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2005年9月22日 (木)

「内部統制議論」への問題提起

「財務報告の信頼性」を目的とした、企業の内部統制システムについては、その「評価および監査の基準」(公開草案)が、すでに7月13日に発表されています。(金融庁企業会計審議会 内部統制部会)

今後、監査に携わる会計士の方や、内部統制システム構築の最終責任者である上場企業トップの方にとりましては、SOX法(アメリカ企業改革法)との関係からみましても、この監査対象となる「内部統制」の評価、監査基準というものに、もっとも関心が集まるところではないでしょうか。

ところで、この企業会計審議会から発表されている評価、監査基準ですが、すこしばかりわからない点があります。結局のところ、企業トップにとって構築すべき「内部統制システム」のレベルというのは、管理会計に資するものであればいいのか、それとも制度会計に資するものでなければならないのか、という点です。

いま「内部統制システム構築のためのビジネスソリューション」などの売り込みが盛んに行われています。情報システムを扱う業界、システム監査を扱う業界など、いわゆるIT関連の知識なくしては監査は困難な時代ですから、こういった財務情報を正確に計算書類に反映させるためのインフラがシステム構築に欠かせない存在であることは否めません。ただ、そういったインフラがこれまで企業の経理、財務部門に不可欠なものとされてきた歴史をみると、それは「企業のための財務戦略、会計戦略」、つまり管理会計部門において発展してきたものと言えます。このような歴史からみますと、内部統制システム構築の大きな目的である「業務の有効性、効率性」ということとは結びつくのですが、それでは果たして「財務報告の信頼性」という目的とはダイレクトに結びつくのでしょうか。これがダイレクトに結びつくためには、これまで発展してきた情報システムが、制度会計、つまり「投資家の判断にとっての有用性」と結びつかなければ、この企業会計審議会が念頭においている「評価、監査基準」となんら関係がなくなってしまうのではないでしょうか。

たしかに、企業会計審議会の草案をみましても、内部統制の不備について「監査」の対象となっていますから、一見すると、その仕組みについては「合理的な保証」が得られる程度の客観性が要求されるようにも読めます。しかしながら、会計監査人が保証する対象は、対象企業に構築された内部統制の仕組みそのものではなく(ダイレクト・レポートは採用されない見込みです)、「自社に構築されたシステムについての経営者による有効性評価」が対象となっています。ということですと、「経営者の経営者による、経営者のためのシステム」つまり自社の戦略会計の便益のためのシステムとして、満足できる程度のシステムが構築されていれば、監査対象としては「モノサシはないけれども、すくなくとも経営者が会計管理をするにあたっては便利なものと認められるから、経営者の判断は有効」と評価される可能性があるわけです。管理会計に資するシステムが有効に機能することで、結果として出てくる計算書類の数字の信頼性が(多少なりとも)高まればOKということですよね。この立場からすると、その企業が財政状況や企業規模などから「できる範囲でやっておけば」内部統制構築義務違反ということも出てこなくなります。

逆に、内部統制システム構築は制度会計と密接な関係に立つ、ということであれば、投資家保護という目的が前面に出てくるわけですから、内部統制システム構築について証券取引法による強制施行、構築義務違反に対する罰則設置、システム構築のガイドライン作成、システム構築に関わった情報システム構築者やシステム監査人の「合理的保証責任」の発生、そしてなによりも民事上の義務違反責任へと結びつきやすい考え方となります。また、企業にとっては「公開企業としての内部統制システム構築のための最低限度の要件」が示されますから、たとえ赤字になってでも、その最低限度をクリアしなければ、民事上の責任を追及される可能性が出てくることになりそうです。

この企業会計審議会は、いったいどっちの方向で考えておられるのでしょうか。聞くところによりますと、この審議委員の間でも、いまだに「内部統制評価基準のガイドライン」を策定すべきかどうかで、非常に議論されているところだそうです。これは、まさに先の問題点と関連するところでありまして、内部統制システムそのものを評価する方向を重視して、証券取引法での義務化を重視するならば、当然に「企業のよるべきガイドライン」が必要になってくるでしょうし、業務効率化という点を重視して(信頼性向上は反射的利益)と考えるならば、企業の自主性尊重、ガイドラインは必要なし、と傾くことになりそうです。

このあたりの議論が今後整理されていくのかどうか、ひょっとするとすでに問題が提起されているのかもしれませんが、どうも思考が先に続かない「原因」になっているような気がします。

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