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2005年9月16日 (金)

不正監査防止のための抜本的解決策

連日、メールやコメントなど、多数頂戴しました。(お返事が書けておらず、たいへん申し訳ございません。)今回の中央青山監査法人の粉飾加担疑惑の件、まだ本論に入っていないのですが(一番書きたかったのは足利銀行による民事賠償請求事件なんですが)、ちょっとだけ頂戴しましたコメントなどをもとに、関連問題について考えてみたいと思います。

やぶ猫さんが、「公認会計士の憂鬱」と題するエントリーのなかで、以下のとおり問題提起されています。

「いい仕事」をすれば「顧客」が満足し、評価が上がって、収入と地位があがる。という単純なビジネスモデルが公認会計士の監査業務にはあてはまらないようであることが問題だと思います。

「会計監査」というお仕事が、投資家そして会社債権者のために奉仕する職業でありながら、その報酬は監査対象である企業から得るのが「定め」である以上、やぶ猫さんのおっしゃるとおり、ビジネスモデルと監査業務の間に「噛み合わない」部分が存在することはいたしかたない現実だと思います。この現実を冷静にみるかぎり、たとえこれから2008年ころまでに「日本版SOX(企業改革法)」が制定されたとしましても、日本企業と会計監査人との関係は変わらず、不正監査発生の温床は存続するとしか考えられません。

そこで、どうすれば抜本的に不正監査を防止することができるか、その解決方法について検討してみたいと思います。(あくまでも試論ですから、ご批判大歓迎です)

ひとつめは会計監査というものが、今後1433兆円の国民資産を「貯蓄」から「投資」へ振り向けるための「社会インフラ」となるわけですから、会計監査業務を国家権力によって行うものとして、その権力を公認会計士に委託する、というものであります。これは私が8月8日のエントリー「弁護士が権力をもつとき」で書きましたとおり、LAT37Nさんのブログを読んでの提案です。ただ、そのときにも述べましたが、民間人がいきなり権力を移譲されることの弊害はたいそう恐ろしいものがありまして、あまり現実的な対策ではない、というのが自論であります。

つぎに、ハーバードビジネスレビュー10月号でも提案されておりますとおり、企業と監査法人との契約について一定期間は解約できないものとし、また延長もできないものとする、契約期間終了時は、別の監査法人と監査契約をしなければならないものとする、(クライアントにおける監査法人のローテーション)という手法を用い、いわば企業にとって税務署員的な立場に監査人が置かれるような提案であります。これは不正監査防止という目的からみると、非常に現実的な改善策のようにも思われます。ただ、この手法は、たしかに会計監査人が企業と協調して粉飾を容認する動機が生まれることはないとは思えるのですが、逆に考えますと、投資家のため、会社債権者のために一生懸命「役に立つ監査を行う」動機も生まれなくなってしまいます。企業の特質をもっと知ろうとか、新しい監査基準を学ぼうとか、もっと正確な監査を行おう、という意欲がわかなくなり、会計監査自体の品質が急激に悪くなってしまう懸念があります。不正防止のためとはいえ、社会全体の会計監査の進歩を止めてしまうような方策は、その弊害のほうが大きくなってしまうのではないでしょうか。

そこで監査の質の向上をはかりながら、なおかつ不正監査防止のインセンティブを確保する方策として残るのは、会計監査を「司法その他の紛争解決機関」のマナ板に乗せることが考えられます。これまで、会計監査の適法性そのものが司法の場で争点となったのは、日本コッパース事件その他、わずかしかありません。これはひとえに弁護士が会計に関する知識や会計基準の動向に疎いことによるものであろうと思います。(現実に、日本コッパーズ事件においては、原告側代理人が会計実務に精通していたら、争点が変更され勝訴できたのではないか、との意見が根強く主張されています)いままでのように、会計監査人が企業との委託契約のみによって監査業務を委託されている関係でしたら、なかなか監査の品質を争点とする紛争解決の機会も存在しなかったと思いますが、いよいよ新会社法が施行されますと、会計監査人も会社の機関となります。もし、会計監査人の職務に不正のおそれがある場合には、株主から職務中止命令の申立がなされ、実際に損害が発生した場合には代表訴訟を提起される可能性もあります。取締役と会計監査人との間において監査意見に食い違いが発生した場合には、会計監査人は株主や監査役に対して「説明責任」が発生します。こういった紛争に関する事後的な適法性審査を有効に活用することで、会計監査人の客観的な品質が社会で評価の対象となり、クライアント獲得競争が「企業との癒着」とは無関係な「自由競争」のもとで行われるようになると思うのですが、いかがでしょうか。(もちろん、こういった会計監査品質の事後判断というのは、企業会計に精通した法律家の存在を前提とするわけですが)理想論を超えた「空想論」に近いものかもしれませんが、「投資サービス法」の誕生を迎える日本の未来に向けて、その一翼を担う公認会計士さん方も「公正なルール」にのっとった実力の世界でクライアントをつかむ土台作りこそ、もっとも現実的な不正監査回避の方法ではないでしょうか。

会計監査人の倫理意識の向上、金融庁による行為規範による規制問題というのが、おそらく今後の「不正監査」防止のための打開策としてはオーソドックスなものになろうかと思いますが、それらはこれまでの企業と会計監査人との関係をそのまま維持することを前提としています。今回の事件が、いったいどのような動機のもとで行われたのか、明らかにはなっておりませんが、企業と会計監査人との向き合う姿勢が変わらない以上は、やはり今後も些細な動機によって、同じことが繰り返されるのではないかと危惧しています。

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コメント

日本人って今後は企業をどういう位置づけにしたいんすかねえ。国からの委託構成とか税務署員的役割とかって「統制経済」的な要素が出てきてなんか小さな政府って言ってる竹中さんとかと整合性が取れるんすかねえ。それとも今後の流れは40年体制への回帰なんでしょうか。実質的な官による産業統制?なんか違うような気がするんですけどねえ・・・会計監査を「司法その他の紛争解決機関」のマナ板に乗せるというか、「乗せ得る」枠組みになったってだけでなんか十分なんじゃないかという気もします。
商法の某先生に聞いたんですけど、精緻な枠組みを作れば作るほど却って問題が起きるという立場も最近あるようですし、あとはいざとなったら裁判所ってくらいのところでとどめていいんじゃないかなあと思うんですけど。機関としての会計監査人を強調しすぎると「法律にも精通した有能な会計士」がたくさん必要になるわけで。まあ確かにそうなんですけど(^^)。実際にはホントにみなさん対応できるんでしょうか?弁護士の先生がこれからは「会計に精通した弁護士でないとね」って言われたときに困るぐらい同じように会計士の先生たちも困るんじゃないかなあ(^^;)。法律論じゃなくてすいません。

投稿: ろじゃあ | 2005年9月16日 (金) 05時32分

ろじゃあさん、おはようございます。たしかに、現状ではかなり困難な方策であろうことは承知しています。ただ、同じことは「経営判断の原則」の適用範囲を争点とするケースでも同じではないかな、と思ったりもします。その業界の専門知識はわかりませんが、株主の立場で取締役の意思決定過程を問題にしていくわけですから。会計士さんの専門領域でありますから、おそらく基準適用や算定方法に関する裁量の範囲については広く認められるであろうと思います。まあ、「専門判断の法理」のようなものが認められるとしましても、監督官庁以外の者ががんばって支えていくシステムがもっとも納得できるものではないかな、と思った次第です。

投稿: toshi | 2005年9月16日 (金) 09時22分

こんばんは、問題提起はしたものの、解決策となると、荒唐無稽なことしか思い浮かばないやぶ猫です。

上記①は、さすがにまずいと思います。②は、ちょっと微温的かな、と。③は、正直言って、よく理解できていません。勉強不足ですいません。

私なんかは、土下座なんかしないで毅然として「No、と言える会計士(監査法人)」であって欲しいと思っていますので、例えば、上場企業については大手4社(3社になっちゃうかもしれないけど)以外による監査業務を認めないとかしちゃえば面白いと思いますね。顧客企業群に対して公認カルテルで対峙させるわけです。そもそも監査業務で顧客争奪戦をやるならば、値引きとお目こぼし(手抜き)の方に走るしかないわけで、会計士のモラール低下と監査の品質低下を招きます。カルテルを認めちゃって、超過利潤をそれなりに認め、顧客企業との間の力関係を対等に近づける。それによって監査品質の確保を図った方がいいんじゃないでしょうか。

もちろん、そこまでしあげるんだから、何か問題が生じた時は、今よりもっと厳しい刑罰と損害賠償責任を負うということで。。。

会計士さん、我々、一般投資家のために頑張ってくれー!!

投稿: やぶ猫 | 2005年9月16日 (金) 20時03分

>やぶ猫さん

 コメントありがとうございます。③、わかりにくかったですか?おそらくほかのROMされている方にもわかりづらかったかもしれません。弁護士の弁護過誤、会計士の不正監査など、これまで「聖域化」している専門家の職務領域にも、事後規制の網をかけていこう、という発想なんですが、そのためには「社会インフラ」が必要です。司法試験合格者3000人時代を控え、これからは「弁護士を訴えることを専門にする弁護士」がいてもいいと思いますが、やはり大量合格者の輩出ということが、そういったインフラの実現を可能にするのではないか、と考えたりもします。

投稿: toshi | 2005年9月16日 (金) 21時54分

こんにちは。えーと、まず私も「会計監査を国家権力をもって遂行すべき」とは思っていないということでご理解くださいね。該当エントリは自由競争を阻害しても不正を防止したいかという究極の選択という皮肉のつもりでした。

現行制度で何とかしていくというのが現状である以上、監査法人側に必要なのはシステムとメンタリティの改革ですね。「駄目なものは駄目」というガバナンスをしくことが必要だと思います。そのために、内部の審査も協会のピアレビューもお飾りではなく、同一業界の担当経験のある人たちで網羅的に実施するとか、実効性をたかめることが有効だと思います。今回も、担当社員が調書を隠していたとかありましたが、そんなことは「できない」ようにすればいいわけです。アメリカではすでに、調書をいつ誰が変更したかTrackできるようになっていますので、そういう形式になれば隠そうということはあきらめざるを得ないのではないかと。

「いままでいいって言ってきたのにここで手のひら返すなんて」とかいわれてNoをいえないというもたれあいの文化も変えていかなくてはいけないところですが、これは企業経営者側にも認識を変えていただかないといけないところです。これは今回の件なんかを通して変わっていく気がしていますが。
長文失礼いたしました。

投稿: lat37n | 2005年9月27日 (火) 08時30分

>lat37nさん

 はるばるLAよりコメントありがとうございました。いつもブログは拝見させていただいております。47thさんや lat37nさんのブログを読むたびに、「ああ、俺も若いころ留学しといたらよかった・・」と(少なくとも衝動的には)痛感しております。。。
ちょっと私の紹介の仕方がまずかったのかもしれません。もちろん lat37nさんが「国家権力委託論」に賛同しているなどというものでないことは十分理解しております。
今朝の日経新聞「監査不信」では、塩崎センセイ(自民党企業会計小委員会委員長)が、「もう監査人の交代などという甘いことじゃダメで、監査法人の交代制まで行かなきゃダメでしょ」とおっしゃってまして、山浦先生(企業会計審議会監査部会長)は、大手でもやはり内部管理の充実ということを問題にされています。今回、検察庁は監査法人自身の刑事罰は問えないとして、あとは金融庁の処分待ちということになりましたが、この「知らなかった=無過失」を動かすシステムを本気で作らないと「作りましたけど、無機能」でまた終ってしまうような気がします。
また、お立ち寄りください。

投稿: toshi | 2005年9月27日 (火) 23時10分

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