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2005年10月31日 (月)

明治安田のコンプライアンス委員会(4)

(31日正午 追記あります)

ひさしぶりに、セレッソの試合を観戦しました。5月の大阪ダービー以来です。首位のガンバ大阪がFC東京に敗れたために、ますます混戦になってきました。29日現在で2位の鹿島と3位のセレッソの試合ということで、長居スタジアムもたいへん盛り上がってましたが、後半ロスタイム、セレッソMFファビーニョの「誰もが決まったと思った」シュートがポスト横にそれ、選手も観客も「ずっこけた」状態のまま試合終了(0-0)となりました。

ceresso-kasima2005

Jリーグの選手協会とは、実はすこしばかりご縁がございまして、もう10年ほど前のことですが、Jリーグ発足後、私は選手協会設立準備委員会の顧問をしておりました。当時の代表世話人の柱谷哲さん、都並さん、信藤さん(ベルマーレ平塚)とは、よく打ち合わせをいたしました。いよいよ組織が出来上がり、選手協会が設立され、井原さんも代表役員に選任されたあたりで、大阪の弁護士では協会サポートは事実上困難になり、私の司法研修所時代のクラスメートである小林弁護士(東京)にバトンタッチをいたしました。したがいまして、正確には小林弁護士が初代のJリーグ選手協会の顧問弁護士です。(その後たしか小林弁護士は、日本サッカー協会からの要請もあって、日本で初めてのFIFA公認代理人に認定されたように記憶しています。)ただ、そういったこともあり、セレッソ大阪とは、その後もおつきあいをさせていただき、一昨年は大阪弁護士会館で森島選手の講演会なども開催させていただきました。よく、プロスポーツ選手と弁護士、という関係では、契約交渉の場に現れるかっこいい一流選手のエージェント、というイメージが連想されますが、私の実際の経験からすると、毎年「大量解雇」される若いサテライトの選手たちの第二の人生を支援してあげる仕事、というイメージが強いですね。そういった意味では、スポーツ選手の「人材派遣業」を手がける企業と弁護士が提携するようなシステムが、もっとも適切かな、と思います。(このあたりは、行政書士さんもプロスポーツの契約交渉業務が可能となりました現在においては、弁護士法72条問題とも関係して、まだまだ問題点が多いところです)

さて、表記の「明治安田生命の行政処分」のエントリー、じつは(3)で終了しようと思っていたのですが、この週末、予想以上にたくさんの方にアクセスしていただきました(土日にもかかわらず平日と同じ程度のアクセスを頂戴しました)ので、若干の補足をエントリーさせていただきます。

イチローさんから、丁寧なコメントをいただきましたが、私のブログよりも「つぶやきイチロー」のエントリーをお読みいただいたほうが、保険業界の実態も理解されやすいのではないか、と思います。(もちろん、私にも、イチローさんにも誤解している部分があるかもしれませんし、そういった点がご指摘いただければ・・・とも思います)こういった企業の問題は、「報道の宿命」として、あと数ヶ月もすれば報道価値がなくなってしまって、世間の目からは離れてしまいます。しかしながら、そんな数ヶ月で「企業の社風が変わる」ということはありえない話です。私もイチローさんと同様、おそらくトップが変わろうとも、企業統合があろうとも、システムが出来上がろうとも、企業の社風が変わるのは、少なくとも10年はかかると思います。西武鉄道やカネボウ粉飾事件のように、トップが明確に「違法行為を助長」していたと思われる事件であれば、その原因を追及して、企業が変革をとげるのはまだ容易かと思いますが、金融庁が今回の処分理由で掲げていたような理由、つまり経営管理態勢(ガバナンス)自体に問題があった、とされるケースでは、「それでは、こういった体制に変えましたよ」ということで、すぐに不適切な行為が防止できるかというと、それはムズカシイのではないでしょうか。私は明治生命を弁護するつもりは毛頭ありませんが、今回の不適切な不払いに至った原因は、けっして「お客様」を無視した結果ではないと思っています。むしろ「まじめに保険料を払っていただいている契約者の皆様に不公平があってはならない、不正は許してはいけない」という根本の精神があったはずで、ただそういった企業の業務方針の実践方法に重大な誤りがあったはずです。したがいまして、企業の社風そのものが「悪い」わけではないため、「どこを変えれば改善されるのか」今後時間をかけて、十分検討しなければならないほどに困難な仕事が待っているはずです。

たとえば、今年2月、初めて明治安田生命の異常な不払い事件が発表されました。この不祥事については明治安田が自ら発表したと思いますが、それではいったい、なぜ発覚し、これを発表しなければならない状況に追い込まれたのか。自社のコンプライアンス機能が働いたために公表に至ったのか、これ以上は隠匿できない、といった後ろ向きの理由から公表に踏み切ったのか。ひょっとすると、前者だとすれば、今回の金融庁から受けた処分というものも、「変革途中の挫折」だったのかもしれません。コンプライアンス委員会からの調査報告書で触れられているのかどうかは不明ですが、こういった点も今後「企業が早期に自主的に変わりうるのかどうか」を判定する材料になります。

また、今回の「不適切な不払い」という対応、「がん保険の契約者」への対応というものが、時の流れによって世間の価値基準の変化があったとしても、常に非難に値するものかどうか、そういった点についても検討しておくべき課題です。改善に長年月を要する場合、たとえば10年もすれば、世の中の「企業責任」に対する考え方も変化します。私はそういった世間の企業に向けられた倫理規範の変化を「目ざとく」認識することも重要なリスク管理のひとつだと思っていますし、そういったバランス感覚を社内で涵養する必要性が今後ますます高まっていくのではないか、と予想しています。「こんな社内規則があるんだけど、なんで?」といった相談を企業から受けることがありますが、それは過去の重大な事件を風化させてしまい、誰もそのときの「おそろしさ」を記憶していないことに起因します。これでは、企業の精神が次第に変容してしまう「リスク」を認識する土台は作れないと思います。まずは今回の事件を10年間、風化させない仕組み、その仕組みをどうすれば作れるのか、今後の社内体制の改革のなかで十分に意識して取り組まれることを期待したいと思います。そして、どうかこのたびの被害者となった契約者の方々へ、謝罪に代えて、わかりやすい言葉でその取り組みを説明していただきたい、と思います。

なんか随分とえらそうなことを書き連ねましたが、やはり保険会社には株主によるガバナンスが機能しない分、その自浄作用に期待せざるをえないところが大きいわけですから、そのあたり、復活への期待も込めて、勝手なことを述べさせていただきました。

(追記)

今朝のニュースをみると、子会社ではありますが「100件ほどの保険契約書の偽造が判明」とのこと。なんか、昨日のセレッソの試合同様「ずっこけ」た感じがします。。。。

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2005年10月29日 (土)

明治安田生命のコンプライアンス委員会(3)

明治生命といえば、以前ちょっとだけ触れましたように、あの中坊公平さんを「弁護士自主廃業」に追い込んだ会社です。私は、大阪の泉北ホテル用地の所有者であった朝日住建の仕事を10年ほど担当しておりました関係から、整理回収機構(RCC)とともに、この用地の抵当権者であった明治生命(もう一社の抵当権者は横浜銀行)とも比較的近い位置におりました。そんなわけで、RCCのトップが関与したとされる詐欺疑惑事件の経過はリアルタイムで認識しておりました。あの事件の際に、「たとえ相手が国策会社(RCC)であろうとも、けっして屈してはならない。自分たちが正しいと信じたことは、曲げてはならない。中坊公平氏が我々に謝罪するまでは絶対に和解はしない」として、最後までRCCと闘った明治生命の姿は、たいそう感動したものでした。当時は、さまざまな雑誌などで、旧財閥の流れをくむ明治生命の企業精神は賞賛されていました。この2月の不祥事発覚で、責任をとって退職された明治安田生命法務部長の「弁護士さん」は、それはもう私からみたらあの、「大阪では畏敬の念をもって接しておられた先生も多い『中坊先生』相手に毅然と振舞う戦士」として、あこがれの弁護士スタイルにも見えたものでした。

しかしながら、こういった企業精神というものも、両刃の剣なのかもしれません。融通のきかない体制は、たしかに「不当な保険金請求」を減少させるに有効だったかもしれませんが、一方で一般の保険契約者に泣き寝入りを強いるような結果も招来させてしまったのではないでしょうか。

さて昨日の話の続きとなりますが、このたびの明治安田生命に対する金融庁の厳罰処分につきましては特筆すべき点がふたつある、と申し上げましたが、残りのひとつというのは、企業管理態勢(ガバナンス)の欠如、という点を金融庁が処分理由に掲げている点であります。重大な法令違反事実や、社内における内部監査制度の不適切性など、もちろん個別の事実の指摘もありますが、厳罰処分の一番大きな原因は、明治安田のガバナンスの欠如にあるようです。したがいまして、明治安田は、この経営管理態勢の様子を今後金融庁に報告をして、その改善が金融庁によって認められるまで新商品の販売業務は無期限で停止されたわけであります。この2月の処分の後、金融庁は、二度と同様の不祥事を繰り返さないように、ガバナンスの改善策が報告されるものと思っていたにもかかわらず、明治安田側からは、個別の不祥事該当事実への対策計画だけを行い、けっきょくのところこの10月まで、根本的な企業管理態勢の改善策は出されなかった、と(処分理由のなかで)指摘されています。もし、このような金融庁の期待といいますか、要望といったものが、明治安田生命ほどの大企業のなかで理解されていなかった、もしくは重要視されていなかったとしたら、これはたいへんおそろしい「勘違い」ではないでしょうか。今朝の日経新聞の報道では、金子社長が退任を発表して以来、4ヶ月が経過しても、次期執行部が決まっていないとのことです。企業の合併とは、こんなに難しいものなんでしょうか。企業の存続にとって重要な影響を与える「リスク」が目の前にあるのに、その重要性を認識できないほどに合併は企業の管理態勢を奪ってしまうものなんでしょうか。(といいますか、もし日経の報道内容が事実だとしますと、とうてい一般の社員にとって「コンプライアンス経営」などトップからのコミットメントが期待できる状況ではないようです)いや、「このままではマズイのではないか」と気づいた役員もいたかもしれませんが、こういった企業風土のなかで、言い出せなかったのかもしれません。この「勘違い」、明治生命特有の事情から発生したものであって、一般の企業においては起こりえないもの、と少なくとも私は整理しておきたいと思います。(金融庁が、処分発表と同時に、明治生命と他社との不祥事件数比較対応表を公表したところからも、明治生命への処分は特別に厳しくて当然である、ということを理解しやすいように、との検討のうえからではないでしょうか)

ただ、そうは申しましても、今回の金融庁の明治生命に対する処分理由は、おもにコンプライアンス経営、経営管理態勢の欠如に重点を置いたものであり、今後の一般企業における統制システムやガバナンス体制のあり方、外部からの評価のされ方を検討するにあたりきわめて示唆に富むものだと思われます。(さっそく、明治安田生命は、新会社法施行後、委員会設置会社に移行する予定であると発表していました)どういった改善報告をした段階で、金融庁が無期限業務停止を解除するのか、その報告内容についても今後注目したいと思います。これが株式会社だったら、株価は暴落の極みではないでしょうか。私のような外野の人間からみていても、今後「金融庁」のほうばっかりみて改善案を出しているようであれば、やはり「明治安田は変われない」と思います。くれぐれも、このたびの不適切な不払いの対象となった契約者やガン保険の契約者に対して、誠意ある対応をとっていただきたいし、またどういった誠意ある対応をとったのか、その報告内容こそ、復活のための試金石になるんじゃないでしょうか。

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明治安田生命のコンプライアンス委員会(2)

明治安田生命が今年二度目の行政処分を受けた、ということで、子会社を含めて、その営業に大きな影響を与えるほどの相当に厳しい内容の処分のようです。すでにいろいろなブログで、この話題が取り上げられており、ほとんどの方が「処分が甘い」「解散しろ」「会社ぐるみの詐欺だ」という論調です。ただ、保険業界でも、また当の明治安田生命でも、おそらくこれほど厳しい処分が金融庁から出されるということは予想していなかったのではないでしょうか?事実、先週の明治安田の役員会議では、もう関係者の処分も済んでいるので、形だけの処分(改善命令)程度ではないか、と予想されていたようです。ただ、一回目の処分は、自社で発表した2月の「不適切な不払い」事件の件数をもとにしたものであって、今回は7月に、ほかの多数の不祥事が発覚して、その後独立した第三者機関による本格的調査があり、また金融庁独自の立ち入り調査などもあったうえでの処分ですから、より厳しい処分が発令される可能性は十分予想されるはずであったと(私は)思います。ここで、金融庁の処分が甘いか厳しいか、を議論するつもりはまったくございませんが、とりあえず、一連の報道から、私なりに特筆すべき点として掲げるとすれば、以下の2点になります。

まずひとつめは、この金融庁の処分根拠となった調査報告です。今年7月中旬に、コンプライアンス委員会とともに、特別調査分科委員会が組織されました。私の8月16日のエントリーにも書かせたいただきましたとおり、北尾哲郎弁護士が委員長になり、社外第三者が中心となって不祥事の内容を調査する機関です。北尾委員長の10月11日の調査結果報告書や発言の内容からは「この○○という人のこういった行動が原因である」とか「会社ぐるみでの犯行」という「わかりやすい」原因究明結果の言葉は出てきておりません。(金融庁は、そういった明確な調査報告を期待していたフシがあります)むしろ、平成12年にまでさかのぼって、「明治」と「安田」、そして合併後の「明治安田」とのかかわりにまで触れ、いつの時点から急に不払い契約の案件が増えたかを分析したうえで、なぜそのころから増えたのかを検証する、というオーソドックスな手法を用いて冷静に事実認定を行っています。①モラルリスク対策プロジェクト(1990年代になって、保険金詐欺など、本来的に保険金を受給できる資格がないにもかかわらず、保険会社を騙して受給をはかろうとする個人や法人への対策は各保険会社にとっては急務でした)を立ち上げたこと自体は、非難に値するものではないけれど、その対策に全社あげて熱心になってしまったあまり、(目標としているモラルリスクは予想どおり減少したけれども)その裏で発生する別の会社リスク、つまり審査査定基準が厳しくなったことにより、本来すぐに受給できる人が、受給できないことになってしまうリスクが増えてしまった、②そして、会社としては、契約者にリスクを転嫁させて、収益を上げ、うまくリスクを転嫁させた部署に対しては表彰をしていた、というもので、バランスを欠いた会社の姿勢というものが、会社すべてに蔓延し、結果として会社自体がまちがった方向へ次第に向かっていった、という報告結果の要旨です。結論として「会社ぐるみの犯罪とはいえない」とされています。ただ北尾委員長は「経営陣が気づいていながら黙認していた、ということはないが、経営計画の面に問題があった」とされています。なんか、これだけを聞くと、「なんでそんなに甘いのか」といった印象を受けられると思います。でも、私の8月16日のエントリーにもすこし書きましたが、私自身のコンプライアンス委員としての経験からいえば、これ、すごく「リアリティ」があって、かなり真実に近いところの分析だと思っています。いきなり上司から「お前ら、このマニュアルどおりの勧誘方法で、だまして契約とってこい!」などという指示があったということは、到底考えられませんし、査定の段階でも、泣き寝入りしそうな契約者に、うまいこと言って支払を拒否しようといった気持ちがあったとも思えません。コンプライアンスを論じるときに最もむずかしいところがここにあると思います。現場の担当社員の気持ちとしては「まじめに保険料を払っている人たちが不公平な思いをしないように、また迷惑がかからないように、絶対に不当な保険料の支払請求には応じてはならない」という強い意思があったと推測します。ただ、そういった全社あげての奨励の結果、支払金額を抑えた部署を表彰したり、他者との不払い件数の比較をしなかったり(つまり、聞きたくないことには耳をふさいだり)したことが、もうひとつの常識であるところの「まじめに保険料を払っている人に正当に保険料を支払わなければならない」という絶対のルールを軽視する結果を招来してしまったのではないでしょうか。

たしかに、このコンプライアンス委員会(分科会)報告によっても、果たして経営陣が本当に「不適切な不払い」をしていることを認識していたのか、していなかったのか、曖昧なところが残るのは事実です。日本生命、第一生命、住友生命などへのライバル意識から、かなり「ヨコシマ」な気持ちがあったことも、ある程度は真実だと思います。(詳細に金融庁の処分内容を読んでおりますと、金融庁は、この報告書よりも、もうすこし「認識していた」に近い言葉を使用しており、興味深いところです)ただ、私はこの報告内容を(現実の企業を冷徹に眺めたときの)真実として受け止めて、再発防止の対策を考えるのが適切であり、金融庁の業務改善命令の内容にあるとおり、最善の策としましては、企業内部におけるガバナンスの改革、内部統制システムの構築とモニタリング、そして明確な形での経営陣の責任追及に尽きるものと思っています。

もうひとつの「特筆すべき点」につきましては、また明日にでもエントリーしたいと思います。(つづく)

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2005年10月28日 (金)

会社法の法務省令案

来年5月1日に施行予定(とされております)新会社法の「法務省令」案が、自民党の法務部会へ報告されたようです。本来はこの9月末あたりに出来上がる予定だったのですが、郵政民営化法案の紛糾によって、審議が遅延しており、今後パブコメを経て来年1月に公布予定だそうです。今回の新会社法は、現行商法に規定されている規定のかなりの部分が省令に委任されているために、まだまだ全体像がつかめないところがありますね。有名な商法の先生が必死で書き上げたと噂されている「リーガルマインド会社法」におきましても、省令が未だ判明していないために、「完全版」といえるのは次版だそうです。(あっでも、この本、体系書としてはすばらしいと思いますし、よく500ページを超える新会社法の基本書をこの時期に出版されたものだと、その学者魂には敬服いたします)

昨日の日経ニュースでは、以下のとおりの法務省令案に関する報道がされていました。

法務省は来年5月に施行予定の会社法に関する法務省令の概要をまとめた。企業がポイズンピル(毒薬条項)などの買収防衛策を導入する場合は、基本方針や具体的な防衛策などを株主総会の事業報告で開示するよう求める。企業自らが社内の法令順守を監視する「内部統制システム」の具体例や、社外取締役の「独立性」に関する情報の開示も求めている。省令案の概要は27日の自民党法務部会商法小委員会(塩崎恭久委員長)で報告する。

 企業に買収防衛策の情報開示を求めるのは、公正なM&A(企業の合併・買収)ルールを確立し、株主や投資家、買収者側が相手企業の取りうる防衛策を予想できるようにするため。具体的には(1)買収防衛の基本指針(2)防衛策の具体的内容(3)防衛策の合理性に対する経営陣の評価と意見――などを開示事項とする。

法務省は27日、自民党法務部会商法小委員会(塩崎恭久委員長)で会社法に基づく法務省令案を公表した。合併対価に外国株などが使えるようにする規定は、会社法本体より1年遅い2007年5月の施行予定であるため、今回の省令案には盛り込まず、改めて検討する方針を伝えた

重要な省令は、これ以外にも、会社の計算や監査方法、会計参与の会計処理方針など、たくさんあるわけですが、上記の自民党への報告事項というのは、この7月7日や10月13日に自民党から出されておりました「提言」に対する回答という意味があるようです。

自民党総合経済調査会、企業統治に関する委員会が今年7月7日に「公正なM&Aルールに関する提言」というのを出しておりまして、その中に「開示制度の改革」として「買収防衛策に関する会社法による開示制度の創設」という項目があります。その提言に合わせて法務省令案が策定されています。現在でも、買収防衛策を導入した企業は、適時開示しているところが多いと思いますが、そういった開示の基準というものが公布されるものと予想されます。ただ、M&Aの公正なルールということでは、法務省だけでなく、金融庁や経済産業省による証券取引法改正、防衛指針の策定などとも歩調を合わせる必要がありますし、また外国における日本企業の開示要件との均衡も考慮される点となります。

また、今月13日に自民党の三委員会合同で出されました「実行性ある内部統制システム等に関する提言」におきまして、内部統制システム構築の基本方針に関する「法務省令および証券取引法規則」における適切な開示が提言されています。その提言を受けて、内部統制システムの具体例を報告することになった模様です。ここでは、企業のトップがそれぞれの企業に適した内部統制システムを自主的に構築しなければならない、と提言されておりますから、今後監査役協会や取締役協会などから、いわゆる「報告書のひな型」のようなものが公表されるかもしれませんが、ひな型でどこでも同じ報告書、みたいな対処はかなりマズイんじゃないかな、と思っています。そもそも、上の「防衛策の報告」にせよ、「内部統制システム」の報告にせよ、一般投資家や買収希望者、株主からみた「企業価値」算定に直結するテーマですから、横並びの報告書では話にならないと思います。創意工夫を凝らした報告自体が、その企業の価値を表明するようなものではないでしょうか。おそらく、内部統制システム構築の具体例とすれば、取締役会における意思決定システムの記録方法、監査役による監視機能の強化方法、公認会計士の財務報告に関する充実した活用方法、監査役と会計監査人との連携方法、内部通報制度の設置運用状況などが中心になるものと思われますし、またコーポレートガバナンスと関連する内部統制システムとは別に、金融庁で検討がなされている「財務報告の信頼性を担保する内部統制システムの運営設置状況」についても、別途報告が必要になるものと思います。

さらに上の報道にもありますが、社外取締役、社外監査役の「社外性」の要件についても、その属性の開示などが「提言」されておりまして、これを法務省案に盛り込むことになるんですね。(ただし、提言のなかでは、こういった社外性の開示については、法務省令で規定すべきか、自主的ルールによって措置すべきか、さらなる検討が必要とされていましたが)この社外取締役の独立性に関する要件は、M&Aではもちろんのこと、内部統制システムの構築という面においても重要な問題点となりますが、あまり詳細な要件を盛り込んでしまうと、それこそ適任者を探すのが困難な状況になってしまいますから、おおまかで抽象的な要件にならざるをえないようにも考えられます。ただ、あまり不明瞭ですと、敵対的買収が発生した時点における社外取締役の役割などを考えますと、どうにも頼りない方が就任してしまうことも、困ったことになりかねませんので、かなりムズカシイところです。

とりあえず、会社法全体の理解に欠かせない「法務省令」ですので、一日も早く省令案が公開されてほしいですね。

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2005年10月27日 (木)

TBSは楽天を「濫用的買収者」とみなすのか?(2)

楽天がTBSの株式を19%超(19,09%)まで買い増して、これまでに総額1130億円もの取得費用をつぎこんでいる、との報道がなされています。いよいよ、楽天が「濫用的買収者」に該当するかどうか、つまり防衛策発動要件の有無を判断する時期に来ているのかどうかという問題の決着時期が現実化してきたようです。そもそも楽天が19%のところで立ち止まって、TBSの対応を迫っていること自体、防衛策を導入した意義(話し合いのための時間稼ぎ)はあったというべきでしょうから、このままの状態では防衛策発動というところまで踏み込むべきではない、というのが一般的には「理想的な模範解答」だと思われます。

ただ、どうも今週あたりの三木谷社長の周辺事情に関する報道から推察いたしますと、かなり楽天側に切迫した状態がうかがわれるようですね。(三井住友銀行の融資問題、ゴールドマンサックスの融資の限界問題など)そうしますと、資金支援先さえ確保できれば、このまま20%を超える株式取得へ踏み切る、ということもふつうに予想されるのではないでしょうか。(ところで、こういったタイミングで、SBIの北尾CEOが「楽天の意図をくじく『良い案』を私は持っている」などと公言するのは、どういった意味があるのでしょうか。なにか、楽天の引き際を演出するためのフリのようにも思えるのですが。真意がよくわかりません)

ところで、三木谷社長や村上世彰氏は「TBSの買収防衛策はそもそも株主総会の承認を得ていない。したがって、そのような防衛策発動は株主代表訴訟の対象になる」と公言されています。こんなふうに言われてしまいますと、さすがにビビっちゃいますが、さて本当にTBSの取締役は、もしこのまま防衛策を発動した場合、会社に対して善管注意義務違反を問われることになるんでしょうかね。やっぱり、この問題について、ちょっと真剣に考えてみたほうがよさそうです。

まず問題となりそうな点ですが、取締役のどういった行為を特定したうえで、注意義務違反の行為だと指摘するんでしょうか。防衛策を取締役会で決定して、6月にNPIへ新株予約権を発行した点でしょうか、それとも今回の防衛策発動の点でしょうか。それとも、それ以外の行為についてでしょうか。なんか、このあたりがこれまでに、きっちり議論されていなかったように思いますが、株主の損害ということであれば、やはりこのたびの防衛策発動の場面ではないでしょうかね。そうなると、株主総会の承認を得ていない事前警告型の防衛策がとられていることを承知で、株式を買った人たちがたくさんいて、そのうえで株価が上がったわけですから、いまごろになって「あれは総会の承認を得ていない」ということが「代表訴訟」と関係してくるのでしょうか。不公正発行に対する差止請求の問題とのカラミならわかりますが。

それから、「企業価値評価特別委員会」と取締役会との関係での論点がありますよね。おもに社外取締役や社外監査役で構成されている「評価特別委員会」の判断は最大限尊重する、ということですし、これまでの鹿子木判決でも「第三者機関」の要件判断が取締役会を拘束することこそ、防衛策の相当性判断に重要とされています。そうしますと、もし評価特別委員会で「発動が相当」との判断が出て、その判断にしたがった形で取締役会が防衛策発動を決定した場合、これが注意義務違反になるんでしょうかね。(この問題は、以前どなたかが私のブログでもご指摘いただいていたと思うんですが)もし注意義務違反になる、ということならば、取締役は評価特別委員会の判断に拘束されず、独自の判断で決定すべきである、ということになって、鹿子木判決の掲げる指針が、防衛策の指針たりえないことになってしまいます。でもこれって、代表訴訟で取締役の責任を追及するにあたって、ものすごくネックになってしまうんじゃないでしょうか。ただ、評価特別委員会の判断形成過程に、取締役の違法行為が関与していた、という構成は考えられるかもしれません。たとえば評価特別委員会の判断資料として、TBS側の資料におかしいところがあったとか、評価特別委員会のメンバーが直接、楽天から話を聞く機会を与えなかったとか、利害相反関係にあるメンバーを出席させたまま開催をした、などなど。今後の社外取締役の防衛策検討にあたってのスタンスなどを考えますと、こういった問題点が司法の場に出てくるのは私個人としては興味深いものがありますが。

あとは、代表訴訟ではなく一般の損害賠償請求訴訟ということで、評価特別委員会のメンバーへの責任追及というのもありそうですが、これまでの判例をみますと、第三者というのが「株主」の場合、株価の下落自体を第三者による責任追及で補完する訴訟形態というのは、ほとんど救済に裁判所は消極的ですよね。おそらく明確な違法行為でもないかぎりは、無理があると思います。

しかしながら、この代表訴訟という点を除外して考えた場合、本来はやはりTBSの第三者割当による新株予約権付与という防衛策は株主総会の承認を得ておくべきものだと思います。TBS側は資金調達の具体的な計画によるもの、と説明しておりますが、おそらく資金調達の具体性は立証困難なものでしょうし、とってつけた理由にしかならないと思います。そうしますと、とりあえずは支配権維持目的ということが推定されるでしょうから、やはり防衛策自体の承認はあったほうが無難なような気はしますね。

この楽天とTBSの問題、いずれの側にもM&Aビジネスで将来的に収益をあげよう、と考えていらっしゃる大手の企業ががっちりガードしちゃったようなんで、もはや「情緒論」ではカタがつかなくなっちゃったかもしれませんが、私はもうすこしだけ、私のような素人にもわかる形で「情緒的」な議論が進んでほしいと思っています。楽天にしても、TBSにしてもどういった事業計画によって「将来の企業価値の向上」を図ろうとしているのでしょうか。「(世界一の)放送と通信の融合」とか「放送の公共性」といった抽象的な議論をされても、(素人の私でさえ)なんにも価値の比較とかできる話ではないでしょう。評価特別委員会のメンバーの方や、TBSの社外取締役の方が、TBS単独での事業計画や、統合後の楽天サイドの事業計画から、買収プレミアムを支払ってでも、統合後のシナジー効果が得られかどうか、その是非を考える根拠というものを、専門家以外にもわかるような内容で示すことが大前提だと思います。TBSの時価総額は、2004年度末で3200億円だそうでして、金融資産や不動産も豊富です。設立に関与した東京エレクトロンを含め、資産の3分の1を占める金融資産の取扱や、三井不動産に委託しているTBS所有の赤坂再開発地域の不動産の運営方法は今後どうするのか、本業の放送についてはどういったコンテンツを考えているのか、通信業界とはどういった計画を進めるのか、著作権の取扱については対応方法を検討しているのか、などなど、たとえ思考過程は情緒的であっても、かならず検討しなければならない項目がいくつかあるはずです。こういったところが、どんな解決に至ろうとも、明確に報道されたり、楽天やTBSを支援する専門家集団から公表されたりしなければ、いつまでたってもM&A対応策というものが社会的インフラにはなりえないんじゃないか、と私はいささか、懸念している次第です。

そういえば、「夢真と日本技術開発」の敵対的買収のあらすじを興味をもって、いろいろと検証しておりましたころから、どうもセンセーショナルな「司法判断」ばかりに社会や報道の興味が向かってしまい、肝心な「引き際」「おとしどころ」に関する議論への興味が薄れてしまっているんじゃなかろうか、と一抹の危惧を抱くようになりました。裁判で負けてしまっても、買収者に過半数を握られてしまった会社の社長さんは、有能な役員や従業員、取引先を引き連れて、新しい会社を作ることは可能なわけですから、(人的クラウンジュエルといいましょうか)当事者はどちらも最後は「友好的買収」にもっていくべきノウハウを培っていかないといけないと思うんです。いろんな方のブログなどを読ませていただいても、そう感じるようになりました。そういった司法判断以外における問題解決の智恵のような部分を、このたびの阪神、村上ファンドの件や、楽天TBSの件、そして未だ解決に至っていない夢真、日本技術開発などの件で、なんとか学べたらなあ・・・・と考えております。

PS いいところなく、終わってしまった日本シリーズでしたが、こんなことでめげる阪神ファンではありませんぞ。今年一年、選手のみなさん、お疲れさまでした。どうかゆっくりと体を休めてください。今年も甲子園でたくさんの家族の思い出を作りました。本当にありがとうね。(でも、来年の交流戦、絶対にロッテには負け越さないでね)それから、ロッテの選手のみなさん、日本一おめでとうございます。バレンタイン監督は吉本興業と契約したので、またシーズンオフには関西ローカルのテレビなんかにも出演するんでしょうねぇ。。。

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2005年10月26日 (水)

コンプライアンス実務研修プログラム

朝から中間決算と下半期予算確定のための役員会に出席しましたが、なんとかお昼には京橋(ビジネスパーク)まで戻ってきまして、表記の研修会に参加してまいりました。第一法規出版さんの主催で、伊藤忠商事法務部のご出身、東京の大学の先生をされている方と、同じく伊藤忠の法務部ご出身で現在某企業の法務部長さん、お二人によるものです。新しい第一法規の出版物(企業法務関連)販売促進ということもあるようでしたが、30名程度の少人数の双方向型プログラムで、こういった研修は大阪では数少ないものですから、なんとか時間を作って4時間程度、勉強させていただきました。

なんか、私ばっかり質問させていただいておりましたが、印象に残った問題点がいくつかありました。西武鉄道の新入社員の「お墓参り」のお話。次第に、社員がトップに反論できないような状態に陥ってしまう社内の雰囲気といいますか、そういった社員になってしまう実態というものがあるんですね。これは現在でもいろんな会社でも同じような状況があるように思います。社員がコンプライアンス経営の精神を理解する、ということは到底難しいでしょうし、やはりトップの姿勢というのは不可欠の条件なんでしょうね。

行動規範は全社あげて作ること、決してどっかの「ひな型」を法務部が拾ってきて、これをモデルとして法務部だけで作らないこと。なるほど、行動規範を作る時に全社員に情報提供や規範の文言作成に協力してもらい、その策定の過程でコンプライアンスの重要性を全員で認識してもらうのが効果的、というお話。同じことは「改訂作業にも言える」そうで、できれば毎年のようにリスクの評価(当然、毎年企業リスクの重要性は変化する)を全社で行い、「改定」も全社で行うことにより、常時法令遵守の基本精神を喚起させることができるそうです。

内部統制システムの策定プランについては、平成15年6月の経済産業省「リスク管理、内部統制に関する研究会報告」と平成17年9月の同省「内部統制指針、中間とりまとめ」については同じ方向性での提言であるため、プラン策定にあたってはどちらも参考にできる、とのこと。

いちばん感心いたしましたのは、講師である某上場企業の法務部長さんが作っておられる社内イントラネット向きの「法務ページ」なるWEBページです。これ全国の社員がネットを通じて閲覧できるものでして、営業部門や経理部門など、部門ごとに参考となる事例をまとめたり、その業界特有の法律解説がなされていたり、政府の法律解説パンフレットをPDF化して、きちんと政府の承諾を得たうえで、各パンフの解説ページを「しおり化」して閲覧しやすいようにまとめられていたり。もう、その企業向けに至れり尽くせりの法務解説WEBでした。(そのまま市販化したら、たいそう売れそうなものです)社員の違法行為といいましても、故意のものから、過失のものまであります。こういったWEBは、おそらく広報することによって社員が犯しかねない「過失」行為を未然に防止するには非常の効果的なものなんでしょうね。ただし、どんなに立派なWEBページを法務部が作成しても「迷ったときには閲覧しよう」という社員の動機付けは必要だと思いますが(これが一番むずかしかったりするわけですが)

どうも、私のように会社勤務の経験のない者からみると、「法務部」というのは受身的な部署のようなイメージを持っていましたが、こうやってコンプライアンスという鏡で見ますと、かなり積極的な行動が目立ちました。いいですね、明るいイメージの「法務部」ですね。(実態はかなり厳しいものだとは思いますが・・・・・)講師の先生方、きょうはどうもありがとうございました。(こういった研修が連続モノだといいんですけど。。。)

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2005年10月25日 (火)

課徴金納付命令と内部通報制度

昨夜のエントリーに対して、1ma24 さんからコメントをいただきました。

「課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則」から、課徴金の減免に関する申告書には社長印を押印することになります。そうすると、担当者個人の申告では受理されないのではないかと思いますが、如何でしょうか。

なるほど、公正取引委員会のページに「課徴金の減免に係る報告および資料の提出に関する規則」がアップされています。(先週10月17日に公表されたものなんですね。)気がつきませんでした。(ご教示ありがとうございました。)この独占禁止法7条の2の運用に関する規則によりますと、課徴金減免対象企業になるための報告書様式やファックス番号まで指定されています。その申請書には代表者印を押捺しなければならないこととなっており(原本は追って提出すればいいようです)、客観的な証拠などについては、その後別の様式の報告書を提出することで補完されることになっているんですね。

課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則

(調査開始日前の違反行為の概要についての報告)

第一条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)第七条の二第七項第一号又は第八項第一号若しくは第二号(法第八条の三において読み替えて準用する場合を含む。以下同じ。)の規定による報告及び資料の提出を行おうとする者は、様式第一号による報告書一通をファクシミリを利用して送信することにより公正取引委員会(以下「委員会」という。)に提出しなければならない。
 前項に規定する報告書の提出に関するファクシミリの番号は、〇三―三五八一―五五九九とする。
 ファクシミリを利用して第一項に規定する報告書が提出された場合は、委員会が受信した時に、当該報告書が委員会に提出されたものとみなす。
 第一項に規定する報告書の提出を行った者は、遅滞なく、当該報告書の原本を委員会に提出しなければならない。

こういった運用は、今後たとえば証券取引法違反行為に行政処分を付するような改正があった場合にも、同じ運用になることが予想されますから、実際にどのような運用がなされるのかリーディングケースになりそうです。

課徴金減免の効果を有する申請が「事業者」自身によるものでなければいけないことは、この規則でよくわかりましたが、やはり(公取委における調査開始までに)実際に反則行為(もしくは犯罪行為)に加担していた担当社員が公正取引委員会に自社の行為を申出ても、なんの効果もないんでしょうか。検察庁が「起訴はしない」という誓約をすることは考えられませんが、公正取引委員会側から、客観的な証拠資料を持参したうえで情報を提供した社員については事実上「告発」しないということは無理なんでしょうかね。

この問題で悩ましいのは、もし来年4月から施行される公益通報者保護法による内部通報によって企業に談合事実が申告された場合です。今回の道路公団の事件によって、もはや企業は担当者を助けてくれることはないはずですから、これからの自分の人生を守れるのは自分ひとりです。「ヤバイ」と思ったら、内部通報制度を利用して、自主申告を勧めることも十分考えられるところです。通報を受けた企業としても、対応をゆっくり検討しているわけにもいかないでしょうし、これまでのように「トップとしては知らなかった」とは言えないはずです。内部通報制度についても、統制手段のひとつですから、かならず手続きは文書化されるはずですし、(通報や受理の時期次第では)当該企業が告発免除や課徴金納付減免を受けられなかったとなると代表訴訟の対象にもなりますよね。たとえば、匿名通報で受けたケースなんかでも、ホットラインの窓口としては、「匿名だから受理しない」といった対応で済ますのは申告事案からみてマズイんじゃないでしょうか。匿名での申告であっても、客観的証拠の有無や、申告事実を知った経緯などについては再度質問したり、調査することも可能なはずです。

実際のところは「官製談合」と思われるカルテルが多いとは思うのですが、こういったケース、企業としてどういった対応をとるべきか、シミュレーションしておいたほうがいいような気がします。

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社員は談合企業を救えるのか?

企業コンプライアンスを考えるうえで、「告発」や「申告」といった企業や社員の行動に期待をかける重要法令が来年から施行されます。ひとつは1月4日施行の改正独占禁止法であり、もうひとつは4月1日施行予定の公益通報者保護法です。それぞれ法律の趣旨はまったく異なるものですが、法律施行をまえに、全社的対応を要求されることについては間違いないと思われます。

これらの法律や施行規則の内容につきましては、私なんかより、このブログをお読みになっておられる法務部スタッフの方々のほうがよっぽど詳しいと思いますので、ここで紹介することなどはいたしませんが、ちょっと私が施行をまえに疑問に思っていることがあります。(でもひょっとするともう議論が出尽くしている問題かもしれません)といいますのは、改正独占禁止法の施行において、課徴金が減免されたり、一番目の申告者について公取委が検察庁に告発しない、といったリーニエンシーに関する疑問点です。

ご承知のとおり、談合という犯罪行為の発覚を容易にすることを目的として、改正法では先に犯罪行為についての申告をしてきた事業者については、行政処分としての課徴金を免除したり減額することになり、また刑事罰についても検察庁への告発を見送る、という措置をとることになっています。ここで予定されているのは、おそらく「事業者」が自己の談合行為を申告することでしょうが、もし事業者の担当社員が事業者とは無関係に公取委に犯行を申告したときには、いったいどうなるんでしょうか?この場合は事業者自身が犯行の申告を決定したものではないので、課徴金減免の対象となる「自己申告」には該当しないのでしょうか?これ、談合行為というと、法人とは別に個人についても刑罰の対象となりますから、事業者の個人社員が先走って犯行を自首するという事態は大いに考えられるところですよね。

この課徴金減免制度というのが運用されるのは、企業名を伏せた状態での事前相談制度や、先着の優劣を客観的に判断するためにファックスによる申告方法がとられるそうですが、たとえそのような申告の受付制度であったとしましても、企業の担当者が公取委に訪れたときに、「あなたの申告は会社の承諾を受けているか」と質問したうえで、わざわざ公取委の担当者が受付を受理しないといった運用はおそらくしないでしょう。もし、こういった正義感の強い、もしくは個人処罰を恐れる担当者が事業者に先立って犯罪行為を申告して、やむをえず発覚後に犯罪行為の捜査に協力した事業者にとっては、この社員のためにみすみすリーニエンシー制度による利益もしくは社会的信用回復の機会を奪われることになるわけでして、なにか不合理な気もします。この申告した社員については、おそらく公益通報者保護法によって、事業者内における法律上の不利益は受けないことになろうかと思いますが、それでも企業を救うつもりが、かえって企業の不利益になってしまうということだと、やはりその社員にとりましては、申告することに躊躇せざるをえない事態になってしまいそうです。社員の申告によって自社の犯行加担が発覚した事業者としても、もはやリーニエンシーの恩恵を受けられないとあっては、もはや公取委の調査に協力する気もなくなってしまいますよね。

もちろん実際の運用にあたっては、申告自体が犯罪行為の把握を容易にしなければなりませんから、ある程度の合理的な証拠を持参した事業者でないと、申告者たりえないのだと判断されますが、うえのような問題をなんとか解消できないものでしょうか。はじめは事業者とは無関係に犯罪行為を申告したんだが、その後事業者自身がその申告を知って、これを了承し、立ち入り検査前に全面的に公取委に協力する姿勢をみせた場合には、最初から事業者の申告があったとみなす、といったような「追認」制度のようなものも考えられるのではないかな・・・と思ったりもします。

おそらく公益通報者保護法の施行となりますと、コンプライアンスホットラインの広報だけでなく、そういった倫理行動を実質的に高揚させる手段を、どの企業も検討するでしょうから、従業員の告発利用度は飛躍的に高まるはずです。現実に昨年からホットラインの運営に携わっている私としましても、匿名通報でさえ、窓口側の応対次第では、客観的な証拠に基づく顕名通報に生まれ変わりますので、社内通報の対応のみならず、行政通報や第三者への通報がなされた場合の対応についても、詳細に対応マニュアルを検討しておくことが肝要だと思います。

先の疑問、もしすでに解決済であれば、またご教示ください。この改正独禁法の運用と公益通報者保護法制度の絡みでは、まだまだ実務上での疑問点がたくさんあるんです。。。

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2005年10月24日 (月)

買収防衛目的の新株予約権発行の是非

週末、商事法務1744号の落合誠一東大教授の「株式・新株予約権と資金調達」を読んでみました。先日のエントリーで落合教授の「企業会計10月号 論壇」の斬新な解釈論がおもしろい、と書きましたが、今回もなかなか斬新な解釈論を展開されていて、経済産業省における「敵対的買収への防衛指針」続編や今後の裁判の解釈指針などの議論にも反映されることを期待したくなります。

先日の鹿子木判事の日経インタビュー記事でも、「権限分配理論」について、判事自身が防衛策の是非を論じる際の基本線であることをおっしゃっていましたが、落合教授はこの「権限分配理論」への裁判所の偏重と、従来からの「資本調達」という意味が狭く解釈されていることへの疑問とから「主要目的ルール」を適用する判例の態度を批判されています。そして、企業価値を向上させるような「良い株式・新株予約権発行」に該当するのであれば、たとえ明確な事業資金調達という狭い目的でなく、支配権維持目的であっても、「外部からの投資の受け入れ」としての資金調達性が認められる場合がある、とされています。残念ながら、ここでいう落合教授の権限分配理論批判の根拠、そして企業価値の中身やその算定根拠、裁判所における企業価値の判断方法などについては、この「商事法務」ではなく「企業会計10月号」を読まないと分かりづらいところもありますが、防衛策を講じようとする企業、防衛策にこだわらず「企業価値の向上」のための施策を検討している企業にとっては、これからの実務指針を議論するうえでは非常にわかりやすい理論ではないか、と思います。

これまでの敵対的買収に対する防衛策を改めて検討していますと、結局のところ「なぜ、新株予約権付き株式」が認められないのかな・・・・といったところに疑問が集約されてくるように思います。現商法上、これが認められたら、素直に防衛策を検討しやすいと思います。また新会社法においても、やはり条文上で新株予約権付き株式は規定されていませんので、効果が最も近いと思われる条件決議型の新株予約権発行、権利行使の基準日を「敵対的買収発生日」と後から決める方法というのが(現在のところでは最も)妥当な線とされているのではないでしょうか。たしかに、こういった防衛策を、専門チームの力を借りて導入したとしても、せっかくM&A盛んな時代になったにもかかわらず、既存の企業経営陣が「企業価値向上」を真剣に検討した経営を行うようになるかというと、ほとんど期待はできないんじゃないでしょうかね。一般に社外取締役導入の機運が生じたことはあっても、現実にこの防衛策との関係で社外取締役論が進化したかといえば、ほとんど議論されていない現状をみても明らかだと思います。企業経営陣が株主のほうばっかり気にせずに、他者との競争に勝つことで(結果として)企業価値が向上することや、多数株主と少数株主とでは利益が相反することもあり、そういった株主の利益の最大化を図るためにはどうすればよいかなど、経営陣が普段から企業価値向上策を講じる方向へ向かわせるための解釈指針こそ、もっとも企業実務家にとって実益の高いものだと考えられますが、(ぎゃくに言えば、そういった努力をしなかったり、方策を検討できないような経営者にとっては厳しいものとなりますが)そういった意味では、この落合教授の考え方は理にかなったものだと思いました。

東大の神田教授も「新株発行における既存株主と新たに株主となる者との利害調整」(会社法第4版補正2版200ページ以下)におきまして、「たとえば事前の規制はおかないこととし、取締役の義務や多数株主の少数株主に対する忠実義務の問題として、事後的にその違反の有無を裁判所が判断するという規整もありうる。アメリカの州会社法は、この規整に近い」と述べておられ、権限分配論にこだわらない解釈指針もありうることを、示唆されているところが興味深いです。(こう解釈できる、とまでおっしゃっているわけではありませんが)

各論的な問題については、また別のエントリーで「続き」として考えてみたいと思います。

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2005年10月21日 (金)

ライブドア、TBSへの協力提案の真相

日経ニュースで、ライブドアがTBSに対して株式を取得する用意があることを発表した、とあります。

(日経ニュースより)

インターネット企業のライブドアが民放大手のTBSに対し、楽天との経営統合交渉が決裂してTBSが敵対的な買収の脅威にさらされた場合、TBS側の防衛策に協力する用意があると申し入れていたことが20日、明らかになった。あくまでTBSからの要請を前提に「TBS株を持ってもいい」などと伝えたという。  TBSは「楽天からの経営統合提案を社内で検討中」として具体的な返答はしていない。TBSは大株主を持つことに慎重な姿勢を示しており、現時点で提案をそのまま受け入れる可能性は小さいとみられる。

本当に、この話はライブドアのほうから持ち出されたのでしょうか。TBS側からライブドアに提案(といいますか、企業提携について手を上げてほしいとの要請)したことは考えられないでしょうか。企業価値向上のためのTBSの提案もしくは楽天からの提案への反論において、ライブドアが提携を申し出ている、という既成事実があると、TBSにとっては非常に有利ですね。つまり「なにも企業統合までしなくても、楽天さんのお申出のシナジー効果は、ライブドアさんと事業提携をすることで可能である。TBSとしてはこれまでのコンテンツを中長期的に推進することで企業価値を十分向上させることができますよ」と(楽天の提案を)排斥することができそうです。ライブドアと共謀している、とみられたら「楽天を排除するための工作」ととられかねませんから、あえてライブドアからの申出として表明されていることも考えられそうなんですが。どうなんでしょうかね。

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社内文書はいかに管理すべきか

本日は、夕方から皮膚科のお医者様方120名の前で、医療過誤(医事紛争)の予防と対処に関する講演をさせていただきました。しかし「お医者様」の世界というのはまさに「別世界」、「弁護士の世界」とは違います。第一部が阪大医学部教授、第二部が私、という講演だったのですが、第一部の教授がすこしばかりスポンサー製薬会社の商品について説明(リップサービス)をするだけで、ホテル阪急インターナショナルでの学会すべての運営費用が「スポンサーもち」になっちゃうんですね。(って、こんなこと普通に書いていいのかどうかわかりませんが)ちなみに、弁護士の世界の場合、よほど著名な先生ガタが集まって、研究会の内容を出版することが前提にでもなっていないかぎり、手弁当が当たり前だと思います。

皮膚科の先生がたも、昨今は「美容外科」診療へ進出する方が多いようで、そういった医療事故に遭遇する可能性が高まってきた、ということのようでした。学会終了後は、これまた豪華な懇親会でして、お若いお医者様方との交流の機会もあり、いろいろ貴重なご意見もうかがいました。そんななか、「証拠保全」に関する私の講演をお聞きになった若い先生より電子カルテに関する質問がありました。紙ベースに関する証拠保全手続というのは、私もよく経験しますが、電子カルテに関する証拠保全の経験はありません。実際、電子カルテによる保存を行っている病院でも、裁判所から証拠保全手続を受けたことを想定して、改ざんが疑われないようなシステムを構築している、というものでした。総合病院ではすでに電子カルテもしくはカルテの電子保存(つまりPDF化)のどちらかを採用しているところが多いようですが、通常の開業医さんのところでは、まだほとんど紙ベースでの保存だそうです。

裁判所による文書の電磁的記録物への証拠保全というのは、すでに2000年ころから始まっているようでして、有名なところでは某司法試験予備校によるワープロソフトの違法コピーの証拠保全や、最近では有名国立大学内におけるソフト違法使用の証拠保全などがあります。この裁判所による「証拠保全」といいますのは、裁判官が現場で証拠物を「検証」する作業ですから、紙ベースではなく電子的保存文書が対象となりますと、単にその文書の中身だけでなく、どういったパソコンでどういったソフトを用いて、文書の真正性はどうやって確認できるか等、保存方法という技術的な側面についても検証がなされるわけです。したがいまして、これまでの証拠保全のように裁判官が病院に到着したころには、すでにカルテのコピーが一式出来上がっていた、ということでは済まないようで、保存の対象となっているハードの検証から、ソフトの検証、文書化ファイルの検証、バックアップCDやサーバーの検証など、とても時間のかかる作業になるわけです。

e-文書法が今年の4月から施行されたことなどにより、一般企業の社内文書(各種法律により文書の保存が義務付けられているもの)も電子的保存という方法が用いられることもありますし、また企業によっては、逆に内部統制システム構築の作業のなかで紙ベースの文書として大量に保存するところもあります。情報伝達のミス防止や財務情報の一元管理のために、各企業によって社内文書の取扱方法は様々でしょうが、いずれにせよ、証拠としての保全に役立つ方法を十分検討しておくことが必要です。たとえば今日、電子カルテについて聞いた話によりますと、手書きのカルテの場合には、外来のために忙しい医師が、適当にカルテをつけておいて、外来診療が終了した後に、患者さんを思い出しながら清書していくことができます。極端な話、1ヶ月先に、診療を思い出しながらカルテを書き直しても、なんら違法ではないわけです。しかし電子カルテの場合ですと、改ざん記録が明確に残りまして、書き換えというのは原則として禁止されており、もし清書したい場合には別のファイルに再度入力しなければならないそうです。これはたいへん煩雑な作業でして、レセプトにも影響が生じ、多大な医療事務の停滞を招くことがあるようです。同じような問題は、一般企業の社内文書の取扱にも発生することが考えられます。すべての社内文書が裁判所による証拠保全手続の対象になるとは思えませんが、もし裁判所の決定が出て、社内文書が対象となった場合、裁判所からの連絡は検証の1時間前ですから、文書の検索、特定作業などが瞬時に可能でないと「検証はできない」ということになります。(膨大な量であっても、紙ベースでの保存ということであれば、よほど不適切な整理方法がとられていないかぎりは問題は発生しないことになりますが)これは非常にマズイわけでして、(証拠としての保存方法に瑕疵があるものとして)内部統制システムの構築義務違反にとどまらず、企業の証拠全般にわたる信用性の欠如、証拠の隠滅のおそれ、虚偽文書作成のおそれにつながってしまう危険性があります。書き換えが容易であり、業務の状況によって、文書化作業をフレキシブルに行える方法と、現場における手間と時間を要し、業務の停滞を招くかもしれないけど、情報の一元管理、保管の容易さなどを重視する電子化の方法と、どちらがいいかは、個々の企業によって異なるものとは思いますが、監査証憑という意味でも、また裁判における証拠の保全という意味においても、社内文書の管理方法は、その業務の信頼性を客観的に担保しうる方法でなければならないことに留意しておく必要があります。

世話役のかたがた、本当に今日はご馳走さまでした。。。

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2005年10月20日 (木)

村上ファンドと阪神電鉄株式(その2)

巷では、どちらかといいますと「楽天とTBS」のほうに話題が集中しているようですが、村上世彰さんが40%の株式を保有する阪神電鉄について、すこしばかり話を戻したいと思います。10月4日付けで、私は村上ファンドと阪神電鉄株式というエントリーをアップいたしました。ほとんど内容に乏しいエントリーですが、いろいろな方にコメントやトラックバックを頂戴いたしました。阪神淡路大震災で被害に遭い、福知山線事故のショックが残る阪神地域において、この公共交通機関の経営においてはどうしても避けて通れない問題は耐震対策と安全対策です。村上世彰さんが、株式取得に関する報道よりも以前、まず真っ先に国土交通省に行かれて、担当職員と阪神電鉄の交通安全面での設備状況の確認をとっていた、と後から報道されましたが、これは当然のことだと思いますし、(村上さんという方は)自分の足で歩いて「当たり前のことを当たり前にやる」人だという印象を受けました。

昨日あたりから、阪神電鉄の経営面に関する協議が阪神電鉄経営陣と村上氏側との間で始まったということですが、10月19日の「読売新聞関西版夕刊」で気になるニュースを発見しました。列車の緊急停止装置について、読売新聞が鉄道37社について調査したところの結果が公表されていました。運転士が運転中に意識を失ったり、居眠りをしたときに列車を自動的に止める緊急装置「緊急停止装置(EB装置)」と「デッドマン(DB装置)」の設置状況についてですが、その整備率は100%から0%まで、様々であることが判明したようです。(なお、現在のところ国土交通省は、この緊急停止装置の設置は各鉄道会社の任意ということだそうですが、現在国土交通省より諮問を受けている「鉄道に関する技術基準検討会」では中間とりまとめが25日ころにも出され、そのなかでも検討されているようです)

以下の表は、私が読売新聞調査の結果から、任意の範囲で適宜抜粋したものです。

         hanshin20051019

ご覧のとおり、阪神電鉄につきましては、ライバル私鉄である阪急、山陽電鉄、神戸電鉄がほぼ100%の設置率であるのに対し、関西では唯一0%の設置率となっています。(安全面で問題がいろいろと議論されているJR西日本ですら59%の設置率です)なお、この結果に対しては、阪神電鉄は「高機能のATSを採用しているため」と述べておられますが、しかしながら阪急や山陽電鉄はDB装置100%の設置率のうえに、さらに阪神と同じATSを採用していますので、あまり説得力のある理由にはなりえていません。阪急、山陽電鉄、神戸電鉄の対応は、まさに阪神淡路震災による住民の心理的不安を除去する真摯な取り組みからだと推測されます。(ちなみに、関西の方以外はわからないと思いますが、山陽電鉄は阪急、阪神と相互乗り入れをしています)また、JR福知山線の脱線事故については、この装置が設置されていれば防げた可能性があるとのことで(読売新聞一面での報道、ということはJR西日本では、この区間では採用されていなかった、ということでしょうね)阪神においては早急な対応が必要ではないでしょうか。

私は前のエントリーのとおり、村上さんが経営しようと現経営陣が経営を継続しようと、あまりこだわりはありませんが、阪神タイガースの上場ばかりが報道ソースとして話題に上ってしまっていて、どうも企業の社会的責任というものがないがしろにされているようで、少しばかり不安を抱いております。ひょっとすると、阪神電鉄全体の経営にとって、こういった安全対策というのは費用としては軽微な問題であって、大きな話題としては取り上げる価値がないのかもしれません。しかしながら、長期的な株主価値といった側面から検討するならば、こういった地域住民や電鉄利用者への広報活動は非常に有用なものであり、タイガースファンだけでなく、老若男女一般市民が「阪神電鉄の企業価値」を理解できる情報ではないか、と思うのです。どちらの口からも、今後の阪神電鉄の企業価値向上のための施策として、こういった問題が聞かれないとしたら、さすがに悲しい気分になってしまいます。

PS 

そういえば、MUFGと住友信託との独占交渉権違背による損害賠償請求事件の和解、どうなったんでしょうか?たしか予定では10月19日に第二回目の和解期日だったと思いますが。どこにも報道されていないということは、なくなったんでしょうか?

(追記 10月20日正午)

新聞報道によりますと、予定どおり10月19日には和解期日が開催され、けっきょくのところ和解決裂で弁論に戻るようですね。

話はまったく変わりますが、警察、検察、裁判所の三重ミスによって、少年法違反のまま19歳の男性が10日間拘置されていたそうですね、こんなことってあるんでしょうか。ビジネス法務とは関係ありませんが、ビックリのニュースです。信じられないようなミスですが、こういったことに接しますと、やはり刑事弁護人の被疑者公選制度(軽微事件も含む身柄拘束事件)の導入というのも、その必要性に説得力が出てしまいますね。

(追記おわり)

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2005年10月19日 (水)

中堅ゼネコンと企業コンプライアンス

平成16年から継続していた中堅ゼネコンの破産管財業務がほぼ終了しました。(つまり、旧破産法を適用する破産管財業務です)破産管財人として、企業コンプライアンスの難しさを痛感した事件でした。

ひとつは大型マンションや新築ビル建設の請負業務にからむもの。大手ゼネコンが受注するわけですが、第一次下請として中堅ゼネコンが大手から受注します。破産管財人になった当初から懸案だった数十億の使途不明金。解明できたのはごくわずかですが、予想以上に「闇の世界」への流出です。近時、大手ゼネコンは自ら手を汚さないわけでして、結局は「闇の世界」をうまくまとめあげるのが中堅ゼネコンの仕事であり、そういった仕事を手際よく仕切るところが重宝がられるようです。もちろん「どこでも」とは申しませんが、中堅クラスのゼネコンだと、長年の経理上の「知恵」こそ、平穏な工事完了に不可欠な要素のように感じました。コンプライアンス経営とはいえ、こういった「元から絶つ」ことが困難な事情が存在する場合には、下へ下へとリスクの大きい灰色の仕事が回されている現実をみると、なにか割り切れないような思いがしました。サプライチェーンCSRなど、こういった業界では受け入れることは現状では到底困難だと思います。

もうひとつは、現場監督と私との工事現場でのやりとりが発端でした。ご承知のとおり、大きなビル建設の工事現場では、警察の許可を得て、工事車両の現場出入りを円滑に進めます。(たとえば一方通行道路の逆進行の許可など)ただ、この警察の道路使用許可というのも、けっこう細かい条件が付されるのが通常でして、車両進入時には、どういった方向から何人の警備員に誘導されてバックから進入しなければならない、など)ところが、工事の円滑な進行のために、いろいろと現場監督が「裏の手」を使って、車両をさばくわけです。バックで進入しなければならないところを、「こういったときは工事現場において、こういった緊急事態が発生したことにして、前から進入させよう」など。私はビックリして「○○さん、そんなんあかんやん。きちんと許可条項は守らな。せめて、私が現場にいるときぐらいは規則を遵守して工事を続行してくださいな。私が責任とらなあかんことになるやん」

現場監督は「っるせいなあ」みたいな対応をとりつつも、仕方なくこちらの意向を汲んでくれて、車両の工事現場進入を許可条件どおりに行うこととなりました。するとたいへん、ものの10分もすると、工事現場周辺に大渋滞が発生。近隣の一般車両に多大な迷惑をかけ、住民の通行も妨げ、最後は近隣住民から警察に通報がなされ、警察官がやってきて、なぜこのような大渋滞を招いたのか説明することを求められました。その後、警察官の交通整理がはじまってやっと大渋滞は解消できましたが、こちらは冷や汗のかきっぱなしでした。規則を遵守せず、あたりまえのように法令違反行為を繰り返していても、そのほうが一般の人たちに多大な迷惑をかけず、かえって平穏な工事現場の維持に役立つ。もちろん、この違法行為は、企業側が人件費などにもっとお金をかけていれば防止できるものかもしれませんが、法令遵守の形式論というものが現場では無力であることを思い知らされました。

「企業コンプライアンスの徹底」、この言葉はたいへん美しく道徳心に訴えかけるに十分な響きではありますが、その裏には、市民生活を平穏にしているルール違反を激変させるために多くの費用を要したり、他社のコンプライアンス経営に関する悲しい犠牲のもとに成り立っていたりするわけでして、私は容易には「WINーWINの関係」とか「みんなが幸福になれる経営」などというものは信じることはできません。もう少し現実論的に考えると「みんなが逮捕されたり、大きなリスクをしょいこまないための我慢の均衡」をどこに持ってくるか、といった感覚こそ本当に必要ではないかな、と考えるようになりました。

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2005年10月18日 (火)

お詫びと訂正です。。

日経夕刊に毎日連載されている「企業買収(仕掛け人と用心棒と裁判官)」、とっても面白いですね。

ところで、以前のエントリーで書かせていただいた「議決権制限株式を利用した買収防衛策」の製作者でいらっしゃる葉玉匡美(民事局付検事)さんのことを「現役裁判官」と肩書きをつけてしまいましたが、たたきあげ(という言い方がふさわしいかどうかはわかりませんが)の検事さんでいらっしゃたんですね。お詫びして訂正させていただきます。

一問一答新・会社法、私も愛用しています。でも、やっぱりあの防衛策スキーム、私の頭では「わかりません」。参議院議員の田村耕太郎先生が「これはおもしろい!」と唸ったとのことですが、ほんとにわかったのかなあ・・・・・。理解するコツがあれば教えていただきたいです。。。

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監査役からみた鹿子木判事の「企業価値」論

10月17日の日経朝刊に鹿子木康判事(東京地裁商事部)のインタビュー記事が掲載されていました。ニッポン放送・ライブドア事件、ニレコ事件、夢真・日本技術開発事件などの第一審裁判の裁判長を務めた裁判官です。(ちなみに、夕刊にはニッポン放送代理人であった中村直人弁護士のお話などが掲載されておりました。この鹿子木裁判官は、来年から始まる、あの「新司法試験の試験委員」に就任されておられるので、いつまで東京地裁の商事部裁判長を務められるのでしょうか?)

現役裁判官が日経インタビューに答える、というのも珍しいことのようですが、お答えになっている中身を読みますと、やはりこれまでの裁判内容とまったくブレのない発言になっていると感じました。権限分配ルール(経営権の所在など会社の組織機構について決定を行うのは株主総会であり、経営の重要判断や代表取締役を監督するのは取締役会、そして執行は代表取締役、と厳格に権限を分立するルール)を買収防衛策にも厳格に適用して、その是非を判断する手法は、やはり経済産業省、法務省の提案した買収防衛策に関する指針よりも要件は厳しいということが、このインタビュー記事を読んで改めて再認識させられました。通産省出向時代に、企業金融の政策立案に携わっておられたことから、企業の内部的潜在価値や外部的潜在価値、さらにはバランスシートの活性化などによって企業価値の向上は図られるべきで、株主の長期的な共同利益の向上のためにはM&Aは有効な企業活動である、という価値判断を相当重視しておられる、といった印象を持ちました。ただし、やみくもに「敵対的買収防衛策には懐疑的」というわけでもなく、株主総会による広範な委任がある場合には、経営陣による防衛策発動についても「かなり広く」適法性は認められるように述べておられます。

こういった裁判所の見解を前提とするかぎり、敵対的買収防衛策の導入については、総会で承認を得られやすいような方策をとり、買収希望者との対話と、双方の企業価値比較検討の時間確保のために必要最小限度の強制力をもたせ(相当性)、有事における企業価値の把握手法を確立させておく(組織としての準備)ことが最も肝要だと思われます。

具体的には、買収希望者に精緻な対応策を予想されないような形での事前警告型の防衛策の策定、総会で株主の過半数の決議をもって承認されるよう「勧告型決議」で足りるプランの導入(きょうの鹿子木さんの発言からすると、総会決議は勧告型の承認を求める形であれば、現商法230条の10に違反しないものと思われます)、第三者機関による発動要件の審査、企業価値の算定にあたって、戦略的シナジーをどう計算するか、ステークホルダーの利益をどこまで算定根拠とするかなどの自社基準の策定あたりでしょうか。

あと残る問題は「どういった相手であればグリーンメーラーと合理的に認定できるのか」「どういった場合であれば、緊急避難的に防衛策を発動できるのか」といった経験値が重視される要件です。これぞまさしく、現在進行形の問題、たとえば夢真、MAC、楽天あたりの今後の問題解決までの動向を株価と同時に緻密に分析しておくことが有用ですね。私には、残念ながら防衛策を策定できるほどの能力も知識もありませんが、そのぶん当事者企業の中身に精通して、その企業独自の企業価値向上の方策を検討し、企業文化に適応した対応策を役員一同で考えるお手伝いをしていきたいと考えています。

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2005年10月17日 (月)

TBS買収と企業価値判断について

週末も、TBSと楽天との企業統合問題を巡って、いろいろな報道がなされました。TBSも楽天も水面下で企業価値評価特別委員会のメンバーと接触している、ということですが、これは特別におかしなことではなく、ごく自然なことではないでしょうか。たしかに、TBSが発表しているとおり、まだ(楽天を)「買収提案者」と決め付けたわけではありませんし、20%を超える株式を楽天が取得したわけではないようですから、TBSから特別委員会側へ正式な諮問はなされておりません。しかしながら、特別委員会としては、企業統合することにしても、いまのままTBSが経営を継続するにしても、楽天やTBSの企業価値を正確に把握する必要があるわけですから、その提案内容も含めて、いまから検討することはむしろ職務に誠実な態度と言えるように思います。どちらの企業価値判断も、事業提案についても、中立公平な第三者として行うわけですから、積極的に接触してかまわないのではないでしょうか。

ところで、楽天の三木谷社長にしても、村上ファンドの村上代表にしても、もし取締役会メンバーや、特別委員会のメンバーが敵対的買収方策(NPIの新株予約権の行使)を実行した場合には、「株主代表訴訟を提起する」とか「株主の損害賠償請求を行う」旨を公言されて、TBS側を牽制しておられるようです。この問題は、今回のTBSの防衛プランが、(通常のライツプランと異なり)特定第三者への予約権行使、というスキームをとっているために、一般株主を含めて株式の希薄化による株式価値の減少を伴うものですから、この取締役、特別委員会メンバーに高額の損害賠償責任が発生する可能性を示唆しています。こういった問題がこのたびの買収防衛策発動の場面においては、非常に重要なポイントであることは、ほかの著名な方のブログなどを拝見いたしまして認識した次第であります。

なるほど、こういった問題がある以上は、TBSの取締役会としてもかなり防衛プラン発動においては慎重にならざるをえないでしょう。ただ、この特別委員会、取締役会の損害賠償責任を議論する場合には、若干あわせて検討すべき問題もあるように思います。

そもそも楽天や村上ファンドのいう「損害」とはいったい何を指すのでしょうか?防衛ブラン発動直前の株価を基準に「希薄化」したことの損害を問題とするのでしょうか。はたして、この1か月ほどで急騰した株価を基準に損害を算定することは妥当かどうか、ちょっと疑わしいように思います。その急騰した株価がTBSの「企業価値」を正確に反映しているということは立証されるのでしょうか?こういったケースで取締役が善良なる管理者の注意をもって判断すべきことは、どっちがTBSの企業価値を向上していくことができるか、ということですよね。中長期的な株主価値を重視するとしたら、この1ヶ月の株価を無視したことが「企業価値の毀損」と評価されてしまうのでしょうか。もし現実の株価を基準として損害を算定しなければならないということになりますと、買収防衛策発動にあたって、もっとも真摯に判断の基準とすべきは「どちらが企業価値の向上に資するか」というものであるとしている「経済産業省、企業価値研究会の指針」内容と矛盾することになるようにも思われます。先日のエントリーでも書きましたとおり、TBSとしては楽天が20%超の株式を取得すれば、直ちに防衛プランを発動するのではなく、「濫用的買収者」に該当するかどうかの判断をおそらく「慎重に」行うことになるはずです。そういった際に、将来的に現経営陣が現在の経営形態をもって継続することが企業価値の向上に資すると判断することも考えられるところでありますから、たとえ「あいまいであっても」資金調達の必要性があって、その行使価格が6ヶ月間の株価の変動とそれほど変わらない金額であれば、損害賠償の対象となるほどに違法性が強いかどうかは、また検討を要するところではないでしょうか。もし訴訟ということになりましたら、「損害論」についてはひとつの大きな争点になるでしょうし、そこでTBSの企業価値はどの程度だったのか、双方の主張が展開されることが予想されます。株価急騰のなかで800億円をもって行使価格としたものが、この「企業価値」を減少せしめる行為といえるのかどうか、非常に興味深いところであります。

また、TBS側としましては、今後の事前交渉をうまく利用して、(もし今回の企業統合の企画が失敗した場合には)一般株主とは切り離して、一気に買占めを行った楽天自身がその株主から代表訴訟を提起される可能性が出てくるような方向へ持っていく方法もいくつか考えられるところであります。そういった交渉カードをうまく利用しながら、TBS側が今後の統合交渉を進めていけるかどうか、という点にも注目していきたいと思います。

(10月17日午後6時半 追記)

そういえば、TBSの企業価値評価特別委員会のメンバーでいらっしゃる西川善文氏は、TBSの監査役と楽天の社外取締役に就任されておられるんですね。そうしますと、TBS側から委員会に正式な諮問がなされた後に、なんらかの委員会審議に関与することはマズイでしょうね。おそらく決議を伴う審査活動へは一切関与しないことになって、実質的には6名の委員による審理ということになると思われます。(追記おわり)

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2005年10月16日 (日)

独立取締役コード

いつも拝読させていただいているLaw Maniacのminoriさんのブログで、日本取締役協会の社外取締役委員会から10月13日付けで「独立取締役コード」が発表されたことを知りました。けっこう平易な文章で、読みやすい程度の分量で書かれておりますので、興味をお持ちの方はご一読ください。公開企業における独立取締役の「ミニマムスタンダード」を示したもの、とされています。「社外取締役」という言葉が、現商法や新会社法などで公式のものとして使われるようになり、その定義付けというのも明確化してきましたが、その社外取締役の要件だけでは不十分であるとして、コーポレートガバナンス理論との関連で、最近は「独立取締役」という言葉が区別して用いられるようになりました。

この「独立取締役コード」で示されたミニマムスタンダード、というものも、基本にはアメリカの社外取締役の「独立性」を模範として示されたものではないか、と思います。厚生年金基金連合会など、機関投資家からみて導入が好ましいとされております「企業価値の向上にとって有益であるとされる社外取締役の条件」などとも共通するところがあるようです。私個人の感想は下記のとおりです。

4-1 取締役会における独立取締役の員数は、独立取締役が取締役会において相応の影響力を及ぼすことができるようなものとすべきである

これは以前のエントリーでも書きましたが、そのとおりだと思います。ニッポン放送の19名中4名の社外取締役の影響力と、UFJ銀行の拮抗した人数の社外取締役とでは、その後の委員会(役員会)運営にとって、非常に異なる動きとなったことからみても、人数比率が取締役会に大きな影響を与えることは事実でしょうね。ただ、業績のよい公開企業が、ここまで大胆に踏み切ることができるかどうか、かなり現状では困難な気がします。

5-2 独立取締役のうち少なくとも1名は、最高経営責任者もしくはそれに準じる者、またはその経験者とすることが望ましい

この要件をみたとき「ああ、やっぱりお目付け役、のような立場の人を求めているんや」と感じましたが、実際に解説を読んでみますと、ちょっと観点が違いました。そもそも、独立取締役に就任する人は忙しい人が多いために、おそらく職務時間の確保や情報収集力の点で限界があるであろう、それならばなるべく問題発見能力に長けた人に就任してもらうのが効率的である、そういった問題発見能力というものはおそらくCEO経験者こそ備わっているだろう、ということが本質の理由のようです。うーーーん、本当にそうだろうか?と疑問を抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、解説でも「次善の策」として要件化した、とありますので、「なるべく探すようにつとめること」くらいに解釈しておいたほうがいいかもしれません。

経営者の親しい友人は最良の「社外取締役」か?

この要件は、社外取締役委員会のなかでも、いろいろと議論あったそうです。親しい友人は経営者からの独立性があるとはいえない、という立場と、真の友人ならば経営者の耳に痛いことでもいえるだろうから、独立取締役としては適任である、という立場。結局は、要件には含めなかったそうです。そもそも「親しい友人」とか「真の友人」というのが、どういった友人ならば該当するのか、ムズカシイですよね。(笑)経営者は「真の友人」と思っていたのに、実は社外取締役はそう思っていなかったりしたら、ちょっと悲しいですし、ぎゃくに「社外取締役」として役員になってから、経営者と「親しい友人」になる場合だってあるわけですから、かなりあいまいな要件になってしまいそうです。ハズして正解だったのではないでしょうか。

こういった独立取締役コードがリリースされたわけですから、各企業において、このコードへの印象などをアンケート調査していただけるとおもしろいと思います。ただ、次期経団連の会長さんなどは、「独立取締役」導入にはあまり積極的でない方ですから、証取法の改正や取引所規則の改正などでもないかぎり、企業が自主的にこういった独立取締役導入へ動くといった風潮が根付くかどうかは疑問です。このたびのTBSの企業価値評価特別委員会のメンバー(7名)のなかにも4名の社外役員さんがいらっしゃいますが、こういった重責を考えますと、就任には相当の覚悟も必要ではないか、とも思いますし。

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2005年10月14日 (金)

TBSの買収防衛策発動の要件

今日(10月14日)の日経夕刊の一面では「TBS 統合の妥当性、協議へ~楽天の提案受け第三者機関と」の見出しで、TBSは買収防衛策発動の是非を判断する第三者機関「企業価値評価特別委員会」委員と協議する方針を固めた、という記事が掲載されました。

TBSは14日、楽天による株大量保有と共同持ち株会社方式での経営統合の提案を受け、近く買収防衛策の発動の是非を判断する第三者機関「企業価値評価特別委員会」委員と協議する方針を固めた。楽天の株保有比率は15%強で買収防衛策の発動基準の20%には満たないが、楽天の株保有と提案が妥当かどうか助言を仰ぎ、同社との交渉に応じるかの判断に役立てる方針だ。

 特別委はTBSが5月に新株予約権発行による買収防衛策の導入を決定した際に設置を決めた。社外の取締役、監査役、専門家の7人で構成し、防衛策発動の是非を判断する。TBSは委員に楽天による株取得の経緯や提案内容を説明する。

ところが、今夜のTBSのリリースでは、一部報道にあるような企業価値評価特別委員会でへ諮問するような事実はない、と明確に否定されております。私としましては、このTBSの素早い対応は当然のことと思います。

昨日も「TBSは楽天を「濫用的買収者」とみなすのか?」というエントリーの題名にしておりますが、報道はとりわけ楽天の持株比率が20%を超える場合には、すぐにでも買収防衛策が発動されるような書き方をされておりますが、いささか論点がずれていると思われる話でして、たとえ楽天が20%を超える保有株式を取得したとしましても、防衛プランに関するTBSのリリースによれば、まず楽天が「当社に対する買収者または買収提案者」に該当するかどうか、という前提問題があり、さらに買収提案者に該当すると判断されるとしても、「濫用的買収者」に該当するかどうかは、極めて厳しい要件を満たすものかどうか、チェックしなければならないこととなっています。

そこで、まずこれまでの一連の楽天の動きだけで、TBSにとっては「買収提案者」と決め付けていいものでしょうか?リリースをよく読みますと、まず買収提案者と決め付けないと、TBSは第三者機関たる「企業価値評価特別委員会」へ諮問することができないことになっているようです。つまり、TBSが楽天を「買収提案者」と決め付けることは、すなわち「敵対的」な相手方との交渉モードが高まることは間違いないわけでして(「濫用的買収者」かどうかを、いろいろな事前交渉によって検討する手続きが楽天との間で開始される)、この日経の報道が正しいとするならば、すでにTBSが楽天について「買収提案者」だと認定したことになってしまうのではないでしょうか。(少なくとも文面からはそのように受け取られますよね)現段階で、このように戦闘モードをTBS側から示す、というのは理解できないところです。(本日、TBSは「楽天は20%以上の株式を保有するつもりはない、と明言した」ともリリースしているわけですし)また、そもそも、この防衛プランでは「事前対応の開始、検討開始事由の充足および各プランの発動の有無」まで、すべて適時公開いたします、と宣言されているわけですから、この報道を否定しておかないと、いきなりTBSの「お約束違反」になってしまうことにもなります。

さらに、一番肝心なところですが、現時点で「濫用的買収者」の要件該当性を第三者機関の判断に委ねる、ということは、これから先の楽天や村上ファンドの動きというものを、その判断材料として使えないという失策につながってしまうように思います。防衛プラン発動の可否を検討するにあたっては、もうすこし先に発生する(発生が予想される)事態までを含めて「濫用的買収者か否か」を判断するほうがTBSにとっては得策でしょうし、その要件該当性が極めて厳しいこと、さらには該当性判断過程を公表しなければならないことを考えますと、いささか時期尚早ではないか、と考えられます。

こういったことから、TBSは素早い対応において日経夕刊の記事内容を否定したものと思われますが、さらに日興プリンシパル・インベストメンツ(NPI)に800億円分の新株予約権を発行する防衛策の効果がかなり限定的である、との記事は、私としましては、かなり説得性があるように思いました。(フジサンケイビジネスアイの本日記事です)

TBSが毒薬条項 「防衛策」発動に焦点 効果は限定的

この記事の分析が正しいとするならば、買収防衛プランというのは、買収策のスキームだけに拘泥するのではなく、株価予想などを含む実際の買収時を想定して、その効果予想までを正確に把握しておかねばならないことが認識できます。といいますか、こういった効果予想まで、敵対的買収者にしっかり戦略に組み込まれるところに「事前警告型」の防衛プランの弱点が垣間見えるようです。

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2005年10月13日 (木)

TBSは楽天を「濫用的買収者」とみなすのか?

世の中の流れが速くなったのか、それとも情報化社会の進展によって、「速くなった」と錯覚しているのか、そのあたりはわかりませんが、15%以上のTBSの株式を保有した楽天が統合のための「持株会社構想」をTBSに提案した、とのこと。ビックリ仰天。

一番心配するのは、新聞社の経済部の記者さんたち。村上ファンド・阪神電鉄を追うのか、TBS・楽天を追うのか、西と東で「股さかれ状態」に陥っているのではないでしょうか。(昨日お会いした経済部の記者さんは「いやーー、当分関西に張り付いていますよ!」などとおっしゃってましたが、おそらく予定急遽変更ってことになっちゃってるんじゃないでしょうか?)

意外と村上ファンドが保有していたTBS株を高値で楽天に時間外に売却して、その資金で阪神株を購入してたりして。。。。いずれにしましても、平成17年5月18日に、TBSは「企業価値評価特別委員会」(ものすごいメンバーです)の勧告のもと、濫用的買収者への対応策をふたつ用意したことをリリースしておりますので、これからの協議次第では、楽天が「濫用的買収者」と評価される余地もありそうです。

やっぱり税金でしょうかね?楽天みたいな企業は、がっぽり法人税払ったら走り続けることはできないでしょうし、とりあえず業務提携ではなく、資本提携、会社設立ってほうに走り続けることが必要なんでしょうか。走り続けている企業同士の競争だから、「立ち止まったら負け」って、平成2、3年ころによくノンバンクの役員さんたちがおっしゃってました。

しかし、企業実務に携わる者としては、今回の村上・阪神の件といい、TBS・楽天の件といい、有事における企業価値判断という「取締役の経営判断」の資料(裁判にも使える)になりますので、予想することよりも、事態の動きと株価の流れを詳細に記録しておくことが重要ですね。上手に記録した資料は高値の「無形資産」になること間違いなしです。(次回は、もうすこしマシなエントリーにしたいと思います・・・・)

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専門家が賠償責任を問われるとき

公認会計士の方のブログなどを拝見しておりますと、今回のカネボウ粉飾事件などとの関係から、「会計士も事前規制から事後規制への波にのまれ、処罰の対象になったり、民事責任を問われるケースが増えるのではないか」と危惧される声が聞かれます。

いちおう最初に「用語の整理」をしておきたいのですが、「事前規制」といいますのは、たとえば証券取引法などの行為規範による規制のことです。公開企業における市場のルールを取り決めるということで、ルールに違反すると処罰の対象となります。この「処罰される」というのは、おそらく「事前規制」の範囲に含まれることになります。(つまり、事前規制の実行性を担保するための刑罰法規ですから)「事後規制」といいますのは、独占禁止法における私的独占状態の排除などの行政処分(事後的な違法状態を是正する)や、いわゆる民事賠償請求、民事による差止請求などによる規制のことを指すのが一般的です。よく「小さな政府」を作ることを目指しているのであれば、「事前規制」よりも「事後規制」が適している、とは言われますが、実はそんなに簡単なことではなく、事後規制中心の世界というのは、取締による規制結果の不平等を助長したり、実際の摘発には多額のお金や人員を必要としたりして、事前規制よりも効率は悪いとされています。(この話はムズカシイので、また別の機会に)

最近は医療過誤訴訟も進化して、原告側患者の勝訴率が上がり、また建築訴訟においても、一級建築士さんや建築士事務所などが多額の損害賠償責任を負担するケースなどが「日経アーキテクチャー」のトピックス欄などに掲載されています。さて、こういった専門家の民事責任問題が普及していくなか、弁護士や会計士の職務上の過誤というものも、ひろく賠償問題として発展していくのでしょうか。私の個人的な意見としましては、(自分が弁護士ということを極力捨象して考えてみましても)医師や建築士の責任問題ほど、急速には発展しないのでは、と考えております。

たしかに、大阪地裁を例にとりましても、医療専門部や建築専門部(つまり、医療関係者や建築請負業者などの事件を専門に取り扱う法廷)が充実し、原告側(つまり患者や施主さんなど)代理人弁護士の努力といった点も貢献度が高いと思われますが、本当にこれらの専門家訴訟が進化した要因は、医師や建築士の中に「専門家のミスを糾弾する会」のような被害者救済の組織が誕生し、そういった組織が原告側を応援してくれるシステムが出来上がったことが大きいと思われます。たとえば医療過誤を例にとりますと、「医療事故調査会」という全国組織がありまして、患者側代理人による証拠保全手続によって証拠収集したカルテを持ち込めば、全国から選抜されたメンバーの医師の方々が鑑定資料を作成してくれます。また裁判のうえで必要がありましたら、患者側の証人としても法廷に立っていただけます。医師の立場で客観的に「医療行為のここに注意義務違反がある」と鑑定していただけますと、これで医療機関を相手に五分五分の状態から訴訟を提起することが可能となります。

ひるがって、弁護士、会計士の世界に目を向けますと、私が知る範囲では、こういった「依頼者、クライアントの正義を守る会」のような弁護士集団、会計士集団というのは見当たらないように思われます。おそらく弁護士が賠償責任を負担する、というのは、現時点では懲戒処分を受けて、弁護士の職務行為の違法性が明白になったような場合に限定されているのではないでしょうか。もし、今後弁護士や会計士が職務に違法性があって、事後的な規制を受けるとするならば、こういった同業者の中から同業者の職務を正す、といった目的で活動する組織の発生がどうしても不可欠な要素になってくるように思います。あと数年後には司法試験合格者3000人時代が到来しますので、ひょっとすると今後は「弁護士を相手にすることを専門とする弁護士」や「弁護士の職務の不正を糾弾する会」のような弁護士組織も誕生するかもしれません。公認会計士の数も試験制度の改革によって増員される、聞き及んでおりますが、とりあえず会計士業界から自然発生的に誕生する組織が存在しない限りにおいては、(たとえ公認会計士協会や、金融庁の関連委員会による品質管理活動が行われたとしましても)それほど事後規制の波にのまれる、といった事態は想定されにくいのではないでしょうか。

同じような問題は、金融商品の販売や設計にも妥当するものです。投資サービス法が制定され、事後規制によって一般投資家などが救済される道も開かれるかもしれませんが、銀行や証券会社相手に訴訟で勝つためには、そういった金融商品販売における勧誘方法や、設計方法に専門家としてのミスがあることを堂々と意見書として提出していただける同業者の方の存在というものが不可欠だと思います。さて、こういった同業者の不正を糾弾する、といった民間組織が発展するというのは、「倫理」によるものなのか、「自由競争」によるものなのか、そのあたりはまだ不明ではありますが。。。

(余談)

全国紙の経済部の記者さんが、わざわざ取材ということで東京からお越しになりました。ブログをお読みいただいて、どんな弁護士か興味をお持ちいただいたようです。そもそも、ブログ嫌いであったために「とりあえず自分でやってみて欠点を非難してやろう」と始めたものの、ミイラとりがミイラになってしまいました。媒体としての効用には驚くばかりです。

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2005年10月12日 (水)

ふたつの「内部統制システム構築理論」

中央経済社が出版している雑誌「企業会計11月号」と「旬刊経理情報10月20日号」が、同じく「内部統制システムの企業における構築指針」を特集しています。「企業会計」のほうでは、金融庁企業会計審議会より出された公開草案(7月13日)をもとに、主として「財務報告の信頼性」に寄与する内部統制システムの構築を、そして「経理情報」では、経済産業省より出された中間報告(8月31日)をもとに、主として広くコーポレートガバナンスと結びついた内部統制システム構築の指針が解説されています。両者の比較につきましては、「経理情報」12ページ以下におきまして、公認会計士の神林比洋雄氏が「2つの資料の構成要素の比較整理」と題して、手際よくまとめておられ、非常に参考になります。(有効な内部統制構築のために、文書化がどのように位置づけられるのか、まったく異なるのも興味深いものがあります)

ただ、この「ふたつの内部統制システム構築の解説」につきましては、いまだ不十分な点が多いと感じました。たとえば、企業会計で掲載されている財務報告の信頼性確保のためのシステム論ですが、会計監査人の「企業が作った内部統制システムへの評価のしかた」について、ほとんど明確な回答がありません。私が一番知りたいのは、監査人が内部統制監査を行うにあたっての一般的な「監査基準」や「品質管理基準」というものは必要なのか、必要でないのか、その理由はどうしてか、もし必要であれば、その基準とはどういったものなのか、という点であります。これが明確にならないと、会計監査人に閲覧してもらう内部統制のレベルというものは、果たしてどの程度のものなのか(企業自身に内部統制構築、運用の責任があるにもかかわらず)、企業にとってはさっぱりわからないからです。(会計監査人にとりましても、内部統制監査の裁量の幅が大きくなりすぎて、なにをもって企業の構築したシステムが信頼に値すると判断すべきか、わからないのではないでしょうか。ひとつまた、会計監査人が紛争に巻き込まれるネタが増えるように予想します)

また、「経理情報」の解説につきましても、「内部監査人」の定義がよくわかりません。経済産業省の前記「中間報告」によると、内部監査人は独立した専門家が採用されるべきで、できれば外部からの委託が望ましい、と明確に書かれているにもかかわらず、そのような記述は一切なく、社内で設置することを前提として解説されています。なぜ、こうなったのかは定かではありませんが、内部監査人の地位というのは、コーポレートガバナンスと結びつく内部統制システム論のなかでは非常に重要な位置にありますので、経済産業省の指針を信用するのであれば、外部から専門家を招聘して「内部監査人」とするという意味はどう考えたらよいのか不明なままであります。

この「ふたつの内部統制システム理論」の取扱は、今後の構築責任者である企業にとって非常に大きな問題になると思われますし、ここで簡単に説明のつくことではありませんので、また何度かに分けて自論を展開してみたいと思います。たとえば、最近の西武鉄道やカネボウ、足利銀行の事件など、いわゆる「内部統制システム構築」の話題を大きくした要因となる事件ですが、こういった事件というのは金融庁の出している「財務報告の信頼性確保のための内部統制システム」をいくら精緻に導入してみても、防ぎきれるものではありません。というか、そもそもCOSOレポートにおいても、こういった経営陣が共謀したり、会計監査人が同調するような不正については内部統制システムに限界があることは明確に説明されているところですし、今回の「企業会計11月号」48ページにおきまして、解説者の公認会計士の手塚仙夫氏もお認めになっているところであります。よく雑誌などでは、こういった不祥事を起こさないため、として企業会計審議会内部統制部会より出された公開草案が紹介されておりますが、基本的には無関係です。(トップの絡む不祥事防止との関係で言えば、コーポレートガバナンス論と関連付けて説明をしている経済産業省のシステム構築論のほうが理解しやすいと思います)。

ただ、私はいろいろな面から判断いたしますと、どっちにも長所、短所がありますし、法令遵守という「コンプライアンス」的発想がどちらになじみやすいか、という問題も残されていると思いますので、またこの話題は次回までの続き、とさせていただきます。

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2005年10月11日 (火)

CSRは法律を超えるのか?

グローバル企業であるソニーが、部品調達先選びに「社会的責任」基準をアメリカIBMなどと共通化して採用する、という報道がありました。環境、安全、人権配慮に関する条件を取引先4000社に通知し、取引先選別に利用する(違反企業には取引停止などで臨む)というもので、今後は東芝、日立製作所などにも参加を呼びかける、というものです。いまだ日本では「CSR(企業の社会的責任)」というものの明確な定義はありませんが、欧州での素材規制問題や、日本における石綿問題など、昨今の環境問題からすると、世界レベルでの販売管理上やブランドイメージの向上のため、もはや避けては通れない課題になりました。東京商工会議所の今年7月の「CSRに関するアンケート調査」によりますと、大企業と中小企業との「サプライチェーンにおけるCSR」への意識には未だ大きな隔たりがあるようでして、大企業が喫緊の課題と捉えているのに対して、中小企業は「環境基準の調査報告すら提出できない」レベル(結局はCSRへ取り組む費用不足)のようです。ただ、取引先の選別や、取引停止といった事態が想定される以上は、いよいよこのCSR問題(とりわけサプライチェーンCSRの問題)も法律との抵触、ということをまじめに考える必要がありそうです。

たとえば、「サプライチェーンとCSRの法律問題」に限って考えますと、以下のような点について検討する必要がありそうです。

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企業が政府の役割を一部補完したり、中小企業に取引上のリスクを認識してもらうためには、こういったサプライチェーンにおけるCSR基準を導入することも、有用であることは間違いありません。しかしながら、取引先が自社のCSR基準に合致しないことをもって、取引先を選別し、また取引停止にするということは、いろいろな法律上の問題点を指摘しうると思われます。たとえば仕入原価は5%低いために利益計上に大きな差が発生するにもかかわらず、労働条件に問題があるとして、その取引先よりも5%高い企業から材料を納品する、という場合、これは株主に説明がつくのでしょうか。材料素材規制などによって、実際に販売できないおそれがある、というのであれば説明もつきそうですが、一般的な社会的責任論だけで、株主への説明責任が尽くされるというのであれば、「社会的責任」は法律を超える存在になりそうですが、どうも私には自信がありません。また、ある程度の裁量をもって取引先のCSR基準充足を判断するとした場合に、突然「取引停止」といった事態を生ぜしめることは独禁法上の「優越的地位の濫用」や、継続的取引における解除の「合理的理由」といった問題点をクリアできるのでしょうか。さらに、取引先に対して、その負担においてCSR基準の導入をはかるなど、大企業が積極的な関与を果たしている場合、もし取引先にそのステークホルダーとの関係において、人権問題や労働問題などによって不法行為責任が発生した場合には「共同企業責任」として、大企業が共同責任を負担するようなおそれはないか(いわゆる相手方との関係において、親会社の法人格が否定され、子会社ともども責任を負担する、という理論と同様です。実際に下級審判例ですが、こういった理論が認められたケースもあります)

2004年6月のマルチステークホルダー・フォーラムの最終報告書では、CSRの定義のなかでCSRは法的要請や契約上の義務を上回るものである、と明言されています。つまり、CSRは法律や契約上の要請以上のことを行うことである、と定義付けられています。2004年6月、ISOの国際会議において、日本は唯一、そのCSRの規格化に反対していましたが、日本には今後、民商法の解釈に影響を与えるような「CSRの波」が本格的に訪れるのでしょうか。これを本気で議論するならば、日本と欧米との宗教観、世界観の違いや、EU統合下における社会問題、労働問題と日本との差異など、とうてい私の認識では理解困難な問題がたくさんあるように思えます。ただ、ここのところの日本でのCSRに関する議論を聞いておりますと、取締役が企業価値を判断する場合においても、法的に無視しえないような論点を少しずつですが提供しつつある、と感じている次第であります。

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2005年10月10日 (月)

社員の「やる気」とリスクマネジメント

昨日は、犬鳴山から紀泉高原まで、ひさしぶりに地域の自治会ハイキングに出かけましたが、たいへん天気にも恵まれまして、季節外れの「日焼け」をして帰ってまいりました。きょうは、足腰の痛いところをさすりながら、自宅でゆっくり療養しております。。。

体育の日の日経朝刊3面のベタ記事ですが、社員の不満を発見する、という東京海上日動火災の新サービスについて、掲載されておりました。

東京海上日動火災保険は企業向けに、従業員の不満ややる気を調べる業務を始める。社員の勤労意欲が下がると業績が落ちるだけでなく、不祥事にもつながりかねない。会社のリスクマネジメントの一環として需要があると判断した。

 まず80項目のアンケートを実施する。「会社の目標に共感できるか」「上司に途中で責任を放棄されないか」などの質問をもとに、社員の不満がたまっている問題や上司と部下の意識の違いが大きい分野をみつける。ヒアリングをしたうえで、重点的に改善すべき内容をリポートにまとめる。料金はアンケートの実施からリポートの作成までを含む標準的な内容で400万円程度としている。

大阪弁護士会でも、最近は個々の裁判官評価に関するアンケートというものが導入されておりまして、具体的な裁判官の名前を挙げて、各項目ごとに5段階評価を行います。さらに、特記事項を記載する欄もありますので、「事件の中身をよく把握せずに和解ばかりを勧める裁判官だ」とか「審理の初期の段階で、裁判官の心証を開示した」など、いろいろと文句を書き連ねる弁護士さんもいらっしゃるそうです。(このアンケート集計結果は最高裁事務局へ持ち込まれ、10年ごとの裁判官再任審査のための資料として利用されるようです)まあ、こういったアンケートは回答することが強制ではありませんし、回答者の主観的な判断によるところが大きいと思いますので、集計する方も値引きして考えないといけないと思うのですが、上記の記事に掲載されたアンケートについても、その結果についてどこまで信憑性があるかは、かなり疑問の余地がありそうです。

「結果内容の信憑性」については、まあそれほど大きな問題ではないと思いますが、たとえば「会社のこういった内容が不満だ」とのアンケート結果がたくさん集計されたとして、これって「社員のやる気」低下とか、リスク増大と結びつくと考えるかどうか、検討することのほうがもっと大きな問題ではないでしょうか。私は自身の拙い経験からしかモノが言えませんが、男性・女性社員の差こそあれ、公式のアンケートで会社の不満を明確に指摘できる社員こそ、やる気があって、会社の将来を真剣に考えていると思います。こういったアンケート結果を会社側が真に今後の経営に生かそうと思うなら、回答者の回答内容の真偽調査や追加ヒアリングなど、けっこう社員にとって面倒な作業が待っていることが予想されます。そういった作業が予想されつつも、「不満」をぶつける社員というのは、かなり会社にとっては戦力になる方たちであって、もし「やる気」という面からみるならば「いまの会社に不満はありません」と回答する社員のほうがよっぽと「やる気」に疑問符がつくように思います。80項目にも及ぶアンケート質問の内容をみておりませんので、正確なことは申し上げられませんが、不満とされる箇所が多いとされることが、すぐに社員のやる気を喪失させる可能性が高いとか、不祥事発生の可能性が高いと結びつけることは、なにか違和感を感じるのは私だけでしょうか。

こういった社員の不祥事という面からみた「リスクマネジメント」のあり方は、汎用性(ひとつの方法がどの企業にも通用する)とは矛盾する、というのが私の従来からの考え方です。なぜかと申しますと、社員の不満ややる気をもっと客観的に把握するシステムというのは、その企業特有の業務執行システムや意思伝達システムを調査研究することによって合理的に検証できる方法があるからです。これまでも、いくつかの企業で、こういった検証システムを導入し、現在は因果関係をモニタリング中でありますが、本当に企業トップが内部統制システムの向上を図る意思がありましたら、そういったことを社内で研究し、チームごとの「不満解消」「やる気アップ」活性化を図る戦略を考案すべきだと思います。(細かいシステムの紹介につきましては、ちょっと個別企業のビジネスモデルに関わる問題ですので、ここでは申し上げられませんが、いずれにせよ、問題点の洗い出しとその対応策は現場にまかせ、トップは問題点の客観的な発見と、その現場対応の是非に関するモニタリングに特化するのが最も効果的だと思われます)

むしろ、社員のやる気喪失の発信地、不祥事発生の原因が、自社のどういった業務プロセスのなかに潜むのか、どの改善策にはどの程度の費用を要するのか、そういったことを検証するため基礎資料となるのアンケート質問は企業自身しか作りえないわけでして、そういった支援業務を含むものであるならば、上記東京海上日動の新サービスも有用性があると言えそうです。

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2005年10月 8日 (土)

住友信託・UFJ 和解の行方(2)

先週、MUFGと住友信託の統合差止め・損害賠償請求訴訟の和解について、いろいろと予測いたしましたが、やはりMUFG側は裁判所による和解勧試に応じない方向にあることが日経で報じられています。地裁レベルではありますが、裁判所は50億円程度による解決金支払いによって、和解を勧告した模様です。当時、住友信託がUFJ信託銀行との統合の準備費用として実際に要したのは数億円程度、ということですから、この金額を超える和解というのは、どうもMUFG側としては株主代表訴訟に耐えられない、と判断したようです。なお、当事者間での現状の利害関係を図式化すると以下のようになるでしょうか。

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(ただし、平成17年10月8日現在)

MUFG側は数億円程度、住信側は100億円程度が和解による解決のラインだと考えておられるようなんで、50億円程度というのが、どういった経緯で裁判所から提案されたのかは不明ですが、ここへ到達するには双方の株主への説明責任を意識した判断理由が必要となります。ここで和解ができないと、地裁判断、そして高裁判断までは司法判断を仰ぐ形となり、そのうえで「勝負あった」ところでの決着となる可能性が高くなりそうです。ただし、上の図でも示しましたが、もし判決で住友信託側の損害賠償金額が極めて低額しか認められない場合には、住友信託もしくは住信側株主から、当時のUFJおよび三菱の取締役個人に対して、(独占交渉権を侵害したことで、住信側の株価が一気に低迷した、など)不法行為責任を追及する損害賠償請求訴訟が提起される可能性も出てきますので、相当長期に及ぶ紛争期間を覚悟しなければなりません。(ほかにも、UFJの株主側より、UFJ側に対して、住友信託との独占交渉権を安易に結んだために、損害賠償を払わねばならなくなったことへの責任追及訴訟、というものも考えられるかもしれません)

また、そもそもUFJ信託が、どういった事情で独占交渉権を破棄するに至ったのか、そのあたりは事実に争いがあるんでしょうかね。つまり、金融庁の検査によって、たとえUFJ信託部門をUFJ銀行が3000億円で売却しても8%ルールに満たないということが判明したために、あわてて一方的に破棄したのか、それとも東京三菱側と接触したうえで、やっぱり東京三菱とくっつくほうが得策と判断して破棄したのか、という点です。このあたりの判断によっては、後日の取締役責任追求の対象が変わってくる余地もあり、こういった点も裁判所で事実が認定されることで、明らかになってくる争点のように思われます。こういったことを考えておりますと、この50億円という和解解決金の中に、取締役等の責任追及の紛争解決問題まで含めて考えることは、取締役自身の責任回避にもつながりかねない問題ですから企業利益との利害相反が生じる可能性も出てきそうです。(会社と取締役との利害相反問題だけでなく、同じグループ企業でありながら、認定される事実によって、旧UFJの取締役だけが訴えられるのか、東京三菱側の担当者も訴えられるのか、結論が分かれることになりそうですね。MUFG側が、いままでどういった「独占交渉権破棄」に至った事情を主張してきたのか、実に微妙な問題であり、極めて興味を引くところです。)

こういった諸事情を考えますと、やはり企業コンプライアンス、という面を重視するならば、企業間の法的紛争については、その敗訴リスク(損害賠償の範囲は信頼利益に限られるか、それとも履行利益までを含むのか)を冒してでも、判決を出してもらって、その判断内容にしたがい、その後の取締役個人への責任問題については別途応訴する、と考えざるをえないように思われます。(いまから考えますと、あの交渉差止めの仮処分事件で、原審や地裁の判断が分かれた、という事実は、どちらの取締役にとっても、ラッキーな結果だったように思います。明らかに違法な行動に出た、とは第三者からみて言えないわけですから)

裁判所もしくは、どちらかの代理人から、こういった利害状況にある紛争を一気に解決できるような「ウルトラC」の提案が出ることも、少しばかり私は期待しておりますが。。。

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2005年10月 7日 (金)

会計監査の品質管理について

朝日のアエラ記事をネットで読んでおりましたが、これがまたずいぶんと中央青山監査法人への厳しい処分を予想させるような内容になっています。(営業目的で新聞報道の見出しをそのまま引用すると、賠償請求の対象となる、という知財高裁の判断が出ましたので、今後はすこしばかり気を遣うようにします。といいましても、個人的には実名ブログの中に引用することが「反復継続して営業目的で使用」する意思が認められるとは思えませんが)

会計士の間で「粉飾は常識」(朝日ネット記事引用)

数日前は、会計監査人の報酬という面から、不正監査防止を考えてみましたが、会計監査自体への品質管理の充実、という観点からも検討してみたいと思います。綱紀審査会の設立、会計士協会の品質管理、公認会計士・監査審査会における審査、中央青山監査法人内部の内部監査専従班の設置などなど、このたびのカネボウ粉飾事件を発端として、会計監査の事後的な審査体制の充実が謳われています。今後は国際会計基準の策定に日本が参加することによって、その品質管理基準の国際ルールに準拠することも検討されている、とのことです。これだけ、いろんな会計監査への事後審査が実施される、ということであれば「再犯防止策」は万全であるから、今回の中央青山への金融庁の処分も相当に軽くなってもいいのではないか、という意見も出てくるかもしれません。

ただ、ここでひとつだけ確認しておくべきことは、フットワーク事件、足利銀行事件、カネボウ事件など、会計監査人の責任問題が世間で浮上してくるのは、「先に倒産ありき」という場面です。つまり、企業倒産→粉飾発覚→旧経営陣の責任→会計監査人の責任→監査人の監査の評価、という順序です。刑法犯で例えると、いわゆる業務上過失傷害事件と同様です。(被害者の傷害という結果があって、それからはじめて被告人の違法性を追及する)

ところで、このたび不正会計防止策として提案された会計監査の品質管理というのは、こういった循環を否定するところから生まれているのでしょうか。つまり、企業の倒産という事態に関係なく、品質管理は行われるのかどうか、という点です。結局のところ、景気がいい時期には、どんな粉飾を行っても、その景気回復によって「不正が永久に忘れ去られてしまう」という事態を甘受してもよいか、という意思確認が必要です。もし、上の循環を否定するのであれば、企業と会計監査人との監査方針の食い違いという事実だけをもって、「会計監査人のミス」が公表される可能性がありますし、企業と監査人との間に監査方針の食い違いがなく、また企業が健全経営を継続している場合でも「不正監査」が認定される可能性もあります。こういった企業の継続性とは無関係に会計監査の是非が活発に審査される状況についての合意がないと、品質管理自体に対するモニタリングが困難になり、会計監査自体に対する内部統制システムは機能しないはずです。たしかに、内部審査の本来の目的は個々の会計士の判断是非を問うものではなく、会計監査体制そのもののチェックにある、ということかもしれませんが、やはりなんらかの形で、個々の会計処理判断と関連がなければ品質管理を本当にやっているのかどうか、わからないんじゃないでしょうか。

監査対象となっている企業や、投資家などからの審査請求の道が確保されていなければ、やはり「先に旧経営陣の責任ありき」の運用しかなされないような気もします。そのような運用では、到底再犯防止の可能性は乏しいものとなり、結局のところ厳罰でのぞむしか方法はないということになってしまいそうです。こういった会計監査の品質管理を考える場合、その審査体制を設置するだけでなく、その運用を確実にモニタリングできることの約束事まできちんと決めておくことが不可欠でしょう。

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2005年10月 6日 (木)

敵対的買収(裏)防衛プラン

いえ、たいした話ではないんですが、平時導入型の敵対的買収防衛策として、へんなことを考えついただけです。

日本で公開企業のM&Aを訴訟案件まで手かげている法律事務所というのは、どの程度あるんでしょうか。大阪では3つくらい、東京でも10事務所くらいではないでしょうかね。おそらく相談を持ち込まれた証券会社が紹介する事務所というのは15くらいまでに収まるんじゃないでしょうか。

それだったら、いっそのこと、「うちはひょっとすると買収されるかもしれない」と危惧する公開企業は、日本の弁護士倫理規定を利用して、この15ほどの事務所にもれなく相談に行ったらどうでしょうか。タイムチャージでお支払いして、若干の企業秘密を開示するとして。監査法人と違い、法律事務所の場合は、いったん法律事務所のだれか一人でも弁護士が相談を受けてしまっては、もはやあとで別の弁護士が相談企業を相手として訴訟を提起することはできないはずです。相談を持ち込まれた証券会社も、M&A訴訟のできない事務所を紹介するということも考えられないように思います。(ひょっとすると、大手の法律事務所の場合、たとえ公開企業であっても一見さんお断り、とかかもしれませんが)ただ実際に買収防衛策を必要とする事態になったときに、助けていただけるよう、礼を尽くした方法を検討しておかなければいけません。

一見、アホな考えのようにも思われますが、こういったことで買収を断念していただけたらありがたいかなあと。もちろん株主価値の最大化に尽力することが最善の方法であることは間違いありませんけど。

意図的に行うか、偶発的にそうなったのかは、神のみぞ知る、ということで。

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監査役の理想と現実

昨日は中小企業と新会社法ということについてエントリーしましたが、今回は「わが身」を振り返って、公開企業における監査役と新会社法の関係について、少しだけ考えてみたいと思います。

月間「監査役10月号」では、新会社法と監査役というテーマで、著名教授陣が現役の監査役のかたがたへ向けて、エールを送ってくださっています。なかなか格調の高いものばかりで、ひとことで言うと「定款自治が拡張され、経営の自由度が高まった分、取締役の違法行為等の是正に取り組む監査役の意義はとても大きい」ということが謳われています。しかし、逆からみるとゾッとします。株主代表訴訟や第三者責任追及の対象として、監査役が善管注意義務違反による損害賠償責任を問われやすくなる、ということです。もちろん、私のような社外監査役の場合ですと、損害賠償額の限定特約などによって自己防衛することも可能ですが、訴訟の被告として応訴しなければならないリーガルリスクは同じです。ましてや、敵対的買収防衛プランにおいて、社外取締役や社外監査役が「独立第三者」としての発動要件審査の要職を仰せつかるような事態になれば、「会社の顧問弁護士以外の」M&Aに強い専門家などの意見を聴きながら、独自の企業価値判断を強いられるわけですから、かなり厳しい職責を担うことになるわけでして、新会社法のもとでの監査役というのは、安閑とはしていられない立場といえそうです。コンプライアンス経営を支える会社の機関として、監査役の理想を大きく唱えることは結構ですが、その分企業の経営判断に問題のあるような事態となった場合には、その任務懈怠責任をつかれる枠も広がることは留意しておくべきもの、と自戒しております。

ところで、この「月間監査役10月号」には、この7月13日に企業会計審議会内部統制部会から出されました公開草案への日本監査役協会意見というものが発表されており、これが非常に興味深いものになっております。ひとくちで申し上げますと「監査役の理想と現実」をどう捉えるか、という点に金融庁サイドと日本監査役協会サイドでは大きな隔たりがあるようです。もともと企業会計審議会での(公開草案を出すにあたっての)審議では「監査役不要論」が活発に議論され、しかしあまりにも過激な意見はマズイということになって、最終的には内部統制システム構築の目的として「資産保全」という項目を追加することで監査役制度との妥協点を見出した、という経緯があります。しかしながら、どうも日本監査役協会からすれば、いまだ公開草案(の底辺に流れる監査役のスタイル)は「監査役というものは所詮、経営者にはなにもいえない無力の存在であり、会計監査人は、そういった監査役制度自体に依存することなく、自ら(監査役制度の現実を含めた)統制リスクを評価し、実際に財務上の不正を発見すれば、直接経営陣にその是正を促すべき」という(監査役制度をないがしろにした)スタイルだと非難して、様々な文言の訂正、修正に関する意見を出しています。そこでは、監査役からみた経営陣や会計監査人との理想の立ち位置が描かれており、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」を最終的に策定したり、また実際の監査基準の要綱を発表するにあたって、こういった日本監査役協会の意見がどの程度採り入れられるのか、注目したいところであります。

さて、2,3日前に「これからの会計監査人の報酬」についてエントリーしまして、いろいろなご意見も頂戴しましたが、監査役には会計監査人の報酬決定権(正確には監査役には業務執行権がありませんので、同意権)があるわけですから、こういった権利行使にあたっても「理想と現実」の問題って、発生してくるわけです。今朝あたりの新聞報道では、今後会計監査人が公開企業の統制リスクについて「格付け」することも検討している、とのことですから、この格付けを企業の監査役が易々と受け入れるというのは、たまったもんではないですよね。たとえば統制リスクの評価について、会計監査人と監査役とで食い違いがあるんだったら、真摯な態度で堂々と主張反論を尽くすべきでしょう。報酬金額をめぐって、いろいろと意見交換をする態度こそ、企業も会計監査人も不正監査をなくすための努力が(投資家や株主に対して)目に見えるものとなりますでしょうし、また会計監査人の実力も評価されることとなって、法定監査における報酬アップのインセンティブとしても役立てることができるんじゃないでしょうか。

こういった「会計監査人の報酬決定への監査役の関与」も、おそらく理想論に近い話なのかもしれません。しかし、常勤さんなら言いにくいことでも、社外監査役であれば、礼を尽くして異を唱えることも現実には可能のようにも思えます。こういったところから、本当に実務を変えていかないと、企業会計審議会の思い描く「監査役」の姿が、予想どおりに新会社法のもとでもそのまま維持されてしまう、という悲しい結末に至ってしまうような気がします。

「今度の役員会からは、私達監査役会はちょっと変わりますよ」と、経営陣にモノ申すために、新会社法の施行というのが、いいきっかけになればいいですね。(もちろん、そのためには新会社法によって公開企業の監査役制度がどのように変容しているか、を説明できる程度には勉強しておかなければ話になりませんが・・・・)

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2005年10月 5日 (水)

中小企業と新会社法

大阪商工会議所で「中小企業と新会社法」という講演を、若い弁護士さんといっしょにさせていただきました。時間が限られておりますので、非公開会社(有限会社を含む)特有の問題に限ったものです。

来年5月施行(予定)ということで、なんだか「いまのうちに勉強しとかなきゃ」といった風潮がありますが、それは定款変更などに多くの時間を必要とする公開会社には妥当しても、非公開会社には「もうすこし、ゆっくり考えたらどうでしょうか」と申し上げてもよろしいのではないでしょうか。そもそも経過措置というのがあるわけですから、特別に手続をしなくても、いままでの会社が回っていくことは確かなわけです。ただし、新会社法は非公開会社を原則として、定款自治を広く認める立場で作られていますので、「知らなくても損はないけど、知っているとかなり得する」ことは間違いなさそうです。そこで中小企業の経営者の方へ今日も申し上げましたが、「弁護士とはいわないけども」日ごろお付き合いのある税理士、会計士、司法書士などの専門家の方とご相談になって、機関設計や種類株式など、企業の実情に合った定款変更手続(およびそれに伴う登記手続き)をされてはいかがでしょうか、とお勧めしています。

私が「ゆっくり考えたほうがいい」と申し上げますのは、「こんなに簡素な機関設計もできるんやったら、すぐにでも司法書士さんにお願いして、定款変更、登記手続きをお願いしよう」と即断せず、メリット、デメリットを考えておいたほうがいいですよ、という意味であります。たしかに、取締役1名と株主総会のみの機関設計というのも考えられますが、会社の基本的な意思決定が株主総会に大きく依存した形ですと、株主のなかに行方不明者や既に死亡された方がいらっしゃったり、また株主名簿の不整備などの事情があったとき、「手続の瑕疵」を招来してしまいます。また、先日敵対的相続防衛プランのエントリーにも書きましたように、相続という事実によって、会社経営が混乱を来たす場面も想定されます。結局のところ、会社の人的資本(経営者、従業員)の構成や、物的資本(株主、ファイナンス)などの現状と、将来の会社のあるべき姿(親子間で事業承継するのか、儲かったら事業譲渡、会社再編をするのか、すみやかに解散するのか等)をすべて勘案したうえで、新会社法を利用されてはいかがでしょうか。

最近、すでに新会社法に基づく定款変更手続を代行します、といった広告が目に付くようになりました。不具合が生じたらすぐにまた定款変更すればいい、という見解もあるでしょうが、どういったスキームを用いることが、中小企業のパフォーマンスを最適化するか、という点でご指導申し上げるためには、単に事業主の希望する方向へ手続代行すればいい、というものでは不十分でして、税理士、司法書士、弁護士など相談を受ける側にも、ある程度の実力が必要なのではないか、と考えています。

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2005年10月 4日 (火)

村上ファンドと阪神電鉄株式

村上氏の投資ファンドが阪神電鉄株の38%超を取得し、本日も買い注文が殺到してストップ高になった、とのこと。

公開企業ゆえ、適法に株式を取得した人が経営権を握ったり、少数株主権を行使することはまったく自由だと思います。しかし、電鉄会社を経営する人は、先日のJR西日本の事件にもあったように、まず安全対策をどのように考えているのか、また阪神淡路大震災クラスの地震対策をどのように考えているのか、真っ先に意見表明していただきたいと思います。阪神タイガース球団や梅田地域における保有資産の含み益がどうであれ、電鉄会社は特別な社会的責任を負担する企業であり、短期的な利益を株主に還元するような企業ではないと思います。

新聞などでは「タイガースをこよなく愛する人」からの意見などが掲載されているようですが、高架工事の続く阪神間の電鉄利用者、近隣住民の方からすれば、まっさきに頭に思い浮かぶのは、安全対策や地震対策への潤沢な資産の確保だと思います。現経営陣でも、村上さんでもどっちでもいいんで、電鉄経営における安全対策への強い意見表明をもらえれば、企業価値を高める経営というものを感じとれるのではないでしょうか。

(10月6日 追記)

阪神電鉄が買収防衛策支援ということで、大和證券SMBCと提携した、とのことです。大和證券といえば、日本技術開発の支援もされていましたよね。なにか、アッと驚くような秘策が出てくるんでしょうか?私は「動かざること山の如し」作戦がもっとも得策だと思っていたんですが。

(10月7日 追記)

北側国土交通省大臣は、閣議後の記者会見で「今回の村上ファンドによる株式買収が、直接電鉄の安全性確保や地域住民の利便性へ影響することはないと考えている。ただし、今後も電鉄の安定的経営に対する影響などについて注視したい」と述べた、と報道されていました。

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会計監査人報酬への疑問

カネボウ粉飾決算事件で逮捕された4名のうち3名について起訴された(1名については従属的地位になった、との理由で起訴猶予)ことを受けて、中央青山監査法人は、逮捕された3名について実質的な除名処分、理事10名は辞任のうえ報酬50%カット、奥山理事長も再生委員会委員の辞任や取締役辞任など、その責任を明確な形で表明されたようです。何度も引用するようで恐縮ですが、中央青山代表社員の浜田康さんの書かれた「不正を許さない監査」の40ページには、(フットワーク事件を例にとって)「もし、監査法人の社員が問題を起こし、業務停止などの処分を受けると、その監査法人は会計監査人としての資格を失ってしまいます。これは、その監査法人を会計監査人としているほかの多くの会社にとっても大変なことです。・・・・監査人の交代など、対処する方法はあるにしても、大変な迷惑を及ぼすことになります」と明確に述べられておりますし、おそらく今後は金融庁から出される処分が少しでも軽くなるよう、できるかぎりの体制整備に尽力されていくことになるのでしょうね。

(10月4日 追記)読売にかなりセンセーショナルな記事が掲載されております。

(追記 おわり)

中央青山の体制整備ということだけでなく、法定監査のあり方についても、今後いろいろなところで検討されると思うのですが、監査法人が監査対象となる企業から受ける報酬というものも、見直されることになるんでしょうか?リスクアプローチによる監査計画をたてるとした場合に、専門外の私にとって、会計監査人の報酬との関係で、どうもいまひとつわからない点があります。統制リスクと発見リスクとの関係です。上場企業の代表者は、自社の内部統制システムが良好なものであることを確認書(誓約書?)で表明することで、その構築に関する最終責任を負担することになります。会計監査人は、企業が保証した内部統制システムを評価したうえで、どのあたりに重要な虚偽報告のリスクがあって、どこに力点を置いて監査すべきか計画をたてていくものと思いますが、その際の監査リスクを合理的な程度まで減少させるためには、内部統制システムの評価が高ければ発見リスクが少なくなることで、その労力も低減しますが、評価が低ければ発見リスクも高まりますので、監査に要する労力は高まるはずです。

そこで、まず第一の疑問は、監査報酬を決めるにあたっては、こういった企業の内部統制システムの構築状況について「一定の評価」を行ったうえで見積りを出すのでしょうか、それとももっとドンブリ勘定的に、「何日間で何人が担当するから、いくら」といった決め方で今後も見積りを出してしまうんでしょうか?監査の有効性、効率性を重視した場合、リスクアプローチによる監査基準というものは今後も応用されていくものと思いますが、いっぽうにおいて、統制リスクの最終責任は企業にあるわけでして、内部統制システム構築に向けて多大な費用を投入してみたところで、その費用投下が監査報酬を減少させる方向に働かない、ということになりますと、リスクアプローチ(不正監査リスクは、統制リスクの最小化努力と監査人の努力による発見リスク最小化の相関関係によって決まる)の理屈からみても、また企業の財務報告への信頼性向上への意欲、という点からみても、監査対象企業としては納得いかないのではないでしょうか。とりわけ年間を通じて会計監査人との連携が要求される監査役という立場からみた場合、ドンブリ勘定による報酬決定は、そもそも自社の統制環境整備について、監査役自身が消極的な姿勢であることを会計監査人に示していることになりそうで、なんかみっともないように思われます。

次に、第二の疑問は、会計監査人に就任された会計士さんに、監査役としては、いろいろと内部統制システムの構築状況についてのアドバイスを受けたいと思うでしょうが、これは法定監査を行う立場の人に「コンサルタント業務」を要請していることにはならないのでしょうか?(法定監査を担当している会計士さんは、同じ会社からコンサルタント名目で報酬をもらうことはできませんよね?)会計監査人としての立場で、内部統制システムの評価をすることはできても、あるべきシステムというものを指導することはできるのでしょうかね。事実上は支援することがあったとしても、もし報酬決定方法が「ドンブリ勘定」だとすると、コンサルタント業務では報酬はもらえないでしょうから、そうしますと監査人にとって都合のよい「評価の高い内部統制システム」が実現された場合には、(発見リスクはおのずと低減することになりますから)自らの報酬を下げなければ矛盾することになりませんかね?

最近は弁護士の世界でも、独禁法との関係で弁護士会策定による報酬規定というものが撤廃され、タイムチャージによる報酬決定方法というものも頻繁に採り入れられるようになりました。私自身も現在、半分くらいの仕事についてタイムチャージを導入しています。不正監査を防止するための企業と監査人の報酬決定方法としても、またこのような監査リスク低減のための監査人と企業との役割分担を論理的に説明するためにも、法定監査の世界にもタイムチャージを導入することは考えれませんかね。「ひっついたり、離れたり」しやすいので会計監査人の独立性という点からみても理想的ですし、また監査法人の経営面においても収益見込みが把握しやすいのではないか、と思うのですが。いかがでしょうか。

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2005年10月 3日 (月)

内部統制と人材育成について

先週、公認コンプライアンス・オフィサーの二次試験の合格発表がありまして、運良く合格させていただきましたので、資格認定の申請書を認定機構のほうへ提出しているところでありあます。「資格」というものは、もうかれこれ16年ほど前に弁護士資格を取得して以来ということになります。企業倫理とコーポレートガバナンス、内部統制システム構築、コンプライアンス経営の基礎・企業法務、などが試験科目ということから、どんな内容の資格であるかはおおよそご推察のとおりであります。当然のことながら、この「資格」を取得したからといいましても、すぐに「独立してメシが食えるようになる」といったものではありません。実際にも、この資格取得を目指す方がたは、おおよそご自身の所属されておられる会社の企業法務に携わっておられる方で、会社内におけるご自身のスキルアップを図られるのが主たる目的ではないでしょうか。

私がこの資格を取得してみたい、と考えた時期は、そもそも内部統制システム構築のようなお仕事(お手伝い)をすこしばかり始めたときでした。「内部統制システム導入論」がおそらく日本の企業でも、今後飛躍的に注目されるのではないか、と考えていましたが、このシステム導入を進めていきますと、いわゆる「間接部門」の統合化、IT化が不可避のこととなりますから、企業の多方面で活躍されている社員の方が、法務、会計、財務、経理などの間接部門における横断的な知識経験をもつ人材が育たなくなるんではないか、という危惧感が次第に増してきました。社内の内部統制システム構築責任者や、コンプライアンス部門責任者などが、一生懸命、私のような外部の者と協力して「いいもの」を作ろうとしても、なかなか現経営陣に「イメージ」がわかないためか、その重要性を認識してもらえません。現在でもこのような惨憺たる状況であるにもかかわらず、内部統制システムや、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)などによって間接部門の統合化がこれまで以上に企業で進む場合には、「子会社やセグメントごとの経営」が薄らいでいくことになります。これはやむをえない現状として受け止めざるをえない、と認識はしておりますが、やはり企業を横断的に把握できる能力をもつ人材というのは、「お山の大将」的な社員が少なくなる以上は育ちにくい体質になっていくのではないでしょうかね。(そもそも優秀な経理マンを育てる人材養成システムというものはあっても、企業のなかで優秀なCFOを育成するシステムってあるんでしょうかね?私はこのふたつはまったく別の人材育成システムが必要だと考えておりますが)企業不祥事の防止といいましても、たしかに社員レベルでの問題については内部統制システムによる未然回避、という効果も得られるでしょうが、社会問題となっているような事例、つまり企業トップが関与しているケースでは、そもそも内部統制システム構築には限界があります。「企業倫理」などという抽象的な言葉を持ち出すのではなく、企業ぐるみで不正をはたらくこと、不正を隠蔽することの企業リスクなどをきちんと判断できる能力などは、どこかで養われる必要があるというのが私の考えです。

そんな企業環境のなかで、CFOやCIOなどの責任者の意見の重要性を認識し、経営者自身がリスクアプローチに基づく経営判断をなしうるように、せめて基本的なリーガルリスクの知識経験につきましても、経営者レベルで身につけていただきたく、そのようなお手伝いができたらいいなあ、というところから、この「公認コンプライアンス・オフィサー」資格というものに着目をしました。私自身も、社外監査役としての立場で、実際の経営においてこういった資格が役に立つものかどうか、実際に検証していきたいと思っています。本来はアドバイザー的立場の方向けの資格ではありますが、私の実際の気持ちとしましては、上場企業の経営者の方こそ、コンプライアンス経営の基本的な知識と方法論をお持ちいただかないと、会社機関化する会計監査人や独立取締役さんの企業価値向上のための提案等を真摯にご理解いただけないのではないか、と危惧するのであります。まだいままでの合格者が100名強程度ですし、普及化にあたっては、資格取得者と協会挙げての努力が相当に必要かと思われますが、企業横断的な継続研修なども含めて、広く関心を寄せていただける資格になってくれることを望んでおります。

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2005年10月 1日 (土)

一太郎、知財高裁で逆転勝訴!

初めての東京高裁特別支部(知財高裁)大合議事件として話題を集めていた一太郎訴訟で、ジャストシステムが逆転勝利をおさめました。判決文(全文)はこちらです

私は国際知財はしませんし、国内知財は不正競業法関連、著作権しか扱いませんので、いわゆる特許侵害訴訟について解説する能力はありませんが、知財高裁の存在を印象付ける判断となりましたね。いままでは、地裁の知的財産部こそ「判断の中枢」という印象を持っていましたが、事件によっては知財高裁で「ひっくりかえる」可能性も出てきたように、改めて認識いたしました。そもそも、知財高裁での判断というのは、具体的な事案の早期解決のほかに、同種事案の早期解決にも参考となることも目的のひとつですから、松下の知財戦略についても、今後かなりの見直しが必要になってくるかもしれません。

こうやって、知財高裁の判断をみると、前にもエントリーで書きましたが「無形資産の価値評価」というものは、ホントにムズカシイものですね。「自分の企業のこういった特許については、これくらいの資産価値がある」と資産評価をしなければならない時代になってきていることは理解できるのですが、「特許が無効」となれば無価値ですし、有効ならば無限の資産価値が生まれてくる。司法リスクや将来の有用性リスクなど、どのような基準で資産価値を把握できるのでしょうか。また、その把握された価値には合理的な保証が与えられるものなんでしょうか?私自身はかなり悲観的な意見の持ち主ですが。

それと、この判決文を読んで非常に強く感じたことは「あぁ、やっぱり知財事件は、専門弁護士にまかせないと危ないなぁ」との印象でした。実は、この事件でジャストシステムが勝訴する原因となった主張は、この裁判の最後のほうになって、やっと証拠が揃ったために、提出されたものでして、松下側からは、「これは時機に遅れた主張であって採用されるべきではない」と攻撃を受けています。知財高裁は、この松下側の主張を最終的には却下しているものの、なぜ「時機に遅れていないか」を詳細に判断したうえで却下しています。つまりは、この知財高裁ができたのは、スピーディな紛争の終結を目的としていますので、いちおう提訴から9ヶ月経過してから出された主張は知財裁判としては「遅い」のではないか、というニュアンスをもたせています。でも、16年も前に出願された特許の無効を主張するための資料を整えるためには、これくらいの時間がかかってもやむをえない、という判断が下されています。ひるがえって考えてみますと、これはジャストシステム側の弁護士、弁理士が相当に専門家としての知見によって探し当てた資料に基づく新たな主張といえ、もしこれが専門性に乏しい弁護士がついていたケースを考えると、同じ主張に辿り着けるとしても、もっと時間を要するのではないか、と推測されるのです。

これからは、もっともっと国際知財、国内知財とも専門家が増えていくと思いますが、まずはそういった専門性を持った弁護士とのパイプというのが、これからの知財管理にとっては不可欠の要素になっていくものと確信したような次第です。

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