JR西日本の補償交渉予定
来週は指導担当企業と、自分が監査役をしている企業の「ふたつの総会」がありますので、ちょっと準備に忙しく、エントリーもままならないため、短文で失礼します。
きょう、大阪新聞ニュースに、今後のJR西日本福知山線事故ご遺族への補償方針が報道されていました。
(追記 リンク切れしていましたので、下記に記事内容を抜粋させていただきます)
JR西、遺族への慰謝料 交通事故より1000万円増額
乗客106人の犠牲者を出した兵庫県尼崎市のJR脱線事故で、JR西日本は22日までに、遺族への補償のうち慰謝料について、算定基準となる交通死亡事故より、少なくとも一律1000万円を上積みする方針を固めた。重大な過失により、安全であるべき鉄道で起きた事故の〝特殊性〟を考慮したもようだ。ただ、慰謝料の算定は個々の遺族の事情によっても異なり、最終的な提示額は流動的。まだ交渉に応じる気持ちに至っていない遺族も多く、JR西は「遺族感情」に配慮しながら慎重に対処する方針だ。
JR西は18日、遺族や負傷者を対象に開いた説明会で、今後の補償について「事故は当社に100%の責任がある。事故の重大性から、従来の国内の人身事故の基準以上の補償を考えている」と表明し、前例を上回る形で補償する基本方針を示していた。
遺族への補償は、①事故による精神的苦痛に支払われる慰謝料②犠牲者が将来得ることができた「収入」(就労可能年齢67歳、主婦・学生らの場合は就労を仮定)などをもとに算出する逸失利益③葬儀費用―が主な対象となる。
鉄道事故の場合、基準になるのは交通事故賠償額の算定方式。慰謝料は「一家の大黒柱」を失った場合など、個々の家庭状況によって数100万円ほど異なり、おおむね2000万-3000万円の範囲内になるケースが多い。
しかし交通事故でも、加害者に飲酒運転や信号無視など悪質で重大な過失があれば、被害者側に支払う慰謝料を増額する事情として認められる。
JR関係者によると、JR西は脱線事故がそうした重大な過失にあたると判断。安全性が当然に要求される公共交通機関の鉄道で起きた未曾有の事故という特殊性を踏まえ、危険がある程度予測される道路上の交通事故より、慰謝料を増額することを決めた。
そのうえで鉄道の安全性を信頼した末に事故に遭い、何の落ち度もなかった犠牲者の無念や苦痛を最大限に考慮し、前例のない措置として、従来の慰謝料に少なくとも一律1000万円を上乗せするとみられる。通常の交通事故に照らせば3-5割増しになる計算だ。
また、JR西は逸失利益について、従来の計算式に基づいて職業や年齢などから個々に検討して算定するとみられ、慰謝料などを合わせた最終的な補償額を決める。父母を亡くした児童・生徒のための奨学金制度の創設に向けても作業を急ぐ。
ただ、中には「命をお金に換えられない」「気持ちの整理がついていない」などと早い時期の補償交渉を望まない遺族も多い。JR西は遺族感情に配慮し、補償交渉の開始時期などを含め、個々の遺族の実情を見極めながら対処する方針。
交通事故の賠償問題に詳しい松本誠弁護士(大阪弁護士会)は「悪質な交通死亡事故では慰謝料が大幅に増額されるケースが増えている。今回の事故は、安全対策の不備など組織の責任も問われており、JR西もマニュアル通りではなく、思い切った措置をとらざるを得ないと判断したのではないか」と話している。(記事終わり)
通常の自動車事故算定基準よりも一人あたり慰謝料1000万円上積み、というあたりでの提示金額を検討している、とのことです。たしかに、最近の悪質な運転による交通事故では慰謝料の大幅引き上げの事例というのは地裁レベルでもよくみられます。昨日のJR西日本の株主総会(正確には株主報告会でしょうか?)での株主と経営陣とのやりとりを報道で読んだかぎりでは、本件事故によるJRの事故処理のために要する金額は聞かれていても、その合理性まで問題にするような発言はさすがに聞かれませんでした。(まあ、大口の株主さんがどのような意見なのかは不明ですが)
そんななかで、「車両運行の安全性向上と従業員の勤務条件の向上のための施策が継続して運営されることを監視するために社外取締役をもっと増やせ」という意見が一部の株主さんから発言されていたようです。そういえば、この6月17日に日本監査役協会から出された「正しい敵対的企業買収に向けた提言」のなかでも、はっきりと社外取締役制度導入に関する提言が出されています。
提言2 特定の株主が支配権を有している株式公開会社の場合、少数株主の利益保護の観点から、過半数の取締役を独立取締役とするべきである。
この提言は、親会社による子会社支配などを想定したうえでの、提言だと思いますが、それでも「少数株主の利益保護のための過半数の独立取締役」という概念はかなりスゴイ提言ですね。株主の利害というのはかならずしも一致するわけではありませんから、平時における取締役会でも(極端にいえば)少数株主の利益代弁者の意見が親会社の意見を凌駕してしまう可能性が出てくるのでしょうか。ちょっとすぐには頭で納得できない疑問が湧いてきます・・・それとも、「少数株主の利益保護のため」というのは、「全体の株主利益を考えるときに、大口株主の利益だけでなく、少しは少数株主の利益のことも考えられる人」ということでよろしいのでしょうかね。
株主の利益を代弁するために社外取締役を迎え入れる、といっても、どのような株主のどのような利益を代弁するのか、それとも少数株主の意見も考慮するが、やはり全体の株主価値の向上ということを最優先に考えるのか、もし今後、上記のJRのような理由から社外取締役を導入することがあるならば、そのあたりを明確に株主に説明をしておかないと、あとで社外取締役の善管注意義務違反を問題視されたり、オンブズマンさんあたりから株主代表訴訟の対象とされるケースも出てくると思います。6月23日の日経新聞朝刊を読みましても、社外取締役として人気がある方がたはCEO経験者であり、かつ識見の高い方ばかりでして、経営上のご指導を役員が賜る、という言葉がピッタリの人選ですよね。現実に社外取締役を迎え入れる責任者の意識と、新聞やニュースによって「企業買収」などの言葉といっしょに広く知られるようになった「社外取締役」という言葉のイメージから一般の方々が理想として思う浮かべる意識との乖離が、現状ではかなり著しいと思われますので、日本取締役協会くらいの団体が、この「イメージ」の相違を少しずつでも埋めていくようなきっかけを作っていただけたら・・・と期待しています。
で、その提言内容は本来、「正しい敵対的企業買収に向けた提言」とありますので、そのこととの関連で「社外取締役」「独立取締役」について意見を書きたいのですけど、ちょっと時間がありませんので、またの機会ということで。
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