。ホンマに厳しい。

「株主総会の意思が反映される仕組み」「取締役会に有事発動の最終的判断者の地位をもたせない」という要件はまだいいとしましても、「新株予約権の行使条件の成就が、取締役会による緊急避難的措置となっていること、つまり敵対的買収者による支配権獲得が会社に回復しがたい損害をもたらす事情がある場合に限定される、しかもこの判断は社外の人間が最終判断をすること」、これがなんとも厳しい。厳しすぎる。企業買収防衛策を検討するのであれば、もっと他のプランも検討せよ、そして司法判断をもっと受けろ、と裁判官が声明を出しているように思われるます。(おそらく、そのことに賛同される方も多いかもしれません)ライツプランを検討する立場の方にとっては、せめてこの部分だけでも異議審、抗告審において、鹿子木裁判官とは別の思想で、別の理由が出されることに精力を注がなければならないものと思われます。(しかし、こんなに政策形成機能をもつ判例が書けるというのは、裁判官冥利につきるんでしょうなあ・・・)

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2005年6月 2日 (木)

ニレコのライツプランに差止仮処分決定

まだ仕事中なんで、決定文も読めていませんが、東京地裁商事部でニレコのライツプランに対して新株予約権発行を差し止める仮処分決定が出たようです。

私の記憶が正しいとすれば、たしか5月10日ころに申請があって、その後5月20日ころにニレコ側がプランの変更(SPC信託型ライツプランに修正して随伴性をもたせて、基準日以降の株主への不測の損害を回避する、発動を決定する特別委員会のメンバーから、代表者がはずれる)を加えていますよね。ということは、現在かなりの企業が導入(もしくは導入を検討している)信託型ライツプランへの影響度がかなりあるのではないでしょうか。それとも、取締役会決議で発行を決めたことが問題となったのでしょうかね。それならば、影響度も薄まりそうな気がしますが。

また仕事終って、決定全文をどっかから入手できたら、検討したいと思います。

(ここからは追記です)

まだ決定全文を入手しておりませんが、深夜にネット記事が少し詳しいものが出ていますので、(朝日なんかを読んでおりますと)最初にニレコが発表したプランに対しての司法判断のように読めますが、いかがでしょうか。途中で、司法対策のためにプランを変更したから、その変更後のプランに対する判断かと思ったのですが。

おそらく明日以降、また詳しい解説が専門家の方々よりコメントされると思いますので、期待しておりますが、いずれにせよ、プランの巧拙はあったとしても、この新株予約権を利用したプランというのは、どうも法的安定性、予見可能性という面からは嫌われてしまうような気がしますね。弁護士の立場からすると、今回の判断をもとに、「この判断の妥当性はこのあたりまでだから、ここを修正すれば先例的な意味が回避できますよ」とか説明できるわけですが、ニレコの場合でも発表当初は急激に株価が上昇して、その後急激に落ちて、5月末は発表前よりも下げてますから、司法判断に及ぼす不安材料が多すぎて、とても企業法務担当者の方々や現経営者の方には落ち着かないスキームのように思われます。私自身は、5月28日のコメントのとおり、いまでも、このプランはどんなに巧く作ってみても「株主平等原則」違反は明らか、という立場ですから、このスキーム単独での防衛策はムズカシイ・・・と考えておりますが。いまごろ、ニレコの代理人の方々は、異議申し立てするか、プラン取り下げるべきか、思案中なんでしょうね。

「敵対的M&A対応の最先端」を読んだから言うわけじゃありませんが、いっそのこと、これから防衛策を検討されるところは「西村ワクチン」を株主の皆様に提案してみてはいかがでしょうかね。条件型の拒否権付種類株主と社外取締役との組み合わせ、というのを検討してみてはいかがでしょうか。西村ワクチン進化型みたいな。お金あんまりかからないみたいですし、株主平等原則違反もクリアできるし、内容が明確だから法的安定性も高いと思いますが。。

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2005年6月 1日 (水)

社外監査役からみた企業防衛策

ということで、まだまだこのテーマについては、興味が尽きないわけでありますが、本当は社外監査役として、もっと間近に迫った総会での監査報告のほうへ留意しなければいけない身分であるにもかかわらず、「丸三証券の濫用的買収者に対する防衛プラン」など発表されますと、そちらについ目が行ってしまうわけであります。(常勤の皆様、申し訳ありません。あと少ししたら、レジメ完成しますので・・)

丸三証券さんのプランは株式分割型になっています。これはTBSと同じプランですね。濫用的買収者と認定した場合に、TOBをかけてくることを条件として第三者機関(とされている委員会)の意見を聞いた取締役会が5倍までの株式分割を行い、一気に買収者の買付費用を増加させてしまう、というもののようです。ほかにも、分割による事務的な手続きによる時間稼ぎによって、ゆっくりと交渉の機会を確保する、という効果があるのかもしれません。おそらくそのような効果を狙ったプランだと思うのですが、株主向けの「お知らせ」を読んでも、いったいこのプランがどのような効果を買収対象者に与えて、それが一般株主になぜ悪い影響を及ぼさないのか、説明がないのでわかりません。買収予防策としての相当性があるのか、ないのか判断しづらいプランのように思えます。相当性という点で、もうひとつ気になったのが分割決議を行うことができない要件、というところに「当社の総株主の議決権の2分の1以上を有する株主(ただし買収者を除く)が公開買付の応じる意思を表明した場合」とあります。しかし、これは何時の時点で2分の1を算定するのか不明瞭な気がします。買収者が買い進めれば進めるほど、ぎゃくに応じる意思のない株主が少なくても分割決議を行う方向へ(つまり少数株主の意向によって分割決議を開始できる方向へ)もっていけるわけですから、現経営陣の裁量によって要件該当性を判断できるのではないか、と思われますが、そうだとすればこのプラン自体の相当性に疑問を抱いてしまいます。

あまり評論家風に偉そうにも言えませんが、ここ2~3ヶ月のいろいろな論文や座談会記事を読んでの感想は、アメリカで本当にM&Aの実務に触れた人とそうでない人との間に「いい買収」と「悪い買収」というものが本当にあるんだ、という認識に大きな差があることが印象的でした。私のような典型的日本人は「友好的買収」と「敵対的買収」という差については、理解できても、「いい買収」と「悪い買収」の差というものが心からは理解できないように思います。これを理解できるかどうかは、今後の「社外取締役」の役割を考えるうえで、たいそう大きい問題だなあ、と認識しました。この差が体で理解している人が「社外取締役」や「社外監査役」に就任すれば、たしかに中立公正な第三者としての評価を受けることができるかもしれませんが、頭でしか認識できていないような人だと、本当に「いい買収」というものを受け入れる思考がもともとないのではないだろうか・・・とわが身を振り返っても、そのような不安がよぎるのです。

まだまだ、法務面だけでなく、税務面や株価に与える影響、企業の規模や歴史など、企業をとりまくさまざまな諸条件との兼ね合いから、防衛策の選択が行われる必要があることや、今後の証券取引法改正、証券取引所規則や自主ルールの改正、新会社法の施行、自民党企業統治委員会の新法動向などにも影響されかねないことなど、いろんな感想を書きたいのですが、明日はちょっとまた午前中から証人尋問なんで、きょうはこのへんで「つづき」とさせていただきます。

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