債権回収と内部統制システム
ある企業の経理部長さんから、長期滞留債権の管理方法について相談を受けました。財務報告の信頼性評価については、会計監査を担当する会計士さんにおまかせすればいいのでは?と回答したのですが、内部統制システムそのものの構築に関する部分は企業側で責任をもってほしいと会計士さんに言われたそうで、①長期滞留債権として分類するためにはどのような法的手続きをとればよいか②回収可能性をどのような基準で考えればよいか③滞留債権の管理方法をどうすればよいか、法律家に検討してもらうように、と指示されたそうです。
大阪商工会議所での法律講演会などでは、「債権回収と債権保全」といったテーマはもっとも人気のある演題でして、普通は契約書の作成方法から顧問弁護士に依頼するタイミングまでを含めて、企業の総務部や法務部の方向きの話をするケースが多いのですが、内部統制との関連で債権回収の経験が経理部の方向きに参考になることがある、とはあまり想像もつきませんでした。しかしよく考えてみると、債権の分類方法や金銭的な評価方法をその企業独自の基準で定型化したり、長期滞留債権の処理方法を定型化することは財務報告の信頼性確保の目的とともに、リスク管理(業務の有効性と効率性向上)の目的にも資する、ようにも思われます。とりわけ、弁護士の立場で上記の基準を検討する場合に有益なのは、企業の業種によって別々の基準を検討できる、というところでしょうか。どういった手続きを踏めば長期滞留債権と評価すべきか、というのは金融、商社、メーカー、サービス、ITなど、それぞれの業種によって異なることは明らかです。また、債権の管理方法(どの段階で顧問弁護士に回収を依頼すべきか、その費用に見合う回収が可能か、税務処理したほうが得策かなど)についても、これまでの裁判経験や交渉経験からみて、その業界独自の方法があります。そういった企業、業種別のリストアップ方法やリスク管理手法を構築できるのは、ある程度法曹としての実務経験が必要かもしれません。
今回はたまたま個人的な相談事例でしたが、今後はシステム構築にあたって、会計士協会と単位弁護士会での総合的なシステム構築に関する協働作業が必要になってくるように思います。証券取引法などの規制規範だけで「内部統制」が議論されていれば別ですが、新会社法でも内部統制システム構築義務や、取締役会の専権事項として規定されているわけですから、投資家だけでなく、会社債権者を含む一般人の法的評価にも耐えうるものが策定されなければならないと思います。
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