企業不祥事と犯罪環境学
「犯罪」を考える学問として、私が司法試験を受験していました20年ほど前は、「刑事政策」というものが盛んでありまして、司法試験の科目のひとつとなっておりました。ドイツの学術研究が基本となっていたそうですが、最近は「犯罪社会学」(犯罪環境学)というものが犯罪自体の予防や犯罪者自体の研究を行う学問として盛んになっているようです。(これは英米で発達した学問だそうです)
こういった犯罪環境学もしくは犯罪社会学というものについては、私はまったく知識を有しておりませんが、最近光文社新書から出版されました 小宮信夫教授の「犯罪は『この場所』で起こる」はたいへん読みやすく、興味深い本でした。人が犯罪に走りたくなる環境、人が犯罪をあきらめる環境というものが、物的環境面においても人的環境面においても存在する、という仮説を立てて、その真実性を検証していくものです。「割れ窓理論」というのも、言葉としては聞いたことがあったのですが、その実際の研究や実務応用などを把握したのは今回が初めてです。一枚の窓が割れて放置されている建物は、誰かによって全部の窓が割られてしまう、というのは、道路沿いのごみ放置などにもみられる行為だと思います。
犯罪を犯した人間自体にスポットを当てて、どうすれば再犯を防止できるか、という議論は抽象論で終わってしまうことが多いのですが、この犯罪環境学という問題は、対策が非常に具体的ですし、環境作りのために地域住民がどのような日常行動をとればよいのか、きわめて明解な試論が出されています。企業不祥事防止、とりわけ業務上の不祥事と財務上の不正との関係においても、この犯罪環境学は応用できる、と予想して、この本を読んでみようと思いました。私の破産管財人業務の経験などから、業務上の不祥事が発生しやすい環境をそのまま放置しておくことが、企業の不正支出や金銭横領などの財務不祥事問題に発展する土壌となっているケースが多いと感じたからです。「この仕事仲間の人達と、この部署でともに働いているかぎり」悪いことはできない、と社員が認識できる環境作り、こういった問題というのが、この本を読むまでは私自身、かなり「後ろ向きの暗いテーマだと思っていましたが、これが結構明るい協働作業によって作ることが可能であることが理解できて、非常に参考になりました。(まあ、その効果のほどは、これから先長い年月にわたって検証作業を続けていく必要はありそうですが)効果について頭で考えて懐疑的になるだけでなく、ともかく企業全体で環境作りを実践して、コンプライアンス経営の試みとすることも必要だと思いますね。
750円程度の新書版ですし、写真や図表などもふんだんに使われている、読みやすい書物ですので、興味をお持ちの方にはおすすめの一冊です。
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コメント
こんにちは。「割れ窓理論」、初めて聞きました。説得力のある話でいろいろと思い当たるところがあります。私に一番身近なのはマンションのDMやチラシでしょうか。玄関のポスト周辺が荒れているとチラシがさらに増えている気がします。でもしばしば嫌いじゃない内容だったりして(笑)。
投稿: bun | 2005年8月22日 (月) 11時52分
bunさん、こんばんは。
いえ、私も昔の刑事政策はすこし勉強したことがありますが、最近の犯罪学はほとんどアメリカ、イギリスの研究が主流になっているそうで、アメリカの地下鉄などの事例がおもしろく発表されています。また、「地域マップ」というのも非常に具体的な実証研究で興味深いですよ。bunさんは、マンションのチラシを紹介されていますが、大阪では現在「風俗無料案内所」の規制が非常にトレンドでして、案内書の設置場所の規制のほか、黒服のおにいちゃんの呼び込み、女性パネルの位置まで規制にかかっています。いっぽう風俗案内所側もこれに対抗して、画期的なシステムを特許として最近取得したのですが・・・・・・、これについてはまた別の機会に。
投稿: toshi | 2005年8月22日 (月) 20時56分
私はCSRが暴力的に秘匿義務を押し付ける傾向があって、社会でもっとも重要な通報義務を破壊しているような気がします。犯罪はもちろんのこと、いい効果を発見した科学者がいると考えてください。その科学者は早く普及させたいと考えますが、知財部門はなるべく発表を遅らせ、自社に有益な特許としてその成果をなるべく搾り取るのが様々な法人で行われている状況です。
こういうことは例えばニュートンの万有引力発見のレベルの話です。こういうものの使用権が公的ものであるのは明白であり、犯罪を通報するのと対等な透明性があるにもかかわらず、今日本国内のCSR主義者はこういったケースを無視し技術者の場合であれば特許や発明の美辞麗句で公開を引き留め、逆にCSRというエンジニアには意味のない仕組みで情報拡散を強制するのは。情報の秘匿の倫理が社会上の通報の義務の領域を侵食していると思われます。もっとも迅速に伝わるべき科学技術上の十大発見が仮に行われたとする場合の倫理制度の規定を設けることも、人類の発展に不可欠ではないかと感じます。
投稿: アンチCSR | 2018年8月16日 (木) 20時24分