デジタルガレージの買収防衛策
定時株主総会を控えた株式会社デジタルガレージより、新しく導入予定の敵対的な株式公開買付に対抗する買収防衛プランが、8月29日付けでリリースされています。
平時導入、総会承認条件、差別行使条件付新株予約権発行(事前警告)方式が採用されています。1年での消却条項も付いているうえ、ニッポン放送・ライブドア事件における高裁判断に沿った形での買収希望者に対する具体的な情報開示要件まで明記されており、監査役という立場からすると、非常に参考となるプランです。「買収防衛策」ではなく「企業価値防衛策」という題名も、なにか意味があるのでしょうか。
ただ、やはり何点が疑問点があります。事前警告型の場合にはいつも感じることですが、一方的に買収希望者(特別目的株主)に対して情報提供を要求するわけですから、買収希望者側からの情報提供にも応じなければフェアではありません。この防衛プランの最初にデジタルガレージさんが述べているとおり、最終的には株主が判断することを目的としているわけですから、双方から株主へ比較可能な情報が提供されなければ目的に反するわけです。したがいまして、一方的に開示を要求しながら、相手の情報開示には応じない、という態度ですと、そもそも現経営者による保身目的、という推定が働くことが考えられます。
つぎに、新株予約権の発行を決定する(最大の影響を与えるとされている)「特別委員会」の人的構成として、現取締役が1名含まれるというのは、その公正さにおいて問題があるのではないでしょうか。5名中1名というならばまだしも、3名中1名ということなら、決議は2名の賛成で成立するわけですから、その審議における中立性が担保されるとはちょっと思えません。また、そもそもこの新株予約権が発行されるのは、株主の皆様にどっちの経営陣が企業価値を高めることができるのか、判断するのに必要な情報と時間を確保することが目的だと最初の述べられていますが、そうであるならば、特別委員会の審議すべき事項として、買収希望者による公開買付がそういった判断が可能な情報や時間を実質的に奪うものであるか、という点だけで決議すれば足りるのであって、そこで企業価値の毀損目的があるかどうかを判断する必要はないのでは・・・という疑問が湧きます。もし、ここで企業価値を毀損するような買収希望者であるかどうか、を判断するのであれば、それはほかの買収防衛プランにあるとおり、「特別委員会」や「取締役会」における社外取締役の立場と同じであって、つまり株主の利益を守る立場で、株主に代わって企業価値について判断する、ということになります。このあたりが、リリースの最初に書かれている防衛策の目的とその手段とに齟齬があるのではないでしょうか。
もし、私の考えが間違っていると仮定した場合、「特別委員会のメンバー」は企業価値の毀損のおそれを判断するわけですから、それこそ、メンバーである「社外監査役」「取締役」はたいへんな役回りが必要となります。以前から、このブログで申し上げているとおり、通常の社外取締役、社外監査役であれば、善管注意義務が発生する範囲というのは、常勤の人よりもかなり限定的になると思われますし、現にそのような判例も出ているわけですが、いざ特別の決議をもって、企業価値を判断すべき立場に就任した場合には、これに伴って特別に高度な忠実義務が発生することになろうかと思われます。普段から株主意思の確認を怠らず、株主総体としての意思を把握し、無形資産の評価を含めた将来にわたる当該企業の価値把握に専念する必要があります。もちろん司法判断の対象は、こういった社外取締役や監査役の活動プロセスを重視するでしょうから、通常の社外取締役と同様の勤務状況であれば、おそらく特別委員会への参加差止の仮処分(取締役の違法行為差止請求権を被保全債権とする)などによって、新株予約権発行のための要件を満たさないような措置をとられる可能性がありそうです。(ほかにも、特別委員会の意見を最大限尊重して、取締役会で発行決議を行う、という要件が、果たして鹿子木判決を前提とした場合に方法の相当性があると認められるかどうか、疑問もあります)
新会社法の実施によって、今後新株予約権を活用した買収防衛策はつぎつぎとリリースされることが予想されますが、こういった個人的な疑問点についても、さらに議論が深まってつぎつぎと払拭されることを期待しています。
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