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2005年6月11日 (土)

信託型ライツプランに対する西濃運輸の見解

6月9日、西濃運輸さんは、自社ホームページにおいて、導入予定の信託型ライツプランが株主へ迷惑をかけるものではなく、その発行が適切なものであることを(ニレコの新株予約権発行への東京地裁決定を引用しながら)説明しています。

信託型を採用していることで、実質的には随伴性のある新株予約権を、行使時点の株主に交付することから、買収希望株主以外の一般株主に不測の損害を与えるものではないこと、取締役会決議によって導入するのではなく、株主総会の特別決議によって導入するものであるから、有事における発動要件については相当性があることなどを、鹿子木決定と比較しながらかなりわかりやすい説明で「Q&A」方式でなされています。

ニレコの新株予約権発行と異なり、信託型を利用していることによって一般株主に不測の損害を与える可能性が薄いことや、現株主がこの信託型ライツプランを導入することによって明確な損害を被る可能性が低いことについては納得できます。しかしながら、従前から私が鹿子木決定のうち、もっともライツプラン導入にとっての「足かせ」となりそうな「悩ましい問題」と考えていた点(「ニレコに対する東京地裁決定への意見」参照)への回答部分については、よく読んでも私の頭では理解できないのです。

西濃運輸さんの上記「Q&A」のうち、Q15の部分が、私が以前より「悩ましい問題」として考えている点への西濃運輸の回答です。新株予約権を実際に行使する場合の要件ですが、鹿子木決定は、かなり要件を厳格に考えているのは、ニレコのプランが「取締役会決議に基づいて発行される場合」だから、株主総会の意思を反映した西濃運輸の信託型ライツプランとは場面を異にしており、直接問題となるものではありません、と述べておられます。また、実際の鹿子木決定の理由中の文言を引用して、厳しい行使条件は、あくまでも取締役会決議によって発行された場合に限定されるのだ、ということを力説されています。私も、この鹿子木決定を最初に読んだときには、この西濃運輸さんと同じように考えました。(というよりも考えたい、と思いました)しかしながら、まず西濃運輸さんが鹿子木決定から引用している文章は、一般的な行使条件についての鹿子木決定の見解を述べた部分ではなく、その後につづくニレコ事例への「あてはめ」の部分を引用しているにすぎないのでありまして、裁判官の法律解釈(法律判断)の後の(その判断を前提とした)事例へのあてはめ部分である以上、本事例を紹介する際に「取締役会決議の基づく場合には」という文章が導入されることは至極あたりまえのことでして、文言の反対解釈として、株主総会による承認がなされた場合を排除している、とまで読むことは明らかにおかしいと思われます。

また、西濃運輸さんは、取締役会で発行を決議した場合と株主総会の承認を得て導入を決定した場合とでは「場面が異なる」と述べておきながら、それでは「株主総会で承認を得た場合には行使要件が緩和される」とは一切述べていないところが歯切れが悪いです。行使要件がもし緩和されるとするならば、それはなぜ緩和されてもよいのか、そのあたりを明確に説明できないところが悩みといえるのではないでしょうか。

さらに、鹿子木決定がライツプランの有事における行使条件について、一般的な見解を述べている部分(決定書では2の(2)のイ)では、会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面においてでも、取締役会決議でライツプランを導入できる場合があることの説明として「次期株主総会までの間において、会社に回復しがたい損害をもたらす敵対的買収者が出現する可能性をまったく否定できない」ことを理由として掲げています。ここだけを読むと、たしかに「要件が厳格なのは、ニレコが取締役会決議で発行するからなのかな」とも考えられるのですが、その後に鹿子木決定は「ただ、この場合においても新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みが必要というべきであり」とされていますので、この理論からすれば、事前に株主総会での発行承認を得た場合と、取締役会で発行を決議して事後に(追認されて)株主総会での承認を得た場合とで、その発動場面における行使要件を一方は厳格で、一方は緩和されてもよい、と解釈することは矛盾を生じます。つまり結論としては、事前にきちんと株主総会での承認を得た場合というのは、株主に不測の損害を与えないものであることについて防衛策の適法性を高めることや、手段の相当性のうち、行使条件の基準が明確となるとなることによって、現経営者側の相当性立証が容易になることへの利点はありますが、発行時のスキームの相当性のうち、行使条件が比較的緩和される、ということまでは鹿子木決定では明確にされていない(むしろ、取締役会決議で発行する場合と変わらない)と思われます。

ほかにもまだ2点ほど、「これは苦しいのでは・・・」と思われる部分がありますが、ちょっと時間の関係でまたの機会にさせていただきます。なんの利害関係もない外野の弁護士の見解ですから、いろいろ間違ったところもあるかもしれませんが、週末にもしお時間がございましたら、一度ご検討いただきたいと思います。

なお、ニレコ保全異議審の決定についてはまだ読めておりません。

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コメント

toshiさんへ
まいどです。
東京地裁のHPに異議審でてましたのでTB着けておきました。今後ともよろしく。さあ、バナナジュースのみに家に帰ろうかなあ・・・

投稿: ろじゃあ | 2005年6月13日 (月) 18時20分

>ろじゃあさん
もう、異議審の速報は出ないだろう、とあきらめていました。早速のご連絡、ありがとうございます。
ちょっと、総会問答集のチェックの真っ最中なんで、また明日にでもゆっくり検討してみたいと思います。ではでは・・・

投稿: toshi | 2005年6月13日 (月) 19時13分

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