社外取締役と株主価値
金融庁における審問で、MACの村上氏は大証の株を20%超保有することで「大証の経営健全化のために社外取締役の選任を求めたい」と金融庁側に回答しています。また、夢真ホールディングスは、公開買付後の日本技術開発への対応として、10%超の株を保有する筆頭株主として、「社外取締役の選任を要請する」とリリースしています。株主の意思を適正に企業経営に反映させることがコーポレートガバナンスの目的とされていますので、大株主や機関投資家の意向によって社外取締役制度を導入することには異議はありません。ただ、こういった要望があった場合に、いったい誰が特定の社外取締役を推薦するのでしょうか。要望している株主でしょうか、それとも要望を受けた現経営陣でしょうか。私にはそういった基礎的な部分がよくわかっていないようです。
どのような推薦で選任されるにせよ、もし社外取締役が一部の株主の利益だけを代弁するような行動に出た場合には、取締役としての職務行為としては適正とは言えないのではないでしょうか。このあたりが、以前からたいへん疑問を抱いているところでして、株主価値の実現といっても、短期利益を目的とする株主もいれば、中長期保有による企業価値向上に期待する株主もいるわけで、従業員株主もいれば銀行もいる、といった状況で、社外取締役の職務としては総体としての「株主利益の向上」を果たす必要があるのではないか、と考えるのが筋ではないでしょうか。
以前、ニッポン放送の社外取締役4名が同時に辞任されたとき、(社外取締役のひとりでいらっしゃった)久保利弁護士は「代弁すべき少数株主が存在しなくなったから」と辞任理由を述べておられました。この久保利さんのおっしゃった「少数株主」というのは、たとえば村上さんや夢真の立場の株主のことを指すのでしょうか、それとももっと小さな株主、いわゆる一般投資家の方を指すのでしょうか。でも一般投資家と言っても先ほど述べたように短期利益目的の人と長期保有目的の人とは「企業価値」の考え方が異なるのは当然だと思いますし、どうも社外取締役の経営判断において、特定層の株主の利益を考慮することとは直接には結びつかないように思います。
結局、「社内」であれ「社外」であれ、いったん取締役に就任した以上は、その考えるべき株主価値の実現というのは、株主の総意思を考慮したうえでの実現であって、特定層の株主の意見を代弁する、というのは「総意思」との乖離を生むものであって忠実義務違反になるのではないかな・・・と考えます。もちろん、社内取締役と社外取締役が「株主価値の向上」を同様に図るといいましても、おそらく判断として重視すべき基準が異なりますから、うまく機能すれば、さまざまな株主の意見を経営判断に取り入れることが可能になると思います。そういった意味で「企業価値」と並んで「株主価値」という用語が利用されるケースが多いようですが、そこに言う「株主の利益」の多様性というものは十分認識したほうがいいのであって、特定の株主が、「株主の利益に反する」と主張している場合には、それが本当に総体としての株主の意思を実現するものであるかどうか、疑ってかかるほうが適切ではないかと思う次第であります。
| 固定リンク
コメント