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2005年7月17日 (日)

夢真HDのTOB実施(その2)

株式会社夢真ホールディングスが、日本技術開発株式会社を対象者とする株式公開買付(いわゆるTOB)を行うこのとの是非(もしくは可否)という問題が、「敵対的買収と買収防衛策」の話題として採り上げられつつあります。

司法判断突入か?といった見出しでいろいろとニュースになっておりますが、司法判断突入のまえに問題となりそうなのが、関東財務局(もしくは事務委託元の金融庁)がなんらかの見解を出すか?ということのようです。夢真HDは7月20日に公開買付を開始する予定だそうですが(16日の日経朝刊)、夢真側の法律顧問の弁護士さんより、関東財務局宛に「7月15日付け上申書」が提出されており、(私がブログを興味深く拝読させていただいている弁護士さんのお名前もありますが、あまり気にしないで話を進めます・・・)当局側の公式見解をなんとか20日までに引き出して有利に展開したい、もしそれが無理であっても、そのままスッと受理していただきたい、との意向があるようです。したがいまして、まず夢真側の思惑通り、買付対象会社によって「株式分割」がTOB期間中になされることを条件とする買付価格の期間中変更(希釈化防止規定)、および買付期間中の買付撤回の可否に関する当局の見解が出されるかどうか、がまず週明けの争点になりそうです。今日は、この夢真HDの法律顧問弁護士の方の法律判断に対する私の(専門外弁護士としての)感想だけを述べたいと思います。

その「上申書」でありますが、夢真側としては今後TOBを有利に展開するための不可欠な戦略として、上記のとおり①証券取引法および内閣府令では明文で認められていない(対象会社による株式分割の実行ある場合の)公開買付期間中の買付金額変更、もしくは②公開買付の撤回が可能であることの見解を当局に求める趣旨のようです。そして、たとえなんらの見解も表明されないとしても、公開買付の要件である買付内容届出が適正に関東財務局に受理されるよう、その法的な根拠付けとしての意味でも提出されたものとも解釈されます。

そこで、この「上申書」や上申書に添付されたと思料される上村達男早大教授らの意見書に対して、当局はどのような対応をとることが予想されるのでしょうか。

証券取引法25条の15によりますと、当局には「公開買付届出書」の形式的審査権しかないものと解されるわけでして、(つまり、日常業務上の証券会社による問い合わせのような、内閣府令の解釈については見解を示すことはできても、証券取引法の解釈を行うことはできない、届出書の記載のうち、重要な事項が欠けているかどうか、という点については判断しない、ということだと思います)本来的に証券取引法の規定に明文規定がない事項について、法律の文言解釈を伴うような問い合わせに関しては、当局が「実質的審査権を行使する」ことになってしまうわけでして、権限を逸脱してしまう可能性が出てきますので、おそらくなんらの見解も出さないのでは、と思われます。

ただ、「当局の見解が示されない=(イコール)届出書が受理される」とは、すぐには結びつかないものと思います。関東財務局としては、届出書に買付価格の変更や撤回に関する不明瞭な条件が付けられていれば、それは本来的に形式的審査権によって判断できる範囲内だとして(形式的要件を満たしていないとして)本件の届出を受理しない、もしくは条件を満たした形への訂正要求ということが十分考えられます。

そこで、先の「上申書」の内容なんですが、法律顧問の弁護士さん方は、巧妙な理由付けをしているようです。つまり、この「上申書」提出の最大の目的は「これをスッと受理してもらっても、当局側の責任は問われませんよ。なんせ、こんな理由があって、あなた方が実質的な審査をしたことにはならないわけですから・・・」と、当局がすんなり公開買付届出書を受理したとしても、当局に責任回避の道筋を残すところにあるんじゃないでしょうか。よく読みますと「希釈化防止規定」を条件として買付価格を修正するということは「文言解釈としての買付価格の引き下げ」には該当しない、との法律意見を述べています。買付価格の引き下げ自体は法律で禁止されているわけですから、この文言解釈問題だとしますと、(実質的審査権を行使する対象となってしまうために)当局側は受理しない方向へと向かう可能性が高いわけです。また、公開買付の撤回が許容される、という理由に証券取引法施行令14条1項1号を持ち出しているところでありますが、これは政令の解釈問題ですから、(日常業務として、証券会社へ回答しているところであります)当局が見解を示しやすいところです。ただし他の理由として、法律顧問の方々は、株式分割が行われると、通常の新株発行の場合と異なり、仮処分などの差止による司法救済が困難であるから、ぜひとも当局がこのような条件付きの公開買付を認めてもらわないと困る・・・という理由も付しておられます。しかし、夢真が意見書として提出している上村教授の見解では280条ノ10による新株発行差止めの仮処分はできると解しておられますし(私も、3日ほど前のエントリーで「法律上おかしい部分があるのではないか」と述べたのは、この部分なのですが。ひょっとしたら、法律顧問のセンセイがたの政策的な意味合いから、「仮処分は困難」と主張されているのかもしれません。たしかに株式分割というのは通常であれば不利益を被る株主が存在しないわけですから、不公正発行というのが予定されていない、ということはいえそうですが、だからといって280条の10には特殊な新株発行を排除する文言はないわけですから、適用されないということにもならないように思います)、すこし自己矛盾的な主張もあるようです。

上記が私なりの分析でありますが、この上申書、また大学教授の方々の意見書が奏功するかどうか、もうすこしで結論が出ると思いますが、私は形式審査の範囲内において、夢真側が主張しているような買付条件による届出はムズカシイのではないかな・・・と思っています。

証券取引法の制度趣旨を云々といっても、当局に法律解釈はできないし、文言解釈にはあたらないといっても、じゃあ文言にないことを「許されるとみるか」「禁止されるとみるか」考えてみると、法27条ノ6第3項や27条ノ11第1項からすれば、政令で明確に条件変更が許容されるもの以外は許容できる条件を類推することは形式的審査権者にはできないものと考えられます。ほかにも、投資家保護という立場からみれば、一見しただけでは、その条件成就の結果が理解しにくいような「買付価格変更条件」というのも、認められそうにないですし、もし株式分割を経営判断によって進めていた企業がある場合に、たまたま後からその企業買収をもくろむ会社が現れて、そのTOBが検討されるような場合でも、株式分割が実質的に禁止されるようなルールができていいのか、というと、それも不合理なことになりそうです。証券取引法というのは行為規範的要素が強く(取締法規)、規制に反する行動には刑事罰も待っているわけですから、その解釈は極めて厳格になされる必要があるわけですから、安易な類推解釈はできれば避けるべきですし、どうしても類推が必要ならば早期に政令で限定的に列挙していって、現実の妥当性との調和を図る、というのが筋ではないでしょうか。

もし、受理されない場合には「行政訴訟で云々」ということも日経に記載されていましたが、時間的な制約からみて、あまり現実的な議論ではないように思います。

結局のところ、本件において友好的提携が進展しないということであれば、夢真側はなんら条件付きでないTOBで強行突破して、司法判断によって株式分割自体の是非を問う、という方向が関係当事者の力学的な見地からはもっとも適当なところではないか、と考えています。(勝手な意見ですから、セカンドオピニオンならぬサードオピニオン程度に聞き流してくださいね。)

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