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2005年7月13日 (水)

国際私法要綱案

日経ネット記事に、国際私法要綱案が法制審議会で採択された、との報道されています。

もともと日本には国際私法という法典はなく、国際私法的な法律は「法例」という1800年代に定められた法律を適用していたわけですが、このたび国際法律紛争の「日本国としての処理方針」ともいうべき法律が誕生することになりそうです。

普通のビジネスの社会では、国際紛争が発生した場合、管轄合意(どこの裁判所で裁判をするか)、準拠法合意(どこの国の法律にしたがって紛争を解決するか)、仲裁合意(裁判所を使わないで、特定の仲裁人に紛争解決を預けるか)、ADR合意(裁判の前に、裁判所以外で調停手続きのようなもの利用するか)など、きっちり合意するケースが多いので、それほど裁判でこの国際私法が解釈適用される場面が多いようには思えません。したがいまして、この国際私法が活躍しそうな場面としましては、不法行為のような契約関係に基づかない紛争(具体的には製造物責任など)や、遠隔地間における消費者契約(具体的にはネット決済などの通信販売)、そして最近もっとも悩ましい国際離婚問題などに大きな影響が出るものと予想されます。

外国の商品によって日本人が国内で被害を受けた場合に、被害者救済が受けられやすくなる、と報道されていますが、それほど簡単なものではない ことはご理解いただいたほうがいいと思います。

日本で消費者が海外製の商品による拡大損害(PL法で保護されるのは商品の瑕疵によって商品が使えなくなったというのではなく、人体に被害が及んだなどの拡大損害に限られます)を受けた場合に、日本の法律が適用される、といいましても、それが日本の裁判所で審理されるかどうかはまた別の問題です。(いちおう、製造物責任については日本の裁判所に管轄がある、とするのが判例の立場ですが)また、海外の製造者は、その自分の国の裁判所で「自社の製品には欠陥はなく、したがって自社製品による拡大損害を日本人に与えていないから損害賠償債務はない」という裁判を起して、勝訴することも考えられます。したがいまして、日本の裁判所で勝訴判決を受けても、それが海外の国の裁判所で承認されて執行されるかどうかはまた別問題です。ただし現実の救済という面から申し上げますと、製造物責任などの場合、製造者以外にも、その製品を輸入する業者なども含まれますので、日本における外国会社の支店や子会社が存在すれば、そちらへ執行をかける、ということも考えられますし、また販売代理店や直接の販売者を捉えて、製造物責任以外の民事上の不法行為責任などで追及することも十分可能と思われますので、日本国内における裁判所を利用した判決実現の道が残されているケースにおいては、ある程度被害救済の可能性が高くなる、とは考えられそうですね。しかしながら、一般の消費者が外国の裁判所へ執行承認の請求をする、というのは費用や知識の面において厳しいものがありますので、やはり国際私法ができたとしても、現実の救済の限界というものは否めないようです。

裁判の国際的な管轄問題や、外国で下された判決を別の国が承認したうえで、その判決実現に国が協力するかどうか、といった「国際私法」の解決を実現する各国の協力関係についても、一生懸命議論されているところですので、この要綱案が法制化され施行されるころには、準拠法などの実体法だけでなく、国際民事手続法の面でも、法整備がそこそこ完成されていくことになりそうです。

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  いろんなセミナーや講義で次のような事例を出したとします。   日本で発行され [続きを読む]

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