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2005年8月11日 (木)

内部統制監査に産業界が反発?(2)

昨日はいろいろなエントリーに、たくさんのコメント、ありがとうございました。過去の記事をいろんな方に読んでいただいていることがわかりました。すべてにお返事をできずに申し訳ありません。

ただ、7月23日のエントリー(内部統制監査に産業界が反発?)について、コンプライアンス・プロフェッショナルさんより的確なご指摘をいただきました。

経済産業省が7月13日に公表した日本COSO、内部統制に関する報告書では、内部統制評価と監査役の役割の強化が提唱されています。経済界は反発しているとのことですが、企業不祥事の防止の観点からは、従来のアメリカ的に内部統制に日本的事情を加味して一歩踏み込んだ内容であると、個人的には評価しております。論文の表題にもありますように、内部統制の問題から、会社のコーポレート・ガバナンスそのものの内容として論旨を展開しております。

従来の内部統制では、経営者自らが、不正を行った場合、企業不祥事を防止することができませんでした。三菱自動車、日本ハムなどがその例です。

今回の経済産業省の意図は、このような企業経営者暴走型の企業不祥事に対して、監査役の機能を強化することで、監査役本来の監視機能による牽制を図ろうとしているものと考えます。特に、今回の会社法の成立により、会計監査人が会社の機関として認められたため、今後の会社の監査については、会計監査は会計監査人、業務監査は監査役というきりわけがより一層色濃くなるものと考えられます。

従来のアメリカ的な内部統制に日本的事情を加味して一歩踏み込んだ内容である、と解説されておられますが、経済産業省の報告書を読み直して、まったくそのとおりだと思いました。

COSOレポートを前提とした内部統制システムというのは、会社ぐるみの隠蔽工作をやられてしまうと、その効用に限界がある、というのが通説です。この内部統制という思想が日本企業にますます発達してきますと、これからもし企業トップが不祥事に関与していた場合に、「私は知らなかった」で押し通し、結局のところ「企業の内部統制システムが機能しなかった。至急見直しを行う」というところで責任を落ち着かせよう、と考えるケースが増えるような気がします。つまり悪質な企業犯罪を「内部統制問題」にすりかえて、企業の信用毀損の程度を最小限度に封じ込める悪知恵が横行する可能性があります。

こういった弊害を防止するためにも、アメリカ的な内部統制システムの脆弱性を、日本独特のコーポレートガバナンスの仕組みで補完する、というのは考え方としては十分成り立ちうるように思われます。監査役(監査役会、もしくは監査委員会)が、会社業務におけるシステム構築、運用の監視を行うだけでなく、経営者トップが会社ぐるみでの不祥事に突っ走る(企業経営者暴走型)のを牽制する役目を担う、つまり監査役を含めて「一枚岩」にならないシステムというものに期待するわけですよね。西武鉄道の社外監査役のような役割を監査役に期待する、ということであろうかと思います。こういったものも含めるのが「日本的な内部統制システム構築」と認識すべきなのかもしれません。ただ、この監査役監査に期待する、といいましても、それでは実効性を担保するのは何か、と問われますと、まだまだ監査役本人の資質や志という「人間本位」の部分を信頼するしかないわけでして、確立したシステムというものが監査役監査に構築されるかどうかは、未知数ではないでしょうか。企業不祥事を未然に防止するための「監査役のインセンティブ」(監査役はどんな動機付けがあれば、経営トップに対して苦言を呈することができるのか ストックオプションを含めた独立の経済的利益か?)とはいったいなにか?このあたりは、神田秀樹教授が監修、執筆されている「会社法の経済学」に興味深い分析と提言が掲載されております。

公務員になった経験がありませんので、どう言ったらいいのかわかりませんが、同じ日に金融庁と経済産業省から、似たような報告書が出てきたとき、その両者の関連性などについて、説明とかあったらいいのになあ・・・と思ってしまいます。2週間ほど前、東京のACFEの委員会で、企業会計審議会内部統制部会長の八田進二教授に直接お聞きしたところでは「まったく別々に作ったもので、全然関係ありませんよ」ということで、驚いた次第です。縦割り行政とはいえ、規制されるのは同じ企業なんですから、敵対的買収への防衛指針のときの「経済産業省と法務省」のように、合同で報告書を作成する、ということがあってもいいのではないかなあと思ったりもします。かたや証券取引法による行為規制目的、かたや新会社法による関係者の利害調整目的という、別々の目的を指向していることは理解できるのですが、もう少し交通整理があってもいいのではないでしょうかね。

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コメント

ご主旨に反するようで恐縮ですが、わたくしとしては、SOXの構造は、経営者の責任を追及しやすくするものではないか、と考えております。つまり、「内部統制問題へのスリカエ」を許さないために作った制度ではないか、と思う次第です。
 内部統制の弱点として、「経営者不正には負ける」、「共謀には負ける」ということが言われます。しかし、「共謀には負ける」というのは、内部統制の本質ではないと思います。コスト(*2)を適切にかければ、共謀を防ぐこともできよう、という考え方(証明不能)に乗れば、「内部統制問題へのスリカエ」はできないと思う次第です。内部統制をコストバランスを見て適切に構築するのが、経営者の役割だと思うわけです。

 まず、「会社ぐるみの隠蔽工作をやられてしまうと、内部統制システム(*1)の効用に限界がある」という理屈は、まったく、その通りだと思っています。会社ぐるみ・組織ぐるみにはいろいろあり、経営者自身が指揮をとっている組織ぐるみもあれば、経営者もまんまと騙されている組織ぐるみ(つまり、ある部門とか、ある特定の複数の主要メンバーによるもの)に、とりあえず、大別させてください。
 以上を前提にすれば、なにか、問題があったとき、経営者が、まさに指揮をとった会社ぐるみであれば、故意であり、言い逃れはできないのは明らかです。まぁ、これが経営者不正です。通常、部下はほぼ全員従うという意味で、組織ぐるみです。
 ただし、私は知らなかったと抗弁するかもしれませんね。実際に知らなかったかもしれませんし、また、知らないふりをして逃れようとしているのかもしれません。しかし、経営者がまんまと騙されるような、知らぬは経営者ばかりなり、とでもいうような、不祥事があった場合でも、経営者は責任は逃れられない、そういう考え方だと思います。つまり、ある部門とか、ある主要メンバーが、経営者を欺罔してしまうような体制があったということであれば、それは経営者の失策であり、故意ではなくても、過失は免れないとして、やはり責任を問う、こういう仕組みが、SOXで期待される内部統制システム(*1)だと考えれば、と思うわけです。
 これによって、財務報告に不正があれば、どのみち、経営者の責任をずばり問うということになります。
ただ、日本のJ-SOXではあまり刑事罰が行使されたり、という事態はなく、微温的だとすれば(*3)、たしかに、ご懸念のように「スリカエ」を許す土壌があるというのが実態なのかもしれません。ちょっと私は、そのあたり把握しておりません。

 しかし、下記の「コスト」の意味を見ていただくと、企業経営というのはいずれ愈々つまらなく、また、株式投資というのは、いずれ愈々妙味の薄いものになりそうな気がしてまいります。
 正直に告白しますと、すでにお気づきかもしれませんが、わたくしは、内部統制監査の制度については、あまり、よい印象は持ってはいないという次第です(申し訳ありませんが)。


(*1)会社法でいう「内部統制システム」、取締役会で決議しておく「内部統制システム」、監査役の監査報告書で出てくる「内部統制システム」という意味では使っておりません。
(*2)「コスト」ですが、広義に考えております。チェック体制を厳重に幾重にもする。。意思決定などでは、不正の発生がないか、時間をかけて検証する。複雑な取引はやめる。人事異動を頻繁にする。内部告発を奨励する。などなど。こういうことをすれば、費用は掛かり、得べかりし利益を失い、モチベーションダウンする。などあるかもしれませんが、不祥事発生のリスクとのバランスを考えて、適切に行うのが、経営者の役割だというわけです。
(*3)その昔の米国のS&Lの事件のことを想定しております。ずいぶんと厳しく、多くの経営者が断罪されたようです。米国にはそういう激しさがあるようです。

投稿: 浜の子 | 2012年6月19日 (火) 00時15分

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