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2005年10月29日 (土)

明治安田生命のコンプライアンス委員会(3)

明治生命といえば、以前ちょっとだけ触れましたように、あの中坊公平さんを「弁護士自主廃業」に追い込んだ会社です。私は、大阪の泉北ホテル用地の所有者であった朝日住建の仕事を10年ほど担当しておりました関係から、整理回収機構(RCC)とともに、この用地の抵当権者であった明治生命(もう一社の抵当権者は横浜銀行)とも比較的近い位置におりました。そんなわけで、RCCのトップが関与したとされる詐欺疑惑事件の経過はリアルタイムで認識しておりました。あの事件の際に、「たとえ相手が国策会社(RCC)であろうとも、けっして屈してはならない。自分たちが正しいと信じたことは、曲げてはならない。中坊公平氏が我々に謝罪するまでは絶対に和解はしない」として、最後までRCCと闘った明治生命の姿は、たいそう感動したものでした。当時は、さまざまな雑誌などで、旧財閥の流れをくむ明治生命の企業精神は賞賛されていました。この2月の不祥事発覚で、責任をとって退職された明治安田生命法務部長の「弁護士さん」は、それはもう私からみたらあの、「大阪では畏敬の念をもって接しておられた先生も多い『中坊先生』相手に毅然と振舞う戦士」として、あこがれの弁護士スタイルにも見えたものでした。

しかしながら、こういった企業精神というものも、両刃の剣なのかもしれません。融通のきかない体制は、たしかに「不当な保険金請求」を減少させるに有効だったかもしれませんが、一方で一般の保険契約者に泣き寝入りを強いるような結果も招来させてしまったのではないでしょうか。

さて昨日の話の続きとなりますが、このたびの明治安田生命に対する金融庁の厳罰処分につきましては特筆すべき点がふたつある、と申し上げましたが、残りのひとつというのは、企業管理態勢(ガバナンス)の欠如、という点を金融庁が処分理由に掲げている点であります。重大な法令違反事実や、社内における内部監査制度の不適切性など、もちろん個別の事実の指摘もありますが、厳罰処分の一番大きな原因は、明治安田のガバナンスの欠如にあるようです。したがいまして、明治安田は、この経営管理態勢の様子を今後金融庁に報告をして、その改善が金融庁によって認められるまで新商品の販売業務は無期限で停止されたわけであります。この2月の処分の後、金融庁は、二度と同様の不祥事を繰り返さないように、ガバナンスの改善策が報告されるものと思っていたにもかかわらず、明治安田側からは、個別の不祥事該当事実への対策計画だけを行い、けっきょくのところこの10月まで、根本的な企業管理態勢の改善策は出されなかった、と(処分理由のなかで)指摘されています。もし、このような金融庁の期待といいますか、要望といったものが、明治安田生命ほどの大企業のなかで理解されていなかった、もしくは重要視されていなかったとしたら、これはたいへんおそろしい「勘違い」ではないでしょうか。今朝の日経新聞の報道では、金子社長が退任を発表して以来、4ヶ月が経過しても、次期執行部が決まっていないとのことです。企業の合併とは、こんなに難しいものなんでしょうか。企業の存続にとって重要な影響を与える「リスク」が目の前にあるのに、その重要性を認識できないほどに合併は企業の管理態勢を奪ってしまうものなんでしょうか。(といいますか、もし日経の報道内容が事実だとしますと、とうてい一般の社員にとって「コンプライアンス経営」などトップからのコミットメントが期待できる状況ではないようです)いや、「このままではマズイのではないか」と気づいた役員もいたかもしれませんが、こういった企業風土のなかで、言い出せなかったのかもしれません。この「勘違い」、明治生命特有の事情から発生したものであって、一般の企業においては起こりえないもの、と少なくとも私は整理しておきたいと思います。(金融庁が、処分発表と同時に、明治生命と他社との不祥事件数比較対応表を公表したところからも、明治生命への処分は特別に厳しくて当然である、ということを理解しやすいように、との検討のうえからではないでしょうか)

ただ、そうは申しましても、今回の金融庁の明治生命に対する処分理由は、おもにコンプライアンス経営、経営管理態勢の欠如に重点を置いたものであり、今後の一般企業における統制システムやガバナンス体制のあり方、外部からの評価のされ方を検討するにあたりきわめて示唆に富むものだと思われます。(さっそく、明治安田生命は、新会社法施行後、委員会設置会社に移行する予定であると発表していました)どういった改善報告をした段階で、金融庁が無期限業務停止を解除するのか、その報告内容についても今後注目したいと思います。これが株式会社だったら、株価は暴落の極みではないでしょうか。私のような外野の人間からみていても、今後「金融庁」のほうばっかりみて改善案を出しているようであれば、やはり「明治安田は変われない」と思います。くれぐれも、このたびの不適切な不払いの対象となった契約者やガン保険の契約者に対して、誠意ある対応をとっていただきたいし、またどういった誠意ある対応をとったのか、その報告内容こそ、復活のための試金石になるんじゃないでしょうか。

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コメント

非常に冷静かつ的確な分析だと思います。仰るとおり、同社は消費者本位の経営にシフト出来なければ真の変革ができたと言えないと思います。

護送船団方式で監督官庁に守られた時代はとうに過ぎているのですが、この会社を含め生命保険の何社かは、いまだにその頃の企業体質から脱皮が出来ていません。株式会社でないこと、総代会が機能していないこと、これまで保険についての大規模な消費者運動が起きなかったこと、などがその原因として挙げられると思います。

大手生保が市場シェアを落としてきているのも、この辺りが背景になっていると思いますが、自分も薄々それに気が付いているが、自分じゃなかなか変われないという状況なのだと思います。

多くの生保会社は戦後、第二会社として相互会社を設立させ再スタートしました。その際、その後の会社形態を株式会社とするか相互会社とするか内部で議論があったようです。

そこで相互会社を選択したのは、外部干渉を避け従業員本位の経営をしたかったからだ、と分析する人もいます。それが事実だとすれば、その企みはまんまと成功して長期間にわたり「おいしい」思いをし、そして今、それによって苦んでいると云うことだと思います。

投稿: イチロー | 2005年10月30日 (日) 00時16分

どうも、コメントありがとうございました。イチローさんのご意見をもとに、また関連エントリーを書きました。今後とも、よろしくお願いします。

投稿: toshi | 2005年10月31日 (月) 01時46分

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