夢真HDのTOB実施(その3)
夢真HDより、7月20日開始予定のTOB(被対象会社は日本技術開発)に関する条件と、日本技術開発の買収防衛策(株式分割と発行予定株数の増加)に対する対応について7月19日、リリースされています。予想どおり、19日までに金融庁(関東財務局)からは、当初夢真が希望していた条件付買付価格、条件付撤回の是非に関する回答はなかったようで、ただし強行突破はせずに、買付予定株式総数はそのままにしておいて、とりあえず一株110円として買付を開始するそうです。買付条件の変更といっても、途中での引き下げは原則としてできませんが、引き上げについては(応募株主全員に同じ条件ということであれば)認められます。7月19日現在の日本技術開発の株価が550円前後ですが、こういったケースだと株価にはどのような影響が出るんでしょうかね?日本技術開発が株式分割を撤回すれば550円に買付価格を引き上げるし、株式分割が実施された場合には、買付予定株数を5倍まで引き上げて応募者全員に応募株数の5倍まで買取を保証する、というものらしいので、それほど影響はないのでしょうかね?(よくわかりません・・・)
(7月20日午前11時 追記あり)
それにしても、この7月19日付け夢真HDのリリース「日本技術開発の株式分割決議に対する当社の対応について」は辛辣ですね。日本で名立たる企業においても、株式分割をもって防衛策とする事前警告型を採用しているわけですが、こういった企業の防衛策についても、夢真は「違法なTOB妨害策」だと決め付けるのでしょうか。その決議に賛同した法律専門家の名前を公表して、損害賠償請求を予告するのでしょうか。とりあえず詳細に読んだつもりですが、「妨害策」と判断したのは事前警告ではなく、事後警告にある、という文脈では読み取れず、やはり株式分割を用いてTOBを妨害すること、それ自体に起因するもののようです。そこに「当社および株主の皆様への嫌がらせ」とまで言わしめる原因があるようです。
しかしここまで辛辣だと、もはや今後の事件の進展次第で友好的買収に変わるという予想はつきませんね。私は専門外の弁護士なんで、この敵対的買収の世界というものをそれほど存じ上げませんが、これほどまでに相手方を罵倒するのが「TOB時におけるリリースの方法」なんでしょうか?単に私が甘いだけなのかもしれませんが、あの野村證券が作成した「敵対的M&A防衛マニュアル」のなかの買収側マニュアル部分でさえリリースにおいては「最後まで、友好的買収の可能性を残せ」と指導しているわけでして、野村證券のマニュアルからみても、この夢真のリリースはとっても異質なもののように思えます。世間に向かって、このリリースが公表されて、その後日本技術開発としては提携の道を模索できるとは思えません。50%の株式を取得できなかった場合に備えて、自社株主代表訴訟対策のために失敗は相手企業の違法行為によるものという表現のために「損害賠償」ということを強く主張しているというのであれば理解もできますが、そうであったとしても、企業間における内容証明通知によって要求すれば足りるはずであって、リリースでここまで表明する、というのは(少なくとも私の感覚では)信じられません。
同じ7月19日に夢真HDよりリリースされた「当社の日本技術開発株式会社を対象とする公開買付の条件について」では、今後の方針として株式分割に対する差止請求を行う、とあります。私の予想では550円で買付を開始して(強行突破して)新株発行差止の仮処分申請を行えば、かなり高い確率で夢真側が勝訴すると予想していたのですが、110円での買付開始となると、株主様の判断次第では買付が功を奏する可能性があるわけですから、そもそも「保全の必要性」がなくなってしまうのではないかな・・・と思ったりもするわけです。6か月前からの株主による取締役の行為差止請求だとしても、株主に与える不利益というものが、はたして一方的に日本技術開発の株式分割だけに起因しているとは言えないでしょうし、かなり微妙な気がします。
最近、すこしだけかじっている「ゲーム理論」風に言えば、プレイヤーの2社では、いまだ情報が「非完備」「非対称」な状況が続いており、双方もはや最適反応が考えられない「ナッシュ均衡」に至っているわけですが、ゲームの効用を受ける株主の立場からすれば、パレート効率のもっとも高いナッシュ均衡を選択したいのであり、そのためには企業価値向上のための情報を友好的に出し合って、情報の「完備性」「対称性」を高める努力が必要ではないでしょうか。伊藤金融担当大臣が昼間にコメントしていた「株主への目配り」というのは、もうすこし株主への冷静な情報提供、という意味やと思ったんですけど。
平和主義者の地方弁護士としましては、「公開買付」が「後悔買付」にならないよう、祈ります。。。
(追記)
出張のために、あまり新聞記事などきちんと読めておりませんが、日本技術開発は6月決算のため、夢真がTOBで過半数の株式を獲得しても、9月の定時総会ではそのままでは議決権を行使できず、別途委任状獲得を必要とするそうです。敵対的TOBを開始したら、買付人は大株主のところへは個別に説明とかに行かれるのでしょうか。実務のところはどなたか教えていただきたいです。
それと、株式分割が実行されることを見込んで110円での買付を実行するにもかかわらず、なぜ株式分割の差止め仮処分を申し立てるのでしょうか??そもそも株主が損害を被ることがないように110円に買付価格を減少させたわけですし、「嫌がらせ妨害策」という点を捉えて損害が発生した、と立証することも日本技術開発側の故意過失という問題をクリアできない限り、困難なように思われますし、どうもよく理解できません。
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