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2005年7月31日 (日)

カネボウの粉飾決算と監査役

旧経営陣3名の逮捕や、監査法人への強制捜査など、カネボウの粉飾決算に関する記事が大きく取り上げられています。

いろいろと新聞記事を読んでいて、連結決算から赤字子会社をはずしたり、買戻し条件で取引先に押し付け販売をしたり、激安カネボウ商品を撤収するための架空費用を還流させたりと、さまざまな債務圧縮、裏金工作がなされており、1998年から2000年ころにかけて、こういった異常取引について外部監査人が重点的に監査をできなかったのか、疑問を抱いてしまいます。ただ、全体の数字からみて、こういった異常が発見されたとしても、その金額が小さい場合には財務諸表に及ぼす影響は少ないわけですから精査する必要はなかったのかもしれませんし、使途がわからない金銭がみつかったとしても、その金銭に対価性があって、なんらかの費用性が認められてしまえば、財務諸表の信頼性は損なわれないわけですから、やはり財務の信頼性には問題はなかったと言えるのかもしれませんし、このあたりの会計監査人の責任(期待ギャップ)については、専門家の方々の忌憚のない反論というかご意見をお聞きしてみたいものです。1998年といえば、まだ7年ほど前のことではありますが、この7年で会計監査に関する考え方は大きく変わってきているでしょうし、「1998年」という時代の水準で判断する必要はあると思います。

カネボウでは「取締役会もほとんど機能していなかった」と報道されています。事実上、トップ3名ほどで重要な案件が処理されていたということで、取締役会は名目化していた、とのこと。もちろん、このような名目化は現在でも上場企業にみられるところだと思いますが、こういった場合、果たして監査役会は機能していなかったのでしょうか。

私が社外監査役を務める会社では、この7月、常勤の方含め監査役3名によって、臨時取締役会を招集してもらい、内部監査人出席のもと、代表者以下「取締役会自体の内部統制システム」を検討してもらうことを要望しました。ここ一年での取締役会上程事項に遺漏がないか、本来取締役会でどこまで審議をはかるべきか、審議をはかるべきものを専務会で決めてしまっていないか、そういった問題点を取締役会で審議してもらうことが目的でした。

私自身、取締役会に上程すべき問題について明確な基準を設けることや、上程問題について、実質的な審議が可能となるように問題を整理して上程すること、過度に専務会で結論を出さないことなど、意見を述べさせてもらい、今後の取締役会の意思形成プロセスを公明正大に記録することを納得していただきました。もちろん、当社の代表者は理論家肌の方なので、監査役の意見に対してはかなり強く反論をされました。こちらも具体例を挙げてひとつひとつ説明をして、6割程度の要望については具体化を約束されました。

監査役から臨時役員会の要望があるなど、社長にとっては気の進まない話かもしれません。しかし、各プロジェクト本部長を兼務する取締役の方々と代表者や専務との関係を考慮するならば、こういったシステム監視は監査役しかできない企業も多いと思いますし、カネボウあたりであっても、こういった取締役会の形骸化について、なぜ是正するような行動にでなかったのであろうか、と疑問を抱いてしまいます。もちろん、取締役会が十分機能していれば粉飾を防止できたとまで言うつもりはありません。ただ、内部統制システムの限界として「社内ぐるみの犯罪には無力である」ということが言われます。内部統制が人間の牽制システムに依存するものである以上は、重要な財務情報を取締役会でもっと共有できていれば、たとえイエスマンが多い役員会であったとしても、おそらく牽制機能はもっと働いたのではないか、と推測されます。

西武鉄道、コクドの場合には、やはり社外監査役がキーマンとなりました。一般の不正発見とちがい、トップの絡む不正については今後も監査役が大きな役割をもち続けると思いますし、その企業のコンプライアンスを支えるのは監査役制度の有効性だと再認識した次第です。

7月 31, 2005 カネボウの粉飾決算と監査役 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2005年7月29日 (金)

夢真HDの請求却下 東京地裁

日経ネット記事によりますと、夢真の株式分割差止め仮処分申請が却下され、日本技術開発の株式分割を認容する鹿子木決定が出された、とのことです。

第1回審尋期日と第2回期日の間に、M&Aで著名な法律事務所の代理人より追加仮処分が申請されたことや、代表訴訟リスクの高いほうから、容易に不服申立放棄の手続きがとられていることなどから、おおよそ今回の決定予想はつきました。しかし、私は裁判所の要請で双方に不服申立放棄の手続きがとられた以上、鹿子木決定はほかの買収防衛策には極力影響を与えないような理由で申請を却下する、と予想していましたが、どうもそうではないようなネット記事になっていますね。。。ペガサスのぬし さんの予想のほうが的中しているような感じですかね。

さて、今後日本技術開発、夢真の動きが第2ラウンドとして始まるわけですが、ともかく今回の決定についても詳しく検討してみたいので、また早期に決定全文を入手したいと思います。(しかしあいかわらず、夢真さんのリリースは強気ですね。)

(追記です)

まだ決定文も入手しないうちに、いきなり日本技術開発さんのHPに第2ラウンドのリリース(新株予約権発行のお知らせ)が掲載されております。土曜日の朝刊はおそらく、このリリースまでフォローできないんじゃないでしょうか。すでに東京地裁の決定を予測したうえで準備されていたのかもしれません。また、ゆっくり検討してみたいと思います。

ちなみに、厚生年金基金連合会の矢野専務理事のコメント(朝日ネット) や、読売ネット記事によりますと、金融庁が分割株式のTOBを容認したことが今回の決定に重要な事情となった、とのことだそうです。(まだ決定文を読んでおりませんので真偽は定かではありませんが)そのあたりの趣旨は7月22日金曜日のエントリー後半部分にも書かせていただきましたので、もしお時間がございましたら、ご参照ください。

7月 29, 2005 夢真TOB 地裁が最終判断か | | コメント (1) | トラックバック (0)

公認不正検査士(ACFE)会合

第一回のACFE(公認不正検査士)のアドバイザリー・コミッティーに出席するため、東京まで行ってきました。ご縁があって、関西代表みたいな感じで委員に就任させていただいたのですが、金融庁企業会計審議会内部統制部会長の八田教授や、藤沼公認会計士協会会長、「ゴーログ」の木村剛さんをはじめ、よく雑誌や著書などでお名前を拝見する方ばかりで、同業者といえば安富慶応大学教授だけ。懇親会では自民党のセンセイもご挨拶に登場。ん?なんか私だけ「場違い」のような感じもいたしましたが、ここで議論したり、勉強させていただいた知識をなんとか大阪へ持ち帰ろうと思っておりますし、債権者破産申立事件における管財人業務の経験なども、不正検査のお役に立てばと思い、守秘義務に反しない程度でご披露させていただきました。なお、日本における公認不正検査士の試験ですが、本年11月に第一回の試験が開催されます。木村さんあたりも、お話をお聞きしておりますと内部統制、内部監査に関してはたいへん造詣が深く、そういった識者の方々の豊富な不正防止のためのノウハウが今後広く日本に浸透するためにも、東京だけでなく全国に「不正検査士」資格を持った方が増えるといいなあ・・と強く感じた次第です。

「金融庁」と「経済産業省」が同時に出した「内部統制指針」の関係なども、八田教授に直接伺うことができ、たいへん貴重なご意見を頂戴できました。産業界に納得してもらうための方策や、企業規模によって統制システムの構築方法を異にする方策など、かなり実務への浸透度を高めるための苦労というものも、実際にお聞きしてみないとわかりませんね。

(しかし、山手線というのはテレビCMを社内で放映してはるんですね。普段、東京地裁と東京駅をタクシーでしか往復しないもんで、はじめて見てビックリしました。。。)

7月 29, 2005 公認不正検査士(ACFE)初会合 | | コメント (3) | トラックバック (1)

2005年7月27日 (水)

夢真HD 地裁が最終判断?

いま日本技術開発のHPに掲載されているのを見たのですが

夢真側が取締役の職務執行停止仮処分申立を取下げ、株式分割差止仮処分事件については、当事者双方が不服申立権を事前に放棄した、とのことです。

取下げの点については、昨日の第2回審尋期日において、裁判所から取下げ要請がなされたようで、決定は8月1日あたりとされています。(毎日ネット)一昨日のエントリーで、裁判所から促されて追加されたのでは・・・と推測しておりましたが、まったく違いました。しかし、この仮処分が認められるとすれば応用範囲が広いと期待していただけに残念です。

ともあれ、鹿子木裁判長の株式分割差止仮処分決定がこの事件の司法における最終判断になるということのようです。一般投資家への影響ということで、早期解決を図る趣旨でしょうか。双方不服申立権の放棄というのは異例ですね。なんか仲裁裁定のようです。

ただ、分割権利付き株式の最終売買日が迫っていること、裁判所の要請で夢真側の取締役職務執行停止申立事件が取下げられたこと、そして(残った株式分割差止め仮処分事件に関して)当事者双方が株主代表訴訟のリスクも勘案したうえで、法律上の権利である「不服申立権」を(誰の要請によるものかは不明ですが)自ら放棄したこと(つまり双方の不服申立放棄に向かってのインセンティブ)などを合わせ考えますと、なんとなく先が見えてきたような気もしますが・・・・

M&Aの素人弁護士がひとつだけ予測するならば、結論がどっちに転ぶにせよ、ほかの防衛策導入企業にもっとも影響の少ない(つまり、本事件固有の争点をもって)決定理由が書かれるものと思います。

今後の報道やりリースを待ちたいと思います。

7月 27, 2005 夢真TOB 地裁が最終判断か | | コメント (2) | トラックバック (0)

ワールドのMBO(その2)

日経ネットニュースに以下のとおり、東証社長のコメントがあります。

東証社長「株式非公開化、一般株主の理解を」

どうやら、上場企業が「退場」する場合には、一般株主へ理解を求めるための説明責任があるという趣旨のコメントのようです。

私は人並み程度の株取引しかしませんし、ファイナンスについてはまったくの素人ですので、ぜひとも教えていただきたいのですが、この東証社長がおっしゃっている「一般株主への説明責任」というものはどんなもんなんでしょうかね?

たしか上場企業が過度の防衛策を導入することは好ましくないということで、そういった防衛策をとる場合は上場廃止もありうる、と警告されていたと思うのですが。つまり、経営者が保身したければ「さっさと退場しろ」ということの趣旨だと考えられるのですが、今度はいざ好調企業がさっさと退場しかけると「ちょっと待て、きちんと株主に退場の理由を説明しろ」とおっしゃるのはよく理解できません。説明責任とありますが、この「責任」はどっからくるのでしょうか。借金を棒引きにして退場するならともかく、きちんと時価の2割増し価格でTOBをかけているわけですから、それ以上になにを説明せよ、というのでしょうか。むしろ今日あたりは普段の9倍の取引高でこれから買いたいと希望している株主の方がたくさんいらっしゃるわけで、退場の理由説明というのがどうもナンセンスに感じられます。もし、この説明責任というものが「いままでお世話になった株主様に対する道義的な責任ってもんがあるでしょ」といった社会道徳的発想のものでしたら、「そんなこと子供でもわかるわよ。あんたに言われる筋合いじゃないでしょ」で終わってしまいそうですし。。

これから公開したいと申請している企業に対して、「もし、退場するときには説明義務がありますよ」と事前に説明をして、その企業から承認を受けているのであればわかります。それが上場企業のルールなんだと認識できますし。しかし、いままでそんな説明をしていなかったのに、いきなり「君には説明責任がある」と警告されても、どうも腑に落ちません。じゃあ、説明するのが嫌なんで保身のための防衛策を認めてくださいませ、と言いたくなりませんかね。

まったく法律論とは無関係ですが、どうも私には理解困難なコメントでしたので、そういった「説明責任」や「退場の際に一般株主の理解を得る」必要性について、やさしい解説がありましたら教えてください。

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2005年7月26日 (火)

夢真HDの株式発行中止命令(続報)

7月25日の夢真リリースによりますと、新株発行差止仮処分とは別に(追加して、ということだろうと思いますが)取締役職務執行停止の仮処分命令を申し立てた、そうです。

私は最初から「こっちかな??」と推測しておりましたが自信がありませんでしたので、4日ほど前のエントリー題名にも「株式分割中止命令」と記しておりました。被保全権利が新株発行差止請求権ならば、以前の「発行差止仮処分」との関係もすっきりしていましたが、どうも(株主もしくは買付希望者による)「株式分割決議無効確認請求権」ということであれば、取締役による株式分割手続きの執行中止命令のほうがしっくりきます。おそらく裁判所から事前連絡があって、「補正もしくは追加申請されたらどうでしょうか」と打診があったのではないでしょうか。私はけっこう仮処分申立が好きなほうなんで、命令内容を自分なりに自由に創作して申立たりするんですが、あとから担当裁判官から連絡がはいって、修正要請に応じたりしますね。

さて、この取締役の職務執行停止命令ですが、こうなると私も俄然、司法判断の帰趨に注目します。といいますのも、このような取締役の職務執行停止命令がもし発動されるとしたら、その応用範囲というものが広がるからです。今後、敵対的買収事例において、社外取締役や社外監査役が防衛策発動の際に「取締役会」や「特別委員会」で活躍する場面が想定されておりますが、そういった委員会に、それまで何もしてこなかった「社外取締役」らの出席をとめたり、そのような役員が参加して決議された手続きを中止させる手段となりうるからです。私の予想では今後、防衛策発動場面における司法の関与はプロセス審査に限られるものと思いますので、そういった社外取締役、社外監査役が企業価値判断を行う場面において、その職務を止める手段がないか、と考えておりました。

この夢真の事例では、いったいどのような利害関係人が取締役の職務執行停止を求めることができるのか、また取締役会決議の効力をどのような事実認定方法で審査するのか、その判断手法が気になります。今後、司法判断をフォローしていくうえでたいへん興味のあるところです。

(追記 7月26日)

日本技術開発からの本日付けリリースによると、

分割株式の発行差止め仮処分とは別に(追加して)、取締役6名と会社そのものを債務者(相手方)として分割手続きの執行停止仮処分を(夢真側が)申し立てたそうです。

また、夢真は(今回も)株主としての立場で仮処分申立を行っている、とのことですから、被保全権利は商法272条の「6ヶ月前から株を保有している株主による取締役の違法行為差止請求権」と考えるのが確実ですね。無効な株式分割決議に基づく分割手続きは違法であるから、その職務執行を停止させる、というものでしょうか。ただそうなると「会社に回復すべからざる損害」というのは、いったい何でしょうかね?買収防衛策としての株式分割でしょうから、夢真側の「損害」というのはまだわかる気がするのですが、日本技術開発における株主の「回復困難な損害」というもののイメージがわきません。

7月 26, 2005 夢真、株式分割中止命令申立へ | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月25日 (月)

ワールド 株式非公開へ

日経の夕刊一面に「ワールド、株式非公開に 経営陣がMBO」なる記事が掲載されていました。東京、大阪の両証券取引所に上場しているワールドとしては経営が絶好調で、とりわけ当面の資金調達の必要性もないために「株式を上場している意味がない」として、受け皿会社を利用したTOBによる上場廃止の道を選択されるそうです。

株式の非公開化は「究極の敵対的買収への防衛策」と説明されておりますが、いまホットな話題である「M&A防衛策」と「内部統制」の行き着く先は、ゴーイングプライベートだと私は考えておりますので、今回のワールドの決断はどっちかというと「敵対的防衛策としての戦略」というよりも、ユニクロなどへの対抗策としての「スピード経営戦略」のほうが重視されているのではないか・・・と勝手に推測しています。

内部統制の目的というのは、経営の効率性向上やリスク管理というものが重要なカテゴリーでありますので、これだけ「敵対的M&A防衛策」やら「モノ言う株主の存在」やら、「上場企業の社外取締役導入の義務化」などが叫ばれますと、現経営陣の経営判断に自信のある企業にとっては、どうしても買収リスクや代表訴訟リスクなどは、企業の収益向上の妨げとなりますから、これらのリスク回避は検討に値しますし、また経営判断などに社外役員を導入すれば経営のスピードが下がる、ということであれば効率性を向上させるためには、そういった金融庁の指導を回避することも「経営の効率性」という内部統制の重要な目的に適う、という解釈も成り立ちます。理論的には、新会社法のもとでは非公開会社にすれば、大会社であっても取締役会さえ不要なわけです。したがいまして、公開企業にあっての「内部統制システムの究極化」は企業の非公開化といっても過言ではないと考えられます。(一般投資家という存在がないわけですから、「内部統制システムの構築義務」といったものがあるとしても、それは企業自身や企業債権者、消費者などのステークホルダー向けのものであればいいわけでして、法的義務といっても非常にスリム化されますよね)

もちろん、非公開化というだけでは、たんに「上場が廃止される」というだけですから、さらに有価証券報告書などの提出免除のための「継続開示義務の消滅化手続き」も必要となり、これがけっこうムズカシイものと思われますが、本当の意味のゴーイングプライベートは、この「非公開化」プラス「継続開示義務の中断」まで完了することでして、ここに至って初めて「究極の内部統制システム実現のための礎」が築かれることになると思われます。資金調達については子会社だけを公開すれば足りるでしょうし、また非公開化した企業の再公開化もそれほど困難とは言われていませんし。

結果の当否は将来の課題でしょうが、先日のユニクロ社長交代劇をみていて、あれだけ大きな企業であっても、大株主でありかつ経営責任者の存在する企業というものの経営判断の迅速性というものには本当に驚きました。今後、新会社法のもとでは、非公開企業であれば、株主総会の決定権限が限定されないことと、定款による機関権限分配の裁量が広く認められるわけですから、経営判断にスピードを要求される業種においてはかなり魅力的な選択です。企業防衛という視点からだけでなく、経営の効率性、内部統制に伴う費用負担の低減、企業のリスク管理という面からも、MBOの条件が整う場合には、非公開化の道を検討する公開企業はほかにも出てくるのように推測します。

(追記です)

ワールドから公開買付に関するリリースが出ています。

公開買付の賛同に関するお知らせ

現社長個人が100%出資する受け皿会社が全株取得を目指すそうです。受け皿会社が産活法の認可を受けているのでTOB終了後も現会社法のもとでも、現金対価での株式取得ができるようです。本来ならば残り株も公開買付によらなければならないところですが、50%を超える株式を取得している株主が、一社のみにて残り株を買い進める場合には、例外的措置として公開買付によらずとも相対取引にて株を取得することが可能ですので、そういったスキームを用いているものと思われます。また、株主が25名以下になるまで買い進めないと上場が廃止されても継続開示義務免除の効果が得られませんので、業務の効率化を進めるためにも現金対価での買取は必須でしょうね。

それと、このMBOには佐山さんの会社が動いていらっしゃるんですね。新しいファンドの手法になるのかもしれません。そういった意味でも注目しておく必要がありそうです。

(さらに追記です・・・)

今朝の日経の社長記者会見記事を読んでおりますと、どうも私のエントリーに欠落していた視点があったようです。単に企業情報開示義務の免除というものを、会社の経費負担軽減、と捉えておりましたが、「株主へ企業価値判断のために企業情報を開示してしまうと、大切な企業戦略が漏洩してしまうおそれが出てくるので、これを防止するため」という視点も重要なポイントのようです。なるほど、こういった企業戦略の考え方もあるんですね。

7月 25, 2005 ワールド 株式非公開へ | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月23日 (土)

内部統制監査に産業界が反発?

いつも勉強させていただいている 法務の国ろじゃあさんのブログに、新会社法解説雑誌のことがエントリーされておりまして、この久保利さんの記事は是非読んでおきたい、と思っておりますが、同時に粉飾列島ー会計はアートかー さんのブログで「日経金融新聞」の気になる記事をみつけました。

この「内部統制監査」の問題は、金融庁が投資家保護を目的に、財務信頼性に関する監査を中心として会計監査人へ大きな働きを期待するシステムを作り、経済産業省がいわゆるコンプライアンス経営、企業債権者のための資産保全を目的に、会計監査人と監査役、内部監査人との協働に期待するシステムを作るといった「棲み分け」が成り立っているものと私は認識しておりました。

ところが、どうもこの日経金融の記事からしますと、内部統制監査に要する費用が膨大になることを懸念した産業界から批判が出て、内部統制全般の監査について、「監査役」監査が前面に出るような案を経済産業省が持ち出した、とありますから、「棲み分け」ということでもないようですし、金融庁と二人三脚で頑張ってきた会計士協会としても、ワーキンググループから脱退する気持ちもわかります。報酬を獲得する機会を失ううえに、新会社法のもとでは機関としての責任だけは真正面から受ける立場になるわけですし、たまったものではありませんね。

久保利さんが述べているように、「コンプライアンス経営、リスク管理にはコストがかかる、いやコストをかけよ」という認識が、まだまだ日本の企業トップの間では概ね低いものと思います。私自身、それほど大きな規模ではない上場企業2社だけですが、社外監査役、コンプライアンス委員会委員という仕事をしておりましても、内部統制システムへの提案というのが取締役会で前向きに議論されることがあまり多くありませんし、議題としても後回しになってしまいます。(おそらくどこでも同じではないでしょうか?)いや、語弊があるかもしれませんが、内部統制システムへお金をかけるかどうかは、トップの一存にあると言っても過言ではないと思います。

たとえ常勤の監査役さんでも、自社のITによる情報伝達システムの仕組みから試査の重点項目を割り出したり、知的財産(企業機密)の保管リスクを評価することはかなり難しく、監査役が責任をもって「外部委託」すれば足りる、という問題ではないと思います。

アメリカでも、最近2003年のサーベンス・オクスレー法(企業改革法)について、「あれは企業に過度の負担を強いるものであり、見直しが必要だ」とオクスレー下院議員自身が認めているように、企業負担とコンプアイアンス経営との「バランス」を模索する必要はあろうかと思いますが、現実社会の「監査役」と「会計監査人」との役割分担を考えた場合、内部統制システム監視の担い手を「監査役」に大きく依存することは現実的ではないと思います。

日経金融新聞は普段読んでおりませんので、気をつけておりませんでしたが、おそらくこの問題は企業会計審議会や経済産業省の審議会あたりの動向とも絡んで大きな話題になっていくものと推測します。

7月 23, 2005 内部統制監査に産業界が反発? | | コメント (4) | トラックバック (1)

2005年7月22日 (金)

ヤメ検弁護士さんも超高額所得者の時代到来?

今年10月1日から、裁判員制度の施行を見越して、検察庁では「裁判員制度」専門部を設立するそうです。

捜査から公判まで一貫してこの「専門部」が担当する、ということですから、いわば裁判員制度を導入する刑事裁判のスペシャリストを養成するというわけですね。これはいままでのどんなヤメ検さんの肩書きよりも威力がありますね。いままででしたら「元特捜検事」とか「元○○高検検事長」などというのがけっこう迫力がありましたが、捜査から公判までを「裁判員制度」に向けての専門技能を体得するわけですから、もし重要事件で弁護人にしたいのは、こういった専門部に在籍しておられた「ヤメ検」さんでしょう。超高額の報酬を払ってでも、こんな弁護士さんに依頼したいと考える方や企業も多いんじゃないでしょうか。

7月 22, 2005 ヤメ検弁護士さんも超高額所得者? | | コメント (2) | トラックバック (0)

夢真HD、株式分割中止命令申立へ

夢真が、7月21日の夕方、東京地裁第8民事部(もう、おなじみの商事専門部です)に日本技術開発による株式分割に対して、その手続き差止の仮処分命令を申請した、とのことです。(夢真のWEBページに掲載されていた「申立の趣旨、申立理由骨子」だけの情報しかないので、またなにか勘違いがありましたら、お許しください。)

まず、仮処分命令申立ですから、夢真側に「被保全権利(仮処分命令によって、守られるべき夢真側の利益)」がないといけないわけですが、これは「株主による商法上の不公正発行に対する差止請求権」ということなんでしょうか、それとも「取締役会決議無効確認請求権」ということなんでしょうか。後日、取締役会決議無効確認の訴えを提起する予定である、と述べておられますから、おそらく無効確認請求のようなものかな、と考えておりますが、日経の記事には「不公正発行を禁じる商法の規定を類推適用して」などと書かれているので、なんとなく自信がありません。いずれにしましても、私は以前のエントリーで「110円に買付価格を下げて、どうして仮処分申立ができるんだろう、との疑問を記しておりましたが、申立側(債権者といいます)の工夫があるようです。

「保全の必要性」という点については、無効確認訴訟の判決を待っていては、夢真に救済困難な損害が発生するおそれがある、ということで損害拡大を防止するための緊急措置が認められるべきである、というものでしょう。

ともかく、本当に司法の場に持ち込まれてしまいましたね。また、ライブドア、ニレコに続く商事部裁判官による短期決戦の決定内容に関心が集まることになりそうです。

(「続き」の下のほうに、7月22日午後 追記 があります・・・・)

そもそも「株式分割などされては司法判断の道が閉ざされるのであり、きわめて遺憾」と述べていた夢真が、ひるがえって司法判断を求めるわけですから、苦渋の選択、という受け止められ方をされてもいたしかたないとは思うのですが、M&Aに強いとされる有名事務所が代理人としておつきになっておられるわけですから、準備は怠りなく申立に至ったということなんでしょうね。

また朝の新聞報道などで明らかになるとは思うのですが、この夢真の申立は「株主」という立場で主張しておられるのか、「TOBの適正な仕掛け人」という立場で主張しておられるのかいまひとつわかりません。株主という立場での構成であれば「新株発行差止」の類推適用ということも考えられますし、TOB仕掛け人という立場の構成であれば「商法、証券取引法違反の取締役会決議無効」という主張とも結びつきやすいように思います。

「後だしジャンケン」、つまり事前警告型ではない、という点からみて、夢真に有利かな・・・とは思うのですが、すこしだけ疑問点があります。

ひとつは夢真側の禁反言。どういう構成かは不明ですが、ともかくこの仮処分事件では、将来提起されるであろう、取締役会無効確認の訴えにおいて、夢真側にはいわゆる「確認の利益」が認められる必要があります。しかし、夢真は550円で買付希望を決めていたところ、日本技術開発の株式分割決議を聞いて110円としました。たとえ留保付であったとしても、いったん夢真側は日本技術開発の株式分割を認めているわけです。それも、ただ単に株式分割を認めるという意思表示を日本技術開発側にしたというものではなく、一般投資家に向かって「110円にします」と広く宣言してしまったわけです。当事者間での意思表示だけであれば「留保」というのも効いてくるかとは思いますが、広く(法律の素人である)株主に宣言してしまってから「株式分割は無効」というのは「分割は有効だけど不公正だ」というのとはちょっと意味が違うように思われます。そうすると、果たして今後夢真に取締役会決議の無効を確認する利益がないのでは・・・との疑問がすこしだけ湧いてきます。

つぎに「後から無効確認の判決を得る段階では、夢真に救済できない損害がある」との主張ですが、そのような損害というのはいったいどんなものなんでしょうか、という疑問です。今朝の読売新聞に出ていたように、証券取引法が「権利株式」についてのTOBが認められない(つまり、株式分割によって発行される分割後の株券については、現時点ではTOBで取得できない)ということが金融庁から通告され、買付条件の訂正要求でもされれば別ですが、おそらく私の考えでは株式分割は、いくら権利株式とはいっても現時点の株券が変容するだけのことですから、TOBの対象にはなる、と思われます。したがって、この点に関する金融庁からの訂正要求はないものと思いますが、そうであるなら株式分割の決議を撤回しないことを織り込み済みで「110円」に買付価格を変更した以上、予想困難な損害というのは発生しえないのではないでしょうか。いわゆる「嫌がらせ」による損害が発生するのであれば、それこそ無効確認の判決が出てからでも遅くはないのであって、仮処分を認めるに値する救済困難な損害とはいえません。夢真による「550円のTOB」をぜひとも続行させなければ夢真が救済されない「損害」とは果たしてなんなのか、そのあたりどういった説得力ある構成がなされているのか、非常に勉強をさせていただきたい論点であります。

(つづく・・・・・かな?)

(7月22日 午後 追記です)

今朝の日経で「金融庁TOB容認」という記事が掲載されおります。また同趣旨の伊藤金融担当大臣のコメントもあったようです。

買収撤回認める、分割後の株式も買付OK、いずれもすでにエントリーで書いていた予想がハズレなくてホッとしました。。。

(その2)でも書きましたが、そもそも買付条件引き下げと異なり、買収撤回は法律解釈ではなく、政令解釈ですから、金融庁の形式的審査権の範囲内であって、普段の証券会社からの問い合わせ回答と同じレベルだと思います。(ただ、そこに例示されている事由と今回の株式分割とは少し趣旨がちがうようには思われますが。)

権利株式のTOBを認めると、防衛策作りに波紋が生じる、との見出しがあり(今朝の日経)、またM&Aに詳しい弁護士さんもそのようにおっしゃっているそうですが、そんなことはないと予想します。今回の株式分割については、昨日このエントリーで書いたとおり、「現に存在している株券」が株主もしくは保管元に存在するわけですから、そこに将来受け取るべき株式も潜在的に表象されている(将来の5株分)と考えればよいわけで、またそう考えても取引に混乱を生じるおそれもありません。したがって、今回の株式分割に関する金融庁の見解をもって、「株券の発行が未了の場合でもTOBが(いつでも)いけますよ」と一般化するのは誤りだと思いますし、新株予約権などの売買については別問題(たとえば随伴性の有無など)もあるため、それほど今後の防衛策作りに波紋を呼ぶほどのものではないと予想しています。

7月 22, 2005 夢真、株式分割中止命令申立へ | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月21日 (木)

新しい監査方針とコーポレートガバナンス

7月20日、金融庁の企業会計審議会監査部会より

監査基準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関する品質管理基準の設定について(公開草案)  が発表されました。

いままでのリスクアプローチの方法では、昨今の粉飾決算や不正経理などの大型かつ悪質な経理操作を監査人が発見できない、ということから、新たな監査基準を導入する、というもののようです。よく拝読させていただいている何名かの会計士さんのブログで、以前よく質問させていただいたのですが、不正発見のための監査を導入すると言っても、別にこれまでのような財務情報に関わる監査(内部統制システム運用状況の監査を含めて)以外の画期的な「不正発見」方法を採り入れる、というものではなく、監査人の品質保証(つまり、担当監査人の監査が適正なものかどうか、を別の監査人や監査法人もしくは金融庁が監査する)を通じて、不正リスク発見の可能性を高めることが主たる目的のようです。

内部統制や内部監査の勉強をしておりますと、「内部統制および監査の限界」というものがかならず解説されており、「結局のところ、会社ぐるみで不正を隠蔽されてしまうと、内部統制、内部監査の機能は限界となり、発見がむずかしくなる」とされています。「人間はひとりだと悪さをする弱い動物だが、二人以上で仕事をすれば、かならずひとりは咎める人もいるだろうし、また自己抑制心も働く」という性悪説と性善説の折衷案に立脚した統制システムでしょうから、二人以上がみんなグルになってしまうと、このシステムは成り立たないわけです。そして昨今の不正経理問題というのは、ほとんどのケースがトップから主たる経営陣すべてが隠蔽工作に絡んでいる、というものでして、そういったケースで会計監査人の見逃し、ということを非難するのも、先の内部統制システムの限界論からすると、少し同情的になってしまいます。どうも、最近の世間の風潮は不正経理が発覚すると、担当した会計監査人が結果責任を問われるようなイメージに思えるのですが、実はリスクアプローチを基本とした実証手続きの流れをみますと、ある程度の努力義務を尽くせば会計監査人の責任は回避される、というのが適切な表現ではないかな・・・と思うのであります。(もし結果責任を問うのが適切だとするならば、企業は会計監査人を常駐させ、監査法人に莫大な報酬を支払わなければならないでしょう)

そこで、これは私の試論でありますが、こういったリスクアプローチによる不正発覚防止措置の実効性を高めるためにも、社外取締役、社外監査役は今後重要な役割を付与されるのではないでしょうか。会社の戦略面、経営面における重要な助言を社外役員に期待するというだけでなく、また単なる独断社長の「お目付け役」というものでもなく、「役員レベルでの悪事隠蔽のおそれのないことを担保する」役割です。おそらく社外取締役、社外監査役のなかには、今後経理や監査に精通した人に就任してもらう機会も多くなると思います。こういった社外役員を利用して、会社ぐるみでの不正経理情報や企業継続に関する情報を会計監査人が入手しうる可能性を確保しておくことも、一考に値するのではないでしょうか。

たしかに、社外役員に不正経理操作や企業継続関連情報が行き届かない、というリスクもあるでしょうが、だからこそ監査に関する知識と経験を有する社外役員の就任が期待されるところでありますし、そういった隠蔽を防止するためのコーポレートガバナンスということが、内部統制システム評価として非常に高い得点を獲得することができ、結果としては監査に要する費用の低減や、投資家に対するガバナンス評価も高まるものと思います。

この監査人の品質保証問題は、各論として「いったい誰が粉飾決算を見逃した責任を負担するのか」とか「会社の機密情報がこれまで以上に漏洩する可能性が高まるのではないか」など面白いテーマがたくさんあるのですが、きょうは総論までとさせていただきます。

7月 21, 2005 新しい監査方針とコーポレートガバナンス | | コメント (2) | トラックバック (1)

2005年7月20日 (水)

夢真HDのTOB実施(その3)

夢真HDより、7月20日開始予定のTOB(被対象会社は日本技術開発)に関する条件と、日本技術開発の買収防衛策(株式分割と発行予定株数の増加)に対する対応について7月19日、リリースされています。予想どおり、19日までに金融庁(関東財務局)からは、当初夢真が希望していた条件付買付価格、条件付撤回の是非に関する回答はなかったようで、ただし強行突破はせずに、買付予定株式総数はそのままにしておいて、とりあえず一株110円として買付を開始するそうです。買付条件の変更といっても、途中での引き下げは原則としてできませんが、引き上げについては(応募株主全員に同じ条件ということであれば)認められます。7月19日現在の日本技術開発の株価が550円前後ですが、こういったケースだと株価にはどのような影響が出るんでしょうかね?日本技術開発が株式分割を撤回すれば550円に買付価格を引き上げるし、株式分割が実施された場合には、買付予定株数を5倍まで引き上げて応募者全員に応募株数の5倍まで買取を保証する、というものらしいので、それほど影響はないのでしょうかね?(よくわかりません・・・)

(7月20日午前11時 追記あり)

それにしても、この7月19日付け夢真HDのリリース「日本技術開発の株式分割決議に対する当社の対応について」は辛辣ですね。日本で名立たる企業においても、株式分割をもって防衛策とする事前警告型を採用しているわけですが、こういった企業の防衛策についても、夢真は「違法なTOB妨害策」だと決め付けるのでしょうか。その決議に賛同した法律専門家の名前を公表して、損害賠償請求を予告するのでしょうか。とりあえず詳細に読んだつもりですが、「妨害策」と判断したのは事前警告ではなく、事後警告にある、という文脈では読み取れず、やはり株式分割を用いてTOBを妨害すること、それ自体に起因するもののようです。そこに「当社および株主の皆様への嫌がらせ」とまで言わしめる原因があるようです。

しかしここまで辛辣だと、もはや今後の事件の進展次第で友好的買収に変わるという予想はつきませんね。私は専門外の弁護士なんで、この敵対的買収の世界というものをそれほど存じ上げませんが、これほどまでに相手方を罵倒するのが「TOB時におけるリリースの方法」なんでしょうか?単に私が甘いだけなのかもしれませんが、あの野村證券が作成した「敵対的M&A防衛マニュアル」のなかの買収側マニュアル部分でさえリリースにおいては「最後まで、友好的買収の可能性を残せ」と指導しているわけでして、野村證券のマニュアルからみても、この夢真のリリースはとっても異質なもののように思えます。世間に向かって、このリリースが公表されて、その後日本技術開発としては提携の道を模索できるとは思えません。50%の株式を取得できなかった場合に備えて、自社株主代表訴訟対策のために失敗は相手企業の違法行為によるものという表現のために「損害賠償」ということを強く主張しているというのであれば理解もできますが、そうであったとしても、企業間における内容証明通知によって要求すれば足りるはずであって、リリースでここまで表明する、というのは(少なくとも私の感覚では)信じられません。

同じ7月19日に夢真HDよりリリースされた「当社の日本技術開発株式会社を対象とする公開買付の条件について」では、今後の方針として株式分割に対する差止請求を行う、とあります。私の予想では550円で買付を開始して(強行突破して)新株発行差止の仮処分申請を行えば、かなり高い確率で夢真側が勝訴すると予想していたのですが、110円での買付開始となると、株主様の判断次第では買付が功を奏する可能性があるわけですから、そもそも「保全の必要性」がなくなってしまうのではないかな・・・と思ったりもするわけです。6か月前からの株主による取締役の行為差止請求だとしても、株主に与える不利益というものが、はたして一方的に日本技術開発の株式分割だけに起因しているとは言えないでしょうし、かなり微妙な気がします。

最近、すこしだけかじっている「ゲーム理論」風に言えば、プレイヤーの2社では、いまだ情報が「非完備」「非対称」な状況が続いており、双方もはや最適反応が考えられない「ナッシュ均衡」に至っているわけですが、ゲームの効用を受ける株主の立場からすれば、パレート効率のもっとも高いナッシュ均衡を選択したいのであり、そのためには企業価値向上のための情報を友好的に出し合って、情報の「完備性」「対称性」を高める努力が必要ではないでしょうか。伊藤金融担当大臣が昼間にコメントしていた「株主への目配り」というのは、もうすこし株主への冷静な情報提供、という意味やと思ったんですけど。

平和主義者の地方弁護士としましては、「公開買付」が「後悔買付」にならないよう、祈ります。。。

(追記)

出張のために、あまり新聞記事などきちんと読めておりませんが、日本技術開発は6月決算のため、夢真がTOBで過半数の株式を獲得しても、9月の定時総会ではそのままでは議決権を行使できず、別途委任状獲得を必要とするそうです。敵対的TOBを開始したら、買付人は大株主のところへは個別に説明とかに行かれるのでしょうか。実務のところはどなたか教えていただきたいです。

それと、株式分割が実行されることを見込んで110円での買付を実行するにもかかわらず、なぜ株式分割の差止め仮処分を申し立てるのでしょうか??そもそも株主が損害を被ることがないように110円に買付価格を減少させたわけですし、「嫌がらせ妨害策」という点を捉えて損害が発生した、と立証することも日本技術開発側の故意過失という問題をクリアできない限り、困難なように思われますし、どうもよく理解できません。

7月 20, 2005 夢真HDのTOB実施(3) | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月19日 (火)

社外監査役とゲーム理論

内部統制システム構築の目的のひとつに「企業のリスク管理」というものがありますが、社内もしくは社外で発生しうるリスクを低減もしくは回避させるために、最適効用を発生させる意思行動はなにか、ということ模索するについて、「ゲーム理論」の導入を検討しています。

ゲーム理論といいましても、ミクロ経済学の素人である法律家が考えられる範囲のことですから、ほんの基本的なところでありますが、究極の目的は「内部統制システム構築義務を尽くしているかどうか」を裁判所に立証できる程度のものであることを念頭に置いていますので、そもそも裁判官に理解可能な範囲でのゲーム理論であればいいと思っています。監査役は構築されたシステムの監視が目的ということなので、本来的には取締役会が、構築すべきだとは思いますが。

管理項目ごとに、非協力ゲームの標準型もしくは展開型で利得行列や展開図を作っていくわけですが、利得項目として何を採用するか、効用関数をどのように設定するか、こちらと相手の情報共有状態は「完備か不完備か」などという点については、これはもう各企業の常勤取締役、常勤監査役さん方の経験と勘を情報とせざるをえないわけで、社外役員と社内役員との役割分担がはっきりしている「共同作業」となります。ただ、このゲーム理論というのはトリガー戦略や繰り返し戦略など、「人間臭い」部分も取り入れられていますが、基本にあるのは「常に合理的な行動をとる人間」が前提となっているようで、現実には最適とされる行動が現実の世界でももっとも適切な行動となる結果は期待できないでしょうし、ゲームと現実を錯覚してしまってもいけませんね。ただ、与えられた諸条件のなかで、会社の意思決定の合理性を担保するためのひとつの「手段」にはなりうるだろうし、また効用関数の設定計算式以外は、あまり細かい経済数学の知識も必要ではないと(すくなくとも監査役に必要なレベルでは)思われますので、アレンジ次第では善管注意義務履行の立証方法としては利用可能だと思います。

いまは社外監査役のリスク管理業務への応用としての検討ですが、JV決定判断や企業買収防衛時の防衛策発動判断、企業再編などの重要な経営リスクの検討にあたって、社外取締役と社内取締役とが共同で判断決定プロセスのための道具として利用すれば、会社法上の「経営判断の原則」を立証するための証拠としても使えるのではないでしょうか。もちろん、重要な意思決定は取締役会でのさまざまな議論のうえで成り立つものですから、サイコロを振るようにゲーム理論上のシステムで決めるというわけでもないでしょうが、ひとつの「確かめ算」的な使用には一考の価値があると思います。判断過程の適正性が司法審査の対象になる、ということであれば、なおさらこういったアプローチを取締役が共有することは「社外取締役が何をした、常勤取締役が何をした」とはっきり判断プロセスを具体的に主張することができますし、けっこう重要な気がします。

7月 19, 2005 社外監査役とゲーム理論 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年7月17日 (日)

夢真HDのTOB実施(その2)

株式会社夢真ホールディングスが、日本技術開発株式会社を対象者とする株式公開買付(いわゆるTOB)を行うこのとの是非(もしくは可否)という問題が、「敵対的買収と買収防衛策」の話題として採り上げられつつあります。

司法判断突入か?といった見出しでいろいろとニュースになっておりますが、司法判断突入のまえに問題となりそうなのが、関東財務局(もしくは事務委託元の金融庁)がなんらかの見解を出すか?ということのようです。夢真HDは7月20日に公開買付を開始する予定だそうですが(16日の日経朝刊)、夢真側の法律顧問の弁護士さんより、関東財務局宛に「7月15日付け上申書」が提出されており、(私がブログを興味深く拝読させていただいている弁護士さんのお名前もありますが、あまり気にしないで話を進めます・・・)当局側の公式見解をなんとか20日までに引き出して有利に展開したい、もしそれが無理であっても、そのままスッと受理していただきたい、との意向があるようです。したがいまして、まず夢真側の思惑通り、買付対象会社によって「株式分割」がTOB期間中になされることを条件とする買付価格の期間中変更(希釈化防止規定)、および買付期間中の買付撤回の可否に関する当局の見解が出されるかどうか、がまず週明けの争点になりそうです。今日は、この夢真HDの法律顧問弁護士の方の法律判断に対する私の(専門外弁護士としての)感想だけを述べたいと思います。

その「上申書」でありますが、夢真側としては今後TOBを有利に展開するための不可欠な戦略として、上記のとおり①証券取引法および内閣府令では明文で認められていない(対象会社による株式分割の実行ある場合の)公開買付期間中の買付金額変更、もしくは②公開買付の撤回が可能であることの見解を当局に求める趣旨のようです。そして、たとえなんらの見解も表明されないとしても、公開買付の要件である買付内容届出が適正に関東財務局に受理されるよう、その法的な根拠付けとしての意味でも提出されたものとも解釈されます。

そこで、この「上申書」や上申書に添付されたと思料される上村達男早大教授らの意見書に対して、当局はどのような対応をとることが予想されるのでしょうか。

証券取引法25条の15によりますと、当局には「公開買付届出書」の形式的審査権しかないものと解されるわけでして、(つまり、日常業務上の証券会社による問い合わせのような、内閣府令の解釈については見解を示すことはできても、証券取引法の解釈を行うことはできない、届出書の記載のうち、重要な事項が欠けているかどうか、という点については判断しない、ということだと思います)本来的に証券取引法の規定に明文規定がない事項について、法律の文言解釈を伴うような問い合わせに関しては、当局が「実質的審査権を行使する」ことになってしまうわけでして、権限を逸脱してしまう可能性が出てきますので、おそらくなんらの見解も出さないのでは、と思われます。

ただ、「当局の見解が示されない=(イコール)届出書が受理される」とは、すぐには結びつかないものと思います。関東財務局としては、届出書に買付価格の変更や撤回に関する不明瞭な条件が付けられていれば、それは本来的に形式的審査権によって判断できる範囲内だとして(形式的要件を満たしていないとして)本件の届出を受理しない、もしくは条件を満たした形への訂正要求ということが十分考えられます。

そこで、先の「上申書」の内容なんですが、法律顧問の弁護士さん方は、巧妙な理由付けをしているようです。つまり、この「上申書」提出の最大の目的は「これをスッと受理してもらっても、当局側の責任は問われませんよ。なんせ、こんな理由があって、あなた方が実質的な審査をしたことにはならないわけですから・・・」と、当局がすんなり公開買付届出書を受理したとしても、当局に責任回避の道筋を残すところにあるんじゃないでしょうか。よく読みますと「希釈化防止規定」を条件として買付価格を修正するということは「文言解釈としての買付価格の引き下げ」には該当しない、との法律意見を述べています。買付価格の引き下げ自体は法律で禁止されているわけですから、この文言解釈問題だとしますと、(実質的審査権を行使する対象となってしまうために)当局側は受理しない方向へと向かう可能性が高いわけです。また、公開買付の撤回が許容される、という理由に証券取引法施行令14条1項1号を持ち出しているところでありますが、これは政令の解釈問題ですから、(日常業務として、証券会社へ回答しているところであります)当局が見解を示しやすいところです。ただし他の理由として、法律顧問の方々は、株式分割が行われると、通常の新株発行の場合と異なり、仮処分などの差止による司法救済が困難であるから、ぜひとも当局がこのような条件付きの公開買付を認めてもらわないと困る・・・という理由も付しておられます。しかし、夢真が意見書として提出している上村教授の見解では280条ノ10による新株発行差止めの仮処分はできると解しておられますし(私も、3日ほど前のエントリーで「法律上おかしい部分があるのではないか」と述べたのは、この部分なのですが。ひょっとしたら、法律顧問のセンセイがたの政策的な意味合いから、「仮処分は困難」と主張されているのかもしれません。たしかに株式分割というのは通常であれば不利益を被る株主が存在しないわけですから、不公正発行というのが予定されていない、ということはいえそうですが、だからといって280条の10には特殊な新株発行を排除する文言はないわけですから、適用されないということにもならないように思います)、すこし自己矛盾的な主張もあるようです。

上記が私なりの分析でありますが、この上申書、また大学教授の方々の意見書が奏功するかどうか、もうすこしで結論が出ると思いますが、私は形式審査の範囲内において、夢真側が主張しているような買付条件による届出はムズカシイのではないかな・・・と思っています。

証券取引法の制度趣旨を云々といっても、当局に法律解釈はできないし、文言解釈にはあたらないといっても、じゃあ文言にないことを「許されるとみるか」「禁止されるとみるか」考えてみると、法27条ノ6第3項や27条ノ11第1項からすれば、政令で明確に条件変更が許容されるもの以外は許容できる条件を類推することは形式的審査権者にはできないものと考えられます。ほかにも、投資家保護という立場からみれば、一見しただけでは、その条件成就の結果が理解しにくいような「買付価格変更条件」というのも、認められそうにないですし、もし株式分割を経営判断によって進めていた企業がある場合に、たまたま後からその企業買収をもくろむ会社が現れて、そのTOBが検討されるような場合でも、株式分割が実質的に禁止されるようなルールができていいのか、というと、それも不合理なことになりそうです。証券取引法というのは行為規範的要素が強く(取締法規)、規制に反する行動には刑事罰も待っているわけですから、その解釈は極めて厳格になされる必要があるわけですから、安易な類推解釈はできれば避けるべきですし、どうしても類推が必要ならば早期に政令で限定的に列挙していって、現実の妥当性との調和を図る、というのが筋ではないでしょうか。

もし、受理されない場合には「行政訴訟で云々」ということも日経に記載されていましたが、時間的な制約からみて、あまり現実的な議論ではないように思います。

結局のところ、本件において友好的提携が進展しないということであれば、夢真側はなんら条件付きでないTOBで強行突破して、司法判断によって株式分割自体の是非を問う、という方向が関係当事者の力学的な見地からはもっとも適当なところではないか、と考えています。(勝手な意見ですから、セカンドオピニオンならぬサードオピニオン程度に聞き流してくださいね。)

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2005年7月16日 (土)

内部統制構築と監査役とのかかわり

7月13日に経済産業省と金融庁(企業会計審議会内部統制部会)より、同時に内部統制構築に関連する「指針」が発表されました。

経産省、企業内部統制に指針案 監査強化など7項目(朝日ネット記事)

企業統治の監査、文書化の対象範囲縮小 金融庁ルール(日経ネット記事)

金融庁の指針はけっこう「あっさり」していますが、ルールとしての具体性はあります。経済産業省の指針は企業統治と内部統制との関連などにも言及され、また個別具体的な企業例などを詳細に調査比較しており、読み物としては面白いのですが、「じゃあ、どうしたらいいの?」と考え込んでしまうほど、具体的なルールが示されているわけではありません。それぞれの企業にあったシステムを検討しましょう、という感じです。

監査役設置会社における監査役としては、この内部統制に関する二つの指針をどのように整理したらいいのでしょうかね。

(7月17日追記あります)

私だったら、内部統制システム構築の目的ということから分別したいと思います。通常、内部統制構築の目的は

1 コンプライアンス経営(法令遵守)

2 リスク管理

3 業務の有効性・効率性の向上

4 財務情報の信頼性

5 企業資産の保全

と言われていますので、金融庁のルールについては(証券取引法との関係もあり)リスク管理、財務情報の信頼性、企業資産の保全という目的達成を第一義として解釈し、経済産業省ルールについては、企業統治との関係から業務の有効性効率性、コンプライアンス経営という目的達成を優先して検討する、ということに分けてみたいと思います。

そうしますと、金融庁ルールでは、まず会計監査人と内部監査部門と監査役との連携あたりが重視すべき問題であり、経済産業省ルールでは取締役会の作成する内部統制システム構築運用への監視が重要課題になりそうです。そして、いずれにも共通する問題が、企業トップと監査役との連携というところでしょうか。

実際に企業の内部統制システムの構築作業に従事している立場からすると、財務情報の信頼性に関連する部分のシステム構築というのは、会計監査人にまかせっきりになってしまいます。会計監査人との協議というのが(ふだんあまり頻繁に顔を合わせないこともあり)なかなか面倒なところがありますが、会社情報の共有のためにも欠かせない作業です。非財務部門(法令遵守など)に関する統制システムについては、内部監査部門と連携をしていくわけですが、企業トップからすると「後ろ向き」の仕事にみえるためか「その話は後回しにしてほしい」といわれるケースがあります。こういったときこそ監査役の本当の仕事ではないかな、と思います。後回しと言われるのは仕方ないかもしれませんが、「社長それやったら、いついつにしましょう」とはっきりと時間を作って、トップと監査役(会)との協議の場をきちんと作るべきでしょう。

財務情報の信頼性確保にしても、法令遵守のためにしても、システム構築には多大なお金が必要です。限られた予算の範囲内で、リスクの高いところを洗い出して、5年くらいの時間をかけてシステム改良を試行錯誤する、というのが普通の上場企業の実情ではないでしょうか。有報への「内部統制に関する開示情報」といっても、ひな型はずいぶんあっさりしているみたいですが、どこの会社も「リスク評価」や「監査証拠採取方法」など、いろいろと頑張っておられるみたいです。

(7月17日 追記)

昨日の日経新聞朝刊「株主と向き合う(下)」を読んでおりましたら、47thさんがアメリカの企業改革法への批判などが(現地で)高まっていることに関連して「(内部統制システムの構築について)日本のように最初から完璧を求めるのではなく、制度の不利益面を認識したうえで導入し、試行錯誤を続ける」と説明されています。

企業会計審議会の出した指針をみましても、各企業の予算などに見合ったシステムの導入ということも検討課題とされているようですし、(文書化部分の削減など)実際にシステムを検討する立場としましては、日本においても「完璧など到底望めない、最重点課題から取り組んでいくことで善管注意義務を尽くしていくしかない」というのが本音です。

7月 16, 2005 内部統制構築と監査役のかかわり | | コメント (2) | トラックバック (1)

2005年7月15日 (金)

投資サービス法「中間整理」について(4)

「たぐいまれな頭脳明晰さ」と座談会での「ゆーもあ」たっぷりのお話で、私がたいへん尊敬いたします神田秀樹教授の責任編集による「投資サービス法への構想」(だったかな?)という新刊を紀伊国屋WEBで購入いたしましたが、まだ手元に配本されておりません。たいへん楽しみにしているのですが、神田教授ご自身がお持ちの「構想」というものを推測いたしますと、金融商品を扱う業者に広くサービス法の精神が普及し、ルールを守らないアコギな業者は自然と淘汰され、「国民の資金運用を誠意をもって取り扱いたい」という真摯な目的を有する企業には、どんどん垣根を低くして融資仲介や投資販売業に参加させて、そのような世界が出来上がるなかで一般投資家が保護されていけばいいのでは・・・と、そんな感じのイメージを抱いておられるのではないでしょうか。

証券取引事故の原告側(顧客側)代理人としての弁護士の経験からいたしますと、この投資サービス法が出来上がって、「さて、なにがなんでも顧客救済の精神で!」解釈したくなる気持ちもあるんですけども、第一に保険業法や信託業法などと同じ組織法、行為規制法的なイメージの法律でしょうから、この法律は一面において投資家へ顔を向けているけれども、もう一面では、まじめに頑張る金融業者を応援する、という意味も強く意識されたものになる、ということを忘れてはいけないと思ったりいたします。

そもそも、「プロ」と「素人」を分けて法律規制する、という発想が興味深いところです。でも、考えてみると、銀行や証券会社のように、もともと商品提供に厳しい規制のある企業と、きちんとした規制があるのかどうかよくわからない「○○ファンド」を販売する企業にも同じ法律を適用する、というわけですから、かなり強引な動機付けが必要になってくるわけでして、せめて「プロ用」「セミプロ用」「素人用」くらいには、販売商品ごとにルール分けが必要なのは当然のように思われます。このあたりは「中間整理」では今後の検討課題ということらしいのですが。

そこで、「説明義務」と「投資サービス法」との関係ですが、(これはまったく私の勝手な意見ですので、単なる妄想としてお聞きくだされば結構ですが)金融商品の取扱に関する顧客と企業との法的紛争には、おそらくこの投資サービス法がかなり影響を与えるものだと認識しております。

まず、融資条件付変額保険の訴訟過程の延長として、顧客への説明義務というものが「商品の一部」になると思われます。適合性の原則などというムズカシイ議論はここでは省略いたしますが、投資商品を顧客へお奨めする企業にとっては、適正な説明をすることまでがひとつのパッケージ商品となります。したがいまして、企業に顧客への説明義務違反という事実が認定されたとすると、これまでのような不法行為責任ということだけでなく、商品の瑕疵が問題となり、債務不履行責任が発生したり、取引契約自体の解除や「取消無効」ということまで発展することが考えられます。当然のことながら、裁判所によって認められる「企業が顧客の取引による損失補填の金額」は、賠償金額よりも高額になる、というわけです。投資サービス法の存在自体が、企業の「説明義務」をそこまで昇華させ、おそらくこのような法律構成を検討する弁護士が増えてくるのではないか・・・と「妄想」します。

つぎに、かりに、ここまで議論が進まないとしても、これまで以上に「説明義務違反」や「組織ぐるみの不法行為」というものが認められやすくなります。理由のひとつは立証責任の転換です。損害賠償請求事件の立証責任は基本的には原告側にありますが、このような投資サービス法が施行され、このサービス法施行のために各業界が自主規則を作成した場合、企業の行為規範となりますので、もし企業側が規則や法律で規定している行動をとっていなかった場合には、おそらく「企業側が説明をきちんとしていなかったのではないか」という推測がはたらき、裁判のうえでも、企業側が説明をきちんとしていたことの証明をしないと負けてしまうことになります。こういった作用が予想されます。そして理由のもうひとつは、投資サービス法はいくら企業の行為規範とはいいましても、一般投資家保護、ということが重要な制度趣旨であることは否定できないでしょうから、企業コンプライアンスという面から考えても「説明義務を尽くしたことの証拠」は重要な点に限っても文書化されるはずです。そういった文書はこれまで「内部文書」だとして原告側からの文書提出命令の対象にはなりにくかったのですが、もしサービス法が施行された場合には、おそらく原告被告間の権利関係を証明する文書と解釈されますから、文書提出命令の対象として認められるようになることが予想されます。ということは、訴訟になる前から、ディスカバリーや証拠保全手続きの対象となることが考えられますので、なおのこと原告側に有利な書証が増えるものと思われます。

ホンマに「町の弁護士の」妄想の域を超えていませんが、この投資サービス法が、商品を立案、販売、仲介する「まじめな」企業にとっても、そして貯蓄を投資に振り分ける国民にとっても、利用する価値のある法律として検討が進むことを願ってやみません。

7月 15, 2005 投資サービス法「中間整理」 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月14日 (木)

投資サービス法「中間整理」について(3)

関西の中小の証券会社では、合同で「事業研究会」を発足させ、今後大きな経営問題となる「投資サービス法」施行時における証券取引についての研究活動を開始するそうです。

きょうは専門家訴訟における「説明義務」の功罪について、少しだけ自論をお話いたします。すでに(1)、(2)でお話したとおり、私は主に、金融事故では原告側、医療事故では病院側、建築紛争では原告側の代理人をしている関係から、それぞれ意見や知識が片面的になってしまうかもしれませんが、そのあたりはご容赦ください。

まず、説明義務というのは、弁護士にとってはたいへん便利な法的根拠です。さまざまな専門的判断自体の是非を問うだけの知識、能力に欠けている法律家にとって、この「説明義務」というのは、判断の是非を問うのではなく、事実の有無を問う問題に「すりかえる」わけですから、専門家を裁判所の土俵の上に上げる、つまりサッカーの試合で例えるならば、「アウェー」から「ホーム」へ帰って試合をしているのと同じくらいに御しやすい争い方であります。ただし、裁判所に対して、被告である専門家に法的な説明義務がある、と説得しなければなりませんから、少なくとも丁寧に事実を分析しなければならず、その事実分析に必要な範囲での専門的な実務の勉強はしなければなりません。

(なお、7月14日追記あります)

いっぽう、「説明義務」というのは、まことに便利であるけれども、説明義務違反という事実が、大きな損害賠償金との因果関係が認められにくいために、原告側にとっては「勝つ」可能性があるとしても、それほど大きな賠償金とは結びつきません。したがいまして、判断が難しいことを嫌って双方に和解を勧める裁判所にとっても、たいへん「ありがたい」主張になってきます。つまり、この「説明義務違反」の事実を原告側が熱心に主張した場合、裁判所は双方に熱心に和解を勧めます。こういった専門家訴訟の場合、被告側が保険金で支払ったり、お金持ちだったりするケースが多いので、裁判所も和解を勧めやすいのかもしれません。ぎゃくに原告側代理人としては、専門家の判断ミスを問うつもりでいても、訴訟の途中で裁判官の事件見通しを開示され「まあ、なんとか説明義務にすこし問題があったようですから、これくらいの金額で和解されたらいかがですか」とかなり強く説得されることが多いようです。過失相殺なども駆使されて、原告勝訴ではあるけれども、本当に原告側が希望していたような判決をもらえることが少ないのは、これまでの専門家訴訟の歴史のなかで、一か八かの勝負に出ることなく、かなりの「過失」案件が「説明義務違反」の名のもとに和解で終結してしまい、先例が集積されてこなかったところに原因があると私は思います。

実際、医療過誤訴訟において、私は病院や医師側の代理人に就任していますが、医療ミスでの敗訴というのは一件もありません。敗訴した事件はすべて説明義務違反による不法行為事例であります。なかには、説明義務違反との因果関係は慰謝料だけ、というものもありました。こうなると、医師側としては保険金でカタがついてしまいますし、事後の「医道審査会」での処分についても、それほど心配しなくてすみますので、あまり痛手はありません。最近の医療訴訟というのは、東京や大阪のような「医療集中部」のある裁判所に係属している場合、双方代理人の労力はたいへんなものでして、説明義務違反だけで原告が勝訴しても、おそらく原告代理人の弁護士さんは経営的には成り立たないと思われます。(もちろん、被害者の救済こそ第一の使命と考えて、採算は度外視されている、という方もいらっしゃいますし、その方の弁護士としての姿勢をあれこれと言うつもりはありませんが)

それではこの「投資サービス法」が、今後の「説明責任」に対して、どのような影響を与えるのか、いまの説明責任を問う裁判の最先端の実情などから、予想をしてみたいと思っています。

そもそも、金融商品を一般消費者(一般投資家)に販売する場合、なぜ法的な「説明義務」というものが発生するのでしょうか?おそらくいままでの理論からいえば、金融商品の取引契約に信義則上付随している専門家サイドの義務、といった説明がなされるものと思います。取引契約に必然的に発生する義務であれば、債務不履行構成になろうかと思いますが、不法行為責任とされるケースがほとんどですから、やはり契約そのものから発生するわけではないけれども、条理上、契約締結にあたっての専門家の注意義務のようなところから派生してくるものなんでしょうね。

しかし、もし金融商品全体に横断的に妥当しうるような強力な一般投資家保護規定ができたとしたら・・・・。そうです、たんに「派生的な」注意義務などというところの問題ではなく、もっと「説明義務」のランクが当事者間の合意の過程で昇格してしまうわけですね。つまり、説明義務違反というものについて、発想の転換が可能になってくるわけでして、このあたりの説明を次回にまとめてみたいと思います。

(すこし長くなりましたので、これはまた次回ということで)

(7月14日 追記)

今朝、おもしろい読売ネットの記事を見つけました。

 マネーのホームドクターへのかかりかた

投資商品を勧誘するときにセカンドオピニオンを勧めたり、医薬分業のようなシステムをとりいれる、というのはどうなんでしょうか。投資と投機では、また考え方もちがうかもしれませんが、あまり考えたことがなかったので、よく検討してみたいと思います。

7月 14, 2005 投資サービス法「中間整理」 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月13日 (水)

国際私法要綱案

日経ネット記事に、国際私法要綱案が法制審議会で採択された、との報道されています。

もともと日本には国際私法という法典はなく、国際私法的な法律は「法例」という1800年代に定められた法律を適用していたわけですが、このたび国際法律紛争の「日本国としての処理方針」ともいうべき法律が誕生することになりそうです。

普通のビジネスの社会では、国際紛争が発生した場合、管轄合意(どこの裁判所で裁判をするか)、準拠法合意(どこの国の法律にしたがって紛争を解決するか)、仲裁合意(裁判所を使わないで、特定の仲裁人に紛争解決を預けるか)、ADR合意(裁判の前に、裁判所以外で調停手続きのようなもの利用するか)など、きっちり合意するケースが多いので、それほど裁判でこの国際私法が解釈適用される場面が多いようには思えません。したがいまして、この国際私法が活躍しそうな場面としましては、不法行為のような契約関係に基づかない紛争(具体的には製造物責任など)や、遠隔地間における消費者契約(具体的にはネット決済などの通信販売)、そして最近もっとも悩ましい国際離婚問題などに大きな影響が出るものと予想されます。

外国の商品によって日本人が国内で被害を受けた場合に、被害者救済が受けられやすくなる、と報道されていますが、それほど簡単なものではない ことはご理解いただいたほうがいいと思います。

日本で消費者が海外製の商品による拡大損害(PL法で保護されるのは商品の瑕疵によって商品が使えなくなったというのではなく、人体に被害が及んだなどの拡大損害に限られます)を受けた場合に、日本の法律が適用される、といいましても、それが日本の裁判所で審理されるかどうかはまた別の問題です。(いちおう、製造物責任については日本の裁判所に管轄がある、とするのが判例の立場ですが)また、海外の製造者は、その自分の国の裁判所で「自社の製品には欠陥はなく、したがって自社製品による拡大損害を日本人に与えていないから損害賠償債務はない」という裁判を起して、勝訴することも考えられます。したがいまして、日本の裁判所で勝訴判決を受けても、それが海外の国の裁判所で承認されて執行されるかどうかはまた別問題です。ただし現実の救済という面から申し上げますと、製造物責任などの場合、製造者以外にも、その製品を輸入する業者なども含まれますので、日本における外国会社の支店や子会社が存在すれば、そちらへ執行をかける、ということも考えられますし、また販売代理店や直接の販売者を捉えて、製造物責任以外の民事上の不法行為責任などで追及することも十分可能と思われますので、日本国内における裁判所を利用した判決実現の道が残されているケースにおいては、ある程度被害救済の可能性が高くなる、とは考えられそうですね。しかしながら、一般の消費者が外国の裁判所へ執行承認の請求をする、というのは費用や知識の面において厳しいものがありますので、やはり国際私法ができたとしても、現実の救済の限界というものは否めないようです。

裁判の国際的な管轄問題や、外国で下された判決を別の国が承認したうえで、その判決実現に国が協力するかどうか、といった「国際私法」の解決を実現する各国の協力関係についても、一生懸命議論されているところですので、この要綱案が法制化され施行されるころには、準拠法などの実体法だけでなく、国際民事手続法の面でも、法整備がそこそこ完成されていくことになりそうです。

7月 13, 2005 国際私法要綱案 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2005年7月12日 (火)

夢真HDのTOB実施(予定)

建設施行管理請負の株式会社夢真ホールディングス(大証ヘラクレス)が、日本技術開発株式会社(JASDAC)に対して株式公開買付を実施する(予定である)との発表があり、今朝の新聞や昨日のネットニュースでも取り上げられているようです。

 7月11日の毎日新聞ニュースです。

新聞やニュースでは「事前警告型の買収防衛策が導入された企業に対して、初めてのTOB」という見出しや記事が出ていますが、これって本当に「事前警告型が導入された企業」に対するものなんでしょうかね。平時に導入されたものじゃなくて、話し合いが決裂してから導入したものであるなら、「事前警告」はなかったように思いますが。つまり平時導入型ではなくて、「有事に取締役会で導入した型」に属するものと捉えるべきではないでしょうか。

(なお、7月14日追記あります)

それから、(たとえ、本件が「事前警告型の防衛策導入企業に対するTOB」だとしても)私が4月29日付けのブログで松下の事前警告型防衛策の短所として指摘したところの脆弱性が早くも露呈したように思います。つまり、今朝(7月12日)の読売新聞11面で整理されている双方の主張に記載されておりますとおり、日本技術開発側は「株主が買収の是非を判断する材料にするために必要な事業計画などの情報提供がなされていない」として発動要件の具備を主張している一方で、夢真側は「情報提供は、日本技術開発の現経営陣が一方的に設定したものであって、守る義務はない」と反論しています。事前警告型の防衛策の場合、今後必ずこの論点が問題になるように思います。防衛側も買収側も、どっちも株主に対してきちんと事業計画を説明したいということでは一致していると思います。したがって情報提供のルール自体に「現経営陣の保身」に有利だと思料される点があれば、当然のことながら今回の夢真のような主張が出てくるものと予想されます。(でも、夢真の公表した7月11日付け「お知らせ」に、明らかに法律上おかしい記述があるように思うんですが。有事導入であることを意識してか、急いで出したお知らせなんで、仕方ないのかもしれませんし、私のほうが勘違いかもしれませんので、あえて何も申し上げませんけど)

友好的提携関係として、この問題が終結することが最も望ましいと私は思いますし、関係当事者がその方向で尽力されていることは間違いないと思いますが、もしこじれる、ということであれば、今後の金融庁や証券取引所の見解、自民党のセンセイ方の見解なども、また注目されるところになるんでしょうね。

きょうは、このニュース以外にも、会社更生手続きが終結した多田建設に対して、今度は従業員から更正手続きの開始決定が申し立てられ、東京地裁が保全管理命令を発令した、との「たいそう興味のある」記事が日経新聞に出ていました。

(7月14日 追記)

買収防衛に強力「株式分割」という見出しの読売ネット記事が出ております。(読売新聞朝刊に出ていた記事と同じだと思いますが)

7月 12, 2005 夢真HDのTOB実施(予定) | | コメント (4) | トラックバック (1)

2005年7月11日 (月)

投資サービス法「中間整理」について(2)

大阪のFP(フィナンシャルプランナー)さんのブログで、明治安田生命の保険金不当支払に関する問題を絡めた「保険勧誘におけるわかりやすい説明」に関する金融庁の有識者検討会議事の報道内容が掲載されています。

 保険 不利益情報も説明 金融庁検討会中間報告 販売・勧誘に改善策

 金融庁の有識者検討会「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」(座長・野村修也中央大大学院教授)は八日、保険会社に対して、保険商品の販売・勧誘時に消費者にとって不利益な情報もわかりやすく説明するよう求める中間報告をまとめた。明治安田生命保険の違法営業などを踏まえ、不適切な保険の販売・勧誘による消費者の被害防止を図ることが狙いだ。
 報告では、保険商品をめぐって、消費者に提供される情報量が過大になっていることから、消費者の理解が妨げられていると指摘。これを改善するためには、最低限の重要事項を整理して消費者に説明することが有効と明記した。重要事項の具体例としては、商品の仕組みや担保内容、解約・解約返戻金などを提示。明治安田が違法営業で乱用した「告知義務」など消費者にとって不利益な情報も重要事項に盛り込むよう求めている。
 今回の報告を受け、金融庁では年内に保険業法の施行規則や監督指針を改正する方針。 (産経 2005/07/09)

なお、同様の記事は読売ネットなどにも掲載されています。

大阪のFPさんも問題とされているように、私も今回の明治安田生命の一連の不当な保険金不払事件については、保険勧誘の際の説明義務の問題とはまったく別問題だと思います。上記の報道が、たんに明治安田生命の問題と絡めた表現にしているだけのことなのか、それとも有識者検討会での審議においても、明治安田生命の問題と関連付けて「わかりやすい説明」を保険業界で横断的に考えようとされているのかは、ちょっと不明ですが、(つぎの「投資サービス法中間整理その3」でエントリーする予定ですが)この専門家の「説明義務」というのは、法律的な面からみると、一方において被害者の権利救済に役立つ面があるのですが、一方においては企業の損害拡大を防止する(被害者の損害賠償請求の範囲を制限する)という面もあります。したがって私は安易に専門家訴訟などの場合に「説明義務」のみを主張することに躊躇を感じます。

本件でも、大阪のFPさんが指摘されているとおり、明治安田の保険金不払いの本当の問題点は「企業の営業活動方針(その監視を含めて)」と「苦情処理方法」でしょう。その本当の問題点の解決方法を十分検討することなく、今後の防止策を企業の一般消費者に対する「勧誘の説明方法」に求めるとすれば、これは問題のすり替えになってしまう気がします。一般の消費者に対して、企業が(商品の)わかりやすい説明をする義務を履行しておけば、企業にとっては耳に心地よい「利用者の自己責任」という言葉に帰着しますから、後日の苦情処理問題については、ほとんどこれまでとは変わらない体質を維持することが可能になってしまうのではないでしょうかね。

次回、この企業(専門家)の「説明責任を議論することの功罪」について、私見を述べてみたいと思います。

7月 11, 2005 投資サービス法「中間整理」 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年7月 9日 (土)

投資サービス法「中間整理」について(1)

7月7日に金融審議会のHPに「投資サービス法中間整理」が掲載されておりましたので、最後までひととおり目を通してみました。日経新聞では「サービス法の概要がまとまった」と報道されていますが、実際に読んでみると、たしかに包括される金融商品の範囲などについては理解できますが、中身はまだまだなにも決まっていませんね。もちろん、商品の説明を怠らないように、また受託業者が利益相反行為を行わないように、どうやって実効性を担保するのか、ということもよくわかりません。おそらく、この法律を十分理解するためには、法務、税務、会計、ファンドほか金融商品などの知識が必要だと思われますが、残念ながら私は法務面しか理解できないため、片面的な見方、考え方になることをご了承ください。

まず最初に疑問に思ったですが、この法律は証券取引法と同様、行為規範(業者に対する取締規定)であることは間違いなさそうです。ということは、違反行為には刑事罰も課されるわけですから、法律内容が一般人の目でみても、適法行為と違法行為とが明確に峻別できる必要がある(罪刑法定主義)わけですね。(今回のライブドア仮処分でも、時間外取引に対する裁判所の見解では、証券取引法で明確に違法とされていない以上、問題はあっても違法とはいえない、ということでした)そうなると、本当に包括的横断的に、どの金融商品にも適用されるような行為規範というものが制定しうるのでしょうか。訪問販売も窓口販売も、ネット販売もすべてに対応可能な行為規範など作れるんでしょうか。大企業によるファンドマネージメントにも、個人事業者であるマネージャーにも同じ行為規範が適用されるのでしょうか。よほど精緻な条文を作成するか、なにか政令委任のような形でまとめていかなければ、横断的な行為規範というものは不可能ではないかな、とも思いますし、そうなると刑事罰を課すことが困難になって実効性に問題が出てきますし、どうも矛盾点が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

あと、これからの金融業界は外資含めてM&Aがさかんに繰り返されると予想されますが、この金融商品に対する企業側の運用方針については、おそらく内部統制システムに組み込まれていくでしょうから、事業承継の際など、自社と運用方針が合わない場合とか、経営リスクが非常に大きなものになっていくのではないでしょうか。いまでも、事業承継の際に、会計システムや税務処理のシステムを統一するのにたいへん労力を費やしているようですが、新しい金融商品の販売や運用のシステムを自社方式に変更する、というのは極めて難しい作業ではないか、と予想されます。

弁護士の立場から申し上げますと、こういった金融商品、投資商品の販売運用に関する専門家責任を追及する場合、基本法となる投資サービス法だけでは不十分であり、自主規制ルールの存在は不可欠であります。したがって、この投資サービス法関連の話をすれば、投資サービスに関与する各業界の自主規制機関(証券業協会のようなところ)が、それぞれの金融商品や運用に関する明文化されたルールを策定していただきたい、と思いますね。ただ、自主規制を厳しくすると、その業界団体への参加自体を拒否する企業も増えてくることが予想されますので、できれば業界団体への加入強制を販売運用における登録の前提とすべきではないか、と思います。

実効性の担保というところを読んでおりますと、損害額の立証責任を転換するなど、民事賠償救済への対応も見られるところですが、これまでの証券事故に対する訴訟、変額保険に関する訴訟などを原告側代理人として経験した者からすれば、消費者には利便性に乏しいということに尽きると思います。なかなか一人一人の訴訟への情熱だけで、大企業を相手に裁判で勝訴することは困難であり、また勝訴するメリットにも乏しいものがあります。本当に投資サービス法の趣旨が「貯蓄から投資へ」1400兆円の個人資産の移動を促すための投資家保護施策だというのであれば、団体訴権もしくは投資サービス専門の紛争処理機関を認めることが前提だと思います。まあ、これは実現はかなり困難だとは思いますが、事後救済措置というのは、いままでの経験でいえば、もうその商品を販売しなくなってしまったころに「勝訴、敗訴」の結果が出てしまうことになり、まったく商品販売への影響はなくなってしまうわけです。したがって、救済措置のスピードを上げるか、早期に企業に和解に向けての対応を迫るかのいずれか、しか民事上の責任追及の実効性を上げる手段はないんじゃないかな・・・と思ったりします。

弁護士を16年もやっておりますと、結構「専門家訴訟」というものも経験します。私は通常業務としては、金融商品の場合は原告(消費者)側、医療訴訟は医療法人の顧問先が多い関係で、ほとんど病院(医師)側、建築紛争は原告(施主)側です。たいへん狭小な経験からではありますが、次回は投資サービス法などが制定される場合の民事紛争、という面から消費者の対応方法、企業側のリーガルリスクを論じてみたいと考えています。

7月 9, 2005 投資サービス法「中間整理」 | | コメント (2) | トラックバック (1)

2005年7月 7日 (木)

公認会計士の日

なぜ7月6日が「公認会計士の日」なのかはわかりませんが、私が社外監査役になってから、はじめて会計士さん方とお知り合いになりましたので、ちょっとだけ会計士さんネタについて。

 きょうの報道でも「金融庁が上場企業による粉飾や有価証券報告書の虚偽記載などの会計不正を防ぐために、経営トップが内部の業務管理を評価する報告書を作って、それを公認会計士が監査する新制度の骨格をまとめた。アメリカの企業改革法などを参考とした仕組み。」との報道がされています。公認会計士さんのブログもたくさんエントリーされていますので、よく拝読させていただいているのですが、この不正発見、というお仕事はこれまでの会計士さんのお仕事と「なじむ」ものなのでしょうか。

 不正防止、という意味ともからんでくると思うのですが、「なんかおかしい」と思ったときに「適正意見を表明できない」ということで足りるのか、それとも「これはおかしい、粉飾だから摘発します」ということまで積極的に糾弾すべきなのか、そのあたり会計士さんかたはどのように考えておられるのか、すこし興味があります。といいますのも、新会社法が施行されますと、大きな会社の会計監査をされる方は、外部委託者ではなく会社の機関となるわけで、これまでとは企業経営者との「距離感」が変わってきますよね。そうすると嫌でも株主様方との距離も近くなるわけでして、「なぜ意見表明できないのか、説明しろ」という株主様からの主張も出てくる可能性があるんじゃないかな・・・と思ったりします。いままででしたら、監査人の「意見不表明」は証券取引所の「上場廃止」という措置と連関して、上場企業にとってはどうしても回避しなければならないものですから、それで防止策としては十分だったように思うのですが、会社の機関となると金融庁や経営者だけに目をやるだけでは済まされず、株主に対して「責任ある行動」が要求されるのではないかな、と。つまり、会社の表明している数字や、その算定根拠、監査証拠の信用性、そして事業の将来見込みなど、どんな根拠から「適正とは表明できない」と考えたのか、その理由を根拠立てて(素人にわかりやすく)説明する必要が出てくるのではないでしょうか。とりわけ、監査役会と会計監査人とが並存するような機関設計を採用した場合、おそらく建前上は「協調体制の構築」とかいいますけど、どっちも株主代表訴訟のリスクを負担するわけですから、不正監査というのが双方に共通の監査対象となってしまったら、なるべく監査上の最終責任は相手方にもっていっちゃおうと考えますよね。証券取引法や証券取引所の自主規制条項、そして公認会計士協会基準などを遵守して監査にあたっていた場合と大きく異なり、新会社法が施行されて、機関としての会計監査人が誕生した場合には、監査役会と一般株主という、これまでとは違う視線で会計監査人を見つめる目がそこにあることを、一度真剣にお考えいただくことがよろしいのではないか、と思った次第です。

 不正監査の摘発、防止というものを会計士さんの業務に期待するということは、なにか弁護士法1条にあるような「社会的正義の実現」みたいな、会計士さんの職業目的を追加しなければならないのではないか、と思ったりします。会計について素人の疑問なんで、またご意見などいただければ幸いです。

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2005年7月 5日 (火)

税理士の妻への報酬、「経費と認めず」

最高裁で、弁護士の夫が税理士の妻へ相談料を支払っていたものについて、必要経費としての算入が否認されてしまいました。所得税法56条を広く解釈して、「生計を同じくする人が同じ業務に従事している場合には、これを経費として認めない」というものです。

昨年11月2日に、「夫が弁護士、妻も弁護士、ふたりとも別々の事務所で独立して経営している」というケースにおいても、最高裁(同じ裁判長)は、やはり600万円近くの妻の夫に対する報酬金について、この所得税法56条を根拠として、夫の収益における「必要経費」性を否認していましたので、結論的にはほぼ予想されていたところでした。

新聞報道や原告の主張などでは、所得税法56条は「限定解釈すべききかどうか」と述べられておりますが、私は特別に「限定解釈」すべきかどうかという論点ではないと思っています。限定解釈という言葉を持ち出すこと自体、租税法律主義、課税庁の法執行機関性という原則論を被告側が持ち出すチャンスを与えてしまい、相手に塩をおくる結果になってしまうような気がします。むしろこの問題は租税法律主義とは関係がなく、純粋に「業務に従事する」というのは、どういった場合か、ということの解釈問題だと認識すればよい、と思っています。そのうえで、個人課税の原則を重視して、配偶者控除規定や法人成りとの比較によって56条の矛盾点を実質的に考慮すれば第一審のような結論になるでしょうし、そもそも56条が個別具体的な条項を置いていないことや、実質的な税負担の公平を考慮するならば高裁や最高裁のような結論になるでしょうし、理屈から考えるとどっちも成り立つのではないでしょうか。(余談ですが、この第一審の裁判長はあの有名な藤山裁判長です。)

ただ、これは私個人の勝手な意見ですが、最高裁判決の結論を肯定したとしても、この訴訟の前に決定されている国税不服審判所の一部取消決定の論理も加味するならば、(たとえば、妻が独立した事業において年間2000万の売上があり、経費が1000万円だとすると、この妻が夫の業務について年間300万円の顧問料を請求したとすれば、全額である300万円を必要経費としては認められないけども半分の150万円は認められる、というもの)それほど不当な結論にもならず、家族を有する人と単身者との税負担の公平と考え合わせると、最高裁判決の結論でもいいのかなあ、と考えています。

あと、これは夫婦が別々に事業をしているケースですが、夫婦が共同の法律事務所をやっていたりするケース、つまり民法上の組合を構成している場合には、それぞれ別々に持分に合わせて利益を配分できるでしょうから、この所得税法56条の適用はクリアできるのではないでしょうかね?あまり適用場面というのは聞いたことがありません。

なお、最後に白状いたしますと、この最高裁判決で上告人となっている弁護士さんは、私の司法研修所時代のクラスメートであります。クラスのまとめ役として、いつも中心になって引っ張ってくれた、温厚で誰からも好かれる方でした。代理人が10名以上就任している事件でしたので、ご本人がどこまで積極的に訴訟遂行されたのかは不明ですが、6年間、どうもご苦労さまでした。

7月 5, 2005 税理士の妻への報酬、「経費と認めず」 | | コメント (2) | トラックバック (1)

2005年7月 4日 (月)

第17回ビジネス実務法務検定2級問題

昨日(7月3日)、全国の商工会議所で開催された「第17回ビジネス実務法務検定」の速報です。(といっても2級だけですが)このブログが「ビジネス法務の部屋」という題名でもあり、すこし解説をしてみたいと思います。現実の企業法務の世界で、いまどのような法律制度に対して興味がもたれているのか、認識したいと思いました。

5択マークシート40問(前半20問各3点、後半20問各2点 合計100点 合格点70点)というものですが、ザッと眺めた印象としましては、これを70点でクリアするのはかなり勉強をしていないと無理だと思いました。

1 いきなり独禁法の不公正な取引方法の事例問題(新聞報道などを読めばできそう)、消費貸借契約の要件事実(弁護士でないとムズカシイ)、債権譲渡と対抗要件(過去問よりもハイレベル)、電子商取引法(平成13年の新法を知らないと無理)

2 営業秘密管理(不正競争防止法の十分な理解前提、しかも選択に正確な知識必要)、抵当権消滅制度(新民法の知識必要)、累積投票制度、電磁的議決権行使(最近の商法改正について)、消費者契約法、特定商取引法、製造物責任法混在問題(かなりハイレベル)

3 ビジネスモデル特許などの知的財産管理混合(かなりハイレベル)閉鎖株式会社の投下資本回収方法(やっと従来レベルか)、債権回収と相続放棄(平成11年改正民法、ノーマライゼーション改正の知識必要)、民事再生法手続き(これはハイレベル。弁護士でも正確な知識がないと無理。正しいものの個数を選択するのはキツイ)

4 国際法務(仲裁条項、これは過去問レベル)、利益相反取締役の責任免除(最近の商法改正の知識必要)、工作物責任と労災問題(過去問レベル)、下請代金支払遅延等防止法(最近の改正知識必要)

5 売買契約の要件事実(過去問レベル)、任意組合等、組織の損害賠償債務(かなりハイレベル)、多数債務者間の求償問題(細かい条文知識必要)、個人情報保護法関連(比較的やさしい)

以下は2点問題につき、項目のみ

6 営業譲渡と雇用問題、中国法制度(これはまったくわかりません・・)、不正競争防止法関連訴訟手続き、著作権と出版権

7 企業組織の体制について、請負契約における瑕疵担保責任、労働協約と就業規則との関係、少額訴訟の特徴

8 親子会社における役員兼職問題、危険負担、新破産法制度、国際法務(ディスカバリー制度)

9 食品衛生法、JAS法、景表法混合問題、株主への利益供与事例、特許と実施権、仮差押手続きの特徴

10 新株発行制度の概要、遺産分割と登記、取締役会議の運営方法、集合動産譲渡担保制度の概要

 こうやって概観しますと、民法については司法試験でよく問題とされる「当事者間の利益バランス」ということよりも、徹底して「債権回収」のからむ問題に力点が置かれていることがわかります。商法については、ここ5年ほどの改正点を中心に勉強しておかないと問題にならないようです。あと、知的財産権問題もレベルアップしており、知財検定と同じレベルの問題が出ています。ITにからむ新法や消費者保護関連法も必須です。中国法には、いったいどのような担保権が現存するのかなど、私はまったくわかりません。企業法務部というところは、これほどまでにオールラウンドな知識を要求されるのでしょうか?これで70点をクリアされる方、私は本当に尊敬いたします。。。

7月 4, 2005 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年7月 2日 (土)

弁護士も「派遣さん」になる日が来る?

 (以下はあくまでも私個人の意見でありまして、弁護士会や法曹団体の意見ではないことをまず申し上げます。)

 新聞でも報道されましたが、弁護士や会計士、税理士などのいわゆる「士業」専門の仲介業が解禁されるのではないか、という話題が持ち上がっています。現に人材派遣大手の企業では、この士業専門の紹介、仲介法人を設立し、今日から営業を開始されたそうです。政府の構造改革特区に関する有識者会議でもこの7月8日、士業の労働者派遣問題に関するヒアリングが行われます。

 「弁護士の派遣」ということに限った議論になりますが、弁護士を対象とする派遣業ということになりますと、弁護士法72条との抵触ということが最も大きな壁になります。他人の法律業務を、有償で取り扱うことができるのは弁護士資格を有する者に限る、とされておりますが、もし弁護士派遣業を認めるとすれば、派遣業者はこの弁護士への雇用関係上の指揮監督により、派遣業者自身が他人の法律業務を取り扱うことになる、という問題です。法務省は、以前からこの派遣業については「弁護士法72条に抵触するおそれがある」として弁護士の派遣業については強く反対しています。この弁護士法72条というのは、よく新聞でも報道されるように「非弁活動」として犯罪構成要件として利用(違法行為は刑事罰の対象)されるために、その解釈はなるべく厳格かつ明確になされることが望ましいわけでして、(解釈する人によって、対象者が逮捕されたり、しなかったりというのは困るわけでして)法務省は法律を公式に解釈する立場にはないわけですから、「72条に抵触するおそれあり」としか言えないわけです。

 ただ私自身の意見は、ビジネスに携わる方(主に企業)が、このような派遣による弁護士を雇用するデメリットについて十分認識され、自己責任をもって受け入れるのであれば、派遣もあっていいのではないかな、という考えです。

 弁護士派遣のメリットとしては、社内弁護士を雇用するだけの社内環境や費用負担の余裕がない中小企業などにおいて、一時的な法務スタッフとしての有用性とか、ファンド会社、M&A仲介業者などの期間限定の調査グループの法務スタッフ、渉外案件における現地での法的交渉など、季節労働者としての魅力でしょうか。また、弁護士側としても、とりわけ個人事業者の場合には、著名な人材派遣業者による営業力を利用して、いままでビジネス上の接点がなかったような専門分野への進出が可能となり、OJTによってスキルアップしたり、専門分野を開拓することが可能となりそうです。(ビジネス社会にとっても専門弁護士が増えること自体は歓迎されることになりましょう)

 弁護士派遣のデメリットとしては、先に述べましたとおり、まず弁護士法72条問題が存在しますので、もし現行法のままで派遣業がオッケーということになりますと、72条から「悪質な非弁活動が行われた場合の犯罪抑制のための威嚇効果」が希薄化してしまい、派遣業者の中での自由競争で駆逐されない限り、「質の悪い」派遣業者がはびこることになります。また、登録している弁護士は派遣元と派遣先から重複して指揮監督されることが予想されますが、弁護士業務の職責に反するような指揮監督をどちらかから受けた場合、もしくは派遣元と派遣先の利害が相反するに至った場合、派遣された弁護士は、さっさと辞任することが考えられます。これは弁護士法1条の使命によって職責がまっとうされるのが弁護士の宿命ですから、有能な弁護士ほど(弁護士倫理などに対する嗅覚が優れている弁護士ほど)あっさりと辞任すると考えられます。そうしますと、果たして労働者派遣業者の思惑に一致する弁護士がどれだけ登録を継続するのか、かなり未知数ですし、ひょっとすると派遣先の希望に沿わないタイプの弁護士が多数登録している状況になることが予想されます。したがって、弁護士の質の吟味はおのずと派遣先企業が負担せざるをえない、と推測されます。さらに、よく考えてみると、企業が希望しているような「専門分野への即戦力をもち」かつ「優秀な」弁護士というのは、東京、大阪でみるとほぼ大型法律事務所に在籍して、バリバリ事務所の屋台骨となって勤務している方がたではないでしょうか。私を含め、個人事業主として勤務している弁護士は、渉外、知的財産、M&A、独禁など、それほど大きな事件を抱えて仕事をしているわけではありません。少なくとも、隣接士業の方々と協同で案件にあたった経験を有していない弁護士では即戦力、ということはムズカシイ要求ではないか、と思ったりするわけです。

 もちろん、これは「企業のリスク管理」という一面から申し上げたものですから、有能な弁護士が紹介されて、バリバリと要求された内容の仕事を処理してくれる、ということも否定はいたしません。ただ、そのようなリスクがあることを承知のうえで、派遣を受けるだけの心構えがないと、やはりデメリットばかりが心配されますし、そのようなデメリットを自己責任として企業が負担できる体制があれば、私は(われわれ弁護士の将来のためにも)派遣を肯定していいのではないか、と思います。

 今後、地方公共団体の徴税業務を弁護士が請け負ったり、企業の社外取締役に弁護士が就任することなども、広い意味では規制緩和だと思っています。「経営のことは、経営をやったことがなければわからん」ということで、社外取締役の地位に弁護士が就任する、ということはなかなか社会的に理解されないのが現実です。ただ、21世紀は「法化社会」ということが言われ、コンプライアンス経営、コーポレートガバナンスへの評価、内部統制システムの構築義務、そして昨今の敵対的買収への防衛システムなど、司法リスクを常に抱えた経営問題がどの企業にも横たわっているわけですから、弁護士が「法務は弁護士でないとわからん」という発想を変えるのと同時に、ビジネスの社会でも「企業経営は経営者でないとわからん」という発想も少しずつでも変容されていくべきではないでしょうか。

 本当はまだ、この士業と労働派遣業との関係では、「士業と監督官庁との関係」という重要な論点があるのですが、ちょっと長くなりましたので、また後日ということで。

7月 2, 2005 弁護士も「派遣さん」になる日が来る? | | コメント (6) | トラックバック (1)

2005年7月 1日 (金)

私的独占と民事訴訟

 日本AMDがインテル株式会社を被告として、2件の損害賠償請求訴訟を提起しました。独占禁止法違反の事件に関する民事訴訟というのは、かなり件数が少ないので私的にはたいへん注目している裁判です。(アメリカではAMDとインテルの訴訟の歴史はけっこう古いですけど、日本の民事訴訟制度を利用するところの紛争としてみると新鮮ですね)

2件といいますのは、審決前置主義を採用している東京高裁専属管轄の独禁法25条訴訟と通常の民法709条による東京地裁への不法行為による損害賠償請求訴訟です。なぜ2件かといいますと、25条訴訟というのが、公取委で審決の対象となった事実に基づく損害だけを特別に審理する(そのかわり被害者側にかなり有利な立証上のシステムが適用される)というもので、ほかにも審決の対象とされなかった不正行為によって損害が発生したという場合には、通常の民事訴訟を利用せざるをえないからです。読売ネットの記事では「合計115億円訴訟」とありますが、「55億円」と「60億円」の中身が重複していますので、合計「60億円」が正しいと思います。(ちなみに、日本AMDの代理人は今年も高額納税弁護士ベスト10に名を連ねている著名な弁護士さんですね。さすがですね・・お金というのは寂しがりやなんで、「集まるところに集まる」みたいで)

 インテルは今年4月に、公取委からの排除勧告に応諾していますので、勧告審決が出ている(確定している)わけですが、当時インテルは排除勧告に応じた理由として「公取委の認定事実については独禁法違反の事実とは認められないが、今後審判に移行した場合の時間的、費用的負担を考えると、ここで応諾しておくほうが得策と判断した。また、排除命令の内容に従ったとしても、特別にインテルの売上にはなんら影響がないことも判明している」と述べていました。この4月の時点で、すでに私的独占(3条)を根拠に民事訴訟を提起されることが予測可能でしたので、今回のような訴訟を意識して、このような発表したのでしょうね。つまりインテルとしては、公取委の認定事実については否認するけれども、他の諸事情から勧告に応諾する、というものですから、このような民事訴訟を提起したときに、勧告に応諾した事実を有利に相手方に援用されることを防止するわけです。さらに、排除命令に応じても販売力に影響がない、ということの意味は、反論することなく排除勧告に応じることが自社株主に対して会社が善良な管理者たる注意義務を尽くしていることを示すとともに、このような民事訴訟において、日本AMDが立証しなければならない損害と違法行為との因果関係を積極的に否認することを表明したものといえましょう。

 東京高裁に提起された25条訴訟のほうについては、公取委に対する求釈明の制度がありますから、実質的には公取委は日本AMDの味方になるわけで、積極的に支援をしていくことになるわけですが、日本AMD側にとってもそう簡単に55億円もの損害賠償請求事件に勝てるとは思えません。なんといっても、インテルは勧告に応じただけでありますから、審決があったといっても民事訴訟へ及ぼす審決の効力というものが高いものではありません。(また、たとえこのたびの民事訴訟に、この公取委の審決の影響があるとしても、審決の主文で表現されている排除命令の対象行為のみに、違法行為との事実上の推定が働くだけであって、きわめて限定的なものになると思われます)インテルとしては、これから正式に公取委の認定した事実を争うことになるわけですね。また、先の審決書(平成17年勧第一号)によると、インテルの私的独占状態によって日本AMD(ほか1社)の市場占有率は平成14年ころの24パーセントが、平成15年には11パーセントに低下した、と認定していますが、この低下が事実だとしても、このうちインテルの排除命令対象行為によって低下に至ったのが何パーセントで、まっとうな営業努力によって低下したのが何パーセントで、それ以外の市場要因によって低下したのが何パーセントなのか、どうやって仕分けされていくのか不透明です。AMDが損害の中身として主張しているであろう「逸失利益」というのも、どのような利益を特定できるのか、ちょっと明瞭にはなりません。(もちろん民事訴訟法248条で、弁論の全趣旨による損害額認定の手法をこの因果関係の認定部分でも広く適用する、ということも考えられるでしょうけど。)

 独禁法が改正されて、今後は勧告審決制度というものがなくなってしまうわけですが、それに変わる手続きも導入されるようですから、この民事訴訟は今後の改正法の運用にも大きな影響を与えるものになりそうです。安易な和解によって終結するよりも、外野の法曹としましては、コテコテに争ってほしいなあ・・・と少し期待しているところであります。

7月 1, 2005 私的独占と民事訴訟 | | コメント (0) | トラックバック (0)