条件決議型ワクチン・プラン
商事法務1739号(8月5日、15日合併号)に新会社法・買収防衛指針を踏まえた買収防衛策の一標準形として「条件決議型ワクチン・プラン」なる防衛策の設計書が掲載されております。「上」となっておりますので「下」まで読まないとはっきりとした感想は申し上げられないのかもしれませんが、取締役会(もしくは定時株主総会)において、敵対的買収者が現れることを「停止条件」として、差別行使条件付きの新株予約権の無償割当(新会社法277条)を行うことを決議する、という斬新なスタイルです。これまで、いろいろと不具合を指摘されてきた買収防衛策の短所を補完し、経済産業省、法務省からすでに出されております指針にも合致するものとしてかなり評価は高いものと思われます。
ただ、防衛策導入を検討する「一監査役」としての立場から、すこしばかり疑問があります。これまでの民法上で定義されてきた「停止条件」と上記防衛策の「停止条件」とは同じものなのかどうか。
まず第一に、取締役会決議や株主総会の決議の効力が「停止条件付き」ということですと、はたしてそのような団体法上の行為について、民法上の「停止条件」というものを付すことが法律的に可能かどうか、という問題です。「月刊監査役平成15年6月号」によりますと、補欠監査役の予備選問題について、法務省民事局商事課の公式見解が掲載されており、株主総会の決議に条件または期限を付すことも否定されているものではなく、決議に期限等を付さなければならないとする合理的な理由がある場合には、合理的な範囲内で条件または期限を付すことができると述べられています。そこで、本件のように敵対的な買収者が出現することを決議の効力発生条件とすることが、はたして条件を付す合理的な理由がある場合と言えるかどうか。(特別に、停止条件を付さなくても買収効果が上がるのではないか、という疑問)
そして、もうひとつは、かりに取締役会決議で「停止条件」つきで導入した買収防衛策については、たとえ取締役会決議そのものが「団体法上の行為」だとしても、それは会社・株主間の法律行為の効果を一方的に決定する性質(新株予約権の株主割当は取締役会で一方的に決めることが可能です)を有するものですし、だからこそ「撤回、廃止が取締役会で容易に決めることができる」とされていると思われますが、そうであるならば、この無償割当を決議する取締役会決議は法律上の「単独行為」としての性質を有するものですから、そもそも「停止条件」は付し得ないのではないか、という疑問。私の手元には司法試験受験時代の四宮先生の「民法総則」がありますが、そのなかで、単独行為については民法506条などからも明らかなとおり、停止条件は付し得ないものとされています。したがいまして、はたして新株予約権の株主無償割当に関する取締役決議には、そもそも停止条件を付すことができるのかどうか、ということについて合理的な説明が必要になってくるのではないでしょうか。大阪の零細法律事務所の弁護士の立場として、この日本を代表する法律事務所の先生方が設計された買収防衛策を論難するだけの能力は毛頭ございませんが、「導入したいと考える企業の役員」としての立場からみると、上記の点、法的安定性という面からみて、すこしばかり疑問が湧いてまいります。ひょっとすると、決議そのものに「停止条件」がつく、というのではなく、割当という会社と株主との当事者間における法律行為自体に「停止条件」がつく、という意味かもしれませんが、そうであっても、上記と同様に「停止条件」そのものの性質からくる疑問が湧いてくるのは同様であります。
この「商事法務」には、「スクランブル」という末尾のコラムがあり、そこにたいへん面白い記事が掲載されています。また、この記事については明日にでもエントリーしてみたいと思います。
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