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2005年8月17日 (水)

内部統制理論と会計監査人の法的義務

きょうも、カネボウの元役員の方々が証券取引等監視委員会より告発をされた、との報道がありました。不正経理に関する具体的な会計監査人の責任、ということをいろいろなブログで読みますが、「不正」報告義務が会計監査人に課される時代になったとしても、その法的義務についてはどう考えるべきか、今後の重要な課題となるのではないでしょうか。

内部統制理論などを勉強しておりますと、公認会計士や外部委託された不正監査士など、企業情報の信頼性やリスクマネジメントを評価する場合には、「プロセス」自体の適正性を合理的に保証する、というのが基本です。この「プロセス」というのは、リスク管理のための組織やシステム、業務の効率性を高めるための組織など、具体的な企業の体系だけでなく、その体系で日々機能する社員の動き、というものも含まれる概念です。したがいまして、システムを動かしている「人」が変わればプロセスも変わる可能性が出てくるわけです。そういったことから、会計士や監査士が「財務情報に不正はない」とか「業務遂行において不正はない」と合理的保証をしたとしても、それはある時点、もしくはある期間におけるプロセスを前提としているものであって、将来長期間においても「合理的な保証」を行えるものではないわけです。したがいまして、今後日本の企業においてCOSO報告に基づく内部統制システムが構築されていくにしたがって、その監査責任者の法的責任というものも、ある時点における法的責任、もしくはある期間における法的責任という時間的制約で限定されていくのではないだろうか、と私は考えています。もちろん企業から得られた資料などによって不正を発見すべきであった、というケースであれば違った法的責任も考えられるかと思いますが、ある程度信頼しうる内部統制システム自体が企業に浸透してきたようなケースにおいては、この「人の問題(システムを軽視していないか、不正見逃しの共謀はないか、最初の作ったときと同じ労力で監視しているかなど)」にこそ「不正発見」のポイントがあり、そこに焦点をあてないと実際には発見が困難なケースが多いのはこれまでの不祥事事件の具体的な検証からも明らかだと思います。また、こういった限定責任を検討しておきませんと、監査を担当する人達が無限の損害賠償責任を負担させられる可能性が出てしまい、その積極的な監査活動を萎縮させてしまうことも考えられますので、政策的にも意味がある考え方だと思います。内部統制理論と会計監査人の法的責任につきましては、もうひとつ、監査人の報酬と監査活動との関係からも導かれるものがあるように思いますが、それはまた次の機会にエントリーしたいと思います。

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