ふたつの「内部統制システム構築理論」
中央経済社が出版している雑誌「企業会計11月号」と「旬刊経理情報10月20日号」が、同じく「内部統制システムの企業における構築指針」を特集しています。「企業会計」のほうでは、金融庁企業会計審議会より出された公開草案(7月13日)をもとに、主として「財務報告の信頼性」に寄与する内部統制システムの構築を、そして「経理情報」では、経済産業省より出された中間報告(8月31日)をもとに、主として広くコーポレートガバナンスと結びついた内部統制システム構築の指針が解説されています。両者の比較につきましては、「経理情報」12ページ以下におきまして、公認会計士の神林比洋雄氏が「2つの資料の構成要素の比較整理」と題して、手際よくまとめておられ、非常に参考になります。(有効な内部統制構築のために、文書化がどのように位置づけられるのか、まったく異なるのも興味深いものがあります)
ただ、この「ふたつの内部統制システム構築の解説」につきましては、いまだ不十分な点が多いと感じました。たとえば、企業会計で掲載されている財務報告の信頼性確保のためのシステム論ですが、会計監査人の「企業が作った内部統制システムへの評価のしかた」について、ほとんど明確な回答がありません。私が一番知りたいのは、監査人が内部統制監査を行うにあたっての一般的な「監査基準」や「品質管理基準」というものは必要なのか、必要でないのか、その理由はどうしてか、もし必要であれば、その基準とはどういったものなのか、という点であります。これが明確にならないと、会計監査人に閲覧してもらう内部統制のレベルというものは、果たしてどの程度のものなのか(企業自身に内部統制構築、運用の責任があるにもかかわらず)、企業にとってはさっぱりわからないからです。(会計監査人にとりましても、内部統制監査の裁量の幅が大きくなりすぎて、なにをもって企業の構築したシステムが信頼に値すると判断すべきか、わからないのではないでしょうか。ひとつまた、会計監査人が紛争に巻き込まれるネタが増えるように予想します)
また、「経理情報」の解説につきましても、「内部監査人」の定義がよくわかりません。経済産業省の前記「中間報告」によると、内部監査人は独立した専門家が採用されるべきで、できれば外部からの委託が望ましい、と明確に書かれているにもかかわらず、そのような記述は一切なく、社内で設置することを前提として解説されています。なぜ、こうなったのかは定かではありませんが、内部監査人の地位というのは、コーポレートガバナンスと結びつく内部統制システム論のなかでは非常に重要な位置にありますので、経済産業省の指針を信用するのであれば、外部から専門家を招聘して「内部監査人」とするという意味はどう考えたらよいのか不明なままであります。
この「ふたつの内部統制システム理論」の取扱は、今後の構築責任者である企業にとって非常に大きな問題になると思われますし、ここで簡単に説明のつくことではありませんので、また何度かに分けて自論を展開してみたいと思います。たとえば、最近の西武鉄道やカネボウ、足利銀行の事件など、いわゆる「内部統制システム構築」の話題を大きくした要因となる事件ですが、こういった事件というのは金融庁の出している「財務報告の信頼性確保のための内部統制システム」をいくら精緻に導入してみても、防ぎきれるものではありません。というか、そもそもCOSOレポートにおいても、こういった経営陣が共謀したり、会計監査人が同調するような不正については内部統制システムに限界があることは明確に説明されているところですし、今回の「企業会計11月号」48ページにおきまして、解説者の公認会計士の手塚仙夫氏もお認めになっているところであります。よく雑誌などでは、こういった不祥事を起こさないため、として企業会計審議会内部統制部会より出された公開草案が紹介されておりますが、基本的には無関係です。(トップの絡む不祥事防止との関係で言えば、コーポレートガバナンス論と関連付けて説明をしている経済産業省のシステム構築論のほうが理解しやすいと思います)。
ただ、私はいろいろな面から判断いたしますと、どっちにも長所、短所がありますし、法令遵守という「コンプライアンス」的発想がどちらになじみやすいか、という問題も残されていると思いますので、またこの話題は次回までの続き、とさせていただきます。
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