内部統制構築と監査役とのかかわり
7月13日に経済産業省と金融庁(企業会計審議会内部統制部会)より、同時に内部統制構築に関連する「指針」が発表されました。
経産省、企業内部統制に指針案 監査強化など7項目(朝日ネット記事)
企業統治の監査、文書化の対象範囲縮小 金融庁ルール(日経ネット記事)
金融庁の指針はけっこう「あっさり」していますが、ルールとしての具体性はあります。経済産業省の指針は企業統治と内部統制との関連などにも言及され、また個別具体的な企業例などを詳細に調査比較しており、読み物としては面白いのですが、「じゃあ、どうしたらいいの?」と考え込んでしまうほど、具体的なルールが示されているわけではありません。それぞれの企業にあったシステムを検討しましょう、という感じです。
監査役設置会社における監査役としては、この内部統制に関する二つの指針をどのように整理したらいいのでしょうかね。
(7月17日追記あります)
私だったら、内部統制システム構築の目的ということから分別したいと思います。通常、内部統制構築の目的は
1 コンプライアンス経営(法令遵守)
2 リスク管理
3 業務の有効性・効率性の向上
4 財務情報の信頼性
5 企業資産の保全
と言われていますので、金融庁のルールについては(証券取引法との関係もあり)リスク管理、財務情報の信頼性、企業資産の保全という目的達成を第一義として解釈し、経済産業省ルールについては、企業統治との関係から業務の有効性効率性、コンプライアンス経営という目的達成を優先して検討する、ということに分けてみたいと思います。
そうしますと、金融庁ルールでは、まず会計監査人と内部監査部門と監査役との連携あたりが重視すべき問題であり、経済産業省ルールでは取締役会の作成する内部統制システム構築運用への監視が重要課題になりそうです。そして、いずれにも共通する問題が、企業トップと監査役との連携というところでしょうか。
実際に企業の内部統制システムの構築作業に従事している立場からすると、財務情報の信頼性に関連する部分のシステム構築というのは、会計監査人にまかせっきりになってしまいます。会計監査人との協議というのが(ふだんあまり頻繁に顔を合わせないこともあり)なかなか面倒なところがありますが、会社情報の共有のためにも欠かせない作業です。非財務部門(法令遵守など)に関する統制システムについては、内部監査部門と連携をしていくわけですが、企業トップからすると「後ろ向き」の仕事にみえるためか「その話は後回しにしてほしい」といわれるケースがあります。こういったときこそ監査役の本当の仕事ではないかな、と思います。後回しと言われるのは仕方ないかもしれませんが、「社長それやったら、いついつにしましょう」とはっきりと時間を作って、トップと監査役(会)との協議の場をきちんと作るべきでしょう。
財務情報の信頼性確保にしても、法令遵守のためにしても、システム構築には多大なお金が必要です。限られた予算の範囲内で、リスクの高いところを洗い出して、5年くらいの時間をかけてシステム改良を試行錯誤する、というのが普通の上場企業の実情ではないでしょうか。有報への「内部統制に関する開示情報」といっても、ひな型はずいぶんあっさりしているみたいですが、どこの会社も「リスク評価」や「監査証拠採取方法」など、いろいろと頑張っておられるみたいです。
(7月17日 追記)
昨日の日経新聞朝刊「株主と向き合う(下)」を読んでおりましたら、47thさんがアメリカの企業改革法への批判などが(現地で)高まっていることに関連して「(内部統制システムの構築について)日本のように最初から完璧を求めるのではなく、制度の不利益面を認識したうえで導入し、試行錯誤を続ける」と説明されています。
企業会計審議会の出した指針をみましても、各企業の予算などに見合ったシステムの導入ということも検討課題とされているようですし、(文書化部分の削減など)実際にシステムを検討する立場としましては、日本においても「完璧など到底望めない、最重点課題から取り組んでいくことで善管注意義務を尽くしていくしかない」というのが本音です。
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コメント
大変興味深く拝見しております。
最近は、いわゆるJ-SOXの話がでてきてしまっているのですが、この制度が始まる前の議論では、内部監査部門の位置づけで、取締役会の直轄、代表取締役(社長)の直轄、取締役(社長以外、社長より下位の取締役)の職掌下、監査役会の直轄(または、常勤監査役の直轄)という考え方を、社内で議論した覚えがあります。
取締役(社長以外、社長より下位の取締役)の職掌下でも、詳しく見れば、他の職掌と兼務か、または、監査専任か、ふたつの体制があると思います。
結局、うちの会社は、監査担当の取締役ができました(当初は、法務コンプライアンスと兼任していましたが、それも、コンサルタントに言われて、今は、専任となっています)。
しかし、私は思いますが、社長直轄が断然いいと思います。監査専任取締役とは聞こえはよくても、他の取締役との力関係で、無意味なことも多いのです。外観的な意味での独立性の大騒ぎは、はっきり言って、組織や人間関係について、理解が浅いのだと思います。すべては力関係だと思うからです。対外的な見栄えのために、監査専任取締役とするのなら、それも結構ですが。
社長が無理なら、監査役の下が、お勧めだと思います。社長以外の取締役は、社長の風下は当たり前ですが、社長側近の取締役や、次期社長含みの取締役の前でも、弱体です。監査役なら、開き直りがあるでしょう。法的権限も実際あります。
先生方はどう思われますか?
今後は監査専任取締役の次のポジションなど、統計を取ると面白いと思います。
投稿: とおりすがりのものです。 | 2010年4月17日 (土) 21時02分
とおりすがりさん、たいへん興味深く拝見いたしました。
たしかに「対外的な見栄え」の問題が、最近は重視されている傾向にあるのではないかと思います。スタディグループのご意見などを読んでも、外からみたガバナンスの在り方が中心的な課題ではないかと。
しかし、おっしゃるとおり社内力学からみると、はたして見栄えどおりの機能が発揮できるかといいますと、かなり懐疑的ですね。これは私が役員をいままで経験したところからもそう思います。「監査役の開きなおり」も相当の胆力のいることでありますし・・・
やはり私は法的規制、開示、ソフトローあたりの使い分けで、少しずつ検証していくしか方法はないものと考えています。
投稿: toshi | 2010年4月21日 (水) 02時01分