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2005年9月30日 (金)

住友信託・UFJ和解の行方

ちょうど、昨年のいまごろは、独占交渉権破棄によるUFJと東京三菱との交渉差止仮処分事件というのが話題に上っていましたよね。この1年は、企業間のいろいろな話題性のある裁判が続きましたので、なんかずいぶんと前の事件のようにも感じますが、皆様は憶えていらっしゃいますでしょうか。仮処分で決着が着いた後、住友信託銀行が本訴訟を東京地裁に提起しまして、現在、統合差止と損害賠償金(の内金)1000億円を求めて第一審が係属中、ということです。この9月28日に裁判所からの勧告で和解に関する話し合いが始まりましたが、双方の金額提示の開きが大きく、次回10月9日までに和解金額だけでなく、和解による処理方法をも含めて両者再検討されるようです。果たして、まだまだ続きそうな裁判に決着をつけて、双方和解で解決をつけることができるのでしょうか?勝手に考えたことだけを書き留めておりますので、まとまった意見ではありませんので念の為。

企業イメージの維持ということのためでしたら、どっちも「和解で早期に終結させたい」と思うのは同じですよね。ただ、UFJの場合には東京三菱の要望を無視しえないところがあるでしょうから、株主へ早期決着させたことの説明はしやすいのではないでしょうか。いっぽうの住信の場合には、仮処分事件の最高裁決定で「基本合意書には法的拘束力がある」とまでいわれたのに、なぜ和解したのか、ということについて株主への説明責任が残ることになりそうです。役員に株主への説明責任が残るくらいなら、裁判所に損害賠償金算定根拠を示してもらって判決を受けたほうがよい、という考え方に傾くように思えます。したがいまして、どちらかといいますと、住信のほうがUFJよりも「早期終結」への執着は薄いのではないか、と推測されます。

つぎに、いままでの裁判における裁判官の心証をどうみるか、判決の見込みをどう読むかは、それぞれの代理人を務めていらっしゃる有名法律事務所の弁護士さんの力量に頼るところが大きいと思いますが、「独占交渉権を規定した基本合意書」の法的拘束力というものを、いったいどんなものと捉えるかが大きなポイントになりそうです。

これは私の考えですが、家庭裁判所で訴訟を行う事件に「婚姻予約不履行による損害賠償請求事件」というものがありまして、いわゆる世間でいうところの「婚約破棄」というものにまつわる紛争事件です。この事件、なかなかオモシロイところがありまして、いろんな(結婚に向けた)事情が重なってきますと、次第に法的拘束力が高い(つまり破棄された場合の慰謝料がアップ)されてくる性質があります。もちろん、最低限度「婚姻予約の合意があった」とされるための事情(いっしょに指輪を買いに行ったとか、女性が退職手続をとったとか)が認められることが前提ですが、その最低限度の事情に(追加して)相手方に「結婚への期待度」を高めるような客観的な行動がプラスされてくると、その裏切りへのペナルティとしての慰謝料も変わってくるんです。つまり不法行為ではなく、合意違反なのに、ペナルティが変わる(つまり、法的拘束力に段階がある)というところが特長でして、本件で問題になっています「基本合意書」の性質を考えるときにも、同じような考え方が妥当するような気がしています。

もし、このような考え方が正しいとするならば、今回のケースでは、相当低額による和解が予想されるのではないかな、と予想します。合併まで拘束するのではなく、とりあえずは合併できるかも??といった住友信託側の期待権を保護することが、この「法的拘束力」という言葉で表現されている、とみるのが筋ではないでしょうか。この請求額1000億円のうち、どこまでが合併による将来利益なのかはわかりませんが、期待していろいろと準備したことに要した費用程度が「基本」になるのではないでしょうかね。そうしますと、たとえば住信側にどこまで本気で調査させ、また住信側の企業秘密も握った後だったのか、2年間という独占交渉期間のうち、最初のうちに「やめます」と言ったのか、2年ぎりぎりで「もう時間切れですよ」といった状態で別交渉に入ったのか、などいろんな事情によって基本合意書の法的拘束力も変わってくるように思われます。ただ、いずれにせよ、さまざまな事情が加わったとしても、その金額は「知れている」程度ではないでしょうか。判決もらったほうが、株主への説明責任がつきやすい住友信託としては、和解解決を選択してリスクを回避する必要性について悩むでしょうが、その工夫として裁判所へ和解意見を書いてもらう、ということも考えられますね。

ただ、「契約違反があった」という事実がどうしても欲しい、金額が和解でも低額なら、金銭よりも「相手にルール違反があった」ことの公証のほうが「実」がある、ということならば、やはり和解はむずかしいかもしれません。いずれにせよ、今後の和解交渉の進展に注目してみたいと思います。

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2005年9月29日 (木)

LLP(有限責任事業組合)研修会

関西では初めて、ということですが、日本公認会計士協会近畿会、大阪弁護士会、日本弁理士会近畿支部合同によるLLP,LLC制度研修会が開催されましたので、さっそく夕方から参加させていただきました。(ちなみに、LLPとは今年8月より施行されております「有限責任事業組合」のことです。)講師の先生は、いまや「LLPの伝道師として全国行脚されていらっしゃる」(?)経済産業省経済産業政策局のの石井芳明課長補佐ということでして、石井氏の商事法務、金融法務事情等の論稿なども予習しまして、気合十分で参上いたしました。会場は超満員、別ホールで急遽ライブ中継開催。さすが、士業オンリーの研修会向けにアレンジされており、講演短め、質疑応答長め、といった時間設定。その講演内容につきましては、基本的にはほぼ金融法務事情の石井氏の論文のうち、1746号(2005年8月合併号)で記載されているものに尽きるようでしたが、「職務発明の、LLPへの実施権帰属の可否」から始まり、やはり予想通り各士業からの質問攻めとなり、あっという間に制限時間、最後は質問打ち切りまで相成りました。(この様子を収録したものがDVDで公認会計士協会近畿会より販売されるそうです。ご興味のある方は一度、ご確認されてはいかがでしょうか)

しかし、研修というのもナマで参加するのも有意義ですね。いろいろと参考になる話をお聞きしましたが、こんな私でも印象に残った点が2点ございました。
ひとつめは、LLPの立ち上げ、運営の要件のなかに、「共同事業要件」というものがあります。いちおう債権者保護の観点から、LLPの構成員は事業上の意思決定と業務執行への全員参加が義務付けられています。この要件は準則主義、形式主義によって「要件該当性」が判断されますから、立ち上げについてはあまり問題ではないのですが、「運営の要件」(つまり継続性が必要)でもあるわけです。当然のことながら、LLPは小さな規模の団体や「入相所帯」の団体に利用されるケースが多いわけですから、LLPの運営は人間関係や団体同士の「山あり谷あり」ですよね。そうしますと、団体運営の途中でLLPの存在要件を満たさない可能性が出てくるわけです。あれ?ということはいつのまにかLLPは要件の該当性が欠けた段階で消えてしまうんでしょうかね?

「登記があるから、法主体は継続的に認められるじゃないか」では無理のようです。今回のLLPの登記は権利の主体性を認めている(つまり法人主体を認めている)わけではありません。たしかに、組合契約登記には、相手の悪意を擬制する効力(つまり、お前は有限責任の団体と知って、取引したんだから、いまごろ無限責任を追及するのはおかしいぞ、といえる効力)はありますが、これも「運用の途中で要件該当性」がなくなってしまえば、その時点から先に取引を開始した第三者との関係では「虚偽登記」になっちゃいますから、擬制の効力すら否定されてしまいます。
これって、考えてみると非常に怖くないですか?有限責任組合だと思って行動していた組合員でも、ちょっと中身がおかしくなると「無限責任」を問われる可能性が出てくる、ということですよね。(もちろん、どこまでの活動にさかのぼって無限責任を問われるか、という問題は残りますが)普通、こういった疑問が生じた場合には、すでに80万ものLLPを有するアメリカの法律解釈を参考にして解決すればよさそうだと思うんですが、この「共同事業要件」というのは、いわば経済産業省と財務省(課税関係)との妥協の産物、という性質をもつ要件とのことで、簡単に答えがみつかるようにも思えないんです。もし、これが弱点だとするならば、LLPと取引をする債権者側代理人からすれば、「共同事業性」というひじょうに曖昧な要件にターゲットをしぼって、その法主体性の欠如を主張し(つまり有限責任のメリットを否認して)、もっともお金をもっている組合員を被告として組合債権(このような事態になった以上、「組合債権」ということもできないかもしれませんが)全額の回収を図る、ということが検討できそうです。(もし、この問題が解決済で、「この本のここに書いてありますよ」というご指摘がございましたら、どうか教えてください)

もうひとつは、LLPが所有する不動産の登記方法でした。(分割禁止特約条項を利用したLLP財産の対抗要件)中身は講演著作権との関係でお話できませんが、法務省課長補佐と石井氏との「綱引き」のなかで、法務省、経済産業省いずれの既成の縄張りをも崩すことなく、あみだされた便法誕生の経緯なんですが、「うわあ、やっぱり官僚って頭いい!」とえらく感動いたしました。(と同時に、こんな妙案を考え出す人たちがゴロゴロしてるんだから既成の縄張りというのは崩れないんだ、と納得もいたしました)また、そういった問題解決への糸口をつかむ方法論のようなものも、実際に聞いてみないとわからないもんだ、と「得した気分」になりました。

東京の人にとっては、このような研修会って、参加できる機会が多いんでしょうね。やはりうらやましいです。それから、「マジック1」となった今、「もし明日この研修会が開催される予定だったら、参加者はどうなっていたんだろう・・・・」などと、いまさらながら、主催者でなくとも胸をなでおろしていたところであります。

三会をおまとめいただいた日本公認会計士協会近畿会のみなさま、そして石井様、本当にきょうはありがとうございました。

9月 29, 2005 LLP(有限責任事業組合)研修会 | | コメント (2) | トラックバック (1)

2005年9月28日 (水)

内部統制システムと♂と♀

つい2,3日ほど前、慶応大学経済学部の学生さんが大麻取締法違反の罪で逮捕されたというニュースがありました。同居していた女性からの通報で発覚したということですが、これは薬物犯罪の捜査端緒としては「よくあるケース」です。刑事弁護人の経験からして、こういった女性は「男性から別れ話を持ち出されたハライセ」のようなケースは割と少なく、もっと崇高な動機「あたしの力であなたを本当のいい男にしてみせる。あなたが少しばかり遠くへ行っても、生まれ変わってまた再会できるまで待っているから」によるケースがほとんどです。(だからこそ、逮捕に至るまでのめんどくさい手続などに「衝動的」でなくつきあっていけるんだと思います)明日からの暮らしにも困る、という妻の立場にある人でさえ、自分の夫を警察に突き出して、その法廷では情状証人として泣きながら「二度と同じ過ちを犯さないように私が監督します」と証言されますので、(オトコの私には)なかなか理解できない男女のミゾというものがあるようです。

また、女優の杉田かおるさん(このブログでは二回目の登場ですがΣ(^o^;))が来年のNHK大河ドラマの役を降板した、とのニュースもありました。なんか、ニュースのイメージからしますと、杉田さんの「わがまま」かしら・・・との印象を受けますが、これも見方を変えますと「当然の降板」かもしれません。杉田さんの役は、山内一豊の親友の妻ですから、年間を通じて非常に重要な役どころです。常時20%前後の視聴率を誇る大河ドラマに年間を通じて出演するメリットは計り知れないものですし、かねてより「大河ドラマに出演したい」と公言していた杉田さんにとっては、まさに「2006年は願ってもない私の再スタート」だったはずです。しかし、NHK、杉田さん双方に帰責性のない事実(悪天候)によって、収録が延期され、急遽出演者の予定調整となった、大河ドラマですから脇役とはいえ、大物俳優ぞろいです、なかなか調整がつかない、なんとか杉田さんに「バラエティ番組」キャンセルのお願い・・・という経緯が推察されます。で、ここに暗黙のルールがありまして、(NHK)「あのね、杉田さん、これ大河ドラマよ、『た・い・が・どらま』。普通はみなさんこっちがお願いしなくても、私のほうで予定合わせます、って言ってくれるんだけどね」しかし、杉田さんには別の合理的なルールが譲れないものとして横たわっていたんですね。「だって、先に約束したものは守るのがルールでしょ。それを反故にしてもいい、というのは何かちゃんとした理由があるんですか?」(NHK)「・・・・・・、」で、すみやかに降板の合意に至った、というところでしょうか。無理難題を押し付けられることがなければ、杉田さんが最後までしんどくても頑張り通すのは、あのマラソンを見ていてもよくわかりました。オトコの私からみて、こんな美味しい役どころを無にしてでも50万円か60万円のバラエティを優先する(というよりも律儀に約束を守る)というのはやっぱりわかりません。

こういった事件に触れるにつれ、女性特有の感覚といいますか、価値観というのは、これからの企業における内部統制システムの構築にとって非常に有効な活用が期待できるのでは、と(ひそかに)思っています。「経営に女性の視点を取り入れる」といったものではありません。その理屈自体、すでに女性が男性社会に取り込まれている匂いがします。しかし「ねじ込まれると鼻につくんだけど、オモテだって反論できない正義感」ってありますよね。そういったものこそ、業務執行ライン上の重要ポイントに生かすことが可能ではないでしょうか。意識的に女性をそういったポイントに配置している企業でしたら、私なら「企業価値ポイント」をひとつ上げると思います。男性同士なら、「まあここでは俺の胸のうちにとどめておいてやる。だがこれからは・・」みたいな説教で済ますことができ、いわゆる嫉妬、ねたみ、争いなどの「突発的事象」が触媒にならなければ「不正告発」には至らないのでありますが、(だからこそ、男性の不正告発は、その経緯が外部に漏れることのほうがおそろしい)女性の場合ですと「いや、私はこの会社を本当によくするために、○○さんは許せない。○○さんが憎くてするんじゃないの、そういったことを許す会社が認められないの」という具合で、職場は和気藹々としていても単発的に告発がとんでくるわけです。

そこで、内部統制システム構築にとって最も大事なのは「トップのコミットメント」だと言われますが、このコミットメントも、もちろん女性と男性には使い分ける必要があります。男性には牽制理論に基づいて「こんなシステムなんだから、かならず不正はばれちゃう」、女性には性善説に基づいて「あなたの不正発見の一言が、この会社を本当に変えていけるんです」この傾向が正しいと思いますよ。

COSO報告書にも書かれておりますように、内部統制システムというのは、社会からの信認を得るための絶対的保証を目指すのではなく、合理的保証を目指すものですから、例外はつきまといます。たしかについ先日の三菱銀行関連のパート従業員のようなケースもあるでしょう。しかし、本気で企業コンプライアンスを検討しているなら、こんな議論もしていいんじゃないでしょうかね。(いや、実際にしている企業もあるかもしれませんが・・)

なお、上記の試論は、企業の現状を想定してのものです。もし、役員、幹部、一般社員すべてにおいて女性、男性の人数が変わらない時代が到来するなら、「女性」と「女性」というオトコの私には永遠に体験不能な「領域」がありますので、そこでのシステム機能については確証をもった話はできません。また、この意見は、女性の職場における地位確立の問題とは「中立」であることを意識しながら書きましたので、誤解を生むような記述がありましたらお許しください。

9月 28, 2005 内部統制システムと♂と♀ | | コメント (2) | トラックバック (0)

2005年9月27日 (火)

敵対的相続防衛プラン

というほど、たいそうなものではありませんが、中小企業の社長さん向けに会社法講演などをいたしますと、株式会社、有限会社の将来への不安として、株式相続の問題が非常に深刻なのがわかります。私も大阪地裁の商事部で会社乗っ取りに関する裁判などをしたことがありますが、真剣に会社経営権を握りたい、という場合だけでなく、なるべく高値で相続株式を売却したいとの思惑から、ドロドロの裁判に至るケースが多いですね。

予防法務の問題として、現経営者死亡によってその後に内紛が発生する可能性があることは、だいたいわかりそうなものですから、遺言によって株式取得者を指定して、そのほかの相続人には償金請求権があるように定めておけばいいはずです。しかし、実際のところは、遺言をきちんと作成していないケースが多く、また遺言を作成していたとしても、遺言自体の無効やら、遺留分減殺請求やら、いろんな理屈も考えられます。こういった相続を原因とする会社事業承継上の問題はおそらく今後は増え続けるものと予想されます。

そこで、今回の会社法では、相続を原因とする株式承継の場合であっても、会社の譲渡に関する承諾を要する旨、定款に記載することができるようになりました。一般に、相続といいますのは、株主の地位を相続人が「包括的に承継」するために、会社法上の「譲渡」にはあたりません。これまでは、こういった防御手段がなかったために、紛争が発生しておりましたが、今後は事業承継上問題あるケースでは、会社法制定後、すみやかに相続時における株式譲渡制限の定款変更をされてはいかがでしょうか。もちろん、株式の売り渡しに伴う値段の問題など、解決できない点もありますが、「企業経営は防衛される」安心感がありますから、裁判所が選任する会計士さんや税理士さんなどの鑑定だけが重点になるだけだと思います。

あと、有限会社についてはどうでしょうかね。会社法のもとでの「特例有限会社」については、おそらく社員の地位の承継についての手直しはされていないと思われますので、これまで同様、ドロドロ裁判のリスクはあるかもしれません。(社員の地位も相続によって包括承継されます)ただ、特例有限会社から商号変更して、「会社法」の適用のある株式会社に変更すれば、同様に譲渡制限規定を定めることが可能です。

中小企業の社長さん対象の講演会だとよく聞かれるのが

「先生、有限会社はそのままでええの?なくなるって聞いたんやけど」

「うーん、なくなると言えばなくなる。なくならないと言えば、なくならない・・・」

「どっちやねん!」

(あっそうそう、会社法の施行日が1ヶ月延期になり、5月1日からになるそうです。4月総会の企業とか、買収防衛策の導入など含め、検討しないといけませんね)

9月 27, 2005 敵対的相続防衛プラン | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月26日 (月)

不正を許さない監査

昨日、カネボウ粉飾決算に関与していた会計士全員が、容疑を認める供述を始めた、との報道がありました。これで、どこまでの会計士が起訴されるのかは不明ですが、いちおうチーム全体としての粉飾関与というものが認定され、監査法人としての責任を追及される可能性が強まりましたね。ただ、金融庁の処分というのは、やはり刑事責任確定の後追いになるようですから、監査法人に対する処分がなされるとしても、おそらくまだ先のことなんでしょうね。

金融庁パブコメ回答集 をみておりますと、業務停止処分が発令された場合の経済界における混乱については、金融庁も重々承知しているようです。こういったケース、結局のところ「戒告」やら「一部支店における業務停止」など、ソフトランディング可能な処理が検討されているのかもしれません。ただし将来における不正監査を絶対に許さない、という断固たる意思を示す、というのであれば、相当ドラスティックな結末もありかもしれません。大きな会社の場合ですと、引継ぎ処理を行うだけで「業務停止期間」が経過してしまう、ということもあるかもしれません。仮監査人を選任する立場の「監査役会」が、こういったケースでどのような対応をとるのか。(企業の対応が興味あります)

さて、タイトル名の書物、まえにも申し上げましたが、ブログをごらんの方より、お奨めいただき、読んでみました。中央青山監査法人の浜田代表社員が執筆された書物でして、不正監査に絡む問題点を監査人という特別の視点から論じておりまして、会計監査と内部統制構築との関連なども非常に参考になりました。なお、この本の最後に、まとめて「不正を許さないための監査事務所の工夫」ということが掲げられております。

一、獲得収入などを監査人個人の報酬決定に過度に反映させない

二、これまでの監査上のミスは、徹底的に分析究明して、監査人共通の経験とする

三、制度として相互牽制ができる協議相手を作る(つまり、責任者が判断上の問題などを、  別の監査人に報告、相談する体制を作る)

四、仕事の閑散期において、会社ごとの監査戦略レビューをつくる。などなど。

おそらく、こういった体制は中央青山でもとられていたんでしょうね。もし、本当にこういった不正監査防止システムが体制として確立していながら、運悪く不正監査が発生したということであれば、金融庁の処分につきましても、アメリカの連邦量刑ガイドラインのように、その体制が十分機能していたことを立証して、すこしでも軽い処分をお願いする、ということも可能かもしれません。(どんなに厳格な体制をとったとしても、100%不正監査を防止することはできない)逆に、不正監査防止システムを構築していると言いながら、実際にはほとんど機能していない、などというケースであれば、「監査法人ぐるみの関与」と言われてもしかたないのかもしれません。厳格な対応も必要かもしれませんが、一生懸命、不正監査を防止しようとする監査法人の努力も、なんらかの形で認めるほうが、今後の不正防止への機運を高めることにもなるんじゃないでしょうか。

9月 26, 2005 不正を許さない監査 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2005年9月23日 (金)

議決権制限株式による買収防衛プラン(2)

ようやく子供のPTAの会合から解放されまして、また「商事法務」を読み返したりしております。(*^o^*)/

昨日の「議決権制限株式を利用した買収防衛策」(葉玉匡美局付検事)への感想のつづきなんですが、「はじめに」とか「おわりに」を昨夜読まなかったんで、気づきませんでしたが、この買収防衛プランというのは、なんか特別な会社を想定しているのかな・・・とも、考えたりしています。

筆者は、とくべつこの防衛策を公開企業に勧めるつもりは毛頭ないとおっしゃっておられますし、いままでの防衛策と違って「株主が株主を選ぶようなスキームがあってもいいじゃないか」と指摘されておられますし、筆者がこの防衛策を講じるにふさわしい会社の形態(経営者と株主との距離感)についても言及されていることなどから、

これって、民営化された後の郵政会社の買収防衛策ではないのかな・・・・・・・?

この時期に、法務省に出向されている優秀な裁判官が策定されたスキームですし、どうもそんな匂いが感じられたのですが、いかがでしょうかね。もちろん、民営化当初は外国企業などから買収されないような法律上の手当をされるものと思いますが、持株会社がすこしずつ民間に株を放出する間のスキーム、というものが念頭に置かれているのではないかなと想像したりしております。

これから政府系金融機関を初めとして、いろいろな政府系団体の民営化が促進されると思いますが、そういった「経営者よりも株主の意向によって防衛の是非を論じうる」ようなスキームも必要になってくる時代がやってくるかもしれませんし、弁護士や証券会社などが「商売」として防衛策を検討するところとは、すこし違ったところで形成されていくものかもしれません。ただ、民営化問題と絡むような防衛策のスキームであれば、民間でもホールディングスによる関連会社の防衛などには使える可能性もあるかもしれません。(いえ、ふと考えたことですから、なんの根拠もありませんが・・・・)

9月 23, 2005 議決権制限株式を利用した買収防衛策 | | コメント (5) | トラックバック (2)

議決権制限株式を利用した買収防衛策

(企業会計ネタから企業価値ネタに移ると、いつもアクセス数が半減してしまいますが・・・・やっぱり興味の中心にあるものですんで御容赦ください・・・・・・)

経済産業省の企業価値研究会にも参加されていた現役裁判官(部付検事)さんが、「議決権制限株式を利用した買収防衛策」と題して、「いままでの日本でも、また欧米諸国でもあまり例をみない」プランを公表されています。(商事法務1742号)商法では導入困難であり、新しい会社法で初めて導入可能となる「議決権制限プラン」、さっそく拝読させていただきました。(いつもの言い訳ですが、これ、法曹としての感想ではなく、一監査役としての感想ですので、悪しからず。こういったスキームを法曹として講評することは到底おこがましいので。)

商事法務1739号の「条件決議型ワクチンプラン」につきましては、正直申しまして、けっこうスッと頭に入ってきたんです。だから疑問点もけっこう自然に湧いてきました。しかしながら、うーーーーーん、このスキーム「わかりまへん」

そもそも、全部の株式について、会社法108条2項3号の規定を利用して「株主総会において議決権を行使することができる事項」を「株主総会の議題となる事項の全部」と定款で定めることって、できるんでしょうか?ここで予定されているのは、株主の権利のうち、いくつかの権利に限定された「議決権制限」株式であり、「行使の条件」だけを特別に変更するというのは、ちょっと予定されていないとみるのが素直な解釈だと思います。つまり、議決権行使には制限はなくて、行使条件だけが制限があるというのは、この会社法108条2項3号を適用できない、というのがまず私の意見です。

このプランの作者でいらっしゃる葉玉裁判官は、たとえば20%超の株式取得者が現れていない平時においては、こういった定款変更によって、普通株式に議決権行使条項を付加した場合は「議決権制限株式」にはならないと考えていらっしゃるようで、だからこそ、会社法115条(公開会社の場合、議決権制限株式が半分以下でなければならない、という規定)の規制はクリアできる、と説明されています。その根拠としては「議決権を行使することができる事項」について制限がされない株式については、たとえ行使条件が存在する場合でも、それは「議決権制限株式」には該当しないことが、会社法の文言解釈によって導きうる、と説明されます。

そのあたりが、私が根本的にわからない部分です。会社法108条2項3号は、一般的に議決権制限株式が「種類株式」の一種であるからこそ、ひとくくりに規定されているわけで、イとロの項目を特別に分けて考えることはできないと思います。たとえば、普通に考えても、2種類の議決権制限株式を発行したいと考えて、ひとつは「3つの事項に関する議決権の制限あり」「行使条件は、6か月間株式を保有していること」、もうひとつは行使条件を定めずに無議決権株式とすることなど、つまりイとロがセットになって定款変更の対象となるのであって、だからこそ文言的にも108条2項3号は「三 株主総会において議決権を行使することができる事項   イ 株主総会において議決権を行使することができる事項 ロ 当該種類の株式につき、議決権の行使の条件をさだめるときは、その条件」と、文言が重複的に使用されているものと解釈するのが自然だと思います。ロの部分で「行使条件」だけを定めて、イで「議決権の行使をすべて認める」ならば「種類株式ではない」「議決権制限株式ではない」と考えるとしたら、なぜ手続だけ108条2項に持ち込むのか、ちょっと理解がむずかしいように思います。(まあ、この108条を使わないと、株主平等原則違反になってしまうからだと思いますが。種類株式の発行手続によるならば、そもそも平等原則違反の問題はクリアできますので)

また、このイとロを区別することが解釈的に合理性があることを根拠つけるために、議決権制限株式の総量規制を定めた商法222条4項と、会社法115条の制度趣旨の差を指摘されていますが、これも説得的とはいえないように思います。現商法222条4項の解釈として、たしかに総量規制を超えた議決権制限株式を発行する手続については、会社法115条とは異なり、絶対的無効、と解する説が多いとは思いますが、決議の無効確認訴訟の提訴期間の制限条項があるために、事実上、有効扱いをせざるをえないとする学説も多いのは事実です。したがって、そういった解釈上の疑義をなくすために会社法115条は総量規制を超えた議決権制限株式の発行も一応有効としたものと考えるのが素直でして、(つまり解釈上の問題点を立法的に解決した、とみるのが素直です)文言の差異から一義的に葉玉裁判官の説が導かれるとは思えません。

その他にも、20%超の株式取得者が現れたとたんに、いままで「議決権制限株式」でなかったすべての普通株式が、すべて「議決権制限株式」に変わってしまう根拠、その結果として総量規制違反の状態が出現するために、その状態を是正すべき会社の措置のもどかしさ(この部分がはっきり申し上げて、素人である会社の人間がどうしたらいいのか、わからない、たいへん不安を感じるところです)、さらに是正措置を実際にとりたくてもとれない場合の会社経営陣の任務懈怠責任の不透明さ、(そもそも、是正措置をとりたくてもとれないようなスキームを導入したこと自体の責任を追及されたらどうするの?など)有事におけるスピーディな判断が要求される買収防衛システムとしては、ちょっとムズカシイのではないか・・・と考えてしまいました。

まだまだ、理論的な疑問点について、書きたいことが山ほどございますが、明日は子供のPTA行事がありますんで、また他のときにでもエントリーしたいと思います。おそらくたいへん精緻で優秀なスキームなんだとは思いますが、いかんせん商事法務のわずか8頁では、私の頭で整理できるほどの「わかりやすさ」は発見できませんでした。ゴメンナサイ。。。

9月 23, 2005 議決権制限株式を利用した買収防衛策 | | コメント (2) | トラックバック (2)

2005年9月22日 (木)

「内部統制議論」への問題提起

「財務報告の信頼性」を目的とした、企業の内部統制システムについては、その「評価および監査の基準」(公開草案)が、すでに7月13日に発表されています。(金融庁企業会計審議会 内部統制部会)

今後、監査に携わる会計士の方や、内部統制システム構築の最終責任者である上場企業トップの方にとりましては、SOX法(アメリカ企業改革法)との関係からみましても、この監査対象となる「内部統制」の評価、監査基準というものに、もっとも関心が集まるところではないでしょうか。

ところで、この企業会計審議会から発表されている評価、監査基準ですが、すこしばかりわからない点があります。結局のところ、企業トップにとって構築すべき「内部統制システム」のレベルというのは、管理会計に資するものであればいいのか、それとも制度会計に資するものでなければならないのか、という点です。

いま「内部統制システム構築のためのビジネスソリューション」などの売り込みが盛んに行われています。情報システムを扱う業界、システム監査を扱う業界など、いわゆるIT関連の知識なくしては監査は困難な時代ですから、こういった財務情報を正確に計算書類に反映させるためのインフラがシステム構築に欠かせない存在であることは否めません。ただ、そういったインフラがこれまで企業の経理、財務部門に不可欠なものとされてきた歴史をみると、それは「企業のための財務戦略、会計戦略」、つまり管理会計部門において発展してきたものと言えます。このような歴史からみますと、内部統制システム構築の大きな目的である「業務の有効性、効率性」ということとは結びつくのですが、それでは果たして「財務報告の信頼性」という目的とはダイレクトに結びつくのでしょうか。これがダイレクトに結びつくためには、これまで発展してきた情報システムが、制度会計、つまり「投資家の判断にとっての有用性」と結びつかなければ、この企業会計審議会が念頭においている「評価、監査基準」となんら関係がなくなってしまうのではないでしょうか。

たしかに、企業会計審議会の草案をみましても、内部統制の不備について「監査」の対象となっていますから、一見すると、その仕組みについては「合理的な保証」が得られる程度の客観性が要求されるようにも読めます。しかしながら、会計監査人が保証する対象は、対象企業に構築された内部統制の仕組みそのものではなく(ダイレクト・レポートは採用されない見込みです)、「自社に構築されたシステムについての経営者による有効性評価」が対象となっています。ということですと、「経営者の経営者による、経営者のためのシステム」つまり自社の戦略会計の便益のためのシステムとして、満足できる程度のシステムが構築されていれば、監査対象としては「モノサシはないけれども、すくなくとも経営者が会計管理をするにあたっては便利なものと認められるから、経営者の判断は有効」と評価される可能性があるわけです。管理会計に資するシステムが有効に機能することで、結果として出てくる計算書類の数字の信頼性が(多少なりとも)高まればOKということですよね。この立場からすると、その企業が財政状況や企業規模などから「できる範囲でやっておけば」内部統制構築義務違反ということも出てこなくなります。

逆に、内部統制システム構築は制度会計と密接な関係に立つ、ということであれば、投資家保護という目的が前面に出てくるわけですから、内部統制システム構築について証券取引法による強制施行、構築義務違反に対する罰則設置、システム構築のガイドライン作成、システム構築に関わった情報システム構築者やシステム監査人の「合理的保証責任」の発生、そしてなによりも民事上の義務違反責任へと結びつきやすい考え方となります。また、企業にとっては「公開企業としての内部統制システム構築のための最低限度の要件」が示されますから、たとえ赤字になってでも、その最低限度をクリアしなければ、民事上の責任を追及される可能性が出てくることになりそうです。

この企業会計審議会は、いったいどっちの方向で考えておられるのでしょうか。聞くところによりますと、この審議委員の間でも、いまだに「内部統制評価基準のガイドライン」を策定すべきかどうかで、非常に議論されているところだそうです。これは、まさに先の問題点と関連するところでありまして、内部統制システムそのものを評価する方向を重視して、証券取引法での義務化を重視するならば、当然に「企業のよるべきガイドライン」が必要になってくるでしょうし、業務効率化という点を重視して(信頼性向上は反射的利益)と考えるならば、企業の自主性尊重、ガイドラインは必要なし、と傾くことになりそうです。

このあたりの議論が今後整理されていくのかどうか、ひょっとするとすでに問題が提起されているのかもしれませんが、どうも思考が先に続かない「原因」になっているような気がします。

9月 22, 2005 「内部統制議論」への問題提起 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月21日 (水)

粉飾決算に加担する動機とは?(2)

最近のエントリーを読んでくださった方々から、きょうメールをいただきました。どちらも参考になる書物の紹介でして、「まだお読みになっていなければ、一度目を通されたらいかがでしょうか」というものでした。(どうもありがとうございました。)

一冊は、ある監査法人のシニアマネージャーの方からのご推薦で、「不正を許さない監査」(2002年 日経新聞社)。中央青山監査法人の代表社員でいらっしゃる浜田康さんの執筆された書物です。そしてもう一冊は、大手商社に勤務され、事業再生ビジネスを担当されている方からのご推薦で、「りそなの会計士はなぜ死んだのか」(2003年 毎日新聞社)。毎日新聞社経済部記者の山口敦雄さんの執筆された書物です。どちらも、事務所近くの旭屋で購入してみました。

おそらく、このブログをお読みになっている経理担当者の方、会計士の方は、この「りそな・・・」のほうは既にご承知の方も多いかもしれません。とりあえず4時間ばかりで一気に読んでしまいました。亡くなった平田さんという朝日監査法人(2003年当時38歳)のシニアマネージャーは、金融監督庁(当時)への出向経験などもあり、企業財務部向けの出版物も著していた有能な会計士でした。りそな銀行監査の現場責任者たる地位にあり、その実質国有化(一時国有化という選択も議論されていたようです)をめぐって、銀行、監査法人、共同監査法人などの板挟みのなかで苦悩していたことを、作者である経済部記者は詳細に検証しています。このたびの一連の不正監査問題を考えるにあたって、参考となるものであることは間違いのないところでしょうが、私自身この本を読んで「会計士さんが粉飾へ加担する動機」として、以前のエントリーでは「ひとつ検証を忘れていたもの」があることに気づきました。専門家特有の「パブロフの犬」症候群です。これ、私が弁護士業務をやっておりまして、狡猾な依頼者から「この弱みをつかれたら、どうしよう」と真剣に考えた経験があります。

今年、私は関西の著名な医師の脱税事件の弁護人を務めました。彼の病院には、処置に困った西日本の大学病院から、つぎつぎと難病患者が紹介されて来院します。彼の治療には、その難病患者のグレードに合わせた医療機器が必要になってきます。彼はその医療機器を購入するのに、正規の病院経営利益では賄えないため、脱税でプールした資金を投入します。冷静な第三者である私は「たしかにあなたが私利私欲で脱税したことではないのは理解できるが、納税は国民としての義務でしょう。」と尋ねます。しかし、彼は確信犯だった。「そりゃ、経営者としては頭では理解できます。しかし、遠く九州から親に連れられて難病患者がやってきて、目の前にしたら、現場医師としては治すしかないでしょう」目の前に倒れている人をみたら、ともかく治療する。これは私が何度もみてきた医師の、善悪や損得を超えた職業病(パブロフの犬症候群)です。昔ながらの徒弟制度(イソ弁)のなかで高い職業倫理をたたきこまれる弁護士も同様です。自分の仕事が、弁護士倫理に反しないように、クライアントの利益保護のために全力を尽くす、という意識を常に持つことを余儀なくされて10年もたちますと、善悪、損得は二の次にして、ともかく顧客の利益のために行動してしまう、という「悲しい性(さが)」が芽生えてきます。もちろん頭では、もうひとつの弁護士倫理(社会的正義に悖る行為に及んでまで、依頼者の利益確保をしてはならない)も理解はしているのですが、やはり行動までは止められない。止めるものがあるとすれば、それは善悪や損得とは離れた場所にあるもっと他の要素(女房子供のこと、両親のこと、うまい酒を飲むこと、きれいなオネーチャンと遊ぶこと、その他の雑念)によって行動が制止できるからだと思います。

 頭では理解できても、実行が裏腹となってしまう。長年の現場における監査業務から染み付いた条件反射的行動というのは、おそらく公認会計士さん達が行う監査の場面においても起こりうるものではないでしょうか。監査法人の理事会レベルで会計監査基準の変更を現場に求めた場合でも、現場責任者たる社員の方々にとっては、素直に監査法人の意向に添えないケースもあって不思議ではないと思います。この「りそなの会計士はなぜ死んだか」では、平田会計士は、現場をまかされた監査人として、現場を離れるという選択肢はなかった、そもそも監査法人の現場の会計士に「現場を降りる」というのは敗北であり、なるべく降りないように努力するというのが「当然の論理」であった、と推測されています。これは記者が亡くなった平田会計士への思いによって多少「美化」された表現だとは思います。私はすこし作者とは異なる感覚ではありますが、「クライアントからの要望に善処する」条件反射的な現場会計士の職業意識が、平田さんの体中に染み付いていたものと思います。

今回のカネボウ粉飾事件で逮捕された会計士さんは、この平田さんと異なり、代表社員という地位にあったわけですから、そこには「代表社員は営業してナンボ」という経営面での動機や、監査法人の合併事情によって、その昔からの顧客売上を落としてはならないという組織面での動機などもあるでしょうが、やはりパブロフの犬症候群のような、倫理や規則などでは行動を制御できない部分の条件反射的行動こそ、さらに大きな動機ではなかったのでしょうか。

9月20日のネット報道によりますと、公認会計士協会から四大監査法人に対して、7年以上の監査経歴を有する企業監査担当者については、(たとえ2004年の改正公認会計士法の条件をクリアしている場合であっても)速やかに対象企業の変更をすることが望ましいとの表明がなされたそうです。現場を離れてはいけない、という職業意識が染み付いている現場担当会計士さん方の不正関与への「行動」を止めるためには、これもやむをえない方策なんでしょうか。ただ、この方策は一時的な効果しか持ち得ない、というのが、上に述べたとおりの私の見解からの予想であります。

(9月22日 追記)

4名の会計士さんのうち、複数名の方が「粉飾関与」を認める供述を始めた、ということです。関与を認めたことと、有罪であることを認めることとは違いますが。

9月 21, 2005 粉飾決算に加担する動機とは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2005年9月20日 (火)

不正監査を叫ぶことへの危惧

昨日も中央青山監査法人の理事長らが東京地検特捜部に事情聴取を受けた、などカネボウ(元担当)社員の個人責任とは別に、「虚偽報告」に関する法人責任追及へ向けた捜査が進んでいる、との報道がありました。ここのところ、会計士さんのブログを中心に、不正監査に関するエントリーをたくさん読ませていただきました。会計監査人に「不正追及」を目的とする職責を規定しようとする金融庁の動きや、東証から会計士協会へ「不正監査防止への取り組み」の申し入れ、会計士協会から会員への「粉飾への関与防止のメッセージ」など、とりわけ監査を担当する会計士さん方の仕事の質が変わるのではないか、と思わせるような風潮が感じられます。

「不正監査の糾弾」が、ここまで社会問題化しますと、ちょっと怖い気もします。若い会計士さんが、(職員というのでしょうか、社員というのでしょうかね?)一生懸命に新しい会計基準を勉強され、これに基づいて企業の会計担当者と監査内容について審議することは結構なことですが、不正経理への関与を恐れるあまり「杓子定規」な運用以外は認めない、という硬直化した態度になってしまって、経理マンさん方を困らせるという事態になってしまわないか、という危惧があります。たとえば、つい先日のエントリーで問題となっておりました「連結はずし」の問題などについても、基準でいけば、どこまでなら「連結」からはずしてよいか、という判断は本来非常に難しいもののようです。そこで誰がみても基準をクリアしているような要件を具備した場合しか「連結はずし」を認めない、それが「粉飾決算に関与してはいけない監査人」としての立場上やむをえない、という態度が今後浸透していくとしたら、これは少し専門家として問題が出てくるのではないか、とも思ったりします。

もちろん、監査法人が今後自身の内部統制のための統制環境として、「すこしでも粉飾と疑われるような態度をとってはならない」という企業倫理綱領を社員全体に伝播させることは、立派なものであって、否定するわけではありません。しかし、先に述べたような専門家の態度は、その職務をまっとうするにあたって「頭を使う必要がなくなる」「思考が停止する」ものとなって、専門家としての社会で期待される「実力」が伸び悩む結果を招来してしまうんじゃないでしょうか。

弁護士の仕事をしておりますなかで、一般民事事件を扱う弁護士のほとんどが「破産開始決定」の申立代理人、というのを経験いたします。いわゆるサラ金破産というものを念頭に置いていただくとわかりやすいと思いますが、代理人弁護士が就任している申立ですと、裁判所が発行しております「申立定型書式」というものを用いることが可能でありまして、ここに破産相談者から聴取した必要事項をツラツラと書き連ねますと、「一丁出来上がり」になるわけです。それで、「この人は誰がみても免責を得て当然」と思える相談者の場合には、あまり苦労もせずに申立に至り、そのまま数ヵ月後には免責されるということで、ほとんど「思考を巡らす」こともなく報酬を頂戴することとなります。しかしながら、現実にはそういった相談者ばかりではありません。ギャンブル、高価品購入、遊興、アコギな金貸しに騙されて一般サラ金から詐欺まがいでの借り入れ経験など、一見すると「あんたは追い込みかけられたほうがええんとちゃうの?」と思わせる事情をお持ちの方もいらっしゃいます。まあ、それでも刑事事件の「執行猶予」のような感覚で、「今回だけは破産決定をもらえるように努力してみましょう」ということで仕事を請け負うわけです。「裁判所にウソの申立」をすれば免責不許可となりますし、弁護士としての責任問題に発展しかねませんので、ウソの陳述はできません。しかしながら、一生懸命その相談者の「免責許可が出ることに有利な事情がないか」を探します。その事情がみつかったら、その事情があることを立証できる書類がないか、考えます。そういった仕事はまさに思考と経験に基づくものでありまして、だからこそ「代理人弁護士」としての報酬に見合うものとなります。

最近のエントリーにいただいたコメントを拝見して、会計士さんの現場における仕事についても「会計基準」を杓子定規に適用すれば「一丁あがり」でなく、いろいろな判断を迫られるケースがあることを知りました。足利銀行の件で中央青山監査法人の監査が問題となっておりますが、そこに出てくる「繰り延べ税金資産」計上にかかる「将来収益の見込み」などというものもそうですし、エントリーでいただいた「K」さんのコメントにありましたように「どういった事情があれば連結はずしが可能か」ということも同様です。企業自身のためでなく、投資家のためにこそ「監査」があることは当然ですし、そのために「監査は確実な根拠に基づいてなされなければならない」という原則も理解はできます。しかし会計の作成者が会社であって、監査はその「相当性」を判断するにすぎないとしたら、会計監査人に1から5までの裁量の幅があるとして、監査人は1、経理担当者は5という結論を出したいと考えている場合に、まず「5」という結論も「裁量を逸脱した結論ではないかどうか」を考え、裁量の範囲であるならば、5の結論を出せる可能性をいろいろと考えてあげることも「相当性判断」のために必要ですし、そこに専門家としての思考と経験がまことに要求される仕事ではないかと思います。そこで意見がどうしても食い違って、不適正意見を出すのか、辞任するのか、それとも不正に手を貸すのかはまた別問題ではありますが。

新会社法のもとでは、監査役は会計監査人の報酬についても決定権を持ちます。したがいまして(あくまでも理想論ではありますが)監査役は自社の会計監査人の仕事ぶりから、その適正な報酬額を決定しなければなりません。企業会計の相当性判断にあたって、いかなる裁量の幅で、どういった事情により、どういった監査証拠を重視して、どういった結論に至ったのか、「監査役自身に株主への会計監査の説明責任」がある以上は、会計監査人に説明義務を十分尽くしていただいて、その報酬適正の是非についても検討する必要が出てきます。ついこの間まで、私は「会計監査の仕事というものは、100点とって当たり前の仕事。100点とっても誰も褒めてくれないのはツライだろうなあ」と考えておりましたが、法律で第三者が適正な報酬を判断することになる以上は、そうも言っていられませんし、株主に合理的な説明ができない以上監査役の責任に跳ね返ってくる、ということであれば、会計監査人の方のお仕事を評価する基準自体も検討されなければいけない時代になってきたように思われます。

今回の一連の会計不祥事が、どのような社会現象を招くことになったとしましても、そういった専門家としてのバランス感覚だけは見失わないでいただきたい、と(とりわけ)若手の優秀な会計士の方には期待をする次第であります。

9月 20, 2005 不正監査を叫ぶことへの危惧 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年9月18日 (日)

情報管理と内部統制

旬刊経理情報の9月10日号、同20日号の連載で、「NTTドコモにおけるSOX法404条への対応~プロジェクト運営から見える日本企業への示唆~」として、実際に米国の基準をクリアした内部統制システム構築担当者の論稿(体験記)が掲載されましております。文書化プロセスの流れや構築上の悩みなど、たいへん興味深いものです。これを執筆されたNTTドコモの担当者の方、最近までNTTコムに在籍されていらっしゃったようで、財務上のシステム監査への対応などにも造詣が深いのでしょうね。NTTコミュニケーションズあたりは、まさにこれからのシステム監査への対応を中心とする内部統制システムの「伝道師」的立場にある会社といえましょう。

ただ、内部統制の限界ともいうべき事件が、このNTTコムの周辺で発生してしまったようです。業務の外部委託先であるシステム開発会社の代表者から、「3億よこせ。そうでないとお宅の保有している顧客情報を漏らすぞ」と脅され、結局この代表者は恐喝未遂で逮捕されてしまった、というものです。  朝日ネットの記事です。(9月17日)

自社の内部統制システム構築には万全を期していても、自社情報を共有する外部委託先企業とのトラブルが発生してしまうと、結局自社の対策が水泡と帰してしまう可能性があるというのは恐ろしいことですね。ちなみに、このMPIという企業のHPをみつけました。

 エム・ピー・アイ(渋谷区)

今年の5月にプライバシーマークも取得しており、誠意をもって個人情報を守りますと謳ったHPの内容からは、企業名のとおり「誠実性」がうかがわれます。天下のNTTコムさんが顧客情報を共有していた企業ですから、それなりの実績もあり、信用もあったのでしょう。しかしながら、今回のような代表者の事件。いきなり「3億よこせ」というのはちょっと考えられませんので、おそらく取引上の経緯があったのだとは思いますが、こういった統制リスクというものは、人から教えられて防止できるものではないでしょうね。外部委託先との顧客情報の共有に関するリスク回避、というのは教科書的には理解できるものですが、実際のところは回避困難なリスクであって、おそらく内部統制の限界のひとつに含まれるのではないでしょうか。

すでにいろいろなところで、NTTコムさんが講師となって「システム監査」の研修会など、されておられるようですが、どうか今回の事故について、どうしてこのような事態になったのか、どうしたら外部委託先とのトラブルを防止できるか、情報漏えいの有無については、どのように調査確認をして、いつ顧客に明確な報告をするのか等も含めて、どうか講習をしていただきたいと思います。リスクというのはどんなに防止策をとったとしても発生しうるもの、むしろ発生後にそのリスクの影響を最小限度に抑える方策というものも、たいへん重要な作業であり、他社にも非常に勉強になるものではないでしょうか。

9月 18, 2005 情報管理と内部統制 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年9月16日 (金)

監査法人の業務停止とは?

大学の先生や、現役裁判官の人から「そろそろ内部統制ネタや監査役ネタに戻ってちょうだい。ソレしか興味ないんだから・・・」とメールや面談で冷たいクレームをいただきましたが、もうすこしだけレアな話題について。

フジサンケイビジネスアイの記事によりますと、中央青山監査法人に対する金融庁の処分は1ヶ月間の業務停止処分の見込み、とのことです。(ほかのニュース記事では、まだそんな具体的な情報が出ておりませんので、どこまで信用性があるのかは疑問ですが。)

弁護士の懲戒処分としての「業務停止」といいますのは、「1月」もあれば「2年」もあります。弁護士には監督官庁がありませんので、その弁護士が所属する単位弁護士会が懲戒請求を通じて審査、決定をします。「なんだ、1ヶ月の業務停止って、ずいぶん甘いんではないの?」と言われることもありますが、たとえ1ヶ月であろうとも、弁護士にとって「業務停止」は経営面において致命的です。事務所から「法律事務所」の看板をはずさなければならず、係属中の民事、刑事事件すべて辞任しなければならず(期日延長の申請もできません)、顧問契約も解除します。また、事務所に来るのはいいのですが、クライアントと電話で応対することもできません。もし応対するのであれば「私、いま懲戒処分によって業務停止中ですので、相談には応じられません」とハッキリ申出なければなりません。推測するに、事務所のホームページも閉鎖しなければダメだと思います。これらの停止措置をとったことは別途弁護士会に報告しなければなりません。とりわけ事件の辞任、顧問契約の解除は大きなダメージでして、このコンプラの時代、懲戒事由を承知のうえで再度顧問契約をまきなおしていただけるような奇特な企業さんはいらっしゃらないはずです。

さて、監査法人の「業務停止」というのは、どういったイメージなんでしょうか?とりわけ大型監査法人の業務停止というのは、800社にも及ぶ上場企業との監査契約や、それ以外のコンサル契約、任意監査契約について、解除しなければならないのでしょうか?オフィシャルHPは閉鎖しなければならないのでしょうか?企業の経理面で困ったことがあったら、どういう対応をするのでしょうか?弁護士の業務停止と同じイメージであるならば、これはたいへんな経済界での混乱が生じることになりそうですから、きっとまた違ったイメージなんでしょうね。

ただ、「業務停止1ヶ月」という処分が下されるとしても、その後に「足利銀行」事件での処分が大問題になってしまう可能性が残ります。たしかに、今年1月25日、足利銀行の件では、すでに金融庁によって「戒告」処分が下されています。しかし、これはさまざまな調査の末、中央青山監査法人の内部管理に不適切な点があった、との事実を捉えて「戒告」とされたものです。しかし、きょう足利銀行は正式に宇都宮地裁に対して、粉飾決算による違法配当分の返還請求を提起しました。つまり中央青山に粉飾決算の根拠となる不正監査があったことをこれからの民事裁判で足利銀行が明らかにしようとしています。しかも、この足利銀行の請求は(株主らによる一般民事訴訟とは異なり)預金保険機構(内部調査委員会)の指導のもとに起されたものです。つまり、エリートコースを歩む裁判官身分や検察官身分、会計士身分の人たちのグループが知恵を出しあって、「これならいける」と判断して提訴したものでありますから、被告としてはかなり「つらい」裁判になってしまいます。そうしますと、さらに「故意」による粉飾関与、という問題が重なってくることも予想され、たいへん厳しい事態も考えられるのではないでしょうか。

(一部の方より、「最近このブログ、コメントつけにくいなあ」と言われました。どうか、遠慮なくいろんなご意見、ご批判つけてください。しょぼっちいコメントも大歓迎ですよ。べつに格調高いブログを目指しているものでもなく、とにかく会社法制や企業会計を考えるマニアックな方の集うブログであればいいと思っていますので。)

9月 16, 2005 監査法人の業務停止とは? | | コメント (7) | トラックバック (4)

不正監査防止のための抜本的解決策

連日、メールやコメントなど、多数頂戴しました。(お返事が書けておらず、たいへん申し訳ございません。)今回の中央青山監査法人の粉飾加担疑惑の件、まだ本論に入っていないのですが(一番書きたかったのは足利銀行による民事賠償請求事件なんですが)、ちょっとだけ頂戴しましたコメントなどをもとに、関連問題について考えてみたいと思います。

やぶ猫さんが、「公認会計士の憂鬱」と題するエントリーのなかで、以下のとおり問題提起されています。

「いい仕事」をすれば「顧客」が満足し、評価が上がって、収入と地位があがる。という単純なビジネスモデルが公認会計士の監査業務にはあてはまらないようであることが問題だと思います。

「会計監査」というお仕事が、投資家そして会社債権者のために奉仕する職業でありながら、その報酬は監査対象である企業から得るのが「定め」である以上、やぶ猫さんのおっしゃるとおり、ビジネスモデルと監査業務の間に「噛み合わない」部分が存在することはいたしかたない現実だと思います。この現実を冷静にみるかぎり、たとえこれから2008年ころまでに「日本版SOX(企業改革法)」が制定されたとしましても、日本企業と会計監査人との関係は変わらず、不正監査発生の温床は存続するとしか考えられません。

そこで、どうすれば抜本的に不正監査を防止することができるか、その解決方法について検討してみたいと思います。(あくまでも試論ですから、ご批判大歓迎です)

ひとつめは会計監査というものが、今後1433兆円の国民資産を「貯蓄」から「投資」へ振り向けるための「社会インフラ」となるわけですから、会計監査業務を国家権力によって行うものとして、その権力を公認会計士に委託する、というものであります。これは私が8月8日のエントリー「弁護士が権力をもつとき」で書きましたとおり、LAT37Nさんのブログを読んでの提案です。ただ、そのときにも述べましたが、民間人がいきなり権力を移譲されることの弊害はたいそう恐ろしいものがありまして、あまり現実的な対策ではない、というのが自論であります。

つぎに、ハーバードビジネスレビュー10月号でも提案されておりますとおり、企業と監査法人との契約について一定期間は解約できないものとし、また延長もできないものとする、契約期間終了時は、別の監査法人と監査契約をしなければならないものとする、(クライアントにおける監査法人のローテーション)という手法を用い、いわば企業にとって税務署員的な立場に監査人が置かれるような提案であります。これは不正監査防止という目的からみると、非常に現実的な改善策のようにも思われます。ただ、この手法は、たしかに会計監査人が企業と協調して粉飾を容認する動機が生まれることはないとは思えるのですが、逆に考えますと、投資家のため、会社債権者のために一生懸命「役に立つ監査を行う」動機も生まれなくなってしまいます。企業の特質をもっと知ろうとか、新しい監査基準を学ぼうとか、もっと正確な監査を行おう、という意欲がわかなくなり、会計監査自体の品質が急激に悪くなってしまう懸念があります。不正防止のためとはいえ、社会全体の会計監査の進歩を止めてしまうような方策は、その弊害のほうが大きくなってしまうのではないでしょうか。

そこで監査の質の向上をはかりながら、なおかつ不正監査防止のインセンティブを確保する方策として残るのは、会計監査を「司法その他の紛争解決機関」のマナ板に乗せることが考えられます。これまで、会計監査の適法性そのものが司法の場で争点となったのは、日本コッパース事件その他、わずかしかありません。これはひとえに弁護士が会計に関する知識や会計基準の動向に疎いことによるものであろうと思います。(現実に、日本コッパーズ事件においては、原告側代理人が会計実務に精通していたら、争点が変更され勝訴できたのではないか、との意見が根強く主張されています)いままでのように、会計監査人が企業との委託契約のみによって監査業務を委託されている関係でしたら、なかなか監査の品質を争点とする紛争解決の機会も存在しなかったと思いますが、いよいよ新会社法が施行されますと、会計監査人も会社の機関となります。もし、会計監査人の職務に不正のおそれがある場合には、株主から職務中止命令の申立がなされ、実際に損害が発生した場合には代表訴訟を提起される可能性もあります。取締役と会計監査人との間において監査意見に食い違いが発生した場合には、会計監査人は株主や監査役に対して「説明責任」が発生します。こういった紛争に関する事後的な適法性審査を有効に活用することで、会計監査人の客観的な品質が社会で評価の対象となり、クライアント獲得競争が「企業との癒着」とは無関係な「自由競争」のもとで行われるようになると思うのですが、いかがでしょうか。(もちろん、こういった会計監査品質の事後判断というのは、企業会計に精通した法律家の存在を前提とするわけですが)理想論を超えた「空想論」に近いものかもしれませんが、「投資サービス法」の誕生を迎える日本の未来に向けて、その一翼を担う公認会計士さん方も「公正なルール」にのっとった実力の世界でクライアントをつかむ土台作りこそ、もっとも現実的な不正監査回避の方法ではないでしょうか。

会計監査人の倫理意識の向上、金融庁による行為規範による規制問題というのが、おそらく今後の「不正監査」防止のための打開策としてはオーソドックスなものになろうかと思いますが、それらはこれまでの企業と会計監査人との関係をそのまま維持することを前提としています。今回の事件が、いったいどのような動機のもとで行われたのか、明らかにはなっておりませんが、企業と会計監査人との向き合う姿勢が変わらない以上は、やはり今後も些細な動機によって、同じことが繰り返されるのではないかと危惧しています。

9月 16, 2005 不正監査防止のための抜本的解決策 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2005年9月15日 (木)

粉飾決算に加担する動機とは?

昨日は、「中央青山監査法人に試練の時」のエントリー、たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。いろいろなご批判のコメント、TB、ダイレクトメールを頂戴し、はじめて一日4ケタのアクセス数となりました。このようなマニアックな「場末」のブログを「お気に入り」に入れていただき、厚くお礼申し上げます。(風俗チックなTB、こまめに消さないといけないようになりましたが)

会計士さんの「証券取引法違反(虚偽記入)」の「故意」について、昨日すこしばかり考えておりましたが、何人かの方がご指摘のとおり、たしかに、積極的に「指南」したことまでの積極的な加担の意思は「故意」認定のためには、かならずしも必要ではありません。極端な話、「連結はずし」がカネボウの副社長さんが考え出したものであったとしても、その実情を知ったうえで、やむなく会計士さんが「適正意見」を書いたとしましても、粉飾決算を「容易にする」認識があるかぎりは犯罪成立要件に欠けるところはないと思います。したがいまして、会計士さんの犯罪に向けた「故意」というものを、粉飾回避に関する不作為といった客観的事実から導くことも(犯罪成立要件の充足ということからみると)可能なんでしょうね。

ただ、そうなると会計士さん方が、「企業の粉飾」をとめられなかった(つまり不作為の)動機って何だったんでしょう?法曹でない方にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、刑事事件の場合、動機というのは犯罪の成否とは無関係ですが、検察官が立件するにあたっては非常に重要な意味を持つわけです。動機が解明できないままでの立件は、「供述調書の不自然さ」という点を刑事弁護人につかれて、とりわけ否認事件では無罪の確率が高まりますし、またたとえ有罪に持ち込める事件でありましても、検察官による求刑の基本となる「量刑判断」が難しくなるからです。したがって、最近たいへん増えております外国人の刑事事件などでも、(犯罪は認めているんだけど)動機がわからないために、「こんな文化がちがう国の人が、そんな動機で犯罪するかよ」と笑い話になりそうな「無理やりに動機を作っちゃった」ような調書にも遭遇する場合があります。そういった意味で今回のケース、代表社員の方々がどういった動機で「粉飾を容認したのか」そのあたりが捜査機関にとりまして、ひじょうに神経を使うところではないでしょうか。その点、もし「連結はずし」も含めて、会計士主導型で粉飾を計画していった、ということであれば、動機の部分が多少不明瞭であったとしましても、弁護人に突っ込まれる余地が少なくなりますし、「積極的に粉飾決算に加担したことへの社会的非難、専門家としての重い責任」という名目も立ちますので、検察官の量刑判断も下しやすくなります。

そんなわけでして、昨日のエントリーのとおり、この元代表社員の方々の刑事事件につきましては、「動機解明の困難さ」を多少なりともパスするために、(否認事件の「故意」を立証するにあたって)「粉飾加担の認識として絶対に逃げられない部分」が必要と推測した次第であります。(米国公認会計士のKOHさんよりご指摘を受けましたとおり、「未実現利益による繰り延べ税金資産」というのはマニアックすぎましたが・・・)

あと、すこし視点は違いますが、逮捕された「4名」の皆さんがすべて粉飾加担の事実を否認されておられるのでしょうかね?そのあたり、あまり報道されていませんね。それぞれの弁護人が各々の情報交換するのを捜査機関が嫌っているのでしょうか?こういったケースでは、弁護士として「真実義務」「弁護士の倫理規定」に違反しないスレスレのところまでは情報交換するのが鉄則です。まちがっても捜査機関による「誤導」や「誘導」(おい、もう○○ははいちゃったよ、おまえも楽になれよ、というやつです)だけからは被疑者、被告人を守る必要があります。検察官による接見禁止がかかっていたら、準抗告(いわゆる検察官とのケンカですが)してでも面会可能にしてあげるのが基本ですし。逮捕された4名の方に、職務上の上下関係が存在していたのであれば、もっとも下の立場の人に「不起訴、釈放」をちらつかせて、真実を供述させる、という方法もとられるかもしれません。

公認会計士さんの数々のブログで、今回のテーマが取り上げられておりますが、「カネボウ担当で運が悪かった」的なイメージのエントリーも散見されます。私は専門外なので、そのあたりの実態はわかりませんが、もし「ほかでも同じことはよくあるよ」ということでしたら、余計に動機の解明ってムズカシイのではないでしょうか。旧経営陣の粉飾への動機が比較的容易に納得できるところに落ち着くのに対して、会計士の方々の動機というのが、どういったところに落ち着くのか、今後の報道に注目していきたいところです。(なお、一部の新聞では、旧経営陣が代表社員に対して「いまあなたがたの意見を聞いて修正に応じたら、過去の決算は間違いだった、ということになる。それであなた方は問題になりませんか」と脅されたということらしいです。さて、旧経営陣にこう言われて、監査実務を担当してきた方は本当にビビってしまって、旧経営陣の言いなりになりますか?これが動機でしたら、刑事弁護人にとってツッコミドコロ満載ですよ♪)

9月 15, 2005 粉飾決算に加担する動機とは? | | コメント (14) | トラックバック (2)

2005年9月14日 (水)

中央青山監査法人に試練の時

(中央青山のシニアマネージャーの方を存じ上げておりますので、まずは「ほどんどの方がまじめに監査、コンサルに取り組んでおられること」を十分承知していることだけ、ご理解いただき、お読みいただくようお願いいたします・・・・)

「弁護士の逮捕」という記事はときどき新聞でお目にかかりますが、「会計士の逮捕」というものはあまり見かけませんでした。たとえば「弁護士、痴漢で逮捕」という見出しはありますが、「会計士、痴漢で逮捕」という見出しもあまり記憶にありません。会計士さんでも、そういった破廉恥罪で検挙されるケースもあろうかと思いますが、おそらく読者を惹きつけるほどのインパクトが「会計士」と「痴漢」の間に生まれないのかもしれません。

カネボウ粉飾決算に関与したとされ、中央青山の元社員(中央青山のHPでは「元」となっています)が4名逮捕された、との報道は、やはり「監査」という言葉の響きが「正義、誠実」をイメージさせるものであるだけに、「会計士逮捕」という衝撃をより強いものにしています。

新聞報道では「連結はずし」を指南した、とありますが、本当に検察庁は「連結はずし」の点で逮捕に踏み切ったのでしょうか?連結はずしでの粉飾というのは、たとえば先に逮捕されている銀行出身の役員さんやベテランの経理マンでも思いつくわけでして、「指南」というのもちょっと否認されてしまうと故意を認定できないということでマズイ気がしますし、粉飾に気づきながら後で「適正意見」を出した点で犯罪の故意を認定すると、会計士の「動機の解明」(修正を指導したにもかかわらず、なぜ説得されて適正意見を書いたのか、翻意をしたことで、会計士にどのようなメリットがあったのか)でツマヅく可能性がありますよね。

ということで、検察庁が「否認している公認会計士」を逮捕にまで追い詰めるためには、もうすこし「公認会計士ならではの専門技術」をもって指導的立場を果たしたことが立証でき、かつ故意の認定において「逃げられない」部分を押さえているものと推測いたします。もちろん逮捕のための手段ですから、「逃げられないことが確実であれば」別に大きな争点ではなくてもいいわけです。(「連結はずし」に加担したかどうか、ということは後でじっくり捜査すればいいわけでして)たとえば粉飾の根拠としては「未実現利益による繰り延べ税金資産」の計算あたりを根拠としているのではないか、と思いますがどうでしょうか。親子会社間での親会社保有商品の売買なんですが、連結ベースでは利益はまだ発生していないのですが、親会社に売上がある以上は単体ベースでは親会社は税金を支払う必要があり、(でも将来的には子会社が在庫商品を売却することが予定されていますので未実現の利益があるということで)そこに「繰り延べ税金資産」が計上できるわけです。この繰り延べ税金資産であれば、銀行などで一時問題になっていました「将来の利益発生可能性」や「将来の保有している有価証券の値上がり予想」などの曖昧な評価の問題もなく資産を計上できます。税効果会計導入後、カネボウはこの「未実現利益による繰り延べ税金資産」を利用して債務を圧縮していたようで、2000年3月から2003年3月までの間に、144億円ほどまで繰り延べ資産を膨らませ、在庫商品も2倍にまで膨れ上がっています。2003年ころから、ホームページで「これはおかしいぞ!」と訴えておられた会計士さんもいらっしゃいます。

「連結はずし」という手法はあまりにも素人っぽいもので、なにか会計士さんの指導とは結びつきにくいようにも思えますが、税効果会計導入後の繰り延べ税金資産の利用ということであれば、その技術面においても、強引さがすこし和らいでいる点においても、会計士さん主導の粉飾と「評価」されやすいのではないでしょうか。また「連結はずしを誰が考えたか」という点について、先に逮捕された経営陣の証言に頼るのでは、会計士さん方が否認されてしまうと、(言った、言わないの世界になってしまって)その故意認定が若干弱くなってしまいますが、2000年3月以降の会計手法や在庫商品の数量変化、そして経営再建中にもかかわらず、高い税金を支払ってまでして子会社に商品を押し込んでいる不自然さなどから、客観的な事実の積み重ねによって会計士さん方の「故意」を認定できる、ということも想定されます。

こういったケースで、会計士さん方の刑事弁護人は、どういったポイントから否認事件の弁護を組み立てるのだろうか・・・と、つい職業的な発想で考えてしまいました。

実は、足利銀行が、中央青山に対して違法配当に加担していた、として民事訴訟を起こすことを決めたというニュースのほうが、中央青山にとっては本当の意味での「試練」だと思うのですが、これはまた改めてエントリーしたいと思います。

9月 14, 2005 中央青山監査法人に試練の時 | | コメント (5) | トラックバック (3)

2005年9月13日 (火)

新会社法における取締役の責任

ひとつ前の商事法務(1740号)に、日本私法学会シンポジウムの資料が掲載されておりますが、新会社法423条1項(商法266条1項に対応)のもとでの「取締役の責任判断基準」について、京大の潮見教授の斬新な解釈理論が報告されております。とりわけ「取締役の会社に対する善管注意義務違反行為による損害賠償責任」の捉え方を、会社法の条文マターで解釈する伝統的な考え方ではなく、過失の客観化が進んできた民法理論を用いて再構築する考え方は、ぜひ判例理論としても新会社法のもとで展開されてほしいと思います。たしかに、最高裁の考え方は企業の法令違反行為=取締役の任務懈怠(取締役の無過失抗弁)という伝統的な解釈によるものですが、この判断基準ですと原告代理人としては、企業の法令違反を基礎付ける事実だけを立証すれば、取締役の「任務懈怠」が強く推定されてしまって、司法の場において、具体的な場面における取締役の行為規範を形成する機会が薄れてしまいますね。せっかく取締役にも社外取締役や常勤など経営参画のパターンが分かれ、取締役の内部統制システムの構築義務なども含め、ガバナンスの問題が社会で評価されつつあるところですから、「お上による規制」ではなく、原告と被告との一生懸命しのぎを削る法廷において、どういった立場のどういった取締役の行為が「任務懈怠」となるのか主張立証を尽くさせて、さまざまな場面での責任判断について司法のもとで「判例」によって形成されることが、今後の規制緩和の進む「小さな政府」のもとでの行為規範の作られ方として適切だと思います。そういった「これからの」司法判断の基準として、潮見教授が示唆されている「任務懈怠があったか、なかったか」「任務懈怠行為=過失評価」「企業の法令違反の事実があったとしても、取締役は、法令違反の認識の有無だけでなく、その他自らの行動評価も含めて、任務懈怠がなかったことの主張が許される」という取締役の責任理論が、新会社法のもとで一気に判例理論として適用されていくことを期待したいと思います。

なお、この潮見教授の解釈理論について詳細を紹介することはできませんので、もし興味のある方は商事法務1740号をお読みください。しかし、こういったものを具体的な訴訟の場において、裁判官に理解してもらうだけの文章力って、ムズカシイかもしれません。なんせ、私のイメージでは斬新な解釈理論を裁判所で採用してもらうためには、「一回読んで、すっとわかる」ものでないと受け入れられないと確信しているからです。「2回読んで理解できる」ものではダメです。1回読んで裁判官がスッと頭に入る・・・、そういった準備書面を書ける能力、これがどうしても必要です。(もちろん、私にはありませんが。。。)

商法266条1項の「法令違反」という言葉が、会社法423条1項では「任務懈怠」という言葉に変わりましたし、実際私がよく担当している医療過誤訴訟の裁判におきましても、医師の過失を基礎付ける理論として、過失の客観化理論はかなり適用されておりますので、今後の新会社法における実務での適用可能性は、かなり確率が高いと思うのですが。

(追記 9月13日)

現役の裁判官の方より、ご丁寧にメールをいただきました。

「1回読んで理解できる裁判官もいれば、2回読まないと理解できない者もいるので、それは読み手側の能力にもよるのではないでしょうか?」

なるほど・・・ごもっともでございます。ただ、私は「1回読んで理解していただく程度のわかりやすさ」でないと、たいへんな激務でお忙しい裁判官の方がたには、取り上げていただけない、といった部分をニュアンス的に表現したかったのです。やっぱり、私の文章能力が乏しかったかもしれません。(笑)

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2005年9月12日 (月)

公認コンプライアンス・オフィサー

諸事情がありまして、11日公認コンプライアンス・オフィサーの二次試験を東京まで受験にまいりました。今年3月に第一期生の方が誕生されたばかりの、まだ歴史の浅い資格試験ですが、おそらく企業法務担当者の方々や、これから企業管理部門へ就職を希望されている方が中心になって受験されていらっしゃるのではないか、と推察いたします。一次試験は4時間半で3科目マークシート150問、二次試験は総合問題の論文形式ということでして、私のような40を越えたオッサンにはかなりハードな試験であります。

ビジネス実務法務のように問題が公開されませんので、あまり詳しくは論文問題の内容を述べることは差し控えますが、今回の二次試験は①企業コンプライアンスの整備、内部統制システム構築に向けて、取締役、企業行動規範、そしてオフィサーがどのように関わっていくべきか、を問う理論問題と、②ある企業に実際に従業員による財務的な不正問題が発生した具体的な事例を想定して、その問題発生に至った経緯と、その企業の現実の倫理綱領やコンプライアンスルール、販売規約などを資料として利用して、オフィサーとしての問題点の洗い出し、およびその問題点克服へ向けた具体策の提案、という非常に実務的な事例問題でした。

良問か悪問か、など私が感想を述べるだけの実力はありませんので、けっして試験自体を評価するつもりは毛頭ございませんが、私が二次試験を受けた印象として申し上げますと、まずこの試験では2問とも「模範回答」的なものは要求されていない、ということです。企業統治やコンプライアンス、そして内部統制という言葉自体が一義的に統一されていない以上、その言葉の使用方法によってはいろんな議論が可能なわけです。この資格は(たいへん失礼な物言いではありますが)「持っているだけでは」いまのところはなんの価値もないわけですから、現場で実際に「持っている人が」使える資格でないと意味がないのです。結局のところ、コンプライアンス・オフィサーという仕事はなんでも不正防止を解決できるスーパーマンとしてのパフォーマンスを要求されるものではなく、(むしろ、そのような役割を期待されることはたいへん危険です)企業のコンプライアンス経営を支える最終責任者に対して、どういった指導ができるのか、そのために企業のなかでどのようなポジションに立つべきかという「身の処し方」と、「小さなことからコツコツと」実際の場面における問題処理ができる能力(素養)の有無こそ、もっとも試験委員の方々が知りたいところだと思われました。したがいまして、回答内容はマチマチであっても構わないわけで、むしろその回答に至った判断過程から、そういったオフィサーとしての立ち居振る舞いをわきまえているか、不正防止へ対処するための現実問題を自分の頭で解決できるか、というあたりが合否の分かれ目になってくるのではないか、との印象を持ちました。

大阪会場で一次試験を受けて、東京で二次試験を受験された方が10名ほどいらっしゃったようですが、みなさんどんな目的でわざわざ東京まで来られていたのか、そっちのほうもたいへん興味があるところでした。

9月 12, 2005 公認コンプライアンス・オフィサー | | コメント (7) | トラックバック (0)

2005年9月10日 (土)

日本版SOX法の衝撃

tak77san氏のブログを拝読しておりましたところ、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー10月号が9月10日に発売されるとのことで、その内容はといいますと「内部統制の時代(日本版SOX法の衝撃)」と題する特集モノだそうです。

詳しい内容を目次で確認いたしますと、「顧問弁護士も疑え!」などとシゲキテキな見出しも踊っており、かなり興味をそそられます。このテの特集記事は、通常ですとアメリカの企業改革法やCOSO報告書の一般的紹介、最近の関連行政庁の審議会情報、そして企業不祥事への対策に関する抽象的な方法論で終始するパターンがほとんどですので、なにか具体策の提案とか、実際の企業における内部統制システム構築への取り組みなどの実践記事で「てんこ盛り状態」でありませんと、もはや新鮮味がありません。そういった「ココロオドル」ような記事がたくさん詰まった「福袋」であることを期待しております。11日の公認コンプライアンス・オフィサーの2次試験のため、週末の夜に東京へ移動しますので、新幹線のなかででも、じっくり読んでみたいと思います。また、感想など、来週にでもアップできるといいのですが。(また、どなたかお読みになった方の感想なども、お聞かせいただけると幸いです)

9月 10, 2005 日本版SOX法の衝撃(内部統制の時代) | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月 9日 (金)

営業秘密管理指針(経済産業省)

まだ資料そのものは読んでおりませんが、退職従業員の営業秘密漏洩に対する刑事処罰の前提となる「営業秘密の管理指針」が経済産業省より公表されたようです。以下は、日経ネット記事の引用です。

企業に営業秘密の特定求める・経産省が管理指針

 経済産業省は8日、企業が従業員と結ぶ営業秘密の守秘契約に必要な内容などを示した「営業秘密管理指針」を発表した。秘密とする事項は製法を詳しく記載したり情報の保存場所を示したりすることで、できるだけ特定すべきだと指摘。従業員が守秘義務を負う範囲を明確にするよう求めた。

 11月に施行される改正不正競争防止法で、従業員は在職中だけでなく退職後も営業秘密を他社に漏らすと刑事罰の対象になる。裁判では漏らした情報が営業秘密にあたるかどうかが守秘契約の有無で判断される可能性が高いため、適切な契約を作成するための指針を作った。

 営業秘密の特定は守秘契約に「液晶に必要な素材を作るときの温度管理データ」のように、製法などを詳しく記載することが有効とする。「研究室のファイルにとじてある情報」として、情報の保管場所を具体的に示すことも適切な手法だとした。 (20:00)

 企業が退職従業員に対して、民事上の賠償責任を請求する場合と異なり、刑事上の責任追及(具体的には告訴手続)を可能とするためには、営業秘密漏洩に関する「故意」の認定が必要になります。したがいまして告訴手続に基づいて、警察が重い腰を上げて捜査に乗り出してもらえる程度に「厳格な立証資料」を企業側で用意しておかなければなりません。記事にありますとおり、まず企業と従業員間における「営業秘密管理契約」の存在は、刑事責任追及のための大前提になると思われますが、そのうえで情報を漏らしたものが「営業秘密」に該当することを従業員が知っていたことを基礎付ける事実として、どういったものが有効であるか、おそらくそのあたりがガイドライン化されたのでしょうね。

しかし、こういった営業秘密を詳細に記載した「営業秘密管理契約」を書面として締結するのであれば、営業秘密自体を外部に開示するに等しいものでしょうし、これを防止するために契約書自体を企業だけが預かっておく(いわゆる差し入れ方式)ようにすると、従業員の故意認定には有効性に疑問が生じますので、企業にとっては「営業秘密の漏洩可能性が高まること」と「秘密管理の有効性を高めること」のどっちのリスク回避を優先すべきか、経営判断を求められることになると思います。まだ公表資料を読んでおりませんので、勘違いがありましたら、またご指摘ください。

話は変わりますが、橋梁談合事件の内田元副総裁、裁判所が保釈決定をしたところ、これを不服とした検察庁が準抗告を行いましたね。こういったケースは、おそらくたいへん刑事弁護に有能な弁護士さんが元副総裁側につかれているものと推測いたします。どなたかは存じませんが。

9月 9, 2005 営業秘密管理指針(経済産業省) | | コメント (0) | トラックバック (0)

公益通報者保護法と労働紛争

9月8日の日経朝刊1面に、2007年の法案提出に向けて「労働契約法」制定の準備が始まる、との記事が掲載されております。最近の企業再編などの影響で、2001年に47000件(年間)ほどだった労働紛争相談件数も、2004年には16万件に上り、労使紛争も急激に増加しています。顧問企業からの法律相談も、私の事務所の場合、人事部からの労務相談が圧倒的に多いのが現実です。

労働紛争の解決にあたって、今後大きな影響を与えそうな新しい法律がふたつほど、来年4月1日から施行される予定になっています。ひとつは公益通報者保護法で、もうひとつは労働審判法です。(また2、3年先には「労働契約法」が施行されるのでしょうね)およそ3回の審判期日によって、労使紛争を解決するシステム(裁判官身分の審判官も参加)ですから、紛争処理スピードがたいへん速くなりますので(ただし、どちらかの異議申立によって通常訴訟へ移行する可能性あり)、いままでの労働紛争処理機関もそのまま存続はしますが、かなりの労使紛争に(労働審判制度が)適用される可能性が高いと思われます。紛争の対象となっている労働者側の利益自体が小さいために、なかなか弁護士の協力が得られないような場合であっても、裁判官身分の審判官や、連合推薦の審判官などが判断に関与しますので、自分ひとりで申立ててもその権利保障の機会が確保される点が大きいですね。いっぽうで企業側としては、これまで労働者側が「泣き寝入り」していたような事案でも、簡単迅速に司法判断を得られるシステムができることから、その防御対策は十分検討しておく必要に迫られそうです。

とりわけ、来年4月1日に施行される「公益通報者保護法」による労働者の通報への対応問題を今後どのように検討するか、企業側としては非常に悩ましいところです。すでにご承知のとおり、企業の労働基準法違反行為、労働組合法違反行為については、この新法における通報の対象行為として指定されております。ですから、労使紛争の前提となっている違法事実や違法と解釈されるおそれのある労務対策について、審判や裁判の前に、この労働者もしくは委託を受けた別の労働者から「事業者に対する通報」がなされ、「是正」に関する企業としての対応を証拠化されることが予想されます。証拠化されるものは、通報に対する企業(もしくは外部窓口機関)の回答の場合もありますし、また通報を受けた後の企業の内部処理文書を文書提出命令の申立などによって提示要求されるケースも考えられます。こういった公益通報者保護法を利用した証拠が労働審判手続、もしくは労働裁判で提出された場合、その個別の事件処理のみに利用されるだけならばまだしも、その企業の労務コンプライアンスの姿勢まで公開され、社会的に非難されるような事態に発展することは、企業にとってはなんとしてでも避けたいところであります。

この公益通報者保護法は、労働問題に限られるものではなく、ひろく企業のコンプライアンス経営の向上に資するものとして、また違法行為を告発した通報者自身の労働法上の権利保護が図られるものとして制定されておりますが、とりわけ労働問題にしぼってその運用を検討してみますと、先に述べたような利用方法が想定されます。したがいまして、あと半年後に迫った労働審判法や公益通報者保護法をにらんで、労務コンプライアンスの整備と、内部通報制度(おそらく、どこの企業でもこういった名称ですでに策定はされていると思いますが)の運用面での整備(事業者への通報がなされた場合の文書の残し方や、回答方法、窓口機関の指定、判断機関や判断プロセスの整備など、開示要求がなされても運用に不正が疑われないようなシステムの整備)をもう一度点検されてはいかがでしょうか。

ちなみに、「労働者契約法」については、いまのところ刑罰による罰則規定を置くことが想定されておりませんので、公益通報者保護法による「法律違反行為の通報」の対象にはならないかもしれません。

9月 9, 2005 公益通報者保護法と労働紛争 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2005年9月 8日 (木)

情報システムの内部統制実務

従業員数が数百人規模のある小さな公開企業について、何名かの専門家の方がたと「統制システム」構築のお手伝いをしております。こういった現場を見ておりますと、やはり内部統制システム構築には「トップのコミットメント」が最も大切だと再認識します。これまで経理、人事・給与計算、在庫管理、納品、検収、品質管理など、それぞれの部署によって、またセグメントごとに、別々の情報システムが別々のSEさんの管理のもとで稼動しております。トップダウン方式で、数値の正確性を確認しようとしても、途中でいくつかの部門間における「手作業」を経由することになりますから、それだけ誤謬の発生する可能性が高くなるわけです。経理部門など、担当者以外チェック方法がわからないほどブラックボックス化しています。それで、このたびシステムの統一化を図ろう、ということになったのですが、いざ計画を立てようとするとたいへんな作業です。そこで、まず計画会議で意思統一をはかったことは以下のとおり。

内部統制システム構築の目的のうち、財務報告の信頼性とリスク管理という目的達成を重視すること。

統一的なシステム構築は(予算の関係で)あきらめ、とりあえず財務部門とその他業務管理部門に分けて構築すること。

将来における事業再編(子会社の合併、吸収など)および会計監査人の交代がありうることを念頭に置き、特定企業へ設計構築の一括発注は(変更可能性、予算などからみて)リスクが高いために回避し、なるべく互換性のある市販の製品を利用できるシステムを応用し、自社の慣行にあわせたシステムではなく、システムに自社の業務慣行をあわせるように努力すること

経理部門の仕事を奪うものではなく、これまでの経理担当者の労力を、より高度な財務戦略部門に振り替えてもらうように説得し、ブラックボックス化したシステムのマニュアル化に協力してもらうこと。

システム改善の目的は、代表者が有価証券報告書等で内部統制構築状況の健全性を、合理的に保証する旨誓約できる程度のものであるから、会計専門家以外、つまり監査役や内部監査人、および代表者本人が第三者に対して文書による説明が可能な程度にモニタリングができるものであること、また会計監査人がトップダウン方式による監査により、「不備」もしくは「重大な欠陥」などの評価が可能となるよう、運用結果が数値化、証拠化、客観化できるシステムとすること。

モニタリング担当者の変更を念頭に置き、そのマニュアル化に努めること、またモニタリング自体の品質管理が可能となるよう、システムを工夫すること。

担当役員より代表者に対して、これら一連の作業の費用については、単なる経費ではなく、システム構築状況、モニタリング状況を開示することで企業価値を高め、将来にわたる投資活動であることを理解してもらうこと

などでした。

大手の公開企業さんは、おそらく業務の効率性有効性などを重視して、たいへん立派なIT情報システムを導入されるものと思いますが、やはり小規模となると、どうしても予算や人間の関係で、そこまでダイレクトに進むことはムズカシイようです。(日本版SOX法の施行を前提に、大手IT企業から次々と統制システム構築のためのビジネスソリューションが発表されていますが、これだけ企業の再編やM&Aが日常化しているなかで、その互換性というものは保証されているのでしょうか。どんなんでしょうかね?)このような構築であっても、社内で完全に履行されるまでは茨の道が続くことが予想され、ともかく代表者が陣頭指揮をとっていただかないと、こちらが理想としている統制システムの導入が困難になってしまうような気がします。

9月 8, 2005 情報システムの内部統制構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月 7日 (水)

敵対的買収策への素朴な疑問

来年の定時総会へ向けて、監査役として「買収防衛策」をあれこれと考えておりますが、ふと「恥ずかしくて、いまさら人に聞けないような素朴な疑問」が湧いてきました。

今年5月に出された経済産業省、法務省コラボの「買収防衛指針」を読み返しているのですが、いざ自分が公開買付対象会社の個人株主だとした場合、敵対的買収防衛策は「最終的にはどっちの提案が株主共同利益を向上させるか、どちらが企業価値の向上に資するのか、その判断を株主に委ねる趣旨で導入されるべき(現経営者の保身目的であってはならない)」とありますが、よく考えてみると、個人株主が本当に買収希望会社の事業計画を「いいなあ」と思ったら売りたくなくなっちゃうんではないか。ある勉強会の会合で、長年社外取締役を経験されてきた方からのご指摘が発端となり、私もそんな素朴な疑問が頭から離れなくなりました。

私だったら、(買収希望者が)そんなにいい経営をしてくれるんだったら、買付に応じないで長期保有しちゃうんじゃないでしょうか。もちろん防衛策が発動された後に、委任状獲得競争に至った場合には、防衛策解除のために(買収希望会社のほうへ)委任状を交付するとは思いますが、それでもその企業が経営権を取得した後も、ずっと保有したいと考えるのではないでしょうか。つまり、敵対的買収策は、究極的には株主利益をどちらがより向上させるかを株主の判断に委ねる、というのが「目的としては正論」かもしれませんが、買収希望者がTOBの成功を目的としているのであれば、そこに売ってしまう株主にとっては「将来における企業価値などどうでもいい。ともかく時価より高い値段で買ってくれれば、後はその会社がつぶれようが、上場廃止になろうがどうでもいい」という感覚でTOBに応じるのが本音の部分だと思います。そういたしますと、(防衛策の是非を判断する基準として)上記の株主利益の将来的な向上、という目的もあまり説得力がないのでは・・・と考えられそうです。私は公開買付のルールとして、現金一括、買付数量に限定なし、という場合を想定しているものですが、たとえば買収の対価としてその買収希望会社の株式を付与する、というのであれば、(買収対象企業の株は失っても、その親会社の株を取得するわけですから)

またすこし利益状況も異なるかもしれませんが、おそらくMBOの場合だって、経営陣がそんなにいい経営を目指すというのだったら、買付に応じることなく保有したほうがいいのではないか・・・と個人株主としては素直に考えてしまいそうです。(まあMBOの場合には上場廃止という結末があるために、やむをえないと思いますが)

さきごろ、夢真ホールディングスの社長さんが「TOBの失敗」を理由に辞任されたそうですが、たしかにTOBでは買付が奏功しませんでしたが、ひょっとすると日本技術開発の個人株主さん方は、「そんなに夢真がいい経営をしてくれるんだったら、俺は売らない。(過半数を取得した)夢真といっしょに俺も日本技術開発の将来を見届けたい」と願っている人がいたかもしれません。(いえ、あくまでも「可能性」の話ですが)大口の機関投資家の意向というのは、公開買付を行う会社にとっては当然判明していることでしょうが、個人株主の意向というのはわからないと思いますし、なぜ「TOBの失敗」ということで辞任しなければならないのか、理屈としてはちょっと私には理解できないのです。昨日、夢真ホールディングスより、日本技術開発の定時総会について、現取締役から検査役選任を裁判所に申し立てるよう要望するとの意見がリリースされましたが、この内容からすると夢真の経営権取得のための方策は今後も継続するようですし、もし夢真が経営権を取得する事態となった場合には、「やっぱりTOBをかけておいてよかった」と評価される可能性も残っているように推測できないでしょうか。

こういった議論というのが、巷(ちまた)でなされていないということは、私の理解に根本的な誤りがあるのかもしれません。公開買付の経済的な意味合いがまったく理解できていないのかもしれません。しかしながら、この世の中、私と同じ疑問にぶつかった人も何人かいてもよさそうな気がします。防衛指針の13ページには明確に「買収者が公開買付等に移行する機会を確保することは、株主が自己の判断で買収提案に応じる形で株主の意思を反映する有効な手段である」と記述されております。しかし、これから株を売っちゃおう、と思っている人が値段以外にその企業の将来とか真剣に考えるでしょうか?グリーンメーラーであろうが、焦土化であろうが、短期売買目的で値段がそこそこよかったらホイホイ売っちゃうのが道理のような気がします。

なんか勝手な考えを自由に書いてしまいましたが、敵対的買収防衛策に関するいろんな考え方が、いろんな方に批判されて、自然淘汰されていけばいい、と落合誠一東大(大学院)教授もおっしゃっています。

その落合教授ですが、「企業会計10月号」の「論壇」で、「敵対的買収における若干の基本的問題」と題する論稿を発表されています。これ、社外取締役や社外監査役と敵対的買収防衛策というテーマで、司法判断を考えるにあたって、たいへん貴重な論稿です。大胆な自説の展開に終始されており、メチャメチャおもしろいです。不遜にも反論させていただきたいところがたくさんごさいますが、落合教授ご自身で「どうぞ、批判しちゃってください」と申されているとおり、今後の敵対的買収防衛策の議論進化のためにはたいへん有益な意見が詰まっております。防衛策に関する論文はたくさんありますが、司法判断との関連で興味をおもちの方には、この落合教授の論稿、お奨めします。

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2005年9月 6日 (火)

経済産業省の企業行動指針(1)

8月31日付けで経済産業省より、「コーポレートガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組みについて」と題する指針が公表されました。全部で96ページに及ぶ内容ですが(前半の20ページほどはパブコメとその回答集となっていますが)政府が細かいところまで関与することなく、企業が自主的に不祥事を発生させないための行動指針を明確にしているところに意義があるようです。また、たんに不祥事を発生させない仕組みやプロセスを紹介しているものではなく、このような指針に従う企業が、企業活動の競争力や効率性を高めることにつながり、究極的には将来にわたって企業価値を高めるものとなる、と宣言しています。9月2日ころから読み始めましたが、裁判など本業のほうの仕事がちょっといそがしく、やっと5日ころになって、最後まで目を通すことができました。(ある程度は7月13日の指針案のときに読んでおりましたが)

この指針全体を読んでの感想ですが、不祥事発生を防止するために監査役の立場が非常に強調(期待?)されていると思います。コーポレートガバナンスの有効性を担保する立場としても、また内部統制システムが有効に機能しているかどうかを判断する立場としても、また内部監査室における監査状況を十分把握しなければならない立場、外部監査人との連携を唱える立場としても非常に重大な役割を演じなければなりません。

こういった重責を監査役が担うわけですから、この指針は監査役人材の流動化とともに、法律・会計に関する資格制度の導入を強く薦めています。また意外だったのが、企業の内部監査人は、専門性をもち社外から登用することを薦めている点です。法曹という立場からすれば、こういった「専門性」を強調していただくことは、職域拡大という面からみても、好ましいことかもしれませんが、企業にとっては「人材不足」であることは否めないでしょうね。また、監査役と同様、内部監査人も通常は自社社員が独立性に配慮しながら就任するものでしょうから、いきなり外部の専門家といいましても、選任にあたっての基準というものもわからないため、かなりな困難が伴うのではないでしょうか。いずれにせよ、監査役や内部監査人を内部者に求めるか、外部者に求めるかは第一義的には企業自身が決めることですから、その選任にあたっての取締役の判断が、善管注意義務違反に問われるようなことはなく、そのようなコーポレートガバナンス、内部統制システムを採り入れることによる「企業価値への」投資家の判断、ステークホルダーの判断に評価が委ねられることになると思います。

なお、監査役による監査方針について、この指針は「証券取引法においても、監査役が十分に業務監査を尽くしたことの説明義務を明示すべき」だとしていますが、商法と証券取引法との関係からして、もっと慎重に検討すべきだとか、実際の企業における監査役の立場からみて、そのような証券取引法上の権限を監査役に与えても、市場に対する信頼性確保に役立つかどうかは疑問など、批判もあるようです。このことは、(証券取引法上の取締役、監査役の義務違反が、直ちに商法上の役員の責任と結びつくわけではありませんが)司法判断における監査役の善管注意義務違反の認定にも影響を及ぼす議論ですので、今後も検討していく必要があります。

なお、この行動指針では、この指針によって描かれた監査役、内部監査人の行動などから、善管注意義務などの法的判断にも影響を与えるものであってほしい、との希望が述べられていますが、コーポレートガバナンスやリスク管理、そして内部統制という言葉についても、いままでのところ一義的に定義付けされていないのが現状ですので、はたしてこの行動指針に記載されている監査役等の義務が、法的にも「義務」とされるのかどうかはまた別の問題となりそうです。(このつづきはまた、近々アップいたします)

ちなみに、「金融庁企業会計審議会が発表している内部統制に関する指針との整合性をもたせてほしい」とのパブリックコメントに対しては、「十分整合性があるものと認識しております」と経済産業省は回答しています。このあたりは、以前にもエントリーさせていただきましたが、また最近考えたところもありますので、こちらの続編もエントリーする予定です。

9月 6, 2005 経済産業省の企業行動指針 | | コメント (1) | トラックバック (1)

2005年9月 4日 (日)

窃盗罪に罰金刑が適用

2007年あたりから、窃盗罪に「罰金刑」が新設されるそうです。

窃盗罪に罰金刑導入 法務省方針(朝日新聞)

このブログを読まれている方には、あまり関係ないかもしれませんが、弁護士の業務にとってはかなり影響のある改正です。公務員や公認会計士さんなど、「禁固刑以上の刑に処せられる」ことが失職につながる人の弁護を行うケースでは、起訴されるか、起訴猶予となるかで、大きな違いがありました。いまの刑事司法において、窃盗罪で起訴されてしまえば、間違いなく公務員の方は職を失います。(執行猶予でも失職です)したがって、公務員犯罪の起訴前弁護においては、被告人の家族から「嫌疑不十分」もしくは「起訴猶予」を勝ち取ることが私選弁護の至上命令でした。

しかしながら、罰金刑が新設されるということは、「起訴猶予」と「起訴」の間に「略式起訴」という「クッション」ができます。公務員や士業の失職要件は「禁固刑以上に処せられる」ことですから、たとえ起訴されたとしても、罰金刑によって救われることになります。窃盗被害の金額が多少高額であっても、その被害弁償などが可能であれば、おそらく初犯の場合にこの罰金刑が適用される場面が多くなると予想されます。保釈金も必要なくなりますので、家族にとっても助かります。窃盗罪の初犯ケースなどにおいては、今後「国選弁護」と「私選弁護」の差異、そして担当弁護士の刑事弁護能力の差というものが、被告人の職業人生に大きな影響を与えることが予想されます。

もちろん、罰金といいましても、支払えないと「労役場留置」ということで、身柄が拘束され労役することになりますが。(でもここ数年、労役場に留置するといっても、留置できるほど設備に余裕がないので、本当に身柄が拘束されるかどうかはわかりません)

ちなみに、最近よく「大阪の社民党候補の方は、有罪が確定しているのになんで国会議員の選挙に出られるの?」と聞かれますが、あれはちゃんと公職選挙法11条で、有罪が確定して執行猶予中の人は候補者たりうる、と明文規定がありますので、被選挙権はあります。

9月 4, 2005 刑事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月 3日 (土)

法律事務所と情報セキュリティ

著名ブロガーの磯崎先生や、けやき通り会計事務所さんのブログで、情報セキュリティのお話が出ておりましたので、興味深く拝読させていただきました。

法律事務所といいましても、200名の弁護士を擁する大型事務所から、個人零細事務所までありますので、一概には事務所の情報セキュリティとは・・・と申し上げられませんが、法曹はすでに何十年もの間、「紙ベース」による記録(裁判記録)の保管や携帯、廃棄について、細心の注意を払う慣習が身に染み付いておりますので、アナログからデジタルへ情報記憶媒体が移行しましても、(また、たとえ事務所の所長弁護士がたいそう老齢の方であっても)「クライアントや事件に関する情報管理」については細心の注意を払っているのが実情だと思います。司法研修所の時代、教官から「記録を守ることは法曹にとっての基本」と学び、実務研修の際、検察庁や裁判所で「記録を黙って持ち運ぶな」と怒鳴られ、裁判所が記録を廃棄する方法(書記官が溶解するところまでを見届ける)を認識するうちに、法律で守秘義務が課せられている職業の意味が自然と身につくに至るように思います。まあ、私の時代は合格者500名の時代でしたから、すでに合格者3000名時代を間近に控える現在も同じことがすべての法曹にあてはまるかどうかはちょっと自信がありませんが。ただ、個人情報保護および企業機密に関する最も行き届いた社員研修がなされているのが法曹界、とみて間違いないんじゃないでしょうか。継続研修というものはありませんが、その初期における研修という意味では、たいそう厳しく叩き込まれる職業意識ではありますね。

私も、レッツノートCF-W2とWILLCOMのエアエッヂpro の端末は常時携帯しておりますが、事件記録や当事者情報をパソコンのHDに入れるのはちょっと怖くて、できません。仕事の都合上、メールを開けたり、添付ファイルを開いたりする場合には一時的に保管することもありますが、どうしても記録を携行する必要があるときは、パソコンとは別に(顧問のSEさんに特別仕様で作ってもらった)データスティックをサイフに入れてもって行きます。まあ、これでもサイフごと紛失してしまえば、「情報紛失」になってしまうことは確かですが。

もう5年になりますが、私の事務所では月1回、顧問のSEさんに事務所内ネットワークの情報セキュリティのメンテナンスをしてもらっています。事務所のコンピューターへのアタックの回数やどっから、どのような目的でアタックされたのか、その解読もしていただけます。まったく攻撃されていない月もあれば、中国から一日に数百回の攻撃が認められる月もあります。むずかしいセキュリティシステムは、私にはよくわかりませんが、もっと基本的なところ、つまり「今回のMSの更新は重要なんで、すべてのハードに更新作業をしておいてください」とか「セキュリティ会社のほうへ、こちらから、こういった要望を出しておきました」という日々の連絡がたいへん貴重です。

ただ、顧問税理士さんに対するのと同様、事務所の「裸を見られている」のと同じ感覚ですので、ちょっと恥ずかしい点はありますね。顧問のSEさんには失礼な話ですが、もしSEさんがヨコシマな気持ちをもっていたとすれば、それこそ膨大な事務所の情報はパクラれてしまうわけでして・・・・・、やはりここでも、最後は人と人との信頼関係に依存せざるをえない、というのが真実ではないでしょうか。

9月 3, 2005 法律事務所と情報セキュリティ | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月 2日 (金)

無形資産と知的財産(その2)

一週間ほど前に「無形資産と知的財産」というテーマでエントリーして、いろいろなコメントをいただきました。そのときは、無形資産というものを果たして客観的に金銭的な価値評価をして「市場化」できるのか、かなり懐疑的な意見を書かせていただきました。

ところで、たまたま大阪の某大学農学部内に本社を構える「産学連携ベンチャー企業」の倒産手続きに関与することになり、関係者の話をお聞きしているなかで、すこしばかり追記したほうがよさそうに思われましたので無形資産と知的財産(その2)としてエントリーいたします。結論からいいますと、現実の社会では「無形資産の金銭的評価方法の策定」は待ったなしの状況にある、ということです。私のような机上の理論で、つまり理屈で考えている世界とは別に、こういったベンチャー企業がバタバタと倒れていく現実に関与してみると、「市場化できるかどうか、理屈では疑問があったとしても、清水の舞台から飛びおりるつもりで無形資産の評価方法を作らないともっとたいへんな状況になる」という空気が流れています。無形資産の価値基準としてどっかで理屈で割り切れない部分があったとしても「これが正確で客観的な相場価格です」という「世の中の擬制」を前提とする必要がある、ということでしょうね。

このベンチャー企業は大手の製薬会社が出資し、公共団体も金銭的支援を行い、その大学の教授以下、いわゆる「ナノバイオテクノロジー」を基に商品開発を行ったのですが、研究開発のためにすでに8億円を投入し、あと3億円投入すれば「臓器移植」などに画期的な効果をもたらす商品が完成するところだった(この評価はその大学教授の意見ですが)が、資金が続かず、また仕掛商品を買取る製薬会社も現れず、やむなく倒産してしまいました。日本ではすでにこの3年間で1000ほどの産学連携ベンチャー企業が誕生したわけですが、そのかわり次から次へと事業閉鎖に追い込まれているのが現状のようです。わずかな事例に関与しただけで大きなことは言えませんが、「産学連携」といっても、その失敗はやはり「人間」によるところが大きいようです。組織と組織がいっしょになってみても、やはり産業界と大学側との人間的な信頼関係が築かれない場合には、うまくいかないケースが多いと思います。とりわけ大学の先生は企業人ではありませんから、その商品開発のすばらしさをプレゼンする能力はどっかで補完してこなければなりません。結局、そのベンチャーの有するものは将来に大きな商品価値を有するかもしれない無形の技術であって、これをなんらかの形で金銭的な価値に置き換えられないと開発の時間と資金を考えた場合に、どっかでショートしてしまいます。このたびの事件を概観するなかで、ベンチャーにおいて追加資金を融資してもらったり、無形資産の切り売りで資金をつないだりする方法としては、もはやVCに対しても、産業界に対しても、その市場価格算定は不可欠です。21世紀の日本を支えると言われる「ナノテクノロジー」を国をあげて積極的に開発していくためには、民間資金の投入は不可欠であり、またそのためには無形資産の担保化、売買対象化が必須の課題のようです。

私の当初の考えでは、この「無形資産の資産評価推進」というのは、「オンバランス化による会計の国際基準化の推進」というものが大きな動機だと思っていましたが、こうやって現実社会との接点から考えると、日本の将来をしょってたつ生命技術、バイオ、IT、そして軍事、そのすべての将来を左右するナノテクビジネスの開発と深い関連性を持ち、市場化計画が喫緊の課題として多大な知恵と労力が投入されていることを、すこしばかり納得することができました。

9月 2, 2005 無形資産と知的財産 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年9月 1日 (木)

デジタルガレージの買収防衛策

定時株主総会を控えた株式会社デジタルガレージより、新しく導入予定の敵対的な株式公開買付に対抗する買収防衛プランが、8月29日付けでリリースされています。

新株予約権を活用した企業価値防衛策の導入に関するお知らせ

平時導入、総会承認条件、差別行使条件付新株予約権発行(事前警告)方式が採用されています。1年での消却条項も付いているうえ、ニッポン放送・ライブドア事件における高裁判断に沿った形での買収希望者に対する具体的な情報開示要件まで明記されており、監査役という立場からすると、非常に参考となるプランです。「買収防衛策」ではなく「企業価値防衛策」という題名も、なにか意味があるのでしょうか。

ただ、やはり何点が疑問点があります。事前警告型の場合にはいつも感じることですが、一方的に買収希望者(特別目的株主)に対して情報提供を要求するわけですから、買収希望者側からの情報提供にも応じなければフェアではありません。この防衛プランの最初にデジタルガレージさんが述べているとおり、最終的には株主が判断することを目的としているわけですから、双方から株主へ比較可能な情報が提供されなければ目的に反するわけです。したがいまして、一方的に開示を要求しながら、相手の情報開示には応じない、という態度ですと、そもそも現経営者による保身目的、という推定が働くことが考えられます。

つぎに、新株予約権の発行を決定する(最大の影響を与えるとされている)「特別委員会」の人的構成として、現取締役が1名含まれるというのは、その公正さにおいて問題があるのではないでしょうか。5名中1名というならばまだしも、3名中1名ということなら、決議は2名の賛成で成立するわけですから、その審議における中立性が担保されるとはちょっと思えません。また、そもそもこの新株予約権が発行されるのは、株主の皆様にどっちの経営陣が企業価値を高めることができるのか、判断するのに必要な情報と時間を確保することが目的だと最初の述べられていますが、そうであるならば、特別委員会の審議すべき事項として、買収希望者による公開買付がそういった判断が可能な情報や時間を実質的に奪うものであるか、という点だけで決議すれば足りるのであって、そこで企業価値の毀損目的があるかどうかを判断する必要はないのでは・・・という疑問が湧きます。もし、ここで企業価値を毀損するような買収希望者であるかどうか、を判断するのであれば、それはほかの買収防衛プランにあるとおり、「特別委員会」や「取締役会」における社外取締役の立場と同じであって、つまり株主の利益を守る立場で、株主に代わって企業価値について判断する、ということになります。このあたりが、リリースの最初に書かれている防衛策の目的とその手段とに齟齬があるのではないでしょうか。

もし、私の考えが間違っていると仮定した場合、「特別委員会のメンバー」は企業価値の毀損のおそれを判断するわけですから、それこそ、メンバーである「社外監査役」「取締役」はたいへんな役回りが必要となります。以前から、このブログで申し上げているとおり、通常の社外取締役、社外監査役であれば、善管注意義務が発生する範囲というのは、常勤の人よりもかなり限定的になると思われますし、現にそのような判例も出ているわけですが、いざ特別の決議をもって、企業価値を判断すべき立場に就任した場合には、これに伴って特別に高度な忠実義務が発生することになろうかと思われます。普段から株主意思の確認を怠らず、株主総体としての意思を把握し、無形資産の評価を含めた将来にわたる当該企業の価値把握に専念する必要があります。もちろん司法判断の対象は、こういった社外取締役や監査役の活動プロセスを重視するでしょうから、通常の社外取締役と同様の勤務状況であれば、おそらく特別委員会への参加差止の仮処分(取締役の違法行為差止請求権を被保全債権とする)などによって、新株予約権発行のための要件を満たさないような措置をとられる可能性がありそうです。(ほかにも、特別委員会の意見を最大限尊重して、取締役会で発行決議を行う、という要件が、果たして鹿子木判決を前提とした場合に方法の相当性があると認められるかどうか、疑問もあります)

新会社法の実施によって、今後新株予約権を活用した買収防衛策はつぎつぎとリリースされることが予想されますが、こういった個人的な疑問点についても、さらに議論が深まってつぎつぎと払拭されることを期待しています。

9月 1, 2005 デジタルガレージの買収防衛策 | | コメント (0) | トラックバック (0)