株主優待券と利益供与
bunさんの「最後のニッポン放送株主総会三部作」の力作を拝読いたしまして、株主総会といっても、世間の耳目を集めるものとそうでないものとでは雲泥の差があることをいまさらながら認識しました。私のほうは、何度も総会リハーサルを行ったものの、「想定の範囲内」の株主様からの質問に終始し、予定時間を30分ほど超過した約1時間で総会は終了(その後の懇談会を含め2時間半)しました。(ただ、昨今の総会ブーム?のためか出席株主数は昨年の1,5倍でした)ホンマ、この会社は減収減益(配当は昨年同様)にもかかわらず多数の株主様に激励を受け、恵まれた会社やなあ・・・とつくづく思います。いちおう監査役問答集も作ったのですが、予想どおりと申しますか監査役へはなんの質問もなく、終わってしまいました。
ところで懇談会の際に、株主様からの気になる質問(ご意見)がありました。「おたくの店では株主優待券を使うときに、おつりももらわれへん。ほかの企業はおたくの倍の年間4万円分の優待券くれるし、おつりもきっちりくれる。なんとか、もうちょっと他社を見習ったらどないでっか?」
あとで、その株主様から確認したのですが、たしかに株主優待券が500株(1単元)以上保有している株主様に一律4万円分のお食事券、しかも「おつりはもらえます」と記載されております。私も株主優待券がある程度高額なものについては見聞もありましたが、おつりをもらえる株主優待券というのは聞いたことがなかったので、少しビックリしました。
そもそも「おつりをもらえる」株主優待券というのは適法なんでしょうかね?株主優待券というのは、利益が出ていない企業であっても、株主に対してなんらかの経済的利益を付与するものであって、利益処分とは異なるものですから、株主にとっては「雑所得」として取り扱われ、ある程度会社が自由に発券することができるものとされています。株主の自益権、共益権とは無関係の企業サービスの付与ということですから、株主平等原則とは無関係である、という説もありますが、いちおう通説では「保有株式数の違いによって企業から受けることができるサービスに差が生じるので、形式的には株主平等原則違反となるが、そのサービスの内容により軽微なものと認められるものが多く、実質的には平等原則に違反するとまではいえない」というものです。しかし、ひとりあたり4万円、もし1000円だけ使って後はおつりを39000円もらえる、というのは単に企業の経済的サービスを受けるというよりも、1単元以上保有している株主に対する現金供与であり、保有株主の数によっては利益処分の脱法行為もしくは(利益が出ていない場合には)違法配当、もしくは一部株主への利益供与に該当するのではないでしょうか。私の認識では株主優待券というのは一種の割引券のようなもので、したがって株主のほうで割引サービスいっぱいの利益を自ら放棄すれば、もちろんおつりはもらえないというような考え方を持っていましたので、この「金券」的発想というのがどうも違和感を覚えます。
もちろん議決権を行使できる程度の株数を保有する個人株主を勧誘するための広告、宣伝的効果のため、一部株主に金銭的利益を享受させることも、株主平等原則に反しないし、利益供与にもあたらない、との見解もありそうですが、ひとり4万円(年間)というのは、利益処分を厳格な要件のもとで定めている商法の「債権者保護」の精神にも反するように思われるのですが、どうなんでしょうかね。最近は株主優待券の使用についても、以前と異なり消費税通算売上金に対しての金額を差し引かれますので、「金券的発想」のほうが妥当するのかもしれませんが、どうもしっくり納得できません。
まあ、その企業の株主様にとってみれば、配当金プラス4万円が受領できるわけですから、文句がでるわけもないのですが、ただ同業他社として「あそこは、4万円もらえるのに、おたくはそれ以下、しかもおつりももらわれへん」と比較されるほうとしてはかなりショックです。HPでも大きく「株主優待制度のお知らせ」と広報されていますので、きちんと法的な根拠はクリアされているのでしょうね。
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コメント
「4万円の商品券でおつりあり」というのは、面白い話ですね。
商法的にも、それって配当なんじゃないの?という話もあるんですが、会計・税務的にも、バランスシート上にどう計上するのかとか、損金算入が認められるのかとか色々と論点がありそうな気がしますが・・・クリア、されてるんでしょうね、きっと。
投稿: 47th | 2005年6月29日 (水) 09時01分
こんにちは。拝読して、優待券を換金できる市場がここ20年ほどで発達して株主優待券の流動性が高まってきたという会社をとりまく外部の事情も大きいのだろうな、と思いました。さらに流動性が高まって貨幣発行権との絡みまで論じられるようになったりして(笑)。
投稿: bun | 2005年6月29日 (水) 10時08分
ご意見ありがとうございます。
>47thさん
図書券や一般の商品券であれば「おつり」というのもわかるんですが、株主優待券というものまで「金券」扱いになる、というのは一般的ではないように思います。その企業のHPによると、株主の居住地の近くに優待券を利用できる店舗がない場合には、同等のギフトカードと交換できる、とありますし、これだとますます現金4万円を交付するのに等しいのではないでしょうかね。単元株主には一律現金支給、ということが許容されるかどうか、という争点になってしまいそうです。また、内税方式になってから、消費税分を優待券額から差し引くところが一般的となりましたが、それまではほとんどの優待券が消費税抜きの売上金額のみを差し引いていましたので、実際経理上はあいまいなものではないでしょうか。
>bunさん
私も最初は金券屋さんで流通しているし、実際株主以外の人が使ってはいけないというものでもないので、このようなのもありかな・・・と思ったんです。しかし現実には、株主さんが優待券を使って、おつりが返ってくるというわけで、それは株主さんが経済的なサービスを受けるという内容が希薄化されてしまって、bunさんがおっしゃるとおり「貨幣」と同等の価値のあるものに変容してしまっているように思います。最近、図書券が図書カードに変わってきましたが、あれはおつり防止で、全額図書のために使われるように、とのことで貨幣同等物になることを防いでいるようです。
投稿: toshi | 2005年6月29日 (水) 20時00分
ちなみにC社さんの株主優待は1000円券×10枚を年4回発行するものですから、おつり39,000円はないですね。
MAX900円とかでしょうか??
だからといって適法ですとはならないのでしょうが。
だらだらと駄文を綴ってTBしたのですが、何故かいつもTBに失敗します。。。
投稿: HardWave | 2005年6月30日 (木) 00時57分
>Hardwaveさん
TBがむずかしい、とのことですので、こちらから若干補足のエントリー記事をアップいたしました。いつも内容を掘り下げていただき、ありがとうございます。
原価率計算をされておられますが、「おつり」が出るし、他の4万円相当のギフトカードと交換可能ということですから、やはりひとりあたり4万円の価値が支出されている、と考えています。私が監査役をしている企業では、株主優待券はいちおう販売促進費として計上しています。これは支出の性格ということだけではなく、優待券を利用した社内における犯罪防止(販促費扱いとしているほうが、予算管理上現場での優待券を利用した売上偽装を防止しやすい)という内部統制システムの一環として捉えやすいということからであります。
投稿: toshi | 2005年6月30日 (木) 02時04分
株主優待券について調べていてこちらのページにたどり着きました。そして、発見しました。所得税基本通達24-2にずばり書いてありますね。
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kihon/syotok/04/01.htm#02
だからJALやレストランは安心してけっこう大きな額の株主優待制度を派手にやっているのですね。一税理士の感想としては、通達にしては珍しく甘めの規定だなと感じます。
蛇足ですが、商法には、税法における税務署あるいは道路交通法における警察のように、法を守らせる行政組織がないから、誰かが訴えない限り問題にされず、見逃されますねぇ。
投稿: thase | 2007年5月10日 (木) 11時40分
平成18年犯罪白書・資料編には、犯罪の検察庁新規受理件数が記載されています。
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2006/index.html
商法 法人税法
平成14年 56 271
平成15年 135 276
平成16年 74 212
商法の件数は、商法で犯罪とされる行為が少ない(利益供与罪、違法配当罪など10未満)ことを考えると、犯罪訴追レベルで法人税法と比較してそんなに見逃されるとは思われません。
法人税法でも租税犯罪で訴追される行為はかなり限られるので、思ったほど差が出ないのでしょう。最近は「空気」を読めと言われますが、一般的な空気や思い込みは事実に反していることも多いようです。
それでも認識を変えず、事実を感情に合わせて解釈する人すら存在するのは、とても興味深いことです。(少年犯罪や企業犯罪の増加・悪質化など)
投稿: 会社法と税法の比較 | 2007年5月11日 (金) 08時15分