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2005年7月15日 (金)

投資サービス法「中間整理」について(4)

「たぐいまれな頭脳明晰さ」と座談会での「ゆーもあ」たっぷりのお話で、私がたいへん尊敬いたします神田秀樹教授の責任編集による「投資サービス法への構想」(だったかな?)という新刊を紀伊国屋WEBで購入いたしましたが、まだ手元に配本されておりません。たいへん楽しみにしているのですが、神田教授ご自身がお持ちの「構想」というものを推測いたしますと、金融商品を扱う業者に広くサービス法の精神が普及し、ルールを守らないアコギな業者は自然と淘汰され、「国民の資金運用を誠意をもって取り扱いたい」という真摯な目的を有する企業には、どんどん垣根を低くして融資仲介や投資販売業に参加させて、そのような世界が出来上がるなかで一般投資家が保護されていけばいいのでは・・・と、そんな感じのイメージを抱いておられるのではないでしょうか。

証券取引事故の原告側(顧客側)代理人としての弁護士の経験からいたしますと、この投資サービス法が出来上がって、「さて、なにがなんでも顧客救済の精神で!」解釈したくなる気持ちもあるんですけども、第一に保険業法や信託業法などと同じ組織法、行為規制法的なイメージの法律でしょうから、この法律は一面において投資家へ顔を向けているけれども、もう一面では、まじめに頑張る金融業者を応援する、という意味も強く意識されたものになる、ということを忘れてはいけないと思ったりいたします。

そもそも、「プロ」と「素人」を分けて法律規制する、という発想が興味深いところです。でも、考えてみると、銀行や証券会社のように、もともと商品提供に厳しい規制のある企業と、きちんとした規制があるのかどうかよくわからない「○○ファンド」を販売する企業にも同じ法律を適用する、というわけですから、かなり強引な動機付けが必要になってくるわけでして、せめて「プロ用」「セミプロ用」「素人用」くらいには、販売商品ごとにルール分けが必要なのは当然のように思われます。このあたりは「中間整理」では今後の検討課題ということらしいのですが。

そこで、「説明義務」と「投資サービス法」との関係ですが、(これはまったく私の勝手な意見ですので、単なる妄想としてお聞きくだされば結構ですが)金融商品の取扱に関する顧客と企業との法的紛争には、おそらくこの投資サービス法がかなり影響を与えるものだと認識しております。

まず、融資条件付変額保険の訴訟過程の延長として、顧客への説明義務というものが「商品の一部」になると思われます。適合性の原則などというムズカシイ議論はここでは省略いたしますが、投資商品を顧客へお奨めする企業にとっては、適正な説明をすることまでがひとつのパッケージ商品となります。したがいまして、企業に顧客への説明義務違反という事実が認定されたとすると、これまでのような不法行為責任ということだけでなく、商品の瑕疵が問題となり、債務不履行責任が発生したり、取引契約自体の解除や「取消無効」ということまで発展することが考えられます。当然のことながら、裁判所によって認められる「企業が顧客の取引による損失補填の金額」は、賠償金額よりも高額になる、というわけです。投資サービス法の存在自体が、企業の「説明義務」をそこまで昇華させ、おそらくこのような法律構成を検討する弁護士が増えてくるのではないか・・・と「妄想」します。

つぎに、かりに、ここまで議論が進まないとしても、これまで以上に「説明義務違反」や「組織ぐるみの不法行為」というものが認められやすくなります。理由のひとつは立証責任の転換です。損害賠償請求事件の立証責任は基本的には原告側にありますが、このような投資サービス法が施行され、このサービス法施行のために各業界が自主規則を作成した場合、企業の行為規範となりますので、もし企業側が規則や法律で規定している行動をとっていなかった場合には、おそらく「企業側が説明をきちんとしていなかったのではないか」という推測がはたらき、裁判のうえでも、企業側が説明をきちんとしていたことの証明をしないと負けてしまうことになります。こういった作用が予想されます。そして理由のもうひとつは、投資サービス法はいくら企業の行為規範とはいいましても、一般投資家保護、ということが重要な制度趣旨であることは否定できないでしょうから、企業コンプライアンスという面から考えても「説明義務を尽くしたことの証拠」は重要な点に限っても文書化されるはずです。そういった文書はこれまで「内部文書」だとして原告側からの文書提出命令の対象にはなりにくかったのですが、もしサービス法が施行された場合には、おそらく原告被告間の権利関係を証明する文書と解釈されますから、文書提出命令の対象として認められるようになることが予想されます。ということは、訴訟になる前から、ディスカバリーや証拠保全手続きの対象となることが考えられますので、なおのこと原告側に有利な書証が増えるものと思われます。

ホンマに「町の弁護士の」妄想の域を超えていませんが、この投資サービス法が、商品を立案、販売、仲介する「まじめな」企業にとっても、そして貯蓄を投資に振り分ける国民にとっても、利用する価値のある法律として検討が進むことを願ってやみません。

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