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2005年7月 9日 (土)

投資サービス法「中間整理」について(1)

7月7日に金融審議会のHPに「投資サービス法中間整理」が掲載されておりましたので、最後までひととおり目を通してみました。日経新聞では「サービス法の概要がまとまった」と報道されていますが、実際に読んでみると、たしかに包括される金融商品の範囲などについては理解できますが、中身はまだまだなにも決まっていませんね。もちろん、商品の説明を怠らないように、また受託業者が利益相反行為を行わないように、どうやって実効性を担保するのか、ということもよくわかりません。おそらく、この法律を十分理解するためには、法務、税務、会計、ファンドほか金融商品などの知識が必要だと思われますが、残念ながら私は法務面しか理解できないため、片面的な見方、考え方になることをご了承ください。

まず最初に疑問に思ったですが、この法律は証券取引法と同様、行為規範(業者に対する取締規定)であることは間違いなさそうです。ということは、違反行為には刑事罰も課されるわけですから、法律内容が一般人の目でみても、適法行為と違法行為とが明確に峻別できる必要がある(罪刑法定主義)わけですね。(今回のライブドア仮処分でも、時間外取引に対する裁判所の見解では、証券取引法で明確に違法とされていない以上、問題はあっても違法とはいえない、ということでした)そうなると、本当に包括的横断的に、どの金融商品にも適用されるような行為規範というものが制定しうるのでしょうか。訪問販売も窓口販売も、ネット販売もすべてに対応可能な行為規範など作れるんでしょうか。大企業によるファンドマネージメントにも、個人事業者であるマネージャーにも同じ行為規範が適用されるのでしょうか。よほど精緻な条文を作成するか、なにか政令委任のような形でまとめていかなければ、横断的な行為規範というものは不可能ではないかな、とも思いますし、そうなると刑事罰を課すことが困難になって実効性に問題が出てきますし、どうも矛盾点が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

あと、これからの金融業界は外資含めてM&Aがさかんに繰り返されると予想されますが、この金融商品に対する企業側の運用方針については、おそらく内部統制システムに組み込まれていくでしょうから、事業承継の際など、自社と運用方針が合わない場合とか、経営リスクが非常に大きなものになっていくのではないでしょうか。いまでも、事業承継の際に、会計システムや税務処理のシステムを統一するのにたいへん労力を費やしているようですが、新しい金融商品の販売や運用のシステムを自社方式に変更する、というのは極めて難しい作業ではないか、と予想されます。

弁護士の立場から申し上げますと、こういった金融商品、投資商品の販売運用に関する専門家責任を追及する場合、基本法となる投資サービス法だけでは不十分であり、自主規制ルールの存在は不可欠であります。したがって、この投資サービス法関連の話をすれば、投資サービスに関与する各業界の自主規制機関(証券業協会のようなところ)が、それぞれの金融商品や運用に関する明文化されたルールを策定していただきたい、と思いますね。ただ、自主規制を厳しくすると、その業界団体への参加自体を拒否する企業も増えてくることが予想されますので、できれば業界団体への加入強制を販売運用における登録の前提とすべきではないか、と思います。

実効性の担保というところを読んでおりますと、損害額の立証責任を転換するなど、民事賠償救済への対応も見られるところですが、これまでの証券事故に対する訴訟、変額保険に関する訴訟などを原告側代理人として経験した者からすれば、消費者には利便性に乏しいということに尽きると思います。なかなか一人一人の訴訟への情熱だけで、大企業を相手に裁判で勝訴することは困難であり、また勝訴するメリットにも乏しいものがあります。本当に投資サービス法の趣旨が「貯蓄から投資へ」1400兆円の個人資産の移動を促すための投資家保護施策だというのであれば、団体訴権もしくは投資サービス専門の紛争処理機関を認めることが前提だと思います。まあ、これは実現はかなり困難だとは思いますが、事後救済措置というのは、いままでの経験でいえば、もうその商品を販売しなくなってしまったころに「勝訴、敗訴」の結果が出てしまうことになり、まったく商品販売への影響はなくなってしまうわけです。したがって、救済措置のスピードを上げるか、早期に企業に和解に向けての対応を迫るかのいずれか、しか民事上の責任追及の実効性を上げる手段はないんじゃないかな・・・と思ったりします。

弁護士を16年もやっておりますと、結構「専門家訴訟」というものも経験します。私は通常業務としては、金融商品の場合は原告(消費者)側、医療訴訟は医療法人の顧問先が多い関係で、ほとんど病院(医師)側、建築紛争は原告(施主)側です。たいへん狭小な経験からではありますが、次回は投資サービス法などが制定される場合の民事紛争、という面から消費者の対応方法、企業側のリーガルリスクを論じてみたいと考えています。

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コメント

こんばんは。5年前商品系の投資運用会社の内部の人間に聞いた話では「まさかこんな露骨な違法行為をしないだろう」と相手が勝手に思う、その勝手な思いが商売道具なのだそうです。つまりはほぼ全ての違法行為を確信犯として堂々とやっている、というのが実情とのこと。全ては「訴えられてから考えればいい」のだそうです。ワルぶっているようにも見えませんで、恐ろしいことだと思いました。

投稿: bun | 2005年7月11日 (月) 02時04分

bunさん、おひさしぶりです。たくさんのコメントありがとうございます。今回のサービス法が制定されても不安なところは、すこしエントリーにも書いたんですけど、法律だけの適用だけを受けて、協会などに所属しない事業者への対策をどうするか、ということだと思います。コメントにご指摘いただきた投資運用会社はそのような事業者とは思いませんが、協会や企業自体に抑制機能がないような事業者の場合、たとえ法の網をかぶせたとしても、その実効性を担保することはかなり心配です。いままでの貸金業者対策のように、結局は後手後手にまわって弁護士あたりが個別救済をするしか方法がないということになりはしないか、と。まさにbunさんの言うとおり「訴えられたら、それから考えたらいい、訴えられなかったら儲けもん」みたいな感覚が維持されるのではないか、と危惧します。

投稿: toshi | 2005年7月11日 (月) 10時54分

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