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2005年7月 1日 (金)

私的独占と民事訴訟

 日本AMDがインテル株式会社を被告として、2件の損害賠償請求訴訟を提起しました。独占禁止法違反の事件に関する民事訴訟というのは、かなり件数が少ないので私的にはたいへん注目している裁判です。(アメリカではAMDとインテルの訴訟の歴史はけっこう古いですけど、日本の民事訴訟制度を利用するところの紛争としてみると新鮮ですね)

2件といいますのは、審決前置主義を採用している東京高裁専属管轄の独禁法25条訴訟と通常の民法709条による東京地裁への不法行為による損害賠償請求訴訟です。なぜ2件かといいますと、25条訴訟というのが、公取委で審決の対象となった事実に基づく損害だけを特別に審理する(そのかわり被害者側にかなり有利な立証上のシステムが適用される)というもので、ほかにも審決の対象とされなかった不正行為によって損害が発生したという場合には、通常の民事訴訟を利用せざるをえないからです。読売ネットの記事では「合計115億円訴訟」とありますが、「55億円」と「60億円」の中身が重複していますので、合計「60億円」が正しいと思います。(ちなみに、日本AMDの代理人は今年も高額納税弁護士ベスト10に名を連ねている著名な弁護士さんですね。さすがですね・・お金というのは寂しがりやなんで、「集まるところに集まる」みたいで)

 インテルは今年4月に、公取委からの排除勧告に応諾していますので、勧告審決が出ている(確定している)わけですが、当時インテルは排除勧告に応じた理由として「公取委の認定事実については独禁法違反の事実とは認められないが、今後審判に移行した場合の時間的、費用的負担を考えると、ここで応諾しておくほうが得策と判断した。また、排除命令の内容に従ったとしても、特別にインテルの売上にはなんら影響がないことも判明している」と述べていました。この4月の時点で、すでに私的独占(3条)を根拠に民事訴訟を提起されることが予測可能でしたので、今回のような訴訟を意識して、このような発表したのでしょうね。つまりインテルとしては、公取委の認定事実については否認するけれども、他の諸事情から勧告に応諾する、というものですから、このような民事訴訟を提起したときに、勧告に応諾した事実を有利に相手方に援用されることを防止するわけです。さらに、排除命令に応じても販売力に影響がない、ということの意味は、反論することなく排除勧告に応じることが自社株主に対して会社が善良な管理者たる注意義務を尽くしていることを示すとともに、このような民事訴訟において、日本AMDが立証しなければならない損害と違法行為との因果関係を積極的に否認することを表明したものといえましょう。

 東京高裁に提起された25条訴訟のほうについては、公取委に対する求釈明の制度がありますから、実質的には公取委は日本AMDの味方になるわけで、積極的に支援をしていくことになるわけですが、日本AMD側にとってもそう簡単に55億円もの損害賠償請求事件に勝てるとは思えません。なんといっても、インテルは勧告に応じただけでありますから、審決があったといっても民事訴訟へ及ぼす審決の効力というものが高いものではありません。(また、たとえこのたびの民事訴訟に、この公取委の審決の影響があるとしても、審決の主文で表現されている排除命令の対象行為のみに、違法行為との事実上の推定が働くだけであって、きわめて限定的なものになると思われます)インテルとしては、これから正式に公取委の認定した事実を争うことになるわけですね。また、先の審決書(平成17年勧第一号)によると、インテルの私的独占状態によって日本AMD(ほか1社)の市場占有率は平成14年ころの24パーセントが、平成15年には11パーセントに低下した、と認定していますが、この低下が事実だとしても、このうちインテルの排除命令対象行為によって低下に至ったのが何パーセントで、まっとうな営業努力によって低下したのが何パーセントで、それ以外の市場要因によって低下したのが何パーセントなのか、どうやって仕分けされていくのか不透明です。AMDが損害の中身として主張しているであろう「逸失利益」というのも、どのような利益を特定できるのか、ちょっと明瞭にはなりません。(もちろん民事訴訟法248条で、弁論の全趣旨による損害額認定の手法をこの因果関係の認定部分でも広く適用する、ということも考えられるでしょうけど。)

 独禁法が改正されて、今後は勧告審決制度というものがなくなってしまうわけですが、それに変わる手続きも導入されるようですから、この民事訴訟は今後の改正法の運用にも大きな影響を与えるものになりそうです。安易な和解によって終結するよりも、外野の法曹としましては、コテコテに争ってほしいなあ・・・と少し期待しているところであります。

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