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2005年8月 8日 (月)

弁護士が権力を持つとき

LAT37Nさんのブログに、たいへん興味のあるエントリーがあります。

監査人って不正をみつけてくれるんですよね?
内容がたいへん興味深く、勉強になります。このエントリーのなかで「監査が最高のパフォーマンスをあげるためには、監査人が国家権力をもたないと無理なんではないか」との感想をもらしておられます。最近の「監査人の不正監査」に関する金融庁の構想などを読んでおりますと、ほんとに私も「よっぽどの権力をもたないと不正発見というのも無理ではないか」と思っています。たんに「意見不表明」あたりをちらつかせるだけでは、企業の不正をこじあけるのは至難の業のように感じます。
ただ、民間人が「ある日突然」権力を手にした場合、その先にはたいへん恐ろしい世界が待っていることも知っておかなければなりません。私は以前、整理回収機構(RCC)の債権回収のお手伝いをしていた時期があります。ご承知のとおり、RCC自体が強制権限を持っているわけではありませんが、100%親会社であります預金保険機構は特別な調査権限を持っております。(RCCの機構内容が少し変わった現在でも同様の権限があるかどうかは、ちょっと不正確ですが)金融機関の商品販売に問題あり、として商品購入者の代理人として、私が金融機関へ説明を求めたときには一回も会えなかった役員さんでも、RCCの代理人として伺うや、その役員さんが門戸を開いて「お待ちしていました」とのこと。最初はこちらも戸惑いましたが、こんな仕事に慣れてしまうと自分がたいそう偉くなったような錯覚に陥り、「権力」の背景があたりまえのものとなってしまって、なんでもできそうな感覚になりましたね。
「私のやり方に文句があるなら、訴訟でもおこしはったらどうですか?」
もともと訴訟に対して拒絶反応がない弁護士ですから、そんな捨てゼリフを残してもあまり罪悪感はなかったのですが、市場経済に対する萎縮的効果というものを考えるととんでもないことだったと反省しています。
権力というものは、できるだけ謙抑的に行使されるべきですし、そういった権力の使い方は若いころからすこしずつ身に付けるべきだ、民間人が突然強制権限を手にする、というのはたいへん危険、というのが現在の私の意見です。

ところで、弁護士と権力といえば・・・・・

中坊弁護士(いまのところ、廃業届けは弁護士会が受理していないと思いますので、元弁護士ではなく、弁護士とさせていただきます)も、RCC社長時代は熱心に債権回収をされたのだと思います。国民の税金を1円でも無駄にしてはいけない、2次損害を出さないように「火の玉」になって債権回収に携わる弁護士が頑張らないといけないということで、難件処理に常時乗り出していきました。そんななかで、あの大型住専であった朝日住建(平成15年外資系ファンドにより破産宣告申立され、破産)問題にからんで、抵当権者へ迷惑をかけるような事態になってしまいました。中坊さんの高い志を知っている人からすれば、横浜銀行や明治生命(当時)を騙す意識は毛頭なかったと思いますが、私が錯覚したように、つい「バックに国民がついていればなんでもできる」ことに慣れてしまったのではないでしょうか。「多少ダーティーかもしれないが、バレても相手は金融機関だから、文句はいえないだろう」くらいの感覚で、抵当物件からの回収作業を進めていったのではないか、と推測します。事実、横浜銀行は整理回収機構との関係を重視して、刑事告訴、民事賠償請求はしませんでしたが、明治生命はそうはいかなかった。民主党から首相候補とまで言われていた中坊さんに対して毅然とした態度で立ち向かい、(現実の刑事告訴をされた方は、明治生命とは関係のない朝日住建子会社の社長さんでしたが)検察庁を動かし、「弁護士廃業届け提出」まで追い込みました。さすが財閥系の企業はちがう、と私などは感心いたしました。(ただ、当時中坊さんを弁護士廃業届け提出へ追い詰めたハーバード大出身の有能な明治生命の代理人弁護士さんは、先日の明治安田生命の告知義務違反による保険金不払い不祥事の責任者として、責任をとる形で法務部長の職を辞すこととなり、企業コンプライアンスの構築、維持というものはまことにむずかしいものだと痛感しております)

最近、地方公共団体が市民の滞納税金の徴収活動について、各単位弁護士会の協力を得て、弁護士への委託を検討しているそうです。しかしながら弁護士が権力をもつとしたら、せいぜい「紛争処理のための仲介役」どまりで、相手に受忍義務を一方的に課すような立場は向いていないのではないか、と思います。(そういえば、弁護士から裁判官になる、というのは制度としてありますが、弁護士が検事になる、というのはあまり聞いたことがありませんね。公正取引委員会あたりなら、まだ「見切り発車」も可能かもしれませんが、刑事事件の起訴となると、いまの日本では「見切り発車」はできそうにありませんよね。)なまじ法律の無力、有力ということを熟知しておりますので、権力で相手を泣き寝入りさせる事態を招いてしまうことだけは避けないと、ますます世間の風当たりを強くしてしまうような気がします。

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コメント

中坊先生は、「住管機構」の時に一回足を踏み外したようですが、今の国策会社 産業再生機構を見ていると、なぜ、中坊先生のような正義感の強い方が、弁護士を引退すると言わなければならないのか私には理解できません。
再生機構は、カネボウ(株)グループの売却先選定を、根拠を開示さえできないような状態で選定し、更に、各資産の売却価格を守秘義務というわけの判らない理由で、公表出来ないような状態で売却しています。
このために、既に減資により、責任を取ったはずの個人株主が、和製はいえなファンドズにより、ほぼ全ての事業をほとんど現金を払わずに奪い取られ、その結果、従業員3人の無資産の会社の株主にされ、丸裸にされようとしています。
このことは、大手マスコミでは、何故か一切報道されませんが、東洋経済7/15号他のマイナーな雑誌で、「虫けらのような株主」としてかかれています。このような搾取型ファンド資本主義に国策会社が積極的に加担し、日本の株式市場は、いつまでもつのでしょうか?
もう日本の将来がどうなるか心配です、やはり日本は、非常識で貧しい極東の一島国に戻るのでしょうか。

投稿: 再生機構を信じた9万人の馬鹿なカネボウ個人株主の一人 | 2006年7月20日 (木) 01時21分

>カネボウ株主さん

コメントありがとうございます。
懲戒請求も弁護士会で却下され(おそらくそうだったと思いますが)、中坊さんのお話も最近はめっきり出なくなりましたね。
これはちょうど1年ほど前のエントリーですが、私は今でも中坊さんのバイタリティは司法改革に脈々と受け継がれていると思います。ただ、個性の強い方は、激動の時代には社会に有用性がある分、時代が変わると煙たがられるところがあり、いろいろと批判され、また弱点も露呈されてしまったみたいです。
表記のカネボウ事件ですが、これは事業再生時における少数株主保護の問題と捉えることができると思いますが、私はこの問題はいまでも「無視されるべきもの」ではないと考えており、まさに市場における法とルールの問題として取り上げられるべきものと思います。ただ、なんせ産業再生法関連の知識と経験に乏しいところがありまして、もうすこしこの業界の実態というものに迫る必要があると感じております。(おそらく私のような個人事務所の弁護士には限界があると思います)ただ、証券会社や信託銀行の方などとの研究会などにも参加させていただき、こういった事業再生スキームのイロハ程度はすこしずつ認識してきたようなところでして、また「まとめ」になるかもしれませんが、このブログでも(カネボウ事件とは離れて)「少数株主保護問題」についてまじめに取り上げてみたいと思っております。

投稿: toshi | 2006年7月21日 (金) 16時53分

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