« ニレコの抗告審やはり差止認容(決定全文あり) | トップページ | 株主価値と社会的責任論(CSR) »

2005年6月16日 (木)

ニレコ抗告審決定への意見(総括)

なんとか早足で東京高裁15民事部の抗告審決定、全文読んでみました。

昨日、ネット記事で決定要旨を読んだときとは違い、実際に決定全文を読みますと、異なった印象を持ちますね。(これだからきちんと判決や決定に目を通さないと、意見を書くのはコワイです。 Σ(^^;)゛)
私の意見をひとことで言うと、「ニレコの代理人の方からすれば、抗告審まで争った甲斐があった」ということですね。すくなくとも、この決定を高裁が出したということは、ほかの信託型ライツプランに対する司法の影響が、かなり薄まったといえるのではないでしょうか。
昔から「司法の謙抑性」(司法は当事者の紛争解決に必要な範囲で法解釈、事実認定を行うものであり、解決の必要以上の社会に影響を及ぼすことは慎むべきである)といいますが、この高裁決定は実に「オトナの判断」だと思います。本件新株予約権の発行が「著しく不公正な発行」かどうか、という点について、防衛策の厳格要件やその相当性などについて深く立ち入ることなく、既存株主が本件発行によって不測の損害を被るかどうか、という点だけに絞って「著しく不公正な発行」と認定し、その余の論点には触れていません。さらに、保全の必要性についても、原審では最高裁決定(平成16年8月30日 住友信託、UFJ仮処分決定事件)の保全要件(保全の必要性に関する要件)との抵触について、かなり真正面から取り上げて、事後の損害賠償請求では償えない損害がある、と認定したのに対して、この抗告審は商法上の実体法としての「差止請求権」の存在を根拠として、「実体法」の解釈という手法を用いて(つまり、回復不可能な損害とまでいわなくても、実体法で差止請求権が規定されてるじゃないか、株主が「損害を受けるおそれ」があれば実体法で差止が認められるのだから、その保全目的のための必要性がそんな厳格な要件になるわけない)として、「民事保全法」上の要件を解釈した最高裁決定との矛盾がまったく発生しないように巧妙な解釈を施しています。(この点、保全異議審のときに、一部債権者側代理人の主張のなかでも触れられていたのですが、そこでは保全法上の「必要性」解釈というレベルを超えたものではありませんでしたので、最高裁の判断との整合性を問題とされていたようです)さらに、債権者の特色(投資ファンド)を持ち出して、事後における損害回復では償えない面もある、と締めくくるあたり、プロの責任ある法律家としてレベルの高さを感じました。(あくまでも、私の印象なんで・・・ )
司法の政策形成機能を強く打ち出した鹿子木決定と、オーソドックスな「オトナの裁判」を見せつけた赤塚決定とを比較した場合、話題として取り上げておもしろいのは鹿子木決定ですが、やはり私個人の好みとしては今回の高裁決定を推したいと思います。防衛策のスキーム如何によって、証券マンの方々が一般顧客に奨める銘柄が変わる、という事態になるのは時期尚早ではないでしょうか。今回のニレコさんのプランは特別だった、でも他のプランへの影響はまだわからんよ、そういった印象を残したまま、もうすこし買収防衛についての最適方法を(ライツプランということだけでなく)みんなで検討する時間があってもいいように思います。今回の高裁決定が地裁決定の影響を払拭するとはいえませんが、冒頭に述べた結論のとおり、防衛策導入へのいろいろな可能性を残したまま、司法判断の幕を引けたのではないか、と認識しています。

PS

この高裁の論理と、保全法解釈に関する最高裁の判断内容を綜合すると、たとえば事業再編時の独占交渉権に関する契約書のなかに、「AはBから、独占交渉の趣旨に反する行動があった場合には、差止請求されても異議ないものとする」という明文規定を設けておけば、独占交渉権侵害について交渉差止め仮処分が認容される、といった結論になるのでしょうかね?どっかで使ってみたいですね。

|

« ニレコの抗告審やはり差止認容(決定全文あり) | トップページ | 株主価値と社会的責任論(CSR) »

コメント

TB、コメントありがとうございました。

そして、今回のエントリ、たいへん勉強になりました。

実体法としての差止め請求権を根拠にしている点を、上記のような理由で評価なさっている点になるほどと思いました。

私はどちらかというと、条件成就時の差し止め請求権があるからといって、条件設定時の差し止めが論理必然的には導かれないのではないか、などと考えていたものですから。

平成16年度重要判例解説も届いたことですし、もう一度考えてみます。

投稿: le-quatorze-juillet | 2005年6月17日 (金) 01時04分

le-quatorze-juillet さん、コメントありがとうございます。
最高裁判例にしたがうときにも、異論を唱えるときにも、また抵触をかわすときにも、高裁の裁判官は、法令解釈・事例分析とも非常に気をつかってますので、そのあたりよく検討されているなあ・・と私は積極的に評価しました。自分が逆転敗訴判決を受けたときには、冷静に評価する気にもならないんですが(笑)
また、よろしければお立ち寄りください。

投稿: toshi | 2005年6月17日 (金) 12時14分

はじめまして、福井と申します。
当方にて少しニレコの件に絡めてエントリを書いていますのでトラックバックをさせていただきました。
こちら様とは読者層が違いますし、専門家でもありませんので、テクニカルな問題には触れておりませんが、ご覧いただき何かのご意見を頂戴することができましたなら幸甚に存じます。

投稿: 福井 | 2005年6月21日 (火) 21時04分

どうもTBありがとうございます。そちらにTBつけられず、たいへん失礼いたしました。関連記事をエントリーいたしましたので、またお時間のあるときにでも、ご参照いただけたら・・と思います。

投稿: toshi | 2005年6月22日 (水) 13時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ニレコ抗告審決定への意見(総括):

» 鹿子木裁判長が与えた憂鬱 [西尾幹二のインターネット日録]
・否定された企業防衛策 我が国初の平時導入型敵対的買収予防策が司法により否定さ... [続きを読む]

受信: 2005年6月21日 (火) 20時50分

« ニレコの抗告審やはり差止認容(決定全文あり) | トップページ | 株主価値と社会的責任論(CSR) »