« 情報システムの内部統制実務 | トップページ | 営業秘密管理指針(経済産業省) »

2005年9月 9日 (金)

公益通報者保護法と労働紛争

9月8日の日経朝刊1面に、2007年の法案提出に向けて「労働契約法」制定の準備が始まる、との記事が掲載されております。最近の企業再編などの影響で、2001年に47000件(年間)ほどだった労働紛争相談件数も、2004年には16万件に上り、労使紛争も急激に増加しています。顧問企業からの法律相談も、私の事務所の場合、人事部からの労務相談が圧倒的に多いのが現実です。

労働紛争の解決にあたって、今後大きな影響を与えそうな新しい法律がふたつほど、来年4月1日から施行される予定になっています。ひとつは公益通報者保護法で、もうひとつは労働審判法です。(また2、3年先には「労働契約法」が施行されるのでしょうね)およそ3回の審判期日によって、労使紛争を解決するシステム(裁判官身分の審判官も参加)ですから、紛争処理スピードがたいへん速くなりますので(ただし、どちらかの異議申立によって通常訴訟へ移行する可能性あり)、いままでの労働紛争処理機関もそのまま存続はしますが、かなりの労使紛争に(労働審判制度が)適用される可能性が高いと思われます。紛争の対象となっている労働者側の利益自体が小さいために、なかなか弁護士の協力が得られないような場合であっても、裁判官身分の審判官や、連合推薦の審判官などが判断に関与しますので、自分ひとりで申立ててもその権利保障の機会が確保される点が大きいですね。いっぽうで企業側としては、これまで労働者側が「泣き寝入り」していたような事案でも、簡単迅速に司法判断を得られるシステムができることから、その防御対策は十分検討しておく必要に迫られそうです。

とりわけ、来年4月1日に施行される「公益通報者保護法」による労働者の通報への対応問題を今後どのように検討するか、企業側としては非常に悩ましいところです。すでにご承知のとおり、企業の労働基準法違反行為、労働組合法違反行為については、この新法における通報の対象行為として指定されております。ですから、労使紛争の前提となっている違法事実や違法と解釈されるおそれのある労務対策について、審判や裁判の前に、この労働者もしくは委託を受けた別の労働者から「事業者に対する通報」がなされ、「是正」に関する企業としての対応を証拠化されることが予想されます。証拠化されるものは、通報に対する企業(もしくは外部窓口機関)の回答の場合もありますし、また通報を受けた後の企業の内部処理文書を文書提出命令の申立などによって提示要求されるケースも考えられます。こういった公益通報者保護法を利用した証拠が労働審判手続、もしくは労働裁判で提出された場合、その個別の事件処理のみに利用されるだけならばまだしも、その企業の労務コンプライアンスの姿勢まで公開され、社会的に非難されるような事態に発展することは、企業にとってはなんとしてでも避けたいところであります。

この公益通報者保護法は、労働問題に限られるものではなく、ひろく企業のコンプライアンス経営の向上に資するものとして、また違法行為を告発した通報者自身の労働法上の権利保護が図られるものとして制定されておりますが、とりわけ労働問題にしぼってその運用を検討してみますと、先に述べたような利用方法が想定されます。したがいまして、あと半年後に迫った労働審判法や公益通報者保護法をにらんで、労務コンプライアンスの整備と、内部通報制度(おそらく、どこの企業でもこういった名称ですでに策定はされていると思いますが)の運用面での整備(事業者への通報がなされた場合の文書の残し方や、回答方法、窓口機関の指定、判断機関や判断プロセスの整備など、開示要求がなされても運用に不正が疑われないようなシステムの整備)をもう一度点検されてはいかがでしょうか。

ちなみに、「労働者契約法」については、いまのところ刑罰による罰則規定を置くことが想定されておりませんので、公益通報者保護法による「法律違反行為の通報」の対象にはならないかもしれません。

9月 9, 2005 公益通報者保護法と労働紛争 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/5853846

この記事へのトラックバック一覧です: 公益通報者保護法と労働紛争:

コメント

toshiさんへ
労務コンプライアンスという言葉がいいのかどうか、実はろじゃあはここ1・2年迷っています。単なる語感の問題もあるんですが、人事部から法務担当に必要な協力要請が出にくい呼び方ではないかという懸念もありまして(^^;)。
あと、公益通報者保護法との関係では、労働契約法の内容として消費者契約法のような強行規定的な条項が入ると公益通謀者、じゃない公益通報者(^^;)保護法の「法律違反行為の通報」の対象に入るんじゃないっすかねえ。ろじゃあもウォッチグ予定です。
これらの法律の整備で、旧来の人事部では対応できない需要が出てきているわけですが、弁護士の先生方は、どんな「営業」してるんすかね?ろじゃあは気になってます。労働系の先生よりは、コンプラ系の先生の方が適任とは思うのですが、これに派遣業法や個人情報保護法の委託先や委託先社員に対する情報コンプラの視点まで入れて制度設計に関与してもらうとすると担当する先生の負担は結構なものになるはずなんですけどね(^^;)。その割には大手でも人事系のセクションはそんなに法務対応に費用をかけない可能性があるという・・・この辺の人事担当取締役の教育は誰がやるんだろうなあ・・・ここが多分の、この分野の「つぼ」だと思います。
余計な書き込みですいません。

投稿: ろじゃあ | 2005年9月12日 (月) 22時16分

ろじゃあさん、コメントありがとうございます。労働契約法が制定されても、労働基準法は残るわけですよね。最低限度の権利保護という制度趣旨の法律と並存する労働契約法の趣旨を考えると、どういった形で強行法規を規定するか、これは契約法の趣旨とも絡む大きな問題になってくるのではないでしょうか。おっしゃるとおり、法律事務所では、問題を整理したうえでのサービスというのはまだまだ検討していないと思います。といいますか、趣旨からみて「?」と思われるサービスを提供しているところもあるようです。顧問弁護士が内部通報の窓口になってる・・・という感じも、はたして問題がないと言えるのでしょうかね??

投稿: toshi | 2005年9月13日 (火) 03時25分

toshiさんへ
>顧問弁護士が内部通報の窓口になってる・・・という感じも、はたして問題がないと言えるのでしょうかね??
←はははっ・・・問題ありますよね。・・・っていうか通報しづらいこと甚だしい・・・というのが社会常識のような気もします。
強行法規化の話は、一度ボツにしたネタがあるのですが、民法の研究者の立場からすると契約締結上の過失(旧西ドイツあたりでは「契約交渉過程の破棄」の問題として労働契約の不当破棄の問題も民法の領域に入ってたりしたんですけどね)とかの部分の議論を契約法の中でどう位置づけるかという話と特別法としての労働契約法をどう位置づけていくかという話がありまして、ろじゃあなどは実需が見込める狙いどころと不謹慎にも思っていたのですが・・・皆さんどう動かれるやら・・・。ここ一年ぐらいで何か書ければなあ・・・などと夢想しているところであります。
はっきり言って、今後企業サイドでは、この分野できちんと仕事できる弁護士の先生の需要は相当高まると思います(って5・6年前からいろんなところで吹聴してたりしたんですが)。
また遊びに来ます。

投稿: ろじゃあ | 2005年9月14日 (水) 02時26分

コメントを書く