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2005年7月14日 (木)

投資サービス法「中間整理」について(3)

関西の中小の証券会社では、合同で「事業研究会」を発足させ、今後大きな経営問題となる「投資サービス法」施行時における証券取引についての研究活動を開始するそうです。

きょうは専門家訴訟における「説明義務」の功罪について、少しだけ自論をお話いたします。すでに(1)、(2)でお話したとおり、私は主に、金融事故では原告側、医療事故では病院側、建築紛争では原告側の代理人をしている関係から、それぞれ意見や知識が片面的になってしまうかもしれませんが、そのあたりはご容赦ください。

まず、説明義務というのは、弁護士にとってはたいへん便利な法的根拠です。さまざまな専門的判断自体の是非を問うだけの知識、能力に欠けている法律家にとって、この「説明義務」というのは、判断の是非を問うのではなく、事実の有無を問う問題に「すりかえる」わけですから、専門家を裁判所の土俵の上に上げる、つまりサッカーの試合で例えるならば、「アウェー」から「ホーム」へ帰って試合をしているのと同じくらいに御しやすい争い方であります。ただし、裁判所に対して、被告である専門家に法的な説明義務がある、と説得しなければなりませんから、少なくとも丁寧に事実を分析しなければならず、その事実分析に必要な範囲での専門的な実務の勉強はしなければなりません。

(なお、7月14日追記あります)

いっぽう、「説明義務」というのは、まことに便利であるけれども、説明義務違反という事実が、大きな損害賠償金との因果関係が認められにくいために、原告側にとっては「勝つ」可能性があるとしても、それほど大きな賠償金とは結びつきません。したがいまして、判断が難しいことを嫌って双方に和解を勧める裁判所にとっても、たいへん「ありがたい」主張になってきます。つまり、この「説明義務違反」の事実を原告側が熱心に主張した場合、裁判所は双方に熱心に和解を勧めます。こういった専門家訴訟の場合、被告側が保険金で支払ったり、お金持ちだったりするケースが多いので、裁判所も和解を勧めやすいのかもしれません。ぎゃくに原告側代理人としては、専門家の判断ミスを問うつもりでいても、訴訟の途中で裁判官の事件見通しを開示され「まあ、なんとか説明義務にすこし問題があったようですから、これくらいの金額で和解されたらいかがですか」とかなり強く説得されることが多いようです。過失相殺なども駆使されて、原告勝訴ではあるけれども、本当に原告側が希望していたような判決をもらえることが少ないのは、これまでの専門家訴訟の歴史のなかで、一か八かの勝負に出ることなく、かなりの「過失」案件が「説明義務違反」の名のもとに和解で終結してしまい、先例が集積されてこなかったところに原因があると私は思います。

実際、医療過誤訴訟において、私は病院や医師側の代理人に就任していますが、医療ミスでの敗訴というのは一件もありません。敗訴した事件はすべて説明義務違反による不法行為事例であります。なかには、説明義務違反との因果関係は慰謝料だけ、というものもありました。こうなると、医師側としては保険金でカタがついてしまいますし、事後の「医道審査会」での処分についても、それほど心配しなくてすみますので、あまり痛手はありません。最近の医療訴訟というのは、東京や大阪のような「医療集中部」のある裁判所に係属している場合、双方代理人の労力はたいへんなものでして、説明義務違反だけで原告が勝訴しても、おそらく原告代理人の弁護士さんは経営的には成り立たないと思われます。(もちろん、被害者の救済こそ第一の使命と考えて、採算は度外視されている、という方もいらっしゃいますし、その方の弁護士としての姿勢をあれこれと言うつもりはありませんが)

それではこの「投資サービス法」が、今後の「説明責任」に対して、どのような影響を与えるのか、いまの説明責任を問う裁判の最先端の実情などから、予想をしてみたいと思っています。

そもそも、金融商品を一般消費者(一般投資家)に販売する場合、なぜ法的な「説明義務」というものが発生するのでしょうか?おそらくいままでの理論からいえば、金融商品の取引契約に信義則上付随している専門家サイドの義務、といった説明がなされるものと思います。取引契約に必然的に発生する義務であれば、債務不履行構成になろうかと思いますが、不法行為責任とされるケースがほとんどですから、やはり契約そのものから発生するわけではないけれども、条理上、契約締結にあたっての専門家の注意義務のようなところから派生してくるものなんでしょうね。

しかし、もし金融商品全体に横断的に妥当しうるような強力な一般投資家保護規定ができたとしたら・・・・。そうです、たんに「派生的な」注意義務などというところの問題ではなく、もっと「説明義務」のランクが当事者間の合意の過程で昇格してしまうわけですね。つまり、説明義務違反というものについて、発想の転換が可能になってくるわけでして、このあたりの説明を次回にまとめてみたいと思います。

(すこし長くなりましたので、これはまた次回ということで)

(7月14日 追記)

今朝、おもしろい読売ネットの記事を見つけました。

 マネーのホームドクターへのかかりかた

投資商品を勧誘するときにセカンドオピニオンを勧めたり、医薬分業のようなシステムをとりいれる、というのはどうなんでしょうか。投資と投機では、また考え方もちがうかもしれませんが、あまり考えたことがなかったので、よく検討してみたいと思います。

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