製造物責任とCSR損害
有名な洋菓子販売会社が、その販売商品に金属片が混入していたとして190万個の商品を自主回収(なお、金属片が混入していた洋菓子を食べた方は口に軽症)し、原料のバターをドイツから輸入していた日本企業に対して6億円の製造物責任を追及する訴訟を提起したそうです。なお、輸入していた日本企業は、自社輸入原料に金属片が混入していることは認めています。
原料バターに金属片、シャトレーゼが6億円の賠償請求(読売ネット記事)
いわゆるPL法(製造物責任法)における被害者には、一般消費者だけでなく、第三者も含むとされておりますので、拡大損害を被った商品販売会社(この場合は洋菓子製造企業)も輸入業者(これも条文上、製造物責任の対象者に含まれています)に対して製造物責任を問えることになります。この6億円の被害というのは、190万個の商品の原価と失った利益、そして信用失墜にともなう売上の減少分と思われます。
昨今の企業の社会的責任(CSR)論の高揚からすれば、シャトレーゼが販売全品の回収を行い、すばやく公表して一般消費者の生命身体の安全を確保する姿勢は、企業のブランド、信頼を守るためにも当然の対処方法だと考えられます。しかしながら、シャトレーゼのすべての責任を輸入業者に追及するために、無過失責任である製造物責任法を根拠とすることに、すこしばかり疑問も感じます。
たしかに製造物責任法は「生命、身体、財産」に対して「通常有すべき安全性」を具備していない商品によって拡大損害が発生すれば、その賠償義務が発生するわけですから、輸入業者が安全性に問題があったことを認めている以上は形式的に損害賠償義務が発生するようにも思えます。しかし、最新の設備をもって最終消費者に対して安全な商品を提供すべきなのは輸入業者も製造者も販売者も同等であって、中間業者が最初に材料を輸入した業者に対してすべての責任を(消費者と同等の手段で)追及できるというのは、どうも公平ではないような気がします。損害算定にあたっては、公平な分担というものがあてはまるような事案ではないでしょうか。そもそも、「とりやすいところからとる」ことが一般消費者の保護につながるものとして、製造者の範囲を拡大したために「輸入業者」も含まれてきた経緯があると思いますが、そういった趣旨からすれば、販売業者や製造業者が、一般消費者の被害額よりも「とてつもない大きな被害額」をもって輸入業者へ損害補填を求めるのがしっくりきません。たまたまシャトレーゼという企業は、CSR経営を重視する企業として、早期自主回収、早期公表という手段がとられましたが、そういった手段をとることなく、早期にドイツの企業と連絡をとり、調査のうえで金属片混入状況を把握していれば、実際の被害者との和解のみによって解決ができることも予想されますし、はたして自主回収、早期公表が輸入企業にとって予見可能な損害だったかどうかは疑問の余地もあります。また、そういった食品加工製造を行う企業であれば、金属探知機によって事前に予防するのが通常だとすれば(現実に、他の企業では金属探知機を複数使用しているために混入のおそれはない、と公表しているところもあります)被害の拡大防止手段をとっていなかった企業にも「通常の使用法とは異なる使用があった」と主張しうる可能性もあったかもしれません。
おそらく、こういったPL法の使われ方は、平成6年のPL法制定時には予想されなかったところではないかと思われます。もし判決が出されるということであれば責任自体は認められるとしても、その損害の範囲とうものがどのような理由によって、どこまで認められるのか、とりわけ企業の社会的責任論との関係も含めて非常に興味のもたれるところであります。
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