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2005年8月26日 (金)

内部統制の費用対効果

SOX(サーベインズ・オクスリー)法発祥の地であるアメリカにおきましても、内部統制システム構築に要する費用があまりにも高額になりすぎている、ということで見直し論が高まりつつあります。また、日本におきましても、上場企業の代表者が内部統制システムを適正に構築した旨の誓約をしなければならない、ということで、そのシステム構築の外注費や構築状況の監査報酬など、運用における費用問題などが近時議論されています。

そもそも、システムを導入したからっといって業務の効率化を図ることは可能であっても、それ以外の目的、たとえばコンプライアンス経営の執行や、資産保全、財務の信頼性確保などが目に見えて効果が高まり、企業の高収入につながる、というわけではありませんので、企業経営者からは「これだけの費用をかけて、効果はあるのか」と疑問を呈されるのも無理はありません。私も内部統制システムの構築というものは、ちょうど法治国家における「司法の独立」のように、いわば株式会社形態を採用する営利団体の「社会インフラ」であると考えておりますので、これがなければすぐに企業が立ち行かなくなる、というものではありませんが、やはり企業の内外から、こういったシステム構築の目的達成のために企業の内外から信頼を得るためにはどうしても必要なものである、と説明いたします。

なお、この点につきまして、アメリカの場合には「社会的インフラ」という抽象的な説明以上に、費用対効果を説明しやすい理由もあります。それは訴訟社会ならではの理由でして、いわゆるディスカバリー制度とも結びついているようです。ご承知のとおり、アメリカの民事訴訟では、実際の裁判手続きにまで至る訴訟事件はごくわずかでありまして、ほとんどがディスカバリー段階で和解終結(取下げを含む)するケースが多いようです。相手方が企業の場合、こちらの代理人弁護士は、その企業が保有する裁判必要文書を事前に開示するよう求めることができ、また企業自身も自発的に証拠を開示することが可能です。こういったケースで、相手方企業は「明確な社内の文書管理規定があるかどうか」「その管理規定に基づいた文書を相手方の指示どおりに編纂して提出できるかどうか」「提出文書に虚偽、もしくは過失による誤謬がないか」の判断によって、文書の信用性に大きな影響を受けます。もし内部統制システムが機能せず、文書管理がずさんだったりしますと、訴訟上のペナルティを受けることになります。(たとえば証拠としての提出を禁止されるとか、もっと厳しい場合には抗弁権放棄が擬制されたりします)。また、文書管理方法が悪いケースなどは、自身企業によって相手方指示の文書提出までの費用を負担しなければなりません。

こういったケースが現実のものですと、民事紛争となった時点での多額の費用負担よりも、日常における文書管理上の費用負担のほうがはるかに安くつく、という判断には至りやすいと思われます。

「内部統制システム構築」そのものが訴訟における費用負担と直ちに結びつかない日本の場合には、やはりまだまだアメリカほどのインセンティブが理解されにくいことが予想されます。昨日のエントリーでも若干触れましたが、日本の場合にも、企業に対する規制法規によって「システムを構築しなければならない」とうたうだけでははく、実際に取締役の法的責任問題のなかで「システム構築に尽力してきた企業にアドバンテージが発生する」といった解釈基準を盛り込む、という検討をしていかなければ、内部統制システム構築が会社におけるインフラとして有効に機能していかないように思われます。

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