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2005年9月14日 (水)

中央青山監査法人に試練の時

(中央青山のシニアマネージャーの方を存じ上げておりますので、まずは「ほどんどの方がまじめに監査、コンサルに取り組んでおられること」を十分承知していることだけ、ご理解いただき、お読みいただくようお願いいたします・・・・)

「弁護士の逮捕」という記事はときどき新聞でお目にかかりますが、「会計士の逮捕」というものはあまり見かけませんでした。たとえば「弁護士、痴漢で逮捕」という見出しはありますが、「会計士、痴漢で逮捕」という見出しもあまり記憶にありません。会計士さんでも、そういった破廉恥罪で検挙されるケースもあろうかと思いますが、おそらく読者を惹きつけるほどのインパクトが「会計士」と「痴漢」の間に生まれないのかもしれません。

カネボウ粉飾決算に関与したとされ、中央青山の元社員(中央青山のHPでは「元」となっています)が4名逮捕された、との報道は、やはり「監査」という言葉の響きが「正義、誠実」をイメージさせるものであるだけに、「会計士逮捕」という衝撃をより強いものにしています。

新聞報道では「連結はずし」を指南した、とありますが、本当に検察庁は「連結はずし」の点で逮捕に踏み切ったのでしょうか?連結はずしでの粉飾というのは、たとえば先に逮捕されている銀行出身の役員さんやベテランの経理マンでも思いつくわけでして、「指南」というのもちょっと否認されてしまうと故意を認定できないということでマズイ気がしますし、粉飾に気づきながら後で「適正意見」を出した点で犯罪の故意を認定すると、会計士の「動機の解明」(修正を指導したにもかかわらず、なぜ説得されて適正意見を書いたのか、翻意をしたことで、会計士にどのようなメリットがあったのか)でツマヅく可能性がありますよね。

ということで、検察庁が「否認している公認会計士」を逮捕にまで追い詰めるためには、もうすこし「公認会計士ならではの専門技術」をもって指導的立場を果たしたことが立証でき、かつ故意の認定において「逃げられない」部分を押さえているものと推測いたします。もちろん逮捕のための手段ですから、「逃げられないことが確実であれば」別に大きな争点ではなくてもいいわけです。(「連結はずし」に加担したかどうか、ということは後でじっくり捜査すればいいわけでして)たとえば粉飾の根拠としては「未実現利益による繰り延べ税金資産」の計算あたりを根拠としているのではないか、と思いますがどうでしょうか。親子会社間での親会社保有商品の売買なんですが、連結ベースでは利益はまだ発生していないのですが、親会社に売上がある以上は単体ベースでは親会社は税金を支払う必要があり、(でも将来的には子会社が在庫商品を売却することが予定されていますので未実現の利益があるということで)そこに「繰り延べ税金資産」が計上できるわけです。この繰り延べ税金資産であれば、銀行などで一時問題になっていました「将来の利益発生可能性」や「将来の保有している有価証券の値上がり予想」などの曖昧な評価の問題もなく資産を計上できます。税効果会計導入後、カネボウはこの「未実現利益による繰り延べ税金資産」を利用して債務を圧縮していたようで、2000年3月から2003年3月までの間に、144億円ほどまで繰り延べ資産を膨らませ、在庫商品も2倍にまで膨れ上がっています。2003年ころから、ホームページで「これはおかしいぞ!」と訴えておられた会計士さんもいらっしゃいます。

「連結はずし」という手法はあまりにも素人っぽいもので、なにか会計士さんの指導とは結びつきにくいようにも思えますが、税効果会計導入後の繰り延べ税金資産の利用ということであれば、その技術面においても、強引さがすこし和らいでいる点においても、会計士さん主導の粉飾と「評価」されやすいのではないでしょうか。また「連結はずしを誰が考えたか」という点について、先に逮捕された経営陣の証言に頼るのでは、会計士さん方が否認されてしまうと、(言った、言わないの世界になってしまって)その故意認定が若干弱くなってしまいますが、2000年3月以降の会計手法や在庫商品の数量変化、そして経営再建中にもかかわらず、高い税金を支払ってまでして子会社に商品を押し込んでいる不自然さなどから、客観的な事実の積み重ねによって会計士さん方の「故意」を認定できる、ということも想定されます。

こういったケースで、会計士さん方の刑事弁護人は、どういったポイントから否認事件の弁護を組み立てるのだろうか・・・と、つい職業的な発想で考えてしまいました。

実は、足利銀行が、中央青山に対して違法配当に加担していた、として民事訴訟を起こすことを決めたというニュースのほうが、中央青山にとっては本当の意味での「試練」だと思うのですが、これはまた改めてエントリーしたいと思います。

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コメント

toshiさんへ
すいません、こっちのエントリーがまだ出てなかったので経済産業省の指針の方のエントリーにTBさせていただいたのですが、toshiさんがこの件についてエントリーを出さないはずがないとは思っておりました(^^;)。
なんか、いろんな枠組みが同時進行しているようで下々のろじゃあにはなかなか今後の影響と方向性を把握するのがしんどくなりつつありますが、日本版SOX法の実質的な到達点にも相当影響がありそうな今回の一件。今年度の下半期ぐらい、経営陣とコンプラ担当は相当心労がたまるのではなかろうかと心配しておりますです。弁護士の先生も会計士の先生もたぶん同じだと思いますけど(^^;)

投稿: ろじゃあ | 2005年9月14日 (水) 02時49分

おひさしぶりです。いつも拝見し、いろいろと参考にさせていただいてます。
私は意見が少し違いますが、やはり「連結はずし」こそ監査法人からの指示があったものと考えています。先生は「素人」の考えと指摘されてますが、現実にはカネボウ以外にも監査法人が指南しているケースは、ここ5年ほどいっぱいあるわけでして、そういったカネボウ以外での監査の実態というのを、今回いろんな監査関係者から聞き取りをしていると思いますよ。ただ、「連結はずし」というのが、どこまでがセーフで、どっから先が犯罪になるか、というとそういった基準みたいなものはわかりませんが。

投稿: 小林勝成 | 2005年9月14日 (水) 11時53分

>ろじゃあさん
日本版SOX法の制定に、今回の事件が多大な影響を及ぼすことは間違いないと思います。監査法人自身の統制ということも問題になりそうですが、1700人も「大きな裁量をもった仕事人」のいる事務所って、統制は不可能だと思いますが・・・
>小林さん
どうも、おひさしぶりです。
著名ブロガーの「ぐっちーさん」も、やはり小林さんと同じようなことを書いておられましたね。事情に詳しい人ほど「これって、カネボウの担当者だけが運悪かった」みたいな。検察もそのあたりを知ったうえで、業界に警鐘をならすのが目的なんでしょうか。ただ、今日のいろいろな報道をみておりますと、私の予想どおり「連結はずし」とはは違ったところで、やはり会計士さんの故意を認定しようと躍起になっていることは間違いなさそうです。また、いろいろと教えてください。

投稿: toshi | 2005年9月14日 (水) 20時40分

はじめまして、いつも愛読しております。

法律家の方々のブログを読むと皆さん会計の知識が豊富で感心する限りです。一介の経理マンの私は法律について何も語れないというのに(いちおう法学士なのに・・・)

本件については実務的にもいろいろ思うことがありましたのでエントリしてみました。トラックバック失礼いたします。

足利銀行編も期待しています。

投稿: KOH | 2005年9月15日 (木) 02時06分

どうも、コメントまで残していただき、ありがとうございました。早速ですが、KOHさんのエントリーを拝読させていただき、足利銀行編ではございませんが、続編をアップいたしました。未実現利益による繰り延べ税金資産というポイントはKOHさんのおっしゃるとおり、やや遠いかな・・・と反省しております。
専門外の知識を振り回す、というのはやはりボロが出てしまうようでして。。
エントリーのなかで「会計士さん」と書いてしまいましたが、実際のお仕事は経理をされていらっしゃるんですね。重ね重ね失礼しました。
また、ご意見、お気軽にお寄せくださいませ。

投稿: toshi | 2005年9月15日 (木) 02時50分

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