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2005年6月22日 (水)

ニレコ新株予約権発行差止事件の補論

大阪地裁の地下書店で「ビジネス法務8月号」を購入しましたところ、その20ページ以下に三苫裕東大助教授の「補論=ニレコ新株予約権発行差止仮処分事件地裁決定について」と題する論稿が掲載されておりました。いわゆる鹿子木決定に対するご意見ですが、私がこのブログで6月2日以来、いろいろと勝手な意見を述べてきたことと、ほぼ同旨であったことでホッと胸をなでおろしているところです。とりわけ、新株予約権の行使条件については、取締役会で発行を決議した場合だけでなく、株主総会の意思が反映される仕組みが組み合わされている場合でも、(行使条件の成就が)取締役会における緊急避難的措置が許容される場合に限られるという趣旨であることを前提として、ほとんど有事導入型と、その要件においては変わらないとされ、あえて平時導入にメリットがあるとするならば、行使条件をあらかじめ明確にしていることから、有事の際の取締役会の行動の相当性を立証しやすくする程度であること(敵対的買収者の悪性の推認)ぐらいであろう、と説明されており、これまでエントリーしてきました私の意見とほぼ同一のものであります。

ただ(たいへん偉そうな物言いで恐縮ですが)、この三苫助教授のご意見で、ひとつ欠落している重要なポイントがありまして、有事における発動要件の判断者として重要な地位を占める独立第三者の判断領域に関する点であります。私は、社外取締役、社外監査役に発動要件の最終判断者たる地位を付与するのであれば、もっと広く「企業価値とは何か」「ステークホルダーの利益というものを企業価値判断に含めてよいのかどうか」裁量の幅を持たせるべきではないのか、との自論を有しておりますが、この鹿子木決定によるならば、その判断領域はたいへん狭いものになるわけでして、平時導入型ライツプランにおいて、行使条件を明確に規定した場合には、その独立第三者による発動判断はほとんど狭小なものとなってしまうおそれがあります。経済産業省、法務省の発表したガイドラインを前提とするならば、企業価値もしくは「脅威」の判断というものを、やや抽象化した概念として捉えて(このあたりがたいへん巧妙だと感じ入ったのですが)、司法は「発動までのプロセス判断を行うことに特化するもの」と役割を限定して、今後の社外第三者の議論の発展を期待できたのですが、この鹿子木決定を前提とするならば、独立第三者が企業価値、脅威の有無についての判断者としては期待できないということで一蹴されてしまい、今後の議論の発展がなくなってしまうところがちょっと悲しいところでもあります。

なお、たいへん著名なブログの管理人の方より、TBをいただきましたので、ふたつほどコメントさせていただきたいのですが、ひとつは鹿子木裁判官が無国籍的に企業買収を奨励するものである、とまでは、ニッポン放送事件とニレコ事件だけでは論じられないのではないか、と思う点であります。もし、新会社法の運用やこの企業買収防衛策の制作にあたって、米国流を本旨とするならば、先に述べましたようにもうすこし独立第三者の活躍に対する期待というものが感じられたのではないかな・・・と思います。鹿子木裁判官としては、たとえアメリカ流の株主利益の代弁者に期待を寄せたとしても、この日本の企業社会では無理があると考え、むしろ司法が政策形成のために前面に出た場合に、その実体判断が容易になるような「法と経済」を融合した解釈指針をもって今後の解決にあたる、という気概をもっていることが今回の決定理由に一番現れているものと思います。

そして、もうひとつの点ですが、この問題に司法が積極的に関与して、政策形成機能を果たすことへの批判が考えられます。以前のエントリーをお読みいただければおわかりのとおり、高裁赤塚決定のほうが司法の謙抑性を趣向するものとして私の好みに合致しています。ただ、現時点で実務界に混乱を生じさせるのと、すでに多数の企業が多額の費用を投下して信託型ライツプランを導入した後に、司法判断が出て混乱を生じさせるのでは、実務に及ぼす影響の度合いは比較にならないと思われますし、今の時点で司法の見解を示すというのも「ありかな・・・」ともちょっとだけ考えたりもします。鹿子木裁判官は最高裁の事務局で勤務されていた時期もあり、そういった司法行政についての自論もお持ちなのかもしれません。すこし話は変わりますが、債権放棄と無税消却に関する昨年12月の最高裁判決によって、倒産実務が大きく変わり、私のような破産管財人業務を行う弁護士にとっても、仕事のやり方が大きく変わりましたが、この判例がもっと早く出ていたら銀行の不良債権処理ももっと早く促進されていたのではないか、と思えてなりません。実際にこのような大きな政策形成機能をもった判例の効用を目の当たりにすると、企業社会に対する司法の役割(とりわけ今後飛躍的に増加する法曹の数からみても、その影響力が大きくなることは避けられない現実です)は、変えていかなければならない、という考え方を持った裁判官が登場することもあながち不思議ではないように思っています。また、ご意見ございましたらご教示ください。

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コメント

おはようございます(お早いですね^^;)。
私も鹿子木決定が無国籍的に企業買収を奨励しているという見方には少し疑問があります。買収側からみると、ニッポン放送高裁四要件はフィナシャル・バイヤーの通常のビッドをほとんど含んでしまいますし・・・そのあたりのバランスの悪さを鹿子木さんの決定には感じています。その意味では市村さんの方が徹底していますよね。
ところで、本筋と関係ないのですが、興銀税務訴訟の最高裁判決で倒産実務が変わっているという話も大変興味深いので、宜しければお時間のあるときに教えて頂ければ幸いです^^

投稿: 47th | 2005年6月22日 (水) 05時44分

47thさん、コメントありがとうございます。じつは私も「西尾幹二さんのブログ」にTBつけようとしたのですが、どうも調子が悪くて、つけることができませんでした。コメントもつけることができず、「無視」してるようで、たいへん心苦しいです。。。
興銀税務訴訟の実務に及ぼす影響というのは、またエントリーさせていただきます。(ってか、あれも47thさんのとこの事務所が関与されていたのですか??)

投稿: toshi | 2005年6月22日 (水) 13時08分

お二人へ
もうごらんになってるかもしれませんが東京高裁のHPにTBにつけたようなものが出ております。ろじゃあはこの辺の手続きのところはあまり明るくないのですが、このような案件で更生がなされるというのは良くあることなんでしょうか?ご教示いただけると幸いです。

投稿: ろじゃあ | 2005年6月22日 (水) 19時34分

ろじゃあさん、ご指摘ありがとうございます。職権での更正決定というのは、けっこう実務でも行われるものでして、判決の結論に影響を及ぼさない程度の理由不備とか理由齟齬について、職権で行うことができる、というものです。コソッと理由部分に手を加えるというか・・・。内容については ろじゃあ さんのブログのほうにコメントいたしました。
しかし、いつのまに私が「親分」になっちゃったんでしょうか。。。ヾ(^o^;)o

投稿: toshi | 2005年6月22日 (水) 21時01分

興銀税務訴訟については、恥ずかしながら原告第14準備書面以降、上告理由まで9割方のファースト・ドラフトなどやっており、おそらく短い弁護士人生の中で一つの案件としては最も時間を費やした件です。その間、涙あり、笑いあり、色々あるのですが、守秘義務で語れないのが残念です。

投稿: 47th | 2005年6月23日 (木) 00時08分

toshiさん、みなさん、こんばんは

実は海外相手に仕事をしておりまして、やっとイタリアとスイスが片付いたところです。
そろそろ、アメリカが始まります・・・

toshiさんへ
当ブログのコメントの件ですが、スパム対策の手動入力の認証を入れているため、「確認」をクリックしてから投稿すると不具合が出るようです。
コメントを入れていただいた後、そのまま投稿していただくとうまくいくと思います。
他の人間も本業に忙殺されていて手直しの余裕がありません。
ご不自由をお掛けいたしますが、宜しくお願いいたします。

エントリの内容ですが、多分に最大公約数的なものとなっています。そして、多少の煽り要素は入れています。ほりえもんの件はいわゆる劇場的学習効果という点においてはラッキーだったのかなとも思っていますが、みなさんはともかく、一般の人間はニレコの件は気にも留めていなかったことと思いますので。
その辺り、書き方に多少の色がつくことは斟酌下さい。
また、知人には自分で自分の首をしめているのでは、などとも言われています^^;。

投稿: 福井 | 2005年6月23日 (木) 01時31分

>47thさん
そうでしたか。興銀税務訴訟の場合、本当に涙あり、笑いありだったことでしょうね。日本を代表するような超一流の事務所で、しかもその第一線で活躍される、というのはなんとも羨ましい話ですが、同時にその責任の重圧もまたたいへんなものか、と思います。日本に帰ってこられるときには、その「重圧」が待っているというか・・・
>福井さん
はじめまして。アクセス方法、了解いたしました。私も実名ブログであると同時に、守秘義務を負う立場であるため、書きたいことが説得力を出せないまま、「不完全燃焼」したエントリーをアップせざるをえないもどかしさを感じるときがあります。法曹以外の方からのストレートな疑問は、たいへん貴重なものと認識しております。今後とも勉強させていただきたいのでまた覗きにきてください。

投稿: toshi | 2005年6月23日 (木) 10時37分

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