内部統制監査に産業界が反発?
いつも勉強させていただいている 法務の国ろじゃあさんのブログに、新会社法解説雑誌のことがエントリーされておりまして、この久保利さんの記事は是非読んでおきたい、と思っておりますが、同時に粉飾列島ー会計はアートかー さんのブログで「日経金融新聞」の気になる記事をみつけました。
この「内部統制監査」の問題は、金融庁が投資家保護を目的に、財務信頼性に関する監査を中心として会計監査人へ大きな働きを期待するシステムを作り、経済産業省がいわゆるコンプライアンス経営、企業債権者のための資産保全を目的に、会計監査人と監査役、内部監査人との協働に期待するシステムを作るといった「棲み分け」が成り立っているものと私は認識しておりました。
ところが、どうもこの日経金融の記事からしますと、内部統制監査に要する費用が膨大になることを懸念した産業界から批判が出て、内部統制全般の監査について、「監査役」監査が前面に出るような案を経済産業省が持ち出した、とありますから、「棲み分け」ということでもないようですし、金融庁と二人三脚で頑張ってきた会計士協会としても、ワーキンググループから脱退する気持ちもわかります。報酬を獲得する機会を失ううえに、新会社法のもとでは機関としての責任だけは真正面から受ける立場になるわけですし、たまったものではありませんね。
久保利さんが述べているように、「コンプライアンス経営、リスク管理にはコストがかかる、いやコストをかけよ」という認識が、まだまだ日本の企業トップの間では概ね低いものと思います。私自身、それほど大きな規模ではない上場企業2社だけですが、社外監査役、コンプライアンス委員会委員という仕事をしておりましても、内部統制システムへの提案というのが取締役会で前向きに議論されることがあまり多くありませんし、議題としても後回しになってしまいます。(おそらくどこでも同じではないでしょうか?)いや、語弊があるかもしれませんが、内部統制システムへお金をかけるかどうかは、トップの一存にあると言っても過言ではないと思います。
たとえ常勤の監査役さんでも、自社のITによる情報伝達システムの仕組みから試査の重点項目を割り出したり、知的財産(企業機密)の保管リスクを評価することはかなり難しく、監査役が責任をもって「外部委託」すれば足りる、という問題ではないと思います。
アメリカでも、最近2003年のサーベンス・オクスレー法(企業改革法)について、「あれは企業に過度の負担を強いるものであり、見直しが必要だ」とオクスレー下院議員自身が認めているように、企業負担とコンプアイアンス経営との「バランス」を模索する必要はあろうかと思いますが、現実社会の「監査役」と「会計監査人」との役割分担を考えた場合、内部統制システム監視の担い手を「監査役」に大きく依存することは現実的ではないと思います。
日経金融新聞は普段読んでおりませんので、気をつけておりませんでしたが、おそらくこの問題は企業会計審議会や経済産業省の審議会あたりの動向とも絡んで大きな話題になっていくものと推測します。
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コメント
TBありがとうございます。以前からちょくちょく拝見させていただいております。こちらこそよろしくお願いいたします。
投稿: keizoku | 2005年7月24日 (日) 00時04分
はじめまして。
「株主優待券 株主平等原則」で検索したところここに行き着きました。ざっと見たところ、大変有用であるblogであると思いましたので、まことに勝手ながら自分のblogのお気に入りリストに追加致しました。
とりあえずご連絡まで。
投稿: 会計専門職大学院生 | 2005年7月24日 (日) 17時04分
>keizokuさん
どうも、お越しいただいてありがとうございます。仕事がら、監査は専門外ではありますが、「監査役」という視点から、今後も会計基準の改正などが実務にどのように影響するのか、自分なりに意見を考えてみようと思っていますので、またオヒマなときにでも覗いてみてください。
>会計専門職大学院生さん
リストに入れていただき、ありがとうございました。そちらのように専門的な意見を述べるだけの力量はありませんので、また気がついたことがありましたら、どんどんお意見をお聞かせください。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2005年7月25日 (月) 10時37分
ブログの投稿を拝見させていただきました。
経済産業省が7月13日に公表した日本COSO、内部統制に関する報告書では、内部統制評価と監査役の役割の強化が提唱されています。経済界は反発しているとのことですが、企業不祥事の防止の観点からは、従来のアメリカ的に内部統制に日本的事情を加味して一歩踏み込んだ内容であると、個人的には評価しております。論文の表題にもありますように、内部統制の問題から、会社のコーポレート・ガバナンスそのものの内容として論旨を展開しております。
従来の内部統制では、経営者自らが、不正を行った場合、企業不祥事を防止することができませんでした。三菱自動車、日本ハムなどがその例です。
今回の経済産業省の意図は、このような企業経営者暴走型の企業不祥事に対して、監査役の機能を強化することで、監査役本来の監視機能による牽制を図ろうとしているものと考えます。特に、今回の会社法の成立により、会計監査人が会社の機関として認められたため、今後の会社の監査については、会計監査は会計監査人、業務監査は監査役というきりわけがより一層色濃くなるものと考えられます。
投稿: コンプライアンス・プロフェッショナル | 2005年8月10日 (水) 13時40分