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2005年8月 2日 (火)

夢真 株式分割東京地裁決定について

8月1日に東京地裁のWEBページに「決定全文」が掲載されておりましたので、きょう全文を読んでみました。仮処分決定を申し立てる、というのは、債権者(この事件では夢真のことを指します)が本裁判を待っていては救済されないので、なんとか裁判所に「仮の」裁判を出してもらう、という意味の暫定措置を求めるものです。したがいまして、将来の本裁判になったときに、どんな権利を守りたいのか、その「権利」の立証を必要とします。この権利自体が成り立たない場合には、本裁判になっても救済されることはありませんから、仮処分命令申立も却下されることになります。このたびの夢真は日本技術開発が株式分割の取締役会決議を行ったことについて、通常の新株発行の不公正発行に関する商法280条の10の適用もしくは類推適用による「新株発行差止め請求権」、機関権限分配違背に基づく「取締役会の無効確認請求権」、夢真TOBを妨げられたことによる「夢真の営業権」侵害排除請求権を、上記の「守りたい権利」として主張したわけですが、いずれも裁判所からは認容されませんでした。

そこで、認容されなかった理由を、鹿子木決定の構成をおおまかに分析して、今後夢真側で検討している「日本技術開発の新株予約権発行差止め」を展望する材料にしたいと思います。なお、ここに書いておりますことはいままでと同様に、まったくの個人意見ですので、その結論がどのようになろうとも責任を負うものではございませんので、あしからずご了承ください。

なお、本日(8月2日)の日経ネットによりますと、8月12日以降で夢真側は日本技術開発側とトップ会談を行う用意があることを表明し、その際に夢真側は、日本技術開発の会計帳簿などの開示を求めるそうです。もし、開示に応じない場合には、新株予約権差止め請求も辞さないとのことだそうです。ただ、よくリリースを読みますと、9月の株主総会開催までは日本技術開発の対応を静観するようですので、日経の2日ほど前の記事にあったように今週にも差止請求を申し立てる、ということはない模様です。

で、鹿子木決定への検証に話が戻りますが。。。

まず、仮処分命令が認容されるためには大きく分けて「被保全権利」と「保全の必要性」が認められることが要件となりますが、「保全の必要性」については、「被保全権利」が認められない、とされたことから結論的には判断はなされておりません。したがいまして、鹿子木決定は、この株式分割差止決定において、もっぱら夢真側に保全されるべき権利があるか、という点のみを判断対象にしております。また、夢真側から「後出しじゃんけん」と批判されておりました「日本技術開発による事前警告の有無」についても判断をしているものの、それは株式分割という手段を用いた防衛策の相当性判断の一部として捉えているだけで、夢真の買付方法の問題点や交渉方法の是非とのからみで重視されるには至っていないようです。(一部、非難をしていると受け取られる言葉使いはありますが)

鹿子木決定は、最初に防衛策としての「株式分割」の目的と効果を「認定した事実」から明確にしました。目的は「保身を図るために、直接TOBを妨害することを目的とするものではなく、株主の適正判断に資するためにTOBの効果発生を引き伸ばす目的」、効果は「結果として夢真のTOB目的を妨害する効果はない」「既存株主の権利に実質的な変動を及ぼす効果はない」

この目的と効果の確定が、すべての争点の結論に影響を与えますが、やはり金融庁が「権利株式についてもTOBの対象となること」、つまり夢真側が当初予定であった一株買付価格550円を、将来の分割にそなえて110円で買い付けることに「お墨付き」を与えたことが鹿子木決定の前記「目的、効果確定作業」に大きな指針(判断材料)となりました。この点、もし夢真側が当初予定どおり550円で強行突破していれば、また違った結論になっていたでしょうし、日本技術開発の株主にも、もうすこしわかりやすいTOBになったものと思われます。(ただ、ここはTOB全体の成否にかかわる、リスクのあるところですから、単なる結果論になるかもしれませんが)

この「目的、効果の確定」によって、まず「商法280条の10」による差止め請求権の有無が直ちに却下されてしまいます。(通常の新株発行と異なり、既存株主の変動に影響なし、との効果)

つぎに取締役会決議無効確認請求権の有無ですが、株式分割を防衛策として利用することが本件で適法であれば「無効」とはならないわけですから、株式分割自体の当否について詳細に判断がなされております。誤解をおそれずに、流れをおおまかに概観いたしますと、

TOBをかけられた会社は、一般株主の利益保護を考えた場合、なにもせずに反対表明だけ出すというのはかわいそう。なんか双方の企業が情報を提供しあうための機会確保のための手段を講じても(株主にとっては)いいのではないか。そういった手段として「株式分割」というのも本来の使い方とは違うけれども「相当性があれば」あってもいいんではないか。(ここで機関権限分配違背の主張は排除される)それで、今回の「株式分割」だけれども、最初にみたような「目的、効果」しか持たないんだから、相当性としても逸脱していないんじゃないか。

というところで、取締役会が違法な決議をしたものではないから、無効確認請求権はない、との結論に達したものと思われます。最後に夢真の営業権侵害による妨害排除請求権ですが、これはもともと通説判例によれば無理がある主張ですので、あっさりと却下されております。

以上が今回の鹿子木決定の流れだと理解したわけですが、ひとつ気になる点がございまして、「TOBへの対抗策が許容される基準について」と題して、かなり詳細に鹿子木裁判長が「株式分割も許容されうる」と説明されているところであります。株主全体の利益保護のために、証券取引法の法意なども踏まえて「株式分割の転用」がありうることを詳細に説明されるのは理解できますが、ここでTOB時における別の防衛手法、つまり新株予約権、新株発行についても言及している点であります。一般論としてではありますが、取締役会がTOBに対して「事実上不可能ならしめる」手段を用いることは証券取引法の趣旨に反し、また「直ちに新株発行や新株予約権の発行を行うことは、商法の定める期間権限の分配の法意に反し、相当性を欠くおそれが高いということができる」と述べておられる点です。

さて、この鹿子木決定の言及が、このたび差別的行使条件付き新株予約権発行を決議した日本技術開発に対する、夢真側の「新株予約権」発行差止めの裁判にどのような影響を与えるのか、注目すべき問題点となるのではないか、と推測いたします。もちろん日本技術開発側としましては、この新株予約権発行は9月の株主総会における特別決議による承認を条件としているではないか、「直ちに」ではなく、株式分割手続きによる期間延長を行い、当社の企業価値向上のための説明を株主に行ったうえで発動するものではないか、との反論ももっともなところだとは思います。しかしながら、今回の鹿子木決定の「目的、効果確定」構成は、当然のことながら新株予約権発行時には適用されませんので、事前警告の有無も、それ自体が争点になるでしょうし、「著しく不公正な発行かどうか」を正面から争うことができますし、またライブドア、ニレコ事件を踏襲して立証責任がかなり日本技術開発側に転換されるものと思います。そうした場合、日本技術開発側が連勝するためのハードルはかなり高いのではないかな・・・・・というのが私の予想であります。

いろいろとまた、当事者双方からのリリースがあり、当面新株予約権発行の差止請求がなされない模様でありますが、きょうは鹿子木決定の検証までで終りたいと思います。

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