粉飾決算に加担する動機とは?
昨日は、「中央青山監査法人に試練の時」のエントリー、たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。いろいろなご批判のコメント、TB、ダイレクトメールを頂戴し、はじめて一日4ケタのアクセス数となりました。このようなマニアックな「場末」のブログを「お気に入り」に入れていただき、厚くお礼申し上げます。(風俗チックなTB、こまめに消さないといけないようになりましたが)
会計士さんの「証券取引法違反(虚偽記入)」の「故意」について、昨日すこしばかり考えておりましたが、何人かの方がご指摘のとおり、たしかに、積極的に「指南」したことまでの積極的な加担の意思は「故意」認定のためには、かならずしも必要ではありません。極端な話、「連結はずし」がカネボウの副社長さんが考え出したものであったとしても、その実情を知ったうえで、やむなく会計士さんが「適正意見」を書いたとしましても、粉飾決算を「容易にする」認識があるかぎりは犯罪成立要件に欠けるところはないと思います。したがいまして、会計士さんの犯罪に向けた「故意」というものを、粉飾回避に関する不作為といった客観的事実から導くことも(犯罪成立要件の充足ということからみると)可能なんでしょうね。
ただ、そうなると会計士さん方が、「企業の粉飾」をとめられなかった(つまり不作為の)動機って何だったんでしょう?法曹でない方にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、刑事事件の場合、動機というのは犯罪の成否とは無関係ですが、検察官が立件するにあたっては非常に重要な意味を持つわけです。動機が解明できないままでの立件は、「供述調書の不自然さ」という点を刑事弁護人につかれて、とりわけ否認事件では無罪の確率が高まりますし、またたとえ有罪に持ち込める事件でありましても、検察官による求刑の基本となる「量刑判断」が難しくなるからです。したがって、最近たいへん増えております外国人の刑事事件などでも、(犯罪は認めているんだけど)動機がわからないために、「こんな文化がちがう国の人が、そんな動機で犯罪するかよ」と笑い話になりそうな「無理やりに動機を作っちゃった」ような調書にも遭遇する場合があります。そういった意味で今回のケース、代表社員の方々がどういった動機で「粉飾を容認したのか」そのあたりが捜査機関にとりまして、ひじょうに神経を使うところではないでしょうか。その点、もし「連結はずし」も含めて、会計士主導型で粉飾を計画していった、ということであれば、動機の部分が多少不明瞭であったとしましても、弁護人に突っ込まれる余地が少なくなりますし、「積極的に粉飾決算に加担したことへの社会的非難、専門家としての重い責任」という名目も立ちますので、検察官の量刑判断も下しやすくなります。
そんなわけでして、昨日のエントリーのとおり、この元代表社員の方々の刑事事件につきましては、「動機解明の困難さ」を多少なりともパスするために、(否認事件の「故意」を立証するにあたって)「粉飾加担の認識として絶対に逃げられない部分」が必要と推測した次第であります。(米国公認会計士のKOHさんよりご指摘を受けましたとおり、「未実現利益による繰り延べ税金資産」というのはマニアックすぎましたが・・・)
あと、すこし視点は違いますが、逮捕された「4名」の皆さんがすべて粉飾加担の事実を否認されておられるのでしょうかね?そのあたり、あまり報道されていませんね。それぞれの弁護人が各々の情報交換するのを捜査機関が嫌っているのでしょうか?こういったケースでは、弁護士として「真実義務」「弁護士の倫理規定」に違反しないスレスレのところまでは情報交換するのが鉄則です。まちがっても捜査機関による「誤導」や「誘導」(おい、もう○○ははいちゃったよ、おまえも楽になれよ、というやつです)だけからは被疑者、被告人を守る必要があります。検察官による接見禁止がかかっていたら、準抗告(いわゆる検察官とのケンカですが)してでも面会可能にしてあげるのが基本ですし。逮捕された4名の方に、職務上の上下関係が存在していたのであれば、もっとも下の立場の人に「不起訴、釈放」をちらつかせて、真実を供述させる、という方法もとられるかもしれません。
公認会計士さんの数々のブログで、今回のテーマが取り上げられておりますが、「カネボウ担当で運が悪かった」的なイメージのエントリーも散見されます。私は専門外なので、そのあたりの実態はわかりませんが、もし「ほかでも同じことはよくあるよ」ということでしたら、余計に動機の解明ってムズカシイのではないでしょうか。旧経営陣の粉飾への動機が比較的容易に納得できるところに落ち着くのに対して、会計士の方々の動機というのが、どういったところに落ち着くのか、今後の報道に注目していきたいところです。(なお、一部の新聞では、旧経営陣が代表社員に対して「いまあなたがたの意見を聞いて修正に応じたら、過去の決算は間違いだった、ということになる。それであなた方は問題になりませんか」と脅されたということらしいです。さて、旧経営陣にこう言われて、監査実務を担当してきた方は本当にビビってしまって、旧経営陣の言いなりになりますか?これが動機でしたら、刑事弁護人にとってツッコミドコロ満載ですよ♪)
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コメント
>旧経営陣が代表社員に対して「いまあなたがたの意見を聞いて修正に応じたら、過去の決算は間違いだった、ということになる。それであなた方は問題になりませんか」と脅された
←これはホントにあったとしたら相当つらい話ですねえ。弁護士の先生ではこういうことはないですよね。紙出すわけじゃないですから。ありうるとしたら意見書とか鑑定書でしょうけどやたら条件絞って仮定を多くして書くことが多いですから(^^;)まあこれは自衛のしようがあるわけですよね。後は適用範囲をあまり考えないで書いた雑誌論文の説に従った対応を迫られることはありますかねえ。でも事案が違うとか・・・最終的には「あれはあれ」と逃げる手もあるし・・・そういう意味では会計士の先生ははんこを押すというのがある種「宿命的な」つらさがあるということなんでしょうか。
でも、通常は磯崎さんもしばらく前に書いてたように原則として経営陣から示されたデータに基づくわけで。この点「はんこを押す」という事実を刑事上どう考えるかなんすかね。そこから一歩踏み出す「指南」というのはやはり規範に直面するんでしょうが。
民事の注意義務の話と刑事とは別というのは会計士の先生方からするとどういう整理になるんでしょうかねえ。やっぱりいろいろ考えることがありそうですね。
投稿: unknown | 2005年9月15日 (木) 05時33分
こんな記事もありました
http://www.sankei.co.jp/news/050914/sha055.htm
ご参考まで
当日、中央青山での会社説明会にいってきましたが、たくさんのマスコミが来てました。
説明会のなかでは、奥山さんのビデオが流れましたが、今後法人として管理体制を強化する旨が伝えられるだけでした。
そりゃ、新しく入る人向けの説明会でわざわざ説明しないか…。
投稿: シロクマ | 2005年9月15日 (木) 08時38分
いつも興味をもって読ませていただいてます。
「動機」というわけではありませんが、会計士さんがお仕事をされる上での「インセンティブ」というか、「ベクトル」というか、そんなことについて私の見聞きした範囲で書いてみましたので、TBいたしました。ご一読いただければ幸いです。
投稿: やぶ猫 | 2005年9月15日 (木) 09時37分
いけね・・・このエントリーの一番最初のコメントは私なのですが名前入れ忘れたようで・・・親分、すいません(^^;)。
投稿: ろじゃあ | 2005年9月15日 (木) 12時25分
いつも興味深く拝読しております。
今回初めてTBさせていただきます(与太話風な文章しか書けないので恐れ多い感じもしましたがクリックしてしまったので、もう後には引けませんw)
私もやぶ猫さんと同様、今回の問題は会計事務所の収益や企業統治の構造的な問題が根底になるのではないか、という印象を受けました。
投稿: go2c | 2005年9月15日 (木) 23時47分
>公認会計士さんの数々のブログで、今回のテーマが取り上げられておりますが、「カネボウ担当で運が悪かった」的なイメージのエントリーも散見されます。
会計監査の末端に関わっている者として、「カネボウ担当で運が悪かった」という部分はあると思います。
粉飾や、それを積極的もしくは消極的に監査法人が容認していたようなケースは、カネボウの他には皆無だなんてことはないでしょう。
そもそも巧妙に仕組まれた粉飾や不正を見抜くのは至難の業です。それを行うのが会計士とは言っても、会社の担当者の方が会社のことは詳しいですし、粉飾や不正があればそれを行った担当者は非協力的でかつ隠蔽しようとしますから。
持ち株比率が50%以下で役員の派遣もない場合の連結対象とするか否かの判定も難しい判断を迫られる場合も多いです。
でも、今回のケースは、いったん50%超の株式を取得していた上で取引先に売却し、買戻しに応じるよう約束させた念書をその取引先に書かせていて、意図的な連結外しとしか見えません。
そして、監査法人は買戻しを示す念書を監査法人は入手していて当該状況を知っていた。
(これを担当者が代表社員に見せていなかったというのはとても考えにくい。)
これで、「粉飾は巧妙で見抜けなかった」はどう考えても、ウソとしか思えません。
好意的に考えても「わかっていて見過ごした」というところでしょう。
これを「運が悪かった」だけで片付け、他でもよくあるさ、と思われるのは、ちょっと嫌ですねえ。。。
投稿: K | 2005年9月16日 (金) 01時01分
ついでに動機に絡んでですが、
>「いまあなたがたの意見を聞いて修正に応じたら、過去の決算は間違いだった、ということになる。それであなた方は問題になりませんか」
これは、かなり痛いですね。。。
こんな大きな粉飾のケースはそんなにないでしょうが、会社が以前から行っている取引の会計処理方法について、「やっぱり別の処理方法があるべき方法だ」という結論に至って、会計基準の変更等がないにも関わらず修正を依頼した場合や、
翌年になって前期の間違いが発見された場合など、
「監査が間違ってたってことですか?」と切り返されるととてもツライ立場に追いやられます。
(それでも直さないと意見を出せないようなものは土下座してでも直してもらいますが。。。)
投稿: K | 2005年9月16日 (金) 01時08分
>Kさんへ
>持ち株比率が50%以下で役員の派遣もない場合の連結対象とするか否かの判定も難しい判断を迫られる場合も多いです。
たいへんナマナマしい実務上のコメント、ありがとうございます。うえのコメント、かなり気になります。
「判断」とおっしゃってますが、こういった「判断」はやはり経営陣からの事情聴取だけでなく、希望のようなものもくみ上げて判断されるのでしょうか。また、判断の巧拙については、なにか公認会計士の実務上の経験によって決まるものなのでしょうか。
また、お時間のあるときにでも、よろしければ教えてください。
投稿: toshi | 2005年9月16日 (金) 14時25分
すみません、「希望」というのはどういう意味でしょうか?
経営陣の連結対象としたい、したくない、という希望でしょうか?
投稿: K | 2005年9月18日 (日) 01時22分
>Kさん
私の質問の仕方が悪かったようで。。
「ムズカシイ判断を迫られる」とありましたので、お聞きしたかったんですが、客観的な事情だけでなく、(おっしゃるとおり)役員方の「これ、なんとかならない?」みたいな要望も含めて判断せざるをえない、ということなんでしょうか。
「ほかでもあるし、運が悪かった」というのはちょっと違う、ということでしたら、そんな役員方の要望みたいなものは一切排除して、いろいろと調査したり、事情聴取した内容のみから判断するのかどうか、そのあたりたいへん興味のあるところなんです。会計士さんと企業担当者との、そのあたりの雰囲気というものは、専門外の私には、どうもよく実態がわからないところがあります。
投稿: toshi | 2005年9月18日 (日) 02時55分
以前(もう5年以上前ですが、10年も昔の話じゃないと思います)は連結の基準は持株基準(株主総会の議決権の過半数を所有してれば子会社)で、この基準のもとでは客観的な事実だけでの判定が可能でした。
でも、あからさまな連結外し(49%にして連結から外す)が散見され(銀行なんかもその後実質支配力基準となってから子会社数がどんと増えたようですし。)、子会社となるか否かは、支配力基準(子会社となる会社の意思決定機関を支配しているかどうか)により判定するよう基準が変更されました。
財務諸表等規則(以下、「財規」)でその基準は規定されていて、また、監査委員会報告第六十号(以下「実務指針」)でより詳細な判断上の指針が示されていますが、この中には「実質的な判断」を求める文章がてんこもりです。
たとえば、財務諸表等規則第八条第四項において「意思決定機関を支配している」とはどのようなことをいうのか規定されていますが、まず、一として、
「他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している会社」
とありますが、この自己の計算における所有というのは、名義が役員や従業員等会社以外の者となっていても、所有のための資金関係、配当その他の損益の帰属関係を検討し、判断するということが実務指針で示されています。
西武の時の様に従業員が株主名簿に名前を連ねていたけれど、本人はそんなことは全く知らず、配当ももらってない、というような稚拙なやり方であれば、そりゃ、コクドが自己の計算で持ってるでしょ、という判断は容易でしょう。
(これは事実を知っていたとして、という前提で、隠されてて発見できるかどうかはまったく別ですが。)
でも、取引先に子会社の株式を売却した場合は?
取得のための資金の貸付があればかなりグレーでしょうけど、それだけではクロと判定しきれないと思います。
実際にその取引先がその子会社の経営に参画しようとしていて、自己の意思で議決権を行使するのならば、実質的に親会社の支配を外れるという可能性もあると思います。
この場合は配当の帰属や、貸付にかかる利率や、そのほか当該売却にかかるやりとりの際の書類等も見て、「実質的に判断」するほかないでしょう。
もう一つ例えば、という話をするならば、財規第八条第四項二で「意思決定機関を支配している」について続けて規定されてて、
「
他の会社等の議決権の百分の四十以上、百分の五十以下を自己の計算において所有している会社であつて、かつ、次に掲げるいずれかの要件に該当する会社
(長いのでイ~ニ省略)
ホ その他他の会社等の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在すること。
」
詳細には財規を直接見ていただければいいんですけど、「推測される事実」ってものすごく広いです。
かといってグレーならばなんでもかんでも連結に入れるっていうのも本末転倒ですので、ようは、「実質的に支配しているか否か」ということを客観的事実をもとに判定するだけでも、「判断」の余地があって、まじめにやっても、会計士によって判断が異なる可能性があるんです。
私が書いた「ムズカシイ判断」というのは、そういった客観的事実だけにより判断しようとしても、ボーダーライン上で判断が難しい、ということです。
私は、ある大手の監査法人に勤めているだけですから他の法人のことはわからないですし、仕事を一緒にしたことがある代表社員もかなり小さな仕事を含めたところでその法人のごく一部ですから、他の場合もそうであるとは言い切れないですけど、
私が見聞きしたケースに限っていえば、
「役員方の要望は一切排除して、いろいろと調査したり、事情聴取した内容のみから判断」
してました。
>役員方の「これ、なんとかならない?」みたいな要望
はありますけど、(取得時であれば)じゃあ、実際に取得するのをやめるしかないですね、とか、(子会社であったのをやめたいのであれば)きれいにある程度以上売っちゃって本当に関係を希薄にするしかないですね、となりますね。
私が会計に足を踏み入れたのはアンダーセンの事件があってからですので(日が浅いのがばれますね)、そういう馴れ合いのリスクの高さはすでに認識されてる環境でしたから、社長と仲が良くてその社長にお願いされたから判断を変える、なんてのは、ありえない、というのが今まで現場で見聞きした印象ですね。
……長々とご存知のようなことまで失礼しました。
投稿: K | 2005年9月18日 (日) 12時41分
>Kさん
詳細なご説明ありがとうございました。といいますか、このコメントひとつで、立派なエントリーになってしまうほど、充実した内容で、このたびの一連の粉飾事件について、自分の意見をとりまとめる「良い参考意見」になりました。自身で調べることが可能であるにもかかわらず、資料まで参考として引用していただき、感謝いたします。やはりこういった「ボーダーライン」上の判断というのは、監査人の裁量に基づくところがあるということですね。こういったところについては、監査法人のなかで、二重、三重にその裁量部分の判断がチェックされ、最終的には監査法人の品質管理審査のようなところで報告とかされたりするんでしょうかね?それともその監査人の最終判断はそのまま「あたりまえのもの」になって、誰も審査しないということなんでしょうか。うーーーん、つぎからつぎへと疑問がわいてきます。
投稿: toshi | 2005年9月19日 (月) 23時00分
>toshiさん
そんな風に仰っていただけるととても光栄です。まあ、普段お勉強させていただいていることに比べればごく些細なレベルですが。。。
さて、監査法人の品質管理ということですが、これは監査法人によって細かい部分では異なるところもあるかもしれないですし、自分の法人ですら知らない部分もあると思いますので、「と思います」的な書き方になってしまいますが。。。
大手の監査法人であれば、意見を表明するような業務(報告書を出すということです)については、必ず審査手続きを経て意見を表明することとなっているはずです。
(規模やリスクの大小によってどれだけの審査を経るかは異なりますが、最低でも一人は全く関与していない代表社員が審査を行っていることと思います。)
さらにその審査担当者でも手に負えなければ、より上のレベルへと話が上がっていくこともあると思います。
だから、一つの監査報告書を出すにあたって「誰も審査しない」ということはないです。
ただ、その審査は、実際の監査を担当する監査チームから提出された調書に基づいて行われますので、監査チームがそのような裁量部分について監査調書に適切な記述を行わなかったり、ましてや全く記述していなかったりすれば、当該事実について審査担当者が知る由もないということになってしまう可能性もあるとは思います。ですから、今回のカネボウのケースについても、問題となっている会社を連結に含めないという会社の判断を監査法人として許容するか否かが審査において検討なされたかどうかは全くわかりません。
ただ、通常であれば裁量による部分の判断で重要なもの(今回のように金額の影響が大きい会計上の判断や、ゴーイングコンサーンの問題、会計方針の変更なんかが代表的かと思います)であれば、監査チームとしても不安ですので、審査の担当者に事前に相談したりはするのが通常かと思いますが。。。
投稿: K | 2005年9月20日 (火) 22時36分
>Kさん
いつもながら、懇切丁寧なコメント、おそれいります。(といいますか、Kさんはブログを作っておられないのでしょうか?けっこう「お気に入り」候補のブログをお作りになれるのではないかと推察いたしますが。笑)
昨日、「りそなの会計士・・・」の本を読みましたが、そこでも当時の朝日監査法人での「審査会」「理事会」の様子が描かれていました。まさに、Kさんのおっしゃるような状況でした。
投稿: toshi | 2005年9月21日 (水) 11時00分