組織のおはなし
いくつかのブログで「組織」の話がテーマとなっておりましたので、私の見渡せる範囲でのお話をさせていただきます。
私は社外監査役のほかに、上場企業でコンプライアンス委員や不祥事再発防止のアドバイザリーボード委員などをさせていただいております。大学卒業して20年以上経ち、組織というものの一員になることは、これらの仕事を始めるまではまったくありませんでした。いま「社内取締役対社外取締役」などの構図で緊張関係が働く、みたいなオーソドックスな話題が「企業統治論」のなかで盛んに言われておりますが、実際に組織の中におりますと、もっと生臭い緊張関係があります。それは社内抗争といいますか、「会長派」と「社長派」、「生え抜き派」と「銀行出身派」の役員構成の渦中で「宙ぶらりんの社外派」のような存在になってしまい、私の意見が、あるときは「会長派」に都合よく引用され、あるテーマでは「生え抜き派」に重宝がられる、といった具合で、思い描いていた理想とはかけ離れた現実の世界を経験しなければなりません。ビジネスの栄光を勝ち抜いてこられたような著名な経営者が「社外」として迎え入れられた場合には、このようなこともないかもしれませんが、役員よりも若い人間が、専門をかわれて中枢部門に参画するような場合には、この「社内力学」との緊張関係もかなりやっかいなものです。最初はわからなくても、1年2年とおつきあいしていれば、いくら社外の人間といってもこの「社内力学」がわかってしまいます。先日、社外取締役の人数について、司法判断との絡みでエントリーを書きましたが、実際の社外者の機能という面からいっても、社外者が社内者と拮抗するほどに数において存在しなければ、理想であるところの「社内取締役対社外取締役」という図式が実現しないように思います。また、「こんなに社外者が増えたらえらいことになるぞ」という緊張関係が、社内を一枚岩にして、ひょっとしたら無駄な「社内力学」によるリスクを低減させる方向に働くかもしれません。(いやいや、そんな甘くないですぞ、という声が聞こえてきそうですが・・)
門外漢にもうひとつだけ偉そうに言わせてもらえるならば、社外取締役や特別委員会に少しばかりの力があるとするなら、「専門的な知識、見識を経営に応用する」のは二の次でして、その前に大事なことは、そんな「社内力学」を少しでも捻じ曲げて、「このままだと企業買収なんか起こらなくても、自分たちの保身が危ないかも・・・」くらいの危惧を抱いていただくことが必要!、と痛感します。。。企業経営や業界の細かい実情をわからない人間がそんなに増えてもいかがなものか、とおっしゃる方も多く、また現実に社外取締役不要論を強く唱える「元気のいい会社の役員さん」もいらっしゃいます。でも「組織の宿命」というか、大きな組織であればあるほど、「無駄なエネルギーの消費」があるわけで、この社内力学を変容させることに、なにも専門の業界事情や業界知識は必要ありません。
そんなわけで、きょうは法務とはまったく関係のない話になってしまいましたが、社内力学に負けてしまっては社外取締役、社外監査役制度など、まったく機能しないという結論(いや試論?)であります。
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コメント
こんばんは。賛成です。お調子者で恐縮ですが私はtoshiさんがここで書かれたことをまさしく強調したかったのです(笑)。
「1年2年とおつきあいしていれば」にとてもリアリティを感じます。それくらいのつきあいになると確かにいろいろと社内の各派閥の側から妙な働きかけがあり「おや?この動きはどういう意味だろう」と思わせられる不思議な動きが生じますね。取り込み工作が。私もささいな情報を流したり伝言ゲームをしてみたりして誰と誰の間でどの情報が共有されていないかを確認することで派閥の構図をあぶり出すということをしたりします。ささいな情報でも変に伝わらないコミュニケーション不全があればそこが喧嘩中(笑)。
こうした社内力学というのはバカバカしいといいだせばホントにバカバカしいのですがではバカにして遠ざけていれば無縁でいられるかというとそういう距離の取り方が一番足をすくわれたりするし仕事にもならない。結局自分の意志で積極的に中に入って行かざるを得ないんですよね。染まりきらないように気をつけながら。私は昔すっかり誤解していたことですがこの手の中立というのは静的な状態で宣言一発で実現するものではなくて均衡を探り続ける不断の運動によって実現されるものですね。ものすごく疲れますね(笑)。
会社で派閥が形成されるとなぜなんだか「不当に力をもっていつも無茶を通す派閥」と「不当に力を失ってその無茶をいつも飲まされている派閥」という二層分化が見られますがこういう状態での均衡は、独占とか寡占の話が示唆するように会社全体としてみると大変な非効率ですね。力のある方の派閥によって、できたての頃は健全だった内部統制が形骸化されてしまっていたりする。よく見かける形としては力のある方の派閥の構成員に内部統制がほとんど効かず力のない方の派閥の構成員に厳しく効き過ぎるというアンバランスです。この点無縁なようだけれどよく似ているモノのたとえとしてたとえば公正取引委員会と社外取締役という比較も面白い気がしていまして公正取引委員会にいかに力を持たせるかという議論と社外取締役にいかに力を持たせるかという議論には似通ったところがあるように思います。
とまれ十分な数(資質とか性能とか能力とかの属性ではなくて頭数ですね)がありゆがんだ社内力学を矯正し健全な競争をさせるだけの政治力が必要だとのご指摘に全面的に賛成です。
投稿: bun | 2005年6月13日 (月) 00時16分
bunさん、コメントありがとうございます。実社会に出ますと、どんなに素晴らしい意見をもっていても、少数意見だと「数の論理」で押し切られてしまうし、ぎゃくに賛同者が増えると、過半数に至らなくても、一気に意見が通る瞬間が訪れたり、ホント不思議な世界です。その賛同者を得るために、逆に「社内力学」を利用して上のほうから、無理やり賛同者を増やす工作をしたりとか(笑)。私も本当は形式処理をしたいのですが、そんな甘い考えが通らない世の中を知り、オネーチャンのお店行ったり、お食事会に参加したり、というのも善悪の意見はあろうかと思いますが、肯定せざるをえないなあ・・・と感じています。本当はそういうのがちょっと億劫なんで、弁護士になったんですけど・・トホホ
投稿: toshi | 2005年6月13日 (月) 12時13分
TBさせていただきました。
投稿: arnese | 2005年6月13日 (月) 15時36分
組織運営に影響を与える立場から、コメントさせていただきます。
toshiさんのエントリー部分
(引用開始)
「専門的な知識、見識を経営に応用する」のは二の次でして、その前に大事なことは、そんな「社内力学」を少しでも捻じ曲げて、「このままだと企業買収なんか起こらなくても、自分たちの保身が危ないかも・・・」くらいの危惧を抱いていただくことが必要!、と痛感します。
(引用終了)
この部分には、共感できます。私も、監事、監査役、××委員会(組織再建関連)の委員をしていますので、自分のポジショニングには、いつも悩んでおります。「「社内力学」を少しでも捻じ曲げて」というよりは、「組織を理解して」、そして、「自分の専門分野の知識・経験で組織に貢献する」というスタンスでいます。さらに、組織に貢献するというよりか、その組織にとって、一番重要な者はだれかという視点で仕事をしています。最近、委員をしている組織では、組合員の中心に考えています。
ちなみに、組織がなくなる現実を経験(倒産関係の仕事数社経験)しているものとして、組織がなくなるとそれをささえている人(組織も含む)が一番迷惑をします。組合員、従業員、下請けなどの弱者。だから、この人たちの視点が重要と思っています。
社内力学というのは、どこの組織にも存在します。たまに、私もAという派閥から依頼を受け仕事をし、A派閥がだめになったので、私も契約解除ということもあります。この社内力学というのをあまり気にしていても仕方ないので、自分の考え方を表現するようにしています。精神論ですが、組織のために、真剣に、自分の考え方をまとめ、組織幹部に説明していくという姿勢があれば、理解者も出てくると思います。私の親方の仕事ぶりをみて確信しています。
最近、財政状態が改善した組織、親方と私が、××委員会(組織再建関連)の委員をしていて、このままじゃだめだという人も現れました。この役員のリーダーシップによって、大きく組織が変わりました。この役員のリーダーシップが大きな要素ですが、私たちの考え方を大変参考にしてもらいました。
少し話はずれますが、組織に影響を与える能力も報酬に反映してくると思います。
Bunさんのコメント部分
(引用開始)
こうした社内力学というのはバカバカしいといいだせばホントにバカバカしいのですがではバカにして遠ざけていれば無縁でいられるかというとそういう距離の取り方が一番足をすくわれたりするし仕事にもならない。
(引用終了)
社内力学を無視するとこうなることよく理解しております。実際に経験しております。私も気にしませんが、自分の意見をぶつける相手をだれにするのか、社内力学をみて決めることもあります。ただ、自分は、A派閥を取り込んでなにかをしようとするスタンスでないので、いろいろな社内力学がうごめく会議で議論するようにしています。
私は、会計士で会計・税務の職人(悪く言えば専門馬鹿)で、コンサルがするように、積極的に組織改善など営業活動をしていません。ですので、このような組織運営に影響を与える役職に就いた時には、社内力学を気にせずに、専門家という立場から、自分の考え方に忠実にいたいと思います。
投稿: arnese | 2005年6月13日 (月) 21時39分
> arneseさん
ご意見ありがとうございます。読んでいて、ちょっと新しいテーマが頭に浮かんできました。
また、このご意見を前提にエントリーしますので、よろしくお願いします。
しかし、こういった議論ができるというのは「ブログ」の魅力だとつくづく感じ入ります。
投稿: toshi | 2005年6月14日 (火) 02時58分
toshiさん、お挨拶が遅れました。トラックバックさせていただいたのは、社外取締役でも会社法のセオリー通りに機能するのは人間関係次第だよねというところに共感したのが発端でした。またお邪魔させてもらうかもしれませんが、よろしくお願いします。
それと「濃い」地域の祭り、機会がなくてまだ見られていません。ちなみに祭りに帰らないと殺されると言った友人は河内長野でした。その時なんかうらやましかったんですよね。
投稿: neon98 | 2005年6月18日 (土) 04時21分
河内、泉州という、いわゆる「南大阪」地域では、同窓会を開かなくても祭りで顔を合わせるんで、よく「うらやましい」と言われます。「殺される」とまではさすがに言われませんが、仕事で顔を出さなかったりすると「長期入院らしい」とガサネタを流布されます。(これはホントの話)
投稿: toshi | 2005年6月18日 (土) 12時04分
こんばんは。私からもお礼を言わせてください。arneseさんコメントありがとうございました。それができるのであれば実にお見事と言う他ありません。感服しました。
投稿: bun | 2005年6月23日 (木) 01時09分