信託銀行が葬儀社と遺言信託提携
最近、よく拝読させていただいている熊谷弁護士のLatest Legitimacyのエントリーで、興味深い記事を見つけました。
冠婚葬祭業者との遺産業務、遺言業務については、大阪の弁護士業界でも注目をしていたところでありまして、実は先週、私自身も「全国展開している大手葬儀社」の専務さんと協議をしていたところでした。またまた信託銀行に先を越されたというか、経営のスピードが民間会社と弁護士集団とは雲泥の差というか、この記事を読んでかなりのショックを受けました。まあ、昨年12月に信託業法が改正され、一般事業者との販売代理店契約が可能になりましたから、予想していたことではありましたが。
葬儀社という業界も、いわゆる所轄の官公庁というものがなく、また自主規制団体というのも目立ったものがありませんので、いわゆる東証、大証一部上場企業から、街のボッタクリ業者まで玉石混交だそうです。なかなか宣伝広告を行う手段に乏しいため、皆様ご存知の「互助会」システムによるものがあったり、「プレミアクラブ」のような生前から会員になっておいて、「いざという時」に割引を受けたり、将来の葬儀費用を生前から信託銀行に積み立てさせておいたり、とさまざまな趣向を凝らして顧客獲得の努力をされているそうです。おそらく今回の販売代理店契約というのも、生前における葬儀費用の信託と、それに伴う遺産などの法務、税務に関する相談サービスなどがセットになった商品の販売などが中心になるものだと思います。ただ、先日の専務さんの話によりますと、葬儀社さんが生前から前面に出てきますと「なんや、お前ら俺を殺す気か」と資産家本人の反感を買う可能性があるらしく、あくまでも信託銀行や証券会社あたりが相続対策サービス商品を提供して、そのときに葬儀社の名前をさりげなく表示するにとどめるくらいがベストだそうです。
日本人の保有資産1400兆円のうち、65歳以上の人が保有しているのが700兆円ということですから、遺言信託業務に信託銀行が積極的なのは納得できますし、弁護士業界も成年後見制度で主導権を握って、遺産業務、遺言業務に広報をかけようという意気込みも理解できるところです。しかし、もし遺産をめぐって相続人間で紛争が発生するような場合には、たとえ遺言を作成していたとしても紛争を完全に予防することはできませんので、弁護士が予防法務的に関与することにもメリットはありますが、相続人間でほとんど紛争発生の可能性がないケースでは、(平成15年の生前贈与に関する税制改正なども追い風となって)管理問題を含めて信託銀行に委託することにメリットはあるように思われます。
最近の家庭裁判所における遺産分割調停は、調停委員が話し合いで納得させるようなものが少なくなり、当初から裁判官が主導権を握って法律判断を駆使して解決していくタイプの審理が多くなりましたので、関与する代理人弁護士の遺産分割審判や調停に対する技術もかなり高等なものになってきましたし、またそのような高等な戦術を駆使できる弁護士の数も増えてきました。(たとえば遺産調査方法、遺産の範囲確定方法、生前贈与の主張、持ち戻し免除の意思表示の立証方法、寄与分、特別受益算定方法、後で遺言内容をひっくり返す方法などなど、もちろん税務についても同様です)したがいまして、遺産を残す方がどんなにキレイに残そうと努力しても、また信託銀行からどんなに優秀な弁護士の紹介を受けたとしても、それが法定相続分から離れた配分案であればあるほど、後でひっくり返る可能性は出てくるわけでして、弁護士にとって「メシのたね」になると思えば、今後も遺言業務、遺産業務への弁護士の関与た、たいへん増えてくることは間違いありません。今後かなりの年月にわたって、この弁護士業界と信託銀行あたりとの遺言サービス分野での競争が続くものと予想されます。
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コメント
熊谷です。TBありがとうございます。
信託銀行と弁護士業務が競合する場面というのは興味深いですね。
いわゆる民事信託は、個人資産を振り向ける先の選択肢が増えたことに伴い、今後ますます発展していく分野なのでしょうね。注目していきたいところです。
投稿: kumagai | 2005年6月22日 (水) 01時42分
熊谷先生、コメントありがとうございます。法律の改正だけでなく、信託に関する法律解釈についてもかなり進化してますよね。今後は他業種からの信託業務への参入なども検討されるようですから、選択肢が増えるだけでなく、業者間の競争も激しくなるように思われます。
投稿: toshi | 2005年6月22日 (水) 13時04分