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2005年10月10日 (月)

社員の「やる気」とリスクマネジメント

昨日は、犬鳴山から紀泉高原まで、ひさしぶりに地域の自治会ハイキングに出かけましたが、たいへん天気にも恵まれまして、季節外れの「日焼け」をして帰ってまいりました。きょうは、足腰の痛いところをさすりながら、自宅でゆっくり療養しております。。。

体育の日の日経朝刊3面のベタ記事ですが、社員の不満を発見する、という東京海上日動火災の新サービスについて、掲載されておりました。

東京海上日動火災保険は企業向けに、従業員の不満ややる気を調べる業務を始める。社員の勤労意欲が下がると業績が落ちるだけでなく、不祥事にもつながりかねない。会社のリスクマネジメントの一環として需要があると判断した。

 まず80項目のアンケートを実施する。「会社の目標に共感できるか」「上司に途中で責任を放棄されないか」などの質問をもとに、社員の不満がたまっている問題や上司と部下の意識の違いが大きい分野をみつける。ヒアリングをしたうえで、重点的に改善すべき内容をリポートにまとめる。料金はアンケートの実施からリポートの作成までを含む標準的な内容で400万円程度としている。

大阪弁護士会でも、最近は個々の裁判官評価に関するアンケートというものが導入されておりまして、具体的な裁判官の名前を挙げて、各項目ごとに5段階評価を行います。さらに、特記事項を記載する欄もありますので、「事件の中身をよく把握せずに和解ばかりを勧める裁判官だ」とか「審理の初期の段階で、裁判官の心証を開示した」など、いろいろと文句を書き連ねる弁護士さんもいらっしゃるそうです。(このアンケート集計結果は最高裁事務局へ持ち込まれ、10年ごとの裁判官再任審査のための資料として利用されるようです)まあ、こういったアンケートは回答することが強制ではありませんし、回答者の主観的な判断によるところが大きいと思いますので、集計する方も値引きして考えないといけないと思うのですが、上記の記事に掲載されたアンケートについても、その結果についてどこまで信憑性があるかは、かなり疑問の余地がありそうです。

「結果内容の信憑性」については、まあそれほど大きな問題ではないと思いますが、たとえば「会社のこういった内容が不満だ」とのアンケート結果がたくさん集計されたとして、これって「社員のやる気」低下とか、リスク増大と結びつくと考えるかどうか、検討することのほうがもっと大きな問題ではないでしょうか。私は自身の拙い経験からしかモノが言えませんが、男性・女性社員の差こそあれ、公式のアンケートで会社の不満を明確に指摘できる社員こそ、やる気があって、会社の将来を真剣に考えていると思います。こういったアンケート結果を会社側が真に今後の経営に生かそうと思うなら、回答者の回答内容の真偽調査や追加ヒアリングなど、けっこう社員にとって面倒な作業が待っていることが予想されます。そういった作業が予想されつつも、「不満」をぶつける社員というのは、かなり会社にとっては戦力になる方たちであって、もし「やる気」という面からみるならば「いまの会社に不満はありません」と回答する社員のほうがよっぽと「やる気」に疑問符がつくように思います。80項目にも及ぶアンケート質問の内容をみておりませんので、正確なことは申し上げられませんが、不満とされる箇所が多いとされることが、すぐに社員のやる気を喪失させる可能性が高いとか、不祥事発生の可能性が高いと結びつけることは、なにか違和感を感じるのは私だけでしょうか。

こういった社員の不祥事という面からみた「リスクマネジメント」のあり方は、汎用性(ひとつの方法がどの企業にも通用する)とは矛盾する、というのが私の従来からの考え方です。なぜかと申しますと、社員の不満ややる気をもっと客観的に把握するシステムというのは、その企業特有の業務執行システムや意思伝達システムを調査研究することによって合理的に検証できる方法があるからです。これまでも、いくつかの企業で、こういった検証システムを導入し、現在は因果関係をモニタリング中でありますが、本当に企業トップが内部統制システムの向上を図る意思がありましたら、そういったことを社内で研究し、チームごとの「不満解消」「やる気アップ」活性化を図る戦略を考案すべきだと思います。(細かいシステムの紹介につきましては、ちょっと個別企業のビジネスモデルに関わる問題ですので、ここでは申し上げられませんが、いずれにせよ、問題点の洗い出しとその対応策は現場にまかせ、トップは問題点の客観的な発見と、その現場対応の是非に関するモニタリングに特化するのが最も効果的だと思われます)

むしろ、社員のやる気喪失の発信地、不祥事発生の原因が、自社のどういった業務プロセスのなかに潜むのか、どの改善策にはどの程度の費用を要するのか、そういったことを検証するため基礎資料となるのアンケート質問は企業自身しか作りえないわけでして、そういった支援業務を含むものであるならば、上記東京海上日動の新サービスも有用性があると言えそうです。

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