不正を許さない監査
昨日、カネボウ粉飾決算に関与していた会計士全員が、容疑を認める供述を始めた、との報道がありました。これで、どこまでの会計士が起訴されるのかは不明ですが、いちおうチーム全体としての粉飾関与というものが認定され、監査法人としての責任を追及される可能性が強まりましたね。ただ、金融庁の処分というのは、やはり刑事責任確定の後追いになるようですから、監査法人に対する処分がなされるとしても、おそらくまだ先のことなんでしょうね。
金融庁パブコメ回答集 をみておりますと、業務停止処分が発令された場合の経済界における混乱については、金融庁も重々承知しているようです。こういったケース、結局のところ「戒告」やら「一部支店における業務停止」など、ソフトランディング可能な処理が検討されているのかもしれません。ただし将来における不正監査を絶対に許さない、という断固たる意思を示す、というのであれば、相当ドラスティックな結末もありかもしれません。大きな会社の場合ですと、引継ぎ処理を行うだけで「業務停止期間」が経過してしまう、ということもあるかもしれません。仮監査人を選任する立場の「監査役会」が、こういったケースでどのような対応をとるのか。(企業の対応が興味あります)
さて、タイトル名の書物、まえにも申し上げましたが、ブログをごらんの方より、お奨めいただき、読んでみました。中央青山監査法人の浜田代表社員が執筆された書物でして、不正監査に絡む問題点を監査人という特別の視点から論じておりまして、会計監査と内部統制構築との関連なども非常に参考になりました。なお、この本の最後に、まとめて「不正を許さないための監査事務所の工夫」ということが掲げられております。
一、獲得収入などを監査人個人の報酬決定に過度に反映させない
二、これまでの監査上のミスは、徹底的に分析究明して、監査人共通の経験とする
三、制度として相互牽制ができる協議相手を作る(つまり、責任者が判断上の問題などを、 別の監査人に報告、相談する体制を作る)
四、仕事の閑散期において、会社ごとの監査戦略レビューをつくる。などなど。
おそらく、こういった体制は中央青山でもとられていたんでしょうね。もし、本当にこういった不正監査防止システムが体制として確立していながら、運悪く不正監査が発生したということであれば、金融庁の処分につきましても、アメリカの連邦量刑ガイドラインのように、その体制が十分機能していたことを立証して、すこしでも軽い処分をお願いする、ということも可能かもしれません。(どんなに厳格な体制をとったとしても、100%不正監査を防止することはできない)逆に、不正監査防止システムを構築していると言いながら、実際にはほとんど機能していない、などというケースであれば、「監査法人ぐるみの関与」と言われてもしかたないのかもしれません。厳格な対応も必要かもしれませんが、一生懸命、不正監査を防止しようとする監査法人の努力も、なんらかの形で認めるほうが、今後の不正防止への機運を高めることにもなるんじゃないでしょうか。
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http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070529AT1G2902829052007.html
NEC、23億円所得隠し・東京国税局指摘
大手電機メーカー、NECが東京国税局の税務調査を受け、子会社などを通じて下請け先に架空や水増しの発注を繰り返していたなどとして、計約23億円の所得隠しを指摘されていたことが29日分かった。不正取引の総額は約22億円。下請け先から還流させる手口で、事業部長級幹部を含む社員計10人が計約5億円の「裏金」を得ていたという。
同社によると、不正が行われていたのは国内営業部門のうちソフトウエア開発など5部門が所管する5件の取引。遅くとも2000年ごろから不正が始まり、2人の事業部長級の幹部も不正に関与していた。
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NECは米国に上場しているため、昨年度からUS-SOXに基づく厳格な内部統制監査を受けています(監査報酬は7.4億円)。しかし、多額の従業員不正を、会社の内部統制評価や公認会計士の内部統制監査で見つけることはできませんでした。摘発したのは国税局です。
US-SOXによる「内部統制」監査は、お金がかかることが問題ではありません。担当者が単独で犯す誤謬しか発見できない制度であることに、重要な欠陥があります。
監査の手法に欠陥があるのですから、内部監査部が監査法人の品質管理審査を受けても、実施基準を超えて連結売上高の75%を文書化しても、IT全般統制で全社的なエクセルシートの洗出しとパスワード保護管理をしても、不正防止効果を全く期待できないと思われます。
投稿: US-SOXと不正防止 | 2007年5月29日 (火) 15時52分