カネボウの粉飾決算と監査役
旧経営陣3名の逮捕や、監査法人への強制捜査など、カネボウの粉飾決算に関する記事が大きく取り上げられています。
いろいろと新聞記事を読んでいて、連結決算から赤字子会社をはずしたり、買戻し条件で取引先に押し付け販売をしたり、激安カネボウ商品を撤収するための架空費用を還流させたりと、さまざまな債務圧縮、裏金工作がなされており、1998年から2000年ころにかけて、こういった異常取引について外部監査人が重点的に監査をできなかったのか、疑問を抱いてしまいます。ただ、全体の数字からみて、こういった異常が発見されたとしても、その金額が小さい場合には財務諸表に及ぼす影響は少ないわけですから精査する必要はなかったのかもしれませんし、使途がわからない金銭がみつかったとしても、その金銭に対価性があって、なんらかの費用性が認められてしまえば、財務諸表の信頼性は損なわれないわけですから、やはり財務の信頼性には問題はなかったと言えるのかもしれませんし、このあたりの会計監査人の責任(期待ギャップ)については、専門家の方々の忌憚のない反論というかご意見をお聞きしてみたいものです。1998年といえば、まだ7年ほど前のことではありますが、この7年で会計監査に関する考え方は大きく変わってきているでしょうし、「1998年」という時代の水準で判断する必要はあると思います。
カネボウでは「取締役会もほとんど機能していなかった」と報道されています。事実上、トップ3名ほどで重要な案件が処理されていたということで、取締役会は名目化していた、とのこと。もちろん、このような名目化は現在でも上場企業にみられるところだと思いますが、こういった場合、果たして監査役会は機能していなかったのでしょうか。
私が社外監査役を務める会社では、この7月、常勤の方含め監査役3名によって、臨時取締役会を招集してもらい、内部監査人出席のもと、代表者以下「取締役会自体の内部統制システム」を検討してもらうことを要望しました。ここ一年での取締役会上程事項に遺漏がないか、本来取締役会でどこまで審議をはかるべきか、審議をはかるべきものを専務会で決めてしまっていないか、そういった問題点を取締役会で審議してもらうことが目的でした。
私自身、取締役会に上程すべき問題について明確な基準を設けることや、上程問題について、実質的な審議が可能となるように問題を整理して上程すること、過度に専務会で結論を出さないことなど、意見を述べさせてもらい、今後の取締役会の意思形成プロセスを公明正大に記録することを納得していただきました。もちろん、当社の代表者は理論家肌の方なので、監査役の意見に対してはかなり強く反論をされました。こちらも具体例を挙げてひとつひとつ説明をして、6割程度の要望については具体化を約束されました。
監査役から臨時役員会の要望があるなど、社長にとっては気の進まない話かもしれません。しかし、各プロジェクト本部長を兼務する取締役の方々と代表者や専務との関係を考慮するならば、こういったシステム監視は監査役しかできない企業も多いと思いますし、カネボウあたりであっても、こういった取締役会の形骸化について、なぜ是正するような行動にでなかったのであろうか、と疑問を抱いてしまいます。もちろん、取締役会が十分機能していれば粉飾を防止できたとまで言うつもりはありません。ただ、内部統制システムの限界として「社内ぐるみの犯罪には無力である」ということが言われます。内部統制が人間の牽制システムに依存するものである以上は、重要な財務情報を取締役会でもっと共有できていれば、たとえイエスマンが多い役員会であったとしても、おそらく牽制機能はもっと働いたのではないか、と推測されます。
西武鉄道、コクドの場合には、やはり社外監査役がキーマンとなりました。一般の不正発見とちがい、トップの絡む不正については今後も監査役が大きな役割をもち続けると思いますし、その企業のコンプライアンスを支えるのは監査役制度の有効性だと再認識した次第です。
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