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2005年6月 3日 (金)

ニレコの防衛策に対する仮処分決定への意見

実は「金融庁の企業統治新ルール構築」とか「大手銀行の取引先を巻き込んだCSR政策」など、書きたいことが山ほどあったんですけど、いろんな方からトラックバックをしていただいて「べらぼうに」アクセス数が増えましたので、やはりニレコの新株予約権発行に対する東京地裁決定についての感想を書かせていただきます。私のような町の弁護士の意見を聞いていただけることはありがたいのですが、いかんせん、外野の声ですので、(47thさんのように政策形成機能をもった立場にはありませんので)そこのところ、よろしくお願いします。実は、以下の文章は今後の私の社外取締役、社外監査役の研究のためにも備忘録としてホームページに掲載しております。そちらを先にごらんになった方は、「なんや同じやんけ!」って言われそうなんで、あらかじめご了承願います。

今夜、東京地裁のホームページから、ニレコの企業買収防衛策に対する新株予約権発行差止仮処分命令申立事件の決定全文を読みました。いわゆる特定日における株主に譲渡制限付で新株予約権を発行する、というものですが、(昨日のコメントではこの点、誤解がありましたので訂正いたします)東京地裁商事部の鹿子木裁判長の論旨は非常に明快でありまして、一読しただけで、この裁判官の企業買収防衛策への考え方、企業価値論、独立取締役の役割への期待度、企業と株主との関係のあり方などがほぼ100%理解できました。
昨日、私のホームページのトップで、報道からの決定に関する印象を書きましたが、そのものずばりの趣旨が「総括」部分に記載されていたので、私にとってはおよそ予想していた内容の決定理由でした。ただ、この決定理由がすばらしく明快で秀逸であることと、決定内容を妥当なものとして、納得できるかどうかは別でして、私見としてはあまりにも企業買収防衛策への締め付けが厳格であり、この決定理由からするならば、現在導入されているライツプランのほとんどが予約権発行時点での差止もしくは、有事における行使条件発動自体の差止の対象になるのではないかなあ、と思っています。(すくなくとも、現経営陣側には、その恐怖感を抱かせるに十分ではないでしょうか?)きょうの夕方の報道によりますと、債務者側(ニレコ側)代理人は、この決定を不服として保全異議の申立を行ったとのことですが、(たとえニレコが「既存株主への不測の損害」要件で敗訴したとしても、他企業で導入を予定しているライツプランのためにも、この決定理由の「要件の厳格性」だけは緩和しておかないと、ほかの企業にも多大な影響が出るのでは)といった苦渋の選択のなかで申立を決意したことが予想されます。私のような市井の弁護士にはあんまり関係のないことかもしれませんが、こと東京、大阪の大型法律事務所や信託銀行にとりましては、この決定が買収防衛策の企業浸透度にも大きな影響の与えるだけに、(私が代理人であったとしても)ライツプランを用いた防衛策への法的安定性を勝ち取るための異議申立は必須だと思います。

ところでこの決定を読んで、ちょっと誤解しそうになりますが、平時のライツプランを適法とする要件が厳格であるがゆえに、現商法の条文に忠実であるとか、司法判断が保守的であるとか、はたまた経済産業省や法務省のガイドラインそっくり、というような軽いイメージでの決定ではないかな、と思われそうな点があります。しかし、私はそんな軽いもんではないと思ってます。鹿子木裁判官は、私とほぼ同い年の判事さんですが、90年代には通産省産業政策課へ出向したり、最高裁事務局で司法行政に携わるなど、(いわゆる裁判官のエリートコースと言われておりますが)その経歴からすると、アメリカにおける企業買収のあり方などは、おそらく熟知しているはずでありまして、また個別事件の判決のもつ政策形成機能についても人一倍、理解をされているはずです。また、2003年に発足した「法と経済学」の設立発起人として、判事として唯一名前を連ねておられ、個別事件における法的判断、法律解釈においてミクロ経済学的要素を取り入れることにはご自身、かなり積極的と思われます。(この決定理由、とりわけ株主の不測の損害発生に関する理由付けのあたりに、その判断手法が如実に現れています)これは私の推測の域を出ませんが、鹿子木裁判官の決定に流れる思想は、決定理由第3の3(保全の必要性)への判断理由に書かれている内容にほぼ尽きるものと思います。「会社支配権の争奪は、あかんたれな経営者を排除して、合理的な企業経営を可能とするという側面もあるんやから、否定すべきやない。いややったら、なんぼでも定款変更して譲渡制限会社にすればいいやんか。それがいややったら、最初から支配権争奪はあたりまえやっちゅうねん。不適切な買収を防止するのは、収益を改善して株主を重視した経営をすればいいやん。安もんの買収策はかえって企業価値を低下させるだけやわ」(表現は若干くだけた形に修正していますが)と明確に述べています。この主張というか意見に対しては、いろいろ見解も分かれるものとも思いますが、このように自信をもって判示されている点に、この裁判官が以前から実際のM&Aの現場をよく知っておられ、それなりの自論を有しているのではないか、と窺われるのであります。

社外取締役、社外監査役への期待という面でいいますと、この鹿子木裁判官の判断は非常に厳しい。おそらく、法律解釈に経済学的な実証を採り入れることに積極的だとするならば、独立取締役がどれだけ中立公正な第三者としてのメンバーを揃えたとしても、その人達が有事において「敵対的な買収者による買収が株主の利益を著しく毀損する(なお、この言い方は鹿子木裁判官の要件を前提とした場合でありますが)ものかどうか」適切に判断できる「目にみえる」証拠がでてこないのですから、期待できないのも当然の帰結です。また、このような独立取締役がアメリカでなく、この日本において、どれだけ公平な第三者として活躍できるのか、本場アメリカと比較できるだけの見識も持っておられるのではないでしょうか。私は、独立取締役の職務に緊張をもたせるためにも、有事における司法判断において、企業価値の適切な判断者として、この独立取締役の職務執行をプロセスとして判断すればいい、との意見ですが、企業価値の優劣すら独立取締役へ判断をゆだねることは許されず、「明白に著しい損害を株主に与えるかどうか」ということぐらいしか、判断は期待できない、ということなんでしょうかね。ホンマに厳しい。

「株主総会の意思が反映される仕組み」「取締役会に有事発動の最終的判断者の地位をもたせない」という要件はまだいいとしましても、「新株予約権の行使条件の成就が、取締役会による緊急避難的措置となっていること、つまり敵対的買収者による支配権獲得が会社に回復しがたい損害をもたらす事情がある場合に限定される、しかもこの判断は社外の人間が最終判断をすること」、これがなんとも厳しい。厳しすぎる。企業買収防衛策を検討するのであれば、もっと他のプランも検討せよ、そして司法判断をもっと受けろ、と裁判官が声明を出しているように思われるます。(おそらく、そのことに賛同される方も多いかもしれません)ライツプランを検討する立場の方にとっては、せめてこの部分だけでも異議審、抗告審において、鹿子木裁判官とは別の思想で、別の理由が出されることに精力を注がなければならないものと思われます。(しかし、こんなに政策形成機能をもつ判例が書けるというのは、裁判官冥利につきるんでしょうなあ・・・)

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コメント

toshiさん、TBありがとうございます。私も全文を読んでみます。これが高裁にいくと誰が担当するのかというと・・・前回と同じ方なのかな?。そうすると大体どんな感じで箱のふたが開くか・・・そんなところですかね。磯崎さんが言うようにだんだん良くなるんですよ、たぶん(意味深すぎますかね)。またtoshiさんの文章楽しみにしております。

投稿: ろじゃあ | 2005年6月 3日 (金) 10時19分

ろじゃあさん、コメントありがとうございます。ろじゃあさんの意見もそうですが、これ、非常に意見が分かれてるんですよね。理論立てだけではなくて、結論までバラバラで。東京の場合は、やっぱり商事部担当の高裁部係って、決まっているのかどうか、ちょっと関西の私にはわかりません。でも、いい方向に収束していってほしい、というのは私もそう思います。いい方向っていうのが(職業がら)別の人にとっては納得のいかない方向かもしれませんが(笑い)

投稿: toshi | 2005年6月 3日 (金) 10時50分

はじめまして。TB有難うございました。
お恥ずかしながら皆様の知識、考えに足元にも及ぶことが出来ない浅はかものではありますが、どうかお付き合い下さい。

しかし、最後の方の買収防衛策を取り入れる前にやることがあるんやないか?って一文は明快ですね。
買収防衛策をどう考えるかについて、私の中で揺れているのですが、その思いは強まっています。

投稿: HardWave | 2005年6月 4日 (土) 00時21分

はじめまして。ようこそお越しいただきました。昨日、日本ではじめて買収防衛策としての新株予約権がTBSから発行されましたね。首尾よく発行されましたが、実際の場面において行使が適法とされるかどうかはまた別問題やと思いますし、このニレコの異議審や抗告審での裁判官の判断も興味あるところではないでしょうか。それにしてもTBSの特別委員会のメンバーはそうそうたる方が揃っておられますね。普通の上場企業では、防衛策はマネできても、この委員会構成はマネできませんね。

投稿: toshi | 2005年6月 4日 (土) 15時20分

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